島風の唄   作:月日星夜(木端妖精)

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好みのわかれそうな展開あります。



誤字脱字を修正しました。
まだあるかも。


第三十四話 島風

 船の反対側。艦載機の群れが飛んでいたところで、神通先輩と五月雨が来るのを待つ。

 海面に浮かぶ、燃え盛る異形の残骸を眺めていれば、小さな太陽が天へと上り、落ちながら強い光を振り撒いた。照明弾。それが放たれてからほどなくして、二人がやってきた。

 

「遅くなりました」

「すみませんっ」

 

 二人にも、目立った損害はない。五月雨が多少、服や髪に乱れがでている程度だ。

 

「敵艦隊、空母ヲ級以下五隻の撃沈を確認。残るは、戦艦タ級だけになります」

 

 朝潮を除いた全員が集まれば、それぞれ自分の艦隊と隊列を組み直し、先頭に立って話す由良さんの声に耳を傾ける。

 

「フラグシップ級ともなると、その耐久力は由良達が持てる砲じゃ太刀打ちできないくらいなの」

「鬼や姫以外なら大丈夫、なんて大口叩いたけどさ、戦艦もキツイよね。でも、ダメージが通らない訳じゃない。この人数でタコ殴りにすればいけそうなもんだけど?」

 

 タ級flagship。最初の場所からほとんど移動もせず、仲間がやられた今も、きっとまだそこにいる。

 なんのつもりかは知らないけど、動かないなら動かないで、その間にこうやって作戦をたてられるから良い。

 あいつを倒さない限り、この霧の中からは抜け出せなさそうだし、船の安全は確保できない。……もう結構ボロボロにしちゃってる気もするけど……。この任務、失敗になっちゃうのかな。……なるよなあ。安全に帰らせてあげる事ができなかったんだもの。

 ……それにしても、何か忘れてるような気がするな。

 

「そうね。商船の事もあるし、できれば、短期決戦で倒したいけれど……長期戦を覚悟して」

「どの道倒さなきゃいけないんだしぃ、やるなら徹底的にね!」

「うん。みんな、後の事は気にしないで」

 

 タ級を倒しても、いきなり鎮守府に帰還、ってなる訳でもないし、帰りの道中、敵に出くわす事も考えて……なんてやっていると、足下をすくわれかねない。そういう意味だよね?

 

「最初は砲撃戦で注意を引き、船を狙われないようにしてから削ります。これは、損害の少ない川内さん達に頼みます」

「オッケー、引き受けた」

「そういった役目なら、任せてください」

「那珂ちゃんの魅力で釘付けにしちゃうよー!」

 

 川内さん達、という事は、俺達も砲撃戦に集中すれば良いのかな。

 

「駆逐艦の子達には、雷撃戦を担当してもらいます。頃合いを見計らって、由良が号令をかけるから、そうしたら突撃してね」

「お任せ下さい!」

「ぽい!」

 

 っと、俺達はそういう役目か。

 駆逐艦の速度を活かして一撃必殺と離脱を行う訳だ。というか、戦艦相手に駆逐艦がとれる戦法ってそのくらいか。魚雷は……残り三本。いちおう大丈夫、かな。

 隣の深雪も魚雷を気にしていたみたいで、偶然目が合った。だからといって何がある訳でもない。前を向くと、吹雪が由良さんと話しているところだった。

 

「吹雪ちゃんは、川内さん達と一緒に砲撃戦に参加してね」

「は、はい。頑張ります!」

 

 ああ、そっか。もう残ってないって言ってたもんね、魚雷。だから吹雪は、川内先輩達と一緒に動く事になったみたい。

 

「ゆっくりしてると、タ級が商船に攻撃してしまうかもしれないから、お話はこの辺で終わりにします。戦闘中も指示を出すかもしれないから、由良の声が聞こえるように、気を張っていてね」

 

 戦闘中……そういうのって、なぜか口頭で伝えるよね。妖精暗号通信は、この……妨害電波が撒き散らされている中でも、短距離通信なら可能なのに。やっぱりあれかな。妖精さんの意思を介するから、受け取る人によって解釈が変わってしまうため?

 些細なズレが即命に関わる、というほどでもないが、個人戦ではないのだから、足並みが乱れるのは歓迎すべきではないだろう。……それに今回に限っては、ちょっとのズレが致命的になるかもしれない。

 なにせ相手は戦艦級だ。攻撃力は計り知れない。

 前に演習で戦った大和を思い出す。あれは、ただの掌底で俺を中破まで追いやった。服が破れたと思ったのはただの気のせいだったが、演習の判定としてはきっちり中破判定を取られていた。タ級がそこまで強いとは思えないが……って、違う。基本的に艦娘より敵艦の方が性能は高い。はず。それもflagshipならなおさらだ。

