勇者さんのD×D   作:ビニール紐

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第2話

勇者さんD×D 2

 

 

「では少し行ってくる」

 

「高橋君はまだ帰らないでね」

 

そう言って白ローブ二人はーーゼノヴィアとイリナは殺る気満々でファミレスを出て行った。外の三人が慌てている、悪い事をしたなと勇真は思った。

 

しかし、まあ、勇真は自分が一番可愛い、自己中と言うことなかれ、大抵の人間はそういう風に出来てるのだ。

 

「悪いなイッセー」

 

勇真はファミレスの外から何事か此方に文句らしき物を言っている幼馴染に軽く手を上げると会計を済ませ、素早くファミレスを後にした。

 

 

 

 

 

……今日は厄日か?

 

そう、勇真は思った。イッセー達を囮にファミレスを脱出、家に帰るついでにお菓子とジュースを買い、近道の為に森林公園を通ったら今度は黒ローブの変質者に出会した。

 

呪われてるのか? それ系は毎日解呪している筈なのだが? そんな事を考えていると、黒ローブはフラフラと此方に近ずいて来た。

 

思わず勇真が距離を取ると、黒ローブは掠れた声で助けて、と言ってから吐血、そのままドサリとぶっ倒れた。

 

倒れた拍子に脱げたフードから見えるのは今にも死にそうな顔の白髪少女。

 

俺ってそんなに日頃の行いが悪いのかなぁ、と勇真は頭を抱え、直ぐに治療に取り掛かった。

 

 

 

 

「……あれ? 生きてる」

 

少女ーールミネアの第一声はそれだった。

 

彼女は自分に掛けられたタオルケットを取りは身体を確認する。衣服を全て脱がされてはいるが、乱暴された形跡や身体の痛みはない。彼女はそれから不安そうにキョロキョロ周囲を見回した。

そこはルミネアの知らない部屋で、少なくともコカビエルの隠れ家ではない。その事に彼女はホッとする。

 

すると部屋の外からトントントンというノックの音が聞こえてきた。ルミネアは一瞬ビクリと震えると、とっさにタオルケットを肩まで被った。

 

「は、はい、どうぞ!」

 

「失礼します」

 

入って来たのはルミネアと同年代に見える黒髪の少年だった。少年は疲れたように、だがどこかホッとしたように息を吐くと、片手に持っていたペットボトルを開け、コップに中身を注ぐとそれを机に置いた。

 

「もう、起きたのか、身体は大丈夫?」

 

「はい、なんともないです……もしかして貴方が治療してくれたんですか?」

 

ルミネアの記憶通りならば、自分は聖剣使いの因子結晶を身体に入れられ拒絶反応で死に掛けていた筈なのだ。

 

そう、ほぼ死んでいたと言える状況だった筈なのだ。

 

それが今では身体の何処にも痛みがない。

 

「一応、そうなるね」

 

ルミネアの問いを少年はあっさり肯定した。

 

それを聞きルミネアは驚く、エクソシスト故に自分を救うのがどれ程困難な事かルミネアには分かっていた。最低でも高位の治癒魔法と治療薬を併用する必要があった筈だ。

 

ルミネアはそんな真似が出来る少年を少し警戒し、そして見ず知らずの自分に手間とお金が掛かる治療を施してくれた事を深く感謝した。

 

「ご面倒をお掛けしました、本当にありがとうございます」

 

「どういたしまして、ところで身体に痛みはない? 力が入らないとか」

 

「あ、大丈夫です、驚くくらい体調が良いです」

 

「それは良かった。でも一応、危ない状況だったからしばらく安静にしてね、あ、喉が渇いたらそれ飲んで、あと君の服は洗濯中だから、本当に悪いんだけど少しの間、我慢してあと30分もしたら持って来るから」

 

少年は踵を返し部屋を出て行こうとする。

 

「あ、あの!」

 

「ん、なに?」

 

ドアノブに手を掛けたまま少年が振り返る。反射的な行動だった。ついなんとなくルミネアは少年を引き止めてしまった。

 

「ルミネアと申します、本当に治療、ありがとうございました」

 

