やばいやばい。提督との会話に時間を割いてたら時間が無くなった。急いで部屋に戻らなければ。そう焦っていたのが良くなかった。次の門を曲がれば部屋だと思い、全速力で体を傾けてカーブする。その瞬間目の前に飛び込んできたのは紫の制服を着た人影。
「あっ……」
ブレーキは間に合わず敢えなく衝突。さらに体格差から吹っ飛ばされ、尻餅をつく。
「いてて……ちょっと、廊下を走ったら危ないわよ。ってパンツ見えてるわよ早く直しなさい」
は?パンツ?あ、俺スカートはいてるんだった。めくれていたスカートをただし、立ち上がった。
「ごめんなさい。ありがとうございます」
走ったことを謝り、スカートについて教えてくれた感謝を伝えて改めて自分の前に立つ女性を見る。さっき出会った重巡の二人と同じ紫の制服にウェーブのかかった長髪。妙高型重巡洋艦足柄だ。何やら巨大な段ボールを抱えている。
「もっと時間に余裕をもって行動しなきゃ駄目よ。あら?あなたもしかして」
足柄は段ボールを床に置き、ポケットから何やら書類を取り出して俺と見比べ始めた。
「えーっと、あなたが昨日着任した如月よね?」
「はい、そうですけど……」
もしかして俺に何か用でもあるのだろうか?
「ちょうどいいわ。あなたにこれを渡そうと思ってたの」
足柄が先程の段ボールを持ち上げて俺に差し出す。何だろうか?かなり大きいようだが……
「重っ……!?」
受け取った途端に段ボールが、ガクッと落ちる。咄嗟に足柄が支えてくれなければ足に直撃していただろう。
「ふう、やっぱり私が持つわ。これの中身は貴女の生活用品なの。今日から授業にも出てもらうから教科書も入ってるわ」
つまり昨日無かったものが届いたということか。
「ほら、時間が無いから急ぐわよ」
*
「ただいま」
「お邪魔するわよ」
段ボールを抱えた足柄をつれて部屋に戻る。他のみんなもとっくに起きているという感じだ。
「如月どこ行って……足柄先生!」
俺に文句を言いかけた深雪が固まる。
「深雪、今日提出の宿題は終わったのよね」
「も……もちろんですとも……あはは」
カチコチに固まったまま露骨に目を逸らす深雪。どうやら宿題はやっていないようだ。
「もー、深雪ちゃんったら、おととい子日と一緒にやろうって言ったのにー」
「子日は先週のレポート一週間待ってあげたけど今日だすのよね」
深雪を見て笑っていた子日も固まった。お前もやってないのか。足柄はやれやれといった調子で溜め息をつくと抱えていた巨大な段ボールを畳の上に置いた。
「今度出さなかったら居残り補習させるわよ。それじゃあ私は授業の準備に戻るわ。ちゃんと如月を連れてきてね」
足柄は深雪と子日の肩に手を置いた後出ていった。そしてあとに残ったのは魂の抜けたように固まった二人の駆逐艦が残された。
えっと……なんて声をかけたらいいか……。うん。放っとこう。自業自得っぽいし、彼女達を反面教師にして宿題は頑張ろう。速攻で思考を停止させた俺はこれからのことを考えることにした。
「えーっと、高波ちゃん?授業には何を持っていけばいいかしら?」
俺は固まった二人と二人の目の前に手のひらをかざしている霰を無視して行動を開始した。
夏休みの宿題やってない系作者です。次々回くらいに戦闘シーンが入ります(たぶん)