ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。 作:スパルヴィエロ大公
合宿回はもうちょっと続きそうです。引っ張りすぎかな……。
あと、地の文が多く長いです。退屈しないといいけど。
「……ふぅ」
食器の片付けを終え、台所からリビングに戻る。今ここにいるのは俺一人のみ。
古い古いと言う割にどういうわけかここには露天風呂がある。そこで高坂達が入浴している間、俺が夕食の後片付けを引き受けることになった。
……やっぱここ、十分にお金持ちサマの別荘だわ。まあ掃除して使えるようにするのは大変だったがな。
なお副会長から冗談交じりで「比企谷くんも一緒に入らん?」とか言われたが即拒否した。どこのハーレム王だそれ。
うっかりニッコリ首を縦に振った暁には全員から侮蔑の視線で見られる未来が待っている。そんな胃がキリキリする展開にならないために先んじて手を打っておかねば。
「え~?みんなで入ろうよ~」とか高坂にじゃれつかれ、「……何デレデレしてるのよ」と再び西木野に睨まれる羽目になったが。
……結局胃が痛くなったじゃねーか、どうしてくれる。
まあとにかく、今日の仕事は終わった。
寝具に関しては毛布だけは無事だったので、それを体に掛けて寝ることになる。高坂達は2階の寝室、俺はこのリビングになるはずだ。
他に特にやるべきことは……ホットミルクでも用意しておこうか。就寝前の準備といったらそれくらいだろう。
明日からは本格的に曲作りを始めるという。きちんと睡眠をとってしっかり活動できるようにしておくに越したことはない。
……と、なると。
残るは、そうだな、今日の振り返りとかか?
何それ意識高い系(笑)みたいで笑えない。でも実際暇になるとついそうしたくなるんだよな。
朝は、まあいつも通りに飯を食って……そして小町から電話で忘れ物がどうとかオシャレな服を着てるかとか色々確認された。
鏡に映した俺の姿を写真に撮って送れと言われた時点でブツ切りしたが。妹よ、兄妹でもやっていいことと悪いことがあるぞ。
次、道中。
電車で西木野や会長たちと交わした会話はまだしっかりと耳に残っている。
そこで皆が俺に気を遣っているのではないかと、そう改めて考えるようになる。
別にそんなことをしてもらう必要などなかった。故郷に戻るのに後ろめたい気持ちになるのは、俺自身が悪いのだ。
それともうひとつ。今の俺は、一体なんなのか。
自分自身は"本物"に近づいているか?そもそも本物の俺とはどうなんだ?
捻くれ者ではない、別の俺がいて、それが本物だったりするのか?
そればかりは何度頭を捻って考えても、よく分からない。そこまで突き止める必要があるのか、変なナルシシズムに陥りはしないかと戸惑ったりもする。
思わず庭に出て夜空を見上げながら黄昏たくなって、窓に手を掛けた時点で慌てて思い直す。
一応仕切りがあるとはいえ、庭のすぐ隣は露天風呂。あいつらの声が聞こえてきたらヤバいことになる。
……いや俺だって男子高校生だし。色々と邪な妄想をしてしまいそうで怖い。煩悩退散、くわばらくわばら。
あー……話を振り返りに戻そう。駅から歩いて高坂をおんぶすることになって、着く頃にはクタクタで。
布団がカビだらけで騒ぎになり、その後夕食の買い物の帰りには元気になった高坂が砂浜で遊びだして帰りが遅れ、怒る園田と泣く小泉を宥めたり。
夕食を作る際には矢澤と小泉が急遽乱入、どっちが美味いスタミナメニューを作れるかでバトル開始。小泉の豚丼(大盛)と矢澤のロコモコ丼(大盛)で一進一退の攻防が続き……。
で、俺はどっちを選ぶのかと詰め寄られ、食べ比べをさせられる羽目になったり。
どっちも男子の胃袋には十分すぎるほど美味かった。が、それが問題なのだ。イケメンリア充なら「どっちも美味しいよ」が通じるんだろうが、俺の場合そうはいかん。
散々迷った末に涙目の小泉に負け、豚丼の優勝。怒った矢澤に「デザート作りなさい!」と命じらたり。
ロクな材料もない中パンケーキを作って、受けはまあまあよかったがその代わり高坂にお替わりを作ってとおねだりされ。
怒る園田、宥める南、さらに星空らお替わり賛成派と会長らお替わり反対派に割れ場は混乱。こういう時頼りになるであろう副会長は高望みを決めニヤリとほくそ笑んでいた……恨むぞ。
おまけに西木野のにらみつけるこうげきに精神はガリガリ削り取られ……。
結論、きょうもいちにちごくろーさん。あしたもいちにちがんばるぞい。
……なあ、これってリア充なの?リアルが充実してるってことでいいの?
