勇者さんのD×D   作:ビニール紐

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“勇者さん” のD×Dですから、魔法使いに非ず。


第15話

「はぁ、やってくれたな、宮藤勇真」

 

とある孤島に重なる様に作られた異界、現英雄派本拠地の会議室で、曹操が溜息と共に恨み言を呟いた。

 

「……ゲオルク、各支部への襲撃で戦力はどの程度減った?」

 

「エクソシストが九割、魔法使いが八割、そして神器使いが七割捕縛ないし死亡した。ジークフリート、ヘラクレスの行方不明も考えて総合的に……戦力は八割減と言ったところか」

 

「そうか、ハーデスとの交渉は?」

 

「難航している、どうやらどこぞの筋から英雄派の目的がオーフィスを使った全人外の排除という内容で各勢力に伝わったらしくてな、それを信じたハーデスはサマエルの貸し出しを拒んで来た……オーフィスの力を奪う計画は頓挫したといっていいだろう」

 

「……そうか、それで勇真の行方は?」

 

「不明だ」

 

そこまで聞くと顔を憤怒に染め、右手を振り上げた曹操は怒りに任せ机の一部を叩き壊した。

 

「ーーッ! ……すまない、五月蠅くしたな」

 

「いや、気にしないでくれ、こんな事態だ物に当たりたくもなる」

 

「はぁ……ありがとう、少し落ち着いた。しかし、戦力で動くのは無理か、暫くは戦力補充に努めよう、ゲオルクはエクソシストの勧誘を頼む、天使が悪魔と組んだことで不満を持つ者が大量に居るはずだ、特に人外に恨みを持つ者は現状を許せないだろう」

 

「了解した。曹操はどうするのだ?」

 

「新幹部予定の者達を鍛えておく」

 

「ああ、あの複数の神器を持たせた者達か?」

 

「ああ、それとバルパー・ガリレイをだ」

 

 

 

 

 

 

 

恐怖のジークフリート教室は本日10日目を迎えていた。

 

 

 

「うおぉおおおおおッ!」

 

「はあぁあああああッ!」

 

雄叫びを上げながらイッセーと木場がジークフリートに接近戦を挑む。

 

そのコンビネーションは正に阿吽の呼吸、二人は高速で目まぐるしく立ち位置を変えながらも一度も接触する事無く、それぞれの隙を埋める様にジークフリートを攻め立てる。

 

その連携攻撃にジークフリートの頬が楽しげに歪んだ。

 

「いいよ、実にいい。そうだ、一人で戦うな、せっかくの集団戦だというのにキミたちと来たらなぜか一対一ばかり仕掛けてくる、訓練初日から僕はそれがとても不満だったんだ」

 

そう話しつつ、ジークフリートは剣も使わず体捌きだけで二人の連撃を躱し続ける。

 

「クッ!」

 

「このッ!」

 

攻撃が当たらない事に焦り始める木場とイッセー。この間にもジークフリートの口撃(呪詛)が二人の身体を少しづつ蝕んでいく。

 

「うん、本当にいい。中々のコンビネーションだ。だが、まだ僕に攻撃を当てるほどじゃないね、キミたちは少しアイコンタクトをし過ぎている、それはもっと短時間かつ、さり気なくしないと、僕にまで次の動きが読めてしまうよ?」

 

そう言ってジークフリートは予め木場来ると分かっていた場所に足を出す、それに引っ掛かり、木場が宙を舞う。しかし、彼は巧みに空中で体制を立て直すとうまい具合に着地、直ぐに視線をジークフリートの方に向ける。

しかし、木場の視線に移ったのは困惑顔のイッセーのみ、ジークフリートは何時の間に姿を消していた。

 

「ーーッ!一体何処に!?」

 

「僕はここだ」

 

そう、 “困惑顔のイッセー” が言って木場に拳を叩き込んだ。

 

「ご、がぁッ!?」

 

「木場ぁぁッ!?」

 

それと同時に、もう一人のイッセーが叫びながら姿を現わした。

 

「何度も言ってるけどキミは……キミ達リアス眷属は仲間を信用し過ぎだ、いや、正確には仲間の姿を信用し過ぎだ。キミ達は眼に映るものが自分と同じ眷属だと直ぐに警戒心を解いてしまう」

