勇者さんのD×D   作:ビニール紐

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第6話

勇者さんD×D6

 

 

 

「明日から旅行に行こうか、ルミネアはどこか行きたい所はある?」

 

季節は夏になろうかという今日、ルミネアの前で幾つもの魔法陣を操る勇真が急にそんな事を言い出した。

 

「旅行ですか? すみません。私、旅行は初めてで、任務で遠出する事は良くあったんですが……でも、勇真さんが行きたい場所なら私も行ってみたいです」

 

きっと素晴らしい所です。そう、笑顔で言うルミネア。信頼という名のハードル上げに勇真の顔が引き攣った。

 

「あ〜〜〜………じゃあ、京都辺りに行こうかな」

 

「あ、知ってます。南禅寺とか天龍寺がある地方ですよね?」

 

「……うん、そうそう、確かそこら辺、まあ、この街を暫くの間離れられれば何処でも良いんだけどね」

 

正直、京都の寺の名前なんて金閣寺と銀閣寺、あとは清水寺くらいしか覚えてない、なので勇真は適当に濁し話を続けた。

「なにかあったんですか?」

 

「うん、実は天使、堕天使、悪魔のトップ会談が行われるらしい、最初は冥界の中立地帯で行われるはずが、どうも堕天使側から打診があったらしくてね、結果、この街であと一週間足らずで行われるとか」

 

「三大勢力のトップ会談ですか!? ……それって大戦停戦から初めてのことなんじゃ?」

 

「俺はそういう知識があんまりないからはっきり言えないけど多分、そうなんじゃないかな? 少なくとも頻繁に行われるようなものでもないでしょ。で、問題はそんな悪魔、天使、堕天使のトップに来られると色々と面倒くさい。流石にトップとなると隠蔽仕切れないし部分も出てくるし、鉢合わせてイチャモンつけられたら嫌だからね」

 

まあ、イチャモンもなにも堕天使幹部を殺害しエクスカリバーを拝借したのは事実なのだが、しかし、あれはコカビエルが悪い、別に三大勢力が戦争をするのは一向に構わないが関係ない者を巻き込むのがいけないのだ。

 

よって元凶のコカビエルには退場してもらい、使い手も決まってないのに天界で保管せず、あっさり敵勢力盗まれる様なずさんな管理体制の聖剣を3本貰うくらい別によかろう、と勇真は思っていた。

 

「と、言うことで、急で悪いけど明日の朝には出かけるから準備してね」

 

「はい! 分かりました」

 

元気よく言うルミネアに笑顔を返すと、勇真は密かにスマホを取り出し『京都観光』で検索した。

 

 

旅行未経験の外人さんより京都の知識がないのはマズイですから。

 

 

 

京都まではおおよそ5時間の旅だった。

 

既に堕天使のトップが密かに駒王市に入っている事を感知した勇真は街に掛けていた盗聴術式と自宅の結界を解除、あえて魔法を使わずに文明の利器で京都へ行くことにした。

 

タクシーを呼び駒王駅に、そこから電車を乗り継ぎ東京駅へ、そこで駅弁を買い新幹線で京都へと向かった。新幹線初乗りのルミネアが窓から見える景色や普段食べない弁当を食べて、はしゃいでいた。

 

まあ、はしゃいでいたと言っても周りに迷惑がかからない程度で、具体的にはちょっと声が高くなり口調が若干早くなるくらいである。しかし、普段殆どはしゃがないで珍しく印象的に残った。

 

 

しかし、最も勇真の印象的に残ったのは隣に座る若いスーツ姿の社会人で終始ルミネアを微笑ましそうな目で見ては勇真を射殺しそうな目で見ていた事だ。途中から『リアジュウシネフノウニナレフラレテシマエ』という呪文を唱え始めたのでレジストしておいた。なかなか強力な呪詛だった。

 

で、列車の移動は順調だったのだが問題が全くなかったかと言えばそうでもない、リアジュウシネの呪いを掛けられたのは言うに及ばず、急だった為、新幹線の予約を取らずに行くことにしたから自由席を探すのが大変だった事、あとは時間潰しに二人でトランプをしたのだがあまり盛り上がらなかった事だ。

 

正確にはルミネアは楽しんでいたのだが、勇真はあまりトランプを楽しめなかった。隣のサラリーマンのせいもあるが、やはりトランプはそれなりの人数でやった方が楽しい。

 

なので勇真は真剣に次の手を考えるルミネアを鑑賞しながら楽しんでいた。

 