 むむむ……今さらながらに不安が出てきた。一発轟沈もあり得ると考えてしまうと、ちょっとばかし体が強張る。

 何度も戦って経験を積んでいるからこそそういった恐怖や不安は多少抑えられるものの、怖いものは怖い。轟沈は絶対にイヤ。

 弱気の虫がえばり散らしてるこんな時には、朝潮の顔を見るか、吹雪に「大丈夫!」って言ってもらえれば立ち直れるんだけど、なんて思っても、吹雪は、自分一人が川内先輩達と一緒に戦う事になるのが不安なのか、緊張に顔を強張らせているし、朝潮は船の中だ。

 これくらいの感情は自分で御さなきゃ。もういい大人なんだし。

 

「深雪様がついてるんだ、安心しな」

「ん……。あ、ありがと」

 

 うじうじしてたら、隣に立つ深雪が、砲を持ち上げてみせて、元気づけてくれた。頼もしいなあ、もう。

 そうそう、「いい大人だ」なんていっても、戦闘経験は他のみんなの方が上だし、元より誰も沈むつもりはないのだから、轟沈を頭にちらつかせて気を落とす必要なんてない。

 誰も沈まない。沈ませない。シマカゼの戦う理由は、艦娘皆を守るためだ。そのためなら、もっともっと力を出せるはずだし、こんな事で怖気づいたりしない。

 ……よし、おーけー。弱気の虫は叩き潰した。深雪に対して力強く頷けば、にやりと笑みを返された。なんか格好良いな、その笑い方。

 

「行きます!」

 

 作戦に基づいて隊列を組む。川内先輩、神通先輩、那珂ちゃん先輩、吹雪の四人が並んで先を行く。

 その後ろに由良さんが続き、五月雨、深雪、夕立、俺、と後をついて行く。

 

 太陽光や月光とは違った光に照らされた海は、不思議な輝きを持って揺らめいている。波は高くも低くもなく、その中を割って進むと、涼しげな風が火照った体を撫でていった。

 空や周囲から聞こえる燃焼音に、風の音。水上を移動する音。それ以外には俺達の息遣いしかない。先程までは激しい戦闘の音があったのに、騒がしさがなくなると、どうしてか寂寥感が去来する。

 遠目に見えていた分厚い霧の壁は、数分もせず俺達の前に立ちはだかった。白く蠢く水滴の集合体は、何か大きな生き物にも見えて、時折風が吹き込むと、唸り声に似た風の音を吐き出した。

 その足下に、タ級は佇んでいた。

 黄金色のオーラが揺らめき、その中で、じっとこちらを見ている姿からは、なんの感情も窺えなかった。

 怒り、憎しみ、嘆き――深海棲艦が常に撒き散らす負の感情は、たしかに今も奴の体を取り巻き、漂っている。

 でも、俺には、それが薄いと思えてならなかった。

 奴が動きを見せず、表情も変えないからそう思えるのだろうか。希薄な感情は不気味で、それでいて、どこか美しかった。

 あいにく芸術なんてものは俺にはわからないし、あんまり興味もない。

 くだらない事を考えている内に、戦艦の砲撃が届く予測範囲が近付いてきた。

 由良さんが手を振ってみせるのに合わせて、減速する。川内先輩達はそのままの速度を維持して砲撃予測範囲に滑り込んでいく。

 奴の間合いにこちらから踏み込んだ形になるのに、やはりというべきか、タ級は動きを見せなかった。

 

「てぇー!」

 

 川内先輩が声を張り上げると、斜めにずれて、後に続く神通先輩達がずらっと並んだ。軽巡どころか、駆逐艦の射程に入り込んだのだ。タ級は動かない。腕に備えつけられた砲、手に持つ砲がタ級へ向けられ、一斉に放たれる。放物線を描いて飛んでいく砲弾のほとんどは、タ級の周囲に落ちた。海が荒れ、激しく波が立ち、ぶつかり合う。

 

『――!』

 

 砲弾の一つがタ級の肩にぶつかるって爆ぜると、爆発に押されて一歩後退ったタ級が、びくりと反応して川内先輩の方を睨みつけた。

 動いた。そして狙い通り、砲撃担当の方に注意が向いた。

 右へ右へ弧を描いて移動していく砲撃担当とは反対に、左へ左へ滑っていく俺達に、タ級は顔を向ける事すらしない。第二射が降り注いで、それどころではないのかもしれない。

 直撃しても怯むだけで、大きなダメージが通っていないように見えるのに、タ級は身動ぎ、頭を振って長い髪を揺らすと、呻き声を上げていた。苦しんでる? 本当はダメージが通っているのだろうか。

 この分なら。俺達の雷撃が上手い具合に当たれば、一気に倒せるかもしれない。第三射に怯むタ級を見ていると、そんな期待がにわかに膨らみ始めた。

 砲撃の隙間を縫って、タ級がすぅっと息を吸う動作をしたのは、そんな時だった。

 

『――――ッ!!』

「う……!」

 

