戦後の鎮守府   作:トマト味

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夏休みを利用したガキンチョの稚拙な文ですが、興味のある方は自己責任でご覧下さい

※一部文の修正・追加をしました


提督さんと長門さん

ここはとある鎮守府

一年ほど前までは多くの人や艦娘で港が溢れ返っていた。

しかし現在はその鳴りを潜め、人の通りも疎らになっている

 

そんな鎮守府の、使われていないとある一室に、少女が一人足を運んだ

 

 

「…この部屋かな?」

 

静かにドアが開かれた。声の主、響(ヴェールヌイ)はどこからともなく向けられている鋭い視線をヒシヒシと感じ、確信する

 

(やっぱり、この部屋に居るようだね)

「…」

 

彼女は大きく息を吐くと、静かに、だが確実に目標《ターゲット》がいる方向へと歩を進める。

薄暗い部屋の中、一歩歩く度に足元で小さく埃が舞い、無造作に置かれたガラクタが幾度となく行く手を塞ぐ。

しかし不自然にガラクタが集まっている大きめの段ボール箱の前に立ち止まると、静かに言い放った

 

 

「司令官、みっけ」

「はは…、やっぱり見つかっちゃたか。響は見つけるのが上手いなぁ」

 

中から現れたのは、堀が深い顔立ちに、しなやかながらもよく鍛えられた身体をした身長170cm程の男、この鎮守府の最高責任者である提督だ

 

彼らは先ほどまで、鎮守府にいる駆逐艦達と間宮券を賭けてのかくれんぼ勝負を行っていた。

仕事を一段落終え、休憩の際にたまたま間宮券が5枚程ポケットの中に入っていたのを思い出した。しかし取り出した所を島風に見つかってしまい、それに続いて六駆、七駆、二一駆、さらにはレーベやマックスにも知られてしまったようで、結果みんなにねだられることとなった。

しかしそれだと間宮券の数は当然合わなくなる。

みんなそれぞれ意見を出し合った結果、響の提案したかくれんぼで提督を見つけたグループが間宮券を獲得する、という話になった。なってしまった。

尚グループは六駆、七駆、二一駆、レーベ、マックス&島風の四グループである

 

それも、発案者である響に見つかった事によって終了したのだが

 

「バレバレだよ、あんなに視線を向けられたら嫌でも気付くさ」

「そんなに視線って分かりやすい物なのか?」

「分かりやすいさ、司令官からの視線なんて特に、ね。どうせなら巻雲のように見つめてもらいたいくらいさ、逆も…ありかな」

「ないかな、うん。今の発言は聞かなかったことにしてっと。ほら、賞品の間宮券だ。六駆の皆で食べるんだぞ」

 

彼女なりのアプローチのつもりだったのだが、聞かなかった事にされてしまった。さらに手渡される4枚の間宮券にはその上を行く誘惑があり、自然と意識がそちらへ向く

 

「…スパシーバ」

 

結局間宮の誘惑に勝てず、姉妹達の分も受け取ると礼を言い走り去って行った

 

「それと他のグループにも『司令官は見付かった』と伝えてくれるかー?俺も見かけたらそう伝えておくからー!」

「ウラズミェートナァァァ!!」

 

走る響の背中に声を掛けたが、どうやら声は届いたようだ。

微笑ましく思いながらその様子を見送ったあと、思い出したかのように部屋を見渡す

 

見ればかくれんぼで妨害に使ったガラクタがあちらこちらに散らばっている。

ふぅ、と一息ついた彼は部屋の片付けを始めたのだった

 

―――――――――――――

――――――――

 

「で、片付けに夢中になり執務再開の時間に遅れた…と」

 

提督は現在執務室で説教を受けようとしていた。なさけない事に、彼は床に正座の状態で頭を垂れている。

目の前にはこちらを見下ろす女性、戦艦長門が目頭を押さえている

 

「まったく、どうして…こう…」

「その、すまなかった…。確かに時間を忘れるなんて軍に所属している身としてあるまじき行為だ。これは俺の落ち度だ、返す言葉も無い」

 

提督は自身の非を自覚していた。故に長門から言われるであろう小言の一つや二つ、三つや四つ、受け入れる覚悟もできている。

しかし彼女から発せられた言葉は以外な…と言う程でもないが、今の状況からすれば十分異常なもので

 

