アルビオンでひと暴れ(ほとんどがクトゥルフだった)した次の日、今私はクトゥルフの肩に乗ってトリステインの王城に向かっていた。何故そんな場所に向かっているのかというと、どうやら私の事を遠くからタバサ達が見ていたらしい。要はサイトがルイズと共にアルビオン内を逃げている際にタバサと合流し、脱出している際に礼拝堂で魔法をぶっ放していた自分を目撃したとのことだった。タバサ達は戻ろうとしたらしいが、なんと自分の放ったエア・ドームで吹き飛ばされ戻るに戻れなくなってしまい、そのまま学校まで戻ったそうだ。おかげで学校に戻ったらタバサに半泣きで抱きつかれてしまった。まあ自分のせいだったしこちらからも謝りはしたけどね。そんな事を考えていると、既に王城の中庭にたどり着いていた。
「な、なんだ貴様は!?」
「連絡が入ってないのかしら?今日ここに来るよう連絡を受けたのよ」
「杖を捨てろ!現在、王宮の上空は飛行禁止だ、ふれを知らんのか?」
「知らないわ、少し前まで別のところにいたから。それと早く取り次いでくれるとありがたいわ」
杖を地面に置き、クトゥルフに寄りかかりながら本を読んでいると白髪にローブを着込んだ痩せた男が来た。
「ミス・ノーレッジと伺っているが宜しいですかね?」
「合ってるわよ、貴方は?」
「私はマザリーニ。今は枢機卿という立場にいる者だ」
枢機卿といえば王の直接の支援や王に変わって政治を取る重要な役職だ。そんな重役がわざわざ迎えに来るほどの事なのだろうか。
「どうぞ此方へ」
マザリーニ枢機卿についていき、大きな扉の前に辿り着いた。天井が見上げるほど大きな扉だ。おそらくは王女のいる部屋なのだろう。扉が開けられると案の定、部屋の中ほどに王女が座っていた。
「ようこそ、この度は来て頂きありがとうございます」
「いえ……宜しければ、私をここへ呼んだ理由を聞いてもいいですか?」
「呼んだ理由だなんて。私はただ貴方に感謝の言葉を言いたかっただけです。私のお友達から聞いた話によれば、貴方はアルビオンの地で反乱軍相手に勇敢に戦ったと聞いています」
「はぁ……」
タバサ達喋りやがったな。まあいいか、どうせどっからか伝わるかもしれないと思ってたしそれが早まっただけだ。うん。だから帰ってタバサのほっぺたむにむにしてやろうとかそんな事は考えてない。ホントダヨ?
「そこで貴方には私から個人的に報償を送ることにいたしました。枢機卿、あれを」
「……あまりお勧めはいたしませんが」
「枢機卿」
「……分かりました」
あれは絶対上があんまり頭が良くないから苦労してる人だ。特にこの目の前の人とかそうだと思う。まあ直接言葉になんてしたら首が跳ね飛ぶくらいの事案になるから言わないけど。奥に引っ込んだ枢機卿が何かを持って戻ってきた。
「それは?」
「シュヴァリエの称号を貴方に授与することにしました。よってこれはそれを証明する物です」
さぁ、と枢機卿からマントと思われる物を渡されるが正直これはいいのだろうか。仮にも自分はガリア国籍な訳だし国境を跨いでいるがいざという時にどちらに組みつくといった問題が起こるのだろうか。
「……姫殿下、これは私は受け取れません」
「まぁ!どうしてそう仰るのですか?貴方はこれを受け取るのに足るふさわしい成果をあげたのですよ?」
「言っていませんでしたが、私は実はトリステインの国籍ではありません。有事の際、トリステイン側につくことは出来ないんです。なのでこれを受け取ることは出来ません」
「いざ戦争が起きた時自身の属する側を曇らせないため、そういう事かね?」
「その通りです、枢機卿。ですのでそれは受け取れません」
「ふむ、如何しますかね殿下?このような事態では無理に渡す事も問題になるでしょう」
「困りました……何か他に手があれば宜しいのですが」
「……それなら、ひとつお願いがあるのですが」
「何ですか?」
「実は前にこの王城の近くを通った時、不思議な感覚を感じたのです。せっかく王城に居ますのでその感覚の元を一度見ていたいのですが」
「その感覚とやらは何処から?」
「分かりません。何分一瞬の事でしたので。しかし私の使い魔がそれを探す事ができます。お呼びしても宜しいでしょうか?」
「ええ、許可します。枢機卿、ミス・ノーレッジをその場所まで連れて行ってあげてください」
「いいのですかね?仮にも関係のない者を好きに歩かせて」
「いいのです、彼女の働きと比べてみれば全然小さい事です」
「……分かりました、では準備が出来次第参りましょうか」
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「それでは、ミス・ノーレッジはガリアから?」
「ええ、とある人物から自分の子を頼むと」
クトゥルフの先導で王城内を歩いている間、なんとなしに枢機卿と話してみたが意外にも話の通じる人だったため結構仲良くなれていると思う。向こうがどう思ってるかは知らないけど、少なくとも良好な関係は気付けているんじゃないだろうか?