 形容しがたい不快な鉄音が大音量で空間中に響き渡る。タ級の咆哮に、誰もが一瞬動きを止めた。あんな風に叫ぶ深海棲艦なんて、今日初めて見た。それでも二度目だ。だからといって慣れる訳でもない。

 一度目の咆哮で夜を呼んだ。二度目の咆哮では何が起きるというのだろうか。

 緩やかに動きながら固唾を呑んで見守る俺達の……俺の耳に、何かの音が届いた。

 それはちょうど、俺達が水上を移動するような音。

 背後を振り返れば、遠くの方から黒いものが幾つも近付いてきていた。

 

「仲間を呼んだ……?」

「まさか……」

 

 タ級一人を相手にする事を想定して二つのチームにわかれたのだ。ここで援軍なんてこられたら、分断されて厳しい戦いを強いられてしまう。前を向けば、背後を見て接近するものを認識した由良さんが、信じられないといった風に呟いた。

 どうすればいい。俺達の判断は、動きは、由良さんが握っている。由良さんの指示でこの後の動きは変わる。このまま雷撃チームと砲撃チームにわかれたままでいるのか、集まるのか。それとも別の何かか。

 再び背後を見れば、黒い異形達はすぐ近くまでやってきていた。いずれもオレンジ色の光を纏い、同じ速度で迫ってきている。

 上級(elite)……いや、違う。あれは……!

 

「撃沈した……ヲ級たち?」

 

 誰かが呆然とした声を発した。

 波を割り、ザザザと音を鳴らして向かってくるのは、間違いなくヲ級やリ級の……残骸だった。崩れ、炎上し、ばらばらになって横たわった体が、見えない何かに引き摺られるように動いている。

 攻撃を加えるべき?

 震える手で、背の砲に手をかける。指示を待つ余裕は僅かにあったから、俺にできるのはそこまでだった。だけど異様で異常なこの状況下では、耐え切れなくなって、勝手に攻撃をしてしまいそうだった。

 

「下がって!」

 

 由良さんが指示を出してくれなければ、実際そうなっていただろう。

 焦りを含んだ号令に、慌ててみんなと歩調を合わせ、タ級や、あの残骸達の進路上から離れる。向こうの方でも、川内先輩達が距離を取り始めていた。

 見た事も聞いた事もない現象を前に、不用意に近付く事はできない。何が起こるかわからないから、こうして様子を見るしかない。

 黙っていると恐怖が膨れ上がってどうしようもならなくなりそうだったから、必死にあの残骸達はなんなのかを考えた。

 あれらはまず間違いなくタ級の咆哮によって動き出した物だ。ならばこれは、タ級の特殊な能力によるものなのだろうか。だとして、なぜあのタ級だけがこんな不思議な力を持っているのか、なぜ残骸を呼び寄せたのか。

 まさかとは思うが、やられた深海棲艦を復活させるなんていうトンデモ能力なんて……ない、よね?

 

 俺の不安は外れた。

 残骸達は、俺達の横を通り過ぎ、一直線にタ級へと向かって行ったのだが、タ級は腕を振ると、砲身を残骸へ向けて、あろう事か砲撃したのだ。

 直線的に動く、避ける事の無い標的に砲弾が突き刺さり、海水と共に残骸達がばら撒かれ、降り注ぐ。ボチャボチャと水音を鳴らして沈んだと思った残骸は、不気味に浮かび上がると、再び滑り出してタ級へと向かっていく。

 

『クゥッ! ヤ、ヤメロ! クルナ!』

 

 何度かタ級が砲撃するも、残骸達は応えた様子もなく、ついにはタ級へと辿り着いて、群がり始めた。水から上がり、体に直接くっついて蠢く物もあれば、折れた腕を伸ばして掴みかかろうとするのもあった。

 黄金色の光が黒い異形に飲み込まれていく。腕を振り、体を捩り、髪を振り乱して異形達を弾き飛ばすタ級は、徐々に徐々に飲み込まれて、自重に耐えられないかのように沈み始め……。

 

『ア、ァ――――』

 

 海の下へ沈んでいってしまった。

 波の合間に広がる波紋に、浮かび上がる水泡が次第に数を減らし、穏やかな海に戻る。

 誰も、何も言わなかった。

 動きを止め、その場に立って、タ級がいた場所を見つめていた。

 不意に光が差し込んだ。

 霧の中をうっすらとした一筋の光が貫いて、海面に差し込む。暗かった周囲はどんどん闇を薄れさせて、空は青く晴れ渡った。

 

「戦艦、タ級……撃破」

 

 役割を無くした照明弾が燃え尽き、消えてしまうくらいに、由良さんが呟いた。

 

 