「気にしなくていいよ、俺は宮藤勇真、なにか困った事があったら声を掛けてね」

 

少年ーー勇真はそれだけ言うと今度こそ部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

「……どうしよう」

 

勇真はリビングで一人、悩んでいた。

 

成り行きで死に掛けの家出少女(裏稼業関係者)を拾ってしまった。勇真は今後どのよの様な行動を取れば良いのか分からない。

 

取り敢えずなにかヒントを探す為にスマホで家出少女、拾った、裏稼業で検索するも出てきたのは18禁SSばかり、しかも監禁陵辱物が多数……参考にならない。

 

これは面倒ではあるが身の上話を聞かねばなるまい。少女ーールミネアの様子からそのまま家か、住んでいた場所に帰す事は出来ない、まず高確率で悲惨な目に遭う。

 

勇真は面倒くさがりではあるが人の命が掛かる状況を面倒くさいでスルーする程、冷酷ではなかった。

 

「……さて、そろそろ30分か」

 

彼はイスから立ち上がると、洗濯魔法と修復魔法で新品同様に仕上げたルミネアの服を持って、自室の扉をノックした。

 

返事はすぐに来た。

 

「は、はい、どうぞ」

 

どうやらまだ、あまり落ち着いていないらしい。いや、それどころか先程以上に声色に緊張感や焦りがうかがえる。

 

「失礼します、洗濯終わったよ、服は置いとくから着替えたら声を掛けて」

 

「は、はい、分かりました」

 

 

 

 

「お待たせしました、着替えました」

 

「分かった、じゃあ入るよ」

 

勇真が自室に入ると黒のローブを着たルミネアがベッドに腰掛けていた。彼女はかなり緊張した面持ちだ。

 

膝の上に置かれた手は固く握られ、顔は若干青ざめている。そして綺麗な翡翠色の瞳が自信なさげに揺れている。

 

不謹慎だが、勇真はそんな彼女を見て可愛いの思った。勇真の金でファミレスで馬鹿食いした二人とは大違いである。

 

「……イリナ達に見習わせたいよ」

 

「な、何か言いましたか?」

 

「いや、ごめん独り言」

 

勇真は机に備え付けられたイスをずらすとルミネアに向き合う形で配置し座った。それど同時にルミネアの緊張感が一気に増したような気がする。

 

「ああ、そんな緊張感しなくて良いからね」

 

勇真は出来るだけルミネアの緊張させないように落ち着いた声で言った。

 

「は、はい!」

 

ただ、残念な事にあまり効力はないらしい、そんなルミネアの様子を見て勇真は苦笑した。

 

「まず、いくつか質問に答えて欲しい、どうても答えたくないものがあったら黙秘して構わない、じゃあ、まず一つ目、家族か保護者はいる?」

 

「……居ません」

 

「じゃあ、帰る場所は……いや、帰りたい場所ある?」

 

その質問にルミネアの肩がビクリと震える。

 

「……ありません」

 

「今後、生活出来るだけのお金は持ってる?」

 

ルミネアの震えが大きくなる。

 

「あ、ありません……無一文です」

 

「そうか、では、もしかして追われてる?」

 

「…………」

 

三つ目の質問にルミネアは黙秘する、しかし、肩を震わせ涙目で俯くその態度で答えなんて簡単に分かってしまう。

 

まあ、ここまで想定通りだ、助けた状況から充分に予想出来る範囲内だ。

 

「オーケー、そうか、そうか、よし分かった。じゃあ、次ね、ルミネアは料理は作れる」

 

「……?」

 

「あれ? これも言いたくないか……もしかして作れない?」

 

「……え? い、いえ、孤児院の教会では当番制で作ってましたので、美味しく出来るかわ分かりませんが、作れ、ます」

 

「そうか、じゃあ、掃除洗濯は?」

 

「あ、それは、出来ます」

 

「良し、優秀! ところで話は変わるんだけど、君の治療にフェニックスの涙を使ったんだけど、代金を払ってくれるかな?」

 

「え?」

 

そんな事を言われても払える訳がない。フェニックスの涙は世界でも最高峰の回復回復薬だ、その効力は四肢の再生能力こそないが、致命傷を含めたあらゆる怪我を癒してくれる超貴重な薬だ。

