ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。   作:スパルヴィエロ大公

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再び、このssは原作改変が(ry

材木座が八幡と同じクラスだったり、八幡の過去だったり。
これからもちょこちょこ変わるので、違和感を覚えた方はブラウザバック推奨です。


第六話 彼は過去を断ち切り、今を生きる。

10月某日

 

天高く、馬肥ゆる秋。

・・・こんな諺を理由に食っちゃ寝生活を送っている奴、考え直せ。クリスマスにケーキもチキンも食えずに泣きたくないならば。

ま、俺としてはその泣き顔を見て鼻で笑ってやれるから大歓迎なんだがな。

ただ高坂よ・・・お前の場合、1年365日ずっと食ってばっかりじゃないのか?昼飯にランチパック3個はちょっとヤバいと思うんだが。

園田が毎日目を尖らせるのも分かる。そしてその親心が報われない無念も。

 

さておき、学校公開日と初ライブまであと1週間と2日。

曲は西木野の協力によって完成しており、衣装デザインも南の手によって完成した。それを見た園田が「破廉恥です!」なんて涙目になっていたが。

今はひたすらダンスと歌の特訓に明け暮れる日々・・・あ、俺はいつも通り筋トレやってますよ?

素人目に見ても、3人の技術面の上達は中々だと思う。

ダンスのぎこちなさ、歌うときに声がこわばってしまうということは目に見えて減っているように感じる。

後は・・・結局、それをきちんとステージで発揮できるかどうか。5日後に講堂での予行練習を控えているから、それで判断するしかない。

 

で、そんな慌ただしくも輝かしい俺の学園生活は――――昨日突然、終わりました。

 

 

『はぁぁちぃぃぃむぁぁぁぁん!!前世からのぉ、心の友たる我に断りもなく去るとはッ!!

無礼千万っ、笑止千万であるぞぉぉぉ!!!』

 

 

・・・ハイ、もうお分かりですね。材木座義輝くんのご登場です。

俺としては、このまま勝手に独り芝居を演じてもらって、そのまま妄想の彼方へ消し飛んで行ってもらいたいものです。

 

実は転校してからも、こいつからは何度かメールや電話が来ていたが、すべて無視していた。

なんてったって忙しかったし、一度情にほだされて返信しようものなら時間を相当潰されると分かっていたからである。

転校前、最後に連絡を取った時なぞ、まだ書き上がってもない自分のラノベの設定集について30分も語るときたもんだ。

しかも夜11時だぞ?言いたいことはいろいろあったが、取り敢えずお前、喋るより書け。

まずはそれからだろうが。

 

で、昨日の夕方ついに情に負けて電話に出てやったところ・・・案の定1時間潰れました。

通話料大丈夫か?あ、あいつも俺以外に話す奴いないし平気か。

 

「・・・あのな、それ昨日も言ってたろ。俺も分かったすまんっつったよな?」

 

『否!貴様は分かっておらぬ、どれ程我と貴様との友情が強固で命にも勝る尊い物であったか・・・!』

 

「要は体育の授業で組む奴いなくなるから困ってるんだろ」

 

『ブべらっ!?』

 

電話で奇声上げんな、キモいぞ。

 

「まっ安心しろ、厚木はなんだかんだ甘いしな。一人でもやれることやっときまーすって態度見せときゃいいんだ」

 

『・・・その、我が電話したのはその件の為ではない。ここ最近、クラスの様子がきな臭いのだ』

 

「あん?」

 

『・・・皆が皆、お互いに対して不信感を抱いておる。だから監視し合って・・・とにかく、よくない空気が蔓延しておる。

今、我から言えるのはこれだけだ』

 

・・・・。

 

なんだ、それは。

 

「・・・おい、一体俺が転校してから何があった?」

 

『すまぬ・・・この件に関しては、由比ヶ浜氏や雪ノ下氏に聞くといい。我も迂闊に漏らすのは怖いのだ』

 

おいおい、厨二病がとうとう末期症状になったのか・・・。

 

なんて、冗談を言える雰囲気ではない。

あの調子こいたいつもの口調とは違う。こいつでも、こんな暗い声を出せるとは。

 

・・・まさか、相模が消え、俺が消え、俺に危害を加えた奴らが同じ立場になり。

そして、皆が皆・・・。

 

・・・いや、考えたくない。

そんなカオスな状況が、仮にも進学校のクラスに出現するなんて、考えたくもない。

映画か小説でやってくれという話だ。気持ち悪すぎる。

 

要するに俺は、怖かったのだ。

 

「・・・平塚先生は、何か言ってたか?この件で対策は?」

 

葉山・・・は、端から当てにならない。なる訳がない。

どうせ「みんなで話し合おう、それで解決しよう」と綺麗ごとを言って、皆その時はそうだ賛成と頷き、あとは元通り。殺伐とした状況に。

ただ三浦なら、自身の権力を使って押さえこもうとするはずだが・・・。あいつも基本的には争いごとを好まない。

女王は下々の連中が五月蠅く騒ぐのを嫌う。それでも、何ともならなかったというのか?