毎日見ているのだが、ルミネアはやはり美少女である。やや小柄で若干の幼さを残した顔立ちは可愛らしく庇護欲をそそられる。翡翠色の瞳は宝石の様でコンプレックだと言う長い白髪ともマッチしていた。

 

美人は三日で飽きる、ブスは三日で慣れる。という言葉があるが、考えた人はよほどのブス専か、目の肥えた貴人だったのだろう。

 

少なくとも三日では飽きない、と勇真は思った。

 

京都に着いた二人は予約していた宿に荷物を置き、軽く休憩してから観光に向かった。

 

 

「清水寺は法相宗系の寺院で、広隆寺、鞍馬寺とともに、平安京遷都以前からの歴史をもつ、京都では数少ない寺院の1つなんだ。また、石山寺、長谷寺などと並び、日本でも有数の観音霊場で金閣寺、嵐山などと並ぶ京都市内でも有数の観光地で、季節を問わず多くの参詣者が訪れる。あと、修学旅行で多くの学生が訪れるね、古都京都の文化遺産として世界遺産に登録されているし(wikipedia参照)」

 

「すごい……勇真さん詳しいんですね!」

 

「ま、まあ、日本人だからね、これくらい当然だよ」

 

ルミネアのキラキラした尊敬の眼差しを勇真は冷や汗混じりに謙遜した。

 

昨日京都の名所の説明を一夜漬けで覚えようとした勇真だったが、最初の一時間で、寺の由来なんいちいち覚えきれるかッ! と匙を投げた。

 

結果、それぞれの観光名所をwikipediaで検索、そしてその内容を若干要約改変した文章を自身以外読めない様に認識阻害を掛けた上、魔法使用感知対策を取って空中に投影して読み上げるという無駄に洗練された無駄のない無駄な魔法を使い勇真はルミネアに見栄を張ったのだ。

 

この魔法に加え自身の強大な魔法力を一般人並みのソレに見せる魔法、不意打ち対策の対物、対魔法、対光力障壁を魔法使用感知対策を取った上で自身とルミネアに常時七重展開しているのだから呆れてしまう。

 

 

 

勇真とルミネアは、清水寺→地主神社→二年坂(一念坂・二寧坂・産寧坂)のコースで京都を観光して回った。

 

魔法使いだから分かるのだが、京都は凄まじい魔都である。勇真は京都の所々に施された呪術に(あとはWikipedia朗読がバレないかと)冷や汗を流した1日だった。

 

京都全域に施された認識阻害により街で普通に妖怪が店員をしている土産屋があったり、喋る傘(妖怪)や下位魔剣並みの強度がある木刀(対魔術式付き)が売られていたりとなかなかに個性的であった。

 

そして、地主神社の『恋占いの石』はガチで、目を瞑って境内の2つの守護石を石から石に辿り着けば想い人には軽いチャーム効果を本人には催淫効果がある呪術が掛けられる事が判明した。

 

『ちょっとやって来ていいですか?』と顔を赤くして言って行った、ルミネアから呪術が送られてきたので間違いない。

 

当たり前だが勇真はレジストしないでおいた。

 

ちなみに一念坂・二寧坂・産寧坂の転ぶと2年以内に死んだり、3年寿命が延びるという話はデマだった。本当だったらルミネアを20回くらい転ばせようと考えていただけに勇真としては残念だった。

 

 

 

「ああ、楽しかったですね」

 

「そうだね、本当にそう思うよ」

 

感慨深い、素晴らしいお寺でした。と京都の街を歩きながら呟くルミネアに勇真も同意した。

 

時間を気にせずのんびりと観光するのは思った以上に楽しかった。

 

正直、最初は、寺なんか見て何が楽しいのか? と思っていただけに良い意味で勇真は期待を裏切られたと言える。

 

もっとも、勇真は、一人で来たからでなく、楽しそうに笑うルミネアに釣られた結果だとも思っていた。

 

もし、一人で来ていても当時の技術の粋を集めた美しい寺院と京都の街並みに感動したかもしれない、しかし、きっと楽しさより寂しさの方が強く感じたと思う。

 

ヨーロッパに行った時が正にそれだった。マチュピチュやサクラダファミリアは神秘的だったり荘厳だったりで感動はしたが、また、一人で行きたいとは思わなかった。

 

しかし、ルミネアとなら再び訪れても良いと思う。

 

 

「……なんだ、そういう事か」

 

「はい? 勇真さん、何か言いましたか?」

 

「いや、なんでもないよ」

 

何てことはない、勇真は京都観光が楽しかったのではなく、ルミネアと出かけるのが楽しかっただけなのだ。

 

それに気づき、勇真は一人静かに苦笑した。

 

