勇者さんのD×D   作:ビニール紐

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すいません遅くなりました……ちょっと外道ルートにするか超外道ルートにするか迷いまして。


第37話

 

 

「……見つからねぇ」

 

疲れた呻きと共に勇真はベットに倒れ込んだ。

 

魔獣派の居城から撤退してから20時間。

 

アジトを飛び出し数百回の転移魔法と数千回の探索魔法で地球中を探し回った勇真だが、結局、英雄派のアジトを見つける事が出来なかった。

 

その為、彼は仕方なく疲れた身体を引きずり新アジトに戻って来たのだ。

 

 

 

「お疲れ様です」

 

そう言ってルミネアが魔法薬が入ったコップを差し出す、勇真はベットから身体を起こしコップを受け取ると一気に飲み干した。

 

「……ぷはぁ、ありがとう。少し疲れが取れた」

 

「どういたしまして、しかし、その様子では英雄派は見つからなかったよんですね」

 

「……うん、世界中探したけど影も形もなかったよ、これはもう地上じゃなく、冥界か他の神話体系の世界で更に異界を形成して隠れている可能性があるね」

 

「もし、そうだったらどうしますか?」

 

「今はお手上げ、もう異世界に逃げようか?」

 

「……冗談ですよね?」

 

そう言って白い目で見てくるルミネアに勇真は肩を竦めた。

 

「半分は本気、でも、まあ、まだ何とかなる。魔導人形作成と契約魔法が使えるのがゲオルク一人だけならまだ大した問題じゃない」

 

「そうですね、魔導人形は基本術者の力を分けて作る人形、ゲオルクさんのキャパシティーではそこまで強大な人形はつくれません」

 

魔導人形は特殊な方法を用いないかぎりは基本的に作り手よりスペックが落ちる。

 

それ故に技巧派のゲオルクが作った場合の単純スペックは勇真が作るそれより遥かに劣る事になるのだ。

 

「その通り、魔導人形を一度に使役出来る数は決まってるし、魔導人形を作る際は例え他人から魔法力を奪う契約魔法を併用しても一度奪った力を自分が保持しないといけないから、出来ても下位の最上級悪魔レベルが数体、いや、ゲオルクの場合はリスクを嫌ってむしろ力を奪って作る人形はあんまり作らないと思う」

 

「リスク、そんなのあるんですか?」

 

勇真の言葉に疑問を述べるルミネア。

 

彼女自身も魔導人形の知識を持ち実際に作成出来るのだが、力を奪ってからの人形作成で特にリスクがあるとは知らなかったのだ。

 

「リスクっていうか当たり前の事なんだけど、例えばゲオルクが他人から力を奪って人形を創ったとする、これが一回なら問題ない。ちゃんと自分が保持できる力の量で創られた人形だからね、でも、同じ事を数回して複数の人形を創ったする……この人形が同時に倒されたとしたらどうなる?」

 

「ゲオルクさんに力が……あ、そういう事ですか」

 

「分かったかな? そう、ゲオルクに力が戻る。で、戻って来た力を保持しきれなかったら内側からドカン、汚い花火となる訳だ」

 

「………あれ、それだと勇真さんも危ない状況なんじゃ」

 

そう言ってルミネアは壁際に座る三体の魔王級の人形を見つめる。

 

「そうだね、でも俺の場合は死なない様に計算された量だから大丈夫、偽赤龍帝の鎧という優秀な補助器具があれば俺の身体は5回のまでの倍化に耐えられたしね」

 

「へぇ、赤龍帝の鎧って倍化のアシストもしてくれるんですね」

 

「当然だよ、じゃなきゃ元の自分の数倍、それどころか数百倍とか数千倍の力に身体が耐え切れるはずないでしょ?」

 

「それもそうですね」

 

「で、話は戻るけどゲオルク1人がこの魔法を使うのなら良いんだけど、もし、多人数に教えていたら……ヤバいんだよなぁ」

 

勇真は疲れた様に頭を押さえる。

 

