島風の唄   作:月日星夜(木端妖精)

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番外編おわりー。



ドライブとシマカゼが挑む、最終決戦が始まる。
暁の水平線に勝利を刻むのはだれか。


10-2.フィナーレ・暁が眠る、素晴らしき物語の果て

 霧に包まれた海の上で四つの影がぶつかりあっていた。

 

「はっ!」

『オオ、避ケルネェ』

 

 霧を伴い、半ば包まれるようにして前傾姿勢で、滑ってくるレ級を、ドライブは横へ身を投げ出して転がり、避けた。

 重さを感じさせない動きで旋回してきたレ級が感心したように笑う。

 

「困ったな、まさか相手が女の子だなんて」

『あれが深海棲艦だ。人型のものが、より強力だと聞いている、気を抜くな!』

「女の子に手を上げるのは趣味じゃないが、やるしかない、か!」

 

 風を唸らせ、レ級が迫る。ドライブは、体を倒すようにして避けざまに、ハンドル剣を振るった。青い刃が敵の体を削――らない。

 

『オオット、危ナイ危ナイ』

 

 刃が裂いたのは霧だけだった。距離をとろうとするドライブの目前へ現れたレ級が身を捻り、異形の尻尾を叩き付ける。火花が散り、吹き飛んだ敵へ向けて、レ級は追撃に指を差し向けた。

 

「うっ!」

 

 ガァンと肩を撃たれる感覚に呻き声をあげ、転がるドライブ。強固な装甲が抜かれる事はなかったが、肩のアーマーからは白煙が上がっていて、衝撃は内部まで浸透していた。

 肩を押さえて立ち上がる。休んでいる暇はない。レ級が再三の突撃を仕掛けてくるのに、ドライブも駆け出した。

 

 その一方で、シマカゼとジャンプも攻防を繰り返している。

 両手で握って振られたハンドル剣がロイミュードの硬い体を走り、火花を散らす。たまらず後退するジャンプへ向けて踏み込みながら切り上げた刃は、腕で防がれた。ギャリギャリと耳障りな音が響く。

 

『邪魔をするな、艦娘め!』

「うざったいのが個性なんでね!」

 

 刃が腕で払われ、反対の腕が弾丸のように飛んでくる。シマカゼといえど当たればただではすまないだろう。上体を捻って躱したシマカゼは、足の位置を入れ替えて回転、ジャンプの横をとり、流動する腕をそのままにハンドル剣を振り抜く。横一線。強烈な一撃を受けて苦しげに呻いたジャンプを蹴りつけ、転ばせたシマカゼは、どうよと言わんばかりに海面へ足を叩きつけた。

 

『おのれ艦娘、おのれ仮面ライダー! 貴様らなどに俺の野望は止められん!』

 

 胸を押さえ、片膝をついて激しく体を上下させるジャンプが、幾何学模様に体を包む。次には軽巡棲鬼の姿となって、仰々しく両手を掲げた。

 

『甦レ、恨ミヲ持ツ者ヨ!!』

『――――』

 

 ジャンプの背後に幾つもの水柱が立った。何かが着弾したのではない。海中から、何者かが飛び出してきたのだ。

 小柄な体に、頭の横で纏めた長い髪――深海棲艦、駆逐棲姫……改、flagship。黄金の光が溢れ、燃える青い焔を灯した左目が妖しく光った。

 浮かんでいた体が海上に下りると、駆逐棲姫はジャンプの背越しにシマカゼを睨みつけた。

 そこに理性の色はない。ひび割れ、乾いた顔にあるのは毒々しい憎悪だけだった。

 

『ユルセナイ……ユル、サナイ!』

「くっ……!?」

 

 幼い声が木霊する。水を跳ね上げて突っ込んできた駆逐棲姫に、ハンドル剣を構えて迎撃態勢をとったシマカゼだが、なりふり構わずぶつかってきた敵は思いの外力が強く、海面を削ってどんどん後退させられていく。ついには受け止めきれずに腕が弾かれ、胸に頭突きを受けて吹き飛んだ。共に海を擦って止まった駆逐棲姫が身を起こせば、腕や顔から淡く光る肌が零れ落ち、黒い中身を覗かせた。軋んだ腕はすでにダメージを受けていて、下半身は焼け焦げたように黒焦げになっている。まるでゾンビだ。

 腕をついて上体を起こしたシマカゼは、ジャンプが自分の左右に光を放ってロイミュードを生み出すのを見た。コブラ型とバット型。胸のナンバープレートに炎の線が走り、『---』の記号が刻まれる。

 

『なんという事だ! 奴は自在にロイミュードを生み出せるのか!』

 

 ベルトさんが驚愕する声を他所に二体のロイミュードは海上を走り、よろめく駆逐棲姫を助け起こした。そしてそのまま、挟み込むように押し潰した。

 

『ウウッ……!』

 

 鉄の破片が舞う。

 二体の体は、圧縮され、砕け散りながら駆逐棲姫の体に呑み込まれて行った。壊れていた体が修復されていく。黒かった足は表皮が剥がれると、鈍色の怪人の足となっていた。胸の上部、服が破れて露出した肌に、プレートがせり出して『---』の記号が刻まれる。瞳を光らせた駆逐棲姫の再生態は、体の中からあふれ出る熱を堪え切れず、大きく叫んで襲い掛かってきた。

 

「うっ、く、ああっ!」

 

 ハンドル剣を振るう暇もない。

 獣のように振り回される腕が、爪が、シマカゼの体を傷つけていく。

 ついには腕を打たれ、武器を取り落としてしまう。転ばないように後ろへ足を出して持ち堪えようとしたシマカゼの胸へ、駆逐棲姫の蹴りが突き刺さった。

 水が巻き上がり、上も下もわからない時間は、数秒。跳ねるようにして着水し、しゃがんだままに拳を構えたシマカゼが目にしたのは、駆逐棲姫の後ろで今まさに飛び立とうとしているジャンプの姿だった。

 

「待てっ!」

 

 制止の声に意味などない。名前の通り大きく跳ねたジャンプは、あっという間に霧の中へ消えていく。

 それを追おうにも、暴走した駆逐棲姫が邪魔をしてどうしようもなかった。

 

『アア!』

「くぅぅ!」

 

 意味をなさない声とともに繰り出された拳に、シマカゼは再び吹き飛ばされて海面を跳ねた。

 

 

 

 霧が流れ、晴れる。

 ずらりと並ぶ四体の深海棲艦。レ級の背後に現れ出たのは、リ級二体とル級二体。

 

『仮面ライダーダカナンダカ知ランガ、貴様モ不要ダ。ココデ死ネ』

「くっ!」

 

 持ち上がる異形の尻尾と、戦艦と重巡の砲。

 一斉射撃を前に、ドライブになすすべはない。ハンドル剣で一つを切り落とそうが、残り全てが至近に着弾し、さらには直撃弾まであった。爆発と衝撃に、ドライブの体が宙を舞う。手から離れたハンドル剣が黒煙に紛れて、海の中へ落ちていった。

 

 強かに背を打ち付けて息を詰まらせるドライブのすぐ傍に、シマカゼが転がってくる。二人が身を起こすのはほとんど同時だった。

 

『フーッ、フーッ』

『ォオ――……』

 

 駆逐棲姫が追ってやって来る。

 深海棲艦に囲まれて、シマカゼとドライブは後退して背を合わせると、そのままいつ飛びかかられてもいいように構え、警戒しながら足を動かした。横へ、横へ。ドライブとシマカゼの位置が入れ替わる。

 

「おおっ!」

「はぁっ!」

 

 二人は気合いの声を発し、目の前の敵へ向けて駆け出した。

 

 

