お止めくださいエスデス様! 作:絶対特権
『百獣王化』ライオネル。所有者を獣化させ、その身体能力・五感、果ては第六感までをも強化させるベルトの帝具。
肉体強化がメインの帝具の中でも、この帝具は治癒力の付与という点で異質だった。
瀕死の重症を喰らおうが、即死しない限りは生き延びる。
そんな不死身の耐性を持ち主に与える帝具の癖に、非常に燃費がいいのだ。
似たような能力を持つ某鎧とは正反対である。
「シャァ!」
その獅子の如き獣の速度で、獣化した右腕が振るわれる。
喰らったならば人体に風穴を開けることも容易であろうその一撃を、ハクは冷徹に見極めた。
受けたならば、受けた箇所が不能になる。故に手で受けるのは得策とは言えず、避けることこそが最上。
帝具を取り込んで肉体そのものの耐久性が大幅に上がっているエスデスとは違い、彼には避けねばならない理由がある。
振るわれた獣の右腕。その破壊力が込められた最たる部位である掌と、爪。
その僅か前方である手首に一撃を加え、自分より遥かに勝る膂力を持つ敵の攻撃を防いだ。
「な!?」
後は、流れるような自然さで右腕が前へ突き出され、顎を捉えた後に左へと振るわれる。
硬質な物同士がぶつかる鈍い音と、地面を滑る慌ただしい音。
一撃を完璧な形で喰らい、よろよろと拳に矯正された移動を行う獣人の姿と、開いた鋏の刃を前に突き出す女の姿があった。
左から右へ、右から左へ。
開閉音と共に、今まで胸板があった辺りを通過していく鋏のギロチン。
喰らったならば、間違いなく即死だったろう。
が、その即死性を持つ大技も避けてしまえば隙でしか無い。
地に這うが如き屈んだ体勢から目の前の腹部に目掛け、筒から発射された砲弾の如き左拳がめり込んだ。
「―――ぐぅ……!?」
肋骨の何本かを確実に折ったであろう一撃を受け、使い手の挙動が明らかに鈍る。
文字通り一瞬掛かった力に圧し折られたのだ。その痛みは一瞬で異物感として彼女を襲っただろう。
骨が折れても、すぐさま痛くなり始めるわけではない。時間をかけて脳が折れたという認識を定め、自覚しつつ痛みが増す。
「二、三、四……」
二で鋏の両刃を束ねる接合部を蹴り上げ、三で脂肪に勢いを減衰されないであろう胸部の上方を、四で手の甲で以って顎を右に振り抜いて体勢を崩し、五で折れた下腹部を再び殴り抜こうとして、止まった。
無銘の剣に、白仮面。まだまだ隙の多い少年剣士が、怒りと共に刃を突き出してきたのである。
「が、まだまだ甘いな」
仮面に拳を叩きつけて弾き飛ばすことでシェーレへの更なる追撃とした彼の視界に、何かが過った。
槍。穂先の赤は、ノインテーターだろう。
穂先のすぐ手前の柄を手元に引き、白い鎧の布の部位である肩を掴んで共に倒れながら放り投げ、そのまま彼はバク転した。
気配は、倒れながら投げた時の足元。即ちバク転し、立ち上がった時には目の前。
僅かに狂った感覚を是正し、ハクは目の前に迫る即死刀を人差し指と親指の二本の素手で以って掴み取る。
僅かに、使い手であるアカメの身体が浮いた。
このまま放置すれば彼女の自重で即死刀の刃は自分に刺さることだろう。
咄嗟に親指と人差し指のロックが解除され、変わって背丈の割りには長い脚がアカメの腹部にめり込むがごとく突き刺さった。
即死刀は、その蹴りのベクトルに逆らえずに彼の手元からスライドする。
あと一秒の判断が遅れていたら死んでいるあたりに、この帝具『一斬必殺』村雨の恐ろしさがあった。
「ッ!」
槍を投げ、避けたところを跳びかかる。
シェーレに振るわれた追撃の四撃によるアカメへの追撃を防ぐためであろう為の行動の成功率は、彼が槍を持たないことに依存していた。
が、今の彼は槍を持たない。完全な無手だからこそ、間合いが短くなる。
間合いが短くなれば、ブラートの突進を早めに対処してすぐアカメを追撃、とはいかない。確実に喰らうカウンターの一撃をインクルシオで防ぎ、あわよくばカウンター・カウンターで以って一撃を加えてやるブラートの判断は正しかった。
そう。正しかった。
左手の人差し指と親指が円形に丸まり、他の指もそれに追従する。
その空洞は、いつもの彼の槍がすっぽり収まる程度の大きさだった。
「出せないとは一言も言っていないぞ、ブラート」
穂先は赤、柄は黒。いつもとは違う意匠の槍が、ブラートの伸ばした手がハクの肉体に触れるか触れないかという直前に出現し、鳩尾あたりの鎧に触れて火花を散らす。
堪らず下がったブラートに待っていたのは、怒涛の如き連撃であった。
右肩から左脇腹、左脇腹から右肩、胴を横に薙ぎ、胸部へ刺突。
肩に止まっていた鳥が動きの激しさを嫌ってか遂に飛び立ち、天へと舞った。
斬撃と炎熱に対する抵抗力が増していたことが幸いしたのか、インクルシオは火花を散らしながらも辛くも耐え切る。
