ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。   作:スパルヴィエロ大公

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エリーチカ回。
ちょっと視点変更が多いです。あと八幡の出番が(ry


第十四話 心が弱っているとき。そのときこそ自分を変えるチャンスである。

【side:希】

 

「ふふん・・・流石比企谷くん、憔悴した女の子にさり気なく飲み物とはやるなぁ・・・。

案外女たらしの才があると見たで」

 

夕刻、いつも通り希は神田大明神にて巫女のバイトをしていた。

 

ただ、手に持っている大きな双眼鏡と華麗な巫女服とは、どう考えても釣り合っていない。しかも今彼女がしゃがみこんでいるのは、神殿の物陰。

辛うじて彼女の可憐な容姿が、ぎりぎりのところで不審者扱いを避けていた。

 

「ま、陰ながら恋愛の成就を見守るんも、神に仕える人間の端くれの務め・・・。

エリチ、勇気だしや」

 

・・・どこか勘違いしつつも、希は影からじっと見張り―――。

いや、見守り続ける。

 

 

【side:八幡】

 

「ね、ねぇ・・・大丈夫なの?」

 

「・・・大丈夫っす、ちょっと意識飛んでただけなんで」

 

「全然大丈夫じゃないわよねそれ?!」

 

いやーだって、いつの間に東條副会長がμ's入ってたなんて知らなかったんでー。

・・・俺だって悪夢だと思いたい。高坂達ですらそんな許可出してなかったぞ。

ちょっと撮影協力で出入りした程度で入部オーケーなんて、緩いなんてそんなちゃちなもんじゃ断じてねえ。

あー、でもきっと既成事実できちゃってあの人もメンバーとして受け入れられちゃうんだろうなー。現実は非常である。

 

「まあ副会長が勝手にメンバー入りしたのはいいとして・・・俺らの活動について聞きたいんですよね?」

 

「え!?勝手にって、全然よくないじゃない!」

 

その激しいツッコミ止めろや。話が進まん。

俺だって納得してねーよ、でもどうせ俺には覆しようがないんだから諦めてんだよ分かれよ。                

 

「・・・ファーストライブの件はご存知でしょうから置いておきます。その時に披露した曲のPVを制作して、SIFにアップロードしたとこです。

あとは矢澤、それに1年の星空凛、小泉花陽、西木野真姫が新メンバーに入りました」

 

「School Idol Festa・・・スクールアイドル専門のSNSね」

 

「ええ。それについてもまあ評判は上々です。以上、そんなところですかね」

 

質問・・・もうある訳がないよな。

これ以上ないくらい、簡潔かつ丁寧に説明した。あとはその、俺たちの戦いはこれからだ!だし。

これからどうするか?あ、その質問は前にもされました、以上終わり。

 

「そう・・・」

 

「もう聞くことがないんでしたら、これで失礼しますが」

 

「・・・もう一つだけ。貴方、μ'sがこれからも上手くやっていけると思う?」

 

また、随分と意地の悪い質問だ。

そこまでアイドルが嫌か。行く末が不安か。かつての矢澤のように、俺たちが失敗するのを見るのが怖いか。

 

なら。

 

「―――そんなに俺らが失敗して惨めな姿を晒すのを見たくないなら、目を瞑って耳を塞いでればいいじゃないですか。

いずれにせよこの前許可は下りたんだし、こっちは自由にやらせてもらいますよ」

 

「!違う、私は・・・」

 

「ま、俺にとってはどうでもいいんですがね。・・・それじゃ、失礼します」

 

この人は、本当に何度茶番劇を繰り返せば気が済むのか。

大人しく会長の椅子にふんぞり返っていてくれればいいのに、中途半端な善意で行動しようとするから皆が不幸になるのだ。

いい加減、引っ込んでいてくれ。

 

「・・・ま、待ってください!」

 

「はい?」

 