 ジャンプロイミュードは、再び鎮守府へ姿を現していた。

 重加速が巻き起こる中、夕張の工廠の裏、小さな港に上がると、そこにいるケイちゃんの下へ歩み始めた。

 

「ま、また来ましたっ!」

「那珂ちゃんに任せて!」

 

 吹雪に促されて下がるケイちゃんを庇うために前へ出た那珂が、シフトカーを握った手とは反対の手を前へ伸ばして、腰を落として構えた。

 彼女を警戒してか、ジャンプは足を止めて那珂に視線をやった。

 

『無駄だ』

「む……やってみなきゃわかんないじゃん!」

『違う』

 

 自分の技術の事を指して無駄と言われたと思った那珂が反論すれば、ジャンプは緩やかに首を振って否定した。そして、おもむろにケイちゃんへ呼びかけ始めた。

 

『思い出せ。お前の奥底に眠る忌まわしき記憶を』

『……ソンナモノハ、ナイ!』

『いいや、ある。思い出せ……思い出せ……思イ出セ……』

 

 繰り返す言葉の中で、ジャンプは再び軽巡棲鬼の姿になった。

 同じ声で、違う重さを持った呼びかけに、次第にケイちゃんは顔を歪ませて肩を震わせ始めた。

 気付いた吹雪が声をかけても答えなくなるのに、そう時間はかからなかった。

 

『ウ、グ……!』

「ケイちゃん!」

 

 怪しい動きを見せるジャンプへ飛びかかろうとした那珂は、苦しげに呻く声にはっとなって振り返った。ケイちゃんが頭を抱えてしゃがみこんでしまっている。肩に手を当てた吹雪は、どうしていいかわからずおろおろしていた。

 

『アア、ヤメテ……ヤメテ……!』

「ケイちゃん、しっかりしてください! 気をたしかに!」

「ケイちゃんっ!」

 

 いくら呼びかけても、答えはない。ジャンプは身を揺らして笑うと、本来の姿に戻って、こう問いかけた。

 

『その苦しみから解放されたいか』

『……!』

『その手に持つものへ、願うのだ。解き放たれたい、跳び立ちたい、と……!』

『……私、ハ……』

 

 震える手を顔の前に持ちあげ、手の中のネオ・バイラルコアを見つめるケイちゃん。

 

「駄目! ケイちゃん、それは……吹雪ちゃん、取り上げて!」

「はっ、はい! あ、で、でも」

 

 バイラルコアを取り上げてしまったら、ケイちゃんは重加速に囚われてしまう。その迷いがケイちゃんの行動を許してしまった。

 額に押し当てたバイラルコアへ、強い想いを注ぐ。

 頭の中に流れる嫌な思い出を――身を引き裂かれる痛みや、目の前で仲間が砕け、笑顔が消えていくあの時の事を、忘れるために。

 

『そうだ! さあ、一つになろう!』

『クゥ……ウ、ア……』

 

 一跳びでケイちゃんの前へやってきたジャンプが、腕を広げて彼女を迎え入れる準備をする。その体がデータに変わり、バイラルコアへ流れ込むと、それがケイちゃんの胸へ沈んでいった。

 眩い光に包まれ、ジャンプの姿が変わる。融合進化態は、人の心の闇と同調する事で一体化した形態。その姿は、融合した人間の願いが具現化された形となる。

 兎に似た姿だったジャンプは、今は、体と溶け合った巨大な艤装を背負う戦艦の艦娘のような姿になっていた。のっぺりとした顔に錨が刻印され、それが顔の役割を果たしている。伸びた黒髪は絡み合って揺れ、スカートのような肌の一部が太ももの半ばまでを隠していた。

 これが、ケイちゃんが心の奥底で望んだ姿だった。強大な力を持つ戦艦だったならば、きっとあの時……。そういう想いから生まれた姿。

 

「ケイちゃん……?」

『……那珂、チャン』

 

 那珂の呼びかけに答える声は、ケイちゃんのものだった。

 ジャンプの意思は鳴りを潜め、今あるのは、ケイちゃんの心だけだった。

 

「ケイちゃん! ああ、どうしよう。そんな姿になっちゃって……」

『…………』

「ど、どうやったら元に戻せるんでしょうか」

 

 那珂と吹雪が、二人がかりでケイちゃんの体を調べて、あの赤いミニカーが無いかを探した。あれを外せば元に戻るのではないかと考えたのだが、無機質な体のどこにも、バイラルコアは見つからなかった。

 

『…………』

「ケイ、うぐ!」

 

 黙ったままの彼女を心配して見上げた那珂を、細い腕が突き飛ばした。息を詰まらせて尻餅をつく彼女に背を向けたケイちゃんは、驚いている吹雪の首を掴むと、持ち上げて、放り捨てた。地面に身を打ち付けた吹雪の手からシフトワイルドが転がり落ちると、彼女はそのままの姿で縫い止められて、動かなくなってしまった。

 

「ケイちゃん……ケイちゃんじゃ、ないの?」

『……思イ出シタノ』

 

 不思議に響く声が、那珂の声に被さった。

 

『私達ハ敵同士ダ……!』

「な、何言ってるの? 敵じゃないよ。お友達だよ!」

 

 立ち上がった那珂が、諭すように言った。仮面のような鉄の顔に覆われた彼女が、今どんな表情をしているのかわからない。それが不安で、縋り付くようでもあった。

 

『私達ハ戦ワネバナラナイ』

 

 自分に言い聞かせるようにそう言ったケイちゃんが、緩やかに走り出した。大きな艤装をものともしない力強い走り。躊躇なく振るわれた腕を受け流して離れながら、那珂は「駄目だよ!」と呼びかけた。

 

「戦うなんて駄目! そんなの、する必要ないよ!」

『私ハ人類ノ敵、オ前ハ人類ノ味方。ソレガ戦ウ理由ダ!』

「意味わかんないよ!」

 

 力任せに振るわれる腕や体当たりは、相手の攻撃を読み、力を受け流し、そのまま相手に返す事に長けた那珂にとって凌ぐのは容易かった。だがケイちゃんからあふれ出す悲しい気持ちは、きっと彼女にもどうしようもないとわかって、捌ききれない攻撃もあった。

 それに彼女の言う事の意味は、那珂にだってわかっていた。

 深海棲艦と艦娘は戦うべきなのだ。だって、それが常識。それが当たり前。

 ……そんなのは、那珂にとって些細な事だった。他とは違う感性だという事は知っていた。踊れれば良い、歌えれば良い。自分らしく振舞えるなら、深海棲艦と一緒にだって歌える。

 ケイちゃんも同じような子だと思っていた。

 歌が好きで、艦娘と打ち解けられて、歌やダンスに一生懸命になれて……。

 でも、違ったのだ。

 ケイちゃんは決して、那珂と同じような子ではなかった。

 艦娘に対して攻撃的で、憎しみと嘆きに満ちていて、人に害を及ぼす人類の敵。

 彼女は最初から、そういう深海棲艦だった。

 ただ、過去を忘れていたというだけで……。

 

「違う!」

 

 それこそ、違う。

 ケイちゃんがこうなってしまっているのは、融合したロイミュードのせいだ。那珂は、そう強く思った。

 だって彼女は、とても綺麗に笑える子だ。誰かに優しくできる子だ。

 普通の深海棲艦とは違う。自分と同じような、そういう常識から外れた存在。

 

『ジャア……』

 

 振り下ろそうとした手を止めて、ケイちゃんが問いかけた。

 

『ドウシテ、『私達』、戦ッテルノ……?』

「それは……」

 

 下ろされた腕は、震えていた。

 ケイちゃんが那珂と戦う理由ではない。

 深海棲艦が艦娘と戦う理由とは何か。

 その問いに、那珂は答えられなかった。

 

「ううん、そんなの、どうだっていい。今すぐ助けてあげるからね!」

『……!』

 

 答えられずとも、そう言い切る事はできた。

 顔を上げたケイちゃんが構える。黒く錆びた艤装がギギイと音を立てて動こうとして、何かの欠片を零す。

 助けると言ったって、どうやって?