「でも、今はリゼヴィムのせいで英雄派の魔法を使える構成員も減っているのでそこまで気にしなくても良いのでは?」

 

「まあ、そうだけどね。でも、英雄派から他の種族、最悪は神族とかにこの魔法を知られて使われる様になるとねとんでもない事になるんだよね……最悪、数十体の高位神級の魔導人形が創られる可能性があるし……まあ、神族は元々桁外れな力を持ってる種族だから、今更得た新しい力に酔って変な行動を起こしたりはしないと思うんだけど」

 

「………なんにしても早めの対処が必要という事ですね」

 

「そうなるね、はぁ、ここからは先は戦闘ばっかになるなぁ、ルミネアも覚悟しておいてね、多分君も戦う事になる。情けない話だけどルミネアを守りながら戦う余裕がなくなりそうだ……それが嫌なら今から適当な異世界に送るよ?」

 

出来ればルミネアには戦って欲しくない。俺としてはそっちの方が安心と勇真は付け足したい。

 

それにルミネアは首を横に振り、強い決意を秘めた目で勇真の目を正面から見る。

 

「いえ、私も残って戦います。私なんかでも多少は戦力の足しになる筈です」

 

「……うん、その通りだ。確かに足しになる。今の君はキャパシティ限界まで魔法力を高めている。その魔法力は魔力換算なら間違いなく最上級悪魔に匹敵する。新たに得た神器も含めれば魔王とだって互角に渡り合えるだろう」

 

契約魔法で『魔女の夜』の構成員から奪った魔法力。

 

リゼヴィムの負の遺産による人類滅亡、それにより得た複数の神器。

 

そして、元々のエクソシストとしての経験と勇真によって与えられた多数の魔導知識と能力、これらを十全に使えば間違いなくルミネアは魔王級の実力を発揮出来る。

 

実際、戦闘訓練では偽赤龍帝の籠手なしとはいえ、勇真が秒殺出来ないレベルまでルミネアの実力は向上していた。

 

しかし、それでも勇真は不安だった。なぜならここから先は魔王レベル以上の敵が普通に出てくる事になるからだ。

 

「……本当に残るの? 確かに戦力の足しにはなるけど死ぬ可能性も高いよ? 俺的には逃げて欲しいんだけど」

 

「はい、残って一緒に戦います」

 

死にたくありませんが覚悟はあります。そう付け加え、ルミネアは強い決意を秘めた瞳で勇真を見る。

 

それに勇真は嬉しい様な困った様な微妙な笑みを浮かべた。

 

「………はぁ、分かったよ。でも命は大事にしてね」

 

「はい、もちろん勇真さんに助けていただいたこの命、大事に使わせてもらいます」

 

「バトル漫画とかでよくあるけど、そういう言い方は俺は好きじゃないな。聞いてて恥ずかしくなるし、俺が同じ立場だったら感謝はすれど逃げろと言われれば素直に逃げると思うよ」

 

「勇真さんは恩知らずなんですね」

 

「うあ、酷い……う〜ん、じゃあ、フィ、アルマ、ハルナス、お前達はルミネアの危険がないように彼女を守れ、俺の事は気にするな、最優先でルミネアを守るんだ」

 

「「「はい、了解しました」」」

 

そう言って壁際に座っていた魔導人形達が立ち上がりルミネアの側に侍る。

 

「ゆ、勇真さん? 幾ら何でも三人も私に着けるのは大袈裟じゃありませんか?」

 

それに勇真は首を振る。

 

「いや、正直これでも足りない位だよ。しばらく俺はルミネアの様子を見れなくなるからね」

 

「え? それって一体、ど」

 

 

 

 

どういうことですが? そうルミネアが言い終わる前に彼女の足元に巨大な魔法陣が現れる。

 

そして驚くルミネアを他所に魔法が発動、彼女と三体の魔導人形を勇真が修行中に見つけた安全な異世界へと転移させた。

 

 

「……ごめんね、本当に悪いんだけど、元々ルミネアには避難してもらう予定だったんだ。俺はね、たとえ強くても君には戦って欲しくないんだよ」

 

