勇者さんのD×D   作:ビニール紐

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ミルたんは大変なモノを盗んで行きました。


第27話

その者は音もなく無人島へと帰って来た。

 

 

サラサラの黒髪に強い意志を秘めた黒曜石の如き瞳、その口元は優美な弧を描き、優しげな微笑を浮かべている。

 

身体つきも一回り大きく頼りある様になり、いつもはやる気なく曲げられている背筋も今は鉄心が入ったかの様に真っ直力強い。

 

そして、その青年に足を踏み入れかけた美少年は、頭に “絶世の” がついてもおかしくない、街で出会えばどんな女性も絶対放っておかないだろうイケメンが気配を感じ目の前までやって来たルミネア目掛けその口を開いた。

 

 

 

「やあ、ルミネア今戻ったよ」

 

「…………」

 

ルミネアはフリーズした。

 

「ん、どうしたんだい? 私の顔を忘れてしまったかな?」

 

そう、若干悲しげに美少年は言った。

 

「……ええ、と、勇真、さん……ですよね?」

 

「良かった、忘れられてしまったかと思ったよ」

 

そう言って嬉しそうに “推定” 勇真は笑顔を浮かべた。

 

その笑みは思わずルミネアが、いや、世の殆どの女性が、人型なら悪魔だろが天使だろうが、女神だろうが見惚れただろう素晴らしい笑みだった。

 

しかし、ちょっと、いや、かなり驚きが勝って今、ルミネアはそこまで反応していないが。

 

「……か、変わり過ぎです! 本当に勇真さんですかッ!? ……いや、確かに顔立ちは似ている? でも、いや……あれ?」

 

ルミネアは混乱した。

 

「はは、三ヶ月も会ってなかったからね、見違えるのも仕方がないさ」

 

「………勇真さんがこの島から旅立ってまだ3日なんですが?」

 

「本当かい? ……ああ、そうか、時間の感覚が狂っていたよ。いや、この世界とは時間の流れが違う異世界に居たからね、それを忘れていた」

 

うっかりしてたね、そう言って微笑を浮かべる勇真、いちいちイケメンオーラが半端ではない。

 

そんな勇真にルミネアは冷や汗を流す。

 

 

「…………こ、これって、良いんでしょうか?」

 

ルミネアは小さく呟いた。

 

容姿だけ見れば、完全に以前の勇真よりルミネアの好みである。纏うオーラも優しげで温かみがあり力強く隙がない。

 

性格はこの短時間では判断できないがおそらく良いだろう。

 

 

 

しかし、決定的なコレジャナイ感が凄まじかった。

 

勇真はこんな完璧超人美少年勇者的な存在ではなく、一般人、どちらかと言うとダメ人間よりの感じの存在だったはずだ。

 

いや。それが改善されて真人間となったのは良い事なのだろう、しかし、違和感が拭えない。

 

 

「……う〜ん」

 

「どうしたんだい?」

 

「………いえ、なんでもありません、そう言えばミルたんさんはどうしたんですか?」

 

「師匠なら私に修行をつけ終えると『魔法少女になれそうな気配がするにょ!』と言って異世界に旅立ったよ、確か空中庭園だったかな?」

 

「師匠?…空中庭園?」

 

ルミネアの混乱は深まった。

 

「さて、ルミネアへ挨拶も済ませたし私は行くよ」

 

「……行くってどこにですか?」

 

「はは、決まってるじゃないか、大魔王を名乗るリゼヴィムの下にさ」

 

「い、今からですか!? 何か準備とかしないんですか!?」

 

ルミネアの言葉に勇真は静かに首を振る。

 

「今も人々がリゼヴィムへの恐怖で震えている、私は勇者だ、一刻も早く人々の希望となり絶望を払わねばならない」

 

そう言って頼りある美しい微笑を浮かべると勇真は転移魔法で消え去った。

 

長距離瞬間転移魔法…….明らかに以前より魔法技能のレベルが上がっている。

 

そして、そんな勇真を見送って数秒。

 

ルミネアは……

 

 

 

 

「ぜ、絶対違う! あの人勇真さんと別人ですッ! きっと、きっと遠い遠い平行世界から連れてきた同姓同名同一人物だけど、明らかに違う歴史を辿った誰かですッ!!」

 

という叫びを上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

「まさに魔王の城って感じだな」

 

そう、“推定” 勇真は呟いた。

 

中世ヨーロッパの城、それを数十倍の大きさにした巨城、紫色の空を埋め尽くすのは数十万の邪龍モドキだ。

 

