ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。 作:スパルヴィエロ大公
・・・一期のおはなしが、だからね?
新学期。
昔からこの言葉を聞くたびに悪寒が止まらない、なぜなら辛い出来事・現実を嘘と綺麗ごとで塗り隠そうとする気が見え見えだからである。
何だよ"新"って、何が新しいんだよ。学期が変わろうが学年が変わろうがぼっちはぼっちのままで友達なんかできやしねえよ。
そしてリア充は相変わらずウェイウェイしていやがる、爆発しろ。
誤魔化したところで現実は何も変わらないんだよクソが。
兎にも角にも、学校が再開するのはとてもつらい。
しかも今は1月、冬真っ盛り。朝が嫌いな俺をどこまで追い込めば気が済むというのだろうか。
もう布団をかまくらがわりに立てこもりたいまである。あるいは保健室とか。
とはいえ、今学校に着くなり山田先生から理事長室に行け、と言われればもう早退も仮病も使えないわけで。
やけにおっかない顔で言われたが・・・俺、何かしたの?まさか退学?
もしそうだとしたらいくら一時間目の授業に出なくても済むとしてもちっとも嬉しくないぞ。
という訳で、やっぱり学校はつらい。大事なことなので二回言いました。
廊下を進む足取りもいつになく重い。そういや中学で色々あった時も毎朝こんな感じだったな・・・あれ、これって走馬燈?
死亡フラグ立てちゃったのん、俺?
「あ・・・」「ん?」
昇降口を通り過ぎたとき、ふと見知った顔に出会う。
矢澤にこ、アイドルマスター(自称)のツンデレツインテール。まあ色んな意味で苦手なヤツだ。
俺よりはずっとできた人間だとは思ってるがな。
「・・・お、おはよう」「・・・うす」
あー、やっちゃったよ。ぼっちの会話パターンその1、気まずいあいさつ。
出だしからしてつまづいてるから末期なのである。歌にもあるだろ、はじめが肝心つんだつんだって。
つーかあのアニメどこが詰んでんだよ、フツーにみんなほのぼのこころぴょんぴょんしてるじゃねえか。何だかんだで好きだから二期も見たけどな!
ともあれゴタゴタ言ってないで目的地へ行くとしよう。いくら理事長が今まで会った大人の中では優しい方でも遅刻は洒落にならん。
「・・・ねえ、どこ行くのよ」
「理事長室。呼び出し」
ぼっちの会話パターンその2、述語を省いた短い応答。
何と素晴らしい、これをエコ会話と名付けよう。まあ相手への印象は最悪だが。
矢澤もぼっちっぽいところはあるし多少は理解してくれるはずだ。
「あ、ちょっと待って!」
「・・・何だよ」
「穂乃果たちのこと。・・・なんか、アンタひとりに任せっきりにして悪かったわ」
「任せっきりって・・・お前らも探してくれてたんだろ?」
「アンタが動いてから、ね。
みんな、余計なことしたら却って酷いことになるんじゃないかって思って、何もできなかった。にこもそう。
・・・希に酷いこと言っちゃったくせにね」
確かに言い争って以来、二人が言葉を交わす場面はあまりなかった気がした。
高坂の件が一大事だったのは確かだがこっちも気がかりではある。
ただそれよりも、こいつが俺のことで余計な気負いをしているのなら。
それは間違いだと言わなければいけない。
「別に俺は大したことはやってねえよ、マネージャーとしての責務を果たさなきゃいけなかったってだけだ」
「?そう言えばアンタ、自分からマネージャーって言ったの何気に初めてよね」
「まぁな」
今ならそう名乗っても、恥ずかしいと思うことはない気がする。
もちろん、まだ半人前だが。果たしてこいつらからは、どう見えているだろう。
「フン!やっとあんたも自覚ができたってことね。
これからも思う存分、にこやみんなのために働くのよ!」
・・・あーはいはい。そういやこいつはこういうやつだった。
誇り高き(笑)アイドル、その名も矢澤にこ。
尊大でツンデレで体育会系のど根性。やっぱり俺、こいつ苦手だわ。
根はいい奴だとは思うけど。
「それより、副会長にはちゃんと詫び入れとけよ?俺が言うのもなんだが・・・」
「わ、分かってるわよ・・・!真に誇り高きアイドルは、謝罪ごときで怖気ついたりしないんだから!」
「ふ~ん、にこっち~聞こえたで~?」
「はわわわわ!?」
うわっ・・・いつの間に居たのかよ。この人のステルス力、高過ぎ・・・?
東條希副会長の襲来である。ゴジラよりゾンビよりも怖いもの、それは女の魔力なり。
「ウチ、にこっちのせいでとーっても傷ついてん・・・。
こりゃもう、いーっぱいわしわししてうーんと慰めてもらうしかあらへんな~?」
「なんでアンタがわしわしする側なのよぉぉぉ!?!
