副題を見てもらえればすべてがわかる、とある有名映画のパロディ。

 もしも管理局にあの刑事さんみたいな熱血刑事(?)がいたら?

 もしもゲンヤ率いる陸士108部隊のノリが、まんま湾岸署のノリだったら?

 あの愉快な雰囲気がリリなの世界にやってくる!?

 と言っても短編だからやれるシーンは一つだけだけどね!!

 踊る大捜査線 THE lyrical!! 始まる……よ?

 

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無論まんま青島さんとかはでてきませんよ?


模擬戦で勝利せよ!!

 ここはミッドチルダ首都クラナガンのとある港に停泊する豪華客船の中。

 

 その中には凶悪な光を放つ銃型デバイスと、物々しいバリアジャケットに身を包んだ複数の人間に囲まれて怯えている客の姿があった。

 

 どうやら彼らは凶悪犯に人質に取られてしまった、哀れな客船の客たちのようだった。

 

 そんな彼らを冷たい笑みで見つめた犯人グループのリーダーらしき男――黒目黒髪をした男性で、30代前半ぐらいだと思われる――は、部下が持ってきた外のスピーカーにつながるマイクを手に取り、ふてぶてしく外に待機しているであろう管理局の局員たちに向かって命令する。

 

「外にいる管理局員たち、よーくきけ。この船――豪華客船アスカロンは我々『クラナガンの亡霊』が占拠した。人質五十人の命を無事に返してほしければ、数時間後に告げる我々の要求を聞き届けてもらう。では、ファーストコンタクトはここまでだ」

 

 要求は追って知らせる。男はあえて管理局員たちをじらせるようななめきった態度をとりながら、マイクを近くにあった机の上に置き、不気味な笑みを浮かべながら怯える乗客たちへと視線を向ける。

 

 そして、

 

「はい、お疲れ様! 皆さん名演技でしたよ? これからはあちらさんの対応まちなので、各々くつろいでお待ちくださ~い」

 

「「「「「おっしゃぁあああああああああああ!!」」」」」

 

 するとどうだろうか。先ほどまで怯えきっていたはずの乗客たちは途端に元気を取り戻し、客船に用意されていた豪華な料理のバイキングへと殺到する。

 

 どういうわけかその中には犯人グループのメンバーもいて、なぜか人質であるはずの乗客たちと楽しく歓談を始めてしまっていた……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「何とかせんかぁああああああああああああああああ!!」

 

「な、何とかといわれましても……」

 

 そんな客船の中の様子は、外に隊聞いていた管理局メンバー――というか、やたら豪華な天幕内に作られた、やたら豪華なイスに座ったレジアス中将並びに、管理局幹部たちに筒抜けだった。

 

 ……犯人グループのリーダーの男がマイクのスイッチを切り忘れたために、中の乱痴気騒ぎが見事に客船のスピーカーからダダ漏れになっていたからだ。

 

「気にくわんとはいえ、世間が注目する機動六課のお披露目だぞ!? マスコミだってテレビだって大量に来ておるんだ!! だというのにこの醜態……いったい明日の新聞に我々がどう書かれると思っている!!」

 

「いや……ですがもう、いまさら始まった以上どうしようもないと言いますか……あいつらが普通にこういったイベント乗り切ったためしがないと言いますか……」

 

 もう人選ミスとしか言いようがないんですよ……。とレジアスに首を絞められて困りきった様子の秘書官は、顔をひきつらせながら諦めきったような笑みを浮かべる。

 

 そう。これは、世間が注目するとある新設部隊――古代遺物(ロストロギア)管理部・機動六課のお披露目を兼ねた模擬演習だったのだ。

 

 だが、どういうわけか機動六課の隊長が犯人役として指定してきたのが、

 

「なんでよりにもよって犯人役が、あの不祥事だらけの時空管理局陸士108部隊の連中なんだぁああああああああ!!」

 

 管理局内では《所轄》と呼ばれる下っ端部隊にして、しょっちゅうさまざまな形で問題を起こす、問題児部隊だったのだ!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 そんな風に怒り狂うレジアスをしり目に、現場に到着した機動六課の面々――スターズ分隊隊長高町なのは率いる、副隊長ヴィータ、隊員スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター。ライトニング分隊隊長フェイト・T・ハラオウン率いる、副隊長シグナム、隊員エリオ・モンディアル、キャロ・ル・ルシエの8人は船から響き渡ってくる楽しげな雑談に絶句する。

