つまり勇真の外道度が下がりました。
……まあ、相対的に見ての話なんですがね。
盛者必衰。
どんなに勢いがある者も、どうなに強大な力を持つ勢力も。遅かれ早かれいずれは朽ちて滅びゆく。
つまり、これはごく自然な事だったのだ。
《ファファファ、大したバケモノぶりじゃったが、流石にそろそろ終わりかのぉ?》
「ガハハハハ、我ら相手に良くやったよ!」
そう嗤う二柱の神ーーゼウスとハーデス、彼らは周囲に大量の死神と下級神を従えながら敗北者へと視線を送る。
敗北者は紅い髪をしていた。
敗北者は魔王の鎧を纏っていた。
そして、敗北者は滅びのオーラを纏っていた。
そう、敗北者とは最強の魔王、サーゼクス・ルシファー。彼と彼の眷属はこの二神と多数の軍勢の前に敗北してしまったのだ。
「ゼウス、殿。何故、冥界を襲ったッ!」
満身創痍、息も絶え絶え、地に膝をつきながらサーゼクスが苛烈な瞳でゼウスを睨みつける。そう、この冥界侵略はハーデスが主導で行った事ではなく三大勢力の和平に賛成を表明していたゼウスが起こした事だったのだ。
「ほう、まだそんな元気があったか、流石は超越者と呼ばれるだけの事はある」
口ではそう褒めつつも、ゼウスの表情は完全にサーゼクスを見下していた。
それに日頃の優しげな口調を投げ捨ててサーゼクスが叫ぶようにゼウスに問い詰める。
「答えろッ! なぜだゼウスッ!」
「ふん、悪魔風情がこのゼウスを呼び捨てとは不敬極まる……だが、まあ、答えてやるか。何故襲ったかだったな? そんなもの三大勢力を滅ぼすチャンスだったからに決まっておろう」
両手を広げ、心底サーゼクスを馬鹿にし態度を取るゼウス、それにサーゼクスは拳を硬く握り、血を吐く思いで質問を投げかけた。
「貴方自身の口から言ったはずだッ! これから協力体制で行こうと、そう約束したはずだ……自分の、自身の言った事も忘れたのかッ!?」
「ふん、魔術的拘束力のない約束など守るに値しないわ、そもそも儂が本気で三大勢力の和平に賛同していたと思っているのか? そう思っていたならば愚かとしか言いようがあるまい」
「……ッ!」
「儂はギリシャの主神だぞ? 悪魔の味方ではないのだ。当然悪魔ではなく自分の勢力の利益を追求する、それがトップのやる事だろ? ほれ、儂の行動に何か間違いがあったかな?」
そう言ってサーゼクスを嘲るゼウス。
彼の性格の良さが滲み出ていた。
《ファファファ、サーゼクスよ、お主やアザゼルは私がゼウスに逆らい三大勢力の和平を壊そうとしている、そう考えていたようだが、実際は全く違う。この兄使いの荒い弟が自身の冥界侵略の戦力集めの隠れ蓑にする為に私に頼んできたのじゃよ、目立った行動でお主らの意識を集中させてくれとな》
ここでハーデスがネタバラしをする。
今までハーデスが『禍の団』の英雄派と繋がっている、という情報がゼウスからもたらされていた。
そして、ハーデスを裁くために戦力を集めているとも言っていた。
それらは全てゼウスの罠だったのだ。
戦力を集めていたのは冥界を落とす為、そして、禍の団と繋がっているのは何もハーデスだけではなくゼウスも繋がっていたのだ。
「いやすまないな兄上、儂としては天使どもを煽って再び大戦に持って行こうと考えていたのだが、こやつらの結束が思った以上に硬くての、全くの嘆かわしい話じゃよ特に天使など神に創造された分際で無き神の意志に背くとは、異教の神ながら儂も聖書の神が哀れでならん」
そう言って楽しげに談笑するニ神、あまりの怒りにサーゼクスの目の視界が赤くなった。
「貴様らは、貴様らはッ!」
《ファファファ、もう喚くなコウモリよ》
「その通り、目障り故、即消えよ」
そう言ってゼウスとハーデスが両手に凄まじい力を収束する。ゼウスは眩いばかり神雷をハーデスは闇色の死呪を。
共に威力、効力は絶大、たとえ万全サーゼクスだろうと直撃すれば大ダメージは否めない超絶威力の攻撃である。
当然満身創痍で本来の姿すら保てない今のサーゼクスでは絶対に耐えられない攻撃である。
だが、避けるだけなら辛うじて可能だった。
後ろに魔王領がなければだが。
サーゼクスは最後の力を振り絞り、強固な魔力障壁を幾重にも作り出した。