 

そう、“困惑顔のイッセー” は言いながら、顎に拳を喰らいフラつく木場に追撃の回し蹴りを叩き込んだ。

 

「か、はぁッ」

 

その一撃で木場は地面と平行に吹き飛ぶ。そして、それに視線を向けたイッセーの腹に黒鉄の剣が突き刺さった。

 

「ーーッ!? ガッ!」

 

「だからこんな気配も誤魔化していない幻術に引っ掛かる。なぜ、消えたのが僕で残ってるのがイッセーくんだと判断した? イッセーくんを消して僕がイッセーくんに変身したとは考えなかったのかい? あとイッセーくん、仲間を心配するのは素晴らしいがそれで隙を作ってたら世話ないよ?」

 

そう、笑い、ジークフリートは腹に刺さった剣に視線を向けたイッセーの死角を通り移動、その首筋に強力な蹴りを叩き込み意識を奪った。

 

 

「さて、残るは塔城さん、キミだけだ」

 

「…………」

 

「残念だが、キミがリアス眷属で一番成長していない、そして一番中途半端な戦力だ……いや、オブラートに包むのはよそう、はっきり言って、キミが一番使えない」

 

「ーーうるさいッ!」

 

挑発ではなく事実だ。そう思わせる雰囲気で語るジークフリートに小猫がキレた。

 

しかし、ジークフリートはどこ吹く風、小猫渾身の右ストレートを指一本で止めると、当たり前の事を言うような、世間話をする様な口調で話し出した。

 

「キミはなぜ、最初のコンビネーションに参加しなかった? 二人が作った僕の隙を突くため? そうじゃないよね、ただレベルが高くてついて行けなかっただけだよね?」

 

「…………ッ」

 

「あの二人はリアス眷属の中でも特に成長している、今の禁手なしの状態ですらね。キミが着いていけないのは仕方ない。でもね、それよりも、僕はなぜこの接近戦メインのメンツにキミが含まれているの? と思ったんだよ」

 

「……私は『戦車』(ルーク)です。接近戦をして当然じゃないですか」

 

「そんなモノは後天的に与えられたモノに過ぎないよ。僕は魔法も“そこそこ” 使えるからキミの才能が何に片寄っているか分かっているつもりだ。その上で断言しよう、キミがこのまま与えられた特性のみに縋って行けば必ず、リアス眷属の足手纏いとなる」

 

「ーーッ、言いたい、放題ですね」

 

事実だからね、そう言ってジークフリートは肩を竦めた。

 

「決断するなら早い方が良い、リアス眷属は勤勉な “秀才” タイプが多い、あまり遅くなると取り返しがつかなくなるよ?」

 

「………秀才、タイプですか。天才は居ないんですか?」

 

「そんなの見れば分かるだろう? この10日間で確かな成長はあれど僕にこうもあしらわれるキミたちに天才は含まれて居ないよ」

 

そんな無茶を言うジークフリートに小猫はあからさまに顔を顰めた。

 

「貴方を基準にしないで下さい、みんな貴方のような怪物(てんさい)ではないんです」

「何を言ってるんだい? 僕は秀才タイプだよ? 少なくとも “ジークフリート” はそうだった。まあ、秀才の中ではトップクラスの才能だったけどね」

 

「………貴方で秀才とか、天才はどんなバケモノですか」

 

「………バケモノか、その通りだね。天才って言うのはね、秀才が努力を重ねてようやく到る領域にほんの短期間で辿り着き、そこから成長を止めない者の事を言うんだ」

 

「本当の天才ってのは冗談抜きで理不尽で、凡人と秀才のやる気を根刮ぎ奪う嫌な奴なんだ。特に秀才くらいになるとて天才との才能の差が朧げながらに分かっちゃうから危ないね。だからもし、本物の天才と出会ってしまったら一緒に訓練は絶対しない方が良いよ? 天才の理論は秀才には理解不能でその成長速度は本当に理不尽としか言いようがないからね」

 

 

 

 

「僕はそんな天才を一人知ってるよ、グウタラなやる気のない天才をね」

 

そう、ジークフリートは若干の焦りを滲ませて憎々しげに呟いた。

 

