お止めくださいエスデス様!   作:絶対特権

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荒夜様、ラインハルト様、あるいは様、評価ありがとうございました。
ラインハルト様には貴重な十評価をいただきました!感謝です!


葬儀を突く

「二人揃って何してるの?」

 

黒髪黒眼に暗殺チームの黒制服。腰には朱黒二色の鞘が目を惹く如何にも業物らしい日本刀を佩いた少女―――クロメは、一応恩人である上司と同僚に声を掛けた。

 

はるばるテンスイから帝都への帰路に、コウノウ郡はある。コウノウ郡に墜落し、その一邑で色々やっていた二人と帰還途中のクロメがかち合ったのは偶然の要素も含んでいるとはいえ、必然であった。

 

「炊き出しだ」

 

「あ、クロメじゃん。どお、食べる?」

 

臨死から瀕死程度にまで回復したハクの趣味・施しを根は質朴な善人のチェルシーが止められるはずもなく。彼らは買った米を炊き、仕留めた危険種の肉やら脂やらを調理して煮込み、香草やなにやらを入れてカレーらしきものをせっせと作っていた。

 

野戦料理の達人と、一般女性の平均よりかなり上な料理の腕を持つチェルシーの作った料理が醸し出すその匂いは、食欲旺盛なクロメが無意識で釣られる程度には美味しそうな物であったのだろう。

 

現に彼らの作ったカレーらしきものはコウノウ郡の民の口にあったらしく、一杯食べ終えた民がその生への執着や生きる為の強かさを見せつけるように空鍋を持ってきていた。

 

彼らの言いたいところはつまり、『余っているなら鍋にくれ』ということである。

 

「食べる」

 

ちらりと周りの反応を見て興味を持ち、鍋の中を見て口の端から涎を垂らしたクロメの即答に、迷いは無かった。

 

「隣の女の昼飯の分以外は、貴君らに全て渡す。焦るな」

 

クロメに一杯よそってやった後、ハクはいつもの淡々した声で民に向けて言葉を掛ける。

 

ガツガツと掻き込むように食べるのではなく一口一口の味を楽しむような食べ方だというのに、食べるのが異様に速いクロメもちゃっかりその列に加わり、自分の護衛である故・ナタラに鍋をもたせるという徹底振りを示したあたり、その旨さが伺えた。

 

単純だが、人の心を掴むには胃袋を掴むのが一番だった。信頼を得るにもまず空腹を満たしてやらねば前には進めない。

 

「チェルシー、お前の分だ」

 

「はいはーい」

 

横に立って配給している女ことチェルシーに確保していた最後のカレーらしきものを白米にかけた物で満ちた椀を渡し、ハクは身の丈ほどの鍋を持ち上げる。

 

彼は、休むことを知らなかった。

一日前に掘り当てた井戸で鍋を洗い、調理用具を洗い、次なる炊き出しに備える。

 

その後に今まで握っていた包丁の代わりに槍を持ち、危険種を狩りに行くつもりであった。幸い墜落地点と言う名の危険種の巣は近くにある。

 

「将軍、食べないの?」

 

「やるべきことがある」

 

暢気にもぐもぐ五杯目を食しているクロメに問われ、彼は義務感に突き動かされるように答えを返した。

なるほど、彼からすればまだこの邑はやるべきことに満ちているのだろう。

 

だが。

 

「休みなよ、将軍。鍋洗いはドーヤが、危険種狩りはナタラがやってくれるって言ってるし」

 

鍋持ちと化していたナタラと呼び出されて早々に雑用を押し付けられたドーヤの顔に『聞いてないですよ、クロメさん』と言わんばかりの困惑がはしり、消えた。

 

そもそもクロメの帝具で呼び出せるのは死者のみであり、死者には基本的に表情はなく、ただ主の命令を機械的にこなすのみである。

 

いくら彼女が自身の帝具の扱いに習熟してきたとはいえ、表情を保つ事は難かしかった。

 

「……では、休もう。正直に言うと少々身体が辛いのでな」

 