 

「え……えっと、模擬戦しに来たんですよね?」

 

「まったく……あの人たちは」

 

「相変わらずみてーだな……あいつら」

 

 最年少二人組の片割れであるエリオからの質問に、一時期はやてと共に現場を知るためにあの部隊のお世話になっていたシグナムとヴィータは、頭痛でもこらえるかのように額に手を当ててうなり声を上げる。

 

 対して直接のかかわりはないが、研修生時代のはやての愚痴や、管理局全体に知れ渡っている噂などで、ある程度陸士108部隊の現状を知っているなのはやフェイトは、ちょっとだけ苦笑をするにとどめて自分たちに指示を出してくれるはずの幼馴染を振り返った。

 

「で、はやて。どうするの?」

 

「そうそう……って、はやてちゃん?」

 

 しかし、その幼馴染の態度がどこか不審なことに気付いた二人は思わず苦笑いをひっこめ、ちょっと心配したような顔をしてあわてて幼馴染に駆けよった。

 

 なぜならその幼馴染――八神はやては、どういうわけかブルブルと体を震わせていたからだ。

 

「どうしたの、はやて!?」

 

「な、何かあの人たちにトラウマでも残るようなことされたの!?」

 

 その震えを何かに怯えているのかと勘違いした二人は、まさかと思い豪華客船に視線を走らせる。だが、

 

「ようやくや……」

 

「「は?」」

 

 はやてが漏らした言葉に、自分たちの予想が間違っていたことを悟った。

 

「ようやくあの人らに、一泡吹かせられる!! 新人時代は弄られる続けること幾星霜……。あの人らのキャラが濃すぎるせいで、本来ボケキャラであるこの私が、ツッコミに走らなアカン始末。おまけに、あだ名どういうわけか《子ダヌキ》定着で、管理局全体にそのあだ名広めてくれるわ……いつか、いつかきっと仕返ししたるんやと思っていたけど、ついに、ついにその機会が巡ってきたんやぁあああああああああ!」

 

 なんとはやてが震えていた理由は、怯えていたのではなく、思い出し怒りが理由だったらしい……。

 

 もう半眼になって呆れきった視線を向けるしかないなのはとフェイトだったが、そんな視線もなんのその。ようやく長きにわたる悲願を達成できるはやては、そのままのテンションを維持し、船につながる無線のマイクを手に取った。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

『あ~あ~。ちょっと、犯人グループのリーダー役の人だしてもらえます?』

 

「このエビおいしぃ~!! ん? ちょ、アイシス君。通信入っているわよ?」

 

「お、ようやくですか? て、それはいいけどノアさん、そのエビ残しといてよ? 俺まだ食べてないんだから」

 

「いいからさっさと仕事する」

 

「ちょ、残しておいてくれる気ないでしょ!? まったく、おいしいものに目がないんだから……」

 

 いいから出ろよ……。と、会話が筒抜けな外の人たちが思っていることなどつゆ知らず、犯人グループリーダーことアイシス・スターライナーはマイクを手に取った。

 

「はい! こちら今回の犯人役リーダーを務めさせてもらうことになりました、管理局陸士108部隊・機動一課・強行犯係・陸曹長アイシス・スターライナーです!!」

 

『……アイシス先輩でしたか』

 

「ん? あれ? その声……八神!? 子ダヌキちゃん? あぁそっか! 機動六課って子ダヌキちゃんの部隊だったからな。そりゃこっちにくるわ」

 

「え、なになに? 子ダヌキいんの?」

 

「ちょ、アイシス代われって!! お~い子ダヌキ!! 元気してる!?」

 

「自分の部隊を持つのが夢だっていっていましたもんね、おめでとうございます、子ダヌキ先輩!!」

 

「あぁ、ちょっと、もう、みんなはしゃぎすぎはしゃぎすぎ! いま俺が話してるんだからあとでね!!」

 

 空気読め、お前ら……。と、外にいる管理局幹部たちの顔色を宇宙人みたいな色にかえていることなどつゆ知らず、久しぶりの懐かしい顔との再会にはしゃぐ陸士108部隊の面々。

