憑依如月と不吉な駆逐隊   作:8号機

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なんでこんな話考えたんだろう……


鎮守府の夜3

「いやー、今日は疲れたぜ」

 

「今夜はもう寝ちゃおうか」

 

第八八四二駆逐隊の部屋に帰ってきた俺たちは畳の上でぐったりと横になっていた。風呂で肉体的な疲れは取れたがこれは別物。演習とはいえ初めての海戦は精神的に疲れた。

 

「あの……寝るなら歯磨きした方がいいかもです」

 

高波はそう言うと自分の机から歯ブラシとコップを取り出した。それに続いて他の3人も歯ブラシを取り出す。あれ?俺のは?

 

「あのー、私はどうすればいいのかしら?」

 

今まさに出ていこうとする四人に訪ねる。

 

「どうすればって……自分の机にある……あっ」

 

深雪が振り替えって答えるが4つ並んだ机を見て固まった。スペースは広いが机は4つしかない。

 

「そういえば如月ちゃんの机がないよ」

 

「私たちの机は元から置いてあったんだけど……」

 

子日や高波の話からするともともと4人分の机や生活用品は置いてあったのだろう。

 

「たぶん……5人の駆逐隊は特殊だから……如月の分は用意されてない……」

 

 

たしかに霰の言う通り駆逐隊は4隻が基本。3隻になることはあっても増えることはない。つまりこの部屋は4人用であり、5人目が暮らすことは考えられていないのだろう。

まあ、歯ブラシなんて今度買えばいい。別に1日くらいサボってもどうということはないだろう。

 

「はーい!子日いいこと思い付いた!」

 

そんなふうに考え事をしているといきなり子日が俺の手を握った。そしてそのまま俺を引っ張って部屋から連れ出した。

 

「ちょっと、何処に連れてくつもり?」

 

「もちろん洗面所だよ」

 

子日のいった通り、蛇口が並ぶ長い洗面スペースにたどり着いた。幸か不幸か、そこには誰もいない。子日はコップに水を注ぎ、歯ブラシを濡らすとピンク色のペーストを塗った。

 

「如月ちゃん、口開けて」

 

「え……?」

 

聞き返そうとしたその口に子日のピンク色の歯ブラシが突っ込まれる。歯磨き粉が舌に押し付けられ、口の中に苺の風味が広がる。

 

「ひょ……へおひひゃん……」

 

「もう、舌動かさないで」

 

子日の方が体格がいいから逃げられないし、なにより下手に動くと危ない。ちょっと……いや、滅茶苦茶恥ずかしいけどこのまま磨いて貰うしかない。

 

「ほら、もっと大きく口開けて」

 

言われるままに口を開ける。シャカシャカと小気味のいい音と共に柔らかいブラシが口内を動き回り、口の中の汚れを落としていく。たまにずれるブラシがすこしくすぐったいが……これ、意外と気持ちいい?

 

「はい、いーして」

 

言われた通りに歯を合わせたところで……

 

「あ」

 

同じように歯磨きセットを手にした叢雲と目が合った。

 

「アンタ達……何やってんの……」

 

叢雲はひきつった表情でこちらを見ている。というかドン引きしてる。というかやっぱり人に見られると恥ずかしいわ!

 

「ふはふほ……はふひぇへ……」

 

 

 

 

叢雲が酒保で歯磨きセットを買ってくれた。彼女曰く、お代はいらないからこれからしっかり働けとのことだ。そんなわけで最終的には無事歯磨きを終えた俺だったがそんな俺に次なる試練が待ち受けていた。

 

「そういえば、ベッドも4つしかないかも……」

 

つまり、俺はこの中の誰かと同じベッドで寝ることになるのだが……。

 

「如月、深雪さまと一緒に寝ようぜ」

 

「子日と寝よーっ!」

 

「一緒に……寝る……?」

 

「あの……私も如月さんと寝たいかも……です」

 

何だろう、このハーレム感というか「これなんてエロゲ?」状態は。いや、落ち着け今は俺も女だから問題はないはず。

 

「じゃあじゃんけんな」

 

「負けないよー」

 

4人は気合いが入った様子でじゃんけんを始める。て言うかお前らなんでそんなに俺と寝たいんだよ……

 

「負けた……」

 

「くぅ……昼に運使い果たしたか……」

 

そうしている間に着々と敗者がふるい落とされていく。そして最後に残ったのは……

 

「や……やったかも! 」

 

 

 

 

「じゃあ……電気けすよ……」

 

霰の合図で部屋の電気が消される。部屋が闇に包まれて直ぐに深雪や子日の寝息が聞こえて来る。

 

「あの……如月さん。まだ起きてますか……?」

 

俺の左側で寝ている高波が話しかけてくる。俺は天井を見つめたまま答えた。

 

「ええ、起きてるわ。どうかしたの……?」

 

「えっと……その……、こっちを向いて……寝てほしいかも……」

 

その声に従って寝返りをうち、高波と向かい合う。すると高波はそっとこちらに手を伸ばしてきた。

 

「あと、手を握っていて欲しいかも……」

 

俺は言われた通りにその手を掴んだ。高波の手はじっとりと汗ばんでいて少し震えていた。

 

「夜は……少し怖いかも……私が沈んだのも夜だから……」

 

高波はそう言って目を閉じる。なにか、慰めになるような事を言おうと思ったが何も思い付かなかった。俺は勇猛な軍艦ではなく普通の人間なのだ。戦争の経験も、ましてや死んだ経験もない。そんな俺から彼女にかける言葉などないだろう。

暫くして高波も寝息をたて始めた。俺は高波の手を放す気にもならずそのまま目を閉じた。




歯ブラシの共有は虫歯がうつるので止めた方がいいです。

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