UBW~倫敦魔術綺譚 (未改訂版)   作:冬霞@ハーメルン

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第六十九話 『義姉達の来訪』

 

 

 

 

 side Thoko Aozaki

 

 

 

 

 自分自身を確立できる人間は幸運だ。

 普通に生活をしていて、自分がどのような人間であるかを自分自身で定義したことがある者など、どれぐらい存在しているだろうか。

 定義という言葉を、自分を縛ってしまうと捉える者もいるかもしれん。しかしな、数学でも物理学でも、問題を解く前には先ず様々な要素を定義しなければ始まらない。

 どんなに過程を論じたところで、前提となる定義が無ければ全てが意味の分からないものと成り果ててしまう。何について論じているのか、そもそも論じている物を定義していないから訳が分からないのである。

 

 理工系の大学に通っている一般的な大学生なら日頃からさも当たり前のように答案用紙でやっているコレを、現実に生きる人間の生涯に当てはめればどうだろうか?

 まず自分自身がどういう人間なのか理解し、定義する。それをしておかなければ、その定義無しでは何のために、どうやって生きているのかすらあやふやになってしまう。

 言うなれば人生そのものを認識するための基盤。認識しない人生が無価値に程近いものへと変化するのは、やはり怠惰に毎日を過ごすことを人間が無意識に否定している表れだろう。

 

 普通の人間でさえ、普段ではさほど気にしていないにしても、自分自身の認識は非常に重要な事柄だ。では普通の人間ではない、魔術師ならばどうだろうか。

 我々は世界に属し、それでいながら世界の目を欺いて何とかして根源へと辿り着かんと日々頭を捻る矮小な存在だ。

 魔術師とは決して偉大な人種などではない。その一生を、ひいては家系の背負った歴史をも賭けて費やした探求の成果すら、いずれ遠くない未来において魔術はおろか神秘すら関わらない科学に追いつかれてしまうような代物である。

 

 しかし、だからといって自分の頭の中だけで作り上げた虚構の妄想にすがるわけにもいかない。我々は我々の矮小さをこれ以上なく正確に自覚し、受け止めなければならない。

 矮小な己の姿を明確に意識し、そして矮小な身で世界の真理を探る。真理とは人間などというちっぽけな存在とは比べものにならない程に広大で、自分の大きさすらも把握できていない人間に真理という無限の平野を推し量ることなど出来はしないのだ。

 

 人間では物差しとして遙かに役者不足である、根源への道の長さ。しかし矮小な身でありながらも、私達はそれを物差しとして使って目指すべき場所へと進んでいく。

 そのための最初のステップ。それこそが自分自身を定義することなのだ。

 

 

 しかし、ここでまた面白い話がある。いやいや、実際にあったことだというわけではなく、あくまで思考の過程で導き出された仮定のようなものに過ぎないがね。

 

 魔術師にとって自己を定義できないのは致命的な欠陥だ。自己を定義できていない奴に魔術師たる資格はないし、そもそも魔術とは、果ての無い、底の無い海から水をくみ上げているようなものだ。

 神秘自体には限度というものがある。神秘の希釈、というものが魔術師にとって最も危惧すべき事態だということからも分かるように、あまりにも神秘について知る、あるいは識る者が増えてしまえば神秘の濃度は薄まってしまうのだから。

 

 しかしな、結局のところ魔術師個人個人にとっての根源とは、相変わらず果ての見えない、限度の分からない海のようなものだ。いくら水を汲み上げたところで無くなってしまうということはない。まぁ、先程も言ったように薄まることはあるのだがな。

 個人にとって、汲み上げられる水の量には限度がある。魔術師にとっての容量、とでも言うべきものだな。これを超えると魔術師は容量オーバーでパンクしてしまう。当然といえば当然だが、これが意外と守られることは少ない。

 ‥‥誰もが自分の容量と言うべきものを見定められていないのだ。だからこそ、限度なく水を汲み上げては自分の内に満たし、結局はそれに溺れてしまったり、破裂したりしてしまうことになる。

 これは最初に言った、自己の定義に失敗してしまった最も典型的な例だと言えよう。一番穏便なのは自分を定義できなくて使うべき、覚えるべき魔術も分からず魔術師になれない、というパターンなんだが。

 

 さて、では一般人は自分を定義しなくても大丈夫なのかという問題がある。これもまた最初に一般人にとって自己の定義とは重要な問題ではないという話をしたが、私の言い方が悪いのもあるが、これも一部は正解で一部は外れ。

 確かに一般人が、意識的に自己を定義する必要はない。むしろ普通に日々を過ごしていくならば、それは弊害とすら言えるだろう。

 

 しかし、では逆に、“自己を定義できなくなった”時はどうだろうか?

 

 それは魔術師が、“魔術師としての己”を定義できなくなるよりも遙かに大きな問題だ。“人間としての自己の定義”が揺らいでしまえば、それは存在の危機へと直結する。

 普段なら全く意識しないだろう、自己の定義。意識しなくても最低限出来ていたその定義を見失ってしまった時に、具体的に何が起こるのか……。精神崩壊、人格瓦解。いくらても簡単に想像がつく。

 何をそこまで、とでも言うつもりか? いやいや、これに関しては精神科医なんぞよりも魔術師の方が遙かに精通しているよ。精神とは肉体と魂を繋ぐ第三要素に過ぎないが、逆を言えば、これが無ければ肉体と魂は決して繋がることはないのだ。

 

 肉体と魂が繋がらなければ、人間は生きてはいけない。魂のみで物理界に干渉することが出来るのは第三法の到達者のみ。そして、魂のみで物理界に干渉できないということは、それ即ち死んでいるのと同義である。

 

 

「あら、案外美味しいじゃない。姉貴ってばいつも紫遙にばっかり淹れさせてるから、てっきり自分じゃ淹れられないんだとばっかり思ってたわ」

 

「失礼なことを言うな。確かに普段は自分で淹れることなどないが、私よりも上手に淹れられる奴がいるからという話に過ぎん。必要があれば自分の分くらいは自分で用意するさ」

 

「普段から自分で用意してればいいじゃない、そんなこと言うぐらいなら。いっつも紫遙か、いなきゃ幹也クンにばっかり淹れさせて。たまには姉貴から従業員のみんなにお茶を振舞ってあげるとか、どう?」

 

 

 倫敦、時計塔。

 世界で最も巨大な神秘を擁する組織である聖堂教会に次ぐ巨大な組織、魔術教会の本部にして、優秀な若い魔術師達が勉学に励む学舎でもある。

 世界中の神秘の管理と研究。そして神秘の隠匿をも第一に掲げ、決して全能ではないにしても圧倒的な権力を有し、権力のみならず執行部隊などを始めとした戦力をも保有している最も有名な魔術結社だ。いや、既に結社などという言葉では収まらないのだが。

 

 その縦に、地下へと伸びた建物の奥深く。名だたる魔術師達のために用意された工房の中の一つに、私たち三人義姉弟の姿があった。

 住人が一人であることを考えれば、あまりにも広い室内。その入り口から真っ直ぐ入った部屋の中心に据えられている、これまた大きなテーブルの両側に据えられたソファに三人は腰掛けている。

