包装紙ビリビリ!
レ級「ハロー♪」
ネタかぶりの気配EXじゃないですかやだー!
※
朝潮が島に残る選択をする理由が抜けていた、または薄いため
加筆修正しました。
※
誤字の修正、歪な文章の修正をしました。(2015/8/10)
「だから、帰りたいのよ」
向かい合って座る中で、伏せていた目を俺に向けてそう締め括った朝潮に、俺は内心冷や汗たらたらだった。
彼女の話に出てきた未知の深海棲艦って、どう考えても戦艦レ級だとしか思えない。それも、
航空戦をこなし開幕雷撃能力を有し戦艦ゆえに強力な砲撃を二度行い、しめに雷撃戦に参加し、夜戦もこなす通常敵最強の相手……。
ゲームでは出現海域が限られているうえに、かなり後の方の登場になるから、ライトユーザーだった俺は直接出会った事はなかったが、攻略動画で見た彼女のアグレッシブさは強烈だったから、凄く印象に残っている。
そんな奴に砲撃されてよく五体満足でいられたもんだ、と彼女を見れば、彼女は口を引き結んで少しうつむいていた。
妖精さん達が彼女の膝に寄り添い、気遣うように見上げても、朝潮の表情は晴れない。そんな彼女にかける言葉が見つからず、お互いだんまりで、だんだんと重い空気が流れだした。
「アギト……」
「……?」
体にのしかかるような嫌な空気に耐えられず、俺は、気になっていた事を聞こうと口を開いた。
アギト。たしかにレ級はそう言ったのだろうか。そう問えば、顔を上げた朝潮は、なぜそんな事を聞くのだろうと戸惑っている様子でいながらも、たしかにそう言っていたわ、とはっきりした口調で言った。
その後に、声が反響していて、途切れ途切れだったから、もしかしたら別の言葉だったのかもしれない、と付け加えるあたり、確信している訳ではないようだが……最初にはっきり言ってしまうあたりに、朝潮という少女の性格が見えている気がした。
「アギトかー。お、私とおんなじ名前なんだよね」
なぜ深海棲艦が仮面ライダーの名前を口に出したのだろうと頭の隅で考えつつ、なんとなしに呟く。
仮面ライダーアギトの主人公、津上翔一と俺は同じ名前を持っている。……あ、いや、彼の本当の名前は違うんだったな。
「……あなたは、アギトという名前なの?」
「え? いや、違うけど」
「え?」
……ん?
不可解そうに眉を寄せる彼女に、俺の脳はようやく現実に帰還した。ああ、ちょっと妄想の世界に逃げ込んでた……。
戦艦レ級が本当にアギトと口にしたのだとして、それはきっと仮面ライダーの事ではないだろう。もっと、こう、他の個体名とか、口癖とか、あるいは聞き間違いだとか、そのまんま
「
彼女の勘違いを正そうとして、はっとする。
そういえば、彼女が意識を取り戻してから今までに、自己紹介なんてしてなかった。お互いそれどころじゃなかったからしかたないけど、ゲームで朝潮を知っている俺と違って、彼女は俺の名前がわからず困っていたんじゃないだろうか。
ひょっとしたら彼女の所属する鎮守府にも
ちょっと格好つけて、しかし正確なやり方を知らないために緩い敬礼をしつつ名乗る俺に、朝潮は一瞬不思議そうな顔をして――目線が敬礼した俺の手に向かっていた――すぐ、理解したように頷いた。
「駆逐艦、朝潮です。このたびは助けていただきありがとうございました。改めて感謝します」
「あっ、はい」
きびきびした口調で名乗り返されるのに、少々気圧されてしまった。なんだか格好良い敬礼のおまけつきである。ボロボロな服を着て正座している状態でもサマになっているのは、年季の違いというやつだろうか。……そもそも彼女はいくつなんだろう。見た目のうえだと、ああ子供ですねとしか言いようがないのだが……彼女は艦娘だ、実年齢は見た目だけじゃはかれない。俺の感じたものが正しいのなら、ひょっとすればうん十歳という可能性も……。
「……なんでしょう」
「……いや、なんでも」
こころなしか、彼女の目つきが鋭くなった気がする。たぶん気のせいだ。うん。
というか、なんで敬語? さっきまで普通に喋っていたはずなのに。
