ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。   作:スパルヴィエロ大公

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インターン始まる前に一本投下ぁ!
・・・これ以降はタグ通り不定期になる恐れあり、申し訳ない。
何とか9月中には一期分のおはなしを終わらせたいものです。


第十七話 青春とは絆によって成り立つものであり、絆は合宿で育まれる。すなわち青春=合宿なのである。

クリスマス。それは本来、キリストの生誕を祝う祭りであった。

サンタクロース。それは本来、貧しい者に施しをした聖者であった。

 

それがいつからか、クリスマスはリア充たちが飲めや歌えやのバカ騒ぎをしては、世間様に迷惑を掛ける日に成り下がった。

サンタも本来の救貧という目的からは遠ざかり、すぐ壊れ、すぐ飽きる癖にやたらと高いおもちゃを親が子に買って与えるだけのものになってしまった。

キリストも聖二コラオスも、こんな堕落しきった現代人を見てさぞや嘆いているに違いない。

 

結論を言おう。

やはりリア充どもは害悪でしかない。即刻彼らを教化し、更生させなければいけないだろう。

 

 

「・・・ほほう。比企谷くん、こんなの中学の冬休みの日記に書いてたんやな」

 

「なななにをいっているのかわかりませんが」

 

「せ、先輩・・・」

 

「・・・言ってることがヒトラーみたいだにゃ」

 

「随分と寂しい中学時代を過ごしていたのね・・・」

 

おい副会長、日記は読み上げるもんじゃないぞ。心の中で、心の声で静かに読むべきものだろう。

会長、そんな目で見ないでくれ。あんたの憐れみの目線はマジ怖いんだよ、もうシベリア並に凍り付きそうなまである。

小泉も母ちゃんみたく涙目でこっち見んな、俺が泣きたいんだが。あと星空、流石に生存権は認めてるぞ俺。あのちょび髭と違って。

 

大体・・・小町貴様ぁぁぁぁ!あの裏切り者、去年は俺からもクリスマスプレゼントをくれてやったというにつけ上がりおって。

前日になって急に来やがって"忘れ物だよ♪"なんて言って・・・それがなんで捨てたはずの日記帳を持たせてるんだよ。

もう今度からゴミ焼却場に辿り着くまで見届けねばならないのか。何それ、一緒に焼かれて死ねって言うの?

 

「てか人のものを勝手に漁らないでくださいよ・・・」

 

「あんな綺麗な紙袋に入れといたらお土産かなんかだって思うでしょーが!見られたくないならちゃんとリュックに入れときなさいよ」

 

ぐっ・・・そ、それが理由になると思うてか矢澤よ。

掏摸が出来心でやっちゃいましたなんて言い訳するのと同じぐらいしょーもない理由だぞ。それ以前に俺だってさっきまでこれの存在を知らなかったんだ・・・。

 

「ほ、穂乃果!まさかと思いますが・・・」

 

「海未ちゃんのポエムをしたためたノート・・・?うーん、穂乃果は知らないなぁー?

ねー、ことりちゃん?」

 

「うん♪みんなで忘れ物検査したときにトランクにこっそり入れたことなんて、ことりは知らないよ?」

 

「・・・穂乃果ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「これ・・・まともな合宿になるのかしら・・・」

 

まったくもって、西木野の言う通り。

 

・・・なんで俺たちはこんな山奥の別荘に来てまで、黒歴史披露大会をやっているのか。

せめて定番の怪談話にしようぜ?どうせつまらなくてすぐ眠くなるし。

 

 

1週間前 12月初頭

 

季節は本格的に冬になったが、町は次第に来たるクリスマス、年末年始に向けて熱気に満ちている。

それ自体は毎年恒例の行事というか世間の風潮という感じで、仕方ないとは思う。だが、傍から見ていると実に馬鹿馬鹿しくも見える。

クリスマスも正月も終わって、ただひたすらに寒さに耐え、春を待つ3か月間。いくら騒いで盛り上がって誤魔化しても、あの空虚で退屈な日々はすぐにやってくる、それは避けられない。

何を言いたいかというと、はしゃぐのも適度にしないとあっという間にエネルギーを使い果たし、冬を乗り切れないぞということなのだ。

中学時代にもそんな奴がいた。バカ騒ぎのあまり受験という人生初の難所を超える前に力尽きたアホが。

結局志望校には落ち、かつてのリア充仲間からも蔑まれる羽目になった。結論、調子に乗る馬鹿はチャンスも仲間も失います。

 

そんな訳で、俺も2年目の高校生の冬はどうか静かに過ごしたいもの。

だが・・・残念ながらそれは叶わない願いのようだ。覚悟はしていたがな。

 

「―――という訳で!無事、μ'sのアキバクリスマスライブ参加が決定したわ!」

 

「「「「「・・・・おーーーっ!」」」」」

 

「って・・・比企谷!アンタ今一人だけ黙ってたでしょ!素直に喜びなさいよ!」

 

「・・・いや口動かしてただろ俺」

 

「ふふ~ん、口パク?感心せんよ、こんな大事な場でそんな態度は?」

 

「す・・・しゅみません」

 

相変わらずオーラが黒いぞ、副会長。おかげで言い直したつもりが噛んだじゃねーか。

昔ヒキカミ八幡なんてあだ名を付けられていたのを思い出す。俺いつから神様になったんだよ、褒めてんのか?