 

その価値はひと瓶1000万では足りない。

 

「ん、払えない?」

 

「は、払えません……も、申し訳ありません」

 

ルミネアは涙目でオロオロしている。どうやら意地悪が過ぎたようだ。

 

勇真は反省する、反応が可愛かったのでつい虐めてしまった。

 

「ああ、更に話が変わるんだけど、俺ってかなり面倒くさがりなんだよね、もう自分で料理もしたくないし、掃除も洗濯もやりたくたい。例え暇でもやりたくたい、そんなダメ人間なんだよね」

 

「………」

 

「で、今度家政婦さんを雇おうと思ってるんだけど、中々いい人が居なくてね何処かに居ないかなぁ〜二十四時間住み込みで俺の世話をしてくれる様な人」

 

白々しく、本当に白々しく勇真はルミネアを見ながらそう言った。

 

しかし。

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「……あれ? 伝わってない?」

 

「は、はい、何がでしょうか?」

 

え、いや、伝わるよね普通、いや、漫画の読みすぎ? ……ごめん真面目な場面でするべきじゃなかった。いや、でも、こういうシチュエーションで一度でいいからやってみたかったんだよ。

 

と、勇真が言い訳にならない言い訳を脳内で展開していると、ルミネアが悲壮な顔をした、何かを決意した様な顔をした。

 

「……お金でしたら、本当に申し訳ありません、私には払う当てがありません……もし、不快でなければ私の身体を好きに使って下さい」

 

そう言って、ルミネアは震える身体でローブを脱ぎ始める。それを慌てて勇真は止めた。

 

「ちょちょ、ちょっと待ってね、冗談だから! 身体とかダメだよ、お金とかも払わなくて良いから」

 

「え…….ですが私には返せるモノがそれしか、ありません」

 

涙目でそう言うルミネアは実に可愛らしく、勇真の嗜虐心をくすぐった。

 

どれくらいくすぐったかと言うと、正直、もう、ちょっとくらい身体で払って貰っても良いんじゃないか? と頭によぎるくらいくすぐった。

 

しかし。まあ、ここでじゃあ身体で払ってもらおうか! などと言ったら鬼畜外道である、そう言う鬼畜系の欲求は誰にも迷惑が掛からないエロゲで発散すれば良い。

 

勇真はちょっと……いや、かなり勿体無いかなぁと思いつつも、深呼吸してなんでもない顔を無理やり作り話を続けた。

 

「……問題ない全部魔法で治したから、魔法力くらいしか消費してないから、だから気にしないでね、よし、じゃあそれは置いておいて、取り敢えずだけどルミネアは暫くここに住んでね」

 

「は、はい、とてもありがたいのです……しかし、私などがいても宜しいのでしょうか?」

 

「大丈夫、問題ない。家事をしてくれるだけで良いから、滞在費とか要らないし、なんならお小遣いもあげる、とにかく家にいて、言っちゃ悪いけど元いた場所に帰ったら殺されるよね? そして帰らなくてもここら辺をフラフラしてたら始末される……違う?」

 

「……はい、おそらく」

 

「でしょ、じゃあ、決まりね、ルミネアは家で家政婦をして下さい、あ、暫く家の外にも出ないでね、庭は良いけど門を潜っちゃいダメだよ? 敷地内に分からない様認識阻害と防御結界を張ってるから、ここに居る限り追っ手に早々発見される事はないから、良いね!」

 

「は、はい」

 

「宜しい、じゃあ、もう遅いからお休み、ベッドはそのまま使っていいよ」

 

そう勇真は一気にまくし立てて話を打ち切り、部屋から出て行った。

 

 

 

 

「疲れたぁ」

 

勇真は力なくテーブルに突っ伏しながら誰に言うでもなく呟いた。

 

他人と長時間真面目な話をするのは疲れる、それを改めて実感した。

 

もう、当分、真面目な話はしたくない、そう思いつつ、勇真は身を起こすと、真剣な目付きで虚空を睨む。

 

すると一瞬にして勇真の周りに複数の魔法陣が展開された。

 