 

 だが、帰ってきたのは絶対零度よりも冷たい声だった。

 

『ええんですか? そんな油断してて?』

 

「は?」

 

 はやてらしくない挑発的な言葉に、アイシスはちょっとだけ首をかしげ後ろを振り返る。

 

 お前らなんかしたんじゃないの? と、

 

 対する陸士108部隊の返答はこうだ。

 

「ほら……この前お歳暮で間違って胸が大きくなるっていう怪しい機械を送ったことじゃ」

 

「いや……もしかしたらこの前あいつがゲンヤ隊長に話を聞きに来たときに忘れて行った、翠屋のケーキみんなで食べたのがばれたのかも。あれ家にもって帰ってヴォルケンズのみんなと食べるって言ってたし」

 

「いや、それよりもこの前うちにお土産もってきたときに、揉みくちゃにしたあげく大してお礼も言わずに解散したこと根に持っているんじゃ」

 

「「「「あぁ、多分それだわ。あいつちょっとみみっちいところあるから……」」」」

 

 どうやら、心当たりがありすぎてちょっと理由を絞りきれないでいるらしかった。もちろん、この会話もきっちりマイクは拾っており、はやての額に青筋を増産するのを増長したりしていた。

 

『ホンマええ度胸したはりますね……。けどええんですか? ウチ言うておきますけど最強部隊ですよ? 所轄の皆さんが逆立ちしたって勝てへん陣容ですよ?』

 

「む……」

 

 とはいえ、元後輩にここまでなめきられた態度をとられたとあっては、階級云々があるとしてもやっぱり人間としては腹が立つものだった。

 

『まぁ、そっちが油断してくれるいうんやったら万々歳ですけど? 変に油断しすぎて怪我とかせんようにだけしといてくださいね。こっちは手加減なんてせんと、全力全開で行かせてもらいますから!!』

 

 明確な宣戦布告。それを告げると同時に通信は切れ、アイシスは苦虫をかみつぶしたような顔でマイクのスイッチを切る。

 

 そして、

 

「おい、アイシス……このまま言われっぱなしでいいのかよ?」

 

「アイシス君……」

 

 自分と同じような怒りがともった瞳をして詰め寄ってくる陸士108部隊の面々を見回したアイシスは、ちょっとだけ無表情になりながら、

 

「やりますか」

 

 そっけなく、あっさりと、しかし明確な敵意がこもった声で徹底抗戦を宣言した。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 船の中の動きが変わる。

 

 まず物理的な監視をシャットアウトするために、窓のカーテンが一斉に締め切られ、通信妨害魔法によってサーチャーによる内部把握も困難にする。

 

 そして各所に散らばりゲリラ戦の体制をとる陸士108部隊。残念なことに、地力では機動六課勝てないことはこちらも承知している。

 

 相手はエースオブエースを集合させているうえに、将来有望な新人を四人も抱え込んでいるキャリア部隊だ。たたき上げの、魔力ランクも低い陸士108部隊の面々が正面切って戦えるような相手ではない。

 

 だが、たたき上げにはたたき上げの戦い方がある。

 

「今回はこっちが犯人役なんだ。悪いけど卑怯卑劣な手段も取らせてもらうよ?」

 

 こちらは長く現場にいるどころか、職場に向かえば到着した瞬間に現場へと走らされるような下っ端部隊だ。踏んできた場数だけはエースオブエースを圧倒している。そのため犯罪者たちの手口は熟知しているし――管理局員に打撃を与えやすい手口も当然把握している。

 

「所轄なめんなよ――キャリア組」

 

 アイシスは不敵な笑みを浮かべながら、自分の待ち伏せ場所へと移動し物陰に隠れる。そして、

 

「状況――開始」

 

 客船に散った仲間たちに、指令を下した。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 八神はやての宣戦布告から五分が経った現在。豪華客船の中を雷変換された魔力をまき散らしながら、高速駆動する少年が一人いた。

 

 エリオ・モンディアルは、今回は珍しい単独行動だった。

 

 今回の戦場は見通しが悪く、空間も狭い豪華客船の内部。そんな中では巨大な竜を召喚し戦うキャロは本領が発揮できないということで、今回彼女は別の場所に隠れてフォワード部隊の支援をすることになった。

