島風の唄   作:月日星夜(木端妖精)

88 / 93
シマカゼの頭が緩そうなのは仕様です。


5.乱闘・ライダー祭り

 超進化態。

 それはロイミュードが求める最終到達点。黄金の力。なんと美しき姿。

 

 

『ぜろぜろいち! お前がどんなに巨大な権力を持とうと、お前こそ小さい!』

 

 

 連想ゲームで胸の内で名台詞を叫んでいれば、綾波さんがうーむと顎に手を当てて何か考え事を始めるのが目に入った。

 川内から綾波さんへ視線を移す。じーっとガン見。何を考えているんだろう?

 

 私、状況があんまり飲み込めてないというか、さっぱりわかんないから一つ一つ説明してほしいなー、なんて。

 ……この綾波さんはどちらかというとクールな性格のようなので、あんまりその場その場での説明とかしてくれないから困りものだ。

 

 ちなみに私はパッションってやつが満タンなシマカゼ。恋も学業も負けません!

 

 

 とりあえず、話は襲撃者の事へと移った。

 敵の目的はおいといて、その規模はどれほどか、脅威はどの程度かを綾波さんが纏める。

 いいぞ。頭脳労働は任せた。私そういうの苦手だから、終わるまでそこら辺の壁でも見てるね。

 

 

 

 

 

「ここで悩んでいても仕方ない。シマカゼ、行きますよ」

 

 ぬぼーっとしていれば、腕をぺちり叩かれた。

 

 んあー、今いいとこだったのに!

 脳内朝潮とベッドの中で会話(ピロートーク)していたのを中断させられた私は、しかし今が非常事態なのを思い出してキリッとした顔を心がけ、ライドマッハー(バイク)に跨った綾波さんが肩越しに立てた親指で後部を指し示すのに頷いて、そこへ飛び乗った。

 

「綾波さん、ヘルメットは?」

「そんなものなくとも艦娘、死にはしませんよ」

「えー、ワイルドだなあ」

 

 ちょっとしたり顔なのがかっこかわいい綾波さん。いくら記憶喪失でも免許が取れるからって、法を守らないのはいけないと思います。

 え? ここでは綾波さんが法?

 さよか。

 

「そこがこの子の魅力なのだよ」

 

 さっと横へ来た川内が私の背中をぽんぽん叩いてから、私の後ろへ立ち乗りした。

 ちょっと、私の肩に手ぇ置かないでくんない? むず痒いよ!

 

「飛ばすぞ」

 

 さっきから口調が安定しない綾波さんが思いっきりグリップをひねり――目の前独房あんのに? と思う間もなく――ギャギャギャッ!! とけたたましい音をたてて視界がぶれた。

 

「うひょー!」

 

 強烈なGに体が引っ張りまわされる。うおーん、顔の皮が伸びるぅ。川内の楽し気な声が憎い。

 

 けど独房と激突って事にはならなかった。どうやらアクセルレバーを回すと同時にブレーキも握っていたみたいで、同時にハンドルを切ってその場で急速回転、反転して廊下に飛び出した模様。

 綾波さんのドライビングテクニック、シマカゼじゃなきゃ見逃しちゃうね。

 でもナイスドライブとは言ってあげない。怖かったし。

 

 

 

 さて、外へ飛び出した私達は、この地に上陸して暴れ回るレ級とその他大勢を目撃した。

 赤い光を纏うレ級を筆頭に雑多な深海棲艦があっちにこっちに砲弾を飛ばしては爆砕音を響かせている。派手に暴れてやがるな。そーゆーの見過ごせない主義なので、ぶっ倒しちゃいましょう。

 

「ちっ……!」

 

 綾波さんも相当お怒りなようで、風の中に舌打ちが紛れ込んだ。……こわ。

 ほぼ同時に川内も舌打ちしたので私は二人の怒りに挟まれて身を縮ませた。

 別の世界の住人である私には彼女達のような強い怒りはないので、なんか申し訳ないというか場違いというか肩身が狭いというか……。

 

「あれ? あの、タ級とかル級の中に紛れている金剛さん達は……」

「あの四姉妹は、おそらくロイミュードです。攻撃対象。ぶちかまします」

「ぶち……?」

 

 土埃を巻き上げてその場に急停止した綾波さんがアクセルをふかして不穏な事を口走るのに、思わず聞き返すものの返事はなかった。

 代わりに後ろの川内がぴょーんと高く飛び上がって、空中で綺麗に身を捻って少し離れた場所に着地した。何をいきなり。……なんでこっちに手を振ってんの? ばいばい?