そんなサーゼクスを見て嗜虐的にゼウスとハーデスは嗤うと、収束された力の一部を解き放ち、魔力障壁に打ち当てた。
この攻撃をサーゼクスは歯を食いしばって耐える。
それが面白いのかゼウスとハーデスは大笑いしながら少しずつ攻撃に力を込めていった。
《ファファファ、避けなくて良いのかな? 今ならまだ間に合うぞ?》
「ガハハハハ、健気じゃのう、健気じゃのう、命を賭して民を守るか」
「…………」
その二神の嘲りに必死のサーゼクスは言葉を返せない。
それが、つまらなかったのか、二神は出力を一気に上げてサーゼクスを一瞬で消し炭へと変えた。
超越者とは思えぬ呆気ない最期である。
《ほう、魔王領は守ったか、感心感心》
ハーデスがそう呟く。
彼の言う通り攻撃の射線上にあった魔王領に被害はなかった。
これがサーゼクス最後の意地の結果である。
「ガハハハハ、実に健気、そして実に愚かじゃ、ではのサーゼクス、お主が守った民は儂らが奴隷として扱ってやろう、ちょうど頑丈で寿命が長い奴隷が欲しかったのじゃよ」
そう言ってゼウスは周囲に侍る、下級神達に指示を出す。
「奴隷とする故、魔王領の民を捕まえよ」
《ファファファ、お前達も行け》
ゼウスに続きハーデスも死神達に同じ指示を出した。
「さて、兄上、取り分は儂が6で兄上が4で良いかな?」
《いやいや、何を言う弟よ、ここは苦労を掛けられた儂が6でお主が4じゃろ》
「えー儂が主神じゃし、ここは儂が6でよいじゃろ?」
《いやいや、ここは兄の顔を立てようと思わんか?》
「……むう、では儂が4で良い、ただし美女は全て儂のものだぞ」
《ファファファ、ならば7・3でなければ釣り合うまい……これを飲むならヘラには内緒にしてやろう》
「むむむむ、足下見るのぉ、いや、しかし」
二神のじゃれ合いは続く。
……これがサーゼクス最後の意地の結末だった。
「はぁ、どこで狂っちまったのかねぇ」
アザゼルが、疲れたように呟いた。
自慢の人口神器の黄金鎧は全壊し、その右腕は肩口から消滅、脇腹には拳大の大穴が穿たれている。
そう、正にアザゼルは満身創痍だった。
満身創痍で撤退しているのだ。
「聞こえるかシェムハザ?」
アザゼルは撤退しながら信頼する親友に通信を入れる。
答えは即座に返ってきた。
『無事ですかアザゼル!? すぐ連絡を入れろとあれほど言ったでしょう!』
焦った声でシェムハザが怒鳴る。
よほど心配したのだろう。彼の声は掠れ若干何時もより高かった。
「ああ、悪い立て込んでてな。俺はなんとか無事だよ。で、それよりグリゴリの様子はとうだ? どっかから攻められてたりしないか?」
アザゼルは地上に降り立ち、怪我を人口神器で癒しながらシェムハザに問い掛ける。
『今の所は大丈夫です。どうやら襲撃は悪魔のみにされているようです……アザゼルはどの程度状況を把握していますか?』
その言葉にアザゼルは目を細め、安心した “様” に息を吐き出した。
「あんまり把握は出来てないな、俺の無事が確認出来てなかったって事はソッチも状況把握は出来てなんだろ?」
『ええ、ただ、知っているかも知れませんがギリシャ神話勢力が参戦しました。そして、魔王サーゼクスは……討ち死にです』
衝撃の事実にアザゼルが絶句した。
「…………マジかよ、じゃあ、四大魔王は全滅か? 俺の方も一緒に戦ってた魔王三人が戦死した。神滅狼フェンリル、龍王ミドガルズオルム、死の女神ヘルを道連れにな」
『ロキはどうなりました?』
「奴は生きてるよ、後フェンリルの子供二体もな」
で、俺は残ったロキ達から逃亡中。そうアザゼルは付け足した。
『それにしても四大魔王が全滅ですか………最悪の事態になりましたね、いや、でも貴方だけでも無事て良かった。貴方にまで死なれては困りますからね』
貴方が死んでは堕天使は終わりです。そう言ってシェムハザは笑う。
それにアザゼルは一瞬悲しげな表情をした。
「……はは、死なねぇよ、サーゼクス達には悪いが、これでも俺は堕天使のトップだからな、いくら協力体制とは言え悪魔の為に命までは掛けられねぇ、俺が命を賭けるのは堕天使がヤバくなった時だけだ」