 

 もとより補助魔法の手腕にも長けている彼女は広範囲にわたって念話を行い、フォワード部隊から上がってくる念話の情報を、統括分配するのが今回の役割だ。

 

 いま船に乗り込んでいるメンバーは全部で6人。

 

 犯人制圧のために乗り込んだ実動隊――キャロ・エリオ・スバル・ティアナ。

 

 そしてバックアップとして副隊長二人――シグナム・ヴィータだ。

 

 隊長人は万が一の時に備え船の外で待機。

 

 万が一、億が一、エリオたちが全滅するようなことになったら彼女たちが動くことになっている。

 

 だがまぁ、大丈夫だろうな……とエリオは思っていた。

 

 話を聞く限りでは八神隊長が散々お世話になった部隊でもあり、スバルの父親が隊長をする部隊だと聞いている。だがその陣容は所轄の名にふさわしい惨憺たるもの。

 

 スバルの姉であるギンガを除けば、魔力クラスはAどころかBすらおらず、魔力量に圧倒的なまでの差がある。

 

 警戒するべきはそのギンガさんだが、見つければすぐにキャロに連絡が行きほかの隊員が駆けつけてくることになっていた。その間まで持ちこたえる程度ならだれにでもできそうだった。

 

 そう……。つまりエリオは、油断していたのだ。

 

 そしてその油断しきったエリオに、

 

「うぅ……うぅ……」

 

 女性のすすり泣く声が聞こえた。

 

「っ!?」

 

 もしかして取り残された人質? と、エリオは思い、泣き声の聞こえた場所へと急行する。

 

 本来の模擬戦ならあり得ない事態だが「芸の細かい人たちやからなに仕込んでるかわからへんで」と、はやてに言われていたため、そういった趣向もありなのだろうか? と、特にエリオは考えこむこともなく自分の正義に従って行動する。

 

 そして、泣き声が聞こえた場所へとたどり着いたエリオは、そこで泣き崩れる女性を無事発見することに成功した。

 

「大丈夫ですか!」

 

 あわてて駆け寄り女性の肩に手を置くエリオ。それに気付いたのか、泣き続けていた女性はゆっくりと顔を上げ、エリオの顔を確認し、

 

「こ、こわかったぁあああああ!」

 

 突然号泣しながらエリオに抱きついてきた!

 

 女の人の涙や、体に押し付けられた柔らかい感触に、それが芝居だと分かっていても思わず硬直してしまうエリオ。だが、

 

「えっと……バン」

 

「っ!?」

 

 突如そんな間の抜けた声が聞こえたかと思うと、物陰からエリオの額に向かって模擬戦用の魔力弾が飛び出し、エリオの額を打撃した。

 

「いたっ!?」

 

「はい一人死亡」

 

「こちらAグループ。機動六課のマセガキ一人殺しました」

 

 それを確認した途端、さっきまで泣いていた女性はきびきびと立ち上がりインカムを使ってリーダーへと報告を行う。

 

「えっと、ごめんね? でもこれ実戦形式だから、油断した君が悪いんだからね?」

 

「というか、上はともかく下は明らかに堅気じゃないバリアジャケット着ているでしょ? なんで不用意に近づいちゃうの君?」

 

 と、物陰から出てきた銃型デバイスで武装したノア・プリウスという札をバリアジャケットにつけた女性局員とステレオで自分に説教してくる女性。

 

 エリオはそんな事態に、

 

「え、え、えぇえええええええええええええ!?」

 

 ようやく泣いていた女性が犯人グループの人で、自分を物陰からの銃撃から逃さないために抱きついて動きを拘束したのだと悟り、思わずそんな間の抜けた悲鳴を上げる。そして呆然自失となった彼は体内の魔力活動の一切を封じられる手錠をあっさりとはめられ、《死亡》の紙札を額に張り付けられてしまった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 エリオからの通信が途絶えた。

 

 キャロから不安そうな声で報告が届いた。

 

 それを聞いたシグナムは「またあの人たちなにか余計なことしているな……」とさとり、慌てて甲板から船の内部へと侵入。ヴィータと手分けして内部の犯人グループの殲滅を行うことにする。だが、

 

「ん? あれは?」

 

