勇者さんのD×D   作:ビニール紐

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ゲオルクさんマジ有能。


第33話

「………はぁ」

 

異空間に作られた英雄派のアジトで曹操は深い溜息と吐き出した。

 

「どうした曹操、溜息など吐いて」

 

そんな曹操を心配しゲオルクが話し掛ける。

 

それに曹操は苦笑いを浮かべると溜息の訳を話し出した。

 

「いや、ただ俺は何をしているのだろうなぁと、思ったんだ」

 

「何をしてるか?」

 

「そうだ。俺は英雄になりたかった、だが英雄の定義が今は分からないんだ」

 

「…………」

 

「いや、そもそも俺にはこれと言った強い英雄像がなかったんだ。以前バルパーに言われて初めて気づいたよ」

 

「……それで、どうする気なんだ?」

 

「はは、それが分からないんだ。人類もほぼ壊滅状態だからなぁ」

 

これでは人々を守る英雄も名乗れない。

 

「あまり暗い雰囲気を作るな、お前は英雄派のトップなんだぞ? お前がその調子では英雄派全体の士気に関わる」

 

「いや、士気なら大丈夫だろう?」

 

そう言って曹操は執務室から見えるトレーニングルームを指差した。

 

そこには……

 

 

 

 

「私の後に続けぇぇぇッッ! 聖剣最高ぅぅぅうッッ!!」

 

「「「「「「「「「「「聖剣最高ぅぅぅうッッ!!」」」」」」」」」」

 

「聖剣最強ぅぅぅうッッ!!」

 

「「「「「「「「「「「聖剣最強ぅぅぅうッッ!!」」」」」」」」」」

 

「聖剣無敵ィィィッッ!!」

 

「「「「「「「「「「「聖剣無敵ィィィッッ!!」」」」」」」」」」」

 

……と、叫びながら聖剣を創り、聖剣を振るい、聖剣を飛ばす。そんな訓練? をしているバルパー達の姿があった。

 

 

 

 

「…………」

 

それを見てゲオルクは無言で目元を押さえた。

 

「……何時からああなった?」

 

「ゲオルクは結界に集中してもらっていたから知らなかっただろう? バルパーが来て直ぐに布教を始めた聖剣教がついこの間、実を結んだ……というか、バルパー直属の聖剣使い部隊以外殆の下級構成員がリゼヴィムの呪いで死んでしまい、結果としてアレらが残ったという訳だ」

 

「……お前が育てていた複数の神器を使う幹部候補は?」

 

「あのバルパーの隣でやけに叫んでるのがソレだ、だがあの野郎、今は何故か聖剣系神器しか使わないんだ…困った事にな」

 

せっかくレア神器を複数持っているのに、と曹操は嘆いた。

 

「……そうか、派閥の名前を英雄派から聖剣派に変えるか?」

 

「既にバルパーから打診があった。現在検討中だ」

 

どこか暗い瞳で言う曹操に、ゲオルクは居た堪れない気持ちになった。

 

それはともかく、彼はそろそろ曹操に話し掛けたもう一つの理由を切り出す事にした。

 

「…………それで曹操、お前に言われて調べていた勇真のここ一週間の行動を記録したモノが在るんだが、見るか?」

 

 

ゲオルクの手元には幾つもの鏡の様なモノが浮いている。それはリゼヴィムの件により彼が新たに得た神器だった。

 

この神器の能力は訪れた場所の “過去” を写し記録する事。

 

その性質上この能力を知っていなければ防ぐことが難しい情報収集において非常に有用な神器だ。

 

この神器を用いて勇真の能力と目的を調べてくれ、それが曹操がゲオルクに言われた事だった。

 

「ありがとう、見させてもらうよ、でもなんか嫌な予感しかしないなぁ」

 

その言葉にゲオルクは目を逸らす。

 

「……心して見るべきだ、かなりヤバイぞ」

 

「分かった覚悟しよう」

 

ゲオルクの様子に曹操は冷や汗を流すも、彼は迷いなくゲオルクの神器の端末を受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにあのチート」

 

映像を見終わった曹操は暗い顔で呟いた。

 

「リゼヴィム討伐から英雄派と魔獣派を除くすべての禍の団派閥を単独撃破? はは、これ本当に勇真か?」

 

顔立ちは似ているけどやけにイケメンになってるし、と曹操は付け加える。

 

「使う魔法から間違いない筈だ」

 

しかし、そんな曹操の疑問にゲオルクはそれが勇真だと断言した。

 

それを聞き曹操は痛そうに頭を押さえる。

 

「嘘だろ、信じられないな俺達と勇真が戦ってからまだ二ヶ月も経ってないんだぞ? このパワーアップはいくら何でも狡いだろ……特に接近戦の技量がなんで化物級になっているッ! あれ、確か最初に戦った時は身体能力はともかく技量は素人に毛が生えた程度だったよな?」

 