勇真は聞こえるはずない謝罪をルミネアにすると、虚空に魔法で映し出した立体映像を浮かべる。

 

そこには小型の白き龍皇と紫炎を纏った巨大邪龍キメラ、そして神滅狼フェンリルが冥界の各地で街を破壊する姿が映っていてた。

 

「…………」

 

その映像を勇真は真剣な表情で見る。

 

そして、この三大脅威と戦う悪魔達の戦力を比較し勇真は参戦する予定時刻を決めた。

 

 

 

「……あと、10時間くらいは保つかな?」

 

そう呟いて勇真はベッドにダイブ、目覚ましをセットして目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

裂帛の気合を込めて黄金の甲冑を纏った男ーーサイラオーグが、覇龍と化したヴァーリに拳を叩き込んだ。

 

響き渡る轟音、そのあまりの威力に覇龍の兜にヒビが入る。

 

しかし。

 

「ぐふっ」

 

お返しにそれ以上の威力の拳がサイラオーグに打ち当たり、彼は凄まじい勢いで殴り飛ばされてしまう。

 

超速で殴り飛ばされたサイラオーグはなんとか体制を立て直して足から着地、直後サイラオーグの着地地点の地面が吹き飛び巨大なクレーターが出来上がる。

 

それほどの威力で殴り飛ばされたのだ。

 

「はあ、はぁ、はぁ……フッ、パワー、スピード、魔力、何もかも上とは恐れ入る」

 

たったの一撃で膝をつく羽目となった自分に苦笑を浮かべるサイラオーグ。

 

彼の鎧は今の一撃で半壊している。

 

特に直接ヴァーリの拳が当たった箇所は酷い。そこは鎧部分が完全に砕け散り、砕けた破片が深々とサイラオーグの胸と腹に埋もれ、今も大量の血が流れていた。

 

『サ、サイラオーグ様、早く傷の手当をッ!』

 

サイラオーグの眷属悪魔にして彼の鎧たる神滅具のレグルスが焦った声でサイラオーグに告げる。

 

「問題ない、まだやれる」

 

だが、レグルスの忠告をサイラオーグは拒否、彼はふらりと立ち上がると、今も街で暴れるヴァーリを睨みつけた。

 

『し、しかし』

 

「狼狽えるなレグルス、獅子王の名が廃るぞ? そして見ろ、あの戦場を」

 

そう言ってサイラオーグはヴァーリの近くを指でさす。そこには今も必死に戦っている赤い龍帝の姿が。

 

「人間からの転生悪魔を戦わせて純血の上級悪魔が傷の手当で戦線を離脱するのか? このバアル領の上級悪魔たるサイラオーグ・バアルが?」

 

『…………』

 

「レグルス、忠告感謝する。お前の言っている事は戦略的に正しい……しかしな、意地があるんだ」

 

そう言ってサイラオーグは鎧を再生させると、全力で地を蹴り激戦地へと再び舞い戻っていった。

 

 

 

 

 

最初にヴァーリが暴れた北欧は最悪の結末を迎えていた。

 

白龍皇ヴァーリによりヴィーガルが殺害され、ラグナロクに死する運命だったフェンリルの予言が外れたのだ。

 

これによりヴァーリと共にフェンリルがアースガルズで暴走、ロキの陽動も相まってたった数日でアースガルズは滅ぶ事になる。

 

そして、ロキは数多の神々を喰い殺し更に力を増したフェンリルに、暴走し何もかも殺し尽くそうとするヴァーリを抑え込ませると。史上最悪のイタズラとしてフェンリルとヴァーリを冥界の別々の都市に転移させてしまったのだ。

 

 

で、そこに遅れて発動したリゼヴィムの忘れ形見の一つ、伝説級邪龍とキメラにされた神滅具使いのヴァルブルガが追加、更にこの機に乗じて目障りな三大勢力を潰してしまおうと三大勢力に恨みを持つ他の神話体系の神々が大量に攻め込んで来て、冥界文字通りの地獄と化してしまったのだ。