 人質か? とシグナムはゆっくりと廊下を歩く白いタキシードの老人を発見した。

 

 今回の模擬戦では犯人グループはみな軍服のようなバリアジャケットを着用しているとのことなので、それ以外の服装の人物はみな人質として扱われるのだ。

 

 まさか、ここでルールを破っているわけでもないだろうし……。と、シグナムは陸士108部隊が持つソコソコのフェア精神を信じ、その老人に近づく。

 

 だが、

 

「ご老人……あなたは人質役の人か?」

 

「あぁ、確かにそうだが……」

 

 その声を聴いた瞬間、シグナムの背中に悪寒がはしる。しかし、彼女がそれに反応して腰の剣を抜くよりも早く、老人は口にくわえていたパイプのとがった咥え口を魔力を纏わせることによって強化し、シグナムの首筋に突きつけその動きを一瞬にして制する。

 

「犯人に感化されて協力しちまう人質だっているんだ。油断しちゃいけねーよっと」

 

「さ、流石ですね……エドさん」

 

 短く刈り込まれた胡麻塩頭をかき、「いや、ちょっと大人気なかったが、どうしても一泡吹かせてやりたくてな」苦笑する老人にシグナムはため息をついた。

 

 彼の名前はエドセル・フォード。はやてが陸士108部隊にいたころ、陸士とはなんたるか、現場とはどういうところかを徹底的に叩き込んでくれた歴戦の老局員だった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 スターズ分隊は今のところ被害者ゼロ。

 

 だが、ツーマンセルで船内を行動していたティアナとスバルにも、陸士108部隊の脅威が襲い掛かろうとしていた。

 

「ギン姉いないね?」

 

「そうね……。あの人かなりの戦力だから、もしかしたら拠点防衛のために残されているのかも」

 

「そうだったらいいんだけど……」

 

 話聞く限りそんな常識的な人たちじゃないんだよね~。と、自分の姉や父から聞かされる陸士108部隊の様子を思い出しながらスバルはどことなく嫌な予感を感じていた。

 

 そして、その予感は見事に的中する。

 

『『Master!!』』

 

「「っ!?」」

 

 二人がある扉をくぐろうとしたとき、それぞれのデバイスから警告が飛ぶ。が、

 

「おそいよ」

 

 彼女たちが反応するよりも早く、扉の物陰から出てきた足がティアナの足を払い彼女を転倒させる。

 

 それと同時に、扉の物陰から出てきた男はティアナの手を取り関節技をかけ拘束。ティアナを無理やり立たせながらその側頭部に拳銃型デバイスを突き付け、人質とした。

 

「ティアナ!?」

 

 当然スバルはあわてて助けに行こうとしたが、

 

「はい、ストップ!」

 

「っ!?」

 

 今度は別の物陰から出てきた女性に、行く手を阻まれてしまった。

 

「ぎ、ギン姉!?」

 

 それはスバルの姉――ギンガ・ナカジマだった。

 

「な、なんでこんなことしてるのギン姉!?」

 

「い、いや……ごめんねスバル。ほんとは私も正直これどうかと思うんだけど、ちょっと先輩連中がやる気すぎて逆らえなかったの。そう、すべては悪しき縦社会の悪習が悪いのよ」

 

「今『悪い』の三重掛けしなかった?」

 

「していません」

 

 そんな言い訳を聞いた男――アイシスが入れたツッコミに、顔を赤くしながらギンガはスバルを牽制。ティアナの人質状態を保ったままエレベーターに乗り込み上階へと向かうボタンを押し一息つく。

 

「ちょ、こ、こんなことして大丈夫だと!?」

 

「はいは~い。人質は黙っておいてね?」

 

 とか言いつつ、魔法禁止の手錠をかけティアナを拘束し、ついでとばかりに模擬弾を頭にあてておくアイシスにギンガも同じような質問を飛ばす。

 

「あの、ですけどアイシス先輩……悪乗りしておいて悪いんですけど、本当にこれ大丈夫なんですか? この模擬戦、一応機動六課のお披露目の意味もあるんですから機動六課に勝たせないとかなりまずいと思うんですけど……」

 

 ギンガの正論を聞き、思わず黙り込むアイシス。その頬には冷たい汗が一筋タラリと流れ落ちていて、

 