 

『・・・あと2週間で修学旅行が始まるのは、貴様も知っておろう。平塚女史はそれまでに皆が態度を改めぬなら、強硬手段を取ると宣言した。

修学旅行には我らのクラスだけ参加させず、学校で強制的に奉仕活動に従事させると』

 

・・・・。

それじゃ、対処療法にもならない。どうせ修学旅行が終わるまでは良い子のふりをするだけだ。

 

でも現状、先生に取れる手段なんてそれくらいだろう。

それを除いたら、あとは最悪2年F組というクラスを解体するしかなくなる。俺が思っていた以上に、あのクラスの病根は深いところにあるということか。

 

やはり、人も、世界も、狂っている。

 

「・・・分かった。何か進展があったら、伝えてくれ」

 

『うむ、夜分済まぬ。それと新作が書けたのでメールで送る、読んだら感想を聞かせてほしい』

 

「あいよ」

 

珍しくまたか、とうんざりした返事をせずに電話を切った。うんざりしすぎて、もうそんな気力すらなかったのか。

・・・というか、あいつから夜分に済まないだなんて、相手を気遣う言葉初めて聞いたぞ。その変化は、果たして好ましいものなのか、単にあいつが自己防衛のためにそうしているだけなのか。

今はとにかく、そのことは何も考えたくなかった。

 

俺だって人間だ。弱い人間だ。ただのちっぽけな高校生だ。

そして何より、もう総武高生ではない。

 

だったら、もう"前の世界"のことで、煩わせないでくれ。

 

俺は叫ぶ。絶叫する。ひたすらに。

自分の、心の中で。

 

 

学校公開日前日 神田大明神

 

「ふぅ~~!今日のトレーニングは終了、っと!」

 

「比企谷くんもお疲れ~♪ジュース、飲む?」

 

「いや、お前らが先に飲めよ。それにこっちは持ってきたのあるしな」

 

屋上の上で改めて最後の調整を行った後、神田大明神までランニング。それで今日の練習は終了。

つまりは、ここ1週間やってきたことの繰り返しだ。

このやり方は合理的と言える。何か奇をてらったようなことなど要らない。

むしろそんなことに走り出したら、それは凶兆。ヤバいことの前触れである。

 

「この前の予行練習、録画したのを見ましたけど・・・思い出すと少し泣けてしまいますね。あそこまで私が、私たちが歌って踊れるなんて・・・」

 

「そりゃそうだよっ!みんな、あれだけ練習したんだからねっ」

 

実際、夏でもないのに俺が倒れそうになるくらい、練習量はすごい物だった。

特にダンス。始めの1週間は大小問わずミスを連発、やり直しの連続ですぐストップしていた。それがノンストップで見事に演じ切ってみせる迄になった。

やはり人間、経験を積み重ねれば進歩するものなのである。

 

・・・俺もここずっと弱音を吐かず泣き言も言わずに練習付き合ってるし、すごくね?

褒めてもらってもよくね?あ、ダメだなすぐ調子乗って社畜人生まっしぐらのフラグが立つな。

やっぱ褒めてもらわなくていいや。

 

まあ・・・俺の場合、過去の呪縛から逃れたいがために、こうして練習に付き合ってきたのだ。自分の意志で。

自分の弱さから、目を背けるために。

なら責められこそすれ、褒められる資格はない、か。

 

「そうだ!みんなで神田大明神にお参りしていかない♪」

 

「縁担ぎか?まあ、5円玉なら腐るほどあるしいいが・・・」

 

「ちょ、それだけ!?神さま相手にケチったら駄目だよっ」

 

へーへー。

中学生のとき俺が初詣の御賽銭で千円入れたら、その年は告白するはずの相手からキモチワルイ宣言され村八分になったことを聞かせてやりたいものだ。

あの年はホントに俺にとっての厄年だったぜ・・・。もう将来あれ以上の災難が降ってこないことを祈ろう。

あと賽銭は金額より心、と身に沁みて感じた年でもあった。人生何事も経験だよね!

 

さて、手と口を清めた後、ゆっくりと神殿の賽銭箱に近づく。

・・・それにしても随分静かな所だ。一応清潔ではあるし、荘厳なあるべき神社の姿だと言えなくもないが。

俺たち以外にも誰か訪れたっていいだろうに、他の参拝客も神主さんの姿も見えない。無人経営なのか?

なにそれコインパーキングかよ。

 

「ほーら、比企谷くんお賽銭だよ!お金出す!」

 

「・・・お前に払う訳じゃないんだが」

 

「いいからっ、はーやーくー!」

 

境内ではお静かに、入り口にも書いてあっただろうが・・・。

はいはい、さっさと終わらせるぞ。

 

―――チャリーン、パン、パン、パン!