 

 

 

 

 

「悪いな兵藤一誠、少し外した」

 

「サイラオーグさん!? 大丈夫ですか!?」

 

「問題ない、まだまだやれる……奴は、封殺中か」

 

サイラオーグの視線の先には黒炎に包まれ、多数のラインで雁字搦めにされている白龍皇の姿があった。

 

 

『大丈夫かい? バアル大王』

 

「ギャスパー・ヴラディか、お前が白龍皇を止めているのか?」

 

『まあ、僕一人じゃなく匙とのコンボだけどね。この感じだと後1分は止められるからの今の内に回復させるよ』

 

その言葉と共にサイラオーグとイッセーは優しい光に包まれる。

 

ギャスパーの回復魔法だ。

 

ただし、普通の回復魔法ではなく遠距離からのモノである。

 

「……流石は魔神バロールの生まれ変わりと言ったところか? 視線を送るだけで回復も攻撃も思いの儘とは」

 

リアスは本当に良い眷属を持ってるな少し妬んでしまいそうだ。そう言ってサイラオーグは笑う。

 

「なあ、匙、ギャスパー、今の内に攻撃しちゃまずいのか?」

 

『今はやめてくれ、吸収力重視のラインと黒炎でパワーを吸ってるから、これで拘束出来てんのはギャスパーの時間停止のおかげなんだ、だからイッセークラスの攻撃なら余波で弾け飛ぶくらい脆い拘束なんだよ』

 

イッセーの問いに少し離れた位置にいる漆黒の鎧を纏った匙が答えた。

 

黒炎とラインを操る匙の周囲には凄まじい濃度の呪詛が渦向いている。まだ彼は禁手に慣れてない故に呪う対象を限定できていないのだ。

 

『僕もしない事をオススメする。停止が即解除される上、外から強力な障壁と時間停止、あとラインと黒炎で動きを止めてる訳だから攻撃してもあんまりダメージを与えられない、今はむしろ白龍皇から力を吸収して体力、魔力の回復を図った方が断然良いよ……と、そんなこと言ってる間にそろそろ時間だ。アレ相手に時間停止をするには少し力を溜めないといけない。次、時間停止を使えるのは3分後になるからそれまで頑張ってね』

 

ギャスパーの言葉が終わると同時に黒炎とラインが内側から弾け飛び、ヴァーリが自由となる。

 

匙が大量の力を吸収した筈なのだが未だヴァーリのオーラは絶大、イッセーとサイラオーグを足した軽く十倍のオーラを纏わせゆっくりとした動きでイッセー、サイラオーグに振り返る。

 

 

次の瞬間、死角から迫ったラインがヴァーリの四肢に絡みつき、彼の胸の中央に剛力と加速魔法陣で超々高速となったアスカロンが突き立った。

 

「「ハッ!」」

 

そして四肢拘束と魔弾の直撃で大きく体制を崩したヴァーリにイッセーとサイラオーグが同時に襲い掛かった。

 

止め処なく降り注ぐ拳打の嵐、匙が強固なラインでヴァーリの行動阻害とパワー吸収、更に凶悪な呪いの流し込み、サイラオーグが超威力かつ熟練の体技でヴァーリの体制を崩し続け、イッセーがラインの強度を『譲渡』で向上させながら、攻撃に転じようとするヴァーリの動きを潰していく。

 

 

拘束してボコる。

 

シンプルだが効果的な強者潰しの戦術だった。

 

これにヴァーリは何も出来ずにタコ殴りにされてしまう。だが、それでも最初のアスカロン以外でヴァーリに目立ったダメージは見られない。

 

せいぜい、鎧にヒビが入っているくらい、だが、それも一瞬で修復される始末だ。

 

 

まるで疲弊していない。

 

それがサイラオーグ、イッセー、匙、そしてギャスパーの感想だった。

 