 

 

 

 

高速で、連続で、剣閃が交差し火花を散らす。

 

二振りの剣がぶつかる澄んだ金属音はあたかも楽器が奏でた様に美しく、規則正しい交わりは、まるで何かの曲の様にさえ聞こえて来る。

 

そして、奏者の片割れであるルミネアは現状を見て、ありえない! と思っていた。

 

何故なら、この現状が示す事は自身の全力が勇真にあっさり受け止めてられているという事に他ならないのだから。

 

「ーーハッ!」

 

素早く、連続でルミネアが剣を振るう、しかし、まるで当たらない、当たる気さえしない。

 

フェイントを織り交ぜた十二の剣閃、勇真はそのどれがフェイントでどれが本命か最初から分かっていたように最小限の動きで躱してしまう。

 

「ーーッ」

 

そんな現状にルミネアは内心慄いた。

 

なぜなら、素人同然だった彼が訓練を始めてまだ10日も経っていないのだ。

 

邪魔になると魔法を封印し、剣の訓練に明け暮れる様になった勇真はたったの7日でルミネアの技量と並んだ。8日目からは完全に彼女を上回る。

 

そして今では最初とは真逆、ルミネアこそが素人に毛が生えた実力だったのでは? と思わせてしまう程に隔絶した力の差が生まれていたのだ。

 

 

「はぁあああッ!」

 

気合一閃、ルミネアは起死回生の願いを乗せて限界超えの身体強化魔法を一瞬だけ発動、今の勇真の倍する速度で斬撃を繰り出した。

 

それは今のルミネア最速の袈裟斬りにして音速突破の破断の刃、愛剣たる『仙種の聖剣』(エクスカリバー・シード)の斬れ味を持ってすれば巨石をも両断する剣撃だった。

ーーにも関わらず、勇真はその袈裟斬りに反応、受け止めるどころか余裕を持って受け流してしまったのだ。

 

「ーーッ!?」

 

その動きは正に達人、才ある者が長年剣に人生を注いでようやく可能な領域の絶技だった。

 

また、上手くなってるッ!?

 

ルミネアは心の内で愕然とした。

 

自分も強くなってるはずだ、確かに成長しているはずなのだ、なのに、この感覚はなに? ルミネアは酷く困惑する。

 

そう、勇真の成長速度は本当に、圧倒的だった。

 

まるで自分が急速に弱くなっている。そうルミネアに錯覚させてしまうほどに。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、ようやくだよ」

 

疲れたような、ホッとしたような声で勇真は呟いた。

 

勇真とルミネアの勝負はあっさりと決着した。

 

「これで、なんとかルミネアを守るとか言えそうだよ。まあ、まだルミネアに身体強化以外の魔法を使われたら勝てないんだけどね」

 

勝者は勇真、袈裟斬りを受け流し、身体が泳いだルミネアの首筋に刃を突きつけての勝利だった。

 

「…………勇真さん、もしかして今日まで手加減してました?」

 

そうルミネアが珍しく、拗ねたように勇真に聞いた。

 

「いや、全然。するにしてもあんな情けない姿は見せたくないよ」

 

「じゃあなんでそんなに一気に剣が上手くなるんですか?」

 

ルミネアは不満顔だ。彼女は別に勇真が自分より強くなるのが嫌なのではない、勇真に何かを教えるという状況を彼女は楽しんでいたから、もう少しだけ先生役をやっていたかったのだ。

 

なのにたったの一週間で指導は不要となりその後は自分が指導される立場となってしまった、これは拗ねても仕方ないだろう。

 

そんな中々見れないルミネアの姿に勇真は苦笑した。

 

「それは神器の能力のおかげだね、今までは魔法の武器とかの特殊能力の発動方法ばかりを神器で引き出して使ってたんだけど、この頃は能力じゃなくてただの剣として使うとして正しい動きはどうすれば良いかを引き出してた。あとはその引き出したモノを自分に合ったようにアレンジして身体に覚えさせる……それの繰り返しだね」

 

「……確かに通常より成長が早くはなりそうですが、ここまで劇的に成長するものですか?」

 

「現に今なってるじゃん」

 

