ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。 作:スパルヴィエロ大公
9月中に一期の内容を終わらせる・・・そう思っていた時期が僕にもありました。
という訳で!
どうにかこうにか暇もでき、(一時的に)スランプ脱出!皆さまお待たせいたしました。
・・・まってるひと、いるのかなぁ?あはは。
走馬灯。
それはいつも、決まって死にかけた時に見えるものとされる。
由比ヶ浜の犬を助けるため、車に飛び込んで轢かれたあの時もそうだった。
中学時代にフラれた時のこと、黒板に指名手配犯風に改造された俺の写真が貼り付けてあったあの日のこと。それが意識を失っている間、ずーっと脳裏に蘇ってきたもんだ。
・・・もうホント碌でもねえな、俺の人生。死ぬ前に回顧録でも出したら売れるかもな。
いや、そんな暇はない。なにせ今、どういうことか黒歴史が脳裏に蘇っている。現在進行形で。
まさに八幡、死亡フラグまっしぐらだね!数秒後に車に轢かれちゃう可能性が微レ存・・・・?
「・・・だからんな場合じゃねえっての」
一人でボケて、一人でツッコミを入れる。まさにぼっち最強伝説。
まあ、今まで病気で一日中寝ていた身で全力疾走しているのだ。そういう下らないことでもしなければ、逆に正気を保てない。
さもないと瞳孔の開いたスマイルを周囲に振り撒き、即座に通報されるまである。
さておき、現在時刻は午前11時43分。ライブ開始は午前11時。
言うまでもなく大遅刻だが、病気のことは伝えているので情状酌量の余地は・・・あるだろ、多分。
それに高坂達の順番は、午前中に行われる第一回戦では確か最後の方となっていた。まだ、急げばギリギリ間に合うはずだ。
あいつらのライブが始まる前に。
あの雨の日以来、高坂は落ち着いただろうか。それとも、未だ自分を見失ったままなのだろうか。
ぼっち風情が他人を心配するとはと笑われそうだが、あいつがコケたらμ'sがコケる。そうなれば音ノ木坂学院そのものが危うくなる。
大学受験を前にして通っている高校が潰れました、そんな洒落にならない悪夢も現実になるかもしれない。
高坂のように熱烈な愛校心は俺にはないが、それでもその様な事態になることは絶対に避けたい。そして、俺にとっての"本物"をもう一度信じてみたい。
だからこそ、今まであいつらに微力ながらも協力してきたのだ。
それが、向こうから自壊するようなことになったら。
自分の努力の結晶が無残に壊れていく様を、冷静に見つめられる人間などいるだろうか。俺だって直視できない。
高坂達だってそれは同じだろう。
ならばやるべきは一つ。高坂達に会うこと。
もし高坂がまだ冷静さを欠いているのなら、出場を止めること。
それができれば、最悪の事態は何とか回避できるはずだ。
急げ、急げ―――
ブーーーッ!
・・・?なんだ、俺生きてるじゃん。
一瞬、車のブレーキかと思った。にしては音が小さすぎるし、車も怒り狂ったDQNなドライバーも近くにはいない。
思わずズボンのポケットを探ると、スマホが振動していた。
相手は材木座・・・おい、何でこんな時に、切るぞ・・・。
『お主はどこにおる?
我はアキバのライブだ 高坂氏が倒れた はよう!』
・・・は?
