ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。   作:スパルヴィエロ大公

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お詫び。

まだまだ合宿回はつづくよ!よかったね!
……マジでどうすんだよー。

なお、希の一人称視点です。あしからず。



第三十三話 スピリチュアルな彼女は、彼との関係性を見出して。

【side:希】

 

前に友達に、「昔の希ってどんな感じだったの?」って聞かれたことがある。

 

正直に答えたら「うそー、ありえなーい」って、笑われてしもた。そら、しゃーないなって思う。

何せ今のウチとは、何から何まで正反対。臆病で、引っ込み思案で、ちょっといじけてて。

でも、そんな一人の弱い女の子が、昔のウチの姿だったんよ。

 

こうなったのも、子供の頃からおとんが転勤転勤また転勤の繰り返しで中々友達ができひんかったから。

せっかくできた友達ともすぐに引っ越すからってバイバイして、その後は音沙汰なし……小学校の頃はこんなんばっかりや。

次第に友達を作る気もなくなって、一人ぼっちになっていた。ホントは、寂しかったけど。

人にちょっかいだしたりからかったりとか、その時はぜーんぜん考えられへんかった。やったらすぐ嫌われてしまうもん。

 

そんなウチが何してたかっていうと、占いだったりオカルトの研究をしたりすること。これは今でも続けとるけどな。

 

そして、もうひとつ。

 

『主は、今日も早帰りか。ちと早くはないかのう』

 

(……ウチ、友達おらんし。寄り道なんてせんもん)

 

"お稲荷様"と、二人でお話しすること。

 

いつ"お稲荷様"がウチの前に現れたかは、正直よく覚えとらん。気づいたら見えるようになってた、そんな感じ。

彼女は首から下は人間の姿で、巫女服を着とった。で、首から上は狐のお面を被ってて素顔は分からない。

フツーの子供だったら怖がっとるかもしれん。でもウチはそう思わなかった。

だって、"お稲荷様"が見えるのはウチだけで、他の人には見えない。それがなんかウチにとっての特別みたいやって、凄いって感じたんや。

おとんやおかんには一人で何ブツブツ喋っとるんって心配されたけど。

 

『主ならすぐ一人や二人、友などできるじゃろ』

 

(今はええよ。どうせ、すぐさよならしてしまうんやし)

 

『……ふん』

 

ま、これがその頃のウチの、そんなちょっと寂しくも不思議な日常。

それは、東京の中学に行くまで続いていた。

 

 

中学に入っても、ウチはやっぱり友達がいなかった。

そんなウチにも絡んでくる人はいるもので。でもその子らは正直、あんまり関わりたい類の人間やなかった。

いや、はっきり言ってみんなから恐れられてた。要するにクラスの女子のボス格の子。

彼女たちに目を付けられたら、残りの中学生活は無事ではいられない。そんなヤバい人が話しかけてきて、ねえクラスの誰それってウザいと思わない?だなんて、いきなり聞いてきた。

もう、そん時の恐怖ゆうたらトラウマもんや。稲川淳二はんの怪談話よりも怖くて。

怯えながらもどうにか適当に応えて、お願いはよ終わってどっか行ってと心の中でお祈りし始めたとき。

 

 

(貴女たち、やめなさいよ。怯えてるじゃない、彼女)

 

 

そこに、学級委員の子が割って入ってきた。

 

金髪に青い目の、綺麗な女の子。その子が厳しい顔をしてボスの女の子を睨んでいた。

ボスの女の子は舌打ちしながら去っていく。委員さんもそれを見届けると、気を付けてねとだけ言い残して去っていく。

ウチは突然のことに、お礼すら言えなかった。

 

それがエリチとウチとの、はじめての出会い。

 

結局その後も、お礼を言いたくても中々話しかけられずにいた。エリチもそん時は今以上にオーラが凄かったもんなぁ。

……というより、ウチがヘタレ過ぎたんや。前に進むのが怖かった。

相変わらず、家に帰って"お稲荷様"とお喋りする日常を続けて。

 

でもある日、"お稲荷様"はこう言った。

 

『ええおなごを見つけたのう、主』

 

(……絢瀬さんの、こと?)

 

『他に誰がおると申すか。彼奴は主の生涯の伴侶となるべきおなごかもしれぬ』

 

(ウチは女の子や。それに、ウチには"お稲荷様"がいてくれはったら、それでええんや)

 

その時、"お稲荷様"の声から明るさが消えた。

 

『―――それで良い訳がなかろう。主はずっとこのまま、内に籠って暮らすつもりかの?』

 

(……やめてよ)

 

『主がこうなってしまったのも、主の父君や母君にも咎があるかもしれぬ。

だが主は、自らその因果を断ち切ろうと、自ら闘ったか?自分は悪くない、他者が悪いと転嫁してはおるまいな』

 

(やめて)

 

『いづれ主の父君も、母君も死する。わらわとて不死の身ではない。

さすれば主は、まことの意味で一人じゃ。その時主は一体―――』

 

(やめてって言っとるやん!!)

