……やばい、ご都合主義が起きてしまった。内容は本編で(白目)
魔法は偉大である。
勇真は今更になってそんな事を思い知った。
何と言っても資材現地調達の無人島で二階建てのログハウスをたったの30分で作れてしまうのだから。
「ああ〜気持ちいぃ」
勇真は床に転がりながらそう呟いた。
三十度を超える気温の中、魔法で常温より温度を下げたフローリングの肌触りは最高で、その僅かに感じる “ひんやり” は束縛効果でもあるのか? 勇真を掴んで離そうとしなかった。
「勇真さん、あんまり床に転がっていると風邪を引いてしまいますよ」
ダメですよ〜とルミネアが座り込み優しく勇真の肩を揺らす。
「ああ、ごめんルミネア、でもあと30分だけ、30分だけだから」
「もう、勇真さんは30分前もそう言ってましたよ」
「そうだっけ? ごめんごめん」
そう反省の色なく勇真は転がりながらスマホを弄る。
当たり前だが日本から遥か離れた無人島まで電波は来ていない。しかし、そんな問題も魔法の一発で解決してしまうのが勇真クオリティである。
「もう、勇真さんたら」
そんな勇真の態度にルミネアが頬を膨らませる。だが、その仕草からはまるで怒りが感じられない。むしろ勇真への親愛の情が滲み出ているくらいだ。
「あ、そうだルミネアは住みたい街とかある?」
「住みたい街、ですか?」
「そう、いくらなんでもずっと無人島では暮らせない、それに駒王市もこれからどんどん住み辛くなりそうだから早めに引越しの候補地を決めようと思ってね」
そう言いながら勇真は圧縮空間に手を突っ込み冷えたコーラとポテトチップを取り出し食べ始めた。
……お前、ずっと無人島でも大丈夫だろう?
そう誰かしらに思われた気がしないでもない勇真であった。
勇真とルミネアが無人島にバカンスに来て既に5日の時間が経過していた。
まあ、バカンスと言っても2日目の朝にログハウスを作成した勇真は自宅に居るのと殆ど変わらない行動スタイル、つまりはグウタラ生活を送っているのだが。
あ、もちろんグウタラ生活を送っているのは勇真だけである。
「はぁ、はぁ……ふぅ、只今、戻りました」
薄手のスポーツウェアを着たルミネアがタオルで汗を拭きながら家に戻って来た。
「おかえり、また走ってたの?」
「いえ、今は素振りをしていました」
曹操達から逃げてからルミネアはトレーニングに励んでいた。走り込みに素振り、筋トレに遠泳、無理し過ぎない範囲ではあるがかなりキツイメニューである。
以前からルミネアは健康維持程度の運動は毎日欠かさず行っていたが、今現在のメニューは健康維持などというレベルではなく、明らかに身体能力向上を目指したソレであった。
「ここ最近、頑張ってるね、どうしたの?」
「……強くなりたいんです」
そう、ルミネアは呟く、小さいながらもその声には強い意志が感じられた。
「強く? なんでまた」
「この間、私は何も出来ませんでしたから」
「この間って曹操達の? いや、あのレベル相手に何も出来ないのは別に仕方がないんじゃないかな」
「……はい、分かってはいます。私なんかがいくら努力してもあの人達には絶対勝てないって、でも、せめて勇真さんの足を引っ張りたくない」
そう、自虐的に言うルミネア。だが、勇真として難しくとも不可能ではないと思った。
おそらく曹操、ゲオルクは厳しいだろう。しかし、ジークフリート、ヘラクレスは努力次第でなんとかならないレベルでもない。
3日だけとは言え英雄派にいた勇真は二人の戦闘力をある程度正しく理解している。
確かに二人の戦闘力は大したものだ、特にジークフリートの剣技など正に達人という言葉が相応しく単純な接近戦での力量は同等の武器さえあれば曹操相手にもそこまで劣りはしない。
だが、どうにもこの二人は油断が過ぎる。ヘラクレスは自分の防御力を過信しているのか、あまり攻撃を避けようとしない。だから凶悪な毒でも使えばあっさり勝ててしまうだろう。
