勇者さんのD×D   作:ビニール紐

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どうしよう、なんか不憫な小猫にゃんは唆られるモノがある。


第25話

「これ、やめて下さい」

 

そう言って小猫は 『KONEKO』という黄金のネームプレートがついた赤い首輪をレオナルドに突き返した。

 

「うん? 何が気に入らないんだい? 中々良いデザインだと思うんだけど?」

 

ちゃんと飼い主の名前と住所、電話番号も書いてあるよ? そう付け加えレオナルドは首をかしげる。

 

「……首輪が嫌なんです」

 

「飼い猫には首輪をするものでしょ?」

 

「……私は猫じゃありません」

 

「自分で “小猫” と名乗ったじゃないか、それに猫も猫又もネメアの獅子も大して変わりないよ」

 

ほら、ネメアの獅子のリオンくんだって、ちゃんと首輪をしてるでしょ?

 

そう言ってレオナルドはリオンくんの顎の下を擽る、雷鳴の様な大音量の “ゴロゴロ” がリオンくんの口から響いてきた。

 

「……黒歌姉さまはしていませんでした」

 

「ああ、彼女もしてるよ、ただ仙術で見えなくしているだけだね。彼女は素晴らしい術者だから未熟な君が気づけないのも仕方ない」

 

「……嘘、ですよね?」

 

小猫が引き攣った顔でレオナルドに問う。

 

「いや、本当だよ」

 

小猫の言葉をレオナルドは笑顔で否定した。

 

「…………」

 

あの我が儘な姉に首輪をつけさせるとは、小猫は無言で戦慄した。

 

「うーん、何を驚いているのか手に取るように分かるけど黒歌は我が儘でもなんでもない、素直な良い子だよ?」

 

「……私は姉さまが素直だった事を知りません」

 

「そうかな? かなり分かりやすい子だと思うんだけど? そうじゃなければバトルジャンキーの白龍皇が居たあんな危険地帯からすぐに離れた筈だ。君を魔獣派に誘うことなくね」

 

「……姉さまが欲しかったのは私ではなく私の仙術です」

 

「はは、それは自分を過大評価し過ぎだよ。僕も君が良いセンスを持ってるとは思うよ? でもね、正直、君くらいの才能なら探せばそれなりに見つかるんだ」

 

それくらい、自分でも分かってるんじゃないかな? そう、レオナルドは諭す様に言った。

 

「…………」

 

「黒歌はね、主を殺し、はぐれとなった自分の側に居るよりも、それなりに優しい悪魔(リアス)の元に居た方が安全で幸せになれる。そう思い泣く泣く君を置いて行ったんだよ」

 

「……なんでそんな事が言えるんですか? 貴方は黒歌姉さまじゃないのに」

 

そんな話は信じられないし、そもそも黒歌が他人に話す筈がない。そう小猫は思っていた。

 

「それは僕が黒歌の心を覗いたからだね」

 

「…………」

 

「あ、【嘘だ】って思ったね【信じられない】に【本当に?】と……【チョコバナナ】これは僕が本当に心を読んでるかの確認の為だね」

 

レオナルドが言った事はたった今、リアルタイムで小猫が思っていた事だった。

 

「ま…さか、本当に」

 

「そうだよ、僕は他人の心が読める。まあ、四六時中読んでたら疲れるし、会話する必要もなくなっちゃうからね、読むのは必要な時に最小限にしているよ」

 

会話は大切なコミュニケーションだからね。と告げるレオナルド。

 

彼に何度目か分からない戦慄と恐怖を小猫は抱いた。

 

「ああ、怖がらなくていいよ、僕は君を傷つけるつもりはない、むしろ守るよ、君は僕のペットで家族だから」

 

 

 

 

 

 

「そう、だから早くみんなの元へ帰りたいなんて思うのはやめな、もう既にその “みんな” は僕達、魔獣派を指す言葉なんだから」

 

そう言ってレオナルドは優しく微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「私の所為だわッ、私が小猫に残れなんて言ったからッ!」

 

リアスが悲壮な顔で強く叫んだ。

 

「部長の所為じゃありません、あの時誰も貴女を止めなかった。それにあの判断は間違いではなかったと思います」

 

リアスの言葉をいち早く否定し、彼女を慰めたのは木場だった。彼は責任は自分達全員にあると言いリアスの心理的負担を減らす様に動く。

 

「そうですわ、あの時、誰かが残る必要がありました。そして、最も適任だったのが小猫ちゃんだった。リアス、貴女の判断に間違いはなかったわ」

 

次に木場のフォローの言葉を補足する様に朱乃が言葉を続け、彼女の肩に優しく触れる。

 

