男女平等パンチ(白目)
「……流石に防ぎ切れなかったか」
両手を突き出し、衣服をボロボロにしたレオナルドがそう洩らす。
そんな彼を見て勇真は眉をひそめた。
「……全力で撃ったつもりだったんだけど?」
「いや、今ので手加減したとか言われたら僕もお手上げだよ」
そう苦笑するレオナルド。
そんなレオナルドに勇真は警戒心を強めた。
今勇真が撃った魔法は生半可な威力ではなかった。それこそ高位の神を防御の上から消し飛ばす、超絶の威力があったはずなのだ。
にも関わらずレオナルドは両手が焼け爛れる以外は目立った外傷はない。
それどころが後ろのゲオルクと黒髪の猫娘ーー黒歌すら完璧に守り切っていた。
「…………」
そんなレオナルドのあり得ない実力に若干の危機感を覚えた勇真はそのカラクリを見抜く為に探索魔法を発動する。
結果、ある程度だがレオナルドが攻撃を防げた理由を理解出来た。
「……なるほど、そちらも倍化能力を使った訳か」
「ふふ、ご名答」
探索魔法の結果、レオナルドの “影” の中から大量の力が彼に流れ込んでいるのが分かった。
これは赤龍帝の倍化能力と譲渡。
リゼヴィムの遺産の偽赤龍帝軍団、何処にも現れていないと思ったら魔獣派が密かに確保していたらしい。
「これは面倒になったなぁ、それにしても影の中から譲渡なんて真似も出来たんだね、知らなかった……もしかしてそれは『影の大盾』?」
「秘密だよ」
「だよね〜」
世間話をする様に勇真とレオナルドは楽しそうに話し続ける。
勇真は倍化呪詛をレオナルドに流し込む為と、彼のそばに倒れているゲオルクと黒歌が人質として有効か探る為。
そして、レオナルドは勇真の次の狙いを “読む” 為に。
でなけば戦闘中に楽しくお喋りなどする筈がない。この二人は戦闘狂でもなければ戦闘中に無駄話をする様なタイプでもないのだ。
で、それ故にレオナルドは数秒会話をしただけで即座に戦闘に入ろうと考えた。
何故ならレオナルドは勇真の心を読めなかったから。
同格以上というのもあるが、洗脳魔法等を警戒した勇真の精神防衛魔法が硬すぎて心を覗けなかったのだ。
逆にレオナルドは勇真の呪詛を完璧に防げているようで実はそうではない。
凶悪な呪詛はごく僅かだが今も確実に彼を蝕んでいる。
故にレオナルドは一方的に不利になる会話を切り上げ、影に避難させていた信頼する家族をその場に出現させる。
現れたのは金色の少女と赤が4体、白も4体、計8体の龍犬だった。
龍犬は白と赤でタッグを組むと、超強固な防御結界を形成する。
しかし、何故か金色の少女だけは防御結界に入らず勇真を睨みつけた。
「さっきはよくもやったな!」
そう言いたらビシッ!、という音が鳴りそうな勢いで金色の少女ーーエキドナが勇真を指差す。
それに勇真は困惑した。
「え、君と俺って初対面だよね?」
「顔を合わせる前にやられちゃったんだよッ!」
「ん……ああ、あの島に向かってた強い気配の奴が君か、おのれ、俺は女性には手を上げない主義だったのに君のせいでそう名乗れなくなってしまったじゃないかッ!」
「逆ギレッ!?」
勇真の言葉にブンブンと両手を振り回して抗議するエキドナ。
超隙だらけである。
「はぁ」
勇真は小さく溜息を吐くと、おもむろにエキドナを指差した。
「な、なによ」
そう、警戒したように言うエキドナ。
そんな彼女を無視して勇真は指の差す場所をエキドナから彼女の斜め後ろに移動させる。
で、その指の先を追ったエキドナが勇真から目を離した瞬間、勇真の右手によって放たれた収束魔法力弾が彼女の頭を木っ端微塵に吹き飛ばした。
女性に手を上げない主義とはなんだったのか? 舌の根も乾かぬ内の凶行である。
「な、なにすんのよッ!!」
この凶行にエキドナは激怒。
瞬時に頭を再生させ勇真を怒鳴り散らす。
しかし、そんなエキドナを勇真は無視、彼は怒る彼女を尻目に再び溜息を吐き出した。
「はぁ、やっぱりダメだよな、結界破壊用とは言え倍化魔法を受けて死んでないんだから当然持ってるよね再生能力……いや、魔獣創造の独立亜種禁手って言ってたからもしかして神器所持者を殺さないと消えないタイプか? 良い禁手をお持ちで」
「ふふ、自慢の僕の半身だからね……まあ、おバカなのが玉に瑕だけど」
「マ、マスター!?」
「はいはい、エキドナ前を向いて、また攻撃を受けるよ」
