勇者さんのD×D   作:ビニール紐

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第3話

 

 

その日はバルパー・ガリレイに取って厄日としか言いようのない日だった。

 

コカビエルと契約を交わし、かの堕天使の協力を得て教会から三本のエクスカリバーの強奪に成功、そして数日中には長年の夢だった、7つに分かれたエクスカリバーの統合、その第一歩を踏み出す。

 

その直前だったのだ。

 

しかし。

 

 

 

「おっす、オラ空孫悟!」

 

山吹色の変な服を来た男が突然現れ、神父狩りに出掛けようとしていたフリードを不意打ちで瞬殺、彼に渡していた三本のエクスカリバーを強奪すると見たこともない術式の魔法でそれを何処かへ転移させてしまったのだ。

 

で、フリードを騙し討ちした奴のセリフがこれである。

 

 

 

「おめぇらつええんだってな、オラ、ワクワクすっぞ!」

 

「なら、不意打すんなよ!」

 

珍しく声を荒げてとバルパーは叫んだ。しかし、男はそれを無視してアジトに突入、コカビエルと戦闘に入ってしまった。

 

不意打ちとは言えフリードを瞬殺しただけの事はある、訳が分からない奴だが、男の実力は大したモノだった。

 

翼もないのに当たり前のように空を駆けるし、高威力の魔法を複数同時に操る。体術の心得もあるのか接近戦も強い、それ故、コカビエルともそこそこいい勝負をしていた。

 

しかし、それはコカビエルが遊んでいただけの事、しばらく戦っていると戦闘に飽きたコカビエルが本気の一端を見せる、結果、ものの1分で男は光槍に串刺しにされ……

 

「クソソソのことかああぁぁ!」

 

と言って木っ端微塵に爆散した。

 

 

 

 

 

きっといいお嫁さんになる。勇真はルミネアの働き振りを見てそう思った。

 

別に凄く家事が上手い訳ではない。むしろ一部は勇真よりダメだ。ただ、気遣いが出来て働き者、何より仕事だからやっているのではなく勇真の為に頑張ろうとしているのが伝わって来るのが良かった。

 

まだ、ここに来て日が浅いからという理由もある。だが、それ以上に真面目で他人に優しくなれる気質を持って生まれたからだろう、そうでなければこうも自然とグウタラ過ごすダメ人間に優しく出来るだろうか? いや、出来ない。

 

そして、あんまりルミネアが一生懸命なものだからグウタラしている自分が恥しくなり少しだけ勇真は更生し始めていた。

 

 

 

加熱したフライパンに刻んだニンニクを入れる、少し炒めて香りが出てきたらそこに牛肉を投下、味付けは塩コショウのみのシンプルかつ王道。

 

肉を炒め終わったフライパンに少量油を追加し再加熱、そこに豆苗と燃やしを投下、さらに鶏ガラスープを入れて手早く炒める。

 

鍋に水を入れ加熱、ある程度温まったら刻んだ豆腐、油揚げ、ワカメを投下、その後オタマに味噌を入れ、菜箸でムラなく溶かしていく、最後にカツオだしで味を調整し完成。

 

 

勇真の隣でルミネアが唖然とした顔をしている。それを横目に彼は若干得意げな雰囲気で料理を皿へと盛り付けていく。

 

本日の昼食はご飯に味噌汁、牛の焼肉、もやしと豆苗の炒め物、デザートにはブルーベリーと刻んだバナナにヨーグルトと少量の蜂蜜を加えた一品。品数は少ないく、野菜も足りないがまあ、面倒だからいいだろう。勇真はそう妥協し、ルミネアに料理を盛った皿を渡していった。

 

「勇真さん、お料理出来たんですね」

 

「まあ、多少はね」

 

ルミネアの驚きの声に少し照れた様に勇真は答える、昔、セラビニアに召喚される前は家族で夕食担当は勇真だった。

 

1人となった現在は面倒くさがり外食かお菓子ばかりの食生活になっていたが、まだ、多少は作れるらしい。

 

ちなみにルミネアにはまだ料理をさせていない。

 

ルミネアが来て2日目の朝、つまり今日の朝、料理は何が出来るか聞いたところマッシュドポテトという名の蒸して潰したジャガイモ(味付けは塩のみ)との答えが返って来た、そして冷蔵庫にジャガイモがなかった時の絶望した彼女の顔からそれしか出来ないのだろう。

 

聞けばルミネアが居たイギリスのエクソシスト機関での食事はマッシュドポテトに青汁プロテインの様なモノのみだったらしい。

 

それなんて地獄?