 海が凪ぐ。

 戦闘の余韻はどこにもなく、燃え盛っていた異形の残骸も、もうない。

 穏やかな風が吹き抜ける先には商船があり、今は完全に止まっている。

 船上に深海棲艦が乗り込みまでしたのだ、こちらの状況がわかるまで動くに動けないのだろう。

 その状況報告も、今、由良さんが妖精暗号通信でしている。

 深海棲艦がいなくなったから、妨害電波も消えて、長距離の通信も可能になっているのだけど、ひとまず先に船にいる朝潮に事の次第を伝え、それを船員に話してもらうという手筈らしい。

 それで、先程から由良さんが耳に手を当てて立っているのを眺めていたのだが……俺は途中から、なんとなく落ち着かなくなってきょろきょろしてしまった。

 

「どしたの?」

「あ、いえ……」

 

 少し前に合流した川内先輩が、俺の様子に気付いて問いかけてくるのに、曖昧に首を振る。

 何か忘れている気がするのだ。それが何かわからないから、どうしたのと聞かれても答えられない。

 えーと、敵は全部倒したし、空は晴れたし、船はいちおう無事だし……あっ。

 

「バイク……」

「そういえば、島風。水上バイクとやらはどうしました?」

 

 小型船舶である水上バイクを連想して、それをヲ級を倒す際に乗り回し、どこかへすっ飛ばしてしまった事を思い出すと同時に、神通先輩が話しかけてきた。タイミングの良さにどきっとして、砲ちゃんを強く腕に抱く。

 と、俺の様子に察してしまったのか、神通先輩はすっと目を細めて、俺に向き直った。

 

「島風」

「――あっ」

 

 詰問される!

 そう身構えて神通先輩を見上げたのだけど、由良さんが上げた声に神通先輩の気が逸れた事で、言葉が途切れた。どうやら助かったみたい。

 ああでも、バイク、どうにかしなきゃ。たしかあれは沈んだりはしないはずだから、壊れてなければこの近くにあるはずなんだけど……。

 

「どうしましたか」

「あ、通信が切れちゃって。……妨害電波」

「えー、まだ生き残りがいたの?」

 

 ザザ、と耳障りな音が耳の奥でした。たぶんそれが、妨害電波発生の証。

 表情を引き締める由良さんを見れば、何か良くない事が起こったと察する事ができた。那珂ちゃん先輩の言う通り、どこかに生き残りがいたのだろうか。

 見える範囲にはいないだろうと思いつつも見回してみれば、ある事に気付く。霧がまだ晴れていない。俺が引っ掛かっていたのは、これだったのだ。

 

「ん……?」

 

 足下を流れる海の妙な感覚に、下を見る。波が高くなっているような気がして、少し足の位置をずらそうとして、ふと離れた位置の海面が動いているのが見えた。

 動くと言っても、生物的な動きではない。自然的な……たとえば、魚雷が水中で爆発した時に海面が盛り上がるみたいな、そんな動き――。

 

「! (さん)か――」

 

 盛り上がる海面に気付いた由良さんが、一番に声を上げようとして、噴火するみたいに高く高く伸びた水柱に、声を掻き消された。

 

『離れて!』

 

 妖精を介した意思を受け取る前に、すでに後退し始めていた。雨となって降り注ぎ、足下に霧を漂わせた水柱の中から、深く黒い柱が垣間見えた。

 それは、腕だった。

 柱と見紛う太い異形の腕の先には、五指がある。間違いなく、何者かの手で……それが、倒れるようにして海面を叩いた。

 乾いた音と衝撃波が海を伝わって足下を通り抜けていく。巻き起こる風に顔を庇うと、髪が引っ張られて痛みを発した。飛び散った水滴は弾丸みたいで、だけど生体フィールドによって弾かれた。

 筋肉が盛り上がり、異形の腕に力がこもったと思えば、肘が曲がり……押し上げられるようにして、海中から巨大な怪物が姿を現した。

 黒と灰色の集合体。

 頭に当たる異形には目がなく、大きな口の中に歯が並んでいた。体の各部に取りつけられた砲、とりわけ両肩に取りつけられた三連装砲は大きく、しかし最も目を引くのは、その両腕だった。それだけで海に隠された身体部を支えられるだろう筋肉の柱が(そび)え立っている。

 口から漏れだす赤い光が、吐息のように空気中に溶けていた。

 

『ココハ……』

 

 波が落ち着く。

 遅れて、小さな影が海の表面に見えて、それが次第に大きくなると、盛り上がった水の中から一人の女性がせり出した。

 ネグリジェに似た黒いワンピースを纏った、深海棲艦。額に生える二本角と、長く黒い髪。首元から垂れる太いコードのような物は、巨腕の異形と繋がっていた。

 人型に共通する青白い肌を水滴が流れ、海に落ちる。

 瞬間、空気が震えた。

 

「~~~っ!!」

 