「だ、ダイジョウブ大丈夫!! いざとなったらエースオブエース殿が壁抜きなりなんなりして適当に制圧して勝ってくれるって」

 

「そ、そうですね! 何せ相手は管理局の白い悪魔様ですから!!」

 

 ははははははははは……と、お互いにうつろな笑い声をあげて、不安を誤魔化すのだった。

 

 

 その数分後。ティアナが捕まったことで冷静さを欠いたスバルはあっさりと陸士108部隊に包囲され、包囲射撃にてあっさりと鎮圧された。

 

 そんなスバル飛ばされた念話をたどられ、居場所が割り出されたキャロは船内で包囲されてしまい、竜召喚を封じられた。そして、召喚以外は捕縛や補助的な魔法しか覚えていなかった彼女が、歴戦の局員たちに勝てるわけもなくあっさりと捕縛されてしまった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「すまねぇはやて……。あいつらガチでやってきやがった……。生き残ったのは私だけだ」

 

 結局船から無事戻ってきたのはヴィータだけという惨状に、はやては思わず顔をひきつらせ、なのはとフェイトは大きく目を見開いた。

 

「うそ!? あの人たちそんなに強いの!?」

 

「というか……人の裏をかくことに慣れてやがる」

 

「ちゃうねんちゃうねん……。人の裏をかく犯罪者たちと追っかけっこしとったせいで、人の裏をかける思考回路の予測が自然に身についてしもてるだけなんやって」

 

 それを悪用すれば、このように新人たちを手玉にとれるような悪質な戦略をとることができてしまうのだ。おまけに今彼らは、はやてに対して敵意を燃やしており自重という言葉を知らない。

 

 そんな彼らがなりふり構わず今まで彼らを苦戦させてきた犯罪者たちと同じ手法をとったとなれば、まだ現場慣れしていない新人たちが一蹴されてしまうのも、頷けない話ではなかった。

 

 もっとも、だからといってはやての頭痛が和らいだりすることはなかったが……。

 

「なのはちゃんの壁抜きで一斉制圧……って、わけにはいかへんよな」

 

「一応人質いるしね……」

 

「あれ人質って言っていいのかすごい疑問だけどね……」

 

 そう。なのはがデイバインバスターなり、スターライトぶるぅぁああああああああああああ! なりを使って、壁抜きをし、敵を制圧するなら話は簡単なのだが、あいにくと彼らは拠点に人質を取っていた。

 

 壁抜きができる大規模砲撃なんてやってしまえば、人質をそれに巻き込んでしまう。いくら魔法が非殺傷設定で食らっても死ぬことはないといっても、そんなことをしてしまえば人質に一生消えることのないトラウマを植え付けてしまうことは必定だった。

 

 というわけで、なのはやフェイト達隊長陣による高威力砲撃の制圧は行えない。

 

 残る手段は、

 

「しゃ~ない……」

 

 はやては諦めきったように声を漏らし夜天の書のページをめくる。そして、あるページに行きついた彼女は、バリアジャケットを装備し天へと上った。

 

「なのは隊長、フェイト隊長。これから私が魔法を使って犯人グループを一時的に無力化します。あなたたちはその間に船へと突入。犯人グループの捕縛にあたってください!」

 

「「了解!」」

 

 テレビ映えするように公用語で命令を飛ばしたはやてに、なのはとフェイトは凛々しく返事を返し同じように空へと登った。

 

 ついで、はやてが唱える魔法は『スタン・スフィア』。名前の通り、凄まじい光と三半規管を狂わせる音を爆発とともに撒き散らし、犯人を制圧する制圧用魔法で、たとえ障壁を張っていたとしても完全に光や音をシャットダウンする魔法でも使わない限り、確実に犯人を無力化できる優れもの魔法だ。

 

 とはいえ、本来格下の陸士108部隊に隊長自ら魔法を使うというのはいささか体裁が悪いのだが、隊員のほとんどが捕まるか殺されるかされてしまった現状でそのような贅沢は言っていられない。

 

 なので、

 

「本気で行かせてもらいます」

 