え、なに? もしかして油断させて英雄派に潜入する為にわざと手を抜いてたの? そんな呟きが曹操の口から漏れた。

 

「正直、私には勇真の技量がどれほど上がったかイマイチ分からないのだが……それほど上がったのか?」

 

ゴクリと生唾を飲み込みゲオルクが問う。

 

それに曹操は心底嫌そうな顔で答えた。

 

「……俺と勇真で接近戦をすれば例え同等の身体能力でも負けそうだ。で、実際の俺との身体能力の差は、最大速度は俺の十倍、筋力は千倍と言った所か?」

 

もちろん、この十倍と千倍は “俺” のね、ははは、参ったな、と曹操は遠い目をした。

 

「そうか……困った事に魔術方面でもかなり伸びている。魔法力は1.5倍程に属性にもよるが魔法技術もそれくらい上がったな、で、極めつけが前から使えたのか知らないがあの力の略奪と奪った力で創る使い魔の存在だ」

 

「ああ、見たよ。随分とエゲツない魔法だな、奪った力の総量は既に魔王数体分か? 一体何千の人形が創れることやら」

 

「いや、アレだけ強力な魔法だおそらくなんらかの制限がある筈だ。例えば最大10体しか創れないとか」

 

「それでもキツイがまだマシか……で、今のところこのアジトの位置は勇真にバレて居ないかな?」

 

「ああ、私も遊んでいた訳ではない。絶霧と新たに得た神器、それに多数の魔法をミックスして作られた空間だ。いかに勇真でも見つけるのは困難だろう」

 

そう、自信を持って断言するゲオルクの姿に曹操は安心した。

 

「さすがゲオルク頼りにしてるよ……さて、では俺も遊んでいられないか、おおよその勇真の力と出来る事が分かったからな対策を立てて修行しなければ」

 

そう言って曹操は聖槍を出現させて立ち上がると、ゆっくりと槍を回し準備体操のような動きをする。

 

「映像では使っていないが我々同様勇真も新たに神器を手に入れている可能性が高い、その点は忘れるなよ?」

 

「もちろんだ」

 

曹操は今日初めて普通に笑う。

 

そして、彼は聖槍片手に聖剣バカ達に突撃して行った。

 

 

 

 

 

「さて、どうしようか」

 

勇真は思案する様に呟いた。

 

「どうしようかとは?」

 

「いや、魔導人形の人格面だよ」

 

そう言って勇真は家の隅で体育座りで待機する二体の鎧と一人の女の子に視線を送った。

 

「必要なんですか? 今のままでも良いんじゃないですか?」

 

ルミネアの疑問ももっともだ。命令を聞き実行に移せるなら下手な人格など必要はない。

 

しかし、それでは問題点がある。

 

「今のまま人格なんて持たせずに了承致しました、しか言わない完全な人形だと、いちいち命令しないと動かないから面倒だし、戦闘力もかなり落ちてしまうんだ」

 

「ああ、なるほどじゃあ “勇真くん” みたいな人格にしては?」

 

「それだと真正面からしか戦わないバカになっちゃう」

 

そのせいでリゼヴィムまでたどり着けるか実はハラハラしたと、勇真はあの時の本音を口にした。

 

「じゃあ、ランスロットくんみたいな人格ですか?」

 

「……それが効率的なんだけど、なんかまた裏切られそうだからね」

 

そんな警戒したように言う勇真にルミネアは疑問を投げ掛ける。

 

「え、でも、そもそもちゃんと条件を設定すれば裏切られる心配はないんじゃないですか?」

 

「ああ、うん、ただの気分的な問題だよ。反逆時の人格消滅と身体崩壊システムをつければ基本は大丈夫なはず。でもさ、完璧と思っても思わぬ見落としってあるものでしょ、前回ランスロットにはこのシステムをつけたけど転生悪魔になるな、という条件をつけなかったから転生時に上手い具合に人格をジークフリートの身体に移されて回避されたしね、あんまりエグい性格にするとそこら辺が怖くてね」

 

「じゃあ、勇真さん大好きか、狂信者的な性格ならどうです?……何故か女の子も居ますし」

 

「……女の子は置いておいてね、それも無理だね。だって魔導人形の人格は創る者の性格をベースに作られるから、例えばランスロットくんは俺の悪い部分を集めて作られ勇真くんは良い部分を集めて作られた、だから俺が抱いていない想いは人形も抱けない」

 

俺は狂信もしてないし、俺大好き=勇真大好きではなく自分大好きになってしまうからね、と言い勇真は苦笑した。

 

「色々と条件があるんですね、私は人格なしの人形しか作ってなかったので知りませんでした」

 

「まあ、人格設定する時に初めて分かる事だからね、あ、いっその事、ルミネア大好きに設定してルミネアに命令してもらおうかな? この性格の人形ならいけるかも」

 

「……ちょっと、恥ずかしいので出来れば止めてください」

 

