戦後の鎮守府   作:トマト味

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提督さんが住むアパートでのお話


提督さんとアパート

時刻は0800

とあるアパートの一室で提督はいつもより遅れて目を覚ます。

今日は彼にとって久々の休日だ

 

「…ん」

 

重い瞼を僅かに開き時間を確認すると、惰眠を貪ろうと体を横向きにする。

だが再び眠りの世界へ旅立とうとしたとき、その行為はある光景によって遮られた

 

「あー…提督。おはようございます」

「…!?」

 

目の前いっぱいに広がる少女の顔に体が仰け反る。あまりの衝撃に足は攣り首は根違いを起こす

 

「んがーっ!!」

「あぁ…もう無理、マジで眠い…おやすみ提督…」

 

首と足のコンボに悲鳴を上げる彼に対し少女、陽炎型駆逐艦19番艦 秋雲はもぞもぞと彼の布団にその身を滑り込ませると、そのまま眠りの世界へ旅立ってしまった

 

(なにがあった…)

 

驚きと痛みですっかり目が覚めた彼は部屋を見渡す。

…そこには散らばったマンガの原稿や資料集のようなもの、インク塗れの妖精数人、飲み散らかした缶コーヒー等が散乱していた

 

「…」

 

まるで部屋の中に嵐が来たかのような惨状だと、呆然とその光景を眺める。

そんな彼の耳に小さな声が聞こえてきた

 

「ていとくさんおはようございます」

「われわれはがんばった、がんばりすぎましたゆえ」

「しばらくねかせてもらいます」

「もえたよ…まっしろに…もえつきた…まっしろなはいに…」

 

言うだけ言うと彼の返事も待たず妖精達も眠りにつく。まったく訳が分からないよ

 

なんの説明も無かった為、再び秋雲へと視線を移す。

…とても気持ち良さそうな顔で眠っている。が、よく見れば目の下に隈がバッチリと残っており、恐らく徹夜でもしたのであろう彼女の姿は容易に想像できた

 

「てか、いつの間に来てたんだ…?」

 

快晴の空模様とは反対に、梅雨時の湿った洗濯物のようなため息が彼の口からこぼれた

 

―――――――――――――

――――――――

 

結局、彼女達が目を覚ましてから話を聞くことにした彼は台所で朝食を作っていた。

無論、嵐が過ぎ去った部屋は綺麗に片付けてある

 

(はぁ…寝てる時に突撃されるのは初めてだぞ)

 

実は彼の家に艦娘が上がり込むことは別段珍しいことではない。姉妹と喧嘩したり、悪戯がバレて逃げ込んで来たり、単に暇だったりと様々な理由でここを訪れる娘も多い。

彼自身特に気にしていなかったので、最初は駆け込み寺として利用されていたこの場所はいつしか艦娘達のセカンドルームになっていた。

現在に至っては、暁型を除く各艦の1番艦が合鍵を各自管理している始末である。(暁型に関しては暁が鍵を無くしたことにより、現在は響が管理している)

しかし先程の秋雲のように彼が就寝してから上がり込む者は今までいなかった

 

(まったく、それにしたってなんつーもん描いてんだ秋雲は…。人の趣味にケチつけるつもりはないが陽炎が不憫でならん)

 

片付けている途中で目にした秋雲の原稿を脳裏に映し出すも、すぐに頭を振りその光景を脳内から追い出した

―――まあ気にしないでおこう。うん

 

陽炎の威厳とプライバシーの為にも彼は思考を中断する。

そして味噌汁を茶碗に移し卓袱台に並べ、朝食の準備が完了した。

ふぅ、と一息つき手を合わせる

 

「いただきます」

『ピンポーン』

 

いざ、光り輝く白米に箸を伸ばしたとき玄関の呼び鈴が鳴った。

時計を見れば時刻は0840

――はて?誰か尋ねてくる用でもあっただろうか。

そんな疑問を持ちながらも玄関のドアを開ける

 

「新聞の勧誘はお断りですよー…って天津風か。どうした?」

 

ドアの向こうには陽炎型駆逐艦9番艦 天津風がソワソワしながら立っていた。

少々息が荒いのは、寮からここまで走って来たからだろうか。

彼女は息を整えながらもここへ来た目的を言う

 

「あ、あなた…、その…秋雲は来てないかしら」

「あぁ、秋雲なら…」

 

そう言うと彼は秋雲の方へと視線を移す。するといつの間に起きていたのか、秋雲は体を震わせ物陰に隠れていた。

よく見れば口パクで必死に何かを訴えている

 

『居 な い っ て 言 っ て !』

 

―――フッ、そういう事か。任せろ秋雲!