幽世の聖杯でコストを支払いその上でフェニックス並の回復力を得た時間無制限の覇龍、これほど理不尽な存在は世界中を見渡しても両手の指で余る。

 

こんなものに立ち向かへとか完全に罰ゲーム、勘弁してくれと匙は内心で愚痴った。

 

「おい、ヴァーリッ! お前がしたかった戦いってこんなものになのかよ! 所構わず適当に暴れるのがお前のしたかったことなのかッ!?」

 

「…………」

 

『…………』

 

イッセーがヴァーリに攻撃を加えながら話し掛ける。それにヴァーリもアルビオンも答えない。いや、そもそも二人は今、意識がないのだ。

 

アルビオンはヴァーリが生き返った時から、そしてヴァーリはリゼヴィムが死んだ時からない。

 

だから、リゼヴィムに命じられたままに全てを破壊しようと動いているのだ。

 

だが、それはある意味幸運なことでもある。

 

彼等に意識がないからこそ、この戦いが成り立っているのだ。ヴァーリの意識がある状態で彼がやる気なら、勝負は一瞬で着いていた。

 

残念だが、それほどまでに今のヴァーリと四人のスペックには大きな隔たりがある。

 

それを理解しつつもイッセーは強い憤りを感じていた。

 

「くそッ! 簡単に操られやがってッ! お前、それでも最強の白龍皇なのかよ!? それで俺のライバルのつもりなのかよ!? 悔しかったらいつもみたいに挑発でもなんでも返してみやがれッ!!」

 

「…………」

 

「……本当に意識ないのかよ」

 

何も答えないヴァーリにイッセーはどこか寂しげに呟いた。

 

『時間停止の準備が出来た。10秒後に停止するからそれ以降は攻撃しないでくれ』

 

「…………分かった」

 

 

 

そして、10秒後、再びヴァーリの時間が停止する。それと同時に匙が黒炎をヴァーリに纏わせ、ラインの様式を拘束力重視から吸収力重視に変更、ラインをイッセー、サイラオーグ、ギャスパーにも繋げるとヴァーリがら吸い出した大量の力を譲渡し始めた。

 

『攻撃してみてどうだ? 言っちゃなんだが全然効いてないように見えるんだが』

 

匙がどこか不安そうにイッセーに話し掛けた。

 

「正直、効いてない」

 

イッセーは匙の問いに疲れた声でぶっきら棒に答える。

 

だが、それにサイラオーグが異を唱えた。

 

「いや、多少は効いている、だが、回復力が高過ぎてダメージとして残っていないだけだ。……ギャスパー、お前は能力の『停止』も出来ると聞いたのだが、あの回復力をなんとか出来ないか?」

 

『残念だけど無理だね。使い手がちょっと強い程度の相手なら停止する事も可能だけど、あのレベルの相手の能力を封じるのは不可能だ。むしろ、時間停止もあと何回出来るか分からない。慣れたのか知らないけどどんどん停止するのが難しくなってきた』

 

「神器取り出しは使えないか? 匙はアザゼル先生に聞いてやり方を知ってるんだよな?」

 

『出来るぞ、俺抜きでアレを三時間、身動き出来ない状態にしてくれればな』

 

「はは、出来れば3分に短縮してくれ、そしたら死ぬ気で羽交い締めにするから」

 

『……ごめん嘘、俺じゃあ神器取り出しは無理。多分アザゼル先生でも10分は掛かる』

 

「そのアザゼル総督は今どこに?」

 

『総督はシトリー領で、三人の魔王と共に悪神ロキ、神滅狼フェンリル、龍王ミドガルズオルム、死の女神ヘル、その他多数の高位魔獣と戦闘中だね。かなり押されてる様だから救援は難しそうだよ』

 

うわぁ、寝坊助ドラゴンが本気出してるよ。そうギャスパーは付け加えた。

 

「……詰んでるな、こっちも『覇龍』に掛けて短時間で決めるしかないか?」

 

「ならば俺も『覇獣』をしよう、二人ならばまだ倒せる可能性がある」

 