 

勇真はイギリスのエクソシスト機関だけは何があっても入らないと固く誓った。

 

 

 

食事を終え、食器の片付けまで終わったので、勇真はリビングで空孫悟のフィギィアキャップに魔法陣を刻んでいた。

 

「なにをしているんですか?」

 

ルミネアが小首を傾げながら聞いてくる。

 

「ちっと魔道人形を作ろうと思ってね」

 

「魔道人形、ですか?」

 

「そ、言うなればゴーレムと使い魔の中間みたいなモノかな……ほら、出来たよ」

 

そう言ってフィギュアをテーブルに置く、するとフィギュアは一人でに動き出し、演武の様な動きを始めた。

 

そのフィギュアとは思えぬ細やかな動きにルミネアは感嘆の息を漏らす。

 

「わぁ、すごい可愛いですね」

 

「まぁ、この状態ならね」

 

そう言って勇真はヒョイっとフィギュアを掴むと窓を開け、それを庭へと放り投げた。

 

「ええ〜ッ!?」

 

その行動にルミネアは驚き、急いで拾いに行こうとする。がそれを勇真は止める。

 

「あ、拾いに行かないで見てて」

 

「はい……」

 

口では素直にそう言うのだが、拾いに行きたそうにウズウズしているルミネアに勇真は苦笑する。

 

そして、2人でフィギュアを眺めていると、何を思ったのかフィギュアは手で土を掘り身体を地面へと埋めてしまった。

 

すると地面が蠢き、フィギュアが埋まった地点に集まり出した……そして。

 

 

 

「おっす! オラ空孫悟!」

 

地面からフィギュアと似た姿の等身大の人形、と言うか人間にしか見えないモノが現れたのだ。

 

その男? の出現にルミネアはフリーズする。しかし、勇真は慣れたように近づくと、その肩に右手で触れてーー

 

「【五属性と転移と呪い、魔法力一割を与える】じゃ、よろしく」

 

ーーと言った。しかし、勇真の言葉に人形は。

 

「つええヤツと戦いてぇ」

 

という答えになってない答えを返す、そしてそのまま唐突にこの場から消え去った。

 

「……え?」

 

フリーズから解けたが状況が理解出来ずルミネアが目を白黒させる。

 

「ええと、魔道人形は何処へ行ったのですか?」

 

「ちょっと敵情視察かな」

 

敵情視察と聞きルミネアの顔が一気に青ざめる。敵情視察される様な場所に心当たりがあるのだ。

 

「それってまさか、私が、居た所にですか? ダメです、あそこには!」

 

「堕天使幹部コカビエルがいる?」

 

「ッ、はい」

 

「大丈夫、魔道人形にこちらを特定する様なモノは持たせていないし、倒されるか時間が来ると自然と爆散して証拠は残らない。それに強い相手と戦う為には情報と下準備が大事でしょ?」

 

勇真の話を聞き、更に顔色が悪くなる、ルミネア、彼女は心の底から恐怖を抱いているように自分を両腕で抱きしめた。

 

「た、戦う気ですかッ!? ダメです、勝てる訳ないです、あんな怪物には絶対勝てないんですッ!!」

 

「そうかもしれないね、でも、先ずは勝てるか勝てないかを調べる為にもこの様子見は必要だったんだよ。……お、これは運がいい、不意打ちが決まってあっさりゲットだ」

 

そう言って、勇真は右手を虚空に伸ばした、すると魔道人形が消えたのと同く、唐突に3本の剣が姿を現した。

 

「エクスカリバーッ!?」

 

「そう、エクスカリバー。と言っても本物を7つに分けてその破片を核にそれなりに頑丈な魔法金属で水増しした出来損ないだけどね、しかも何の為かは知らないけどヘンテコな刀身の形をしている……まるで折って下さいと言ってる様だと思わない?」

 

「そ、そんな事より逃げないとッ!」

 

「落ち着いて、この家に居れば見つからないし、最悪コカビエルでも追ってこれない場所に転移してしまえばいい、だから大丈夫」

 

「で、でも、もし見つかったら! 見つかったら……ッ!」

 

「問題無い、今、魔道人形がコカビエルと戦ってる、視界を共有して俺もコカビエルを見てるけど強いね、流石は堕天使幹部、あの魔道人形じゃ歯が立たない」

 

「ダメじゃないですか!」

 

「ハハ、珍しく手厳しい、でも本当に大丈夫だから、確かにコカビエルは強いよ、でも想定の範囲内、むしろ、予想よりもかなり弱い、おそらくアレは全盛期じゃないね、以前の大戦の後遺症でも有るのかな? 神や魔王と戦って生き残れる程の力は感じない、あの程度なら俺の方が強い」

 

堕天使幹部より自分の方が強い、そう、なんでもない風に、いや、どこか自嘲する様に言う勇真、ルミネアは彼を恐れる様に一歩後ずさる。

 

それに気づいて内心気落ちしつつも、勇真は顔には出さず静かにこう言い切った。

 

「コカビエルは今夜の内に片付けるよ、アレがやろうとしている事は流石に俺も見過ごせない」

 

 

 

 

 

 

 

 

コカビエルは苛立っていた。

 

彼を苛立たせている当然、今日の襲撃が原因だった。

 

昼間いきなり襲ってきた人形に、正確には人形を操る術者にまんまとエクスカリバーを盗まれてしまい、せっかく練っていた計画を変更せざるを得なくなってしまっのだ。

 