 ダイニングのはずなのに、そのテーブルや足がやけに短い、まるで卓袱台のようなつくりをしていた。どちらかというとこれはリビングにあった方が見栄えもいいだろう。

 それでも一人暮らし、ということを考えるなら、まぁ妥協できないことはない。というよりも、一人暮らしの男がきちんと食卓について食事をとっている姿というのも、まぁ想像できないわけだがな。

 

 

「馬鹿なことを言うな。上司に茶を淹れてもらう部下など、想像するだけで鳥肌が走る。ましてやソレが私ならなおさらだ。

 大体な、上司は上司、部下は部下というしっかりした立場の違いを認識することは大事だぞ? 上司が上司らしくしてくれなければ部下は安心して仕事をすることも出来ん」

 

「詭弁じゃないの、それ? ていうか自分が楽したいだけでしょ。面倒なだけでしょ」

 

「詭弁も弁のうちさ。そもそも詭弁なんてもので反論できなくなる相手の方が悪いのだ。その程度の相手、普通に弁論を奮ってやることもなかろうよ」

 

「いや、だから自分が楽したいだけでしょ?」

 

「部下の仕事を取るなど、上司としてとてもとても‥‥」

 

 

 テーブルの上には果物と、大英博物館近くで購入した簡単な焼き菓子。そして先程から青子が愚痴愚痴言っているように、自覚するぐらいには珍しく私が淹れたコーヒーがマグカップに入って置かれている。

 盛大に湯気を立てるコーヒーは些か熱過ぎる気がするが、この寒い季節には丁度いい。何より地下深くにあるこの工房は、概ね一年を通じて涼しい。冬にもなると寒いぐらいだ。

 空気の循環は機能しているのだが、冷暖房まではさすがにない。なにせ千年を遙かに超える歴史を誇る時計塔の地下深くの工房に、現代機器なんぞ数えるぐらいしか置いていない。

 ここにもいくらかだけある電化製品やガスコンロなども、部屋に個別に発電装置とガスボンベを備え付けているだけなのだ。しかもその調達は事務員にやらせているが、設置自体は住人がやらなければいけないしな。

 如何に魔術師が現代機器を嫌うとはいっても、現代人である以上は生活にもそれなりに用意が必要となるのは情けない話だ。しかし、そうでもしなければ文化的な生活は望めないのだから仕方があるまいよ。

 

 

「さて、どうだ紫遙、姉が淹れたコーヒーの味は?」

 

「こら、無視すんなバカ姉貴」

 

 

 横で色々と喧しい青子への対応をすっぱりと放棄して、向かい側のソファに座った義理の弟へと視線をやる。

 大して重くもないであろうに深く深く身体をソファに沈め、両手で覆い隠すように、普段からカフェインの過剰摂取に縁のない人間なら驚いてしまうぐらいに大きなマグカップを持っている。

 

 

「久しぶりに会ったが相変わらず喧しいなお前は。最近の世間では勝ち気な女性が好まれるという話しも聞いたが、お前ほど騒がしいと嫁のもらい手もなくなるぞ?」

 

「姉貴が言うようなことじゃないし。ていうかまだ誰か男に永久就職するようなつもりはないわよ。そうね、あと百年ぐらいは」

 

「ちっ、早いとこ厄介払いが出来ると思ったんだがな。そう簡単にはいかないか」

 

 

 かなり俯いているからか、垂れた前髪に隠れて表情は見えない。普段から額に巻いているバンダナも外してしまっているから、余計に顔は髪で覆われてしまっていた。

 もちろん私や、まぁ一応は青子とて髪の毛が隠れているぐらいで紫遙の表情が分からないという程度の付き合いはしていない。私達を直視できないような落ち込み具合というと、おそらくは酷い表情をしていることだろう。

 昔から、何か負い目があるような時には私達と顔を合わせたがらなかった。結局それで解決することなどないと、何度も理解してきたはずだろうに、な。

 

 

「簡単にいくわけないでしょ。ていうか厄介払いって何よ、厄介払いって。私が姉貴のどんな厄介になってるのか、詳細にご説明願いたいわねー?」

 

「厄介も厄介、大厄介だ。ちょっと前にも酔っぱらって、伽藍の洞の中でレーザーじみた攻性魔術をバカみたいにぶっ放したのを忘れたか」

 

 

 だから紫遙が何かに悩んでいる時、本当に悩んでいる時は向こうから相談することはない。

 そして私達に軽々しく相談が出来ない程に悩んでいるならば、その大問題を紫遙一人で解決できないのも私達は分かっている。だから、そういう時は強引にでも私達から相談することを強要しなければならないのだ。

 

 

「‥‥そんなこと、あったっけ?」

 

「あったぞ。あの時は式が片っ端からお前の魔術を“殺し”、浅上が“凶げて”くれたからいいものを、式達が出かけている時だったら瞬く間に一つの廃墟の出来上がりだ。

 まったく、如何に幾重の結界で守っていたといってもお前のバカみたいな弾幕相手に耐えられるような構造はしていないのだぞ、私の根城は」

 

「マジ?」

 

「私が冗談ならともかく、意味もなく嘘をつくような人間だと思ってるのか? やれやれ、見下げ果てられたものだ」

 

 

 紫遙自身は、私達に対して弱みを見せたくないという子どもっぽい理由と、迷惑をかけたくないという殊勝な気持ちの二つが関係して相談しないという選択肢を選んでいる。しかし結局は私達からアプローチしなければならないという手間をかけさせてしまうのだから苦笑モノだ。

 ああ、苦笑と言いはしたが、別に手間を苦労と厭うていうわけではないぞ? なんというかな、まぁ義理とはいえ、たった一人の弟のためなら多少の手間ぐらいは労苦なんてものではない。

 

 

「‥‥実の妹にはこんなにキツイのにねー」

 

「お前は、実の妹以前の問題だろうが。日頃の行いを省みろ」

 

「姉貴こそ勝手に人の口座からちょこまか金下ろしてるくせによく言うわ。しかも大金じゃなくて、小金だし。大金なら怒る気にもなるけど、あんなにちょこまか下ろされたりしたら呆れて何も言う気にならないわよ」

 

「煩いなお前は、その程度のことでいちいち口やかましく言うんじゃない。たまーにホラ、金に困る時があるんだよ、それこそ飯をどうするか悩んでしまうぐらいにな。そんな時ぐらいはお布施を貰うぐらい良いだろうが」

 

「‥‥もういいわよ、別に。諦めてるし、私も特に困らないし」

 

 

 義理の弟の方が実の妹よりも待遇がいいと不思議に思う奴がいるかもしれなんが、私の中での青子は実の妹とはいっても非常に間接的な関係に過ぎん。

 私が紫遙の義姉で、青子も紫遙の義姉。だから私と青子も姉妹だと、そういう関係なのだから仕方があるまい。そうでもなかったら今こうして二人で話しているのも考えられん状態だったのだからな。

 

 

「‥‥おいしい」

 

 

 俯いていたが故に私達のやりとりを視界に入れていなかったはずの紫遙が、ちょうど口論ともいえない軽い言葉の応酬が瞬間的にピタリと止んだ時を狙ったかのように、ボソリと呟いた。