 

「しかし15組だろ?倍率的にはどんな感じなんだ」

 

「サイトによると、都内のスクールアイドルグループ53組が応募したそうです。

新人と既に人気のあるグループ、それぞれにバランスよく振り分けられている様ですね」

 

「それだけじゃないわ・・・何と、あのA-RISEも参加するそうよ。

UTX学園の、全国トップスクールアイドルがね!」

 

「い、いきなり真打ち登場かにゃ?」

 

「うぅ、私緊張します・・・」

 

このライブは最優秀グループを表彰するシステムになっている。要はトーナメント形式だ。

矢澤曰く、これで優勝できれば全国規模で行われるスクールアイドル大会、ラブライブに向けての布石となるとのこと。

 

だが言うまでもなく、まだまだデビューして日が浅いこちらと既に人気を確立している向こうとでは天と地ほどの差がある。

上位5グループに入ればいい方かもしれない。というより逆に上手くいって優勝して・・・という方が怖い。

それは凶兆。油断を生み、後に必ず反動が来るだろう。その時の挫折感はより酷いことになる。

かといって、あまりここで無残な結果を晒していいということでもない。

五分勝ちに持ち込むのが理想だ。反省点もきちんと洗いだせるし、戦意高揚にもつながる。

 

「とにかく・・・園田さんが昨日曲を作ってくれたんだし、西木野さんに音も付けてもらったし。

あとはひたすらみんなで練習しましょう。クリスマスイブの本番まで、そんなに時間はないわ」

 

「そうね、2年生の人たちも修学旅行が終わったばかりで疲れてると思うけど・・・。

一旦気分を切り替えてもらって、再スタートしてもらわないと」

 

絢瀬会長と西木野の冷静な一言で、少々沸き立っていた空気が元に戻る。

その通り、ここでまた仕切り直しが必要だ。お祭り気分では乗り切れない。

 

「ええ。・・・特に穂乃果、貴方は旅行中散々はしゃぎ回って皆さんに迷惑を掛けたんですからね?

しっかり気合入れて練習してもらいますよ!」

 

「ひぃ!わ、分かってるってば~海未ちゃん・・・」

 

ホントだよ・・・。

沖縄の修学旅行では洞窟の中でワーキャーはしゃぎ出して大混乱。結果高坂、そして俺は二人揃って山田先生に説教を喰らった。

隣の席のお前がなんできちんと面倒を見ないのかって、いやそれは関係ないだろ。

あとで園田が平謝りに謝り、南からちんすこうを貰って・・・まあ、それで許してやったけど。

くっ、お菓子に負けるなんて・・・殺せ!

 

その時、少し静かになっていた中でおずおずと星空が手を挙げる。

 

「・・・あの、凛から一つ、提案いいかにゃ?」

 

「何々?なんでも言って!」

 

「その・・・このままずっと練習してるだけじゃみんな本番までもたないと思う。

だからその、来週の三連休使って、合宿みたいなの、どうかにゃ?」

 

「・・・合宿?」

 

連休・・・そういえばそうだったな。

ファーストライブの時、本来なら創立記念日で休日になるのを学校公開日とした件で、今さら来週の月曜を代休とするそうだ。

遅い、遅すぎだろう。世間の厳しい風に耐えて生きるぼっちに休息は必須。したがって休日はとても神聖なものなのである。

だからこんな風にテキトーに休日を設定するやり方には断固・・・賛成せざるを得ないのが悔しい。おのれ。

 

「それだけじゃないにゃ。まだまだみんな、お互いのことについてよく知ってるわけじゃないし。

・・・凛たちも、修学旅行に参加できてればまた違ってたと思うけど。だから、合宿でみんなの絆を深め合いたいなって・・・」

 

「凛ちゃん・・・」

 

・・・・。

 

まあ、このまま練習を続けていてもマンネリ化する可能性というのは確かにある。

ここでちょっとだけ変わったことをしてみようというのは分からなくもない、ただ。

 

「・・・泊まる場所はどうするんだ?まさか学校で寝泊まりするわけにはいかないだろ」

 

「ううん、部活で前に使ってた合宿所があるし・・・」

 

「そこ、ちょうど連休中にハンドボール部が使うことになっとるよ」

 

