「遅かったな」
万全の体制を整えてバトルフィールドに転移してきたイッセー達を余裕の態度でヴァーリは出迎えた。
「てっきりいきなり襲い掛かって来るかと思ったぜ、脱出しなくて良いのか?」
龍帝の鎧を纏ったイッセーが何処かホッとした様な声で言い。
「冗談だろ? する必要がない、街に被害を出さない為に、キミ達はここに来るしかないのだから……まあ、もしあと五分待っても来なかったら、脱出しようと考えてはいたがな」
龍皇の鎧を纏わぬヴァーリが軽い口調でそれに返す。
そんなヴァーリの様子を見て……
ーー今しかないッ!
そうリアス達全員が思った。
ヴァーリは油断も慢心もしないで戦うと言っていたがそれは “ジークフリート” 限定の話なのだろう。
彼は万全の戦闘準備を整えているリアス達を前にしても禁手化どころか神器の発動すらしていない。
「「「「「「(チャンスッ!!)」」」」」」
これによりリアス達は予定を変更する。
つまり、時間を稼いで助けを待つ事から彼の “打倒” へと。
『Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost‼︎』
『
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イッセーの瞬間最大倍化譲渡5連続、そして自身に最大倍化、僅か3秒でなされた高速譲渡と最大倍化により、短時間だがイッセー、木場、アーシアが上級悪魔の上位、そしてリアス、朱乃、ギャスパーが最上級悪魔に片足を突っ込むレベルの魔力を得る。
それを見てもヴァーリは『……ほう』と、軽く感心するだけで神器を使う様子を見せない。完璧にイッセー達を舐めている。やはり、つけ込むなら今しかない。
自身は全ての力を引き出し、相手には全力を出させない。
それが格上と戦う際の鉄則だ。
敵が油断している内に、遊んでいる内に、慢心している内にーー殺す。
そもそも今のリアス達が魔王以上の実力者相手に数十分も時間を稼ぐなんてほぼ不可能、それよりも、本気を出さない内に殺す方がまだ勝率が高い。
もちろんこれは高リスクの博打だ。失敗すれば相手を怒らせ、格上が即座に本気になってしまう場合もある、つまりベストは殺害、最低でも重症を負わせなければリアス達の死はほぼ確実となる。
だが幸い、敵は『変身』という手順を踏まねば全力を出せない特殊な相手だ。いかに即座に変身出来るとは言え、それでも普通の相手よりも本気を出すのに時間が掛かる。故に通常より時間に余裕がある。
だからこその決断だった。
「お、いきなりか? なんだ意外と好戦的じゃないか」
そう笑うヴァーリに答えずにイッセー、木場が飛び出した。
「うぉおおおおッ!」
「はぁああああッ!」
気合の叫びと共にイッセーと木場は絶妙なコンビネーションの連続攻撃をヴァーリに見舞う。
だが、ヴァーリは余裕と若干の失望が入り混じった表情でそのコンビネーションを軽々と捌いてしまう。
「なんだ、この程度か? 纏うオーラからもう少しはやると期待したのだが」
「悪かったな! お前と違ってこちとら凡人なんだよ!」
「悪いね、白龍皇、これが僕らの精一杯さッ!」
二人の言葉に更にヴァーリの顔に失望の色が滲み出る。
「…………つまらないな」
期待して損した。そんな表情でヴァーリは軽くイッセー、木場を攻撃する。
ーーそう、この程度の相手には充分だろうと思われる攻撃をする。
それをイッセーと木場はあっさり回避した。
「むッ!?」
回避から一気に木場とイッセーが加速する。
そう、全てはフェイクだったのだ。気合の叫びも、ヴァーリとの会話も、これが自分達の全力だと、ヴァーリに “錯覚” させる為に行われたブラフなのだ。
「はぁああああッ!!」
今度こそ本当の気合を込めて木場が死剣を振るう、攻撃を回避され身体が泳いだヴァーリはその斬撃をまともに受けてしまった。
「ぐ、このッ!」
遥か格下の相手の斬撃で胸に一文字の傷をつけられたヴァーリ、その怒りで彼は意識を木場に向ける……向けすぎる。
その背に無言でイッセーが剛腕を振るった。
その剛腕がヴァーリにヒット、それと同時にパイルバンカーの様に籠手から射出されたアスカロンがヴァーリの腹を貫いた。
「ぐふぉあッ!?」
腹を貫抜かれたヴァーリが吐血、それに構わずイッセーは刀身を捻り傷口を広げるとアスカロンにパワーを譲渡、聖なる波動を傷口からヴァーリに叩き込もうとする。
「舐めるなッ!!」
だが、流石にそのまでは許さずヴァーリは自身を中心に全方位魔力砲撃でイッセー、木場を弾き飛ばした。
「ブラフとはやってくれるッ!」
ヴァーリは怒りに満ちた表情で自ら吹き飛ばしイッセー木場を睨みつける。
次の瞬間、彼の動きが『停止』した。
ギャスパーの停止世界の邪眼だ。
最大倍化譲渡により力を大幅に増したギャスパーはヴァーリの意識が完全に自分から逸れた瞬間、全力で神器を発動、彼を停止させる事に成功した。
しかし、停止は0.1秒も持たない。
それを分かっていた為、停止と同時にリアス、朱乃が最大威力の滅びの魔力と雷光をヴァーリに放った。
ヴァーリが停止から戻っ瞬間、目の前には凶悪な攻撃があった。
普通は直撃する。だが、彼は普通ではない!