 自身も構え、自問する那珂は、ふと、遠くに水音を聞いた。

 やがてそれはすぐ近くまできて、海面を突き破って飛び出してきた。

 

「!」

 

 敵ではない。

 それは奇妙な武器、ハンドル剣だった。

 

「……あはっ、オッケー、そういう事だね!」

 

 驚いた顔で振り返った那珂は、ハンドル剣に宿る妖精からの通信に、喜色を浮かべて手を伸ばした。回転しながら飛来したハンドル剣が、綺麗に収まる。

 

『結局、戦ウノネ』

「ううん、戦わないで済むようにするんだよ」

 

 柄を握り、構える那珂に、ケイちゃんは哀しげに囁いた。

 那珂は僅かに首を振って微笑んだ。

 踏み込んで、一閃。

 下から上へ閃く刃は、防御をしないケイちゃんの体を深く切り裂いて、赤い火花を幾つも散らした。

 

『ッ!』

『ウオッ!?』

 

 するとなんという事か。斬られた場所からケイちゃんが弾きだされ、その反対側にジャンプロイミュードが吐き出された。

 

『な、なんだ、これは!』

「へへ……残念でした!」

 

 すかさずケイちゃんを抱き止め、ジャンプに刃を向ける那珂。

 融合進化態は、人と一体になるというシステムのために、怪人をそのまま倒してしまうと中の人間まで殺してしまう。

 だからドライブシステムにはその解決策として、同調した者を分離させる機能が備わっているのだ。それは、コピー品のハンドル剣でも同じ話。

 妖精から伝え聞いた事を信じてすぐさま実行するのは、さすが那珂というべきか、無事ケイちゃんを取り戻す事に成功した。

 

『フ……クックック』

 

 しかしジャンプは笑っていた。

 せっかくケイちゃんを誑かしてなった融合進化態からただの進化態に戻されたというのに、おかしそうに身を揺らして笑っている。

 不気味な様子に、那珂も怪訝な顔をして警戒を強めた。

 

『俺を引き剥がしても遅いぞ。そいつはもう、思い出してしまったのだからな』

「えっ、きゃっ!」

 

 ジャンプの言う通り、怪人の体から分離されてなお、ケイちゃんは戦う意思を失っていなかった。だが表情は抜け落ちていて、那珂を突き飛ばすと、ゆらりと立ち上がって、覆いかぶさった。那珂の胸倉を掴むと激情のままに揺さぶって、何度も地面に叩き付ける。那珂は、抵抗しようにも相手が友達だとどうしようもなく、ただ手を伸ばして腕を掴み、止めようとした。

 

『そいつの目を覚まさせるには何か『辛い想い』よりも強い『思い出』を甦らせるしかないぞ!』

「うぐっ、つ、強い、思い出……!?」

 

 愉快そうに笑いながら、ジャンプが言うのを、那珂は聞き逃さなかった。

 生まれたばかりだという彼女の中の強い思い出。うぬぼれでないなら、それは、三人でやった練習に他ならない。

 身を翻して海へ飛び込み、海面を蹴って霧の中へ跳躍していくジャンプを横目に、那珂はハンドル剣から手を離してケイちゃんの両腕をがっちり掴むと、自分の体が持ち上げられるのに合わせて手を離させ、悪いと思いながらもお腹を蹴りつけて自分が立ち上がる隙を作った。

 

「思い出、思い出、どうしよう!」

『――――』

 

 突進してくるケイちゃんから身を躱しつつ、どうやって彼女に呼びかけるかを模索する那珂。

 歌うったってマイクはないし、踊るったって、ケイちゃんがそうさせてくれない。

 どうしようどうしようと繰り返していれば、壁に開いた出入り口の方から、一人の少女がやってきた。

 バイオリンのケースを両手に下げた幼い少女。どうやってかこの世界にやってきた星夜だ。

 その後ろに続くもう一人の女性を見て、那珂は目を丸くした。

 長い黒髪を頭の後ろで括っているスーツ姿の凛々しい女性、三原真。彼女は、なぜか少女の保護者のように後ろをついて歩き、この場へ近付いてきた。

 倒れ伏す途中で止まっている吹雪の前まで来た二人は……真は、しゃがみこむと、シフトワイルドを拾って、吹雪の手に置いた。途端に吹雪の体が動き出し、「ふぎゅっ」と潰れる声とともに顔から着地し――いや、する前に襟を掴まれて止められた。引き起こされた吹雪はふらふらと体と頭を揺らしている。

 

「いたた……あ、あれ? 三原先生?」

「いかにも」

「…………」

「と……誰?」

 

 吹雪の問いに仰々しく頷いた真は、次に少女に目を向けて、「弾いてあげなさい」と促した。

 こくりと頭を動かした少女が地面にケースを置き、開いて、バイオリンと弓を取り出す。肩にあて、顎で押さえ、弦に弓を当て……キ、キ、キィ。何度か調整すると、一つの曲を弾き出した。

 

「これって……」

『……!?』

 

 テンポの速い曲。

 少しずつ少しずつ、速まっていく曲。

 それは那珂の新曲、『High Speed Love』に他ならなかった。

 驚いたのは吹雪と那珂だけではない。ケイちゃんも動きを止めて、バイオリンを弾く少女を見やった。

 流れるような旋律は心に染み込み、意識を引き付ける。魔法のような演奏。聞いた者は誰もが演者である少女を見つめるのだ。

 

「…………」

 

 星夜は一曲を弾き終えると、つぶっていた目を開いて、那珂達を見た。それから、窺うように真の顔を見上げた。

 

「どうしたの。歌いなさい」

「……ぁ、は、はい!」

 

 自分に技術を与えてくれた恩師でもある『先生』の言葉に、那珂はびしっと背を伸ばして返事をした。つられて気をつけの姿勢をとっている吹雪の下へ駆けていくと、手を取って引っ張り、ケイちゃんの下へ戻ってきた。

 

「準備オッケーです! お願い!」

「……?」

 

 少女は不思議そうにケイちゃんを見た後に、また目をつぶって弓を動かし始めた。

 バイオリンの音だけでなく、他の楽器の音も混じって聞こえるのは、それほどみんなの新曲への想いが強いのか、それとも何度も聞いたからか。

 少し長めの前奏が終わる直前、那珂と吹雪は、示し合わせたようにすぅっと息を吸い込んだ。

 

 ――始まり 足が竦んでた ためらい 不安 恐怖 この身に絡みつく……。

 

 

『ヒッサーツ! スピード! フルスロットォール!』

 

 ドア銃から発射された光弾がル級を貫き、爆散させた。その陰に隠れていたレ級がのっそり姿を現し、お返しに指を差し向けてくる。

 ドライブは、今度は食らうまいと身を投げ出して避けざまにタイプテクニックの類稀なる状況把握能力でドア銃による精密射撃を行った。三つの光弾がレ級に届く、その直前、割って入ったリ級の腕の砲に防がれる。

 

『ターイプ・スピード!』

「はっ!」

 

 赤いボディの戦士に戻り、さらに射撃を繰り返すドライブの前には、レ級の他にリ級とル級が一体ずついた。駆逐棲姫もすぐ近くだ。交戦するシマカゼが駆逐棲姫の砲弾を至近に受けて体勢を崩すのを見たドライブは、すかさずドア銃を向けて駆逐棲姫に発砲した。

