勇者さんのD×D   作:ビニール紐

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読み専なのに、俺は何を書いているんだ…….。


第1話

  天地が鳴動し、空間が軋む、それは正に世の終わりのような光景だった。

 

  世界を埋め尽くす幾千幾万の魔法陣、そこから放たれる無数の魔法が異界の魔神に殺到する。

 

  轟音、轟音、また轟音、盛大に大地を抉りながら放たれ続ける魔法、全方位から迫る雨粒の如き数のソレは当然避けられる隙間などない、結果、その魔法の殆どは狙い違わず魔神に直撃した。

 

  しかし、まだ幼さの残る少年は……この数の魔法を放ち続ける恐るべき魔法の行使者は未だ険しい顔で次の魔法の準備に取り掛かっていた。

 

  少年は知っていたのだ、この程度で魔神が殺れる筈がないと、この程度では傷一つつけることが出来ないと。

 

  少年が手に持つ剣を天へと掲げる。すると魔神の真上に一際巨大な7つの魔法陣が重なるように出現した。それと同時に世界に影がさす。

 

  太陽を遮る様に現れたのは直径数百メートルはある鉄球だった。鉄球は重力に引かれ地に落ちる、そして鉄球が魔法陣の一つを通過した瞬間、ゆっくりに見えた落下速度が倍加する。

 

  7つの魔法陣は架空の砲身、魔法陣を通過する度に加速する鉄球は7つ目のソレを通過した時点で音速を遥かに超えた速度となっていた。

 

  いけるか?

 

  少年は期待した、魔法を介しているがアレは単純物理攻撃、どうやっているかは不明だが、今日まで全属性全魔法を無効化してきた魔神もこれなら倒せるのでは?

 

  ……そう、期待したのだ。

 

 

  気付けば何故か目の前に鉄の壁、疑問に思う間もなく多重魔法障壁全てを粉砕され全身に激痛が走った。

 

 それに遅れて「ミルキィィイスパイラルゥウスティイイイイクッ!!」っという雄叫びが遠くから聞こえ、少年は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

「……夢か」

 

  布団から飛び起きた少年ーー宮藤勇真(クドウ・ユウマ)が疲れたように呟いた。生存本能でも働いたか? 少年の周りには多数の魔法障壁が展開され自身には意味もなく再生魔法と回復魔法が掛けられている。

 

  そんな状況を見て勇真は溜息を漏らすと全ての魔法を解除し、寝汗でビッショリの寝巻きを脱ぎ捨てた。

 

  寝ぼけて魔法を使ってしまう事は魔法使いにはよくある事だ、特に頭で思い浮かべただけで魔法を行使できるタイプの高位の魔法使いなら尚更だ。

 

  だからこそ勇真は寝る前に必ず破壊魔法系を封印している、今回はそれが功を奏したらしい。

 

  まあ、勇真の部屋には万が一に備え強固な結界魔法が張ってあるので例え寝ぼけて攻撃魔法を使ったとしても自室がメチャクチャになるだけで自宅が消滅する事も街に被害が出る事もないのだがそれでも片付けが面倒なので勇真としては良かった。

 

  スマホで時間確認する、現在時刻は朝の9時、普通ならば慌てる時間だが、高校に通っていない勇真からすればどうという事もない。

 

  勇真は大きく欠伸をすると、脱ぎ捨てたパジャマを持って自室を後にした。

 

 

 

  宮藤勇真は勇者である。

 

  この地球とは全く別の世界、魔法世界セラビニア、そこに召喚された彼は誰にも引き抜けなかった勇者の剣を引き抜き、セラビニアの人々達の希望を一心に背負って異界からの侵略者に立ち向かった。

 

  まあ、とは言っても力及ばず、初戦にて勇者の剣を叩き折られ敗北、リベンジしようにも所有者の魔法行使能力を数百倍に高める力を持った勇者の剣を失い戦闘力が激減、戦闘で倒す事は不可能となってしまった。

 

  結局彼は、戦闘で侵略者を倒す事を諦め、話し合いにより帰ってもらうという方向で彼女? と交渉、それが成功し世界を救った……ちょっと勇者として情けない方法である。だが、しかし、それでも彼はセラビニアを救った救世者なのである。

 

 