ジークフリートは得意分野の接近戦では油断しないのだが、専門外の魔法分野の知識が乏しく警戒も薄い、故に簡単に呪いを受けてしまう。
まあ、それでも難しいことは事実である。
そもそもルミネアに戦って欲しくない勇真は可哀想だと思いつつもルミネアのネガティヴな発言をフォローするつもりはなかった。
「……う〜ん、やっぱり気にしなくて良いんじゃないかな? もう、俺は曹操達と接触する予定はないし、ランスロットくんが上手くやってくれれば、英雄派は近い内に三大勢力と他の勢力から優先的に狙われて壊滅するだろうから」
「でも、また、似たような状況で私が足手まといになるかもしれません」
「……まあ、残念ながらないとは言い切れないね」
普通にあり得る嫌な可能性に勇真は少しだけ顔を顰めた。確かに、その通りだ。故にルミネアが強くなるのは良い事なのだろう。それは勇真にも分かる。
だが、ルミネアは性格的に戦いが嫌いな女の子なのだ。傷つくのも怖いのも苦手で今まで戦って来たのは孤児でそう育てられたから仕方なくという面が強い。
だから、せっかく無理に戦わなくていい環境になったのにルミネアが戦う状況というのを作りたくなかった。
力があると否応にも戦わざるを得ない状況になってしまう事があるのだ。
強い者は弱いから戦えませんと言い訳出来ないのだから。
そんな事を考えている勇真にルミネアは声を落として話を続けた。
「私は卑怯で臆病です。いざとなったら私を置いて逃げて、なんてきっと言えません。多分、死ぬのが怖くて助けてと勇真さんに縋ってしまう」
「それは本当に仕方がないよ、誰だって自分の命は惜しい」
「でも、勇真さんは私を見捨てないでくれました! あの時、曹操達と戦ってる時、私を見捨てれば逃げれたんじゃありませんか!?」
とても幸せそうに、そして、同時に咎人が懺悔する様にルミネアが告げた。
「…………まあ、そうだね、多分、可能だったよ」
勇真はルミネアの言葉を認めた。絶対にとは言い切れないが、少なくない可能性が有ったのもまた事実である。
落ち込むルミネアを慰める為にあえて否定しようかと考えたが、ルミネアは勇真が逃げれたと確信しているらしく勇真が否定したところで彼女の罪悪感を減らす効果は見込めないのでやめた。
「私にはきっと無理です。もし、勇真さんと同じ状況だったらきっと勇真さんを見捨てて一人で逃げてました……そして、あの時、きっと勇真さんは私を置いて逃げるんだろうなと思って怯えてたんです、それが恥ずかしくてッ」
そう言うルミネアの声色には強い悔恨の情が混じっていた。
「だからトレーニングを?」
「はい、誰かに、勇真さんに縋りたくなる弱い心は直せないかもしれません、なら出来るだけ縋らないで済むように様に強くなりたいんです!」
それは強い決意を秘めた瞳だった。
ルミネアは俺が守るよ、とか言っておいて守れなかった勇真に止める事など出来ないほどに。
「……………………はぁ」
長い長い沈黙の後、勇真は溜息を溢す、そして彼は何かを決意したような表情をすると静かにルミネアを見つめ口を開いた。
「…………それじゃあ仕方ない、俺も手伝うよ」
「あ、い、いえ、お手を煩わせるのは、悪いです」
手伝いを遠慮するルミネアに勇真は首を振ると言葉を続けた。
「いや、手伝うよ、そんなに真剣なら手伝わない訳にはいかない、それに俺が手伝った方が多分よりルミネアは強くなる、中途半端な実力が一番危ないんだ。だから強くなると決めたなら突き抜けて強くなるべきだ」
「つ、突き抜けてですか?」
「そうだよ……まあ、俺としてはね、男女差別になると思うけど、女の子には出来るだけ戦って欲しくないんだ。だから前回曹操から逃げられなかったのはルミネアが悪いんじゃなくて俺が自分の能力に胡座をかいていたのが悪い、そう思ってた、いや、今も思っている」
「勇真さんは悪くありません! それにあれだけ強かったら胡座もかくと思います」
「でも、それで前回失敗した。で、ルミネアに自分が強くならなきゃとか思わせてる、もう、この時点で俺的にはアウト」