もう、まさに悪の親玉が居ますよ、と宣伝しているような場所だった。

 

そんなあまりにもあからさまな悪の巣窟を見て、勇真は苦笑する。

 

そして、彼の苦笑いに邪龍達が反応した。

 

勇真の存在に気づいた邪龍達は今にも襲い掛かって来そうな攻撃体制をとる。

 

だが、それを見ても勇真は余裕、彼は胸の前で両掌を鳴り合わせると、その音を媒体とし魔法を発動、そして、たったの数秒で巨城を覆う高度な転移阻害結界が形成されてしまった。

 

「さてと……やりますか」

 

自分に襲い掛かって来た邪龍達を見ながら勇真は落ち着いて、むしろのんびりと丁寧に新たな術式を組んで行く。

 

その間、多数の邪龍が炎を吐き、体当たりをし、噛み砕こうとするなど、容赦ない攻撃を勇真に加えていく。

 

しかし、その攻撃は全て彼の多重魔法障壁に阻まれてしまい勇真には届かない。鉄壁どころの騒ぎではない防御力、その障壁の前では邪龍モドキの攻撃などないのと同じだった。

 

 

 

そして、邪龍達の無駄な努力が十数秒続いた後、一つの魔法が完成した。

 

 

同時に閃光が結界内を満たす。

 

その閃光に触れた邪龍が次々と吸血鬼に戻って行く。

 

それは超広範囲高位解呪魔法、その魔法により聖杯の力をレジストしたのだ。

 

 

 

「あ、あれ? 私は確か……」

 

先頭の邪龍だった吸血鬼の少女が混乱したように呟いた。

 

「大丈夫かい?」

 

その少女に勇真は優しげな笑みを浮かて問い掛けた。

 

その笑顔に吸血鬼の少女は魅了されてしまう。そして熱に浮かされた様にボーっと勇真を見上げる少女は自分が勇真に質問された事を思い出すと慌てて彼の問いに答えた。

 

「あ、は、はい! 大丈夫です!」

 

そんな慌てる少女を微笑ましく思い、勇真は笑みを深める。

 

それにまた少女が……いや、勇真の近くにいた殆どの吸血鬼が魅了されてしまった。

 

「そうか、では少し離れていてね、これからここは戦場になるから」

 

そう言って勇真はゆっくりと、だが力強い足取りで巨城へと足を進める。

 

その歩みはモーゼの如く、吸血鬼達は恐れ多い者を見るように道を譲る、中には頭を垂れる者さえいた。とてもプライドが高い吸血鬼とは思えない行動だ。

 

しかし、無理もあるまい、今の勇真は正に救世主、吸血鬼にすら希望をもたらす、救世の勇者なのだから。

 

 

 

硬く閉ざされた城門を魔法で砕くと、勇真は威風堂々、力強い足取りで城の内部に侵入する。

 

城の中心に向う途中、伝説級の邪龍のコピー体が多数勇真に襲い掛かるも、それを彼は余裕で撃退、傷一つ負うことなく城の中程まで進んでしまった。

 

 

そこで……

 

 

『やるじゃねぇか、劣化コピーとはいえ俺様をああもあっさり倒してくれるとはなぁッ!!』

 

ドラゴンの特徴を色濃く持った巨人と。

 

『私はラードゥンと申します、主に結界、障壁などを担当しおりますが、貴方が張った結界は見事なモノでした』

 

巨大な樹木で構成されたドラゴン。

 

ーー二体の伝説の邪龍が現れた。

 

強大な龍のオーラがその場を満たす。神話、伝説に語られる強大で邪悪なドラゴン、その力は神話の英雄すら手こずらせ、凡百の勇者モドキを殺し喰らってきた。

 

それが二体……絶望的な状況だ。

 

しかし、それでも勇真は微笑を崩さなかった。

 

当たり前だ、彼は凡百の勇者モドキではない、真の英雄、真の勇者なのだから。

 

「こんにちは、いや、今はこんばんわかな、初めまして勇真です」

 

『俺様を見てその態度たぁ、肝が据わってるじゃねぇかッ!』

 

勇真の態度を気に入ったのか巨人型の邪龍は尻尾でバシバシと地面を叩いた。

 

逆にその態度を気に入らなかったのか樹木型の邪龍ーーラードゥンがその瞳を怪しく光らせる。

 

『はは、勇敢なお方だ……しかし、随分と余裕そうですね、気づきませんか? あなたは既に私の結界に囚われているという事が?』

 