 私達の立てる物音以外はシンと静まりかえった部屋の中で瞬間的に喋り声が止んだからか、その紫遙の言葉はやけに大きく響いた。本人もそこまで大きく聞こえてしまうとは思わなかったのだろう。私達の視線を受けて、ビクリと肩を震わせる。

 

 

「そうか、それはよかった」

 

「‥‥‥‥」

 

 

 怯えている、のだろうか。わかりやすい態度だが、今まで紫遙がこのような後ろ向きな感情を私達に向けてきたことが少ないだけに気にかかる。

 負い目を感じる、というレベルではないのだ。相談したいのに出来ない、という程度の負い目ならばいくらでもあっただろうが、これだけ強烈に怯えられたのは初めてだ。

 

 

「‥‥もう一杯、どうだ?」

 

「あ、うん、もらうよ‥‥」

 

 

 手元に置いていたポットから更にもう一杯を自分と紫遙のマグカップに注ぐ。熱い湯気が鼻先を濡らし、眼鏡をつけていたら間抜けを晒しただろうなと内心で独りごちた。

 そういえば言ってなかったかもしれないが、私は基本的に紫遙と一緒にいる時に眼鏡をつけることは少ない。眼鏡をつけていると一般人に相対する姿で、眼鏡を外している時は魔術師。そういう認識があるかもしれないな。

 

 紫遙と私は、義姉弟であると同時に魔術師として師弟関係にある。そして私も魔術師の常として一般社会に紛れているとはいえ、魔術師の本質は魔術師に過ぎない。

 魔術師は、魔術師として過ごすのが一番自然な在り方だ。だからこそ同じ魔術師である紫遙の前では特に必要性が無い限り、私は魔術師として在るのかも知れない。所詮、一般人としての殻を被った私は偽った状態なのだから。

 

 

「さて、そろそろ落ち着いたろう? まったく、本当にお前は心配ばかりかけさせてくれる」

 

「入ってきていきなりナイフ持って深刻な顔してたのを見た時には心臓止まるかと思ったわよ? まさか紫遙が自分から自殺するとは思ってないけど、それでも衝動的にとかあったら怖いし」

 

「‥‥ゴメン」

 

 

 青子の、少し怒ったように両手の甲を腰にあてたポーズに紫遙は更に顔を俯かせ、小さな声で謝る。普段なら笑い飛ばすだろう青子も今回ばかりは深刻な状況であると理解しているらしく、それ以上軽口を叩くこともなかった。

 実際に私達がこの工房へ入って来た時の紫遙の様子は尋常ならざるもの、というよりも可及的速やかに対処を迫られるような危険な状況であったから、青子が怒るのも当然と言える。

 まさか私も、紫遙がフルーツナイフという殺傷性が低いながらも紛れもない刃物を、自分の喉下に突きつけようとしている光景など想像もしなかったからな。

 

 

「‥‥はぁ、最初に説教しておくが、魔術師が自殺など笑いぐさ以外の何物でもないぞ? というかそういうことに思考が回る方がおかしい。ああいう頭の悪い真似を、魔術師がやるなぞ戯けているとしか言いようがない」

 

「うん‥‥」

 

「あぁ、もちろんお前が正気でこのような馬鹿げたことをするとは流石に思ってはいないがな。そこは安心しておけ。流石に十年以上もお前の義姉をしているわけではない。

 しかし、よくよく気をつけておけよ。‥‥事情が事情とはいえ、自分の制御も出来ないようでは魔術師として半人前以前の問題だ」

 

 

 じっと黙って俯いたまま話を聞いていた紫遙が、私の最後の言葉の内容にハッと顔を上げた。

 限界まで見開いた目は驚きも表しているだろうが、それより恐怖や怯えの方が目立つ。どのような心境が生じたのか、わずか十分の一秒その瞳を見ただけでも理解できてしまう程に。

 

 

「‥‥なんで、知って」

 

「私達がお前の状況を知って、何も調べないとでも思ったか。お前の連れの衛宮士郎達と、宝石翁と伝承保菌者(ゴッズホルダー)から話を聞いている」

 

「いやいや、宝石のお爺ちゃんから話聞いたの私だから。ていうかバゼットのところにも私が最初に行こうって言ったし」

 

「細かいことは気にするな。大した違いではない。———そんなことより、紫遙」

 

「‥‥‥‥」

 

 

 ぐっ、と拳に力を込めた様子を見て、自然に溜息が漏れてしまう。まるで子どもの頃の義弟を相手にしているようだ‥‥と思いはしたが、よくよく考えれば子どもの頃に紫遙でもここまで怯えた様子を見せたことはない。

 それこそ最初に会った時から暫く、つまるところ紫遙が紫遙として私達の義弟になった時までのごく僅かな期間の間にだって、無かったのだ。やれやれ、これでは深刻な気分になる前に呆れてしまう。

 

 

「確かに大体の事情を聞きはしたが、それでも本人から真偽と詳しいところまで確かめないことには話にならん。さぁ、吐け」

 

「吐けって姉貴、それじゃ尋問よ。ていうか今回に限ってどうしてそんなに直接的なのよ、さっきまであんなに優しくしてたくせに」

 

「こんな腑抜けた義弟を見て黙っていられるか。かといって事情が深刻だからに叩き起こすのも解決にはならん。ならこうして、きりきり詳しい話を吐かせるより他あるまいよ」

 

「‥‥うわ、鬼畜ね」

 

「何とでも言え。さぁ紫遙、さっさと話せ。私も一応は凍結されたとはいえ封印指定を受けた身、あまり長い間ロンドンに留まっているわけにもいかん」

 

 

 当然ながら、これは嘘だ。封印指定というのは問答無用で捕縛ないしは殺害して研究成果あるいは魔術刻印や魔術回路、重要な臓器や神経を保管するという物騒なものではあるが、実際そこまで頻繁に執行されるわけではない。

 ああいや、封印指定自体はそれなりに多いぞ? だがな、封印指定を受けた魔術師を根こそぎ刈り尽くすことが出来るほど、封印指定の執行者は数が揃っているわけではない。たった三十人だぞ、連中は。しかもその三分の一はこの前の一件で滅んでしまったしな。

 優先して狩られるのは一般人などに手を出して神秘の漏洩に及んだ、いわゆる外道に墜ちた魔術師や、本当に可及的速やかに封印しなければ二度と手が出せなくなってしまうような、希少値が高すぎる魔術を会得した魔術師だ。

 私のような、執行を凍結された封印指定がうろついていたところで手出しされるようなことはまずあるまい。それこそ、私の研究成果を狙っている別の魔術師などならば、話は別だがね。

 

 

「‥‥はぁ、何をそんなに怯えている? いくら私とて、ここまで憔悴しきっている義弟を更に追い詰めるようなことはしないさ」

 

「そういうことしそうだから、怯えられてるんじゃないの?」

 

「だから煩いと言っているだろう。お前は黙っていろ、青子」

 

「あっそ」

 

 