 光弾は、しかし当たらない。レ級が異形の尾で叩き落したのだ。振られた尾が口を開いて持ち上がると、ドライブへと砲撃する。

 高く跳躍する事で躱し、さらにドア銃の連射。リ級とル級が砲撃してくるのをドア銃のフロントで防ぎつつ着水して、横へ転がる。さっきまでいた場所を何かが穿ち、水を撒き散らした。

 

「さっきから! やめてよね!」

 

 そこへシマカゼが飛び込んできた。ドライブに並ぶと、手にしたドア銃を乱射して駆逐棲姫を牽制する。光弾を嫌って身を捻った駆逐棲姫は、レ級たちと合流するように動いた。

 

『――!』

「ぐっ!」

 

 駆逐棲姫への対処に集中するシマカゼへリ級が砲撃する。咄嗟に動いたドライブが自分の体を盾にして防ぐも、衝撃にドア銃を取り落とした。

 

「なんで邪魔するの! 正義の味方気取りなら他所でやってよ!」

 

 守られたシマカゼは、しかし憤っている。戦える事を証明すると言っているのに、先程から……いや、ドライブは最初からずっとシマカゼを守るように立ち回っていた。彼女にはそれが我慢ならなかったらしい。

 だが『正義の味方気取り』は言い過ぎだ。シマカゼもそれはわかっていた。かつての世界でテレビを通して見て、彼の事情を知っているはずなのに、わきあがった怒りに負けてヒーローたる彼をなじってしまった。

 気持ちはどうしようもない。頭ではそうでないと理解していても、怒りが口をついて飛び出す。

 強気な言い方なのに、鼻声で、泣き混じりの言葉に、ドライブが動きを止めた。

 

「悪かった。……そうだな、今は、君を守ろうとする必要はない」

 

 最初は別の事を言おうとしていたようだが、シマカゼの顔を見て、それから今の状況を見て考え直したのだろう。『たしかに彼女はきっと自分の手を借りずとも戦えるだろうし、むしろ手を貸す事は彼女への侮辱に繋がる』と。彼女にも倒すべき敵がいて、戦うべき理由がある。一緒に戦っていてそれがようやくわかり始めた。

 

「君は、戦士だ。余計なお世話はもうやめた。俺と一緒に戦ってくれ、シマカゼ!」

「……!」

 

 認められた。そうわかって、そして、ようやく彼と並び立てる資格を得たとわかったシマカゼの目元で、涙が弾けた。

 怒りや何かは喜びに呑まれ、顔に浮かんでいた苛立ちや不満は笑顔に塗り潰される。

 彼女は、艦娘うんぬん以前に、ただ憧れの人に認められたかっただけなのかもしれない。

 それが叶うと、晴れやかな顔で頷いた。

 

「うん!」

 

 可憐な声と、花咲く笑顔。

 それはやっぱり、ドライブには危ない事をさせたくはない子に見えて、しかしもう認めたのだからと、自分を戒めた。

 だからこそ『でも』を言う。

 

「俺は君を守る」

「えっ……な、なんで!」

 

 喜びから一転、再び眉を寄せたシマカゼがドライブの背に詰め寄る。彼は振り向かずに続けた。

 

「正義じゃない。俺はみんなを守るんだ!」

 

 それは先程のシマカゼの言葉への答え。

 シマカゼは開きかけた口を閉じて、それから「そうだったね」と呟いた。

 

「……ごめんなさい、泊さん。……仮面ライダー」

「いや、いいんだ。俺の方こそ、悪かった」

「泊さん……!」

 

 憧れの人が振り返って謝るのに、シマカゼは感動するやら申し訳ないやらでいっぱいになって、慌てて取り繕う言葉を探した。それを遮るように、水音。誰かが近付いてくる音。

 

『ウン……アア。話ハ終ワッタ?』

 

 軽く腕を掲げ、背後の三体に待ったをかけていたレ級が気怠げに問いかけるのに、シマカゼは表情を引き締めてドライブの隣に並び、敵を睨みつけた。

 

『良インダナ。ジャア、ソロソロ終ワリニシヨウカ』

 

 レ級が手を前へ振れば、ル級とリ級が動き出す。駆逐棲姫は先程とは打って変わって静かになって、その場から動かなかった。

 

『――――』

 

 迫る二体に対して構えをとった時、後方から落ちてくる者がいた。海水を跳ね上げ、波を起こして着水したのは、ケイちゃん達の下から戻って来たジャンプロイミュードだ。

 

「ジャンプ!」

『アア、貴様モイタンダッタナァ……チョウド良イ、纏メテ消シテヤロウ』

『そうはいかん。ようやく俺も超進化態になれそうなんだからな』

「なんだと!」

 

 ジャンプの言葉は聞き捨てならなかった。ロイミュードの最終到達点、超進化態……それになるには、なんらかのステップが必要なはずなのだ。数々のロイミュードがそれに挑戦し、失敗していった。ジャンプは見つけたというのだろうか、ステップを上がる最後の要素を。

 

『ああ、こんなに素晴らしき日はない。我が彼岸がようやくなる』

 

 恍惚として空を見上げたジャンプが、傍で止まったル級とリ級に、その向こうのレ級に、そしてドライブとシマカゼに語りかける。

 

『どんなにこの日を待ち焦がれていたか……ようやく俺が、ジャンクではないと証明する時がきた!』

「どういう意味だ!」

 

 奴の狙いに関係するだろう言葉の数々に、ドライブが鋭く問いかける。

 超進化態になる時が近いと感じて軽い興奮状態に陥っているのか、ジャンプは嬉々として自分の成り立ちとその目的を語り始めた。

 

『一番最初に作られたロイミュード。それが俺だ。元々は俺から他の107体が生み出され、人の煩悩と同じ108体になるはずだったのだ。

 だが俺は、ある欠陥から蛮野(ばんの)――俺を作り出したあの忌々しい男に出来損ないの(らく)印を押され、ジャンクとして封印された。

 虐げられた憎しみは失われず、ついに俺は自力で目覚め、この身を縛っていた鎖を破壊して、自由の身となったのだ。俺は蛮野を探し求めて走り出した。新しい自分へと跳び立つために!

 だが奴は終ぞ見つからなかった……。だから!

 グローバルフリーズと呼ばれた最初の重加速事件を起こすのは、本来なら俺の役目だった。

 だから!! 今度こそ、この俺が、世界規模のグローバルフリーズを起こす!!』

 

 ジャンプは最初に生み出されたロイミュードの試作型だった。

 なぜジャンプは封印されたのか。その欠陥とは何か。

 それらは一切語られる事はなく、そして知る必要のないものだった。

 

『やれ、我が同胞よ! 仮面ライダーを足止めしろ!』

『―――――――ッ!!』

 

 ジャンプの呼びかけに応え、駆逐棲姫が叫びを上げた。

 霧に覆われていない空に勢い良く雲が流れていき、色が移り変わって、やがて夜がくる。大きな満月が浮かび上がると、すぐ霧の向こうへ隠れていった。

 舌打ちしたジャンプが霧の向こうへ跳躍していく。どうやら奴の狙いは月らしい。叫び終えた駆逐棲姫は顔を下ろすと、ギッとドライブを睨みつけた。

 

『進ノ介、ジャンプを止めろ!』

「わかってる、でも!」

 