 

「よしっ!今日もみんな、お疲れ様でしたっ!」「お疲れ~♪」「それじゃ、今日は解散ですね」

 

「おう、んじゃ明日な」

 

こっちも一人暮らしの身、飯の支度などやることは沢山ある。

さっさと済ませないとその分睡眠時間が短くなる、それは何事においても人を頼れないぼっちの大敵だ。

 

では、急ぎ失礼して―――

 

「そうだ!今日は比企谷くん、穂乃果と帰ろうよ!」

 

・・・おい。

なんで今日に限って・・・。

 

 

男女二人で下校。

それなんて恋愛シュミレーション、って状況だが生憎今はロマンスもムフフな展開もない。

 

「「・・・・」」

 

気まずい。

二人だけの状況で、二人ともだんまり。こういうのがぼっちにとって一番辛い状況だ。

昔からこういう時は、青春なんていらねえ!と、天に向かって叫ぶ・・・のを、必死に堪えたもんだ。

 

「・・・あ、あのね!」「・・・なあ」

 

同時。タイミングが悪い。

しかも言葉が見事に噛みあってねえ。ますます空気悪くなるじゃん。

神さま仕事しろよあくしろよ。お賽銭結局100円玉上げたぞ?

アキバの自販機でマッカン一本買える額だぞ?まだ功徳が足りんってか。

 

「比企谷くん・・・ここずっと、穂乃果たちに付き合ってくれたよね」

 

「・・・まあ、な」

 

この後にくるセリフ・・・それはなんで?何故?テルミーホワイ?

こんなところだろう。

ぼっちは人に何か聞かれるのが大の苦手だが、中でも俺は一番この質問が嫌いだ。

お前は一々人のやること成すことに理由付けをしないと気が済まないのか?だったら心理学者にでもなれ。

さもなきゃその口を一生閉じてろ。そう罵りたくなるのだ。

 

だが、次の瞬間。

 

 

「その・・・本当に、ありがとうございました!」

 

 

いきなり、高坂が俺に向かって頭を下げてくる。

 

「・・・は?」

 

いやありがとうございますって、俺は監督でお前ら野球選手かよ。

いつからそんな上下関係できたんだよ。

 

「つか頭上げろ。急にそんなことされても逆に気持ち悪いぞ」

 

「ひどっ!?で、でも、本当に感謝してるんだよ?

転校してきて、いきなりアイドル活動手伝ってって頼んだのに、ちっとも迷惑そうにしないで、海未ちゃんが困ってた時も、一生懸命力貸してくれて」

 

高坂は、いつもに増してニコニコの笑顔で言う。

 

・・・行動に理由付けをするのは嫌いだが、自分の位ならまあ許そう。

一つめは、単に流されて。

二つめは、総武高でのことを考えたくなくて。

 

そして、三つめ。

本気で何かに取り組む奴を、止める手段を俺は持っていない。

 

いつもいつも寝坊ばかりだったという高坂が、自分から起き、毎日トレーニングに励み。

ゆるふわそうに見えた南が、昼休みの間、ひたすら何枚も衣装のデザインを描き続け。

昔黒歴史ポエムを書いていたというだけで作詞を引き受け、そしてあれだけスランプに苦しんでいた園田が、一晩でオリジナルの見事な歌詞を書き上げた。

俺なぞ、ちょっと練習に付き合って、ちょっと資料を貸してやって。それだけしかしていない。

 

そこに、自ら協力を申し出てくれた西木野の楽曲センスが発揮され、見事な一つの曲が出来上がった。

それを発表するため、皆が今、各々のやるべきことを見つけ、それに真剣に取り組んでいる。

 

上っ面だけの友達、上っ面だけの友情とは違う。そんなことでは成し遂げられない。

 

"本物"が、そこにあった。

 

「・・・気にしなくていい。こっちもまあ、楽しんでやってるつもりだしな」

 

「・・・そっか。だったら、嬉しいな」

 

「とにかくだ、明日が本番だろ。礼を言われるのは早いと思うんだが」

 

「そうだね!穂乃果たち、絶対成功させるから!比企谷くんもちゃんと来てねっ」

 

「ああ、分かってる」

 

例えば、少しの手助けだったとしても。

ここまで関わったんだから、あとは頑張れよで自分だけトンズラできる訳がない。

もう、俺は逃げ出せない。否、逃げ出さない。

 

 

この日、もう一度"本物"を追い求めるのもいいと、俺は感じていた。

 




八幡のいなくなった総武高のその後については、いずれ外伝などで取り上げる予定です。

・・・明日からインターンなんで、更新遅れるんでいつになるか不明ですけど。
それより、次回ファーストライブ!金・土・日にはどうにか更新できるよう頑張ります。

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