そう言って勇真は立ち上がり大きく伸びをした。
「だからルミネアの訓練の手伝いだけじゃなく、俺も強くなろうと思う、なに、勉強とか仕事は嫌いだけど身体を動かすのは好きだった。だから身体を鍛えるのは嫌いじゃない、こんなグウタラじゃ説得力がないかもしれないけどね」
「確かに、あんまり……説得力が」
ちょっと申し訳なさそうに言うルミネアに勇真は苦笑した。
「はは、普通そう思うよね、だからまあ、飽きないように取り敢えず遊び感覚から少しづつ鍛えていくよ」
勇真はそう答え、圧縮空間から用途の分からない魔導道具の様なモノを取り出した。
ルミネアの訓練を手伝うと言ってから直ぐに勇真はやらなければならないことがあると一人で黙々と何かを作り始めた。
その間、ルミネアは勇真に訓練をしても良いけど絶対に体調だけは崩さないでとお願いされた為、彼女は素直にキツイ訓練メニューは控えていた。
そして3日後、今日から訓練の手伝いをすると勇真は言い、何故か寝室にルミネアを呼び出した。
「さて、待たせたね、でももう少しだけ待ってね、手伝うと言ったけど、まずルミネアには魔法を使える様になってもらいたいから」
「魔法ですか?」
「そう、魔法があればかなり便利だよ、戦闘の幅も広がるし相手の隙や油断を作るのも簡単に出来る。なにより強化魔法があれば簡単に筋力、速度、耐久力、そして知覚速度を高めることが出来るからね、普通に身体を鍛えるだけよりずっと効率が良い」
「でも、私って魔法力があるのでしょうか?」
「あるよ」
ルミネアの疑問に勇真は即答した。
「元々ルミネアはそれなりの魔法力を持っていた。そして今は以前と比べて格段に強い魔法力をルミネアは持っている、何せ今のルミネアは半分、仙人みたいなものだからね」
「仙人って、中国のあの仙人ですか!?」
「そう、出来が悪いモノとは言え、ルミネアは蟠桃を食べた。不老長寿を約束する仙桃、三千年に一度しか実らないという宝桃、それがルミネアに与えたモノは多いよ、数百年を超える寿命に強い魔法力、身体能力も以前より上がって、成長速度も遥かに増したんじゃないかな?」
そう言って勇真は以前のルミネアとの比較図の様なモノを魔法で虚空に投影して見せた。
「あ、はい、確かに、まだ数日しか鍛えてないのに訓練の効果が直ぐに出てました」
「うん、それは強くなるにはいい事だ。で、多分、ルミネアが得た魔法力を使うなら仙術が最も適しているんだろう。でも、生憎俺は仙術が使えないから教えられない。だから代わりに俺が使っている魔法知識を全部あげるよ」
そう言って勇真は圧縮空間から一本の剣を取り出した。
それは刃渡は60㎝ほどで癖のない真っ直ぐな両刃の美しい剣だった。その刀身には幾つかの魔術文字と魔術文様が刻まれ、剣全体から強い聖なる波動が漏れ出ている。
「これは?」
「見ての通り剣だね、そして杖でもある。聖短剣を作る際に出た水増しに使われていた魔法金属、それを錬金術で剣にしたんだ。長年エクスカリバーの破片のオーラを吸っていたからかな? いつの間にこの金属にも聖なる属性が着いていたらしい……」
そこまで言って勇真はしばし口を噤む、そして若干言い辛そうに説明を続けた。
「これは鍔の部分に蟠桃の種を入れてある、だからルミネアとの相性は良い、はずだ……でここからが問題なんだけど、これにはある種の洗脳魔法が掛かっている」
「…………」
「もちろん、洗脳って言っても意思や身体を自由に操れる様になる類じゃない、ただ俺が設定した魔法知識をルミネアの記憶に刻みつける効果がある、これの柄を握るだけでルミネアは俺の魔法知識の殆どを得る事が可能だ、いや、でも一応洗脳魔」
勇真が何か長々と言い訳をしようとした所でルミネアはヒョイっと軽い覚悟でその剣の柄を握った。
それと同時に大量の魔法知識が一気にルミネアに流れ込む。
「ちょっ!?」
「ッッ!?……う、うぅ、凄い頭痛が、します」
