憑依如月と不吉な駆逐隊   作:8号機

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提督の読者さま達は夏イベお疲れさまです。
作者は海風掘りで資材を使い果たしました。(しかも出なかった)


鎮守府の夜1

「皆さん、お疲れさまデシター!」

 

ペンキまみれになって帰ってきた俺たちを金剛と比叡が待っていた。

 

「うあーっ、疲れた!」

 

「もうダメ……子日の一日はここで終了だよー」

 

陸に上がった瞬間ばったりと倒れこむ深雪と子日。しかし俺や高波、霰も座り込んでいるので似たり寄ったりだが。

 

「だらしないわね。金剛、私たちは先にお風呂行ってくるから。そいつらのこと頼んだわよ」

 

「あの、審判お疲れさまでした。ありがとうございます」

 

叢雲は呆れたようにこちらを見ながら、吹雪は金剛に礼をして、『ソロモンの牙』駆逐隊は去っていった。

 

「さて、私たちもお風呂にいきまショウ!Follow me!」

 

金剛が歩き始めたので立ち上がり、着いていく。高波、霰もそれに続くが……

 

「待ってくれ、金剛さん」

 

「子日はもう動けませーん」

 

だらしない駆逐艦が二名、倒れたまま動かない。

 

「しょうがないですネー。比叡、そっちははまかせマシタ」

 

金剛は笑顔を崩さずペンキまみれの深雪を担いだ。

 

「さすが金剛お姉様。ですが、服が汚れてしまいます」

 

比叡の言う通り、金剛の服には深雪に付いていたペンキがべったりと付いてしまっていた。

 

「Oh、気がつきませんデシタ。そうテスネー、今度二人で新しい洋服を買いまショウ」

 

「お姉様と二人で買い物……デート?わかりました!気合、入れて、行きます!」

 

比叡はぶつぶつと何か呟いていたが急に子日を担ぐと何処かへ走り去っていった。

 

「おー、比叡は元気で素晴らしいデスネー。さあ、私たちも比叡を追いかけましょう!dashデース!」

 

そして、金剛も深雪を担いだまま走り出す。これ以上の運動は流石に勘弁してほしい……

 

 

 

 

TSで風呂といえば、一緒に入る女の体を見ないようにするだのなんだの、兎に角ハプニング無しでは終わらない。そんなストーリーを想像する人間が多いだろう。

だが俺はそんな奴等とは違う。何故なら……

 

「もう、ペンキで髪が痛んじゃうわ……」

 

口から半無意識的に言葉がもれる。そう、この体においては、髪>>越えられない壁>>女の子の裸 なのである。おかげで周りの艦娘達には全く意識が向かない。

 

「如月ー!何してるんだよ!」

 

「早く入ろー!」

 

湯船に浸かった瞬間復活を果たした深雪と子日が急かしてくる。だがそれに応じて髪の手入れをおろそかにするわけにはいかない。

 

「これが終わったらすぐ行くから……」

 

答えつつ、俺の手は無意識で髪の手入れを続ける。どうも動きが体に染み付いているようだ。

 

「全くそのとおりデース。髪の手入れは淑女として当たり前デース」

 

隣では比叡が金剛の髪の手入れを行っていた。比叡は脅威的な速度と正確さで金剛の髪を洗っていく。

 

「さあ、金剛お姉様、終わりました」

 

「Thank youネ、比叡。次は私の番デース」

 

金剛と比叡は体の位置を入れ換えると今度は金剛が比叡の髪を洗い始める。

 

「うーん、比叡の髪はやっぱり綺麗デース。どうして改二になるときに切ってしまったんデスカ?」

 

「それはこうして髪を洗ってくださるお姉様が楽になるように……」

 

金剛姉妹の何でもない会話をBGMに作業を続ける。そしてそれも終わりに近づいた頃ふと、背後に誰かの気配を感じた。振り返るとそこにいたのは……

 

「お……おや?如月ではないか。ど……どうだ?この鎮守府は」

 

目を反らしながらもチラチラとこちらを見てくる、挙動不審な長門が立っていた。

 

「ええ、皆さんとても親切で……」

 

「そ……そうか。それはよかった」

 

返事をすると長門はぎこちない動きで俺の隣に座った。そしてシャワーを浴びながら言った。

 

「あー、髪が長くて手入れが大変だー。誰か手伝ってくれないかなー?」

 

わざとかと思うぐらいの棒読みだった。誰かと言っているがたぶん俺、如月に言っているのだろう。とはいえ長門は恐らくこの鎮守府でもトップクラスに偉い艦娘だと考えられる。意思を汲み取っておきながら無視するのは良くないだろう。悪く言えば媚びを売ったほうが良いということだ。

 

「あのー、私で良ければ……」

 

「本当か!?ではよろしく頼む」

 

さっきの演技は何処へ行ったのか……食い付きが良すぎる。

 

「じゃあ、始めますよ」

 

長門の髪を触るとサラリという心地好い感触。がさつなキャラ付けが多い印象のある長門とは思えないくらい手入れの行き届いた髪である。

 

「長門さん、髪さらさらですね。いつもどうやって手入れされてるんですか?」

 

「そ、そうか?いつも陸奥にやってもらっているからよくわからないのだが……」

 

他愛ない雑談を交わしながら長門の髪を洗う。もしかして、俺ももうこの鎮守府に馴染んできたのだろうか。こんな鎮守府ならずっといても……

 

「Hey!ナガモン、なんだかニヤニヤしてますネ」

 

「ながもんと呼ぶな!それにニヤニヤなどしていない!」

 

考え事をしているといつの間にか金剛比叡が長門に絡んでいた。

 

「お姉様の言う通りです。口角も上がってますし目尻は下がってますよ」

 

「そんなに髪を洗って欲しかったんデスカー?」

 

金剛達が長門の頬をツンツンとつつく。

 

「ばっ……何を……何を言っているんだ。そそ、そんなわけないだろう!わ……私は仕事を思い出した。そろそろ失礼する。如月、後で借りは返すぞ」

 

長門は髪に泡を付けたまま出ていった。

俺は本当にこの鎮守府に馴染めるのだろうか?




海風掘っていて長門がでた記念(後付け)でした。

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