電話ではなくチャットの新着だと知って全文を読む。瞬間、頭が凍り付く。
材木座がライブ会場に入ることは置いておく。
まさかあいつが、出場者の控室などに行けるはずはない。あいつでなくとも男が勝手に入れば取り押さえられるか通報されるだろう。
ということは、もうすでにあいつらは舞台に・・・そして高坂が・・・
「・・・クソっ!」
今度こそ周囲のことなど気にせず、会場へと走る。
歩行者天国に作られた仮設ステージ。
本来なら、そこではキラ☆キラなアイドルが聴衆に笑顔を振りまきながら演技を披露しているはずだった。
だが今、舞台にいるのはアイドルではない。スタッフとおぼしき男たちが、拡声器でライブの一時中断を叫んでいる。
そして観客席はドルオタ達の怒号の嵐。普段はこいつらだってこんなデカい声を出してやいのやいのと騒がないだろうに。
それでも群れを成すとこの有様だ。赤信号みんなで渡ろう怖くない、の精神は間違いなく遺伝子レベルで日本人に刻み付けられているんだろう。
で、当然そんな中にもノリについていけない奴というのは居る訳で。
目当ての人物を見つけるのはそう大変でもなかった。・・・やっぱりお前、ぼっちだろ。人のこと言えないけど。
「材木座!」
「む・・・八幡!貴様今まで何を―――」
「風邪で寝込んでた、悪い。・・・高坂が倒れたってのは、いつだ」
普段ならこいつ相手に悪いなんて気遣うことはなかったろうが、今は気にしていられなかった。
「・・・およそ8分前ぞ。理由は分からぬが、前に出場するグループが唐突に辞退したのだ。
それで高坂氏らの出番が早まった。そして出番が来て、演奏が始まって1分ほどして・・・」
・・・ああ、ダメだこりゃ。
あの雨の日の特訓が原因かは知らない。とにかく高坂は、心だけでなく体にも不調を抱えていた。
そして今日になってその無理が祟り・・・もう犬猫でも容易にその後の展開は想像できる。
バカ正直ゆえに体調不良も何とか誤魔化していたのだろう。その労力を、別なところで発揮して欲しかったのだが。
ステージで倒れた。それも、演奏途中に。
最悪のシナリオドンピシャだ。演奏が終わってからとかなら、まだやりきったからと言い訳も効く。
やりきる前にリタイアしてしまってはそれができない。会場のこの混乱を引き起こす原因を作ってしまったことといい、μ'sのイメージ悪化は避けられないだろう。
「・・・八幡。我も、貴様に謝っておかねばならぬことがある」
「何がだ」
「ライブが始まる前、高坂氏らと会って声を掛けられたのだが・・・その時から、高坂氏は様子が変だった。
今にも崩れ落ちそうで、何とかそれを誤魔化そうと必死になっておった。
周りのおなご達も皆、それに気付いていたが、どうにも声を掛けられんように見えた・・・あの時、もし我が何か一つでも引き止めることができていたら」
「・・・お前が気に病むことじゃない。俺も、押しが足りなかった」
メールや電話、相手が出なければ出るまでしつこく送ることもできた。
だが俺は、生憎ぼっちでコミュ障なので~と、無意識のうちに自分に言い訳をしていた・・・のかもしれない。
ストーカー紛いだの勘違い熱血だの、そんなのはクソ喰らえと。
やらずに後悔するよりやって後悔しろとは、よく言ったものだ。
「後始末をしてくる。お前はどうすんだ?」
「貴様が戻ってくるまで、我はここにいよう」
「・・・そうか。雨降るらしいから気を付けろよ」
「承知の上ぞ、貴様も気を付けるがよい」
控室は、確かステージの裏だ。
後始末というか事後のケア程度なんだが。それすらできるのか、どうにも疑わしいように思えた。
「・・・それじゃ、俺はこれで失礼します」
「分かったわ・・・お大事にね」
「その、家まで送りましょうか?」
「いや心配ない。そもそもそんなに体調が悪かったらここまで来れないしな」
「気を付けなさいよ?アンタにうつされたらにこが困るんだから・・・」
お気遣いどうも。というかやっぱりツンデレじゃねーか。
病の身だとやけに人の情が温かく感じられるものらしい。
と思ったのもつかの間。
控室である仮設テントを出れば、他のスクールアイドルグループの連中―――つまりぼっちの敵たるJKの冷たい視線に晒された。