 

彼は天津風には見えないよう、キメ顔と共に握りこぶしに親指を立てる。

パァ、と花が咲いたような笑顔を見せる秋雲を横目に、そのまま天津風へと向き直る

 

「安心しろ天津風、秋雲はこの奥だ」

「秋雲ー!」

 

そう言うと天津風は脱兎の如く秋雲のもとへと向かう。

見れば秋雲の表情は、晩飯抜きと宣告された赤城のような顔をしていた

 

―――――――――――――

――――――――

 

「で、なにか言うことはあるかしら?」

「申し訳ありませんでした…」

 

現在、秋雲は天津風からお説教を受けている。

なんでも秋雲が勝手に合鍵を持ち出してしまったらしく、無くしたと思い込んだ陽炎が今も必死で探し回っているそうだ

 

余談ではあるが、鍵を無くすことを裏では『暁の悲劇』と呼ばれている

 

「ほら、さっさと戻るわよ。たっぷり陽炎姉さんにお説教して貰わないと」

「!?後生ですそれだけはご勘弁を!ほら、提督もなにか言って下さいよ!」

 

どうやら陽炎の説教はそれほどまでに恐ろしいようで、秋雲は必死に赦しを請う。

だがこればっかりは自業自得だ、彼が口を挟むべきではないだろう。

その代わり何故こんなことをしたのかを問う

 

「なぁ秋雲、なんで鍵を持ち出したりしたんだ?」

 

ピクリと秋雲の肩が跳ね視線を泳がせながら、彼女はしどろもどろに答える

 

「あぁ~…いやその、皆が手伝ってくれなくて…。そ、それにほら夜だと姉妹に色々迷惑掛かっちゃうし!」

「ほうほうなるほど。で、本音は?」

「昨晩陽炎に同人見られて描くの禁止にされました見逃して下さい」

「情状酌量の余地なし。天津風、この者を引っ捕らえよ」

「ははぁ~!」

「待って!せめて、せめて朝食だけでもー!」

 

意外とノリの良い天津風は叫ぶ秋雲の耳を引っ張ると寮への帰路についた。

そういえば片付けの際に纏めた秋雲の原稿がテーブルに置きっぱなしなのだが、さっきの話を聞いた上でこれを送ってやるほど彼も鬼ではない。

秋雲がまた来た時にでもと、紙を束ね本棚に閉まった

 

 

「さて、それじゃあ妖精さん達からも話を聞こうかな?」

 

そして一連の騒動で目を覚まし、窓から逃走を図ろうとする妖精達に声を掛けた

 

「われわれはむかんけいです」

「しらなかったんです」

「どうかおなさけを」

「しかしげんじつはひじょうなりぃ」

 

 

しばしの尋問の後、最終的に彼らは口を割った。

彼らが言うには、秋雲が近々開催される大規模な同人イベントで本を出す為それの手伝いをしていたとの事。

なんでも儲けの分からアイスをご馳走してくれると約束したらしく彼らもまた必死だったようだ

 

「妖精さん、仕事は選ぼう。な?」

 

彼の前で正座をしていた妖精一同はコクリを頭を下げる。彼らも今回の件で懲りたらしく、口々にマンガを描くことの辛さや〆切りに追われた阿修羅(秋雲)への恐怖を語る

 

「今回のことで懲りたら、もう無茶な仕事は引き受けない。OK?」

「らじゃー」

「おーけい」

「りょうかいです」

「こころえました」

「よろしい。それじゃあ遅くなったが改めて飯にするか」

「「「「おー」」」」

 

話はおしまい、さあ飯だ。彼がそう言うと妖精達は歓声を上げた

 

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――――――――

 

「おじゃましました」

「おいしいごはんもいただけてまんぞくです」

「こんどはおみやげもってきますゆえ」

「げんかんのかぎはそのままで」

「ああ、またいつでも来てくれ」

 