「……むぅ、分かりました」
エキドナはバックステップで龍犬が張っている障壁の内側まで下がると勇真に向かってあっかんべぇをした。
「うーん」
このエキドナとレオナルドの様子を見ながら勇真はどうするか考える。
敵は12、内の2は戦闘不能中、人質の価値があるかは不明。
10の敵の内の2は魔王級以上の実力者、残りの8は平常時は下位最上級悪魔レベル、しかし瞬間最大攻防力は魔王級の倍以上の難敵だ。
「…………」
勝てないことはない。
いや、今の勇真ならむしろ勝率は高いだろう。
しかし、相手は確実に何か隠し球を持っている。偽赤龍帝の鎧も使用時間と最大倍化出来る回数が決まっておりあまり余裕がある訳ではない。
そして、鎧なしでは勝率は一気に激減する。
ならば……
『Boost Boost Boost Boost Boost‼︎』
速攻でカタをつける。
「そう言えば聞きたいことがあるんだけど?」
そう話す、“幻術” を元の位置に残し、勇真は倍化により効力を増した瞬間転移で8体の龍犬が作る強固な防御結界を素通りしレオナルドの背後に移動。
レオナルドが振り返る前にその首を斬り落とし心臓を抜手で貫いた。
だが、レオナルドはエキドナ同様瞬時に頭を再生させる。
再生の際に火の粉が舞った。
フェニックスの不死性!
本体まで不死とか面倒い事やめろよ。そう思いつつ勇真はレオナルドの胸を貫いている左手で神器抜き取りの術式を発動、彼から魔獣創造を奪い取ろうとした。
しかし、術式は不発。
やはり独立亜種禁手と言うだけあり、エキドナ自体が魔獣創造の核なのだろう。
ことごとく狙いを外された勇真は舌打ちし、左手から爆裂魔法を放つとレオナルドを身体の内側から粉微塵とした。
「お前ぇぇぇッッ!!」
ここでレオナルドを木っ端微塵にされてキレたエキドナが勇真に特攻する。
しかし、その速度は遅い。
いや、世界的に見ても速い方なのだが、勇真から見れば遅い。
勇真はエキドナが拳を引きパンチを繰り出そうとする間に彼女の首を斬り落とし胴体を両断、首から離れた頭を胴体ごと縦に真二つに斬り分けた。
「ううぇ?」
二つに割れて宙を舞うエキドナの頭から変な声が漏れる。
そんな頭を勇真は殴り飛ばし、胴体を蹴り飛ばす。
そして、エキドナのパーツが飛ばされた先には何時の間にか張られた多重加速魔法陣が……。
次の瞬間、エキドナのパーツが超々高速弾と化し左に固まっていた4体の龍犬に激突する。
最大倍化時が魔王級以上とはいえ平常時は所詮下位の最上級悪魔レベル、前にしか障壁を張っていない龍犬はエキドナもろともバラバラに吹き飛んだ。
しかし、その龍犬すらもレオナルド達と同様に瞬時に再生してしまう。
赤龍帝の次はフェニックスのバーゲンセールか。勇真は内心で溜息を吐くと今回レオナルドを倒す事を断念、倒れて気絶しているゲオルクの首根っこを掴むと氷結魔法で氷の彫像とし圧縮空間に放り投げた。
『Boost Boost Boost Boost Boost‼︎』
「今回は引かせてもらおう」
そう言って勇真は両手に強大な炎熱球を作り出し。
『
そこに力を譲渡。
転移で逃げる間際に炎熱魔法を炸裂させ、せっかく再生したレオナルド達を一瞬にして灰にしたのだった。
「ただいま〜」
「お帰りなさい、怪我とかしてませんか?」
勇真は追跡阻害の魔法を掛けながら複数回転移して、ルミネアに指示して新たに太平洋の深海に作ってもらっていたアジトに足を運んだ。
「はぁ、怪我はしてないよ」
そう、溜息と共に言う勇真。その顔には『疲れた寝たい』と書いてあった。
「大丈夫ですか、なんか凄い疲れてません?」
「うん、慣れない倍化のせいですんごい疲れた……しかも、こんな労力を掛けたのに敵の首領を打ち取れなくてね」
「逃げられたんですか?」
「いや、俺の方から撤退した」
「そ、そんなに相手は強かったんですかッ!?」
それを聞いてルミネアは驚愕する。
当たり前だ、偽物とはいえ赤龍帝の鎧を纏った勇真が撤退するとは只事ではない。
それこそ主神級かあるいは……
「オーフィスが出たんですか?」
無限の龍神が出なければあり得ない。そうルミネアは思っていたのだ。
しかし、勇真はルミネアの言葉に首を振る。