 ていうかなんか姿が改二っぽくなっているような。魚雷の代わりに刀とかクナイとか持ってるけど。

 

「行きます」

 

 ぐわん。

 お腹の中が浮き上がるような感覚とともに車体前部が一度大きく持ち上がり、重々しい音を立てて着地、同時に猛発進!!

 

『――!?』

 

 綾波さんは有無を言わさず暴れ回るレ級達へバイクアタックを仕掛けたのだ。

 あっやった! でも深海棲艦だしまあいいか。

 などと馬鹿な事を考えている場合ではない。ひとっ走りつき合わされたこっちはたまったもんじゃないのだ。レ級を()いた瞬間の衝撃は半端なく、ちょっと胃が圧迫されたっぽい。冗談じゃない、こんな殺人バイクの上に乗ってられるか! ……私も水上バイクでやった事ある気がするけど、それは棚に上げて、と。さっきの川内を真似てバイクから離脱し、着地と同時に真横のル級に肘打ちを食らわせる。

 

「うあ、かったーい!?」

 

 あ、いや、硬いというか、びっくりしたというか……攻撃したル級は爆散したけど、ほら、普段の学校生活じゃこんな硬い奴に攻撃したりなんかしないからね。

 シマカゼはおしとやかな女の子なのです♡

 

『――!!』

「っとと」

 

 女子高生アピールをしていれば、まるで突っ込みでも入れるみたいに重巡級が突っ込んできたので、いなしたついでに回転して、その背中に回し蹴りを叩き込んでやった。それだけで爆発しちゃうんだから脆い脆い。

 ふぃー。しかしやっぱり、艦娘は戦ってなんぼだよね。ここ数年争いとは無縁な生活を送ってたからすっかり平和ボケしちゃってたけど、ちゃんと戦えるようで安心。

 

「おぃっしょーい!」

 

 てきとーな掛け声をかけつつ前蹴りでリ級flagshipをぶっ飛ばし、さすがに黄金の光を纏った奴はそれだけじゃ大したダメージも受けてくれないのでとびっきりのスピードで走って背後へと回り込み、もういっちょ蹴り飛ばす。それでも駄目なら足を止めずに走行、追いついて蹴り、追いついて蹴りの繰り返し。円を描く軌道で砂埃を巻き上げながらの超速攻撃、逃れられるもんならやってみろっての!

 

『――――!!』

「おっそーーい!」

 

 怨嗟の声に合わせて例の台詞を口ずさみつつ、ズザザッと地面を削って急停止。そろそろトドメ。

 ベルトから注入されるエネルギー全部もってけ! って具合に急加速して私に向かって飛んでくるリ級へ全力ダッシュ、のち飛び蹴り!!

 

「いぇーい!」

 

 鉄を貫く感覚は並では味わえない戦闘の高揚を私にもたらす。熱をはらんだ爆風が肌を撫ぜ、髪をなびかせれば、うーん、今私、めっちゃ決まってる気がする!

 

「っとぉ? なになに?」

 

 自分の格好良さに惚れ惚れし、朝潮にも見てもらいたかったなあと思っていれば、何かが足元を抜けていった。

 青色……いやピンクの光? ん、黄色?

 ていうか、なんか宝箱とか降ってきたんですけど! なにごと!?

 

「なに? ゲーム? 私も混ぜてよ!」

「何言ってんの?」

 

 手に持つクナイで軽巡級の首を掻っ切った川内がそのままの勢いで私の前までくると、くるりと半回転して勢いを殺し、私の肩に手を置いて後ろの方を眺め始めた。

 ゲームというのはこの戦いの事だろうか。うーん、感性がよくわからない。いくら戦いに心弾ませる私でも殺し合いをただのゲームとは言ったりしないんだけど。

 

「……何あれ」

 

 振り返れば、理解し難い光景が広がっていた。

 バイクを駆る綾波さんと、三人の人型怪人が戦っているのだ。

 いや……あの人型、デザインとか腹部のバックルとか見るに、ええと、私の知らない仮面ライダーか何か?

