勇者さんのD×D   作:ビニール紐

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全てを終わらせる時ッ!!


第29話

「ふぅ、さすがに少し疲れたな」

 

勇真は小さく溜息を吹くとたった今、助けた少女を優しく床に寝かせた。

 

 

クロウ・クルワッハに勝利してから直ぐにグレンデルとラードゥンのコピーと共に襲い掛かって来たのは元吸血鬼と思わる邪龍だった。

 

その邪龍はしきりに助けを求めながら攻撃を仕掛けて来るという困った個体でその実力の高さも相まって勇真を大いに苦しめた。

 

邪龍からの助命願いはおそらく邪龍にされた少女が言っているのではなく、そう命じられて機械的に言っているだけだ。それは分かる。だが勇真はそうと知りながらも見捨てる事が出来ず、多大な魔法力を消費し彼女を拘束、そして他の邪龍モドキと同じく魔法で聖杯の力をレジストし彼女を吸血鬼に戻した。

 

しかし、戻したは良いが、今度は何故かどんどん衰弱する。理由を調べると身体に在るべきものが、無いことによって起こる現象だった。

 

魂の一部、つまり神器の消失だ。

 

産まれながらに神器を持つものは多かれ少なかれ神器を抜かれると体調を崩し能力が落ちる。神器と魂の繋がりが強い場合、神器を抜かれただけで死んでしまう事もあるのだ。

 

そして、少女はその死んでしまうくらい繋がりが強いタイプ。つまり、ほっとくと死んでしまうのだ。

 

その為、勇真はかつてジークフリートが回収した戦車の駒を神器の代わりを果たす様にその場で改造、そして少女に使用し彼女を転生悪魔としたのだ。

 

信じがたい魔法技術である。

 

悪魔の駒作成者アジュカ・ベルゼブブがこれを見れば彼を自分の組織にスカウトしたかもしれない程の技術力だ。

 

 

 

……とは言え今の問題はそこではない。

 

そう、問題は勇真に残された魔法力の少なさだ。

 

 

 

勇真は地に寝かせた少女に強力な結界魔法を使う。この魔法でついに勇真の魔法力は二割を切った。

 

 

はっきり言って絶望的、今の勇真の状態でこの城をこれ以上進むのはあまりに無謀だ。

 

それでも彼は止まらない。

 

全てを終わらせる為、人々の平和の為、彼は立ち上がると城の最深部へと足を進めるのだった。

 

 

 

それから数分、ついに勇真は城の最深部ーー謁見の間の前までやって来た。

 

謁見の間の扉は素晴らしくも禍々しい装飾がなされただ静かに閉じている。それはまさに冥府への扉だった。

 

そんな扉を前にしても勇真は怯まない。彼は扉の前で数秒立ち止まると罠がないか確認しその扉を開けた。

 

 

「ようこそ勇者よ、しかし、ノックくらいしてはどうかな?」

 

 

謁見の間に入った勇真に一人の男が問い掛けた。

 

長い銀髪に整った顔立ち、外見年齢は40代後半から50代前半と言ったところか? 強大な魔力を纏うその男ーー大魔王(自称)リゼヴィムは居城の最深部へ侵入されたにも関わらず王座に腰掛け余裕の態度で勇真を出迎える。

 

リゼヴィムの左隣には銀髪の悪魔の青年ユーグリッド、彼は左腕に赤い籠手を装備し油断なく勇真を観察していた。

 

 

「君の事はここから観察させてもらっていたよ。見事な戦いぶりだった」

 

そう、リゼヴィムはどこか作ったような口調で勇真に笑いかける。

 

「ありがとうございます。しかし。あなたに褒められても嬉しくありませんね」

 

それに勇真は形式的な礼を述べると、リゼヴィムを強く睨みつけた。

 

そんな勇真の態度をリゼヴィムは気にしない、何故なら彼は勇真がかなり消耗しているのが分かっているのだから。

 

リゼヴィムもこれから死ぬ人間の悪態の一つくらい許してやる度量はある。いや、と言うよりリゼヴィムは強がっている勇真を嘲るのを楽しみにしているのだ。

 

「ふふ、しかし、そろそろ限界なのではないかな? 肉体面はとにかく魔法力は直ぐには回復しまい?」

 