本来、コカビエルは魔王の妹達を殺し、彼女達が管轄のこの地方都市をエクスカリバーが統合する際に生じる力を利用して滅ぼすつもりだった。

 

だが、エクスカリバーを盗まれた為、地方都市を滅ぼすのに自前の力を使わなければならなくなった。

 

別に自前の力で滅せない訳ではない、ただ、如何にコカビエルでも都市を丸ごと消し去るには少なくない労力が掛かる。

 

そして最も問題なのは来るべき魔王や大天使との戦いの際、統合されたエクスカリバーを戦力にしようとしていた計画が破綻してしまった事だ。

 

今の7本に別れたエクスカリバーは弱い、だが、コカビエルは折れる前の真のエクスカリバーの力を知っていたからだ。

 

膨大な聖なる力を内包し、使いこなせば如何なる状況にも対処できる7つの強力な能力、その上、デュランダル程ではないが神や魔王ですら破壊困難な頑強さと斬れ味、アレこそ万能にして最高の聖剣なのだ。

 

今のコカビエルは大戦時程の力はない、内包する光力はかつての半分程、総合的な戦闘力は全盛期の四割に届かない程、弱体化していた。

 

これは30年ほど前、今世紀最強の聖剣使いと謳われたヴァスコ・ストラーダとの戦いで負った怪我による後遺症と、平和な時代が続き腕が衰えたことに起因する。

 

だからこそ、コカビエルはバルパーと協力関係を結び、聖剣使いの因子を得て、エクスカリバーで自身の戦力増強を図ろうとしたのだ。

 

しかし、その目論見が潰れ、コカビエルは焦る。

 

「クソッ、今回の計画は見送るか?……いや、ダメだ」

 

コカビエルとて考えなしに戦争を起こそうとしていた訳ではない、今戦えば堕天使が勝つと確信しての事だった。

 

現在、グリゴリには総督アザゼル、副総督シェムハザを始め大戦前から存在した殆どの幹部が残っている。

 

そして食客に史上最強の白龍皇、更にもう一人、成熟した神滅具の使い手、幾瀬鳶雄がいる、後者はともかく前者は戦闘狂、戦争となれば喜んで力を振るう事だろう。

 

そう、今しかないのだ。ここ数十年で悪魔陣営は悪魔の駒イービル・ピースにより急速に戦力を回復させている、このまま手をこまねいては悪魔陣営の一人勝ちになってしまうのだ。

 

今しかないのだ。だからこそ自身の傷が治るのを待たずに計画を実行に移した。戦争に消極的なアザゼルとシェムハザを出し抜き引き返せない段階まで事を運ぼうと思ったのだ。

 

だからこそ、今しか……。

 

 

 

 

そんな事を考えながらコカビエルは深い眠りに堕ちていった。

 

 

 

「さようなら、コカビエル」

 

千里眼で眠りにつくコカビエルを見ながら。

 

胸と首を真っ赤に染め永遠の眠りにつくコカビエルを見ながら勇真は静かに呟いた。

 

敵情視察、そう評して勇真が送り出した魔道人形は何もコカビエルの実力を計る為だけに創られた訳ではない、コカビエルを安全に暗殺する布石というもう一つの役割の為に創られたモノでもあった。

 

魔道人形には壊されて初めて発動する呪いが込められていたのだ。まあ、呪いと言ってもそこまで大したモノではない、正面切った戦闘中ではあまり意味のないものである。

 

呪いの効力は魔道人形を壊した者に目印をつける事、そして対象が気を抜いている時、密かに眠りに誘い、眠りについた時、意識が浮上するのを遅らせる。その3つだけだ。

 

後はただ、目印を元に千里眼と透視能力で機会を伺い、コカビエルが眠りについた時、静かに近くに転移して不治の呪いをたっぷりと込めた短剣で急所を抉り、転移で逃げるだけ。

 

戦闘時、光力を纏い防御力が上がった状態なら難しくとも安眠中、力を抜いた身体に短剣を突き立てるなど造作もないことだ。

 

ゲームや試合ではないのだ、わざわざ敵が強い時に戦いを挑む必要はない、例え小細工抜きで勝てそうな相手だろうと戦闘ではなにが起こる分からない、特に十中八九勝てるなどという勝率9割 “程度” の状況で命懸けの戦いを挑むなど正気の沙汰ではない。

 

実戦ならば、自分の命が掛かっているなら、ましてや街の多くの住民の命が掛かっているならば、ありとあらゆる手を使い、敵を罠に嵌め確実に始末するのが大切なのだ。

 

勇真は千里眼を解除すると大きな欠伸をした。

 

時刻は朝の3時。良い子も悪い子も寝るべき時間である。ゆえに勇真はシャワーを浴びて寝た。

 

 

こうして、コカビエルの計画はあっさりと、彼の命と共に崩れ去ったのだった。

 

 

 

 

 




本当に命が掛かってたら勝率8割の勝負なんて受けませんよね、だって10回やったら2回は殺される訳ですし。

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