が、内部に通った衝撃によるダメージだけは防ぎきれない。
ブラートは、一時の沈黙を余儀なくされた。
「……時間切れか」
突きの時点で限界を感じていたものの、手の内で灰と化していく大槍を眺め、ハクは今の武器出しカウンターがあと一度ほどしか行えないことを感覚的に悟った。
強力だが、槍を出さねばならないことが彼を縛っている。
無論、彼の腹算用などはナイトレイドの知ったことではない。心を読める帝具があれば別だろうが、それをなせる帝具はこの場になかった。
即ちナイトレイドからすれば、隙を見つけて仕掛けても決して傷を与えることができないであろう強力な技を刻みこまれたのである。
「どうした」
一寸前は自分を包んでいた剣撃による喧騒が止み、遠い喧騒と静寂のみが彼を包んでいた。
「もう来ないのか」
無手を帝具持ち五人で囲みながら、それで終わりなのか。
ハクには疑問のみがあったが、彼ら彼女らからすれば純然たる挑発でしかないのであろう。
必死に身体を立たせる鋏使いと、重傷の仲間を慮りながらも怒りに思考を曇らせる少年剣士、隔絶した格闘センスに闘争心をかき立てられて凄絶な笑みを浮かべる獣人に、黒く濃密なオーラを漂わせる暗殺者。
背後には考えられうる限り最高の宿敵が居ることを考えれば、未だ有利はナイトレイドにあった。
「……皆さん、私が隙を作ります」
重傷の鋏使いが、身体を引き摺りながら名乗り出る。
彼女の奥の手は以前にも見た金属発光。喰らうにせよ防ぐにせよ、一瞬のみとは言っても確実に視界を潰すことができた。
「わかった」
「その間に、攻め込むってことか……上等!」
「ハァ、はぁ……無理は、すんなよ、シェーレ」
腹部への一撃を咄嗟の体勢変化で軽傷に済ませたアカメと、自動回復で脳震盪と打撃痕を治したレオーネ、仮面の内から血をこぼしているタツミが答える。
相変わらずの無傷が絶望感を漂わせるが、彼らの闘志はその絶望感にすら屈さず、収まらなかった。
シェーレを後方に庇うような立ち位置にすべく、三人は一歩一歩を踏みしめて前に出る。
後方で放たれた、猛烈な光。
視界を白く塗り潰されたままに三人は標敵に向かって駆けた。
向きが違うが故に、モロに喰らうであろうハクとは僅かながら、反応差がでる。
そこをつくのが彼ら彼女の策だった。
が。
「!?」
周囲を染める光が、僅かな残滓を残して消える。
ブラートを除く対ハク戦に動員されたナイトレイドに―――多少の誤差があれども―――驚愕とも不安ともつかない負の感情が宿り、脚が生み出す速度が僅かに鈍った。
「私は、守っている間はそこそこ頭が回る方でな。いや、攻めるときはそうはいかないのだが」
その時。
今までほとんど無言だったハクは、滔々と話しだす。
「何が言いたい……」
背後で何かが倒れる、音がした。
硬質な金属が地面を打つ、音がした。
光が止まったということはそういうことなのだと、ナイトレイドの面々は薄々ながら感じている。
その不安を、予想を。
裏切って欲しかったそれらを、2つの音は裏切らなかった。
「御苦労だった、チェルシー。大事ないか」
「全然。次もいけるよ」
策を読まれれば、兵が伏せられる。
無音の暗殺者が、天性の暗殺者を殺して立っていた。
ワイルドハント
シュラ
HP:500/500
TP:600/600
特性:慢心(Level10)
自動回復(Level10)
エンシン
HP:50/400
TP:120/300
特性:剣戦闘(Level7)
イゾウ
HP:0/200
TP:0/0
特性:剣戦闘(Level9)
コスミナ
HP:0/200
TP:300/300
特性:人心掌握(Level3)
ハク
HP:900/900
TP:335/400
特性:??(Level10)
チェルシー
HP:20/20
TP:340/400
特性:危機回避(他力本願)
ナイトレイド
ナジェンダ
HP:300/300
TP:450/500
特性:指揮官(Level9)
スサノオ
HP:1000/1000
特性:自動回復(Level9)
ブラート
HP:310/600
TP:210/400
特性:近接戦闘(Level10)
アカメ
HP:200/400
TP:300/400
特性:剣戦闘(Level10)
ラバック
HP:50/450
TP:500/500
特性:抜け目なし(Level8)
マイン
HP:100/100
TP:720/800
特性:狙撃(Level10)
シェーレ
HP:0/300
TP:280/300
特性:ナチュラルボーンキラー(Level9)
タツミ
HP:240/500
TP:250/300
特性:大器晩成(Level10)
レオーネ
HP:608/700
TP:420/500
特性:自動回復(Level4)