 

 黄色いバイクに乗ったトゲトゲ頭の暫定ライダーが剣を振り上げて綾波さんへと突っ込んでいき、綾波さんもまたアクセル全開で突進する。お互いがぶつかり合う、その寸前に二機のバイクが跳ね上がった。

 空中で交差し、両者お互いの攻撃を受けて地面へ落ちる。

 気のせいか、綾波さんの拳があの謎のライダーに当たった時、『HIT!』と書かれたエフェクトが出ていたような。

 

「はい、危ないよ」

「うわっ、急に押さないでよ!」

 

 横転して滑ってくるバイクを眺めていれば、川内に肩を押されて二歩ほどよろけてしまった。川内もまた横へ飛び退いて場所を開けている。私達の間をバイクが滑り抜けていった。

 そいつは深海棲艦の手で助け起こされ――あれよあれよという間に変形して人型になった。なんか「三速」とか喋っていた気がする。フォームチェンジ? やっぱり仮面ライダーなのか、あれ。

 

 ……でも、今の声は明らかに霧島先輩……って事は、あのライダーの中身は霧島さんな訳!?

 

「それって正規の変身者じゃないって事だよね」

 

 あれがオリジナルのライダーでないのならそうなる。

 許せないなぁ。私、そーいうの嫌いなんだよね。

 

「とおーう!」

 

 気の抜ける掛け声とともに霧島さんが弓のような武器を構え、エネルギー弾を放ってくるのを転がって避ける。

 

「いいじゃん! いいねえそういうの!」

 

 光の弾丸は川内にも向かっていたが、クナイであっさり打ち払い、霧島さんへと踊りかかっていった。うわあ、ノリにノッてるね。さっきまで怒ってたっぽいのに。刹那的なのかな。

 さて、私もぼーっとしてはいられない。背後に迫る何級かも立ち上がりざまの後ろ蹴りでぶっ壊して、黄色いライダーをやっつけるべく走り出す。

 

「おおりゃああー!」

「うくっ! っく、っとと」

「そらそら!」

 

 三速だかなんだか知らないけど、二対一では向こうもたじたじ。足技主体の私とクナイや反りの無い刀で斬りつける川内に防戦一方の模様。

 そうして立ち位置を変え、足を入れ替えつつ戦っていれば、綾波さんと他三人のライダーが戦う場へと来てしまった。

 

「まだまだ!」

 

 奮起する霧島さんが手に持つ弓で光弾を放つ。そう速くないから避けるのはたやすいけど、鬱陶しいなあ。

 混戦は苦手だ。仲間に誤射された苦い思い出が甦る。てな訳でさっさと倒したいんだけど……!

 ……もー! 飛び道具は卑怯だよ! こっち素手なんだよ!? 少しは手加減しなさーい!

 はっ。しまった、シマカゼの完璧なお嬢様キャラが崩れてしまった。高校デビューを前にシマカゼお淑やか計画は頓挫してしまったか……まあ、是非もないね!

 

 私も連ちゃんしっかり連れてきていれば砲撃戦に対応できたんだけどなあ。ごめんね連ちゃん、置いてきちゃって!

 

「うあっ!?」

「きゃあっ!」

 

 川内と一緒にえいえいと攻撃し続けて黄色いのを後退させていれば、向こうから後ずさってきた黒だかなんだかのライダーとぶつかってよろめいた。むっ、そのかわいらしくも柔らかい声は、榛名先輩か。銃持ってるってことは銃撃ライダーなんだね。

 

 ……うむ、ところで私の足元にあるこのメンコみたいなのは何かな? オーメダル? 黒い人型が走っているような絵が描かれてるんだけど。

 

『高速化!』

「おぅっ!? ……ごほ、けほっ」

 

 うわ、触ったら消えた! びっくりして、いい年して島風みたいな声出しちゃったよ。うー、はずかし。

 あ、でもなんか体に力がみなぎるような……? うーん、なんだろう。

 考えても仕方ないか。ここは戦場、立ち止まる事は死を意味する。シマカゼは死なないけどね。

 

 未だ体勢を整えきれていない黄色いのに向かって、地を蹴って突進!

 &スライディング! からのー、サマーソルトキィーック!