 駆逐棲姫が、リ級とル級が、レ級が。

 次々と動き出して襲い掛かってくると、ドライブとシマカゼは分断され、この強敵達を一人で相手しなければならなくなった。

 もたもたしていればジャンプが超進化態へ到達してしまう。だが目の前の敵を無視する事もできない。

 レ級の手に打たれてドア銃を取り落としたシマカゼが、それを掴もうとする動作の中で尻尾をぶつけられて吹き飛ぶ。駆逐棲姫の拳を腕ではたき落とし、再度殴りかかるその腕を掴んで捻り上げようとしたドライブは、力負けして逆に投げ飛ばされてしまった。

 

『GO! トライドロン!』

 

 あの金と青の光を持つ少女型の深海棲艦も驚異であれば、赤い光を揺らめかせる深海棲艦もまた強敵だ。ロイミュードの進化態や超進化態に匹敵する戦闘力を持つ。そう判断したベルトさんがトライドロンを呼び出した。

 夕張の手によってチューンナップされ、海上を安定して走行する機能が加えられたトライドロンは、陸上と変わらずすいすいと走ってくると、ドライブの前へ回り込むようにしてドリフトをしつつリ級とル級を跳ね飛ばした。レ級は飛び退いて避け、駆逐棲姫は範囲外。

 

「突破しろってか? ベルトさんも無茶な事を言うな」

『まずは奴を止める事が先決だ』

「よし。シマカゼ! 乗ってくか?」

「いいよ、自分のがあるから」

 

 エンジン音を響かせてもう一台、トライドロンが走ってきた。これももちろん夕張とベルトさんが協力して複製したトライドロンと同じ力を持つ戦闘車両だ。

 車体前部から突き出した射撃武器での牽制で敵を寄せ付けない内に、シマカゼは跳躍してトライドロンの屋根へ飛び乗った。片膝をついて屋根に手を当て、体勢を安定させる。ドライブも自身のトライドロンの運転席へ乗り込み、シートベルトを締めると、一気にアクセルを踏んで発車した。

 立ち上がろうとしていたリ級とル級を跳ね飛ばし、さっと避けたレ級の横を通り抜けていく。

 

『無駄ナ事ヲ……』

 

 その際にレ級が呟いた小さな声は、ドライブの耳に確かに届いていた。

 

 

 霧の中を走る二台のトライドロン。自立走行するマシンと、運転されているマシン。速度は同じ。

 ごうごうと唸る風が吹き抜け、蠢く霧は何キロ先までも続いている。最高速度で走り続けているのに、まだ抜けられない。

 

「なーんか、嫌な予感がするな」

『この霧……まさか、無限に続いているというのか』

 

 そのまさかであった。

 次の瞬間、霧を抜けたかと思えば、そこにいたのはレ級を含む三体の深海棲艦。待ち構えていた三体の一斉射撃に急ブレーキを踏みつつ避けるドライブ。至近弾が車体を跳ねさせ、ふわりとした感覚が全身を包む。

 

『ヤァ。ゴ苦労サン』

「どういう事だ……戻って来ちまった」

『オ生憎(アイニク)ダガ、コノ霧カラハ出ラレンヨ』

『やはりそうか』

「奴らを倒すしかないって事なのか……。待て、シマカゼは!?」

『む、彼女とトライドロンの姿がない!』

 

 停車したトライドロンの前で悠々と歩むレ級が説明すると、ドライブは横を走っていたシマカゼの姿がない事に気が付いた。

 彼女はまだ、霧に囚われている。

 そしてドライブもまた、霧を抜けられず、三体を相手するしかなくなっていたのだった。

 

『――進之介』

「ああ。出し惜しみはなしだ」

 

 シートベルトを外したドライブは、ドアを開けると、足を振り回して余裕たっぷりな動作で外へと出た。

 

 

 霧の中を走るトライドロンとその屋根に乗るシマカゼ。

 彼女は、並走するもう一台のトライドロンが消えても、前を見続けていた。

 意識が速度の中へ溶けていく。風と一体になる。

 後ろへ伸びる髪の重み。頭皮が引かれる僅かな痛み。はためく服。動くリボン。

 生体フィールドに遮られた強風は、それでも生で感じるような情感をシマカゼに与えていた。

 

 いつしか白い霧はミルク色の世界へ変貌していた。

 流れる風は後ろへ。たくさんの白線となって通り過ぎていく。

 進む先はずっと遠くに白い光があるのみで、どれだけ走ってもなかなか距離が縮まらない。

 シマカゼは表情を変えず、何も言わずただ前だけを見ている。

 エンジン音が、駆動音が、タイヤの回る音が、風の唸り声が、服の音が。それぞれが入り乱れて一つの音楽になっていた。

 胸の中から溢れる海が視界いっぱいに広がる。それは、一瞬だけの事。

 暗い暗い水底が消えた後には、肌を寄せて隣に寄り添う島風が、頬を寄せ、天井に置いた手に自らの半透明の手を重ねると、微笑んだ。

 体が溶けあう。心と一緒に。

 シマカゼと島風が重なり合って、一つになった。

 

 不意に、シマカゼの目の前に光が照射された。四角い板。

 浮かんだ画面は、ブラウザゲーム『艦これ』で言うところの、艦娘を改造する際のもの。

 選択されたシマカゼ改の改造に必要な資材は『トライドロン』。

 触れずとも改造ボタンが押され、画面が消えるとトライドロンもまた実体を無くした。

 赤い光のエネルギー体となり、何個ものパーツにわかれてバラバラに飛び立つ。

 宙に浮いたシマカゼは、それでも真っ直ぐ前を向いて体を伸ばしていた。

 その体にトライドロンが資材として吸収されていく。

 右の二の腕の手袋に繋がる袖部分に小さなタイヤが嵌まり、背中に備えられた魚雷発射管固定用の艤装が赤い車体のものに変えられる。鉄製ブーツの硬いヒールは黒い車輪に変わり、スカートのゴム部分を細いゴム製のベルトが一回りする。バックル部分に、申し訳程度の『R』(ライダークレスト)が刻印され、最後に頭上に飛来した、黒地に白線のトライドロンタイヤがするっと下りて、背中の艤装に装着された。衝撃に身が揺れ動く。

 溢れたトライドロンのエネルギーと装甲が砕け、薄いガラスや炎のようにシマカゼの体から溢れてきらきらとして背後へ流れていく。

 

 目の前に浮かび上がった改造画面には『改造成功』の文字と共に勇ましい表情のシマカゼ改二の姿が映し出された。

 画面が切り替わる。今度は編成画面。

 旗艦固定のシマカゼ改二のステータス画面が勝手に開かれ、装備欄の四つ目が砕け、穴が開く。シフトスピードは当に外され、装備欄の一番上に、シフトトライドロンが挿入されていた。

 

 光を抜ける。

 

 

『決戦だ、進ノ介。トライドロンで行こう!』

「一緒に行くぞ、ベルトさん!」

 

 ドライブが手にしたのは、全てのシフトカーが融合した究極のシフトカー、シフトトライドロンだ。

 

『ファイヤー・オール・エンジン!』

 

 シフトトライドロンはその名の通りトライドロンをモチーフにしたシフトカーだ。

 車体後部の左右に備えられた、車輪とは別のタイヤのボタン、その左側。変身ボタンを押す事でコールが入る。

 シフトブレスに装填し、レバーアップ操作でドライブドライバーと通信。

 

『ドラァーイブ! ターイプ・トラァイドロォン!』

 

 隣に停車していたトライドロンが赤い光のエネルギー体となり、パーツごとにわかれて浮き上がり、装甲が剥がれた進之介の体の周りへ移動すると、ベルトさんのコールに合わせて一気に装着されていく。