 暫くの間くっちゃべっていたにも関わらず、口に運んだコーヒーはまだ熱い。私が好きな舌がピリピリするような熱はないが、話し疲れて少し渇いた喉を暖かく潤してくれる。

 私の言葉に何とか俯いた顔を上げ、なおかつ思い詰めたというよりは腹を括ったとでも言いたげな真剣な表情は、まるで死刑台に赴く死刑囚のようだ。

 ‥‥やれやれ、私は別に異端審問会を開くつもりはないんだがな。この様子だと最後の最後まで変わらんだろう。まぁ、まずは話を聞いておくことにするか。

 

 これまた珍しくも青子と二人で並んで、紫遙の対面にあるソファに座る。二人座っても十分に広いソファは肩が触れ合うなんてこともないから快適でいい。

 紫遙の前では一応は和解しているという態度をとってはいるが、まだまだいけ好かない妹であることには違いないからな。多少は、穏便な関係になったことは否めないが。

 

 義姉二人に対面されて更に緊張度が上がったのか、紫遙の額をおそらくは冷たい汗が滴る。まったくもって、苦笑が止まらん。困ったものだ。

 結局その後、紫遙が口を開くまでに十数分。私と青子はその間にコーヒーをもう一杯ずつ、そして茶菓子を一箱空けてしまったのであった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「‥‥ふん、成る程。大体の話を聞いていたとはいえ、やはり当事者の口から聞くと違うな」

 

「厄介なことになったわよねー。紫遙と一緒にいる衛宮クンとか遠坂サンとかも抜群のトラブルメーカーだけど、アンタも大概アンラッキーボーイよね」

 

 

 ごくごくたまにルヴィアが訪れることもあるとはいえ、原則として一人きりの俺の工房に、今日は珍しく二人の来訪者が現れていた。

 とはいってもココは本来なら俺の工房じゃないから、この二人がここにいることは自然なのだ。というか当たり前のように居座っていたけど、よくよく考えれば何だかんだで無断借用になってしまっていたっけ。

 ‥‥どうにも最初にこの工房を使うようになった経緯を思い出せない。確か、最初に借りたアパートを整備してから、次に青子姉の工房を一度見ておこうと思って‥‥。

 

 あぁ、思い出した。確か最初に工房に行った時に、あまりにも埃っぽくて放置されてて、それを整備している内にいつの間にか居着いていたんだっけか。結局のところ青子姉には一度もここを使うと宣言もしていないし、許可もとっていない。

 もっとも青子姉も一切ここを使っていないし、むしろ俺が使い始めてからの方が頻繁にここを訪れていることだろう。というよりもあの埃の積もり方から考えるに、一回ぐらいしか入っていないんじゃないだろうか。

 

 

「ああ、私もロンドンに来てから色々な事件とのエンカウント率が高すぎるとは思っていたのだが、やはり連れのせいではなくコイツ自身が原因だったか。まったく、伽藍の洞にいた時はそれほどでもなかったというのに‥‥」

 

「あれは姉貴が殆ど伽藍の洞から出さなかったからでしょ? 毎日毎日学校と家を往復するだけなら早々事件に巻き込まれたりもしないわよ。

 ていうか、あの頃の事件っていったら毎日がそうだったし、そもそも姉貴があっちこっちから依頼受けて連れ出したりしてたじゃない」

 

「若い頃は色々な経験を積んでおくことも大事なんだよ。師匠として弟子を育て上げるのは当然のことじゃないか」

 

「稼ぎが何処に入ったのか、それをしっかりと明言するなら認めてもいいわよ、その発言」

 

 

 長い間、話していた気がするのに、両掌に握りしめたマグカップの中身はまだ温かい。最近は温かい飲み物に縁がなかったから、掌から染み通って心まで温かくなってきそうだった。

 あぁおかしい、肩も足もガクガクと震えそうなのを歯を食いしばって堪えているのに、何故か掌と胸の奥だけが不思議と暖かい。

 冬木であの魔術師に会ってからずっとずっと石のように、氷のように固まっていた俺の全てが、少しずつ融かされていくかのようだ。

 恐怖でガクガク震えている心はそのままでも、温度だけがゆっくりと上がっていく。食いしばっていた歯も、段々と力を緩めていけるようになってきた。

 

 

「こら、そう怯えるな。いい加減に顔を上げろ、紫遙」

 

 

 すぐ近くで声が聞こえて、あまりの至近距離感に思わず驚いて顔を上げる。

 目の前に、鋭利な光を湛えた切れ長の瞳があった。鋼の意思が宿っている、という種類の超越した頑強な眼光ではなく、どこまでも貫き通して奥底まで切開するような、閃光のような、針のような瞳だ。

 あまりにも冷たく、どこまでも残酷に世の中の全てを評価、判断するその鋭い目は、見慣れていない人間なら、一目視線を送られただけでヒッと細い悲鳴を漏らして身を竦ませてしまうことだろう。

 それでも俺にとっては馴染んだ視線であることには変わらず、初対面や殆ど付き合いのない人間ならば単純に冷徹としか思えない視線も、俺ならば他にも色々な感情が込められているのが理解できる。

 

 冬木での事件への未熟な対応に呆れている。謎の魔術師に憤りを感じている。そもそもこんな任務を俺達に押しつけた宝石翁と青子姉に怒っている。下手すれば自害しようとしていた俺を責めている。そして‥‥案じてもくれている。

 上から覗き込んでいるのに、まるで下から見上げられているようにも感じる不思議な感覚。まるで見定められているような、観察されているかのような印象。

 今までずっと、俺が義弟として迎えられてからは対等な目線、もしくは見守るような目線で話しかけてくれていた。同じ魔術師として、対等に。

 

 

「お前は粗相をやらかした幼稚園児か? 良い大人が一つ失敗したぐらいでそんなに落ち込むものじゃない」

 

 

 だけどこの感覚には覚えがある。あれは‥‥俺が初めて、橙子姉と青子姉に会った時のことだ。

 珍獣を目にした時のような不躾な、遠慮のない視線。一切の感情を含まない冷徹な視線。最初に会った時、俺はまるで自分が何か無機物にでもなってしまったかのような感想を持った。

 相手に対する自分の認識ではなく、相手にとっての自分の認識が投射されてしまう。それほどまでに絶対的な視線が俺を射貫いたのだ。まったくもって、あれほど静かに凍り付いたコトは未だかつてなかったと思う。

 

 

「‥‥‥‥」

 

「やれやれ、やっと顔を上げたか。普通の人間なら親が死んでもそんな顔はせんぞ、まったく、縁起でもない」

 

「親じゃないじゃん、別に。っていっても、姉貴は殺しても死なないけどねー。本当に文字通り」

 

「お前もな」

 

 

 近寄って来て居た橙子姉がソファへと戻り、ちゃんと顔を上げた俺は二人の義姉と相対する。

 ずっと下を向いて俯いていたから、首が強ばっていてギクシャクする。錆び付いたちょうつがいみたいにギシギシと鳴って、逆に今度は前を向いたまま首を動かせなくなってしまいそうだ。

 

 

「‥‥本当に、ごめん」

 

「気にすること無いわよ、その程度。紫遙のための苦労なら今までいくらでもやってるし」

 

「お前は苦労と言う程の苦労はしてないだろう。たまに遊びに行って連れ回して‥‥迷惑かけてやっているの間違いではないのか?」

 