自分の頭頂部まである鍋をえっちらおっちらと井戸まで運んでいくレザーハットを冠った金髪の美女・ドーヤと、得物である薙刀型の臣具『トリシュラ』を持って危険種狩りに行く青年・ナタラの両死者が視界から消えるまでチェルシーはスプーンを咥えて見送り、そして。

 

「で、どうすんの?」

 

遠慮を知らず、強かさを知る民の狂気・鍋ラッシュを乗り切ったことを身に沁みて感じたチェルシーは飴に変わってスプーンを咥え、そう問いを投げる。

 

「どうすんのって?」

 

無言の爆食を見せつけているクロメが七杯目を完食し、八杯目を自らよそいながら問いに向かって問いを返した。

 

彼女の帝具である刀剣型帝具・『死者行軍』八房は抜き身。

即ち、未だ効力を発揮したままである。

 

その能力は斬り殺した屍体を八体までストックし、自在に操ることであった。

 

全帝具中でも外道・非情の戦闘型であると評されるこの帝具を雑用に使われるとは、作った始皇帝も考えていなかったであろう。

 

「ほら、エスデス。帰んないの?」

 

エスデス。帝国最強の女。亜強の三帝具の内の一角・『魔神顕現』デモンズエキスの使い手。

爵は侯。封地はショク。所属は濁流派。国内ではアイドルめいた人気を持つ、氷のような美貌を持つ女性であり、臨死から瀕死へと回復を果たしたこの男の上司であった。

 

チェルシーの飴を舐めながらのツッコミに対し、ハクは明らかにしまったと言う不覚の顔を晒す。

 

正直、紙を購入してこれからの施すべき政策や対応策を練ったものを書き連ねていた彼からすれば、その一名の名を注意の外に置いていたことは失陥に等しかった。

 

「しまった」

 

「しまったじゃないでしょ、全く……」

 

「部屋が何やら何やらで凄まじいことになっているだろうな……」

 

そっちじゃねーだろ。心配されてる方を汲み取れよ。

 

チェルシーはそうツッコミを入れ、黙る。

 

口元でピコピコと動く飴も、残りのストックが少ない。何か口に加えておかねば一抹の寂しさを感じる彼女からすれば、在庫がないのは死活問題だった。

正直、いっつも独占されている上司を密やかに独占するのは気分がいい。寧ろこのままでも一向に構わないのだが、どうせ彼はこの仕事という名の無償の善行に区切りがついたら気づくだろう。ならばさっさとツッコミをいれてしまった方が後々の会話の種になるという計算であった。

 

「私は完全回復してるけど、乗ってきますか、お客さん」

 

「頼む」

 

「乗る」

 

一人称が調子に乗っている時や凹んでいる時によってかなり変動するチェルシーの『私』は職務上の会話とかに散見される。これに反して『チェルシーさん』は主にからかうときに使われていた。

 

まあ、ポロッとどちらかが用途以外のところで出ることもあるのだが。要は気分次第であろう。

 

「じゃあ、しゅっぱーつ」

 

火龍。件の竜船からの戦闘で運送・捕獲・撤退・墜落を一頭でこなした働き者の外見である。中身は何に変身しようが全てチェルシーなのだが、そんなことはよかった。

 

今の問題は。

 

「出ましたね、亡霊!」

 

この何故か喪服な警備隊隊長さんである。

 

「否定できんな」

 

「だね」

 

今まで散々幽鬼だの何だの言われてきた肌色の悪さと、痩身矮躯。亡霊扱いも宜なるかな、であった。

しかも後ろに『死者行軍』。これはもう、誰が見ても骸人形二体とクロメが帝都に帰還したと思うであろう。

 

「正義は私が……」

 

ここで一度涙ぐみ、自称から公称になった『正義の味方』セリュー・ユビキタスは、同情と共に宣言する。

 

「道は半ばで倒れた無念はわかります!