そう聞けば、彼女はまるで自分の至らなさを詫びるように居住まいを正して、情けない話ですが、と切り出した。
「ようやく、今が夢でないという実感がわいてきたのです。あれは……あれも、正夢……」
後半は呟くような声音だったが、しっかり聞こえていた。彼女とその仲間の身に起こった出来事を、どうやら彼女は夢――それもとびっきりの悪夢――だと感じていたらしい。
だが、俺と向かい合い、レ級との遭遇を口に出して整理をつけ、名乗り合う事で、ようやく正常な心を取り戻せたみたいだ。
そして、彼女はここに留まるという提案をのんでくれた。
確実な帰還のためには精神的・肉体的な休息も必要だと理解したのだろう。
だが、気持ちは逸っている様子だ。留まる、と口にしても、どこか落ち着きなく何度も座る位置を直している。
それから、自分の気持ちを固めるためか、留まると決めた理由を話し始めた。
「……領海内にこのような島はなかったはず」
話す、というよりは独り言に近い声量。
記憶の整理の次は気持ちの整理をはかっているようだ。
彼女の呟きを拾えば、この島は鎮守府からは離れた位置にあるのではないかと推測しているのがわかって、だからこそ、彼女も海に出る事に慎重になっているのだろう。
しばらく考え込んでいた朝潮は、彼女を眺めつづける俺の存在を思い出したようにはっとすると、一言詫びた後に、今度は明確に俺に話しかけてきた。
命の恩人に対してのこれまでの無礼を、どうかお許しください。要約すればそんな風な内容の言葉と共に深く頭を下げようとする朝潮に、ちょっとちょっと、と慌てて肩を押して顔を上げさせた。
そういうの、いらないって。
「ですが……」
「その丁寧な口調もやめてほしいな。同じ……駆逐艦なんだし」
彼女に敬語で話されるのは、画面越しに聞いていた時とは違ってなんだか壁一枚を挟んだような隔たりを感じてしまう。ああ、ゲームで聞いていた時も画面一枚挟んでいたか。ええと、そういうのではなくて、なんというか……さっきまで普通に話していたせいもあると思うんだけど、とにかく、なんかやだ。
気持ちばかりが先行して「やめてほしい」なんて言ってしまったけど、それは彼女が俺の行いに報いようとしてくれているのを否定しているのと同じだし、というかやめさせる理由が思いつかなくて凄いてきとうになってしまった。
まあ、もう言ってしまったんだし、できれば対等にお話ししたいんだけど……?
そういう期待を目に込めて朝潮へと視線を注げば、でも、と跳ね除けられた。
彼女としては、何もできない現状で少しでも報いるための最低ラインが敬語らしく、やめる気はないみたいだ。……やめさせるけど。
それから少しの間押し問答が続いた。
俺は彼女に敬語をやめさせて普通の会話がしたい。
彼女は俺に報いるための一歩として敬語で話したい。
俺の言う事に従うのが俺に報いる事ではないのかとも思うのだが、いかんせん、彼女に敬語をやめさせる理由が「なんかやだし、一度やめてと言ったから意地でもやめさせる」なのだから、どっちもどっちというか……そんな訳で、同航戦、もとい平行線でやりあう事数十分。
くしゅ、と可愛らしいくしゃみを彼女がした事で、俺も薄ら寒さを感じて、海水に濡れたままだったのを思い出した。なのでまず、体の冷えと服をどうにかするために風呂に入る事になった。
「立てる? 歩けるよね」
「はい、大丈夫です」
立ち上がって腰に手を当てる俺に、丁寧に答えてから立つ朝潮。
俺の声音が少し尖っている理由は、彼女がどうしても敬語をやめてくれないから、ちょーっとだけ不機嫌になっているのと、もう一つ。
わざと彼女の不快感や敵愾心を煽って、「こんな奴に敬語を使う必要はない」とでも思わせてやろうと思ったのだ。島風・つむじ風の少女verなイメージ。
……島風の尊厳や交友関係的に傷をつけそうな作戦ってどうなのさ。
しかし馬鹿な俺には、それ以外では時間の経過で仲良くなるくらいしか彼女の口調を元に戻す方法を思いつかない。今すぐがいいのだ。俺は、今、俺に対して彼女が普通に話しかけてくれる関係を築きたい。