『おいおい、落ち着いてくれ、それはもう少し考えてからでも良いだろう。体力、魔力は今の所はヴァーリから吸収して回復出来るんだ、まだ焦る時間じゃない』

 

『匙の言うとおりだね、君達に今リタイアされると困る。それに敵は白龍皇だけじゃないんたよ? フェンリル組にヴァルブルガはもちろん、今冥界は聖書勢力が気に食わなかった多数の神に襲われてる。特についさっき参戦したゼウスとハーデスがヤバいねアレは完全に聖書勢力を潰す気だ』

 

そちらは魔王サーゼクスとその眷属が抑えているが、主神級二柱相手にいつまで持つか。そう、ギャスパーは言う。

 

「ゼウスって、前会った時は気の良いおっさんみたいだったぞ!?」

 

『はは、そんなの外面だけさ、ギリシャ神話を知らないのかい? あそこの神々は下衆の巣窟だよ……と、そろそろ停止が解ける。再開の準備をッ!?』

 

ギャスパーが驚きの声を上げる。

 

それと同時に虚空から巨大な鎖が出現し、ヴァーリを雁字搦めにして宙に張り付けた。

 

そしてヴァーリの背に一人の男が現れる。

 

 

 

 

「やあ、兵藤一誠、調子はどうかな?」

 

「あ、あんたは『与える者』ッ!?」

 

イッセーが驚きを露わにする。

 

こんな所で会うとは思わなかったのだ。

 

「そう、与える者だ、覚えていてくれて嬉しいよ」

 

相変わらず特徴が薄い与える者、しかし、纏うオーラは以前よりも遥かに強い。はっきり言ってヴァーリに近いレベルである。

 

「……何しに来た? まさか、お前も冥界を襲いにッ!」

 

イッセーが警戒した様に構える。

 

それに与える者は違う違うと、手首をひょいひょい動かして否定する。

 

「はは、まさか、私は平和主義者だ。そんな事はしないさ。私がここに居るのは契約者の君の危機を感じ取ったから加勢に来たんだよ」

 

そう言って胡散臭い笑みを浮かべると与える者はヴァーリの胸からアスカロンを引き抜いた。

 

そして、彼はその傷口がふさがる前に自分の右手をヴァーリの胸の中に突っ込んで神器取り出しの術式を発動する。

 

その行動にヴァーリが激しく抵抗、暴れるヴァーリによって頑強な鎖が大きく揺れた。

 

しかし。

 

「騒がしい」

 

その言葉と共に与える者は引き抜いたアスカロンを今度はヴァーリの顔面に突き刺さすと行動阻害の呪詛をたっぷりと流し込み、ヴァーリの動きを強制停止。

 

そこで匙とギャスパー、そしてイッセーが疑問を覚える。

 

与える者が使った行動阻害の魔法に見覚えがあったのだ。

 

だが、三人の疑問を他所に与える者は右手を起点に神器を抜き取ろうとする。

 

それにより凄まじい拒絶反応が巻き起こり、衝撃波が与える者に叩きつけられた。

 

だが、与える者はこの衝撃波を涼しい顔で耐えきり、更なる魔法力を術式に込める。すると、拒絶反応が消えヴァーリの胸から黄金の光が漏れ出した。

 

 

そして、与える者の右手をヴァーリの胸から引き抜く。そこには黄金の杯ーー『幽世の聖杯』が握られていた。

 

ほんの1分足らずの早業である。

 

『なっ!? そんなあっさりッ!?』

 

簡単に引き抜かれた神滅具に匙が思わず声を上げた。

 

「ん? そんな驚く事でもない。この聖杯は元から彼が持っていたモノではない。故に魂との結び付きが弱いんだ。だから簡単に引き抜ける……問題はここからさ」

 

そう言って与える者は圧縮空間倉庫に聖杯を入れると、もう一度神器抜き取りの術式を発動する。

 

今度は白龍皇の光翼を奪い取るつもりなのだ。

 

「ふふ、有用な神器だからなこれも『Divid(ディバイド)ッ!』む?」

 