「キーワード【ルミネア】」

 

勇真がそう言うと、魔法陣の輝きが増す、そして魔法陣から何者かの会話が流れてきた。

 

勇真はセラビニアから帰って来て魔法を得た事により、地球にも超常の存在がいる事を知った。そして軽く調べた結果、自分が住む街のあまりの人外率に危機感を覚えたのだ。

 

そのため彼は密かに駒王町を覆う監視結界を張っていたのだ。

 

この結界の効力は駒王町に知的生命体の会話の盗聴、録音能力を持ったもので、キーワードを言う事でそのキーワードに関する会話を新しい順に自動で再生する機能を持ち、また駒王市に居る人外の数と種族を特定する事が出来るのだ。

 

勇真として映像記録機能もつけたかったのだか、これをつけると結界の隠蔽が難しくなるのでつけられなかった。

 

ちなみに言うまでもなく犯罪であるが、私的に悪用するつもりは勇真にはない、まぁ、今の所と但し書きがつくが。

 

「………」

 

勇真は無言で魔法陣から流れて来る会話を聞く、ルミネアをキーワードにして再生される会話で出てくる者は主に四人、その中でも特に多いのが丁寧口調だがルミネアを実験動物と言い切る歳を取った男ーーバルパー。そして口調が汚らしくルミネアを売女と呼ぶ聞いてて不快になる声の若い男ーーフリードだった。

 

その二人の会話を大まかに纏めると、『実験中にルミネアが逃げた、死体が見つかっていないから生きている、用済みだが聖剣使いの因子を回収したいから捕まえろ、捕まえた後は殺していい』という胸糞悪内容だった。

 

やはり、無理にでも引き止めて良かった。

 

勇真は自分の選択の正しいさに安堵する、そして更に情報を集める為に、判明したバルパーとフリードをらキーワードに調べて行く、すると出るわ出るわ、危ない話が山程か交わされている。

 

特にヤバイのが……

 

バルパー達のボスは堕天使幹部コカビエル。

 

聖剣エクスカリバーがバルパー達の手元に複数本ある事。

 

駒王市民を誘拐し聖剣使いの因子を抜き取ってから殺す計画を立てている事。

 

駒王市を壊滅させようとしている事。

 

そして、コカビエルは神と魔王が滅びた為に中途半端に終わった天使、堕天使、悪魔の三つ巴の大戦、その再開の引き金に引こうとしている事だった。

 

 

「………」

 

勇真は無言で魔法陣を消し、今後の行動方針について考え始めた。

 

ヤバイ過ぎる状況だ。

 

今週中、遅くとも来週までにコカビエルは動く、魔王の妹、リアス・グレモリーとソーナ・シトリーを殺して戦争を引き金を引く為に。

 

そして、もし、助っ人を呼ばずにコカビエルと戦えば高確率でリアス達は殺され、この街は壊滅する事だろう。そうなれば犠牲者の数は数千ではきかない。

 

風の噂でリアスとソーナは優秀と聞いているが、かつて神や魔王と戦い生き残り、千年以上の時を生きる古強者に魔王の妹とはいえ成熟していない成人前の悪魔達が勝てると考える方がおかしい。特に人間と違い人外は能力が成長しきるまで百年以上の時を必要とするのだから。

 

 

 

だが、ならばどうする? 勇真が戦うか?

 

それもいいだろう、いや、それがいいだろう。勇者の剣がらなくとも勇真の実力は現時点のリアス、ソーナ眷属全員を束ねても及ばない程高いのだから。

 

しかし、コカビエルの正確な実力が分からない、分からないまま戦いを挑むのはあまりにもリスクが高い。下手に挑んで格上でした、なんて事になれば目も当てられない。

 

まずはコカビエルの戦闘力の把握が必要だ。

 

 

 

「…….試してみるか」

 

勇真は冷蔵庫を開ける、中から取り出したのは2リットルコーラ、彼は蓋を開け、それをコップに注ぐ。

 

そして注いだ際に開けたキャプ……正確にはドラグ・ソボールとのコラボ企画の空孫悟のフィギュアキャプを手に取った。

 

 


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