それにはやっぱり、悪い印象を与えるのは得策でない気がしたけど、ううん、どうすればいいのかわからない。
家の外に出ると、傾いた太陽がオレンジの光を放ち、木々を染め上げている。綺麗だ、という単純な感想を抱きつつ、一度振り返って朝潮の様子を確認してから、天然温泉の方へ向けて歩き出した。
見なくてもわかる、すぐ後ろをついてくる存在に、なんだか不思議な気分になってしまう。
今までずっと俺一人で森の中を移動していたから。……ずっとなんて言うほど日にちは経ってないが……ああ、ここ数日は色々と濃すぎて、時間の進みが遅く感じられる。
穏やかな風が剥き出しのお腹をくすぐる。……ああ、気にしないでいたのに、僅かな膨らみの露出した部分までもを触れられていくと、嫌でも気にしてしまう。早急にちゃんとした衣服を入手したい。浜に流れ着いてないかなあ……男物スーツ一式……。シマカゼ的にこの服装以外を着るのはマイナスが大きすぎて、たとえそんな物入手しても着れないけど。周りが体操着に着替えていても俺はこの服装でいなければならないのだ。凄い。
蛇行したり、わざと大きめの木の幹を跳んで越えてみたりして朝潮の反応を確認しつつ――律儀なのかなんなのか、俺の後ろにぴったりくっついてきていた――岩場を越え、温泉の前へ辿り着く。
「驚きました……こんなものがあるなんて」
「凄いでしょ。私が見つけたんだよ」
湯煙が蔓延する一帯に、感嘆の声をあげる朝潮に、隣に並んでドヤ顔してみる。……こっち見てない。前からやるべきだったな。
「さあ、体を温め」
「あっ、あれって!」
ちゃおう、と続けようとして、大きめの声を発した朝潮に遮られた。おおぅ、とわざとらしく引いてみせる。これもまた、見られていない。人がいるんだから
「グリーンゼリー……だから私の傷が治っていたのね」
「ゼリー? あのスライムの事?」
彼女の視線は、岩の合間から溢れて温泉に流れ込む緑色のスライムに向いていた。
彼女
あー、なんとなく察しはついていたけど、これ、やっぱり修復剤の元だったんだ。
「自然に湧き出てるものなんだね。じゃあ、遠征なんかで持ってくるのは、こういうとこから汲んできてるんだね」
「そうなります。……よくご存じですね」
「んっ!? ……………………夢で見た」
「そ、そうですか」
あっ、ちょっと引かれたっぽい。答えが電波すぎたかな。しかたないじゃないか、なんも思いつかなかったんだから。
さて、スライムが安全の保障されたお馴染のものであるとわかったところで、温泉に入ろう、と服を脱ぎだす。破れた布切れと化している上着をスポン。スカートのボタンを外してストン。見せ下着の紐をずらしてしゅるり。最後にカチューシャを外せば、対お風呂決戦形態への変身が完了する。
服なんかは最初に洗って干すとして、彼女の衣服を干す分の即席物干しを設置しなければ。今は、すでに乾いているだろう布や毛布で全て埋まっている。
自分の衣服を抱えていつも服を洗っている穴の下まで移動すると、服を着たままの朝潮が後ろについてきた。
「……どしたの。脱がないの?」
「あ、いえ……」
疑問に思って問いかければ、彼女は何か言いかけて、しかし何も言わず、ブラウスのボタンをぷちぷちと外し始めた。……自らの手で脱がすのとはまた違った背徳感があるな、なんて冷静に分析している場合ではない。
可憐な花びらのベールを一枚一枚剥いで現れたありのままの彼女を視界の端に、彼女の衣服を受け取って一緒に洗ってしまう。やります、と言われたけど、洗剤も何もない揉み洗いに手伝いは必要なく、やり始めた今、交代する意味もないので、先に彼女に温泉に入ってもらう事にした。
俺を置いて入るのに遠慮しているようだったが、押し切って入らせれば、蕩けたような息を吐き出して肩まで沈んでいった。うん、やっぱりあの温泉は艦娘に効くんだな。俺がおかしいんじゃなかったんだ。よかった。