「なぜ私を、この長門を誘わなかった!」

「すまない、時間も守れないなど俺は軍人としての自覚が足りて…ん?えーと、なんだって?」

「なぜ私をかくれんぼに誘ってくれなかったのだと言っている!」

「そっちかい!」

 

思わず立ち上がるも足が痺れて上手く立ち上がれず、結果見事にすっ転ぶ。

龍驤が見れば思わず感嘆したであろうが、そんなことはどうでもいい

 

「はぁ、私も駆逐艦達と戯れ…ゲフンゲフン 間宮券が欲しかったというのになぁ」

「いつつ…、言い淀んだ部分はあえて追求しないが…。んな事言ってもなぁ、参加していたのだって駆逐艦だけだし、戦艦が居るなんて不公平じゃないか?」

 

言い淀んだ部分はあえて追求しないが(大事な事なので二回)。長門はこれでも駆逐艦の子からすれば頼りになるお姉さんだ。誰かのグループに入ろうものなら忽ち(たちまち)長門の取り合いに発展しただろう

 

…奪い合いの最中、緩みきった顔で腕を引っ張られるながもんの顔が瞬時にイメージされたのですぐに脳内から叩き出す

 

 

「そういえば、ビスマルクが先陣切ってレーベ、マックス、島風を引き連れているのを見たぞ」

「あんにゃろめ」

 

―――――――――――――

―――――――

 

「なぁ、提督よ」

「…なんだ?」

 

あの後ぶーたれる長門を宥めてなんとか執務を再開する。とはいっても昔とは違い書類に判子を押していくだけの簡単な仕事だが、書類も残り数枚となり余裕もできた。

故に提督は長門の問いに答える姿勢を見せる。

ちなみに彼は普段からは想像出来ないが、きちんと公私を分けている人間だ。本来ならば執務再開の時間に遅れることなどありあない。遅れたのも今回が初めてである。

…話しが逸れた

 

仕事モードの提督に一瞬、長門は頬を赤らめる。と同時に返事を返したことに驚きも見せる。

しかし言おうとした言葉も忘れない。

スッと瞳を閉じ静かに呟く

 

「…平和だな」

「…そうだな」

「これが、私達の手に入れた平和なのだな…」

 

ちらりと、執務室に置かれている駆逐艦用の艤装を見る。大切に保管されているそれは、見れば至る所に傷があり、まるで砲弾が貫いたかのような大きな穴がある。思えばあれから一年経つのだなと感慨に浸ると共に、ずっと消えない後悔の欠片がほんの僅かに顔を出す

 

「…そう…だな」

 

そう言うと同時に、最後の書類に判子を押す。これで今日の仕事は終了だ。

時間は1330、昼に仕事が終わるなど一年前は考えられなかった

 

「さて、と」

 

提督は立ち上がり、大きく伸びをするとドアの前まで歩いて行く。そしてドアノブに手を掛けて言う

 

「時に長門よ、ここに余った間宮券が一枚ある」

「!」

「君さえ良ければご馳走するが、どうだろうか?」

「い、いいのか?」

「長いこと秘書艦やってもらってたからな、これくらいあってもお釣りが出るくらいだよ」

 

―――あの時から何度も、な

 

そう言って、長門に間宮券を渡す。ふと触れた長門の掌は、意外なほどに柔らかく、1年前までは武器を持って海に出ていた事をまるで感じさせなかった

 

「…?どうかしたか?」

「いや、なんでもないさ」

 

すぐに手を引き、再びドアノブに手を掛ける。先ほどから触れていたドアノブが、また違った暖かさを感じさせているような気がした

 

「…しかし、提督からの誘いとは。これは無碍にできんな」

「からかうなよ」

 

提督がそう言うと同時に彼女はその隣に立つ。心なしか、いや、どう見ても目が輝いている。

そしてドアを開いた瞬間―――

 

 

「アトミラァァァル!見つけたわよ!」

「ぬお!」

「ひゃ!」

 

いきなり目の前に現れたビスマルクが大声で叫ぶ。

突然のことに二人揃って悲鳴を上げ、加えて長門は腰を抜かす。

寿命が10年ほど縮んだ気がした

 

「おい!おま、びっくりするだろうが!心臓に悪いわ!」

「ふふん、そんなことより私達にもマミヤアイスをご馳走しなさい!」

 

そんなことよりって…しかしなるほど、そういうことかと納得する。未だに心臓がバクバクと音を立て続けているが冷静に言葉を返す

 

「おいでっかい暁、鏡見ろ鏡。ルールは駆逐艦限定だろ。それにすでに響に見つかってるから六駆の勝利でかくれんぼは終了デース!」

 

思わず金剛語が出る。別に馬鹿にしてる訳じゃないよ、ホントだよ?