 

 

 

1日目の観光を終え、宿に戻った二人は取り敢えず自慢だという広々とした露天風呂(非混浴)に浸かってから部屋でまったりと過ごしていた。

 

部屋は和式でかなりの広さがあり、見晴らしも良く清水寺から程近い。夕食はまだだがこれは期待出来る。

 

これで一泊二食付き5500円なのだからお得である。

 

出る部屋、格安宿、京都で、検索して良かったと勇真は思った。

 

まあ、想定した通り夕食前にちょっとした悪霊が出現したが、ホラー映画は不得意でもリアルホラーは得意な勇真が理由も聞かずに二秒で成仏させたから安心である。

 

 

「明日はどうしましょうか?」

 

夕食を食べ終え、布団に潜りながらルミネアが言った。布団こそ違うが、同じ部屋で近くに寝ている為かその頬は微妙に赤い。

 

「そ、そうだね、ルミネアは何処か行きたい場所はある?」

 

勇真はそんなルミネアの姿に不意を突かれ、ドギマギしながらなんとか答えた。

 

「私は、天龍寺と金閣寺に行ってみたいです」

 

そう遠慮勝ちにルミネアは言った。

 

「そっか、でも銀閣寺はいいの?」

 

「あ、はい……銀閣寺は、その、銀箔が張っていないので」

 

「はは、よくご存知で」

 

「勇真さんは行きたい所はありますか?」

 

「……そうだね〜、八坂神社に行ってみたいかな」

 

瞬時にWikipediaを空中に投影しながら勇真はそう答えた。今日一日で何度Wikipediaに頼った事か。

 

「そうですか……あ、そう言えば京都にはどれくらい滞在するんですか? 時間に余裕がなければ天龍寺は行かなくてもいいです」

 

「そういう遠慮は要らないから、滞在予定は一週間、時間的に大体の観光地は回りきれるし、もし気に入ったなら延長してもいい」

 

「……でも、お金が掛かりませんか?」

 

「大丈夫、言ったでしょ、魔剣を売って一生暮らせるくらいのお金があるって、正直、一人じゃ使い切れないから丁度良いくらいだよ」

 

もっと浪費して良いんだよ、お小遣いにも全然手をつけないし、そう勇真が言うと、ルミネアは布団を目元まで引き上げた。

 

「でも、私は勇真さん返せるモノがありません、お金を返そうにもエクソシストの教育しか受けていない私では働く事も出来ません」

 

「掃除、洗濯、炊事と充分返してくれてるよ、料理の腕なんて見違えるほど上達したしね、あと、ルミネアは自分を下卑し過ぎ」

 

勇真は布団から手を伸ばし、少し躊躇したあとルミネアの頭を優しく撫でた。

 

「本当、君はもっとワガママになりなさい……そうだね、学校に行ってみたら良いんじゃないかな?」

 

「学校、ですか?」

 

「そう、学校に通って、友達を作って、同年代の “普通” を体験したらいい。俺を見れば分かるだろうけど、ルミネアくらいの年代の子供はもっともっと我儘だよ、でも、それはそれだけ自分を出せているって事、ルミネアは自分を押さえすぎ」

 

「私は、勇真さんが我儘には見えないのですが? いつもと優しくて、自分の事よりも私の事を気に掛けてくれますし」

 

「はは、それは気のせい、俺は滅茶苦茶我儘だよ。お金があるから働かないで悠々自適に暮らしてるし、家の事も殆ど全てルミネアに任せてるダメ人間だよ、正直ね、普通に中卒で働いてる人からすれば俺みたいな奴がいたら張り倒したくなるくらい我儘でムカつく生活を送ってるように見えるよ」

 

「……やっぱりそうは見えません」

 

「ルミネアは優しいからね」

 

「…………」

 

「…………」

 

「それでどう、学校に行ってみない? 高校に通ってない俺が言うのもなんだけど、学校はそれなりに楽しいよ。授業は面倒なのが多いけど、友達と過ごす日常ってのは悪くない、きっとルミネアならいっぱい友達が出来るだろうしね」

 

「…………」

 

勇真の問いに、ルミネアは無言で思案する。

 

 

 

そして、彼女は悲しそうな、諦めたような顔で答えを返した。

 

「……行ってみたいです。でも、私は、長く生きられないんです」

 

「…………」

 

「ずっと、言えませんでした。自分でも認めるのが怖くて、こんな事言ったら勇真さんに捨てられるんじゃないかと怖くて」

 

「捨てたりしないよ、逆に俺がルミネア捨てられる可能性はあるけど」

 