『此処より、数奇な気配』
「枢機卿、この部屋だそうです」
「……此処ですか」
「……何か、この部屋にはあるのですか?」
「いえ、むしろこの部屋はいる、といった方がいいでしょう」
「いる?」
「昔、まだ私が生まれる前にこのトリステインに降りた者を封じ込めていると、そう先代からお聞きしました。無闇に開けてはならないと」
「……クトゥルフ」
『魔の者、同族の魔、中より感知』
なんだか不思議な気配をクトゥルフに探させたら仲間を見つけやがった。嘘でしょう?
「……開けても、宜しいでしょうか?」
「構いません。しかし、決して中のアレには触れないよう、お願いします」
そう言って枢機卿が扉に幾つもの鍵を指していく。そうして扉が開くと同時に冷たく、凍りつくような冷気が漂ってきた。
「……アレですか?」
「ええ、アレです」
中は薄暗く照明一つなかった。その中で異彩を放っていたのは自ら発行しているクリスタルのような大きな巨石だった。地面から生えているかのような高さ数メートルにも及ぶ透明な石の中にはアレと呼ぶにふさわしい者が鎮座していた。パッと見では蛇にも見えなくはないが、数メートルの高さまでとぐろを巻き、白く肥った体皮からはぶよぶよとクトゥルフにも見られる触手のような物が生えていた。そして顔に当たる部分には横に大きく裂けた口と眼球の欠落した目のような穴が開いていた。目の部分の穴からは赤い血のしずくのような物が零れ落ちては消えてを繰り返していた。うん、まごう事なきクトゥルフの親戚さんだった。
「……枢機卿、済みませんが少しアレを調べても宜しいですか?有事の際は私の使い魔に処理を行わせます」
「アレを押さえつける事ができるのですかね?このような場所で解放されたら最後、取り押える事さえできないかもしれませんのよ?」
「その時は私の命と引き換えにこの世から消し去ります」
まあ本当の事を言うなら命消費しなくても多分消せるだろうけど、疲れるからしたくない。それ以上は枢機卿も何も言わず、杖を構えたまま扉の前から動かなかった。
「……クトゥルフ、アレを起こせるかしら?」
『同調失敗、感覚の接続により、淵からの目覚め』
ピシッ
その音は小さいながらも不思議と響く音だった。クリスタルの方を見たが正直見なくてもわかる。クリスタルの一部が欠けていた。
ミシッ……ミシッ……
そしてクリスタル全体にヒビがどんどん広がっていき、ついにクリスタルが裂けた。
『…………アアァァァ?』
「何言ってるかわかる?」
『通訳、『これを解いたのはお前か?』』
「ええ。解いたというよりかは反応した、といった方が正しいのかもしれないけど」
『魔の者、彼の者、助力の命を伝えよと』
「……私の仲間になるって事?」
よく見ると僅かに白蛇の頭が上下に動いている。おそらくそうなのだろう。
「ミス・ノーレッジ!危険です!」
「落ち着いてください、枢機卿。敵意はないようです」
「しかし!」
「今此処で無用な争いを起こす方が、自体を危険な方向へと進めるかもしれませんよ?」
そう言うと、渋々だが納得してくれたのか少し下がった。まだ杖は下ろしていない辺りさっさとどうにかしろと言いたいのだろう。
「……手っ取り早く済ませるわ。貴方は私に力を貸してくれる。それで良いかしら」
『通訳、『其れで良い』』
「そう……枢機卿。アレは私に力を貸してくれるそうです。此方で制御しますのでご安心下さい」
「……そう申されても、このマザリーニ、王国に危害が及ぶ可能性を信じることはそう出来ませぬ」
「……ならどうすれば宜しいのでしょうか?この場で死ねとでも?」
「…………」
「心配せずとも私はトリステインに攻め入ったりなどしません。そもそも理由がないのだから」
「理由なくとも戦は起きるものです。それがその者の意思に反していても」
「ならば、今すぐこの者を封じ込めて貰えますか?私が封印を解いたわけではないので封じ方もわからないのです。後は枢機卿にお任せしても?」
「……この老骨にこれ以上杖を振る力など有りませぬよ」
「……私もこの力をむやみに振るうつもりはありません」
「信じて……宜しいのですかね?」
「信じるのは勝手です。でも、少なくとも約束を破るような女ではありませんよ」
「……先長くないこの老骨には御しきれない事態だ。ミス・ノーレッジ、ゆめゆめ先程の言葉、忘れてもらっては困りますぞ」
「分かっています、本日は無理を言ってしまってすいません」
こうして意図せずしてクトゥルフの親戚が仲間になった。もう誰か引き取ってくれませんかね?今ならタダですよ?えっ、要らない?知ってますよ……
続く
何でまた邪神出したの?←趣味です
何で枢機卿は簡単にパチュリーに邪神上げちゃったの?←そうしないと邪神パーティ組めないじゃないですか
邪神増やすとか作者馬鹿なの?←返す言葉もないです
でもやりたいからやる。まさに横暴。