 女性の背後にいた巨腕の異形が吠えたのだ。

 声の暴力だった。

 咄嗟に耳を塞いでもお構いなしに鼓膜に直撃する痛み。肌が震わされて、毛先までが小刻みに踊る。

 どれくらい続いていたのか、巨腕の異形が口を閉ざした時には、空は闇に覆われ、再び夜が世界を支配していた。

 至近距離にいる巨腕の異形と深海棲艦の眼差し(赤い光)はここからでもはっきり見える。その姿も、この近さなら。

 戦艦棲姫。

 俺の記憶に該当するのは、それくらいしかなかった。

 でも、なぜ。どうして。どうやって。

 突然に現れた予想外の敵に対して、俺の思考は完全に止まっていた。

 

『オワリニシマショウ……ココデ……オワリニ……』

 

 海の底から不気味に響くような、そう感じさせる声は、夜闇の中に反響して、痺れた耳に届いた。巨腕の異形が差しだした手の平に腰かけた戦艦棲姫が持ち上げられ、同時に、反対の腕も握り締められ、持ち上がっていく。

 すぐに振り下ろされた。

 

「――――……」

 

 気がつけば、海の上を転がっていた。

 全身が鈍い痛みを発するのに強く目をつぶり、歯を噛みあわせながら腕をついて立ち上がる。

 波に襲われた。

 奴が拳を振り下ろし、海を叩くと、そこを中心として津波が広がったのだ。近距離にいた俺達は逃げ出す事もなく、そして生体フィールドを纏っているために、飲み込まれる事もなく弾き飛ばされ、海に叩きつけられた。

 少しの間気を失っていたらしい。徹夜明けみたいに頭の奥が白んでいて、気持ちが悪かった。

 蹲っている場合ではない。立ち上がると、まだ波は収まっておらず、八方に向かって流れていた。

 上下に揺れる体を気にせず、素早く周囲に視線を走らせ、状況を確認する。体はすっごくいたいけど、大きなダメージを負ったりはしていない。元々中破してたから、肌の露出は危険域に達してるけど、それだけ。

 頭もぐらついてたけど、もう治った。

 みんなはあちこちに転がされていた。拳が振り下ろされてからさほど時間は経っていないみたいだ。それぞれ起き上がろうとしていて……戦艦棲姫は、巨腕の異形の手の平に背を預けて、まるで寝そべるような体勢のまま、腕を伸ばし、指差した。その先は……吹雪と、神通先輩がいる場所。

 あんな体勢からじゃ回避は間に合わない。すでに立ち上がっている俺がどうにかしようとしても、砲撃は当たらないし……!

 三度、砲撃音。

 

『!』

 

 巨椀の異形へ向けて一斉砲撃した連装砲ちゃん達が、戦艦棲姫から逃げるようにしてこちらへ移動してきた。目が『><』になっている。

 彼女達の妨害が功を奏して、みんなが立ち上がる時間は稼げた。代わりに……。

 

『アイツヨ……』

 

 指の先が、俺に向けられた。

 どっしりとした動きで巨腕の異形が動き、俺に照準を合わせてくる。

 うわ、まずっ……!

 どっちに回避しても射程内。いや、諦めるな。シマカゼのスピードを信じろ!

 

「はっ!」

 

 急加速。

 そのままの体勢で右へ滑り出し、敵の砲撃に合わせて勢い任せに体を投げ出し、回避行動をとる。

 

「あああっ!」

 

 傍を通り過ぎた物、傍に着弾した物、どちらも直撃なんかしてないのに、余波だけで吹き飛ばされ、何もわからないまま海面と激突した。今度は意識を失わなかった。素早く立ち上がり、追撃を警戒する。

 

「距離をとって!」

 

 由良さんの声。そんな事言ったって、巨腕の異形の肩にある連装砲は、微調整を繰り返しながらも俺に向けられたままだ。身を揺らし、強張らせた巨腕の異形に、砲撃が来ると直感する。

 

「うああっ!!」

 

 直撃コースの砲弾を回避するために、海面を蹴りつけて宙返りし、やり過ごそうとしたけど、駄目だった。俺が立っていた位置に突き刺さる砲弾の勢いは半端ではなく、回転する体は突風に呑まれ、また海に叩きつけられて、うつぶせのままに何メートルも体を擦る羽目になった。

 

「ぷぇえっ、はにゃ、鼻に水がっ!」

 

 海水が鼻に! ぐああ! 生体フィールドが仕事してない!

 

「こっちよ!」

「那珂ちゃんから目を離しちゃダメなんだから!」

 

 俺が立ち直る隙を作るためか、距離をとる面々の中から、振り返って砲撃してくれる子がいた。

 

「撃ち切ります」

「え、え~い!」

 

 十分距離をとった神通先輩が魚雷をばら撒き、吹雪が連装砲を構えて連射する。雷跡を伸ばして戦艦棲姫に迫った魚雷は、巨腕の異形が海に貫手を放ち、壁とする事で防がれた。でも直撃だ。魚雷の火力ならそこそこダメージが入ったはず! 吹雪の砲撃の方は、残念ながら全然届いてなかった。

 戦艦棲姫の注意を引く事には成功したようで、奴は俺に向けていた指先を吹雪達の方へ向けた。すぐに移動を開始する二人は、すでに射程外まで逃れているから、当たる可能性は低い。

 

「んん-!」

 

 声を発すると鼻が痛むから、怒りを込めて握り拳で海を叩く。巨腕の異形みたいに凄い波なんかはできなかったが、少しだけ気が晴れた。

 

「連゛装゛砲゛ぢゃん!」

『キュー!』

 

 ぐぐぐ、鼻が痛い! ひりひりする! じんじんする! 生体フィールドのばっきゃろー!