早速ボツ。

つかそれだといつもの練習とそう変わらないしな。

 

「じゃ、キャンプ場とか行かない?みんなでバーベキューとかしたら楽しいよ!」

 

「・・・冬に外で野外キャンプなんてできる訳ないでしょう」

 

高坂の提案もボツ。凍死するわそんなの。

そもそもこの時期に開いているところがどれだけあるというのか。

 

そうして、唐突に出された合宿計画が早くも迷走し始めたとき。

西木野がゆっくり口を開く。

 

「・・・待って。私の家、群馬に別荘を持ってるの。

すぐ近くに温泉も山もある静かな所よ。そこなら落ち着いて練習もできるんじゃないかしら」

 

・・・おいこの子、今何と?

別荘。別荘ときたか。・・・なんだよそれハチマンイミワカンナイ。

 

「ほ・・・ホントなの!?」

 

「ええ。それにこの前父が友人とパーティに使ったばかりだし、掃除もしたから綺麗だと思う」

 

「それでも、急に大勢使うなんて許してもらえるのか?お前の両親に悪いんじゃないか」

 

「大丈夫よ、部活の友達と使うって理由なら反対される理由もないでしょ」

 

―――ビバ、金持ち。

実にあっさり問題解決しやがった。

今太閤も言った通り、まさに金は力なり、か。べ、別に羨ましくなんてないしー。

 

「よっしゃーー!そうと決まればμ's初合宿、行っくよーーー!!

真姫ちゃんっ、本当にありがとねっ!」

 

「ちょ?!苦しいから抱き着かないでよ!」

 

おいやめろ、いきなり百合百合すんな。空気が甘ったるくなって吐き気がするだろうが。

 

「・・・穂乃果・・・気易く人に抱き付いてはいけないといつもあれ程・・・」

 

そして一人だけ暗黒化してるし。

幼馴染は大抵フラグ折れるのが常道だからな・・・まあめげるな園田、たまには報われることもあるさ。

たまには。

 

 

1週間後 合宿初日 群馬県某所 午後1時

 

「・・・なあ」

 

「あ、あはは・・・もしかして、置いてかれちゃったかなぁ?」

 

あははじゃねぇだろ・・・。

おまけにお互いスマホはバッテリー切れ。・・・充電しっぱなしにすると却って電池持ちが悪くなるとか聞いたがあれのせいか?

連絡手段と非常器具は常に点検を怠るな、また一つ人生の教訓を覚えてしまった。

今さら遅いが。

 

さて合宿当日、我らがμ's一行は電車を乗り継ぎ、群馬県の西木野の別荘へと向かうことになった。

が・・・昨晩緊張で寝付けなかった俺、そして高坂が寝過ごしてしまい、途中で下車するはずが終点近くまで到達してしまった。その間に他の連中は降りていたという訳である。

最後の列車は特急で指定席、尚且つ2人だけ他のメンバーとは別の車両だったことも災いした。

現在は見事に待ちぼうけなう。あ、なうって今時のナウでヤングな連中は使わないか。流行の流行り廃りってマジ早い。

 

「うー!この駅そぼろ弁当すっごくおいしいよー!ほら比企谷くんも食べよ!」

 

・・・食ってる場合じゃないだろうが。

おまけに女子と二人きりなのにラブコメる展開もないし。いや、期待する方が間違っているんだけどね?

 

 

やはり俺の青春は・・・まだまだ何も描かれていないキャンバスの様にまっさらなままだ。

あるいは、遠くにかすかに見える、雪山の様に。

 

 

【side:μ's】

 

同じ頃。

八幡、穂乃果とはぐれた皆はどうしていたのだろうか。

 

「・・・ほ、穂乃果ちゃんと比企谷くんがぁ~!い、急いで119番に!」

 

「消防を呼んでどうするんですか?!それより山岳救助隊を!」

 

「そうじゃないにゃ!警察を呼んで捜索してもらうにゃ!」

 

「おおお落ち着いて・・・!こ、こういう時はっ、羊を数えて落ち着くんだよ・・・!」

 

「・・・あのね。鉄道の係員の人に連絡した方がいいと思うんだけど?」

 

 

「何なのよこの有様は・・・先が思いやられるわね」

 

「・・・矢澤さん、貴方修学旅行の国際通り散策で一人はぐれてなかった?」

 

「は?!それは今関係ないでしょ!?」

 

「ふふっ、みんな慌てん坊さんやねえ」

 

―――旅は道連れ、世は情け。

その後事態を察した親切な駅長さんの取り計らいによって、2時間後に無事合流できたのであった。

 

 

 

 




合宿編ですが、前後に分けるかそれとも三分割するか現在迷っているところです。
練習風景とかどうしてもうまく描写できないんだよなー。

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