くそまじめと言って差し支え無さそうな朝潮の顔をあそこまで緩めさせるとは、温泉恐るべし。きっとこの温泉の前には、レ級でさえキチガイスマイルを日々の些細な喜びを知ったような穏やかな笑顔に変えるに違いない。
あっという間に頬が高潮し、湯煙の中に肢体を隠す朝潮の
どうやら本当に女の子の体に慣れてきたみたいだ。……数日前からの長い付き合いである自分の体と、必死の看病をした彼女だからこそかもしれないが、もはや彼女のスレンダーな体つきをまじまじと見ても、胸のタンクは島風の方が大きいな、くらいしか感想がわいてこなかった。
手早く用意した木の枝を組み上げ、物干しを作っていく。びびーん。工作能力がレベルアップ。現在のレベルはおよそ三。次のレベルまで経験値が一億五千万必要です。
真顔であほな事を考えながら衣服を干し終え、ようやっとお風呂にありつく。狭い丸型に近付いていけば、ぼうっと空を見上げていた朝潮は、気を遣って端に身を寄せた。好意を受け取って、彼女の前へ足をつけ、体を沈めていく。二人分の体積が水を盛り上げ、地面へと流していった。体の表面に熱が張り付き、芯まで温めにかかる。この瞬間の、じーんとするのが好きだ。
生まれたての小鹿のようにぷるぷると震えていれば、あの、と朝潮。……なぁに?
「……私が経験した事は、本当にあった事なのでしょうか」
不安に濡れた瞳。小さな唇が開閉するたびに、微かな、けれどはっきりとした声が聞こえてくる。
今日会ったばかりの俺に判断を委ねてしまうほど、彼女の体験は現実味がなかったのだろうか。
ここで「レ級という深海棲艦は実在するから本当だよ」なんて答えるのは簡単だ。
霧の中から現れただとか、そもそも鎮守府近海に姿を見せただとか、この世界にレ級がいるのかどうかだとか、俺の知らない、不可解な事がたくさんあるけど、俺が自信満々にそう答えさえすれば、彼女の不安はいくらか晴れるだろう。
だがその代わりに、彼女はすぐにでもその事を報告しようと帰りたがるだろう。
帰るには海に出なければならない。海は危険だ。今はまだ、彼女を海に出す訳にはいかない。
「私にはわからないよ」
「……そう、ですよね」
「ごめんね」
「いえ……」
だから、ごめんね。
その不安を払拭する事はできないけど、命には代えられないから。
でも、目処が立ったら、俺が絶対に鎮守府まで送り届けてあげるから。
だから今はとりあえず、体を休める事に専念して欲しい。
不安も、仲間を気遣う気持ちもわかるけど。
「日が暮れちゃう前にご飯を集めなきゃね」
「ご飯……ですか?」
「この島には人工物が無いし、私に作物を作る能力はないから、自給自足なんだ」
「そうなんですか。そういう事ならこの朝潮、全力でお手伝いさせていただきます!」
ざば、と水を突き上げるように拳を握ってみせる朝潮へ、微笑みを返す。
意気込む彼女の姿は微笑ましく、俺の心に余裕を与えてくれた。
この島で目覚めてから、あまり得る事のできなかった余裕。
やっぱり、人がいて、話せるってのはいいな。
だから彼女を失いたくない、手放したくないって思うのは、当然の事なんだ。
降り注ぐ茜色を反射してきらきらと輝く瞳を見ながら、頭の中でこの後の予定を組み立てていく。
彼女との生活を作り上げる。なんとかして艤装を直すかする。衣服を調達する。
……いや、まずはやっぱり、敬語をやめさせる事からだな。
うんと頷く俺に、朝潮も頷く。
それが何かとダブって見えて……ああ、妖精さんだ。
ペットは飼い主に似る、ではないが……今の動作はそっくりだったな、なんて思いつつ、手始めに衣服の話を振る。
そこから敬語をやめさせる話に持っていくのだ。
口下手な俺には彼女は手強いが、やってやれない事はない、はず。
――そんな風に、ゆるゆると時間が流れていった。
次回の投稿は8月10日月曜日の予定です<(゜∀。)
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海鷹様より素敵なイラストを頂きました! やったね!