 

思わず叫んでテーブルの上のトランプや水晶玉を投げつけた。トランプは床に散らばり、水晶玉は割れて粉々になる。

 

そんなウチを見て、"お稲荷様"はため息をついて、こう言った。

 

『もうよい。今の主には言葉など通じぬ、まるで獣じゃ。

―――荒療治といこう。わらわはもう、主の前に姿を現さぬ』

 

(え……)

 

『一人が怖いか?伴侶が欲しいか?では主から動いてみよ。"天は自ら助くる者を助く"―――今生の別れじゃ』

 

そして瞬く間に、"お稲荷様"は消えてしまった。

何の痕跡も残さないで。

 

(ま……待ってよ!ウチの話、もっと聞いてよ!!

 

ウチを……置いていかへんでよ……)

 

その日の夜は、ずーっと布団の中で泣いてた。ごめんなさいごめんなさいって、何遍も謝ったよ。

でも、"お稲荷様"はウチの前に姿を現してくれはることはなかった。

 

そして、覚悟を決めた。勇気出して、声掛けてみようって。

 

 

ある日の放課後。エリチは一人で教室を掃除してた。

 

(……あの。よかったらウチ、手伝わせてもらってええ?)

 

そこから、二人の交流が始まったんや。

 

最初はまだ、エリチもそっけない態度やった。

けど、得意の占いで励ましたりとかしてるうちにエリチの方からも段々声を掛けてくれるようになったんよ。そん時はもう、すっごい嬉しかったわぁ。

ウチも自然に明るくなれて、関西弁で喋るようになって。一緒の高校に行こうねって頑張って、試験を受けて。

合格発表当日は二人して受かることができて、大泣きしながら喜んで。

そして喜びの絶頂のまま、家に帰ると。

 

ウチの机の上に、狐の面が置いてあった。ちいさな手紙と一緒に。

そこにはこう書かれてた。

 

 

『主、困難を乗り越えて、栄光を掴む』

 

 

―――"お稲荷様"や。

 

そう確信して、涙を拭って、お礼を言った。「ありがとう」って。

 

……まあ実際、音ノ木坂に入ってからも色々大変やったんやなー、これが。

何と言っても廃校問題。生徒会に入ってからは会長になったエリチやみんなで解決しようとしたけど、どうにもならなくて時間だけ無駄に過ぎていった。

大人が決めたことに生徒がなにしたって無駄だって、諦めてしまう子もいた。

エリチもこの時ばかりは意気消沈しかけて、見てるのがとっても辛かった。

 

そんな中、穂乃果ちゃんがスクールアイドルを立ち上げるって言い出したんやよね。

にこっちの失敗の例を見ていたエリチはあまり乗り気じゃなかった。ウチも内心ではそうなるんじゃないかって怖かった。

でも、できる限り応援してあげることにした。

そしたら段々上手くいって、やがてウチもサポートからメンバーとして加入することになった。もちろん、エリチも一緒や。

途中おっきな失敗して危機に陥ったり……ってこともあったけど、乗り切った。学校もどうにか廃校にならずに済んだ。

だから今がある。青春という名の栄光が。

 

 

で、長くなったけど……ここからが本題や。

 

ウチには今、すっごく興味を寄せてる男の子がおる。

それが比企谷くん。

音ノ木坂に転入してきて、穂乃果ちゃんに引っ張られるようにμ'sの活動を手助けすることになって、彼はここにいる。

素直になれんとこだけはちょっと前までのエリチそっくりで、そこが見ていて微笑ましい。なのに時折男らしゅうなって自分からみんなに関わっていこうとしたりもする。

穂乃果ちゃんを探しに行った時がまさにそうやったなぁ。あの一件で穂乃果ちゃんが甘えたがりになってしもたけど……比企谷くん、海未ちゃん、ファイトやで。

あ、それとウチとおんなじ一人暮らしで、そこんところも親近感が湧くんや。家事スキルも結構高いし。

冬合宿の時のカレー、美味かったわぁ。

 

そこでふと、もっと距離を縮めてみたいって思うようになった。

……恋愛的な意味で?うーん、それはウチもよう分からん。でも、なんか放っておけない様な、そんな気がしたんよ。

まるで、昔の一人ぼっちだったころのウチの姿と、比企谷くんを重ねてしまって。

 

―――だから、なんかな。

 

たまたま目が覚めてトイレに行って下に降りたら、比企谷くんが起きていた。

いつものように脅かして、からかって。

 

そして。

 

 

「総武高での生活。それを、聞かせてほしいんや」

 

 

二人きりだからと、つい、聞いてしもた。

 

ウチとエリチは、知っている。比企谷くんがなぜ、転校してきたのかを。

軽く聞かされた程度やけど。

それは本人にとって、どれだけ辛いか、分かってた、はず、なのに。でも、おさえきれなくて。

 

違う。違うんや。

ウチはただ、力になってあげたくて―――

 

「―――それで?どこから話しましょうか」

 

そう言ってきた比企谷くんの顔は、どこか達観したというか、諦めにも似た表情で。

 

 

『主、運命の女神は、慎重なる者を愛す』

 

 

……ウチ、最低や。

 

 

こんな自己嫌悪に陥ってしまったんは、初めてのことだった。

 

 

 

 

 




終わりです。

今回は、二期8話の「私の望み」を一部先取りして改変したうえでお送りしました。
スピリチュアルなネタもブッこんでみましたが……こ、これでも頑張ったんだぜ!?
希の"お稲荷様"のイメージは、まあ、ロリババアっぽい何かで。

次回こそ八幡の過去に決着をつけよう。ごめんなさい。


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