「祐斗ッ、朱乃ッ」

 

リアスは震える声で二人の名を呼び、静かに涙を流した。

 

そんな彼女に……

 

 

 

「いや、あなたが自分で言うように、リアス、小猫の誘拐はあなたに責任があるんじゃないかな?」

 

ーーそう、黒髪の美少年が責任の所在を追求した。

 

「バロールッ!」

 

「フッ、祐斗。僕はギャスパーだって言ってるじゃないか」

 

そう少年は言うが、彼とギャスパーの容姿は大きく異なっている。

 

ギャスパーの髪が金髪に対しバロールと呼ばれた少年は黒、身長も少年の方がギャスパーより頭一つ分は高いし、女装もしていない。

 

何より纏うオーラの質が違い過ぎた。その魔力の高さに対して何処か弱々しく感じられたギャスパーのそれに対し、少年のオーラはただ暗く深く、そして圧倒的に力強い。

 

だが、確かに少年の容姿はギャスパーに通ずる所が多々あった。顔立ちもそうだが、そのルビーの様に赤い瞳、そして神器『停止世界の邪眼』もギャスパーと同じモノ。

 

 

 

ただし、彼の神器は既に禁手化に至っているが。

 

「……ギャスパーくん、イッセーくんはどうしました?」

 

「赤龍帝なら僕との戦闘訓練で負った怪我をアーシアに治してもらってるよ」

 

かなりハードにやったからね、もう一時間は意識が戻らないと思うよ。

 

そうギャスパーは言った。

 

「……その割には君は無傷に見えるんだけど?」

 

「無傷だからね」

 

そうなんでもない風にギャスパーは話すが、それは容易な事ではない。今のイッセーは並の上級悪魔なら瞬殺出来る程力を高めている。

 

それに無傷で勝利する、それは相性を抜きに考えても上級悪魔レベルの者が出来る事ではない。

 

少なくとも最上級……あるいは魔王級かもしれない。

 

「さて、責任の話に戻ろうか、リアス、あなたは昔から小猫が仙術を恐れていた事、現在は自身の脆弱さを悩んでいた事を知っていたな?」

 

「……そうよ」

 

「そして、今も昔も小猫の悩みを知りながら放って置いた」

 

「そんなつもりはッ!」

 

「ない、そう言い切れるかな?」

 

「………私は小猫に自分で乗り越えて欲しかった」

「それがいけなかった。あなたは年単位で小猫の主だった筈だ、少しずつでもいいあなたに小猫に仙術を使わせるべきだった、そうすれば小猫を置いて行くなんて事にはならなかっただろう」

 

小猫が言ったように代わりに使い魔を置いて行けば良かったからね、とギャスパーは言う。

 

「小猫は仙術にトラウマを持っていたわッ!」

 

「その通りだ。しかし、そのトラウマを克服させる努力を怠った。あなたは優しく小猫に接して彼女の心の傷を癒したが、小猫のトラウマの元である仙術に対する知識をつけようとしなかった」

 

「…………」

 

その言葉は事実ゆえ、リアスは言い返す事が出来なかった。

 

「小猫の姉は力に酔い、主を殺して逃げ出したと言われているが、それは真実なのかな? 逆に真実だとすれば別に仙術に限らず力をつければそれに酔うといことではないかな?」

 

「…………」

 

「あなたの罪はその眷属に対する甘さだ、優しさと甘さは別物だよ?」

 

「………そうね、あなたの言う通りだわ」

 

「よし、それで良い。自分の間違いを正確に理解しなければ人も悪魔も神も成長なんて出来ないからね、そしてもう一つアドバイスをしよう」

 

そう言うとギャスパーは大きく息を吸い込んだ。

 

 

「いい加減立ち直れ、ウザったいッ! もう小猫が攫われて2日だぞッ! 捜索を専門家に任せるのは仕方ない事だが、いつまでクヨクヨしているつもりだッ! それでも僕の主人か!?」

 

リアスの耳がキーンとなる程の音量でギャスパーは彼女を叱咤する。それにリアスは目をまん丸にした。

 

「……今までのギャスパーとは完全に別人ね」

 

「それは仕方ない事だよ、ギャスパーとバロールは同一人物にしてある意味二重人格の様な状態だった。それを何処かのバカ(ヴァーリ)が一つに融合しまったんだあなたの知るギャスパーと性格が異なるのは仕方がないよ……さて、僕も小猫の捜索にあたるかな、あなたはここ2日寝てないんだからちゃんと寝るんだよ、寝れないならその二人に付き添って貰えばいい」

 