だから、正義は私が執行します!悪は裁き、正しき方向へと導きます!あなたの代わりに私が為します!故に、成仏なさって結構です!」

 

「……む」

 

どーすんのこれ、とでも言うべきチェルシー変身体の火龍に向けられながら、軽く自分に酔っているらしい帝都警備隊隊長から目を逸らし、空へと舞い上がる。

 

『任せた』との一言を残して。

 

「どーすんの。完璧に死者扱いじゃん?」

 

「無念だ。私が命令を履行しないで勝手にくたばるような男だと思われていたとは」

 

明らかに違うベクトルと薄すぎる環状の起伏故に怒りとも言い切れない感情を感じながら、チェルシーは背中の上で手綱を取られながら愚痴を聞き、返した。

 

「……話題を振った私が言うことじゃないけどさ。皆胸に剣突き立てられたら死ぬんだよ?」

 

「まあそれだけじゃ死なないとしても、腹に三つの穴開けられた上に腕を焼かれた挙句に胸を貫かれたら、全盛期の私でも死んでると思うよ?」

 

クロメの全盛期は一年前。強化薬をドバドバに使って薬漬けになっていた時である。

 

その強化薬の効能は凄まじく、彼女を即死させるには心臓を潰すか首を切り離すしかない程であった。

今は薬が身体から抜け切っているが為にかなり戦闘力は落ちているが、その『耐えられる』という感覚はなごりとして持っている。

 

無論、何となく『耐えられる』という感覚がわかるだけで耐えられはしないのだが。

 

「死ぬか、死なないかではない。死ぬわけにはいかんのだ」

 

チェルシーとクロメは、黙ることにした。

最早常識的な耐久力と痛覚と精神力を持ち合わせた彼女らには理解し得ない範疇にある問題だと、悟ったのである。

 

「……そんなことより、だ。帝都はいささか以上に活気がないな」

 

「そう言われれば、そうだね」

 

カレーの最後の一杯を食べながら眼下の光景を見下ろし、クロメは実感と共に相槌を打った。

 

「チェルシー、降下」

 

「はいはい」

 

ぐるりと帝都を一周廻り、半ばチェルシー飛行場とかしている広場へと危なげなく降り立つ。

空の防御は、この三人には無意味だった。

 

「エスデス主催、三獣士の葬式だってさ。行く?」

 

「ほう、幸いにも今は朝。昼には報告に帰らねばならないが、線香の一本くらいはあげに行くか」

 

ネクロマンサーと不死身の槍兵の天然同士の会話に、常識人の介在する余地はない。精々ツッコミを入れるくらいが、彼女の限界である。

 

「……私達も含まれてる気がするんだけど」

 

「え?」

 

「まだ死んではないのだから、私に葬式は不要だろう」

 

チェルシーは、諦めた。




戦況。

エスデス軍

エスデス

HP:500/500
TP:2000/2000
特性:自動回復・TP(Level10)

リヴァ

HP:280/350
TP:320/400

特性:連発(Level9)

ハク
HP:2/800
TP:80/300
特性:戦闘続行(Level10)

チェルシー

HP:20/20
TP:400/400
特性:危機回避(他力本願)


クロメ

HP:300/300
TP:420/450
特性:剣戦闘(Level8)


ナイトレイド

ナジェンダ

HP:300/300
TP:420/500
特性:指揮官(Level9)

スサノオ

HP:800/1000
特性:自動回復(Level9)

アカメ

HP:400/400
TP:500/500
特性:剣戦闘(Level9)

ブラート

HP:420/600
TP:250/400
特性:近接戦闘(Level9)

マイン

HP:80/100
TP:800/800
特性:狙撃(Level10)

シェーレ

HP:250/300
TP:300/300
特性:シリアルキラー(Level8)

ラバック

HP:400/400
TP:400/400
特性:探知(Level10)

タツミ

HP:350/500
TP:300/300
特性:大器晩成(Level10)

レオーネ

HP:700/700
TP:500/500
特性:自動回復(Level4)


HP……体力。
TP……帝具ポイント。

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