  パジャマを洗濯機に入れ、朝食はコーンフレークで済ませた。時刻は10時、学生でもなく会社にも務めていない勇真は暇である。彼は食器を片付けるとシャワーを浴び寝巻きに着替え再びベットに転がった。

 

  彼はそのままボーっとスマホを弄りながら今日は何をして時間を潰そうかなと考える。完全にダメ人間だ。

 

  だが、本当にやる事がない……正確にはやらねばならない事がない。

 

  それに堕落した自分を叱咤してくれる両親は帰ってきたら居なくなっていた。当面の生活に支障が出るほど生活は困窮していないし、最悪なにか問題が起こっても大抵の事は魔法でパパッと解決できてしまう。

 

  まるで無趣味、仕事一筋で定年を迎えてしまった男、あるいは平和な時代、金はあるが仕事がない傭兵、ああ、その背には若いのに既に哀愁の様なものが漂っていた。これでも元は世界を救った勇者なのだが。

 

 

「……はぁ」

 

  勇真は溜息を吐いた。大方面白そうなニュース記事もニヤニヤ動画も見終わった。彼は連日のスマホの見過ぎで疲れた目に回復魔法を掛けるとベットから起き上がる。時刻は午後4時、昼食をとっていないなで腹が減った。

 

  しかし、何かを作る気力がない。とは言え、コーンフレークはもう飽きた。

 

  勇真はダラダラと私服に着替えると家を出て近所の商店街にある行きつけのファミレスへと向かった。道中

 

「えー、迷える子羊にお恵みを〜」

「天の父に代わって哀れな私たちにご慈悲をぉぉぉぉ!」

 

  とか騒ぐ怪しい白ローブの二人組に出会ったが華麗にスルー、彼は行きつけのファミレスに入店した。

 

 

 

「ふぅー」

 

  食事を食べ終えた勇真はファミレスを出る、相変わらずチェーン店のくせになかなか美味い。勇真は行きより軽くなった足取りで家路を行く。

 

  道中、やっぱりまだ白ローブの二人組みが “ ご慈悲〜” とかやっていた。近くの雑貨店の店員が嫌そうにそれを見ている。明らかに営業妨害になっていた。

 

  しかし、勇真は誰か通報しないかなぁ、と思いつつも自分では通報せずにやっぱりスルー、二人組みの前をさっと通り。

 

  そして腕をガッと掴まれた。

 

「……何か、御用ですか」

 

「宮藤勇真くん、だよねッ!?」

 

  その通りである。しかし勇真は澄ました顔で

 

「違います」

 

  と、否定した。馬鹿でも分かる。ここで関わると面倒な事になると。

 

「え!? 嘘、人違い? ……いや、絶対勇真くんだよ、間違いない!」

 

  ああ、その通りである間違っていない。だがやっぱり勇真は澄ました顔で

 

「僕は高橋です」

 

  と、ナチュラルに嘘をついた。勇真は暇人だが、進んで面倒事に頭を突っ込むほどは暇ではない、そんな事するくらいなら高校に通った方がマシだ。

 

「えっ!? でも、え? え?」

 

  勇真の腕を掴んだ白ローブがオロオロ慌てている、よく見れば栗毛で整った顔立ちの可愛い少女だった。見覚えがある気がする、名前は忘れたが小学校低学年の時によく遊んだ……かもしれない。

 

  さて、どうしたものか? 勇真は考える。人違いだと言っても目の前の知り合い? は離してくれない、道を行き交う人に視線で助けを求めても目を逸らされる。まあ、そうだろう、勇真だって同じ状況だったらスルーする。

 

  ここは正攻法で行こう。

 

「離してもらえますか?」

 

  勇真は少女の目を真っ直ぐ見て言った。

 

「……いや、でも、面影あるし、間違い? いやいや、そんな事は……う〜ん、アレどうだったっけ〜」

 

  無視された。あれ? それとも聞こえてない? もう力尽くで振り払うか? そう、勇真は思ったがやっぱりやめる。

 

  この少女の握力は普通じゃない、明らかに100Kgを超えている。無理やり引き剥がすと服が破れる。

 

  それにしても力加減をして欲しい。掴まれているのが常人なら今頃悲鳴を上げている所だろう。

 

  本当にどうしたものか? 勇真がどう脱出するか考えていると栗毛の少女が何かを決意した様に勇真の顔を見る。

 

  そして一言。

 