そう言ってルミネアは顔を赤くした。

 

 

 

 

しかし、その顔はどこか嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

「どこかでリア充が楽しそうにしているッ!!」

 

冥界のグレモリー宅にバカな叫びが響き渡る。

 

「ちょっと、聞いてるのイッセー!」

 

説教中に突然叫び出したイッセー、そんな彼の頬をリアスは思い切り抓った。

 

イッセーの頬からミリミリという音が聞こえてくる。

 

実に痛そうだ。

 

「イデデッ! すいません部長、聞いておりますッ!」

 

「もう、本当に心配したのよ! この時期に怪しい男と契約して力を借り受けたなんて何かの罠じゃないかと気が気じゃなかったわ!」

 

「……すみません、部長」

 

そう言ってイッセーは深々と頭を下げた。

 

そんなイッセーに他のリアス眷属が次々と声を掛ける。

 

「僕たちにはなしかな?」

 

「赤龍帝、いくらなんでも軽率が過ぎると思うよ」

 

「私も心配しましたわ」

 

「イッセーさん」

 

「木場、ギャスパー、朱乃さん、アーシア、ごめん、心配を掛けた」

 

「はぁ、まあなんにしても精密検査で特に異常が出なくて良かったよ」

 

そう、ホッとしたように木場は言う。

 

イッセーは【与える者】を名乗る男から力を貸し与えられたその日に仲間たちにより無理やり精密検査を受けさせられた。

 

そして数日に渡る検査の結果、ようやく先程、特に問題なしという結果が出たのだった。

 

『相棒、あんな怪しい奴との契約は俺も二度とゴメンだぞ』

 

「悪いドライグ、お前にも心配掛けたな」

 

『全くだ、次奴が現れて何を言っても絶対に耳を貸すなよ? 俺の直感が言っている、奴こそ真の邪悪だと』

 

「さすがに大袈裟じゃないか? 事実検査で何もなかったじゃないか」

 

『いや、一つだけ変わった』

 

「……本当か?」

 

ドライグの言葉にイッセーの顔に真剣さが宿る。

 

『ああ、変わったのは相棒の気だ。やけに “俺” の気に近くなっている。俺の力を操るには適している状態だが、その気は他のドラゴンや力有るものを呼び寄せる効果がある、特に白龍皇なんかをな』

 

「マジかよ、あの野郎、何がいずれ出会うだろうだ、俺と曹操、もしかしたらヴァーリを無理やり出会わせる気かよッ!?」

 

いかにも出会うのが運命だから、的な事を言っていたくせにその実その運命は操作されたものと知りイッセーは呻いた。

 

『まあ、実際のところ、これを奴が意図してやったかは分からん、あの短時間で意図して出来るかもな、しかし、これが奴の思惑通りの結果なら奴の力量はそこらの神を軽く上回る力を持つ筈だ。場合によっては主神級……あるいはそれ以上かもな』

 

ドライグの言葉にイッセーは嫌そうな顔をした。

 

「うげぇ、なるほどあんなスゲェ盾をポンとくれる訳だよ、曹操と相性が悪いって言ったのもどっかの神だったからなのか?」

 

実はラスボスで戦います、とかいう展開は止めろよ、そうイッセーは恐々と呟いた。

 

「その話が本当だとすると、その与える者とはどこの神なのでしょうか?」

 

朱乃がそう疑問を口にする。

 

「バロール、あなたは何か心当たりはありませんか? どうせイッセーくんが帰って来たときに彼の目から男の姿を確認してるのでしょう?」

 

「はぁ、祐斗だから何度もギャスパーだと言っているだろ? まあ、そうだな赤龍帝の瞳から男の姿を確認したが、僕も知らない奴だったな、実は知ってる奴で正体を隠している可能性も捨てきれないが」

 

そうなんでもない事を言うように話すギャスパー、しかし、その内容はなかなかにエゲツない。

 

「ちょ!? 覗いたの!? そういうのをするならせめて最初に一言言えよ!」

 

そんなプライバシーを考えないギャスパーの行動にイッセーが抗議、しかし、ギャスパーはどこ吹く風、軽く肩を竦めて新たな言葉を紡いだ。

 

「まあ、気にすることはないだろう? 君が見ているのは9割は胸なんだから、そしてそんな事は言われるまでもなくこの場の全員が知っている」

 

「9割は言い過ぎだから!」

 

「はは。では8割という事にしておこう。さて」

 

そう呟き、ギャスパーが視線を細める。

 

彼の視線の先には一人の女性が寝かされていた。

 

 

 

 

「僕はそれよりも彼女の……ヴァレリーの結果を聞きたいんだ。赤龍帝の結果なら診察前から僕はある程度分かっていたからね」

 

そう言ってギャスパーは鋭い視線をリアスに送った。

 

 

 

 

 

 




……何かのフラグが勇真に立った気か

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