「それは、そうなんですが納得が行きません、私はこれでも年単位で剣の訓練を行っているのですが?」

 

「う〜ん、そう言われても」

 

勇真は困った顔でルミネアを見る。

 

「絶対、何かを理由がありますよね」

 

「理由って言われてもねぇ、本当に特別な事はないよ」

 

「……分かりました、じゃあそれとは別で勇真さんて私の動きを先読みしてませんか?」

 

「してるけど、どうかしたの?」

 

「…………なんで、出来るんですか?」

 

「雰囲気?」

 

「からかってます?」

 

「いや、全然、むしろなんでルミネアはしないの? 俺の雰囲気を見ればいつ剣を振るとか分かるでしょ?」

 

そんな無茶苦茶な事をあたかも自明の理を語るように勇真はルミネアに問い掛けた。

 

「……そんなの出来ませんよ、ねぇ、勇真さん、本当の本当になにか強くなった理由ってないんですか?」

 

「そんな、何度も聞かれたってないものはないよ……あ、強いて言えば」

 

「言えば?」

 

「勇者だからかな、あと、お世辞だと思うんだけどね、異世界に勇者として召喚された時、あっちの神様に最強の剣士に成り得る才が有るって言われたくらいかな? はは、案外冗談じゃなかったりしてね」

 

「…………」

 

いや、絶対ソレ、冗談じゃないですよね!? 世界の危機にそんな冗談言いませんよね!? とルミネアは思った。

 

そこでふと、ルミネアはある事に思い至った。

 

そう言えば、勇真はあらゆる武具の使い手となれる神器を持っていたから召喚されたと言っていたが、コレは事実なのだろうか?

 

そもそも、この世界の神器の能力が異世界の武具に、それもその異世界の神すら使用不能だった聖剣に適応可能なのだろうか? 案外、“そんなものなくても” 勇真は扱えたのではないだろうか?

 

つまり、勇真は……

 

 

「ーー天才というものなのでしょうか?」

 

「ん、なんか言った?」

 

「いえ、なんでも、それよりももう一本やりましょう!」

 

「はは、案外ルミネアも負けず嫌いだね」

 

 

戦いはやっぱり勇真の勝利で終わった。

 

 

 

 

 

「リゼヴィム様、ご報告が」

 

「お、ユーグリットくん、んちゃ! どうしたのヴァーリきゅんが死んじゃった?」

 

「いえ、彼は問題ありません、ただ、彼と模擬戦を行ったグレンデルとラードゥンが暫く行動不能です」

 

「あらそう、ざぁんねん♪ でも邪龍ちゃんも、情けないねぇ、二対一ならヴァーリきゅんくらいボコってくれないと」

「それは仕方がありません、今の彼は以前と比べてさえ圧倒的に強いのですから」

 

「う〜ん、最強厨のきゃわいい孫の為におじいちゃん、頑張っちゃったからねぇ、聖杯で弱点補強と性能強化とかしなくて良かったかなぁ? あ、頑張ったのはヴァレリーちゃんか、うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

 

「それで報告なのですが、吸血鬼の邪龍化術式のセットは滞りなく終了致しました、何時でも “出来ます”」

 

「おお! 流石はユーグリットくん、仕事がはやいねぇ、おっさん嬉しいよ♪ じゃあ、一時間後に発動よろしく、おっさんは高いところから見守っとくから♪ うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ! あ、そうだ今回の準備でヴァレリーちゃんはどうなった? まだ、使える?」

 

「今回と同規模使い方は出来てあと一回ですね」

 

「オッケーオッケー、十分だよ。じゃあ、伝説級邪龍のコピーと偽赤龍帝軍団と偽白龍皇軍団を作ったら “中身を取り出して”ポイしちゃって♪……あ、流石にそれは可哀想かぁ、じゃあ、聖杯を取り出したら抜け殻は邪龍に加工しといてからポイしてそれなら聖杯抜かれても死なないでしょ うひゃひゃひゃひゃっ! おっさん優しいぃ!」

 




天才主人公……いやね、この人、魔法能力は貰い物で本当に才能があるのは剣というか武術だったりします。


Q.リゼヴィムがゲス過ぎるだろ!?

A.え、原作通りですよね

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