比企谷!マネージャーの仕事よ、希を止めなさーい!」
・・・悪いがやだ。
手当もらってもお断りします。
「おはようございます、比企谷くん。怪我の具合はいかがですか」
「怪我って・・・口を切っただけですよ」
なんかこの人の中では、俺は不良にボコボコにされたというイメージができているらしい。
まあ半分はその通りだが。園田のおかげでどうにかこうにか五体満足な訳で。
改めて幸運に感謝感激雨あられである。
さて、理事長室で会談中なわけだが。
やはりそのことが問題視されてお呼び出しってことか?普通担任や校長からじゃないのか?
俺が男子だからとかいう差別的な理由で理事長御自ら・・・なんてわけじゃないだろうな。
でも、穏やかな雰囲気の理事長を見る限り、そういう話ではなさそうだった。
「じゃあ、早速本題に入りましょうか。
まず最初に―――娘のことで、迷惑を掛けたことを謝らせてほしいの」
「・・・は?」
謝罪?留学云々のことか。
確かにμ'sのゴタゴタの原因の一部ではあるが、最大の、ではない。
わざわざ直接謝罪するほどではないと思うのだが。
「ちょうど皆さんが12月に合宿をしているとき、私のいとこから連絡があったの。
それでいきなり留学が決まったのだけれど、ことりはどうしても決められずに、悩んでしまって・・・。
そのためにみんなに迷惑を掛けてしまった。親としてお詫びさせていただくわ」
「そりゃ急に外国へ、ってなったら皆悩みまくるのが当然だと思いますけどね」
「ええ、そうかもしれない。
ただ、親としてもこの話はあまりに急すぎると思っていたの、最初はね。
それでもあくまで娘の決断を尊重しようと、私はなかなか助言をしなかった。・・・悪しき放任主義ね。
せっかくお友達が学校のためにスクールアイドルを始めたのに、それを潰すようなことをしてしまうなんて」
―――確かにそうだ。
この人が南に適切なアドバイスをしていれば、こうはならなかったかもしれない。
でも、それなら、謝罪をすべき相手は俺ではない。
「それ・・・娘さんに言ってあげるべきじゃないですか?」
「・・・ことりに?」
「ええ。母親として助けられなかったことを謝りたい、って。違いますか?
大体俺だって、あいつらを中々助けてやれなかったんですから、そこは同罪ですよ」
別にぼっちだからとか卑下ではなく、客観的に見ても俺の怠慢を指摘されるのは当然の話だ。
なんら謝られる筋合いはない。
「それに、娘さんだけのせいでμ'sがゴタゴタした訳じゃありませんし。
この件は、俺を含めてメンバー全員に責任があります」
「・・・ふふ。俺に、俺だけにとは言わないのね。
そういえば、穂乃果ちゃんや海未ちゃん、他のメンバーの人たちに電話した時も、みんなそう言っていたわ。
"私を含むみんなの責任です"って」
「そう・・・ですか」
ならば。
μ'sというグループは、何とかなる。これからやり直せる。
皆が責任意識を感じ、反省し、もう一度頑張ろうと思っているならば。
そう信じよう、と思った。
「それなら、もう謝罪はおしまい。
あと一つ、今度は感謝を。今年の入学志願者は定員を超えて、どうにか廃校の件は延期できそうなんです」
「・・・それも、俺に言うべきことじゃないと思いますよ。あいつらに言ってください」
「ええ、先日電話した時に伝えたわ。比企谷くんにも連絡したのだけれど・・・。
一度も出てくれなかったから、きっと襲われたときに怪我をしたのかって、心配だったのよ」
・・・あ。
そういえば、ヤンキー共にぶっ飛ばされたときにはずみでスマホが壊れていたのだ。
画面が大きく割れて操作できなくなるという惨事で、修理に出して代替品を受け取るまで誰とも連絡できないという有様だった。
おかげで親父や母ちゃんにも「なんで連絡してこない」って怒られて散々だったわ。お年玉も小遣いも減らされるし、ぐすん。
「・・・その節は、その、すみません、でも本当に怪我とかじゃないので」
「気にすることはありませんよ。それに、貴方も立派なμ'sの一員なのだから。
現に、穂乃果ちゃんのために体を張った。人間として、称賛されるべきことよ。
だから、どうか、お礼を受け取っていただけないかしら」
・・・はあ。
折れそうには、ないな。
「・・・分かりました。お気持ちは、受け取っておきます」
「ふふ、どうもありがとう。
あとはみんなで、頑張ってください。学校のトップとして、できる限りの協力はさせていただくわ」
ああ、是非そうして頂きたい。
俺なんかより理事長や教師の協力の方が、よっぽど重要になってくるのだから。
それでこそのスクールアイドルだ。
「それじゃ、これで失礼します」
「あ、それと。数学の期末試験は頑張るようにね」
「・・・アッハイ」
・・・こんちくしょう。
やっぱり、知ってたのかあんたも。どうやら赤点だったのは俺だけらしいからな・・・。
放課後。
気だるい授業を終え、一日が終わる。
と、思った?