「いや、オーフィスは出てない。ただ敵が強かった、それ以上に不死性がヤバかった。もうね、倍化能力でフェニックスの不死性を高めてくるもんだから神クラスの一撃でも全然死んでくれないんだよ。で、あんまり時間を掛けると鎧が解除されちゃうから危険と判断して逃げてきたって訳」
「そうだったんですか……倍化能力ってまさか赤龍帝のですか?」
「そう、リゼヴィムが言ってた量産型赤龍帝と白龍皇、それを魔獣派が確保して研究したんだろうね、魔獣創造で倍化能力と半減能力持ちの魔獣を創ってたよ。ほんとそんなのありかよって感じ、幽世の聖杯もそうだけど魔獣創造のスペックってどうなってんだろう? チートにも程があったよ」
あのチート少年め、そう毒づく勇真。
この言葉を聞いたらレオナルドは笑顔で鏡見たらと言う事だろう。
そしてそれは勇真の才能と実力を知るルミネアも同様だ。
「……勇真さんはあんまり人のことは言えませんけどね」
どこか呆れたように言うルミネア。
その言葉に勇真は肩を竦めた。
「自覚はあるよ。でもそれはそれ、隣の芝は青く見えるっていうでしょ?」
「確かに、言いますけど……いえ、それで今後はどうしましょうか?」
どこか釈然としない思いを抱きつつルミネアが今後の方針について勇真に聞く。
「魔獣派はしばらく放って置く。残念だけだ今の俺だと殺しきれない。だから先には英雄派を堕として奴等のというか曹操の『黄昏の聖槍』を奪おうと思う。あれを倍化能力と『無窮の英雄』で強化すれば流石にレオナルドにも通じると思う」
てか、それで通じなかったらなお手上げ、そう付け足す勇真。
「でも、英雄派のアジトは分かるんですか?」
「分からない。だからこれから聞く」
「はい?」
勇真の言葉に首を傾げるルミネア。
それを尻目に勇真は圧縮空間から氷塊をーー氷結封印したゲオルクを取り出した。
「こ、これゲオルクさんですか!?」
「そう、お土産のゲオルクです。今から彼に英雄派のアジトを聞いて聴き終わったら神滅具と魔法力を奪ってポイしようか、ふふふ、例え情報を喋らなくても守りの要のゲオルクが居ない英雄派を見つけるなんて楽……………あれ?」
言葉の途中で疑問を口にする勇真。
その表情からは驚きが見て取れる、一体何があったのか?
「……どうしたんですか?」
「いや、ちょっと待ってね」
そう言って勇真は氷結封印を解除。
すると……
ゲオルクの輪郭が崩れドロドロの液状になってしまった。
「……やられた、魔導人形だ」
そう勇真は苦々しい表情で呻いた。
「ま、魔導人形って勇真さん英雄派にいた時に教えたんですか!?」
「そんな訳ないよ、セラビニアの魔法は基礎の基礎、簡単な攻撃魔法しか話してない。多分、今回、監視されてる時に魔導人形の作り方を理解して盗まれたんだろうね」
顔に焦りを滲ませてガリガリと頭を掻く勇真。
その表情から不味い状況になったのがルミネアからも一目で分かった。
「……もしかして以前英雄派に置いて来たエレインちゃんが原因では?」
それにそんなはずはないと横に首を振る勇真。
「いや、英雄派に置いてきたエレインちゃんは自爆させたから術式解析なんて出来ないはずだ」
「では本当に見ただけで模倣を? あれって知識があっても創るのが難しいですよね?」
そんな事が可能なんですか!?
驚くルミネア、しかし、驚いてるのは勇真も一緒だった。
「俺は無理だと思ってた。実際、俺も同じ状況でコレを盗めと言われたら出来ないと思う……そう言えばゲオルクは多数の神話体系の魔法をミックスして使ってたなぁ、迂闊だった。多分、技術を盗むことに掛けて天才的な能力を持ってたんだ」
それにしたって異常だ、なにアイツ複○眼でも持ってたの? うわぁ、超面倒くさい事になった。そう言って勇真は頭を抱える。
「……こ、これってもしかして、契約魔術も盗まれてますか?」
恐る恐るといった風にルミネアが勇真に聞く。
もしそうだったらヤバイなんてレベルの状況ではない。で、ルミネアはその質問の答えが勇真の顔から垂れた冷や汗で簡単に分かった。
「……多分ね、これは何としても早急に英雄派を潰さないととんでもない事になる」
勇真は疲れたように天を仰ぐと。
圧縮空間から魔法薬を取り出し一気飲み、嫌々ながら徹夜の覚悟を決め探索魔法で英雄派のアジトを探し始めた。
あれ? チートvsチートの筈がレオナルドくんサンドバッグにしかなってないッ!?