「さあ、どうでしょう? 実は回復用の魔法薬を隠し持っているかも知れませんよ?」

 

「それはないだろう、あるならばここに来る前にとっくに使っている筈だ」

 

「…………」

 

リゼヴィムの指摘に勇真は無言になる。

 

そんな勇真をニヤニヤと観察すると、リゼヴィムは楽しげに口を開いた。

 

「しかし、君は立派だたった一人でここまで来たのだからな。はっきり言ってあり得ないレベルの活躍だったよ。もしかしたら万全で一対一なら私を倒せたかも知れないくらいに………ふふ、ふは、はひゃひゃひゃひゃひゃ! 真面目な口調やーめた♪ 馬鹿だろお前、普通戻らない? ラスボス前に体力がヤバくなったら最寄りの街で休んでから来るだろ! RPGの鉄則でしょ」

 

「……この機を逃せばあなたは行方を暗まし、また多くの人間を殺すでしょう? 私はそれを見過ごす訳にはいかないッ!」

 

勇真の心からの言葉にリゼヴィムは吹き出した。

 

「ぶは! うわ、出たよ、良い子ちゃん発言! 勇者らしいねぇ♪ ユーグリットくんも何か言ってよ!」

 

「犠牲を恐れ先にある勝機を逃すとは、愚かとしか言いようがありませんね」

 

「…………」

 

「てか、なんで一人で来たの? もしかして友達いない? 愛と勇気だけが友達な可哀想な子だったり? ああ、ありそうだなぁ、それだけ強けりゃ周りも引くもんねぇ♪」

 

「…………」

 

「え、もしかして図星!? うわー可哀想な勇者さん♪ ひゃひゃ! 勇者さん、何しに来たんだっけ? みんなを守る為?」

 

「……だとしたらなんです?」

 

そう、苦々しい表情で勇真は告げる。

 

それにリゼヴィムは嘲笑を浮かべ……

 

 

 

 

「ほんと良い子ちゃん♪ 君が馬鹿で助かったよ」

 

ーーと言った。これが戦闘開始の合図となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの方は大丈夫でしょうか?」

 

そう吸血鬼の少女が呟いた。

 

彼女は勇真によって結界外に送られな元邪龍の少女である。彼女は不安そうに今は見えない巨城の方を眺めていた。

 

「彼なら大丈夫さ、見ただろう? 彼の勇姿を! あの余裕に満ちた凛々し姿を! 彼が負けると思うか?」

 

そんな彼女に同じく元邪龍の男の吸血鬼が答える。

 

その男は少女の父親で、彼は娘の不安を打ち消すように力強く断言すると彼女の頭を優しく撫でた。

 

それに少し不安を薄めたのか少女は小さく笑う。

 

「そう、ですね、大丈夫ですよね、あの方が負けるはずありませんよね!」

 

「そうだ、不安がるのはむしろあの方に失礼だ。我々はあの方の勝利を確信していればいい。ふふ、まさかこの私がよりにもよって人間をあの方のなどと呼ぶ日が来ようとはな」

 

「私も思ってもみませんでした」

 

「そうか……そうだな、彼が帰ってきたらお前の婿になってもらうよう頼んでみるかな」

 

「ちょ、お父様!?」

 

「はは、満更でもあるまい?」

 

そんな話しを吸血鬼の父娘は続けていった。

 

 

 

 

 

ちなみ、人はこういう会話を死亡フラグと言う。

 

 

 

 

 

「ふははははははッ! どうした勇者くん? スピードが落ちて来てるぞぉ?」

 

笑いながらリゼヴィムが多数の魔力弾を勇真に放っていく。

 

流石は超越者と言ったところか? 一撃一撃に桁外れの魔力が込められた魔力弾は一発でも勇真の障壁数枚を砕く程の威力がある。

 

その攻撃を勇真は左手に持った魔帝剣を乱舞させ纏めて全て斬り払う。

 

しかし……。

 

「背中がお留守ですよ」

 

その言葉と共に勇真の背に激震が走る。

 

「ぐはっ!?」

 

偽赤龍帝の鎧を纏ったユーグリットの一撃だ。

 