残念!本番はこれからだ!
俺は屋上に向かっているが、もちろん高坂に呼び出されてのこと。昨日練習を休みにした分、今日からまたガンガンやっていくらしい。
勘弁してくれ・・・休みボケの人間にまた筋トレとかやらせる気か?
よりによって今日は晴れ、まだ気温もそこそこ暖かいのが憎らしい。さっさと寒くなってしまえ。
さて、屋上の扉を開k「ひっきがっやくぅーーーん!!」
・・・おい。
また視界がピンク色の何かで消えたぞ・・・。しかも、何か柔らかい感触が。
良くないぞ、心臓にとても良くない。
「ほっ穂乃果!?比企谷くんになんてことをしてるんですか!」ホントだよ。
「だって、早く比企谷くんに会いたかったんだもーん!」おい、勘違いするからやめろ。
「・・・それ、遠回しに告白してる?」あの、西木野さん白い目で見ないで。俺被害者なんで。
こんな風に心の中で突っ込んでいると、見かねた絢瀬会長が困り笑いでこちらに近づいてくる。
いや、笑うとこじゃないだろそこ。
「ほら、とにかく。"穂乃果"もいったん離れなさい、比企谷くんも困ってるわよ?」
「・・・"穂乃果"?」
「あ、ごめんなさいね。昨日みんなで話し合って、お互い下の名前で呼び捨てにすることにしたのよ。
先輩後輩って、堅苦しいやり方はやめに、って」
ナチュラルに俺がハブかれている件・・・いや、まあ、スマホ壊れてたんだし色々仕方ないけどね?
つうか、呼び捨てということは。
「だから、今度から比企谷先輩もあだ名をつけて呼ぶことにするにゃー!
有力候補は"ヒッキー"がいいっt「だが断る」・・・にゃ、速攻拒否かにゃ!?」
色々トラウマがあるんだよ・・・。
悪気がないのは分かる、分かるけどね?あ、なんか涙出てきたわ。
「・・・ま、それ以外だったら何でもいいっすけど。
で?それより、これからの活動はどうすんだ?」
「あっ!そ、それなんですけど」
俺の問いに、小泉がおずおずと答えてくれる。
「実は、以前のアキバでのライブで失敗してからも、応援してくれたファンの皆さんにお礼をしようってことで・・・。
復活記念に、もう一度PVをつくることに決めたんです」
「PV?新曲か?」
「違うわよ、"START:DASH!!"。これを9人全員で歌ったのを撮るのよ」
・・・ああ。
矢澤の意見に、思わず納得する。
なるほど、再スタートの出だしの曲としてはこれより最適なものはないかもしれない。
μ'sのデビュー曲。原点回帰という印象を持ってもらうにはうってつけだ。
「そうか、いいんじゃないのか」
「やったー!これ、かよちんがみんなに提案したんだよ?」
「り、凛ちゃん!は、恥ずかしいよぅ・・・」
「いやそこは誇るべきことだろ」
「え、えぇぇ//」
「ん~?比企谷くんもいつの間にかたらしになったようやね~。
これは、わしわしの刑が必要やね☆」
いやいやあり得ないって。
・・・つうか本当にやるなあああああ!
まあ、とにかく、今度こそ順調に進みそうだ。
μ's復活の歩みに向けて。
「それじゃ、みんな揃ったところで〜・・・改めて、ね、穂乃果ちゃん♪」
「うん!・・・よーしっ!それじゃ早速、PV撮影に向けて練習始めるよーっ!」
「「「「「「「「「おーーーーっ!!!」」」」」」」」」
「・・・ちょっと!比企谷アンタまた口パクで誤魔化さなかった!?」
「いやちゃんと今回はやったから。サボってないから」
―――
ふと俺は、ローマの哲人が遺した言葉を思い返す。
自然と希望が沸き、笑みが浮かんだ。
終わりです。
ようやく、一期終了しました!読者の皆さま、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
色々原作に好き勝手に手を加えてやってきて、時にはお叱りの言葉をいただきながらも続けてきましたが、それがいつの間にか計31話です。
飽きっぽい僕としてはこんなに続くとは思いもよりませんでした。
ひとえに皆さまの応援のおかげです。
本編の更新は、これが年内最後になりますが、外伝としてにこかのんたんのお話を企画しているので、それは一本投下したいと思います。その時はどうかよろしく。
では、皆さま良いお年をお迎えください。
そしてこれからもこのssをよろしくお願いします。