 ぶんぶんと頭を振り、髪を振り乱して鼻の痛みとおさらばする。向かってきた連装砲ちゃんに足を出してみせれば、俺の意思を汲んで連ちゃんが飛び乗ってきた。そこそこ重い。けど、大丈夫!

 

「はっ!」

 

 足の甲で押し上げるようにして、全力で足を振り抜く。空高く放り上げた連ちゃんを意識の外へ、今度は装ちゃんを同じようにして蹴り上げ、最後に飛び込んできた砲ちゃんを抱きかかえて一回転。遠心力を乗せて空高く放り投げる。

 最後は自分自身。屈伸して力を溜め込み、解放。バネのように跳ね上がり、空中で宙返りをしながら12.7cm連装砲を右手に持つ。足は空に、頭は海に。ぐっと首を伸ばして上を見れば、その先に戦艦棲姫がいる。

 力んでグリップを握り締め、トリガーに指を当てて腕を伸ばし、砲を突き出せば、ちょうど連装砲ちゃん達が俺の高さまで落ちてきた。

 

『トリガーフルバースト!』

 

 重なって反響する声が海に響く。

 連装砲ちゃん込みで一斉に放った砲弾は、よそ見していた戦艦棲姫と巨腕の怪物にほとんど命中! ボボォンと気持ちの良い爆発音をたてて、黒煙を蔓延させた。

 砲を胸に抱えて落下し、着水する。遅れて連装砲ちゃん達が落ちてきて、楽しげな声を上げてはしゃいだ。

 

『コレデハ、ダメネ……』

 

 煙が晴れれば、傷など負っていない戦艦棲姫と巨腕の異形がいた。てんで効いてない。やっぱり駆逐艦の砲撃じゃダメージは期待できないか。俺が放った砲弾は全部外れてたし。

 なら直接キックを叩き込むしかない。ちゃんとスピードを乗せた、全速力のキック!

 

「連装砲ちゃん、サポートお願い!」

『キュ~』

 

 砲を艤装に戻して、駆けだす。

 速くやんなきゃ。じゃないと、みんなが。

 

「ぅ……!」

 

 タ級と違って、戦艦棲姫は動く気があるみたいで、指示を下された巨腕の異形が圧迫感を伴って移動し、砲撃すると、神通先輩のすぐ傍に着弾した。

 跳ね飛ばされる彼女に、吹雪が悲鳴染みた声を上げた。

 

「神通先輩!」

「那珂ちゃんも魚雷、撃ち尽くしちゃうよー!」

 

 ばっと両腕を広げた那珂ちゃん先輩から放たれた四本の魚雷が海に潜るのを横目に、戦艦棲姫から距離をとるためにひた走る。

 

「こんっのぉ!」

 

 大きな爆発に続くように、同じ規模の爆発音がして、それがたぶん、川内先輩の雷撃によるものだとわかった。

 これだけ魚雷ぶつけても、あいつは平気な顔をしているのだろうか。これじゃあ、残った俺達が三人で魚雷を放っても、倒せないんじゃ……。

 だめ。今考えては駄目だ。

 ザアッと水を跳ね上げ、方向転換。勢いを殺さないように大きな弧を描く。

 

『ウットウシイ……!』

 

 連装砲ちゃん達の砲撃に、戦艦棲姫は頭を振って、逃げようとする連装砲ちゃんを指差した。巨腕の異形が止まり、その場で方向転換をし出す。そのさなかに、迫りゆく俺に気付いて、砲身を動かした。そうだ、

撃つなら俺を撃て!

 特別姿勢を低くして駆ける俺に、巨体を屈めてまで照準を合わせた巨腕の異形が全身の筋肉を強張らせる。砲撃の予兆。その反動を受け止めようとする一種生物的な動き、見え見えだ!

 

「とあーっ!」

 

 まっすぐ飛んでくる砲弾は、予想通り、頭の位置を低くしていた俺を狙っていたために、跳んだ俺には掠りもしなかった。海に突き立ち海水を吹き飛ばす砲弾は、相応の衝撃と風を生む。

 もう二度目だ。今度は翻弄されない。嵐のような風も衝撃も全部体で受け、利用して、高く高く跳び上がる。自分で出せる以上のスピードが全身に乗っていた。

 体を丸めて、前転。回って、回って、遠心力も味方につける。

 狙いは戦艦棲姫。巨腕の異形はキックなんかじゃびくともしないだろうけど、完全人型のお前ならどうだっ!