 

「誰がでっかい暁よ!それに長門だってマミヤチケットを持ってるじゃない」

 

そう言って未だに腰の抜けてる長門を指差すビスマルク。確かに、先ほど渡した間宮券をギュッと握り締めている。だが

 

「言っておくが、あれは秘書艦である長門への…言わば報酬みたいな物だ!かくれんぼは関係ない!」

「なんですって!私が秘書艦を任されたときはマミヤチケットなんて出してくれなかったじゃない!」

「その代わりお前の要望通り、お前が秘書艦の時はドイツ式の挨拶をするよう徹底しただろうが!」

 

口は災いの元とはよく言ったものだ。まさに、彼はここでとんでもない破壊力の爆弾を自らの足元に落としてしまった事に気が付いたのだ

 

「へぇ、その話し、詳しく聞きたいな」

 

突然、ビスマルクの後ろから声が聞こえた。スッと顔を出したレーベに平穏を取り戻した心臓が再び鼓動を早める。これが恋のトキメキならばどれほど良かったのだろうか。今の状況ではそんなものさえタチの悪いジョークだ。

名状し難い恐怖のようなものを感じ、一歩後ろに下がる。

だがそこには

 

「どこへ行くの?あなた?」

 

いつの間に回りこんだのか、マックスが居た

 

「その話し、私も詳しく聞きたいなぁ?」

 

まだだ、まだ退路は残っている。彼はいつだって希望を捨てた事などなかった。それは今も同じ事。ビスマルクとレーベの壁を突破できればまだ勝機が…

 

(あー、難しいなこれ)

 

ビスマルクの後ろに特徴的な黒いウサギ耳のようなカチューシャが見える。ああ、最速のスピード狂ゼカマシだと気付いたときには既に四方を囲まれていた。

だが、彼には最後の切り札が残されている。

正直これを切り札と呼ぶ辺り、現状彼の手札は壊滅的に少ないのだが

 

そんなマイナスなことは考えず、彼は窓を指差し大声で叫ぶ

 

「あ!UFO!」

「な、なんですって!」

「へ?」

「え?」

「お゛ぅ゛!?」

「なに!?どこだ!」

 

どうやら海外艦に効果抜群だったようだ。しかし長門に島風、お前らもか!シーザーもびっくり!

だが、この隙を逃すほど愚かではない。

みんなの視線が窓へと向かっているうちにビスマルクの脇を抜け、一気に廊下を走り去る

 

「しまった!追うわよ!」

「てーとくはっやーい!でも私だって負けないよ!」

「僕としたことが…こんな子供だましに引っかかるなんて…」

「あなた…逃がさないわよ!」

 

ドタドタと四人が執務室から出て行き、先ほどまでの喧騒は嘘のように止んだ。

残された長門は視線を窓から走り去る四人に向け、ポカンと口を開けていたが、やがて冷静になると同時に肩を震わせ大きな笑い声を上げた

 

「まったく、平和過ぎるというのも考え物だな…。だが、これもまた一興なのだろう」

 

彼女はそう呟くと部屋に置いてある艤装へと目を向け、今は居ないその持ち主の名を呼ぶ

 

「そうは思わないか、電…」

 

彼女の言葉に、返事を返す者はいない。

それでも、彼女はふぅっと息を吐くと立ち上がり、間宮券を握り締め甘味所 間宮へと向かった

 

 

 

 

この後、提督を捕まえたらなんでもしてくれると言う尾ひれが付き、鎮守府メンバー総出で提督捕獲鬼ごっこが開催されたのは別のお話




きちんと話しを続ける為に一部文の追加・修正をさせていただきました。

ほのぼのと謳っておきながらしんみりとした部分が若干顔を覗かせることがあります。が、基本的に9:1、8:2程度なので大丈夫だと思います。きっと、多分、maybe

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