「してるわよー!こう見えてねぇ、時計塔で色々と小細工したりお茶飲んだリ」

 

「後半部分が全てのくせにな」

 

 

 大きく首を回して、深呼吸をする。工房の中の微妙に黴と埃の匂いのする冷たい空気が胸の中に入ってきて、すぐに暖められて外へと向かっていく。

 嗅ぎ慣れた匂いが妙に新鮮に感じる。普段なら一切気にしないだろうに、いつもと違う気分だから埃や湿気の香りがやけに鼻につく。

 未だに心臓自体は持ち主である俺の心境をこれ以上ないくらいに代弁するかのごとく高鳴りを続けてはいるが、それでも心臓に共鳴して震えだそうとしている手足や肩を、意思の力で何とか封じ込めた。

 

 橙子姉の言う通り、これはさっきみたいに落ち込み、怯え、震えていても何の解決にもなりはしない問題だ。もちろんそれは自分でも分かっていて、それでも普段の自分らしく平静に振舞えなかったのは、やっぱりこの問題が、どうしてでも対処するのが難しい大問題だからに他ならない。

 自分一人では、どうしても重圧や不安に耐えかねる大問題。解決策を練るための思考すら一人ではおぼつかない俺のために、貴重な———かどうかは知らない。特に蒼子姉なんか一年三百六十五日暇をしているとすら言えるし———時間を割いて、危険を冒して時計塔まで来てくれた。

 確かに青子姉が俺をこの任務へと推薦したということもあるだろう。それにしたって橙子姉までもがここまで早く駆けつけてくれたことは、申し訳ないという気持ち以上に嬉しくて仕方が無いくらいだ。

 ちなみに何故こんなにも早く義弟の窮地を知ることが出来たのかということに関しては‥‥得体が知れないけど納得は出来るので割愛。少なくとも、義姉弟の絆とか愛とかいう言葉では説明されない、というかそんなニュアンスがないのは間違いない。

 

 

「しかし面倒なことになったな、本当に。想定していなかったわけではないにせよ、やはりこうして直面すると中々に面食らう」

 

「まさかここまで早くバレるとは、私だって思わなかったわよ。そりゃいくら私達の備えが十分だったとはいえ、紫遙自身は最強の魔術師ってわけじゃないし、他にも魔術師なんて山程いるものね」

 

「理解はしていたし、備えも万全のつもりではあったのだがな。やはり、世界というものは広い。まぁその広い世界であのような人種にぶち当たってしまう我が義弟の不運も相当なものだが」

 

 

 皮肉げに頬の端をゆがめた橙子姉の言葉に、青子姉もウンウンと軽い調子ながらも真剣な声色で頷いた。

 しかしそれも道理というものだろう。人形師という称号を得ながらも、その実だいたいのことは何でも一通りこなしてみせる超一流の魔術師。そして魔術師としての腕はともかく、紛れも無い第五法の行使手、真理の会得者である青の魔法使い。

 世界でも間違いなく上位の実力を持った二人の義姉が頭をこらして張った対抗策を、まさかこんな斜め上かつ正攻法なやり方で抜かれて記憶を奪われるとは、しかもそれがここまで短時間に起こるとは、俺はもとより二人だって予想はともかく予期は無理だったに違いない。

 

 俺が魂への、記憶への干渉を防ぐために張っていた精神障壁は、基本的に俺によって考案され、俺自身の魔力容量を割いて張られている。

 多少は橙子姉のアドバイスが入ったものの、基本的には俺の魔術だ。俺は自分自身をそれなりに“できる”魔術師だとは思ってはいるけれど、所詮俺の張ったものであれば橙子姉などの一流の魔術師に比べれば見劣りする。

 ただ、常時それなり以上の強度で張られている精神障壁は、本腰入れて記憶を探りにでも来ない限りは、片手間の魔術ではそう簡単に敗れはしない。何故ならそもそも魔術師が魔術師に対して精神干渉を行うという行為自体が、非常に稀なものであるからだ。

  

 俺の記憶を本腰入れて覗こうとするならば、それに見合う理由が必要となる。そしてその理由として最も考えられるものは、俺の記憶の持つ価値、すなわち“向こうの世界”の情報に他ならないだろう。

 しかしそれを入手するには、そもそもの前提として俺の精神障壁を抜けて来なければならない。俺か橙子姉か青子姉が口を滑らす以外に、他の情報調達手段などないからだ。

 ならば以上二つの要素から、俺の貧弱な魔力と術式によって編まれた精一杯の精神障壁でも、格上の魔術師から記憶を守り通す砦となり得るのだ。‥‥今回みたいな、イレギュラーさえ存在しなければ。

 

 

「中々に盲点だったな。私とお前で考えた論理には神秘の世界の常識的にも不備はなかったはずだが、そもそもこうして単純に不特定多数、それもそれなり以上の魔術師を標的として記憶を欲しがる魔術師(へんたい)がいるとは思わなかった」

 

「というよりも、本当に究極的にはそんな魔術師に出会っちゃう紫遙の不運さを私達が考慮できなかったってところかしら?

 まさかねぇ、異界創造に英霊召還、ついでに高次元からの干渉って手順を踏んでるにしても魔術師にすら通用する強力な精神干渉までこなす人外魔境に遭遇するなんてねー」

 

 

 ある程度以上の腕を持った魔術師。それも、橙子姉や時計塔の教授陣に匹敵するような、それ以上の腕を持った魔術師。そんな存在がどれくらい存在するのかと聞かれたら、そりゃ山ほどいるさと答えることだろう。

 地球の全人口に対して神秘を解する人間の数は軽く小数点以下パーセントを切る。その内で俺達と共通した魔術基盤を持つ“魔術師”の数は十数パーセント。それでもなお、世界に魔術師はたくさん存在しているのだ。

 そのたくさん存在している魔術師の中で上位に存在している橙子姉たち、封印指定という———橙子姉自身の言葉を借りるなら———人外魔境の連中。それがどれほどの数いるものかと考える奴もいるだろうけど、これが中々、結構ごろごろしているものである。

 

 例えばアスリートを考えてみよう。それこそ中学高校の部活動から企業団の選手、オリンピックで活躍する一流選手までを想定して構わない。

 俺の精神障壁を冬木のときのような、正攻法で突破できる実力を持った者を仮に国内で十指に入る以上の選手であるとしてみる。勿論国によって選手の層の厚さにも違いがあるだろうから正確とはいえないけれど、とりあえずの話である。

 この場合、国に十人‥‥では少なすぎるから、二十人と仮定してみようか。それでも世界中見渡して———面倒だから細かい国までは考えない。オリンピック参加国が‥‥何カ国だっけ? よく分からないから百で計算してみよう———三千人いないことだろう。

 ちなみに俺の実力が尋常じゃなく高いんじゃない? と訝しむ人もいるかもしれないけど、こと精神干渉の防御という点に絞れば俺は時計塔の学生でも五指に入る自身があるので、あしからず。

 