こんなのが毎日続くならやっぱリア充ってクソゲーだわ、うん。そんな世界は壊してしまえ。
そういやわたりんよぉ、千葉編刊行まだかよアニメ化決定したのに遅すぎだろあくしろよ。兄妹ものとか超俺得じゃねえか。
「―――穂乃果、しっかり髪は乾かしましたね?それと下着は新しく買ったのを―――」
「もー、ちゃんとやったってばー!海未ちゃんは穂乃果のことバカにしすぎっ!」
「あ!穂乃果ちゃん、昔小学校の遠足でお気に入りのパンツなくしちゃってはだかで外に探しに行こうとして、先生に叱られてたよね~。
穂乃果ちゃんったら……やんやん、かわいいっ♪」
「穂乃果……」「穂乃果ちゃん……」「……意味分かんない」「何やってんのよ……」「アカンね」「ダメダメにゃー」
「みっみんな!?それは1年生のときの話だからねっ?ことりちゃんもバラさないでよーっ!」
と、廊下からガヤガヤと騒がしい声がする。全員上がったらしい。
……べ、別に変な妄想とか、俺はホントはしたくないんだからねっ?向こうが火照った肌とかいい香りとか纏ってエロトークをかましてくるのが悪い。
うんそうだ俺は悪くねぇ。以上、証明完了。
そして高坂をいじって弄ぶコントはもはや定番のようだ。……あいつには当分保護者が手放せないだろうな、園田乙。
「遅くなって申し訳ありません、比企谷くん。お風呂が空いたので入ってください」
「ん……分かった、使わせてもらうわ」
大人数ゆえに大分待つことにはなったが、ゆったりと風呂に浸かれるなら何の問題があるだろうか。
合宿で 一人優雅に バスタイム……。フッ、決まったな。寒いとか言うなよ。
一日の締めくくりたる神聖な行為、それが入浴だ。誰にも邪魔されず、自由で、なんというか救われてなきゃダメなんだ。
文句あるやつは前へ出ろ、アームロック仕掛けるぞ。
支度をしてリビングから出よう、とした、その時。
「「!」」
ふと高坂と、目が合う。バッチリと。
目と目が合う~瞬間好きだt……いやいや、ないわ。
むしろ妙な寒気を感じたぞ。
「……んっふっふ~、ふふ~ん♪」
すぐに目を逸らして下手な口笛を吹く高坂。おい、誤魔化すな。
「……どうかしたのか?」
「べっつにー、なーんーでーもーなーいーよー?」
……。
怪しすぎるわ、何企んでやがる。覗きか?誰得だよ。
他の皆に目を向ければ目を逸らす者あり、苦笑いを浮かべる者あり、おどおどキョどりだす者あり、頬を赤らめる者あり……。
なんとまあ、分かりやすい反応だろう。俺はゆっくりと風呂に浸かることすら許されないのか。
そんな哀しい現実に打ちのめされ、ただし入浴中は警戒を怠るべからずと決意し、静かにリビングを出る。
途端に中からひそひそと内緒話をする声が聞こえたのは……もう、放置しておこう。
やはり俺の青春ラブコメは以下略。……毎度毎度こんなんでいいの?
「……っ……!……ッ」
意識が遠い彼方に飛びそうになるたび、ハッとしてソファから飛び起きる。
時刻は現在、草木も眠る丑三つ時。そろそろ来ると思っていたが……まだか。
実はハッタリとかか?どっちにしろ迷惑な話だが。
結局入浴中は何のハプニングもなく、リビングに戻ってもお嬢さん方はババ抜きに興じていた。
連戦連敗の園田には流石に同情を禁じ得なかったが。でもあんだけ感情が顔に出てれば負けますわ。
その後はホットミルクを作って飲んで、解散。高坂達は2階に、俺はそのままリビングに留まってソファの上で横になり―――
……いやいやちょっと待て。
明らかに高坂お前、風呂入ってる時に何か仕掛けてくるつもりだったろ。
別に期待してはいない、いないがあの時の態度は一体何だったんだ?ハラハラさせておいて肩透かしとか俺好きじゃないわー、激おこだわー。
……なんか口調戸部に似て軽くなったな俺。ウェーイ系のノリは寒いとか金輪際言えなくなるぞ。
―――ひたっ。
その時、背後から微かに物音がした。
一瞬だけだが、これは―――
「……副会長」
「お?……バレてしもた」
ネグリジェを着た東條副会長がいた。誰が名付けたか、"わしわしのポーズ"を構えながら。
……ははあ、悪戯ってのはこのことか?