 

『ファングストライザー!』

『フフフ……』

 

 全力の踵落としが戦艦棲姫の頭を捉えようとした時、割って入った巨腕の異形の手に防がれた。ヒールが手の甲を削り、突き刺さり、血に似たどす黒いオイルを噴出させる。踵を伝わって跳ね返ってくる衝撃に、骨が悲鳴を上げているのがわかって、顔を顰めた。

 

「くっ!」

 

 横薙ぎに振るわれた手に引っ張られて、放り出されてしまう。なんとか体勢を整え、足から着水して滑り、下がって、距離をとる。

 

 これでも駄目か。ダメージ、全然通ってない……!

 諦めるもんか。一回で駄目なら、十回でも百回でも叩き込むまでだ!

 

 反転。速度を維持したまま再び戦艦棲姫へ向かっていく。巨腕の異形は、まだこちらを向いている。これでは辿り着く前にやられてしまうかもしれない。

 冷ややかな眼差しを俺に向ける戦艦棲姫に、祈る思いで足を動かす。俺にブレーキなんてない。たとえ無理かもしれなくても!

 

「たーっ!」

 

 俺の声じゃない、那珂ちゃん先輩の声が聞こえた。同時に戦艦棲姫が勢い良く跳ねる。肩から黒煙が生じ始めている。砲撃を受けたんだ。

 

『ヌグ……!』

 

 犬歯を見せて振り返る戦艦棲姫に呼応して、巨腕の異形も緩慢な動作で向こうへ体を向け始めた。飛び込んできた那珂ちゃん先輩へ向けて、持ち上げた拳を一息に振り切る。

 鈍い音がして、すぐそこに見えていた那珂ちゃん先輩の姿が消えた。

 だからって止まれない。止まっちゃいけない。

 両足を揃えて海面を踏み締め、一足飛びに高い位置へ体を持っていく。両足は揃えたまま、向かう先を戦艦棲姫へ固定して飛び込んで行く。

 

『ダブルエクストリーム!』

『ハ、グウッ!』

 

 直前で気付いた戦艦棲姫の胸に足先を抉り込み、巨腕の異形の手の平から叩き落す。勢いのまま海の上へ押しやり、叩き付けて、ヒールで削りながら速度を落とし、しばらく海面を滑って停止する。

 

 飛散する水滴の中に、横から迫る巨大な拳があっても、体はすぐに動いてくれなかった。

 声を出す暇もなくぶん殴られて、白んでいた視界が正常に戻った時には、戦艦棲姫から遠く離れた位置に横たわっていた。

 

「ぃ、ぎ……!」

 

 腕をついて起き上がろうとして、失敗する。左腕が酷く痛んでいた。

 もしかしたら、折れてるかもしれない。そういえば、骨折の痛い時って、こんな感覚だったような……ぐ、う。

 歯を噛みしめて痛みに耐える。内部的な激痛は結構久し振りだ。生体フィールドを抜けて怪我を負う時って、だいたい外傷だったし……。

 右手だけでなんとか立ち上がれば、膝が震えていた。頭痛も酷いし、腕は痛い。泣きそうになっても変じゃないだろうくらいには満身創痍だった。

 そんなのは俺だけじゃない。

 みんなも、砲弾に吹き飛ばされ、巨腕によって起こる波に翻弄されている。誰の顔にも濃い疲労が浮かんでいた。息を荒げていない者はいなかった。

 

「っああ!」

 

 戦艦棲姫が腕を振るのに合わせて、巨腕の異形も腕を振るう。範囲内にいた深雪が風圧に投げ飛ばされた。

 異形の肩の砲が動き、近い者へ砲口を向ける。

 

 がくんと体が傾いた。

 重い頭を動かして足下を見れば、片足が海に沈んでいる。

 ……なんだこれ。

 なんで、足、沈んで……。

 

「吹雪ちゃん!」

 

 夕立の悲鳴が遠くに聞こえた。大振りの雨の音も、荒い呼吸の音も、ずっと遠くに。

 脛まで沈んだ足は、今なお静かに海の底へ落ちてゆく。

 まずい。

 マズイ、マズイ、マズイ。

 危険信号が明滅を繰り返すみたいに、同じ言葉を頭の中で繰り返す。

 艦娘の機能までおかしくなってる。

 私へのダメージは、それほど致命的だった?

 で、でも、まだ、私、動ける。

 シマカゼは戦える。シマカゼはまだ、戦える。

 

「や、だ……」

 

 沈みたくない。

 沈みたくなんかないよ。

 私には待ってなきゃいけない人がいるんだ。

 姉さん。

 お、ねえちゃん――。

 

 

 海の上に立っていた。

 暗くて、足下しか見えない海。

 曲げた膝に手を当てて、揺れ動く海の表面を……そこに映る自分の姿を、ずっと見ていた。

 

 撃っても当たらない。仲間を守れない。

 どうすればいいの?