すると今度は、会長の妹が呼び止める。

ははあ、姉貴に冷たい態度を取ったのが許せないってか?大した姉妹愛よ。

 

「あの・・・実は私も、さっきμ'sのPV、見ました。

・・・そ、その、凄く感動しました!私も、応援してますから!」

 

・・・・。

 

「・・・亜里沙」

 

「・・・どうも。俺からもあいつらに伝えておくんで」

 

「は、はい!これからも頑張ってください!」

 

励まされたというのに、何故か微妙な空気になったのは何故だろう。

ともあれ、こうなった時の対処法は一つ。とっとと退散することである。

 

一応会長に軽く会釈して、神田大明神を去ることにした。

 

 

【side:絵里】

 

「・・・・」

 

「・・・お、お姉ちゃん・・・ごめんね」

 

「別に、気にしてないわ・・・早く帰りましょう」

 

嫌なら見るな。聞くな。

比企谷八幡のその台詞は、絵里の心を見事に打ち抜いていた。

 

そう、絵里は怖かった。

かつてにこの率いるスクールアイドルが、ラブライブ初戦で敗退してまもなく、あっけなく崩壊した時。

生徒会として応援するねなどと言っておきながら、いざにこが困っているときに何一つ手を貸せず。

ようやく声を掛けられたときには、もう手遅れだった。

 

―――もう、遅いわ。それに、別に気にしてないし。にこが未熟だったから、甘かったからいけないのよ・・・!

 

あの光景は、今でも目に焼き付いている。

 

にこに変わって、その場面に高坂穂乃果やμ'sの他のメンバーが映っていたとしたら。

耐えられない。恐怖心に。自分の不甲斐なさに。

目を瞑ったって、耳を塞いだって、耐えられるものだろうか。

否、きっと心が押しつぶされてしまうだろう。

 

「・・・私は、どうすればいいの・・・?」

 

 

「―――どうやら袋小路に入ってしもたようやね。何ならおみくじで占ったろか、エリチ?」

 

 

「・・・希!?」

 

「ふふっ、一部始終は見とったよ。

それにしても比企谷くん、せっかくええ所やったんにあすこで逃げてしまうとはな~・・・ちょっとガッカリやわ」

 

巫女服を着込んだ友人が、いつも通りの意味ありげな笑顔でそこに立っている。

 

「昨日の話、だけど。私はやっぱりできないわ・・・μ'sに入る資格はない」

 

「まだにこっちのこと、エリチは気にしとるん?」

 

その問いに、絵里は答えられない。

沈黙は肯定。それを察した希は、静かに語り掛ける。諭すように。

 

「・・・ウチが見る限り、もうにこっちは昔のことは気にしとらん。ウチらだけだったんよ、昔のことにこだわってたんは」

 

「それが何になるの?私は今まで、彼女たちのスクールアイドルの活動を否定してきたのよ?!

今さら許して、私も入れて、そんなこと言える訳が―――!!」

 

「―――言わなあかん」

 

「!」

 

希の表情から、笑みは消えている。

その時は決まって、表情の裏に鋼の意志を宿している。そうなったら、いくら自分でもどうすることもできない。

 

「言わなあかん。言わなあかんよ、エリチ。エリチもあの子らも、音ノ木坂救いたいっちゅう思いはおんなじや。

それなら妥協できるはずやで。ここで下らん意地張ってたら、両者共倒れや」

 

「・・・・」

 

そう、友人の言うことは正しい。

 

でも、自分にそんな勇気は出せなかった。

いつも意地を張って、自分を立派に、強く見せようとして生きてきたから。

 

肩が強張る。

その肩を、ぽんと希が叩く。

 

「ウチ、前も言うたよね?