最後の言葉は気に留めず妖精達を見送る。

通りには僅かながら人が歩いているが、一般の人間には妖精の姿を見ることは出来ないので騒ぎになることはないだろう

 

妖精達の姿が見えなくなると、彼は食べ終えた食器を片付け息を吐く

 

(さてと、何をしようか…)

 

静かになった部屋を見て彼はするべきことを模索する。休日とはいっても、暇を持て余す彼にとっては寝ること以外には時間を潰す手段を持たない。

そして結局、他にやるべきことが見付からず寝ることを選択した彼は布団へと横になる。

そしてゆっくり瞼を閉じようとした時

 

『ピンポーン』

 

再び呼び鈴が鳴った

 

―――今日は来客が多いな

そう思いながら玄関のドアを開ける

 

「新聞の勧誘は以下略…ん、朧か?」

「おはよう提督」

「ああ、おはよう。朧が来るなんて珍しいな、なんかあったか?」

 

綾波型駆逐艦7番艦 朧、彼女がここを訪れるのは珍しい。

普段は七駆のメンバーといることが多い彼女だが、このように一人でいることはあまり無い

 

「漣や潮は出撃してて、曙も出かけてるから退屈で…ダメだった?」

「いや、全然そんなことないぞ。俺も同じく退屈していたところだ」

 

そう言うと朧を部屋に入れる。実際寝る以外にすることの無かった彼にとっては渡りに船だ

 

――彼女達が居ないと碌に時間も潰せないなんてな、自分で思っている以上に俺は彼女らに依存しているらしい

 

彼は心の中で自嘲気味に笑う。勿論顔には出さない。

出していないのだが…

 

「提督、その顔はあんまり好きじゃないかな」

「…顔に出てたか?」

「ううん、そうじゃなくて。自分のことを卑下したような…そんな眼をしてた」

 

彼女は提督が敵わない数少ない艦娘の一人だ。

顔に出してる訳でも、行動に表れている訳でもないのに、思っていることを見透かされてしまう。

…あの個性溢れる七駆に居れば嫌でもその辺りに敏感になるのであろうが

 

「まったく、敵わないな朧には」

「ふふ…」

 

静かに、彼女の頭を撫でる。彼女は嬉しそうな声を零すと徐に彼の手を握り、その手を自らの頬へと持っていく

 

「ありがとう、提督」

「…どういたしまして、朧」

 

どのような意味の込められた礼なのかは分からない。だが彼女なりに、なにかを伝えたかったのだろう。

暫くそうしていると、スッとその手を離す

 

「もういいのか?」

「あんまりやりすぎると、皆が嫉妬しちゃうから。アタシには…これくらいで丁度いい…かな」

「そっか」

「うん」

 

そう返事をすると、二人は居間へと向かう。

朧とは特別何かをすることはない。ただ部屋でのんびり過ごす、それだけだ。

だがそれが二人にとっては大事な時間でもある。居てくれるだけでいい、それがここでお互いがお互いに持ってる感情だ

 

「一人で居るとやること無くてただただ退屈なのに、誰かが居るだけで随分と心持ちも変わるもんだな」

「本当だね」

 

 

こうして今日も、彼の家では平和な時間が流れた

 

―――――――――――――

――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで提督、さっきから気になってたんだけど。あの本棚に閉まってある紙の束って?漫画の原稿に見えるけど」

「…朧が知らなくていい世界のもんだ」

「ふーん…そっか」

 

その後、しっかり中身を確認した朧は顔を真っ赤にして部屋から飛び出していったのは別の話

 

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――――――――

 

「まったくアンタって子はそういつもいつも…」

「か、陽炎姉さん…足が…足が痺れて…」

 

そして寮の方では、陽炎による秋雲の説教が続いていた




朧との話を広げられなかったのが悔しい
だって思いつかなかっただもん!
じゃあ朧を出す必要あったかって?だって朧が可愛いんだもん!

それは置いておくとして
本当はもっとトントンさくさくぽいぽいといった感じでどんどん話を進めて行きたいのですが、内容を詰め込もうと無理に文を増やしてしまい、結果中身がスカスカにも関わらず量だけ達者な読みにくいものになってしまいます。
宜しければアドバイス下さい。お願いします

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