ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。   作:スパルヴィエロ大公

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今回はちょっと(投下が)早め。
何が起こった!?

この話の八幡sideから十九話の冒頭に戻ります。あの時点では解散のゴタゴタが起こってしまっていて、ようやく八幡が行動を起こそうとしている、ということになってます。

あと、二十五話を読んでいない方は、そちらからお読みくださいませ。


第二十六話 運命は、変えられるのか。

【side:ことり】

 

年が明けた。

 

「・・・・」

 

 

明けて、しまった。

 

 

ことりにとって、今この時ほどめでたいはずの新年が辛く、憎く思えたときはなかっただろう。

母のいとこに急かされるまま、一週間後に自分は日本を発つ。

穂乃果や海未、μ'sの皆との関係を修復できないまま。

 

何なら今から穂乃果の家に行って、練習中の皆の所に行って、謝ってくればいいだけの話なのだ。

でも、できない。

クリスマスイブの日、問い詰められた果てに真相を打ち明け、そして責められた光景が蘇る。今も恐怖で足がすくんでしまう。

自分が悪いのだと分かっていても、怖いものは怖い。そんなもの避けてしまいたい。

このままフランスに行って、何もかも忘れてしまった方が楽なのかもしれない。

 

ふと、口からごめんね、と小さく言葉が漏れる。

誰にも届きはしない心の呟き。でも、これが今の臆病な自分にできる精いっぱいの勇気。

それで、許してほしい。

 

「―――ことり。入るわよ?」

 

その時、部屋に母が入ってくる。

支度の確認だろうか。

 

「支度は、大分できたみたいね」

 

「うん」

 

「―――穂乃果ちゃんや海未ちゃん、μ'sの人たちには、ちゃんと留学のことを伝えた?

μ'sを抜けること、謝ってきた?」

 

「・・・うん」

 

嘘だ。

自分から打ち明けたんじゃない。皆から問い詰められたから白状した。

謝罪に関しては、海未にメールで一言伝えただけ。そんなものが謝罪と呼べる代物ではないのは、十分自覚していた。

 

「そう。・・・それなら、なぜ堂々とした態度を取れないの」

 

「・・・!」

 

―――見抜かれていた。

 

「本当に自分から打ち明けて、自分の言葉で謝ることができたなら。

未だに未練がってぐずぐずとした気持ちでいるわけがない。違う?」

 

「・・・・」

 

「お母さんは、前も言ったはずよ。貴方が自分で考えて出した答えには、絶対に反対しないと。

だから自分でよく考えて決めなさいと。

でも貴方には、それができなかったみたいね」

 

「・・・ごめん、なさい・・・!」

 

もう耐えきれなかった。

あの時のように泣きながら、泣きじゃくりながら謝る。

母に対してなのか、穂乃果たちに対してなのか、もう分からなかった。

 

母は穏やかにかつ厳しく、諭すように言った。

 

「貴方が謝らなければいけないのは、お母さんじゃない。お友達の皆に対して、でしょう?」

 

しゃっくり上げながら頷く。

分かっているのに、今までできなかった。自分は弱いから、臆病だったから。

 

「なら、やるべきことは分かるわね。―――今からもう一度、お友達の所に行ってきなさい」

 

それだけ言うと、母は静かに部屋を出た。

 

 

「やっぱり、あの子にはまだ早かったみたいね。一人で留学するのは」

 

 

廊下に、そっと呟きが漏れた。

 

 

【side:八幡】

 

毎年毎年、ハッピーニューイヤーと叫び狂喜する馬鹿どもがいる。

俺は決まってそいつらを見下してきた。死ななきゃ新年は誰にもやってくる。

それに一喜一憂するとか、馬鹿なの?死ぬの?

 

ただ、今年はそれを馬鹿にするのも、自分の鬱屈した精神が最大の原因だ。

つまりはジェラシー。

浅ましい行為だが、所詮は俺も凡人でしかないということが証明されたわけである。

思い上がり、ダメ、絶対。

 

さて、俺は今高坂の家に向かっている。当然だが菓子を買いに行くわけではない。

 

今日再び、高坂を説得しに行く。そしてあいつを、μ'sに復帰させる。

 

さっきも年明け二回目のμ'sの会合があった。が、二人は来なかった。

そして誰もそのことを指摘しようとはしない。言い争いの種にしかならないと分かっていたからだろう。

以前にも矢澤と副会長が揉めているしな。だからお茶を濁し、臭いものには蓋をしておく。

そうなるのもやむを得ないことだ。

 

ならば、俺が動く。

失敗しても傷ついても誰も損をしない、この俺が。

 

―――分かってるだろうから言ってあげるけど、貴方、マネージャー失格ね。

 

ああ、全くその通りだよ、ツバサさんよ。

やっと決心がついた。

さっきも高坂を連れ戻すと宣言した時、園田や会長たちは唖然としていた。

だが、やる。μ'sを元に戻すために。

それで俺と高坂達が対立するというのであれば、俺がそこから身を引けばいいだけの話だ。

そうしてあいつらが、もう一度"本物"を掴めるように。

 

気づけば、穂むらの前に来ていた。

今度ばかりは、向こうからは会わせてもらえないだろうかもしれない。ならば多少強引にでも入る。

・・・通報されないのを祈るのみだが。やっぱ無理かね?