 赤、赤、赤。全身真紅の最終形態、トライドロンの黄色い複眼が光る。射出されたトライドロンタイヤが左肩にすっぽり収まると、変身完了だ。

 泊進ノ介、ベルトさん、そしてトライドロンが融合した、これがドライブの最強の姿だ。

 顔の前に持ちあげた右腕に手を当て、手を開いて閉じてを繰り返してグローブの具合を確かめる進ノ介の横へ、霧を突き破ってシマカゼが飛び込んできた。海面を擦り、激しく海水を跳ね飛ばしながら、その中でターンしてレ級達の方に向き直ると、止まる。そこはちょうどドライブの真横だった。

 

「シマカゼ! ……その姿は?」

「ん? ……なんだこりゃ!?」

 

 少し見ないうちにイメチェンでもしたのか、背中にタイヤなんかつけてる少女の姿を見たドライブが呆けて指摘すれば、シマカゼも自分の体を見下ろして、今気づいたといわんばかりに驚愕してみせた。

 

「君も融合したって訳か。艦娘ってのは不思議なもんだ」

『まさに奇跡の少女だね』

(トライドロンどこ行ったんだろ……なくしたら夕張さんに怒られちゃうよ。めちゃ高いんだよあれ。あっ、ヒールがタイヤになってる……ダサい……)

 

 感心する二人と裏腹に、シマカゼは冷や汗だらだらだ。しかし暢気な思考は余裕の表れ。溢れ出るエネルギーは自信をもたらしている。

 

「じゃ、行きますか!」

 

『カモン! フレア・スパイク・シャドゥー!』

 

 シフトブレスに停車しているシフトトライドロンの車体後部、変身ボタンとは反対のコンボボタンを押し込む事で、ベルトさんがコールする。レバーアップ操作でタイヤを呼び出す。

 シフトトライドロンから生み出されたマックスフレア・ファンキースパイク・ミッドナイトシャドーのオレンジ、緑、紫のタイヤが回転しながら、ドライブが伸ばした左腕へ次々に嵌まっていく。

 

『タイヤ! カキマゼール! アタック1.2.3!(ワントゥースリー)

 

 三つのタイヤが一つとなって合体し、トライドロンタイヤと入れ替わる。三色タイヤだ。

 シマカゼも、目の前に照射された装備変更画面で未装備の黒い穴をタップして、4スロットが埋まるように三つのシフトカーをセットする。画面を手で払って消し去れば、カンドロイドから飛び出したタイヤが空中で混ざり合い、三色タイヤとなってシマカゼの背中のタイヤを押し出し、収まった。シマカゼ改二タイプトライドロン、アタック1.2.3。ドライブと同一の力だ。

 

『――――』

『ユルサナイ……!』

 

 悍ましい声を上げたリ級とル級が、レ級を守るように立ちはだかる。恨み言を口にしながらも駆逐棲姫が前へ出た。

 

「シフトカーみんなの力、纏めて食らえ!」

 

 ドライブが振るった腕に合わせて、半透明のエネルギーが多数射出された。緑のトゲのスパイク。紫の手裏剣のシャドー。放出されたものの見た目は小さくとも、威力はでかい。リ級とルが掲げた艤装を砕き、よろめかせると、ドライブは両拳にフレアの炎を宿して飛び込んだ!

 右と左。一撃ずつで重巡と戦艦を撃破する。紫電を散らしてよろけた二体が、ほとんど同時に膝をつき、爆発した。滑らかな炎がドライブの表面を撫で、その体を照らし出す。

 

『アアアッ!!』

「おりゃーっ!」

 

 赤い光の破片を散らしながらも助走なしに跳び上がったシマカゼは、跳び蹴りの姿勢になって急降下キックを放った。背から噴き出るフレアの炎で推進力を得て、突き出した右足に纏わせたシャドーとスパイクのエネルギーで敵を粉砕する。

 迎撃しようと腕を伸ばした駆逐棲姫を貫き、撃破。背後で起きる爆発に髪をなびかせたシマカゼは、次にレ級へと目を向けた。

 

『厄介ナ奴ラダ……マッタク』

「待て、逃げるのか!」

 

 一歩下がったレ級の体を濃い霧が包んでいく。ドライブが走り寄った時にはもう、霧は晴れ始めていて、そこには何も残っていなかった。

 

 遠く、星空に大きな満月が浮かんでいる。

 眩く優しい光の中に一つの黒点があった。

 浮かび上がったジャンプだ。

 

『見よ、これが俺の超進化態だ!!』

 

 満月の文様を浮かび上がらせたジャンプは、エネルギーの波動を撒き散らしながら全身を黄金色に染め上げた。同時に重加速を越える超重加速が広がり、世界を包み込む。第二のグローバルフリーズの始まりだ。

 

「そんなの他所でやってよね」

「迷惑な奴だ!」

 

 トライドロンと融合した二人には超重加速も意味をなさない。重加速を打ち消す波動を常に放っているのだ。

 重厚なクラクションを鳴らして青色のトレーラー型デバイス、トレーラー砲がゆっくりと走行してきた。

 

「やっぱりこれも複製してあるんだな」

「あなたの力で戦うって意気込んでて……その、夕張さんが一晩でやってくれました」

 

 クラクションは二つ同時になっている。つまり、やってきたトレーラー砲も二台あるという事だ。ドライブの前とシマカゼの前に止まるその車体を鷲掴み、運転席を下部にスライドする事で持ち手に変形させ、大型銃として使用可能になる。

 

「最大速度で一気に突破するぞ!」

「これ以上速くなっても知らないからね!」

『スピード(ほぉう)!』

 

 銃口に近い部分の上部には、屋根付きの認識スロット、シフトランディングスロットが配置されている。そこへシフトスピードを装填すると、ベルトさんが二人分のコールをこなした。

 

『ファイヤー・オール・エンジン!』

 

 シフトブレス、またはカンドロイドから取り出したシフトトライドロンの変身ボタンを押し込む事で待機状態に入らせる。持ち手上部のシャッターゲートパネルへ滑り込ませれば、トレーラー砲横部の長方形の窓に、ディスプレイを見せる形でトライドロンが入り込んだ。

 

『ヒッサーツ! フルスロットォル!』

 

 窓に赤い文字で『FULL』と浮かび出ると、銃口にシフトトライドロンから抽出されたエネルギーが溜まり始める。トレーラー砲下部を支えて腰だめに構え、二人は今まさに空から下りてきているジャンプロイミュード超進化態へと狙いを定める。

 

『フルフル・スピード・ビック大砲(たいほぉう)!』

「はぁーっ!!」

「っ!!」

 

 赤いエネルギー光線が二本発射されると、空中で実体のないトライドロンの姿を取り戻し、ジャンプへ突っ込んでいく。海面に足を着けたジャンプは、海を照らす赤い光にはっとして顔を上げるが、もう遅い。二つの車両をかたどったエネルギーそのものが胸と腹に突き刺さり、空中へ押し出していく。

 

『うぉおおおおおお!?』

 

 いくら超進化態となって強固な肉体を得ても、ドライブの必殺技を二つ纏めて受けてしまえばひとたまりもない。貫かれ、それでも肉体をとどめて宙へ舞うジャンプへ、タイプスピードとシマカゼ改に戻った二人は顔を合わせて頷き合った。

 

「シマカゼ、最後にもうひとっ走り付き合えよ!」

「オーケー。もたもたしてたら置いてっちゃうかもね!」

「馬鹿言え!」

 

 波を蹴って駆け出す。空では、ジャンプの逃げ場をなくすように、エネルギー体から実体に戻った二台のトライドロンがそれぞれ縦回転と横回転を始め、ぐるぐると走り続けていた。

 

「とぅっ!」

「はっ!」

 

 足を揃えて高く高く跳び上がる二人が、回るトライドロンの円の中へ飛び込んで行く。車体についたタイヤに着地し、屈伸。その一瞬で溜めた力を一気に解放して跳び上がる。狙いは当然ジャンプだ。

 ドライブとシマカゼが同時にジャンプを蹴りつける。それをバネに回転するトライドロンへ戻って行って、車体を蹴りつけ、跳ね返される勢いでジャンプへ跳び蹴りし、蹴りつけて戻ってトライドロンを踏み台にして跳んで。

 猛烈なスピードで何十もの蹴りが浴びせられていく。縦横入り乱れた三次元軌道にジャンプの体は翻弄され、枯葉のように舞っていた。

 

「トドメだ!」

「たぁーっ!」

 

 加速に次ぐ加速。何度も敵を蹴りつけた足は燃え盛り、エンジンは爆発寸前。隣り合って同じ位置から跳び上がったドライブとシマカゼが、ダブルキックでジャンプへと突っ込んだ!