 アスリートにたとえると、こんなもの。しかし実際に俺達が相対したのは魔術師だ。

 今、俺が引き合いに出したアスリート達が現在の実力を培うのに費やした年月は、おそらくせいぜいが十数年。それも四十年を下回ることは間違いない。

 しかし魔術とは、技術であると同時に学問だ。百年単位で積み重ねた年月が、そのまま魔術師の糧となっている。ならば、実際には俺の精神障壁を破るに足る実力の持ち主はもう少しばかり多いはずである。

 

 ただ問題は、基本的に魔術師とは隠れ住む者であるということ。時計塔や巨人の穴蔵(アトラス)などの特殊な集まりでもない限りは、魔術師は他の魔術師と好んで接触することなど有り得ない。どちらかといえば、積極的に忌避する傾向にある。

 ‥‥そもそも魔術協会が定めた代々の管理人(セカンドオーナー)が存在する霊地に他の魔術師が侵入すること自体が有り得ない。そしてその魔術師が、俺の精神障壁を抜いてくるような凄腕の魔術師であったのもまた有り得ない。

 つまりは橙子姉と青子姉の言う通り、そういうものに遭遇してしまう俺がどうしようもないくらいに不運だというべきなのか。まったくもって、誰を恨んでいいのか全く分からないのである。

 

 

「出来すぎている、とすら言えるぐらいテンポ良く惨事が続いたものだ。霊脈の異常、調査部隊に続いて執行部隊の全滅、英霊の召還、記憶の簒奪。予定調和のごとき流れだな」

 

 

 もちろん、まさか最初から俺が狙われていたということはあるまい。それは最後に会った黒幕たるアノ魔術師の発言からも読み取ることができる。

 ああ、だからこそ橙子姉も青子姉も不幸と言ったのだろう、俺のことを。‥‥でも、ああ、けど———

 

 

「でも多分、不幸とかじゃないと思う‥‥」

 

「ん?」

 

「はぁ?」

 

 

 ぼそりという俺の呟きに、橙子姉と青子姉が間の抜けたような声を漏らした。この場面で俺の口から反論めいた言葉が飛び出すのが意外だったのだろうか。

 二人の声の残響が止んでしまった部屋の中を一瞬の無音が支配する。先程から度々起こっている微妙な空白も、基本的に沈黙が気にならない関係である俺達義姉弟にとってはあそこまで空気が悪くなるものではない。

 

 

「‥‥前に青子姉に言われた通りだ。異質なものは異質なものを惹き付ける。‥‥そうでしょ?」

 

 

 似たもの同士はお互いに引き付けあう。確かな証明が出来ないというのに、それは遙か昔から当然の法則として世に知られていることであった。

 実体験としては様々な例がある。例えば己の分を弁えていない死徒が死都を作ったりすれば、当然の理として討伐するための代行者が派遣されることだろう。例えば混血などは、自分たちの身を守るために積極的に集団(コミュニティ)を作ろうと互いに接触し合う。

 しかしそういう、明確な理由が存在する引力などではなく、全く理屈では説明できない引力というものも存在する。物理学でも論理でも、魔術でも超能力でも説明できない不思議な力。

 それでもその力が働くこと自体は絶対の真理として皆に認知されているから、だからこそ俺は橙子姉と青子姉から注意するようにと言われていた。

 

 

「橙子姉と青子姉と一緒に伽藍の洞にいた時は、二人に守ってもらえて、気楽に過ごせてた。秘密があっても、二人に話していることで安心できた。

 でも時計塔に来て、一人になって、守られなくなって‥‥。そしてルヴィアや衛宮や遠坂嬢達と会って、俺は錯覚してしまってたんだ」

 

「紫遙」

 

「もう俺はオレじゃない。俺は、この世界の人間だ。でも‥‥俺の中にオレがいるのも忘れちゃいけない事実だった」

 

 

 伽藍の洞での生活は、特筆することもない平穏な日々。毎日しっかりと休むことなく学校へ行って、同じく休むことなく魔術の修練を続け、合間に橙子姉が受けていた依に対しての渉外として仕事を手伝う。

 学校には話し友達以上の付き合いをしていたクラスメイトはいなかったし、部活や課外活動をしていたわけでもない。だから学校での時間は作業のようなもので、俺の生活の殆どは伽藍の洞の中にあったのだ。

 話す相手の殆どが、神秘を知っている人間。そして変わらぬ日々は、俺の感覚を犯していった。良い意味でも、悪い意味でも、変わりなく続いていく日々に麻痺してしまっていた。

 

 

「この世界の住人である俺の中に、別の世界の住人であるオレがいる。だから俺は、俺の中のオレを守らなくちゃいけなかった」

 

 

 “この世界に所属している”ことを認識する。それを最重要視しているのであれば悪いことではなかった。それでも俺が失敗してしまっていたのは、その日々の中で“それでも自分が異端である”のを忘れてしまっていたということである。

 自分では忘れていたつもりではなくても、本当の意味では意識から抜けてしまっていた。常に心の奥底で覚悟していなければならないことが、薄らいでしまっていたのだ。

 守られているなら、忘れていても問題がなかった。でも守られていた城から出て、野原へと歩き出した時、それは“もしもの時”の致命傷になる。

 

 

「いつでも世界のプレッシャーに怯えてた。自分が世界に拒絶されるのが、怖かった。でも違う、本当は俺は、とうの昔に世界から認められていたはずだ」

 

 

 そして時計塔に来て、俺よりも遥かに綺麗な輝きを放つ友人達と出会い、忘れ物は深刻になってしまった。俺より輝く友人達の過ごす日々と共にいて、俺は自分について意識を払うよりも、友人達に、衛宮達に意識を払う方が多くなってしまっていた。

 自分を卑下していたわけでも、衛宮や遠坂嬢やルヴィアと比べていたというわけでもない。ただ彼らがあまりにも輝き過ぎていて、自分の中に集めるべき注目も彼らに寄せてしまっていたというだけの話。

 友人達の世話を焼き、友人達の心配をし、それは決して悪いことではないし俺も後悔しているわけではない。けど、だからといって自分の注意を怠っていては本末転倒だ。

 

 

「俺はオレじゃない。それさえ理解していれば、俺は世界から受け入れられていたんだ。でも俺が、自分がオレであると間違った認識をしてしまっていた。俺の中にオレがいるんじゃなくて、俺とオレが入れ違いに自分を使っていたから、世界は認めてくれなかったんだ」

 

 

 クラスカードを集めるために冬木へ行って、英霊達と戦って、衛宮達が主人公のドラマかゲームを観戦してるみたいな気分になってたのかもしれない。とてもそうとは思いたくないけど、それでも可能性としては十分に考えられる。

 これは衛宮達に待ち受けていたイベントなんだと心の奥底で早合点して、そして自分が注意すべき、自分の問題から目が離れていた。だからこそ、ああして隙を突かれてしまった。

 

 

「それが俺の間違い。オレであることを認識してしまっていたから、まだ前の世界の自分を主体的に引き摺ってしまっていたから、だからこそ全てを間違えた。

 世界に拒絶されていたことも、こうして予期せぬところでオレに関する失敗を犯したのも、俺がオレのことを認識できていなかったからなんだ‥‥」

 

 