・・・いやおたくら、俺一応許可取ってここにいるんだからね?おたくらに用はないからね?何もしないからね?だからジロジロ見るの止めてください死んでしまいます。
全部この目がいけないんです刑事さぁん!って、まだ俺捕まってないから。
「・・・やっぱり比企谷さん、まだ風邪が治ってないんじゃない?何ならウチの病院まで送るけど?」
「・・・いや、これは体調不良じゃなくてだな・・・とにかく俺のことは大丈夫だ、急に訪ねて悪かった」
「別にウチらはそんなこと気にせん。それより君、ちゃんと体直さなあかんよ?」
「分かってます、それじゃ」
僅かばかりのμ'sメンバーらの温かい見送りと、大多数の冷たく余所者の男を歓迎しない視線に追われ、その場を去る。
・・・はぁ。
結果は予想通りというか、期待外れというか。やはり俺からはこれといって何もできずに終わった。
取り敢えず高坂は高熱こそあったものの重症ではないこと。医務テントでの処置が済み次第家へ送ること。
そしてμ'sはここでライブの出場を取りやめること。そのことを全員から確認した。
一応今回のライブはトーナメント形式なので、当然敗者復活戦のようのものもあるにはある。
だがリーダーたる高坂が欠け、皆が意気消沈している中出場を続けても碌な結果が出せないのは目に見えている。そこで残ったメンバーの満場一致で辞退が決定した訳だ。
会長達からは俺に相談せずに決めたことを何度も謝罪されたが、そんなことは端から気にしていない。そもそも男の俺に相談が来ることなど考えてもいない。
それに繰り返すようだが俺はあくまで補佐役なのだ、あいつらと一緒に踊って歌う訳ではない。仲間同士で話し合って決めたことに水を差すのは野暮と言うものだろう。
それよりも、今はこれからどうするかを考えなければいけない。
今の状態は非常にマズい。が、こうまで悪くなってはこれ以上悪くなりようもないだろう。
つまり、高坂達の関係が崩れるきっかけを作った―――言い方は少々アレだが―――南に話を聞くきっかけができるわけだ。
もうこっちも逃げて誤魔化すことはできない。それは向こうも同じこと。
明日、メイド喫茶でのバイトが終わり次第待ち合わせすることになっている。ラブコメ要素が皆無なのが悲しいが、俺の人生にそんなものはなかったぜ!・・・と考えれば何も問題はない。
ないよね?うん。
空を見上げる。相変わらずのどんよりとした曇り空。今の気分にはおあつらえ向きだ。
ライブはというと、じき再開するようで観客の騒ぎもさっきよりかは収まってきている。
それだけ人が減ってしまったということでもあるが・・・またしても、柄にもなく申し訳ないと感じる。
対処のしようがないので、全くの無意味なのだが。
取り敢えず、材木座を拾って今日は引き上げるとするか。
「―――ちょっと待って」
・・・なんだよ。
思わず声に出そうになるがそこは堪える。
今の状況、不機嫌そうな声。となると、ほぼ間違いなく今のは俺を呼んだのだ。
だから、俺はもう用は済んだからすぐ出ていくっつうの。出入り口に向かって歩いてくのが分からんのか。
しかし無視すれば、確実にこの場の女どもを敵に回すことになる。生きて無事には出られないだろう。
やむを得ず背後を向く。表情はいつも通り、見る者に「何アイツ?暗っ」と言われそうな無感情さを保ったままで。
そこに居たのは、綺羅ツバサ。人気スクールアイドルグループ、A-RISEのリーダー。
「・・・キミが、μ'sのマネージャーさんね。ちょっと用事があるの、顔を貸してもらえる?」
―――やはり、ただではここを出してもらえないようだ。
投下完了。
再び、お待たせして申し訳なかったことと、そして言い訳。
前話を投稿した際、残念ながらあまりいい評価はいただけませんでした。
過剰にシリアス分を入れてしまったこと、そして穂乃果たちμ'sメンバーを暗いキャラにしてしまったこと。それをズバリ指摘されてしまいました。
主人公が八幡であるという都合上、そしてμ's崩壊の危機を迎えるこの辺の話はシリアスなくしては通れないのですが、やはり僕自身の未熟さゆえにやり過ぎてしまった感はあると思います。
これからも試行錯誤しながら、ゆっくりとではありますが書き続けていきたいと思うので、よろしくお願いします。
次回は、八幡とA-RISE遭遇編。そしてことりの秘密が遂に明かされることに・・・
ご期待(?)ください。