そう言ってギャスパーは停止している木場と朱乃を指差した。

 

「……妙に静かだと思ったらッ! ギャスパー、制御出来るのに味方に神器を使うのは止めなさいッ!」

 

「了解、まあ、あなたと静かに話したかったからね、二人はあなた同様甘い。いちいちフォローされるのは面倒でね、だから止めさせてもらったんだよ」

 

じゃ、そういうことで。そう言ってギャスパーはリアスの部屋を後にした。

 

それから数秒後、随分と遅くなったフォローが木場と朱乃の口から飛び出したのだった。

 

 

 

 

 

 

『続いてのニュースです、千葉県に突如として現れた多数のドラゴンと超巨大クレーターは大魔王……』

 

「はぁ、どうすっかなぁ」

 

手頃な無人島を見つけ、再びそこに家を建てた勇真は一人浜辺でラジオを聴きながら今後の事を悩んでいた。

 

何についてかなど言うまでもない。

 

 

リゼヴィムについてだ。

 

千葉県で見た大量のドラゴン、その大半は大したことない龍だったが、その内の数匹は明らかにヤバイ雰囲気とオーラを纏っている強敵だった。

 

これに勝つには骨が折れる、中には手に負えないんじゃ? というレベルのも混じっていたくらいである。

 

だからこそ、勇真はこっそり超威力の攻撃を準備して連発した上で転移で逃げたのだ。

 

まあこの攻撃はドラゴン出現の直前に起こった超々大規模強制転移により千葉県がほぼ無人となったからこそ出来た暴挙なのだが。

そこだけは英雄派に感謝しても良いと勇真は思った、おかげでリゼヴィムの戦力を幾分か削れたのだから。

 

「ほっときたいなぁ……でも、これほっとくと人類滅びるんじゃないかなぁ?」

 

勇真は嫌そうに呟いた。

 

勇真が直接見たリゼヴィム達の戦力は常軌を逸していた。もう、冗談抜きであっさり人類は根絶やしにされてしまうんじゃ? と勇真が危惧する程度には異常だった。

 

とは言え、生き残るだけなら容易いと勇真は思う、今いるこの島に全力で認識阻害を掛けてのんびりと食べる分の野菜を作り、海から魚を取ってルミネアと一緒に生活してれば大丈夫だと思う。

 

だが、勇真はそんな娯楽の少ない生活を続けられる気がしなかったな。

 

「テレビもネットも漫画もライトノベルも美味しい外食もカラオケも……カラオケは行かないか、とにかく何も出来なくなるんだよなぁ、それは嫌だな」

 

面倒くさいッ! そう言って勇真は浜辺を転がる……やはりコイツはダメ人間だ。

 

「俺が戦うしかないのかなぁ? でもなぁ、頑張って戦うぞ〜!……なんて俺のキャラじゃないし、もう、自分は一切苦労せず相手を一方的に排除する方法がないものか」

 

そんな外道とか悪役が考えそうな事を呟きながら元勇者はリゼヴィム対策を考える。

 

英雄派は大量虐殺を防いだ、ならば少なくともリゼヴィムと協力関係にはないのだろう、しかし、完全に敵対するかは分からないし、戦力がどの程度残ってるか不明の上万全でも厳しいと思う。

 

悪魔陣営は人間の魂が欲しいはずだからリゼヴィム阻止に動くかもしれないが、リゼヴィム自身も悪魔だし、別に悪魔に人間の魂が必ず必要という話でもないから少々怪しい。

 

堕天使は喜んで戦争を仕掛けるかもしれないが、幹部が思いの外弱かったのであまり期待が持てない。

 

天使はむしろある程度人類の文明を破壊させてから介入して信仰心を集めようとする様な気がする、そして神を欠いた天使達にあのリゼヴィム達を止められるかは不明。

 

他の神話体系がリゼヴィムをどうにかしてくれるかもしれないがギリシャ神話とかはむしろリゼヴィムより下衆が多数いそうで逆に心配になるし、北欧はなんか勝手にラグナロクが起こって自滅しそうだ。

 

インドは介入してくれればどうにかなりそうだが、スケールが大き過ぎる攻撃を撃ってむしろリゼヴィムを倒す余波で人類が滅びそうである。

 

 

勇真は多数の偏見を織り交ぜた思考で対策を考えた上で……

 

 

 

 

「……あ、良い方法があった」

 

一つの策を思いつく。

 

そして、勇真は、俺って天才かも、そう黒い笑みを浮かべて細心の注意を払い策の準備に取り掛かるのだった。

 

 

 




信じられないだろ? これまだ夏休み前なんだぜ。

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