つーか俺男なんですけど。揉む部分がないんだけど。
「……高坂、廊下にいるならここに―――」
「別に誰もおらんよ?みんなはもう寝とる」
「は?」
「最初はみんなで、こっそり比企谷くんおどかしたろーってはしゃいでたんやけど。
どうやっておどかそうって考えてはしゃいでるうちに、いつの間にか疲れておねむの時間ってわけや」
子供か。
いや実際そうだけど、ってこれ何度目だよ。大丈夫かこの合宿。
「……で、どうしてアンタはここに」
「ウチだけ寝そびれてしもて。なら、折角やし一人だけでも比企谷くんかわいがったろってな♪」
「はあ……」
もういちいち指摘するのもアホらしいのでやめておく。
そんな俺って弄りがいあるの?この手の人の嗜好はよくわからん。思考?そうとも言うな。
「眠れないなら、なんかあったかいものでも飲みます?」
「ありがと、でも今はええよ。それよりお喋りでもせん?」
―――え゛」
やべ、声出てたわ。
おしゃべり?それ、食べられるもの?
それともおしゃぶりと言い間違えたとかじゃないよな。流石に小町にすら赤んぼ扱いされたことはないんだが。
俺はそんなに下に見られていたのか……ぐすん。
「ん?ウチと話すの嫌?……くすん、悲しいなぁ。
ホントの比企谷くんは、そんな冷たい人やないはずや……もっと優しい人やった……。!そうや、これはきっと怨霊が憑いてしまったんや……!
な、今から恐山行って、御祓い……しに行こ?」
……怖っ!
目のハイライト、消えとるがな。口元の笑みとのギャップが一層恐怖を引き立たせる。
スピリチュアル系ヤンデレとか何それ笑えない。需要は一定数あるかもしれんが。
こういうとき、日本男児ならどうすべきか。太古から受け継がれてきた技、それは―――
DO☆GE☆ZAだ。
素早くソファから飛び降り、御前にひれ伏す。そこからは平身低頭、誠心誠意、ただこれのみを繰り返す他ない。
「マコトニモウシワケアリマセンゼヒオツキアイサセテイタダキマス」
さて効果は、いかほどに。
「よし♪ほな、ベランダいこか」
一転してご機嫌になった副会長に手を引かれるまま、外へ出る。それだけだとまるで魔女に連れ去られる愚者さながらだな……。
そして、夜の世界に入る。
まず空を見上げた。満天の、とはいかないかもしれないが、美しい星の数々が夜空に浮かぶ。
次に正面の、兵の隙間からかすかに見える海。耳にはさざ波の音、体には少し冷たい海風を感じる。
深呼吸。それを一回試してみる。
すると不思議と、自分が無に帰る―――世界と一体化したかのような錯覚を覚えた。
恐怖とも感動とも取れない、この不思議な感覚。
所詮は千葉の片田舎に過ぎない光景。それでもプラネタリウムの疑似世界で味わったものを、遥かに圧倒していた。
と、横に副会長が並ぶ。自然とこの世界に、たった二人残されたような感覚になる。
真面目な話、本当にそうなったらどうなるのかと考えてみる。
普段はスピリチュアルがどうのと不思議ちゃんオーラを出し、悪戯好きな悪女オーラを出しまくっているが、妙なところで機転を利かせたりもする。
現にかつてのファーストライブの時。あれはもともと絢瀬会長ではなく副会長が提案して実現にこぎつけたものなのだ。ある意味立役者、恩人と言ってもいい。
となると、やっぱり副会長が何やかんやと世話を焼く側、俺はひたすら尻に敷かれる側か。
それなんて理想のヒモせいかt……違う、俺は専業主夫志望だってばよ。駄目じゃん。
結局下らない妄想になってしまった。
「いい眺めやね。星もいっぱい、都会とは比べもんにならんわぁ」
「まあ田舎ですしね」
「そう卑下するもんやないよ?田舎には田舎のいいところがちゃんとあるんやから」
逆に言えばそんだけだけどな。俺だっていいところ二つ以上はあるぞ。
あるよね?ねえ。
「で、何話します?ライブの曲のことっすか」
「歌のことは、明日からでいいやん。それよりウチ、もっと聞きたいことがあるんよ。
昔話。君のな」
うぇ。
こっちから話したいことなんて何もないんだが……。黒歴史のオンパレードだぞ。
危うく幼稚園の遠足で置いてけぼりになりかけたことでも持ち出してみるか?痛い、痛すぎる。
自虐ネタが上手くいったためしがないんだが、今回はどうだ?
「……何を聞きたいんですか?」
「……」
沈黙。
そこでもう一度、副会長の横顔を見た。いつもの悪戯っぽい笑みはない。
ゆっくりと、口を開いて言われた言葉。
それは、愛の告白とかそんなロマンチックなものではなく。
「―――君の昔の、そう、総武高での生活。それを、聞かせてほしいんや」
終わり。
また次回は、次回だけはシリアス編になります。最後は上手く綺麗に締めるつもりなので、そこはご安心ください。
……ホントに合宿どうすんだよ!?曲作りとかこれからするのに!
一期の合宿回はたった2話で終わらせたのに!
ホントにあと3話くらいは続きそうです。
ユメノトビラ回とかツバサさんどうすんだよ……一期であんな扱いした以上二期ではしっかり描きたいですが。