「じゃあ、高橋君! ごはん奢って!!」

 

「コイツ、図々しな」

 

  勇真は思わずそう言った。

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ」

 

  つい先程退店したファミレスに勇真は来ていた。10分もせずに店へと舞い戻った勇真を店員が怪訝な顔で見る、だが、そこはプロ、一瞬で切り替えると笑顔でお一人様ですか? と聞いて来る。勇真は三人ですと答え嫌そうに後ろの白ローブ二人に視線を送った。

 

「なんで、そんな嫌そうな顔するの!?」

 

  答えないと分からない? そう言いたかったがその気持ちをグッと抑え、勇真は怪しい白ローブの二人を見て顔を引き攣らせている店員に軽く頭を下げた。

 

 

 

「うまい! 日本の食事はうまいぞ!」

 

「うんうん! これよ! これが故郷の味なのよ!」

 

  ああ、美味いだろうさ他人の金で食う飯はね。勇真は欠片も遠慮せずに次々とメニューを頼む二人を呆れた目で見た。

 

  カレー、ラーメン、オムライス……ドリアに続きステーキセット、最後にパフェ二種類に抹茶アイス、ざっとメニュー表を見た限り二人共、摂取カロリーが5000を超えている。

 

  ついでに勇真が払う勘定は1万を超えている。

 

  この程度で勇真の財布はダメージはないが、こうも遠慮なく食べられると少しばかり頭に来る。

 

  しかし、まあ、良いだろう。こんな日もある。

 

  勇真はさっさと帰る為に伝票を取るとレジに持って行こうとした。

 

  するとまた、ガシッと腕を掴まれてしまう。今度は栗毛の少女じゃなく、もう一人の青髪に前髪の一房だけ緑のメッシュを入れた奇抜な髪だが顔立ちは整っている女の子にだ。

 

  おかしいな、女の子に腕を掴まれるのってこんなに嫌な気分になるものだったっけ? 勇真は軽く現実逃避をしてからノロノロと視線を青髪緑メッシュの少女に向けた。

 

「なにか?」

 

「すまない高橋、私はジャンボチーズハンバーグセットが食べたい」

 

「……お好きにどうぞ」

 

  あれ? 今、デザート食べてなかった? と思わなくもない、そしてそれを言いたくもあった。しかし、面倒くさいので言わない、今更帰るのが20分遅れようが1280円料金が追加されようがどうでも良いことだ。そう自分に言い聞かせると勇真は溜息を吐いて椅子に座った。

 

 

 

  それから約30分。二人は更に三品、追加注文してようやく満足したのか幸せそうな顔で勇真に話し掛けた。

 

「ふぅー、落ち着いた。腹が空き過ぎて任務を果たす前に餓死するところだったよ」

 

「はふぅー、ご馳走様でした。ああ、主よ。心やさしき高橋君にご加護を」

 

  二人は揃って十字を切ると、両手を組んで祈る様に目を閉じた。その姿と祈りは非常に様になっている。しかし、あいにく勇真は浄土宗、キリスト教の加護はノーサンキューなのである。だからその加護は日本に居るかもしれないキリスト教徒の高橋君にあげて下さい。

 

「どういたしまして、それでは俺はこれで」

 

  予定調和だろうか? やはり席を立った勇真は一歩進む前に腕を掴まれてしまう……しかも今度は二人同時に。

 

  勇真は本日最高の嫌がる顔をして二人を見下ろした。

 

「まだ、なにか?」

 

「いや、これほど良くしてもらってそのまま帰らせる訳にはいかないな」

 

「高橋君、もし、困った事があったら私達に言ってね、任務の合間に時間があれば出来るだけ協力するから」

 

「………」

 

  今、困ってるよ! 変な二人組に絡まれて家に帰れなくて困ってるよッ!! そう言えば帰してくれるだろうか? そう勇真は思った。

 

  しかし、やはり例の如く更に面倒くさくなりそうなのでそれは言わない。

 

  だから別の願いを言う事にした。

 

 

 

「さっきからガラス越しにメチャクチャコッチを見ている外の三人をどうにかしてください」

 

  そう言って勇真はガラスの外の三人組を指差すのだった。まあ、内一人は幼馴染なのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




勇真「そう言えば中学の頃はユウマって呼んでなかったっけ?」

一誠「……ナンノコトデスカ?」

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