いや諦めんなお前!もっと熱くなれよ!・・・熱あるのか俺。

 

「いらっしゃ・・・あれ?比企谷さん!

明けましておめでとうございます」

 

「・・・ども」

 

店の扉を開けると、妹の高坂雪穂がいた。

また店番か、ご苦労なこって。この辺は小町にも見習わせたいものだ。

あいつがグータラすると俺がひどい目に遭うからな。

 

さて、さっさと話を切り出すか。

 

「いきなり悪いんだが、高坂、今家にいます?ここずっとμ'sに顔出してないんで、あいつ」

 

「・・・え?」

 

え?

 

あっそうか、俺はおかしなことを聞く不審者だと思われたのか。

数分後、そこにはパトカーで連行される比企谷八幡の姿が!嗚呼・・・短い人生だったぜ・・・。

 

「・・・お姉ちゃんなら、"今日も"練習に行ってくるって、家を出ましたけど?」

 

「・・・は?」

 

頭の中で、非常事態を告げるサイレンが鳴った。

 

 

【side:穂乃果】

 

一軒目のゲームセンターを出る。

目当てのグッズは手に入らなかった。またお年玉を無駄遣いしちゃった。

後でお母さんや雪穂に怒られるかな。

 

「次は、どこ行こうかな・・・」

 

今日もまた、ゲームセンターを渡り歩いて暇つぶし。

それで一日が終わるのかな。そう思うと、虚しさを覚えずにはいられない。

 

でも、今さらμ'sに顔を出すのも、怖くなってしまった。

 

あのクリスマスイブのライブで倒れ、お見舞いに来てもらったのが最後。

それきり年内には一度も顔を合わせず、新年を迎えてしまった。

スマホには海未ちゃんからのメールや電話などがたくさん来てるけど、返事を出せなくてずっと放置したまま。

学校が始まっても、まともに会えるか分からない。いや、もう会いたくない。怖い。

 

このまま自分が戻らなかったら、μ'sはどうなるんだろう。

 

解散・・・そんなはずないか。いずれ自分のことなんて忘れて、8人で・・・。

8人?

 

そうだ、ことりちゃんだ。

もうフランスに行ってしまうのかな。

 

ことりちゃんだって苦しんでいるのに。本当なら自分が、何か助けてあげなければいけないのに。

今さら顔を合わせる勇気なんて出なかった。

 

自分は、穂乃果は、本当にバカだ。

 

こうして町をふらついていると、中学生の時のことを思い出す。

あの時もバカな事ばっかりやってて、クラスのみんなから笑われてた。

でも中には、気を引きたくてわざとやってるんだろうって、穂乃果のことを悪く言う人もいた。

それに耐えきれなくて、一度学校をさぼってしまったことがあったっけ。

 

あの時は、海未ちゃんやことりちゃん、お母さんや雪穂が探してくれた。

穂乃果を、助けてくれた。

だからその後は、中学校を無事終えることができたんだ。

 

でも、今度はもう、そんなことはない。

誰もこんなバカな女の子のことなんて助けてくれるわけない。自業自得だ。

 

もう、穂乃果にアイドルを目指す資格なんて・・・。

 

「―――ねえ!そこの君、ちょっといい~?」

 

ふと、後ろから声がする。振り向くとヤンキー風の男の人がいた。

三人いる。全員穂乃果のことを見て、ニヤニヤした表情を浮かべていた。

 

ナンパだ。

 

いつの間にか人通りのない裏路地に来てしまっていたんだ。

そしたらガラの悪い人に目を付けられるに決まってる。おまけにこの先は行き止まり。

 

ど、どうしよう。

 

「ちょっとさ、僕らと遊んでこうよ。君、ヒマでしょ?」

 

「わ、私っ、今から、用事あるから・・・」

 

自分のことを穂乃果と言わないだけの理性はまだあった。

でも、内心すっごく怖い。どうしよう・・・?

 

「―――あ?嘘でしょ?」

 

急に男の人の声が、ドスを聞かせたそれに変わった。

 

「!?う、嘘じゃ・・・!」

 

「いやだってさ、君制服着てんじゃん?

学生でしょ?冬休みでしょ?現にここ数日、町ブラブラしてるとこ俺ら見ちゃってるんだよね~」

 

・・・しまった。

 

「つー訳で、嘘とか通用しないから。

あ、それと今持ってるスマホ、渡してもらえる?連絡されたら困るし」

 

「あ、あ・・・」

 

どうしよう、どうしよう、どうしよう。

誰にも助けてもらえそうにない。このままどこかに連れ込まれて乱暴されるんだろうか。

 

怖くて動けずにいると、男の一人が穂乃果の腕をガシッと掴んできた。

ああ、もうだめだ。

 

みんな、ごめんね―――

 

 

「―――おい」

 

 

その時。

ふと、聞き覚えのある声がした。男たちも後ろへ振り向く。

 

 

「あんたら、うちのアイドルに何してんだ?」

 

 

そこには、比企谷くんが立っていた。

 

 

 

 




終わり!
次回でようやくシリアス編終結に向けて、けりがつけられそうです。

なお、西園弖虎様には本話執筆に関して、参考となるアドバイスをいただきました。
この場を借りてお礼を申し上げます。

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