 どうすれば、あいつを倒せるの?

 

「どうすれば……」

『どうもしなくていいよ』

 

 俺の声が聞こえた。

 おかしいな。俺、そんな事言ってないのに。

 ……弱気になって、自分にそう言っちゃったのかな。

 

『おーい。おぉーい』

「…………」

 

 変だ。ほんとに。

 俺、どうしちゃったんだろう。

 額に手を当てようとして体を伸ばすと、近くに人の気配を感じた。

 顔を向ければ、俺が立っていた。

 

『ねぇ、大丈夫?』

「あ、え……?」

 

 さらさらの髪に、うさみみカチューシャに、眠たげな目。

 どこからどう見ても俺で、どこからどう見ても、シマカゼだった。

 

「なに……なんで……?」

『見てらんなかったの。私も戦う』

 

 そんな事は聞いてない。

 なんで俺が、なんで、島風が、俺の前に。

 今さら、どうして。

 

 驚きに固まる俺に、島風はお腹辺りで手を合わせて、目を伏せた。

 

『ありがとう』

「……」

 

 何が、という言葉は、口から出てこなかった。

 それでも伝わったのだろう。彼女は顔を上げると、はにかんだ。

 

『あなたが私を保っててくれたから……まだ、こうしてここに立っていられるんだね』

 

 ……別に、そんなつもりは……。

 最初は……本気でそう思ってたけど。

 島風を無くす訳にはいかない、残しておかなきゃ、って。

 でも最近は、そういう気持ちは薄れてきてて……。

 違う。薄れてなんかない。自信はないけど、彼女の事を考えて、生きていた……はず。

 

『だから、ありがとう』

 

 じゃあ、なんで?

 なんで、目の前にこうして島風が現れ、感謝されているのに、嫌な汗が止まらないんだろう。

 どうして、冷たく、痛いくらいに心臓がドキドキ脈打っていて、苦しいんだろう。

 

『じゃあ……』

 

 やめて。

 お願いだから、言わないで。

 それを言われたら、俺は、どうしたら――。

 

「体、返してね」

 

 世界が反転する。

 俺だけが海の中に引き込まれ、波の上に立つ島風の姿を見上げていた。

 俺を見下ろす彼女は、何も言わずに後ろ髪に手を通し、ばさりとやると、踵を返して明るい光の方へ歩き始めた。

 

『ま、待っ――』

 

 ごぼりと口から零れた水泡が、暗い水底に沈んでいった。

 

 

 暗い世界の海の中から、光溢れる水面を眺めていた。

 損害がなくなり、新しい装備を身に着けた島風が、連装砲ちゃん達を伴って戦艦棲姫に挑む姿。

 速度で翻弄し、巨大な拳に苦戦しながらも、五連装酸素魚雷を撃ち尽くして、そこに温存していた駆逐艦のみんなの魚雷を当てて、おしまい。

 

 ……そう、終わったんだ。

 

 俺の……違う、シマカゼの艦娘としての人生は、どうやらここで終わりみたい。

 ……きっと、それでいいんだ。

 この体は元々彼女のものだったのだから。

 俺は彼女が目覚めるまでの繋ぎにすぎなかったのだろう。

 ……いいんだ、それで。

 役目を全うした。気持ちの良い終わりだ。

 この身がこの先どうなるかなんてわからないけど、考える必要なんてない。

 

 ……心残りはある。

 けどそれは、どうにもならない事だ。

 シマカゼとして目覚めた瞬間から、もはや叶わない願い。

 ……姉さん。

 俺は、姉さんを――。

 

『ひゃー、疲れた! おーしまいっと』

「……え?」

 

 勢い良く水の中に飛び込んできた島風が、水泡に塗れて俺に迫った。

 お腹を掴まれ、ぐいっと海面に体を向けられると、ぐいぐい背中を押されて、訳がわからないままに海上に出る。

 

『しまかぜはー、とっても眠いです。なので後はよろしくね~』

「え?」

 

 

「あっ、お疲れ様です! お怪我は……大丈夫でしょうか?」

 

 船内にいた朝潮が振り返って、心配そうに見上げてきた。

 

「ぴんぴんしてるよーその子。もう大活躍でさー」

 

 先輩の立場がないっていうか、なんて言ってやれやれのポーズをした川内先輩が、テーブルの上に腰かけた。

 

「外は由良さん達が担当してくれるって」

「霧の中の強敵はやっつけたから、これでもう常に怯える必要はないっぽい。きっと提督さん、いっぱい褒めてくれるに違いないっぽーい」

 

 喜色満面で手を取り合う吹雪と夕立が、それにしても島風ちゃん、凄かったねー、と話しかけてくる。

 

 

 ………………ええー。




・マキシマムトリガー
(砲撃必殺技)

・マキシマムファング
(キック必殺技)

・マキシマムエクストリーム
(キック必殺技)

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