 俺である時、俺はオレのことを考えていない。なぜなら、俺は俺がオレであると勘違いをしていて、世界に拒絶されることに怯えていた。でもオレが表に出てきてしまえば、それは世界に拒絶されるのも当然という話なんだ。

 俺がオレなんじゃなくて、俺の中にオレがいる。あくまで主体が俺であれば、俺はオレになることなくオレのことを認識することが出来た。そうでないから、俺がオレになった時に世界がオレを、ひいては俺を拒絶していた。それに気づけなかったのが、俺の過ちだった。

 

 不幸も、衛宮達も、冬木のことも、聖杯戦争も、全て言い訳にならない。

 

 ああそうだ。全て、俺のことは、オレのことは、オレの、俺の責任だ。自業自得、と言い換えてもいい。だからこそ、俺はオレについて、ここで踏ん切りをつけなくてはならなかった。

  

 

「‥‥‥‥」

 

 

 まるで大舞台の名場面で、渾身の名台詞を言い終わった後のような脱力感が襲う。この長々とした口上を言い終わるためだけに、オレはどれほどまでの気力を費やしたのかと自分で自分に呆れてしまう程に、どっと汗が湧いて出てくる。

 それでも何故か俺は緊張感が緩まずに、張り詰めた空気が居住性を考慮していないわりに、無駄に広々とした居間の中を支配する。まるで出された課題を成し遂げて成果を検分して貰っているときにそっくりの沈黙と間の後に、ゆっくりと橙子姉が口を開いた。

 

 

「‥‥ふ、それがお前にとっての“答え”か。一つステップアップできたようだな、紫遙」

 

「え‥‥?」

 

 

 ふっと、本当に数えるぐらいしか、さっき何時になく情緒不安定だった俺を慰めている時にも見せなかった綺麗な笑顔が、俺の前に二つばかり揃っていた。

 鋭い目も、これ以上ないぐらいに意思の強さを示す瞳も、皮肉気な唇もそのままに、見る者がハッと域を呑んでしまうぐらいに綺麗な微笑。花がほころんだ、という表現がこれほどまでに似合わず、そして似合っている微笑を、俺は未だかつて他に知らない。

 常にそれが普通の状態として張り詰められていた弦が、緩められたのではなく、優しい音色を奏でた。そんな胸の奥深くまで響く微笑に、俺は目を見開いて一瞬呼吸を止めた。

 

 

「ずっと、心配してたのよ。紫遙は落ち着いたように見えていて不安定だから、何かきっかけになって自分らしくいられる答えを見つけたらいいなって」

 

「人はどれだけ自分のことを把握しているつもりでも、不十分だ。それは人間が万能な生物でない以上、前提として主観的に物事を考えるのが基本な生物である以上は仕方がない。解くに人生経験の浅い若造では、な」

 

 

 何時ぞや、もう片方の姉からも聞いた似たような話を橙子姉がして、ゆっくりと優雅にマグカップを口に運んだ。他所で飲んでいる時にはいつも気がつけば冷えてしまっているコーヒーは、何故か今日はまだ温かいままだった。

 

 

「でもね、そういうのって他人に言われて気づくようなものでも、得られるようなものでもないじゃない?」

 

「私達が言葉で言っても意味がない。私達が用意してやった舞台に据えても意味がない。‥‥だからこそ、窮地ではあるが今回のことはお前にとって良い試金石になったようだな」

 

 

 微笑が一転、俺の見慣れた、俺の大好きな自信に満ちた表情へと変わる。世界の全てが揺らいでも二人だけは真っ直ぐと立っていてくれる、そんな気持ちにさせてくれる大好きな表情だ。

 いつもの二人。いつもの、でも少しだけ変われたかもしれない俺。高ぶっていた心がゆっくりといつもの温度に、温かい伽藍の洞での温度へと戻っていく。

 

 

「俺が、自分で見つけたんじゃない。一人じゃ今でもずっと、さっきみたいに怯えてるだけだった。なんでかな?

 ‥‥うん、きっと二人が来てくれたからだ。二人のおかげだよ。‥‥ありがとう、橙子姉、青子姉」

 

「‥‥嬉しいことを言ってくれる、と感想を述べておこうか。ふん、調子のいいことだ」

 

「こっちこそありがとうね、紫遙。ホント、紫遙が私達の義弟でよかったわー!」

 

 

 ガシガシと、一瞬のうちにテーブルを飛び込んで接近してきた青子姉に頭をかきむしられた。

 乱暴で、なおかつそこまで力がないというわけでもないのに優しく腕が動く。ゲームセンターのパンチングマシーンでハイスコアを出した豪腕なのに、驚くぐらい細い手と指になすがままにされる。

 最後に付け足しのように皮肉を口にした橙子姉も、それとは分からないぐらいに肩が上がっているところから察するに、少しぐらいは嬉しげにしてくれているようだ。

 こういうのを自分で観察するのは良いことなのか悪いことなのかは分からないけれど、客観的な分析から主観的な喜びへとダイレクトに感情が揺れ動いた。

 

 

「‥‥さて、紫遙。わかっているだろうな?」

 

「‥‥うん」

 

 

 スッと、空気が引き締まる。張り詰めるのではなく、引き締まる。義姉弟としての会話から、橙子姉の一言で魔術師としての三人へと変化していく。

 例え魔術回路のスイッチをオンにしなくても、魔術師は本来の在り方として魔術師だ。だからこそ、一般の人間から見たらどんなに不自然なことでも、魔術師は魔術師として在ることが自然な生き方なのである。

 

 封印指定の人形師、蒼崎橙子。

 第五法の行使手、青の魔法使い、蒼崎青子。

 そしてもうこの世では三人しかいない蒼崎の名前を持つ魔術師である、時計塔は鉱石学科所属の二流魔術師、蒼崎紫遙。

 

 実力では俺は二流に過ぎない。戦闘も得意じゃないし、血が繋がっていないから家系が積み上げた歴史も、魔術刻印も背負っていない。

 それでも俺は、超一流の魔術師と実在する魔法使いに教えを受けた身だ。単純なスペックで劣っていようと、“魔術師として”なら一流。そういう自負がある。

 だからこそ、橙子姉がこれから言いたいことも、オレに惑わされなくなった俺なら理解できる。あぁ、俺は“魔術師”だ。

 

 

「お前の記憶は、トンデモない爆弾だ。単純にその情報だけでも深刻な被害を世界にもたらす原因に成り得る。

 聖杯戦争、月の姫君、直死の魔眼。お前の記憶の中の大雑把なカテゴリの中でも一際目立つキーコンテンツたるこの三つ。このどれか一つが不遜な魔術師一人に知れるだけで、世界全体を揺るがす大きな災厄へと導かれる可能性がある。‥‥当然わかっていることだろうがな」

 

「‥‥‥‥」

 

「そして重要なのは、お前の記憶そのものが持つ情報ではなく、正しく“そのもの”。記憶そのものがこの世界だけではない、異世界の存在を、上位世界とでも言うべき存在を証明してしまっていることだ」

 

 

 今まで何回も、繰り返し繰り返し為されてきた忠告。俺自身も十分に自覚しているこの忠告。

 今までこの話になると否応なく緊張した空気が漂っていたけれど、今回は切迫した事情が絡んでいるからに限界まで緊迫した空気が、いや、真剣な空気が更に真剣になっていく。

 