 

「はいキャッチ!」

 

 バク宙紛いの蹴り上げによって弓のような武器を天高く放らせたら、後は飛び上がって掴み取るだけ。これで私も飛び道具ゲットだ。やったね!

 

「くらえ!」

「くっ!!」

 

 霧島さんに弓を向けてトリガーっぽいのを押し込みまくり、光の弾丸を撃って撃って撃ちまくる!

 咄嗟に体を庇う霧島さん。ふはは、無駄無駄! 全ての弾丸がその体に突き刺さり……刺さり……。

 

「……?」

 

 地面やら明後日の方向やらに飛んだ弾丸の残滓を眺め、私はそっと溜め息を吐いた。

 自分がノーコンなの、すっかり忘れてたよ……。

 なんて落ち込んでいたら、弓がぽっきり折れた。

 あんまりにも突然だったのでちょっと反応が遅れて驚くタイミングを失ってしまったけど、よく見ればこれは元々二つの草刈り鎌を合体させて弓の形にしていたアイテムみたいだ。

 斬撃系ならノーコンの私も安心ってわけ?

 

「おおっと!」

 

 光の弾丸を鎌で弾く。

 武器を奪われた霧島さんに代わって、背を庇い合う形で入れ替わるようにして榛名さんが私と相対し、銃を向けてきたのだ。

 再度の銃撃は今度は弾かず、くぐるようにして接近を開始する。

 さっき取った変なアイテムの効果が残っているのか、やたらと素早く動けてあっという間に懐に潜り込んだ。

 目線の高さに相手の変身ベルトがある。む、ベルトに刺さってるのは、ひょっとして変身に必要なアイテムだろうか。取ったら変身解除されたりする?

 

「これもーらい!」

『ガッシューゥ!』

「あっ! ちょ、ちょっとぉ!」

 

 さっそくそのアイテムを引き抜き、素早く後退してこれ見よがしに掲げて見せる。

 へへーんだ、皮だけライダーなんてお呼びじゃないんだよ。さっさとかわいいお顔を晒しちゃいな!

 

「ガシャット返しなさい!」

「うわっ」

 

 いきり立って何度も銃撃してくる榛名さんから慌てて距離を取りつつ、ガシャットと呼ばれたアイテムと彼女とを見比べて首を傾げる。どうして変身解除されないんだろう。 

 ……ああ、これが必殺技を発動させるためのアイテムも兼ねてるからかな? マキシマムスロットみたいなのついてるし、きっとそこに差して使うんだろう。

 

 ってことは、ライダーの武器であるこの草刈り鎌も……あった、差すところ!

 ガッチャーンと挿入し、待機音が流れ出すのに笑みを浮かべる。予想は正しかったみたい。それでええと、どう発動させるのかな?

 こういうのは大体トリガーを押せば必殺技が発動するのがセオリーか。

 

『キメワザ!』

「ふむふむ」

 

 これもまた考えた通りに動くのに満足する。ライダー通だね私。

 そいじゃあいっちょ、いきますか!

 

「はぁああ……!」

 

 さっと両手を広げて気合いを入れ、タイミングを計って飛び出す。

 

「ストップ! ストーップ!」

「問答無用~! くらえー!」

 

 おそらくは金剛先輩の制止の声が聞こえたが、やめてくださいと敵に言われてやめる正義の味方がどこにいる!

 あ、私は正義の味方ではないけど、そこはご愛敬。

 

「やめろと言ってるでしょう」

「人の話聞きなよー?」

 

 うおー、と走っている最中に駆け寄って来た綾波さんに腹パン、もといお腹に抱き着くようにして止められ、ついでに川内に襟首を引っ張られて勢いを殺された。ぐええ! な、なにすんの!?