背後から放たれたそれは一撃で勇真の全ての魔法障壁を貫通すると、勇真の背に直撃、彼を地面に猛スピードで叩きつけた。

 

「ぐぅーーッ!?」

 

勇真は直ぐに立ち上がろうとするがダメージで立ち上がれない。立ち上がる為に必死に回復魔法を掛けるが傷の回復速度が遅い。

 

 

「そろそろ限界かなぁ?」

 

「そのようですね」

 

そんな地に跨る勇真を余裕の態度で空から見下ろすリゼヴィムとユーグリット。彼らが言うように勇真の限界は直ぐそこまで迫っていた。

 

「いやーよく頑張った♪ ほんと頑張ったよ? 花マルをあげてもいいくらいだ」

 

そう、バカにしてるとしか思えない口調と表情でリゼヴィムは言う。

 

「くそッ」

 

勇真は回復魔法でどうにか動けるまで復帰した身体に鞭を打ち、即座にリゼヴィムに斬りかかった。

 

「おっと、危ない」

 

しかし、その動きに戦闘開始時のキレはない、見る影もなくなった動きはリゼヴィムからすれば目を瞑っても避けられるレベル。

 

当然リゼヴィムはその攻撃をひょいと躱しカウンターで痛烈な回し蹴りを勇真の腹に叩き込んだ。

 

「ーーッ!」

 

バキメキという骨が何本も折れた音が勇真の腹から響いてくる。彼は吐血しながら吹き飛ぶと地面を何度もバウンド、そして数百メートル転がり、ようやく止まる。

 

しかし、止まってからも勇真に動きはない。そう、彼は身体を起こす事もままならないのだ。

 

「ゴフッ…かふ、はぁ、がぁ、げほ」

 

勇真は倒れた地面で苦しそうに吐血を繰り返す。

 

回復魔法を掛ける様子はない。この一撃で彼の魔法力は完全に底をついた。

 

つまり、完全に終わりだった。

 

倒れる勇真に心底愉快げにリゼヴィムは近づくと彼の腹を弱めに踏みつける。

 

「ごぉげッ!」

 

途端に勇真の口から大量の血が溢れ出す。それをリゼヴィムは楽しげに見つめた後、急に白けた様な表情をした。

 

「うわ、服に血がついた、最悪この服お気に入りだったのに……もう、死ねば?」

 

リゼヴィムは勇真の腕を踏み砕くと彼の手から離れたグラムを拾いその腹に突き立てた。

 

鮮血が周囲に飛び散る。

 

「グハァ……無、念だ、悪を」

 

そして勇真は何かを言い掛けた後……完全に沈黙した。

 

「はい、お終い……ああ、つっかれた、ユーグリットくん? 甘いジュースが飲みたいな、城の冷蔵庫って生きてる?」

 

「少々お待ちを、ただいま確認いたします」

 

ユーグリットは偽赤龍帝の鎧を解除するとゆっくりと地に降り立ち膝をついた。

 

 

 

 

 

“がくりと” 膝をついた。

 

「おや?」

 

急に力が抜けた足に疑問を持ちながらユーグリットは立ち上がろうとする。

 

しかし、立ち上がれない。

 

「……なにやってんの?」

 

何してんだコイツ、そんな顔でリゼヴィムはユーグリットを見ると、彼の方に行こうとて一歩踏み出し、地面に膝をついた。

 

「あ、あれ? どうなってんの?」

 

リゼヴィムが自分の膝を見て疑問の声を上げる。

 

それと、同時に、ゴトリと重くて硬いものが地面に落ちる音がした。

 

 

ーーそれに続いて何かの液体が勢いよく流れる音も。

 

「…………おいおい、マジかよ」

 

そう呻くリゼヴィムが見た光景は倒れたユーグリットの身体と転がる彼の頭。

 

そして……

 

 

 

「いやー強かったですね、流石は大魔王とその側近」

 

そう言ってユーグリットの死体のそばで笑う勇真の姿だった。

 

彼は右手に聖短剣を左手には高そうな魔法薬の空ビンが握られている。

 

この状況にリゼヴィムの顔から冷や汗が垂れた。

 

「あ〜勇者くん? 君、死んだんじゃないの? てか、そこに君の死体があるんだけど?」

 