 

「“根源”へと到達した魔法使いとして言わせてもらうけれど、世界は本来ならば自身にのみ帰属する人間が、自身とは別の世界へと帰属する可能性を許しはしないわ。

 実際に渡るかどうかは問題じゃない。並行世界ではない、“完全な異世界”が存在することを識ってしまうことも、世界にとっては不利益になるの」

 

「そうだ。であるからこそ、お前と私達の間にだけ共有され、秘密にされているべき情報が他に流れてしまったことは、改めて言うまでもないだろうが見逃せない問題だ。これは早急に解決しなければならない」

 

 

 ごつん、と重い音を立てて重厚なマグカップが同じく分厚いテーブルへと置かれる。かなり大きめのマグカップの中に隣に置かれていたピッチャーから繰り返し繰り返し注がれていたコーヒーは、冷めてしまう前に空になった。

 ちなみに皿の上にそれなりの数だけ置かれていた茶菓子は、これまたいつの間にか箱の中のストックまで含めて全て無くなってしまっている。どうやら、青子姉によって食べ尽くされていたらしい。

 本来ならばカフェイン&糖分中毒になりそうな生活をしている橙子姉の腹の中に消えたことだろうけれど、今回は喋りまくっていたから手をつけていないようだ。

 

 

「魔術師が、他の魔術師によって不利益を被った。ならば、することは分かるだろう?」

 

 

 カラカラに渇いてしまった喉は相変わらず。それでも俺は、雰囲気を一変させて威圧感(プレッシャー)を放つ橙子姉を前に唾液を飲み込んだ。

 久々に見る、完全に魔術師としての蒼崎橙子。封印指定の魔術師は全員が全員バケモノだという話だけど、封印指定の中にも千差万別ある。

 魔術師が単純に実力のみで比較されることがないように、封印指定というカテゴリの中でだって色んな方向(ベクトル)に能力はそれぞれ違う。それでもその中で、明らかに“格が違う”と形容される魔術師がいるのも確かな話だ。

 蒼崎橙子は、間違いなく格が違う。魔術師としての格の違いを、蒼崎紫遙は蒼崎橙子に感じるのだ。

 

 

「ホントなら、今回だって助けてあげたいわ。危ないところは危なくないようにしてあげてね、先生が子どもにするみたいに。でもそういうわけにもいかないでしょう?」

 

「私達が全て手取り足取り教えてやるのも、やってやるのも簡単なことだ。確かに今まではそうしてやったこともある。しかし、お前がお前自身で答えを得たのであれば、その答えを得るために起きた事件の幕引きをするのも、お前自身であるべきだ」

 

「‥‥‥‥」

 

「ああ、分かっている。お前も魔術師だ、一人前のな。だからこそ、私は魔術師としてお前に‥‥いや、師として弟子である蒼崎紫遙に命じよう」

 

 

 ふぅ、と一度だけ息を吐いて、今まで以上に真っ直ぐに橙子姉と青子姉が俺へと向き直る。この二人が肩を寄せ合って座っているのは違和感があるけれど、そんなことは今はもう気にならない。

 並んだ二人からの視線が、一切の揺らぎもなく真っ直ぐに俺へと突き刺さる。それは敵意を持ったものでも、視線だけは威圧感を伴ったものでもなくて、ただ敢然とした事実と意思のみを込めて俺へと送るものであった。

 

 

「お前の記憶にある情報は、私や青子をも脅かしかねない危険なものだ。故に私は弟子であるお前に、師である私の不利益をも防ぐために命じるのだ。

 ———私達に、蒼崎に敵対したあの魔術師を、完膚無きまでに消滅させろ。一切の情け容赦は不要だ。魔術師が魔術師に喧嘩を売った、その意味を思い知らせてやれ」

 

 

 心臓が、震える。背筋がすくみ上がる。体中の血液が凍り付いてしまったかのようだ。

 でもそれは決して恐怖とか怯えとか、後ろ向きな感情から来るものではない。不思議なことに、おあかしなことに、こんな年齢になってもまあ俺は、橙子姉と青子姉からこうして魔術師としての言葉を受けることが、嬉しくてたまらなかった。

 

 

「魔法使いでも、ろくに普通の魔術が使えなくても、魔術師であることは変わらないわ。そして何より、私達は“蒼崎”よ。気にくわないけれど、私に逆らうことは姉貴に逆らうことも同じだし、姉貴に逆らうことは私に逆らうことも同じ。そして紫遙についても‥‥同じよ。

 蒼崎に逆らった者は例外なく、同じように報復される。特に今回の事情なら、姉貴の言ったように完膚無きまでに消滅させるのが一番ね」

 

「良くも悪くも、お前は蒼崎の名前に相応しい行いを要求されることになる。私達から、な。そしてそれ以上に、魔術師として自分に敵対する魔術師への報復行為は十分に理解しているはずだ」

 

 

 理解している、なんてものではない。俺はそうなりたくて、義姉達のようになりたくて、強制だったにしてもこうして時計塔へとやって来た。

 橙子姉の言葉からは、期待が重荷になるのではというニュアンスが見える。でもそれは言葉通りに受け取ったらの話。俺はもちろんそうでないし、おそらくは橙子姉も青子姉も、俺がそう思ってなどいないことは十分に承知していることだろう。

 俺は、義姉達に期待されるのが嬉しくて仕方がない。それが例え過分なものであったとしても、とうてい自分の実力では達成できないものであったとしても、俺にとっては至福以外の何物でもない。

 

 

「もう一度言う。叩き潰せ。一切の遠慮呵責なく、容赦もなく、加減もなく、全力を持って塵の一片、存在因子の一欠片も残さずに消し飛ばせ。

 思い知らせてやるのだ、奴に、求めた物が光り輝く財宝の山などではなく、竜の顎の中にずらりと揃った牙だったのだと、な」

 

 

 俺は、オレを克服した。次は俺が、オレの分の落とし前を付ける番だ。

 借りを返さなくてはならない。負債はしっかりと、返してやらなければならない。そうでなければ、オレは俺の中にはいられず、自然と俺は俺でなくなってしまうのだから。

 

 そして何より、誰よりも尊敬する義姉達のため。激励を、期待を、蒼崎の名前を地に堕とさないために。

 

 いつものように足を組み、煙草を挟んだ片方の腕の肘を抱えた傲慢なポーズを取る上の義姉と、すらりとした長い足を伸ばして自信に満ちた表情で腕組みをする下の義姉を真っ直ぐに見つめ返して。

 

 俺はさっきとは違う、決然とした思いを込めて頭を垂れ、『任せて下さい!』と声を張り上げて叫んだのであった。

 

 

 

 

 70th act Fin.

 

 




ちなみにちょっと前から“俺”と“オレ”という二つの一人称を使い分けていますが、おそらくおわかりのコトでしょうけれど“俺”が蒼崎紫遙であり、“オレ”が■■■■です。
とはいっても二重人格などではなく、単純に意識の問題です。このあたりは地の文での葛藤などから読み取っていただきたく思います。


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