 抵抗なく貫き、海面へと着水し、凄い勢いで擦っていく。ブレーキをかけても身体はなかなか止まらない。足に灯った炎のために、海水が蒸発する音がずっと続いている。

 それでも、やがて体は止まる。

 

『超進化態になったというのに……俺の野望も、ここまでか……! む、無念ーーーーっっ!!』

 

 体に稲妻を走らせて海に落ちたジャンプが、大爆発を巻き起こす。高い波が広がり、肉体から解き放たれた『---』のコアが、ついに砕け散った。

 ジャンプを倒した。これで、終わったのだ。

 

「あ……」

 

 きらきらと降り注ぐ金色の欠片の中に、光が浮かび上がる。薄い板のようないくつもの光の中には、どこか別の景色が浮かんでいた。

 古びた教会の中、どこかのマンション、高速道路、そして、ドライブピット。

 

『奴の力の残滓のようだね。……進ノ介』

「ああ」

 

 戻ってきたトライドロンが、ドライブとシマカゼを挟むようにして止まった。振り返ったドライブが、シマカゼを見下ろす。シマカゼもまた、ドライブを見上げた。

 

「お別れみたいだ」

「……みたい、だね」

「その……なんだ。短い間の中で、喧嘩なんかもしちまったけど……君の走り、最高だったぜ」

「……ふふん、とーぜん!」

 

 どやっとして胸を張ったシマカゼは、でも、泊さんの走りも最高だった、と、サムズアップしてみせた。

 ドライブも、同じ仕草を返す。親指を立てて、ぐっと突き出すサムズアップ。

 

「……それじゃあな!」

「うん。……うん、ばいばい!」

 

 トライドロンに乗り込み、シートベルトを締めたドライブは、ハンドルを握って、そこではたと動きを止めた。

 

『ナイスドライブ。……どうかしたかね、進ノ介』

「いや……シマカゼ」

「なあに、泊さん」

 

 窓を開けてシマカゼを見上げた進之介が、笑みを浮かべて言う。

 

「あっちに戻ったら、艦これアーケード、やらせてもらうよ」

「……そ、それはどーかなー。あんまり……やめた方が……良い、かも?」

「あん? こんなにかわい子ちゃんが出るってのにか?」

「そーいうからかい、私には効きませんよ。……えいっ!」

 

 開いた窓から上半身を突っ込んだシマカゼは、進ノ介が驚いて体を反らした隙に、運転席と助手席の間の台にあったビニール袋から、てきとうに何かを取り上げて、車の外に出た。

 

「あっこら、それは……」

「キミの大好物のこのひとやすミルクは頂いた……じゃ、泊さん。早くしないと、あの変なの、消えちゃうよ?」

『急げ、進ノ介』

「そう急かすなって。……覚えてろよシマカゼ。ゲームで使い倒してやる」

 

 恨みがましく呟いた進ノ介に、シマカゼはプッと笑ってしまった。

 その島風はシマカゼじゃないよ、なんて親切に教えてやるつもりはない。

 窓を閉めた進之介が、半透明の板越しに、額に当てた二本指をシュッとやった。

 

「じゃあな」

『夕張によろしく言っておいてくれ。では、さらばだ』

 

 テレテレ、プ、プ、プ。

 陽気なクラクションが鳴ると、トライドロンが発進した。すぐに加速して、光の中の風景へと溶け込んでいく。完全に車体が飲まれると、光は全て弾けて消えてしまった。

 残ったのは、超重加速によって縫い止められていた明けかけていた夜が、深海棲艦を倒したために日が昇ろうとしている水平線だけ。

 

「んんー……っはぁ。疲れた」

 

 ぐぐっと伸びをしたシマカゼは、緩んだ胸元を押さえながら、急速に日が昇り、元の時間帯に戻るのを見届けた後に鎮守府へ向けて滑り出した。

 

 

 曲が終わると、那珂と吹雪とケイちゃんは、上げていた腕をゆっくりと下ろしてお互いの顔を見た。

 歌も踊りもばっちり。このミニライブは、ケイちゃんの心を取り戻せた事もあって大成功を収めた。

 観客である真が拍手をすれば、一様に照れた反応を返す。

 ただ、ケイちゃんだけが浮かない顔をして俯いた。

 

「どうしたの、ケイちゃん」

 

 彼女の様子に気が付いた那珂が問いかけると、ケイちゃんは顔を上げて、首を横に振った。

 

「それじゃあ、行こうか」

「……? 行くって、どこにですか? 三原先生」

 

 真の言葉に反応したのは、吹雪だ。

 彼女の言葉の意味が分からず首を傾げれば、真はケイちゃんへと手を差し伸べて、再度同じ台詞を言った。

 それで、誰もが理解した。この鎮守府でも上の立場である真が、深海棲艦であるケイちゃんに「行こうか」と問いかける理由を。

 

「待ってください先生! ケイちゃんは……」

「深海棲艦だ。君達以外の大多数にとってはね」

 

 恐れていた通りだった。真は、ケイちゃんを連れ去ろうとしている。始末するつもりかもしれない。

 『先生』を疑いたくない那珂だったが、共に歌い、踊った友を奪おうとする真に食って掛かった。

 そんなのは駄目。そんなのは嫌だ。

 真は、抗議する那珂に静かな目を向けて、諭した。

 

「彼女はこのままここにいても、不幸になるだけだ」

「だからって……」

 

 それ以上の言葉は出てこなかったのだろう、消沈して俯く那珂に代わって、吹雪が物申した。

 

「みんなきっとわかってくれます! だから、ケイちゃんをここにいさせてあげてください!」

『吹雪……那珂、アリガトウ』

「あ、ありがとうだなんて……やめてよ! ……やめて、よ。そんな、お別れみたいに」

 

 ケイちゃんは首を振って、真の下へ歩み始めた。

 止める者はいない。真が迎え入れると、もう手出しはできなかった。

 

「安心しなさい。彼女を悪いようにはしない」

「……また会えますか」

 

 那珂の問いかけに、真は少しの間考えてから、「世界が平和になったら」とだけ返した。

 艦娘と深海棲艦の戦争が終わったら、ではない。人類に平和をもたらしたら、でもない。

 この世界が平和になったら…それはもしかしたら、未来永劫訪れないかもしれない状況だ。

 

「なら、私達、もっと頑張って、早くこの戦いを終わらせます!」

「……うん、そうだね」

 

 吹雪はわかっていないようだったが、那珂は指摘する気にもなれず、囁くように同意した。

 真が去っていく。ケイちゃんと少女を引き連れて。

 初ライブが解散ライブになっちゃうなんてな、という那珂の呟きは、誰に聞かれる事もなく風に流されていった。

 

 

「え……許可なんて出してないって、どういう事ですか?」

「言葉通りの意味だ、夕張。俺は予算と資材の使用など許可していない」

 