そう、ラードゥンが勝ち誇った様に言う。そしてラードゥンの宣言通り勇真は何時の間か半透明な結界に囚われていた。

 

『おいおいおいおい、ラードゥンッ! コイツの相手は俺だッ!』

 

『そんな取り決めありましたか? グレンデル、こういう場合早い者勝ちでしょう?』

 

そんな囚われた勇真をよそに二体の邪龍は口論を始め出した。

 

それは実に……

 

 

 

「実に愚かな行動だね」

 

次の瞬間、ラードゥンの首が飛び、胴体は数十のパーツに分解された。

 

パーツは地に落ちると燃え盛り、一瞬にして灰へと変化して風に流され飛んで行く。

 

『え?』

 

頭だけとなったラードゥンが呆然とした声を上げた。

 

その額に勇真はなんの躊躇もなく聖短剣を突き立てる。

 

「稚拙な構造に単純な術式、その上あんな脆い結界に入れただけで勝ち誇るのは良くないよ?」

 

 

 

油断大敵、そう言って勇真は聖短剣を伝い炎魔法をラードゥンの頭に直接送り込んだ。

 

『ギィヤアアアアアアアアッッッ!?』

 

ラードゥンの断末魔が巨城に響き渡る。

 

そして、事数秒、ラードゥンは完全に焼滅、勇真は聖短剣に残った灰を振り払うと視線をグレンデルへと向けた。

 

 

「………さて、わざわざ待ってくれたんですね、ありがとうございます」

 

『ハッ、気にすんな、ラードゥンが殺られた後の方が俺様には好都合だっただけだからよッ!』

 

「おや、仲間意識はないんですか?」

 

『仲間意識ッ!? ハッ、笑わせんなよッ! 俺様は、んあ?』

 

言葉の途中でグレンデルは地に膝つく。

 

『ハァッ!? なんだコレ、身体に力が入んねぇぞッ!?』

 

混乱するグレンデル、それを無視して勇真は力ある言葉を告げる。

 

 

 

「『無窮の担い手』禁手化(バランス・ブレイク)……『無窮の英雄』」

 

勇真の腕にあった黄金の腕輪が聖短剣と融合する。

 

……出来たのは一本の美しい聖剣だった。

 

その聖剣は無窮の担い手の禁手化『無窮の英雄』によって再現された聖剣エクスカリバーだった。

 

無窮の英雄、その能力は担い手が振るう武具の能力を極限まで強化する事、勇真はこの能力を応用した。

 

聖短剣に使われた真のエクスカリバーの破片、そこに僅かに残る『支配』『破壊』『擬態』『祝福』を最大強化し、聖短剣に付与、そして神器そのモノを刀身へと混ぜ長剣状態の七つに分かれる前に近いエクスカリバーを創り出したのだ。

 

それはアーサー王が使った折れる前のエクスカリバーに匹敵……いや、神器の能力も加味すれば、完全に上回る史上最強最高の聖剣だった。

 

そして、その聖剣を勇者は静かに構えた。

 

その構えには隙が全くない、ある程度の実力の剣士が見ればあまりに完成された美しい構えに剣を交える前に敗北を悟ってしまうことだろう。

 

それほど勇真の構えは完璧だった。

 

『ガァアアアアッ!? な、なんでだッ!? なんで動けねぇッッッ!!』

 

「言ったでしょ “待ってくれて” ありがとうってね……それではさようなら」

 

勇真はまるでこちらの呪詛に気づかず、最初から対策もしていなかったグレンデルを会話に混ぜた呪詛で縛りつけていたのだ。

 

つまり、先ほどな “待ってくれてたんですね、ありがとうございます” とはラードゥンを始末する事に対して言ったのではなく、呪詛に掛かるのをわざわざ待ってくれてありがとうと言ったわけだ。

 

勇真は微笑を浮かべ、動けないグレンデルに聖剣を振るう。

 

そして、閃光の如き疾さで放たれた数千の斬撃が一瞬にしてグレンデルをラードゥン以上に細切れにした。

 

 

「ふぅ、幹部っぽいのも出てきたし、そろそろかな?」

 

勇真はまるで作業をする様にラードゥン、グレンデルを1分弱で焼滅させると、焦ることなくゆっくりと歩き出す。

 

 

 

その堂々たる態度はまさにラストダンジョンに挑む勇者だった。

 

 

 

 

 

……ただし、 “レベルを上げ過ぎた” が勇者の前につくのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




……敵対者の勝機です。

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