 

 鎌に纏わっていたケバケバしいエフェクトが消えると、体の中に満ちていた不思議な活力も消える。

 

「彼女達とは協力プレイができそうです」

「へぇっ!? ぷ、プレイ!? それってどんな……」

「うーん、君のその性格好きかも!」

 

 はっ。体の感覚の変化に気を取られ、何か妙な事を口走ってしまったような。

 いやに上機嫌な川内が背中をバンバン叩いてくるのを手で払ってやめさせながら、未だ私の両腕を掴んでいる綾波さんと間近で向き合う。

 ……綺麗な顔してんね。

 

「理解できましたか? 私達の狩りの相手は……あの深海棲艦です」

「協力プレイデース!」

 

 

 そこはかとなく冷たい声の綾波さんにこくこく頷いていれば、金剛さんがガシャットとやらを片手にやってきた。

 コミカルなライダーな見た目のために完全に声が不似合いなのだけど、そこは気にしないが吉か。余計な事考えてると綾波さんに怒られそう。

 

 『あの』と呼ばれた深海棲艦は、どうやらレ級のようだ。周りには僅かに炎が残るばかりで鉄くずが散乱し、重油の酷い臭いに満ちている。お仲間は全滅。たぶん川内が頑張った。偉い。

 

 息を荒くして肩を上下させるレ級は、微かに恐怖の滲んだ顔で私達を睨んでいた。

 ……レ級を見てたらいらいらしてきた。私の世界のレ級とは無関係だけど、顔も声も一緒だと苛立ちは抑えられないもんみたいだね。

 

『ドラゴナイトハンターZ!』

「ダブルキックで決めますよ」

『ドラッ ドラッ ドラゴナイトハンター! ゼェーット!!』

「…………あ、はい」

『キメワザ! ドラゴナイト クリティカルストライク!!』

 

 ガシャガシュガシャガシュとSEやらBGMやらがけたたましく鳴り響く中で涼しい顔して指示を出す綾波さんに、少し遅れて返事をする。

 ドラゴンの着ぐるみっぽいのを装備した金剛四姉妹がベルトのバックルのレバーを閉じたり開いたりしてなんらかのギミック操作をし、光を纏ったり腕を交差させたりとしているのを、なーんにも気にしていない綾波さん、ちょっと尊敬する。私なんか気になって気になって仕方ないのに。

 

 それはそうと、ダブルキックのご提案だ。やぶさかではない。ごっこ遊びとはこうでなくちゃ!

 ただ、私のブーツにはファイズポインターをセットする箇所はないので、ほんとにただのごっこ遊びになってしまうのは勘弁してね。代わりにほら、ごっこ遊びで倒される哀れなレ級に黙祷捧げてあげるからさ。

 

「たぁー!」

「ほいっと!」

 

 撤退しようとしたレ級に炎やら光やらが混じり合って殺到し、そこへ投げ込まれたクナイが不思議な力を伴ってレ級の体を縛り付ける。

 

『ヒッサツ! フルスロットル!!』

「では息を合わせて」

「えくしーどちゃーじ、でゅんでゅんでゅーん……しゅごおお。あ、はい」

 

 マッハドライバーの操作によって必殺待機音を響かせる綾波さんに言われて、セルフで待機音を流していた私は、彼女に声をかけられるのに意識を切り替え、草刈り鎌を後ろに放り捨ててから飛び蹴りの準備態勢に入った。

 ……スピードの乗ってないジャンプキックじゃflagshipに痛手は与えられないが、まあいいか。こういうのはノリの良い方が勝つんだって桃の人も言ってた!

 

「とーう!」

「はっ!」

 

 綾波さんの鋭い呼気と私の抜けた声が重なり、私達の体は空へ。

 青白い電気を体から発してよろめいているレ級へ、急降下キックを放つ!

 

『――――――!!』

 

 断末魔の叫びは爆炎に飲まれて消えた。

 よし! これにて一件落着!

 

「やったね! いえーい!」

「…………」

「いえー……ぃ。すみません」

 

 憎きあいつをやっつけて気分は上々、綾波さんにハイタッチを求めれば、ふいっと体ごとそっぽを向かれてしまった。

 う、そういえば、綾波さんは自分の基地をめちゃくちゃにされて大変怒っているんだった。艦娘らしくない戦い方してたから気が抜けっちゃったけど、ごっこ遊びの気分だったのはたぶん私だけだったんだろう。彼女達は使える力を使って戦ったに過ぎなくて……ああ、悪い事しちゃったかな。

 

 もう少し落ち着いて行動しなさいと朝潮にもよく言われてるのに、まだ子供気分が抜けない自分にうんざりする。

 はぁ……いつもならフォローしてくれる人がいるからなんとかなってるけど、今は一人なんだからしっかりしなくちゃ。

 

 まずは……もう少し綾波さんとの会話を増やして、親睦を深めておこうか。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。