エリチの大好きなバレエも、アイドルの歌と踊りも、どっちもみんなを明るく笑顔にさせてくれる。おんなじもんなんやよ。

 

 

だから、エリチ、お願いや。

ウチと一緒に、μ's、入ろ?」

 

「の、ぞみ・・・あ、ぁぁぁぁ・・・」

 

いつの間にか、涙が溢れている。

妹が傍にいるのに。姉としてみっともないと思いながらも、それを抑えることができない。

 

「明日、ウチも一緒に謝ったげるから、な?

も一度、最初からやり直すんや」

 

「・・・う・・・うん・・・」

 

希に抱きしめられながら、絵里はひたすらむせび泣く。

その傍ら、亜里沙は黙って見守っている。

 

秋の夕暮れが、静かな神社を優しく照らしていた。

 

 

【side:???】

 

「ふぅ~・・・今日もめぼしい新人ちゃんはいないかぁ・・・」

 

夜。

 

秋葉原の中心部にあるマンモス校、その学生寮のプレイルーム。

その一角で、彼女はひたすらにパソコンをじっと眺めている。

 

「・・・まだSIFを見ているのか?いい加減練習するか、休むか決めた方がいい」

 

「そ~だよ~、それに下ばっかり見てたらいつか転んじゃうよ~」

 

「ちょっと・・・流石に貴方に言われたくないわよ。

それにね、新人の娘の歌からインスピレーションが湧いてくることだってあるの・・・おっ?」

 

急にまた食い入るようにパソコンの画面を眺めはじめた彼女を、仲間2人は怪訝な表情で見つめる。

・・・また始まったか。ロングヘアでありながらどこか男性的な少女は、そう思ってため息をついた。

 

「で?何か面白そうなのは見つかったのか」

 

「これよ・・・このμ'sって娘!敢えて制服で挑んでくる初々しさに大胆さ!

これは確実に伸びるわよ」

 

「そ・・・そうなの~・・・?」

 

2人もつられるように、μ'sとやらのデビュー曲PVを眺める。

 

プロフィールを見ると、今日初めて曲を出したばかりのようだ。

余程手馴れた人間が作ったのか、PVそのものは画・音ともに品質はいい。

ただ肝心の中の人物はというと・・・まあ歌は及第点としても、踊りがまだダメだ。

これから伸びていくにしても、かなり時間が掛かりそうだ。その間に別な実力あるグループがどんどんデビューしては、やがて追い抜かされるだろう。

 

結論から言って、敵にも値しない。

 

「・・・どうやら、2人ともこの娘達を侮ってるようね」

 

「当たり前だ。いくらスクールアイドルといっても、最近はここまでレベルの低い連中はそういないぞ」

 

「ダンスがちょっとカクカクしてて、ロボットさんみたい~」

 

「そう・・・なら、この再生数をご覧なさい」

 

「「・・・は?」」

 

2人の頭が、凍り付く。

 

間違いなく、そのPVは今日アップロードされたものだ。

なのに・・・既に1000回を突破している。

 

「まさか・・・やらせか、サクラじゃないだろうな?」

 

「失礼ね。この娘達には、スピリチュアルというか、何か運命的なものを感じるの・・・!

きっとそれに共感した人たちが続々集まっているのね」

 

それでも尚、未だ納得のいかない仲間達。

それに業を煮やした彼女は指を突き付け、高らかに宣言する。

 

「いい!英玲奈、あんじゅ!

ライバルには敬意を払って接するべき・・・μ'sは、いつか絶対に私たちA-RISEと肩を並べる存在になるわよ!

だから、明日からも気合入れていきなさい!」

 

 

彼女―――綺羅ツバサの宣言は、外にまで、皆が寝静まった夜の学生寮にも響いていた。

後日、彼女らが寮長からお叱りを受けたのは言うまでもない。

 

 

 




ツバサさんのキャラがハルヒっぽい件。
・・・劇場版でしか把握してないからキャラブレブレになると思います。マジゴメン。
今日にでも2期のDVD借りてくるか・・・。

ちょっと今回はご都合主義が多すぎたかな?
早いとこミナリンスキー回、何より合宿回に進みたいものです。

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