「ルミネア! もう、話聞いてた!? 洗脳魔法だよ! 洗脳魔法! 俺に悪意が有ったらどうする気だったの!」
「だ、だって」
あまりの知識量にルミネアはクラクラしながらも揺れる視線でなんと勇真を捉える。
「勇真さん、変な、ところで遠慮して、ます。私を、洗脳、したいなら最初からしてるはず、です」
「……それは、そうだけど。気が変わってルミネアを玩具にしたいとか思わないとも限らないんだよ?」
「それでも、勇真さんなら、私を大事にしてくれますよね?」
頭痛で辛いだろうにルミネアはとても穏やかに勇真に笑いかけた。
「…………はぁ、そうだね、分かったよ、もう何も言わない。あ、やっぱり一つだけ……俺以外の洗脳魔法には絶対に注意するんだよ」
「はい、もちろん、です」
勇真さん以外に洗脳なんてされたくありませんから、そう小さく零してルミネアは倒れ込む様に勇真に抱きついた。
「……よろしい、じゃあ、今から催眠魔法で眠らせるからね、丸一日眠れば知識も定着して頭痛も無くなるはずだから」
「はい、じゃあ、大分早いですけど、おやすみなさい、勇真さん」
「はい、おやすみ、しっかり休んでね」
そう言って勇真はルミネアを優しくベットに寝かせると軽い催眠魔法で眠らせたのだった。
「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、ビックリ、ビックリ、まじビックリ♪」
吸血鬼の総本山、ツェペシュ本城で一人の悪魔が楽しげな笑い声を上げた。
長い銀髪の外見年齢が、中年から老年に差し掛かった男は銀を基調とした鎧とローブが混じったような衣装ーー『魔王の衣』に身を包みながら外見に似合わぬ軽い口調で笑い続けた。
その男の名はリゼヴィム・リヴァン・ルシファー、全悪魔の中でたった三人だけの『超越者』と呼ばれる者の一人である。
「聖杯で邪龍ちゃんの魂を集めてなら、まさかまさかの事態発生! ウチのきゃわいい孫が家出から戻って来ました! はい、ユーグリット拍手〜!」
「おめでとうございます、リヴァン様」
「…………」
リヴァンの言葉に答えたのはこれまた銀髪の青年ーーユーグリットだ。
彼はパチパチと拍手をすると、淡々とした声でリヴァンに話し掛けた。
「リヴァン様、今、私になにか御命令はありますか?」
「ん? ないよー」
「分かりました。それでは、私は吸血鬼の案件に取りかかりたいのですが宜しいでしょうか?」
「オーケオーケ、吸血鬼はメンドイからユーグリットくんに任せるわ、その間に僕ちんは家族水入らずでお話ししてるから♪」
「は、仰せのままに」
リヴァンに許可を貰ったユーグリットは一礼すると静かにリヴァンの部屋を後にした。
「さて、ヴァーリちゃん、何からしようか、おままごと? 人形遊び? うひゃひゃひゃ!」
リヴァンの言葉に銀の首輪をさせられたヴァーリが、死んだはずのヴァーリが憎しみに満ちた目で祖父であるリヴァンを睨みつけた。
「…………」
「もう、ねえねえ、ヴァーリちゃん、おじいちゃん無視されるの悲しいなぁ、せっかく生き返らせてあげたのに……あ、そうだぁ、じゃあ、人形遊びをしようか? ちょっと『おじいちゃん大好き』って言ってみてよ」
「……オジイチャンダイスキッ!」
ヴァーリは射殺す様な憤怒に満ちた表情でリヴァンに吐き捨てた。
「わーい! おじいちゃん孫に好きって言ってもらえたの初めて♪ うれぴーな〜、さて次はなんて言ってもらおっかな〜うひゃひゃひゃ! じゃあ次は『助けてくれてありがとう』ね♪」
「タスケテクレテアリガトウッッ!」
「うひゃひゃひゃひゃ、マジウケる! 」
そう言って、リヴァンはヴァーリの肩を叩こうとしたのだが、何かを思い出したかのようにその行動を取りやめた。
「おおっと、いけね、危うく壊しちゃう所だったよ、孫は大事にしないとね〜、じゃあ、仕方ないもう少し人形遊びで我慢するかぁ♪」
「…………」
リヴァンの一人遊びは続く、彼が満足するその時まで。
銀髪トリオ結成!
やったねヴァーリ、生き返ったよ!(黒い笑み)