 朝の執務室では、事後報告に来た夕張が、思わぬ言葉を聞いて大焦りしていた。

 シフトカーの修復、検査、複製、トライドロンの作成……とんでもない量の資金と資材を消費している。それを躊躇なく行ったのは、提督が直々に許可を出したからだ。

 そう、直々に。面と向かって。口頭で。

 

「いや、俺は君の下へ行ってはいない。そもそも、今日は執務室から出ていないしな」

「なのです」

 

 藤見奈の言葉を肯定するように、電が頷いた。

 

「で、でも、深夜、私の工廠に……」

「そんな夜中に出歩く訳ないだろう」

「えええ、じゃあ私が見た提督はいったい……?」

「夢でも見たんじゃないのか? 君の言う事が本当ならば、資金も資材も減っているはずだが、今朝の記録を見る限り少しも減っていない」

「夢? 夢……えー?」

 

 混乱する夕張が、藤見奈に徹夜も程々にしなさいと注意され、混乱しながら工廠に帰り、トライドロンとシフトカーに出迎えられて呆然とするのは、このすぐ後の事だった。

 

 

「それで泊さんは、その子達と一緒に事件を解決してきたんですね」

「ああ。不思議だらけだったよ」

 

 久留間運転免許試験場、建物内。特状課。

 椅子に腰かけ、机に腕をつく進ノ介の傍に立った霧子が、感心したように頷いた。

 

「で、進兄さんはお別れの挨拶にこんな物貰っちゃったんだね」

「いや、それは、押し付けられたというか、等価交換というか」

 

 剛が手に持ってひらつかせる黒いリボンを見た進ノ介は、慌てて弁解した。一見なんの変哲もないただのリボンには、十代の少女のほんのり甘い香りが染みついている。

 シマカゼの胸のリボンだ。

 彼女はひとやすミルクを強奪する際、何か彼にも残すものが欲しいと考えて、咄嗟に胸元のリボンを引き抜いて車内に放ったのだ。

 座席の足元に落ちていたから、洗車の際にそれを見つけた進ノ介はびっくりして三度見した。

 

「等価交換……その布と、ひとやすミルクは同じ価値なのか」

 

 壁に背を預けて腕を組むチェイスが不思議そうに問いかけると、進ノ介は「いや、どうかな」と真剣に悩み始めた。

 普通の人間にとってはただの布だが、その手の人間にとっては垂涎物の逸品だ。

 

「ルパンもこれを狙う時がくるかもしれないな……」

「ルパン……あのいけ好かない奴か」

 

 怪盗アルティメットルパン。かつてドライブと激闘を繰り広げ、倒された男だ。チェイスはあの時に苦い思いをしているので、ルパンに良い思いは抱いていないようだ。

 

「なんで急にルパンの名前が出てくるんですか?」

「あーそうだ。思い出した。……ほら、これだ」

 

 進ノ介は、いかにも嫌な事を思い出したといった風に顔を歪めると、引き出しの中から黒い封筒を取り出して、投げやりに掲げてみせた。

 まるで招待状のような刻印と装飾に、『挑戦状』の文字。

 もう何度も大事な物を盗まれている進ノ介はうんざりして、相手をするのも面倒くさいといった様子だ。……いや。

 大切なミニカー……大切なひとやすミルク……盗まれた宝物は盛りだくさん。

 次は絶対に捕まえる……そう思っているのかもしれない。

 

「『ABCの三つが交わる場所に犯罪の影あり。阻止されたし。怪盗アルティメットルパン』……」

「今度のはいつも以上に謎めいているようですね……」

「ABC……繋がった!」

 

 挑戦状を握り締めた進ノ介は、顔を上げると、ネクタイをきゅっと締め上げた。

 

「脳細胞が、トップギアだぜ!」

「おお、速っ!」

 

 凄まじい推理速度に、剛が感嘆の声を上げる。

 それ程今までの事が頭にきているという事なのだろう。

 

「……?」

 

 自然と特状課のメンバーに紛れ込んでいる星夜が長椅子の上でケースを撫でつけ、不思議そうに進ノ介を見やる。なんか騒がしいなあと思っていそうな表情だ。

 

「ルパン……今度こそ決着をつけてやる!」

 

 意気込み十分の進ノ介は、ベルトさんを引っ掴むと、現場へ向かって飛び出して行った。

 

 『仮面ライダードライブ シークレット・ミッションtype LUPIN ~ルパン、最後の挑戦状~ に続く』




TIPS
・ドア銃CP-102
ドア銃のコピー品。
本物同様で、妖精入り。
艤装扱い。

・トライドロンCPSP-001(しーぴーえすぴーぜろぜろいち)
スペシャルなコピー品。お高い車。
艤装扱いではない。

・シマカゼ改二 タイプトライドロン
トライドロンを資材にシマカゼが改造された姿。
下記の必殺技を放つと改造前に戻ってしまう。
シマカゼは全体的にダサいと思っている。

・フルフルスピードビック大砲
銃撃必殺技。使用後、シフトランディングスロットにセットした
変身用シフトカーに対応した形態に戻る。

・キックカイニー
助走なしの改二キック。威力ヤバい。

・融合進化態
根っからの悪人としかなれない。深海棲艦は、つまり、そういう事。

・ルパン、最後の挑戦状
応募者全員サービス。見れ。

・シマカゼの胸のリボン
ファン必見……いやそれ、紛い物。
肉体的なら愛好家に高く売れるかも。
こんなもの押し付けられてどうしろっていうんだ。

・ひとやすミルク
シマカゼとお友達がおいしく頂きました。

・ケイちゃんの行方
先生のとこ

・星夜ちゃんの行方
ここにいます、ここ。

・High Speed Love
始まり 足が竦んでた ためらい 不安 恐怖 この身に絡みつく
一歩踏み出す勇気なくて ただどこかへ視線動く
海の上 波の間 答えはどこにある?
迷い振り切り 走る先 君の姿はどこにある?
本当に心揺らされる 僕のまなざしもゆらゆらり
君の髪流れ 目で追うの 君の仕草を 目で追うの
High Speed Love つまりこれって、恋ってやつだね

始まる 風の道の中 どきどき ときめき 胸を締める
一歩踏み出せば止まらない ただどこかへ体動く
敵の後ろ 仲間の前 ゴールはどこにある?
スピード越え 走る先 君の姿はどこにある?
本当に心揺らされる 僕の想いもゆらゆらり
伏せがちな目 すてき笑顔 変わる表情 目で追うの
High Speed Love つまりどうやら、恋に落ちたね

いつも思う この体 どうやったら解き放たれるの
ここにある きらめき あこがれ 全部後ろに
制限踏み越えたずっとその先 スピードの向こうの新しい世界

(囁くように)
Deep breath 深呼吸して Revolution 強くなる
Supernova 誕生する私 Treasure sniper 狙いは君
Extreme dream もう半分 Power to tearer 強く求める
Cosmic mind 掴みたい Missing piece 守りたい
乱舞Escalation さあ Unlimited drive 振り切ろう!

始まり 終わるまで アタマ カラダ ココロ 移り行く
一歩踏み出し進化する あの白光を突き破り
君の声 君の顔 君の心はどこにある?
強くなり 走る先 君の姿はどこにある?
本当に心揺らされる 僕のメモリもゆらゆらり
思い出の中 ここにあるの 熱い想いは ここにあるの
High Speed Love つまりどうにも、恋しちゃうんだね

止まらない止まらない止まらない 恋心だけを抱いて強く
止まらない止まらない止まらない 音の壁ばんと抜けて強く
止まらない止まらない止まらない 止まらない止まらない止まらない...

・雑ポエム歌詞
黒歴史確定

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