ヴァーリは混乱しながらもその攻撃を瞬時に作り出した強大な魔力障壁でなんとか防ぎきった。
そこに、アーシアが放った “赤い” 魔力が急接近、その魔力はヴァーリの魔力障壁を素通りし、彼の身体に吸い込まれる様に浸透、そして……
ーー甚大なダメージをヴァーリに刻んだ。
「がぁああああッ?!」
予想外の激痛にヴァーリは驚愕の叫びを上げる。
ある意味で反則的な能力だが、これは未だに研究段階の危険なモノ、ジークフリートが自身の魔法技術を堕天使側に提供した際の対価で教えられた禁じ手、彼がアーシアに残した危険な遺産。
この能力の代償は攻撃魔力の使用不可。
アーシアはこの反転回復魔力以外の攻撃魔力を一生使う事が出来ない。とんでもなく高い代償を払って得た能力である。
だが、それでもお釣りが来る。アーシアのこの攻撃は防御不可で回復魔法等が効く相手には、当たればほぼ確実にダメージを与えられるという最悪の攻撃である。
その攻撃力は回復力に比例する。
つまり、重症を完全に治せるくらいの回復力を込めれば、相手に確実に重症を負わす事が出来るのだ。
全身くまなく酷いダメージを負ったヴァーリ、その彼に再びギャスパーの『停止』が突き刺さる。
ダメージゆえか、停止時間は先程よりも長い、その時間を生かして眷属最速のイッセーが超音速で接近。
「うぉおおおおッ!!」
停止しているヴァーリの頭上からアスカロンを一閃、彼を頭から真っ二つに両断した。
「……俺、何か悪い事したっけ?」
そう、勇真は疲れたように呟いた。
「……いっぱいしている様な気がします」
勇真の呟きにルミネアが答えた。
「酷いなぁ、俺は結構善良に生きてきたつもりなんだけど」
「……勇真さんの善良は定義が広過ぎると思います」
「はは、まあ、俺は自分に優しくをモットーに生きてるからね、ちょっとばかし自分に甘くなるのは仕方ないんだよ」
でも、自分に甘い奴なんて世界にいくらでもいるでしょ? そう勇真は笑う。
「……そうですね、私も自分に甘いですし」
「そうそう、人間、自分と大切な人を第一に考えては生きてれば良いんだよ、他人にはちょっぴり親切にするくらいでね…………と、言うことで」
勇真は足元に魔方陣を形成する。
ーー長距離転移魔方陣だ。
「逃げようか」
「……はい」
突如千葉県の空に現れた数十万匹の邪龍、それに勇真は準備していた極大魔法七種を叩き込むと怒り狂う邪龍達を無視して、ルミネアと共に逃げ出したのだった。
「………….スッゲェェ、嫌な事思い出した」
イッセーが勘弁してくれ、と言った風に呟いた。
それはリアス眷属一同の思いを代弁した言葉だった。
「いや、驚いた。正直舐めていた。悪かったなキミ達を侮って、まさか神器無しとはいえ強化された俺を倒せる程の実力を着けているとは夢にも思わなかったんだ。もう一度謝ろう、侮ってすまなかった」
そう “無傷” のヴァーリがイッセー達に告げた。
その口調は何処が敬意を表する様に聞こえたが、そんな事を気にする余裕はイッセー達になかった。
「ああ〜いつの間にお前、フェニックスに転職したんだ?」
「数日前にちょっとな、まあ、これはフェニックスではなく『聖杯』の力なのだが」
そう言うヴァーリは左手には金色に輝く小さな杯が握られていた。
「『幽世の聖杯』まさか、これを使う羽目になるとはな……はぁ、俺も学ばないものだ。まさかまた油断で、しかもキミ達の様な格下に “殺される” とはーー
その力ある言葉にヴァーリの身体が閃光に包まれる、そして一秒後には強大な白銀の鎧を纏った恐るべき龍皇が一人。
「もう、油断はしない。キミ達の知恵と勇気と力は俺が本気を出すに値する」
そう言うヴァーリの放つオーラはイッセー達の何百倍も強い。
「「「「「「…………」」」」」」
「さあ、再開といこうじゃないかッ!」
絶望がイッセー達を支配した。
ザ・ムリゲー。
千葉県「闘えよ!? 勇者だろッ!!」
勇真「極大魔法7発も撃ったじゃないですか」