そう言って勇真の死体を見るリゼヴィム。そんな彼に多数の魔法の鎖が掛けられた。

 

「ちょ、ぐぇ」

 

リゼヴィムが苦しげな息を漏らす、鎖は彼を絞め殺す勢いで狭まると彼の両手足胸回りを完全拘束し棒立ちの状態で固定した。

 

そんなリゼヴィムの様子を満足げに見つめ勇真は楽しげに口を開いた。

 

「俺の理想、それは自分は一切傷つかず、憎い敵を一方的にいたぶれて、なおかつ絶望の淵へと叩き込める戦術、それがこれだ。どうだ? 確かに勝ったと思っただろう? 油断しただろ? ふふ、よ〜〜〜く見させてもらったよ、大魔王を名乗るとは思えぬ実に小物の様な馬鹿面をね」

 

縛りつけられたリゼヴィムに清々しい、だが沸き立つ様な悪意と殺意がたっぷりと篭った笑みで勇真は告げた。

 

「ど、どういことだよ、え? 別人? 双子!?」

 

「フフフ、ネタばらししたい所だが、そんな事して逆転されては目も当てられん。ゆえにお前は疑問を抱いたまま死ね……行くぞッ! 自称大魔王リゼヴィムゥゥッ!」

 

勇真は笑顔から急変、憤怒の形相になると全力で駆け出し、棒立ちにさせられたリゼヴィムの顔面に渾身の右ストレートを叩き込んだ。

 

「これは俺がミルたんに異世界に連れ去られた時の恨みッ!」

 

「ぐはっ!?」

 

続き勇真は渾身の前蹴りを鳩尾に打ちつける。

 

「これは俺がミルたんの扱きで死に掛けた時の恨み!」

 

「ごふっ!」

 

更に三撃目、もう一度リゼヴィムの鳩尾に今度は左ストレートを抉りこむ。

 

「これはミルたんの要望で魔法少女コスさせられた時の恨みッ!」

 

「げはっ!?」

 

勇真の全身から膨大な魔法力が迸る。

 

「そしてこれはーー」

 

現れたのは加速魔法陣、その数72、それはリゼヴィムの背後で砲身の様に重なり合って展開されていた。

 

「俺がミルたんと出会ってから受けた全ての苦痛の恨みだぁぁぁぁぁッッ!!」

 

連続で大振りで、型も速度を気にせず筋力強化に極振りした両拳に渾身の力を込めて勇真はラッシュ攻撃をリゼヴィムに仕掛ける!

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」

 

ラッシュ!ラッシュ!ラッシュ!ラッシュッ!! 大地に巨大クレーターを穿つ程のパンチがリゼヴィムに雨あられと降り注ぐ。しかし、呪詛で行動阻害され、魔法の鎖で拘束された彼にそれを避ける術はないッ!

 

「ぐぇ、ずり、おま、やめッ」

 

リゼヴィムが何かを訴えるがそれが意味を持つ前に勇真の拳に黙らせられる。

 

 

そしてたっぷり一分間、軽く数万発の拳を叩き込んだ勇真はバックステップで距離を置き、助走からの渾身の一撃を放った。

 

 

「これで終わりだッ! この世界から消えてなくなれぇぇッッ!!」

 

全力全壊、あらん限りの力を込めた右ストレートがリゼヴィムの顔面に直撃、同時に勇真は拘束魔法を解除、リゼヴィムは「うげっぐあ〜」とさけびながらパンチの威力で極音速で殴り飛ばされ加速魔法陣に突入、加速に次ぐ加速を経て一気に亜光速まで到達すると結界を突き抜け宇宙の彼方へ消えていった。

 

それを見送ると勇真は歓喜の笑みを浮かべて両手を広げる。

 

「フハハハハハハッ! 悪は滅びた! 正義は必ず勝つのだッ! たとえ、どんな手を使ってもッ!!」

 

テンションがおかしい勇真は高々と勝利の哄笑をあげる。

 

 

 

 

その姿はどう贔屓目で見ても正義には見えなかった。

 

 

 

 




無駄無駄の方が合ってる様な気が……


リゼヴィム「実は俺は数万発殴られただけで死ぬぞ!」

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