与える者の言葉の途中に白銀の鎧が怪しく輝き言葉を発した。

 

それは半減能力の発動音、それに危険を察知した与える者が即座にヴァーリの近くから退避、同時に……。

 

 

 

『Divid Divid Divid Divid Divid Divid Divid Divid Divid Divid Divid Dividッ!!』

 

『「うおぉぉおおおおおッッ!!」』

 

ヴァーリとアルビオンが吼えた。

 

そして暴れるヴァーリの前に半減能力で強度を落とされたグレイプニルが砕け散る。それを見て与える者は小さく溜息を漏らした。

 

 

「はぁ、せっかく北欧で拾って来たグレイプニルを壊さないで欲しいな、まだまだ使い道があったのに、コレは弁償して貰わねば……あ、白龍皇の光翼をくれるなら弁償しなくても構わないよ?」

 

そう軽口を言う与える者に、ヴァーリは顔面に刺さったアスカロンを引き抜いてから答えた。

 

「グゥッ! …はあ、はあ、はぁ………フゥ、ふ、ふふふ、それは悪い事をした、だが弁償なら幽世の聖杯でお釣りが来るだろう?」

 

そうヴァーリが答える間に彼の顔面が修復されていく。完全に致命傷だったはずだが、まだ僅かだが聖杯の加護が残っていたのだ。

 

「いやいや、北欧最高の拘束具だよ? 全然釣り合わないさ、それに洗脳から解放してあげたんだから少しくらいサービス出来ないの?」

「恩着せがましいな。洗脳が解けたのは意図的ではないだろう?……とはいえその点は感謝している。だがやれないものはやれないな、どうしてもと言うのなら相手になるが?」

 

そう、好戦的な笑みを浮かべるヴァーリ。

 

それを見て与える者は呆れたような目をした。

 

「洗脳されて戦わされて、解放されても戦いを求めると、生粋の戦闘狂だね……おーい、兵藤一誠! 一緒にコイツをボコらない? 報酬は弾むよ?」

 

そう言って与える者は少し離れたイッセーに提案する。

 

それにイッセーはしばし無言で考えてから、ヴァーリをまっすぐ見て彼に質問を投げかけた。

 

「………ヴァーリ、お前はまだ冥界を襲う気はあるのか?」

 

その言葉にヴァーリは与える者を警戒しながらイッセーに視線を向けた。

 

「今はないな、むしろ俺は冥界を襲っている奴ら、特にフェンリルと戦いたい」

 

「その言葉、嘘じゃないな」

 

「ああ、嘘じゃない」

 

「………分かった信じる。与える者、俺は今、ヴァーリとは戦わない。どうしても戦いたいなら1人で戦うんだな」

 

イッセーの言葉に与える者は眉をひそめた。

 

「敵の言葉を簡単に信じ過ぎじゃあないかな? ……まあ、良いか、ではそちらの三人はどうだい?」

 

「俺は止めておく、それよりも他の襲撃者の対処がしたいからな」

 

『サイラオーグさんに賛成だ。白龍皇に戦意がないなら俺も早く会長達と合流したい』

 

『僕も手伝う気はないね…….そもそも幻術で姿を偽っている奴なんて信用出来ない』

 

ことごとく協力を拒否される与える者。

 

この状況に与える者は苦笑いで肩を竦めた。

 

「ふむ、嫌われたな。仕方あるまい、どうしても欲しいモノでもないからな今回は退くとしよう。では兵藤一誠、英雄派についてはくれぐれもよろしく頼むよ」

 

それだけ言うと与える者はイッセーの答えも聞かずこの場から転移で消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヒロインは退避させるもの!

ヒロインは戦わせるものじゃないんだ!

正直、好きな子が戦ってたらそっちに意識が行って上手く戦えないと思う。その点、イッセーは凄い、割と高頻度でヒロイン達をボコられてるけど意識がそっちにそれて隙を晒す描写がほとんど無いし、むしろ怒りでパワーアップする位だし。

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