「そんなのはありえません。だって勇真さんは私が出会った人の中で一番優しくて頼り甲斐があってカッコイイ人なんですから」

 

「……俺が一番とは、ルミネアは本当に運もいい出会いもなかったんだね」

 

「そんな事はありません! 勇真さんおかげで私は今生きています。勇真さんがあの時、救ってくれたから生きています! こんなに楽しい日々を生きています! 勇真さんと出会えた事は私の何よりの幸運です!」

 

珍しく、本当に珍しくルミネアは叫ぶように自分の気持ちを吐露すると、勇真の胸に顔を埋めた。

 

「でも怖い、今が幸せだから、この生活がもう少しで終わってしまうなんて嫌です、嫌なんです! どうして、なんで私はあと少ししか生きれないんですか!?」

 

「…………」

 

「私は悪い子です、死にたくないから、仲間を殺した堕天使に命乞いするような悪い子です! でも、それがそんなに悪い事なんですか!? 自分の身体を好き勝手に弄られて、死にたくなるくらい恥ずかしい事をさせられて……それでもようやく幸せな日々が送れる様になったのに……好きな人が出来たのに」

 

「…………」

 

「でも、あと数年も生きられないなんて! ああ、主よ! なぜ私をこんなに苦しめるのですか! 私は貴方の為に戦った! 確かに最後は教えに反しました。でも戦ったんです、苦しい訓練に耐えて、それでも命懸けで戦ったんです! なのに! どうして!?」

 

ルミネアの慟哭が悲しく響く、それは普段控えめな、自分を押さえつけるルミネアの心からの叫びだった。

 

それを聞き勇真は後悔する、彼はルミネア自身が残りの寿命の少なさを知らないと思っていた、いや、たとえ知っていても表面上は気にしていない風だったので勇真は解決策を考えてから話そうと判断していた。

 

言われなければ分からない、そう言ってしまえば終わりだが、こんな気持ちを押さえつけて生活させていなんてと、ただ強く彼は後悔した。

 

「ルミネア、質問いい?」

 

勇真は出来るだけ優しくルミネアを抱きしめると、落ち着かせる様に静かな声で言う。

 

「……は、い」

 

「落ち着いて聞いてね。君を救う方法がいくつかある。ひとつは不老不死、あるいは不老長寿の薬を作る、あるいは手に入れる、孫悟空の伝説に登場する『蟠桃』とか、インド神話の『アムリタ』とかだね」

 

「…………」

 

「もう一つは、人間じゃなくなってしまうけど、悪魔の駒で眷属悪魔になる事だね、悪魔の下僕になるのが嫌なら、俺が主になる。俺なら上級悪魔から駒を奪って魔法で擬似的に主人となって使用する事が出来るから」

「…………」

 

「最後の一つが、長命種とのキメラになる事だ。これはあまりオススメできない。下手をすると君の意識が消えてしまう恐れがある」

「…………」

 

「すぐに答えを出さなくてもいい。一生に関わる事だからゆっくり考えて答えを出して」

 

「…………勇真、さんは」

 

ルミネアが勇真の胸から顔を上げ、不安そうに、縋るように、潤んだ瞳で彼を見つめた。

 

「ん?」

 

「勇真さんは、私が人外になっても一緒に居てくれますか? 捨てたりしないですか?」

 

「しないしない。言ったでしょ、俺が捨てられない限り一緒に居るから」

 

「本当ですか?」

 

「嘘じゃないから」

 

「私より可愛くて優しい子が勇真さんに好きです! って告白してもですか?」

 

「ありえないから」

 

「……じゃあ、私を、お嫁さんにしてくれますか?」

 

「ルミネアが俺で良いなら、あ、でも結婚可能な年齢になったらね」

 

「やった! 勇真さんて何歳ですか?」

 

「17歳」

 

「私も15歳だからあと1年……あと1年くらいなら生きれるかな?」

 

「……え? 不老長寿の薬か、悪魔になれば寿命を気にしなくて良いと思うけど?」

 

勇真の問いに、ただでさえ赤かった頬を更に赤く染め、ルミネアは恥ずかしにこう、そうに呟いた。

 

「いえ、結婚は人間の内にしたかったので……あと、子供も」

 

「…………」

 

 

 

 

せっかくの京都観光だが、2日目の観光は中止となった。

 

なんで中止となったかは……言うまでもあるまい。

 

 




サラリーマン「リアジュウシネフノウニナレフラレテシマエェェッッッ!!」


Q.あれ? 未成年の男女が宿に同じ部屋で泊まるの無理じゃない?

A.魔法です。

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