 本来ならこめなくてもいい分の魔力を割り増ししながら、スフィアを形成したはやては、怒りにゆがむ笑顔を浮かべながら大リーグボールバリのフォームでそのスフィアを掴み、いままでの鬱憤その他諸々をいろいろこめて――船の本拠地へと投げ入れる!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 それに気付いたのは、口に詰め物をされながらムームーと抗議の声を上げるティアナを床に転がし他の六課メンバーとともにさらした、アイシスだった。

 

 窓ガラスを突き破り、真っ白なスフィアが一つ……船室に転がる。

 

「っ!? みんな伏せて!!」

 

 管理局員の直感から、本能的にそれがやばいものだと悟った彼はあわてて周囲のメンバーに指示を出し自分も地面に伏せる。

 

 それと同時に、スフィアが凄まじい煙をまき散らしながら爆発し、あたり一帯を光と耳障りな音で包み込んだ!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 煙に包まれた船室の中、突入したなのはとフェイトは煙の中かろうじて見ることができた周囲の人間を根こそぎバインドで拘束していく。

 

「この魔法かなり便利だね……私も覚えよっかな」

 

「なのはならすぐに覚えられるよ」

 

「フェイトちゃんは?」

 

「う~ん。私は近接だから爆弾系は使うと自分まで巻き込まれる可能性があるから……」

 

「あぁ、そういわれるとそうだね」

 

 と、もはや余裕ムードで次々と敵を捕縛していく二人。当然だ……。これほどの爆発の中で無事にいられる人間などいない。

 

 ましてや今回の魔法は制圧に特化した魔法なのだ。まともにくらわなかったにしても、もはや抵抗できる状態の人間は誰もいないだろう。と、二人は真剣に思っていた。

 

 だからだろう、彼女たちが今世紀最大の凡ミスをしてしまったのは……。

 

 煙の中で敵の打ち漏らしがないように慎重に床の捜索にあたっていた二人は、背後から近づく人影に気付くことなく、

 

「……バン」

 

「「っ!?」」

 

 自分の後頭部に銃口が突きつけられ、引き金を引いた音が響き渡った時初めてその敵の接近に気付いた。

 

 そして、

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 数分後、

 

 煙あふれる豪華客船の中から、ドレスやスーツで着飾った人たちや物々しいバリアジャケットを装備した犯人役の人々が次々と降りてくる。

 

 それを唖然とした様子で見守るのは、管理局幹部と機動六課隊長はやて。

 

 それからしばらくして、最後に降りてきたのは、

 

 死亡・捕獲・死亡・死亡・捕獲・死亡・死亡。

 

と、間抜けな紙札を張られた、エリオ・シグナム・ティアナ・スバル・キャロ――そして、なのはとフェイトだった。

 

 その後ろに続いて最後に出てきた30代前半と思われる男は、しばらくばつが悪そうな顔で頭をかいた後、まいったな~といわんばかりに顔をひきつらせながら一言、

 

 

「あの~……すいません。……勝っちゃいました」

 

 こうして、前代未聞の、宣伝するべき相手の鼻っ柱をへし折ってしまったデモンストレーションは、問題だらけのまま幕を閉じた。




とりあえずキャラの相応図

青島俊作=アイシス・スターライナー

恩田すみれ=ノア・プリウス

和久平八郎=エドセル・フォード

柏木雪乃=ギンガ・ナカジマ

いじられ役としての真下正義=八神はやて


 こんな感じです。無論ハヤテが出世してもノリは真下が出世した時と同じくらい軽いです。



 普段のやり取りとしてはこんなイメージ。


はやて「ノアさん、お見合いしーひん?」

ノア「ため口?」

はやて「サーセン!!」


…†…†…………†…†…



 この模擬戦が終わった後ですが、《踊る》の通りに陸士108部隊の皆さんはそろって減給されました。

 ただ機動六課が気に入らなかったレジアス中将は内心ではとても嬉しかったのか、匿名で金一封を陸士108部隊に贈呈したようです。

 その時の108部隊内での会話。

「お前が本気出したら駄目だろうが。おかげで俺達108部隊全員が3か月間の減俸食らったんだから!」

「……そんな、ゲンヤ隊長」

「おかげではやてちゃんからは会うたびに涙目で睨まれるし」

「うっ……」

「なんか匿名とか言いつつレジアス中将からって筒抜けな金一封届くし」

「どんだけ機動六課嫌いなんですかあの人……」


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