『それで良いんですよ、トップとしては当然の考えです。では、転移の準備をします、貴方の座標を教えてくれますか?』
「ああ、分かった……所でさぁ」
「お前は誰だ」
アザゼルは静かに、だが強い怒気を込めて通信先に言い放った。
『はぁ? こんな時にいきなり何を言ってるんですか?』
「シラ切ってんじゃねぇよッ! 何がグリゴリは大丈夫だ、舐めてんじゃねぇぞッ! 知ってんだよ既にグリゴリが襲われてたなんてなぁッ!!」
誤魔化そうとする通信先の相手にアザゼルは怒りを露わに怒鳴り散らした。
それに通信先の雰囲気が変わる。
『………ふ、ふふ、ふは、ははははははッ! 失敬、失敬、ちょっと甘く見過ぎたな』
その声はシェムハザのものは違う若い男の声だった。
「誰だテメェは?」
再び問うアザゼル。
それに通信先の男? は不思議そうな声を上げた。
『ふむ、分からないか? お前は私をよく知る筈なのだが……いや、この場合分からぬのも無理はないのか? 以前よりかなり変わっているからな』
「知っている? 変わった? グダグダ言わず簡潔に言いやがれッ!」
曖昧な男の言葉にアザゼルがキレた。
『まあ、分からなければそれで良い。私は自ら名乗るつもりはないのでな、己が頭で考えよ』
「ふざけんなよッ!」
『ふざけんてなどいないさ。何でもかんでも教えてもらえると思ったら大間違いだ』
そう言って男は笑う。
そこで若干冷静さを取り戻したアザゼルが煮え滾る怒りを押さえ込み、努めて静かな声で問い掛けた。
「……じゃあ、一つだけ聞かせろ」
『ふむ、それくらいなら構わない。ただし、私が誰かは教えないぞ?』
「テメェは俺が死んだら堕天使は終わりだって言ったな……あれは事実か?」
外れても良い、むしろ外れろ! そう願いながらアザゼルは男の答え待つ。
しかし、現実は非情だった。
『おっと、気付いたか冴えてるな。その通り
さっきは無事と言ったがあれは嘘だ。グリゴリならば滅ぼした。現在生粋の堕天使の生き残り君だけだ』
男はなんでもない風に言う。それにアザゼルは目の前が真っ暗になった。
『ああ、あと、一つ。グリゴリにあった人口神器なる不出来なゴミはこちらで処分しておいた故安心せよ、それではなアザゼル、今度は通信でなく直接会うとしようか』
そう言って通信は切れた。
「…………」
アザゼルは無言で地を叩く。
虚しい轟音が周囲に響き渡った。
「ふふ、鬼の居ぬ間になんとやら、白龍皇の光翼は勿体無いなかったけど、第一目標を忘れてちゃあダメだよね、そう思わないですか? プルート」
《仰る通りです “ハーデスさま”》
冥界より更に下層、冥府に存在する荘厳かつ暗い雰囲気の神殿ーーハーデス神殿。
その神殿の最深部の封印の間、そこに最上級死神プルートの案内でハーデスと呼ばれた少年がやって来ていた。
もちろん、この少年は本物ハーデスではない。本物のハーデスは今、冥界に居るのだから。
「さて、プルート。この封印魔法の解呪方法、貴方は知っていますか? 知っていたら教えて下さい」
声に呪詛を潜ませて少年はプルートに問う。
《申し訳ありません、この封印はハーデスさまが掛けたもの故にハーデスさましか解呪方法知らず、私ではハーデスさまにお教えする事が……はて? 何かおかしいような?》
首を傾げるプルート、それに少年ーー勇真は微笑んだ。
「ふふ、何もおかしくはないよ。知らないなら良いんだ。ではプルート、君は少し眠れ」
その言葉と共に勇真は人差し指でプルートの額を突く。
次の瞬間、氷結封印が発動プルートは氷塊と化し意識を失った。
「さてと」
勇真は左手に装備していた偽赤龍帝の籠手を外すと氷結封印したプルートと共に圧縮空間に放り込んだ。
そして、勇真は偽赤龍帝の籠手を使用した際に溜まった体内の龍気を魔法で完全に消し去る。
これで準備は完了だ。
「初めまして、君を解放しに来たよ」
そう言って勇真は十字架に張り付けら、多数の拘束具で縛られたとある存在に声を掛ける。
最強最悪の龍殺しが、最強最悪の人間の手に渡った瞬間だった。
外道キャラばかり生き残り、原作キャラがボロボロ死んで行く……このSSはこれで良いのか?