木曾とそんな泊地   作:たんぺい

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第五話:木曾とリンガ泊地の過去

「そう、そうだ…僕らの泊地は凄い特殊な場所には違いないな」

 

深海との戦い、その終わりは今なお糸口すら見せていない。

それを「終わった」と豪語した海里と言う男は、放心する木曾に向かって口を開いた。

 

「なれば、先ずは木曾さんに…うちの軌跡を、語らないといけないよな」

 

そう言って、海里は木曾へと、自分たちリンガの過去の語り出した…。

 

 

 

「うん…栄転、ではあるよなこれは」

 

海里護。

海軍士官学校を、主席とは言わずともなかなか高い成績で卒業した、

言わば「エリートのたまご」である。

 

実技・座学…そう言ったものに大した不得手は無く、むしろ頭でっかちな感はあるが、

将来が嘱望される人材の、一角を張るだけの能力は確かに持っていた。

しかしながら、人の上に立つようなタイプでも無いのは確かでもある。

 

そのことは、海里自身も良くわかっている話である。

海里本人は、単に前線に立つより事務方が好みであると言う事もあり、そのためだけに士官学校に入校し、

安定した給料が欲しいが為だけに、そのまま海軍に入隊した、そんな男だ。

 

 

だが、運命と言うものは数奇なものである。

 

どうにも、自他共に認める上司と言うものが向いていないこの男。

しかし、士官学校時代に受けた「提督適正試験」なるテストを受けた際に、

ぶっちぎりの成績を叩き出してしまった事が災いし…

 

結果的に、海軍の肝いりで「提督」として、艦娘達のリーダーとしての仕事を、

学校の卒業と同時に決められたのである。

 

ちょうどその頃、前任者のリンガ泊地の提督役だったさる少将の男が大本営に栄転し、枠が空いてしまった事も、

あるいはそんな一因だったりする。

 

 

しかし、あれよあれよと本人の意志を無視してまで決まった提督業務。

しかも土地勘も、言葉すら馴染みがない海外の泊地と言う場所での大役。

新兵たる海里には、あまりに荷が重い話である。

 

上記のぼやきも、泊地についたとたん出てきて当たり前であったろう。

 

 

「…海軍のお偉方は、サポートの…艦娘だったか、付けてくれるなんて言ってたが」

「あ、私の司令官さんが居たのです!」

「お、噂をしたらなんとやら、だな」

 

独り言をぼやいていたとたん、海里の背後から女性の声がする。

それがいわゆる艦娘と言う存在なのだと、海里は判断する。

 

 

「はじめまして、私は電と申しますのです!司令官さん、これからよろしくなのです!」

「……おう、ええっと…」

「なのです?」

「中学生…ってか小学生か?」

 

しかし、声の方向に海里が振り返った先には、明らかに頭3つは小さい少女が立っていた。

 

確かに普通の少女らしからぬ雰囲気は、まあ海里には感じられた。

だが、電と名乗った少女は軍人とも全く思えない。

新兵のサポート役とは、なおさら考えにくい存在である。

 

海里の失礼な感想は、正直誰もが思った事であろう。

 

「し、失礼しちゃうのです!立派なレディなのですよ、電は!ぷんすか!!」

 

まあ、電本人は気に入らない様子ではあったのだが。

…と言うか、それは姉貴のネタでしょう、電ちゃん。

 

 

それはそうと、ぷりぷり怒る電を必死で謝り倒しながら機嫌を取る海里。

それは提督と艦娘と言うか、不器用な兄と背伸びしたがりな歳ごろの妹のようなそれであった。

 

 

「改めて、一応この泊地を任され海軍から派遣された、海里護だ」

 

そして、泊地をぐるぐる回りつつ、たどり着いた本館たる司令部の執務室に着いた二人。

そこで、海里は改めて、電に挨拶をする。

 

「むぅ…まあ、心の広い電はさっきの暴言は許してあげるのです」

「お、おう」

「暁型の四番艦、電と申しますのです!」

 

ビシッと敬礼する電。

…海軍の敬礼からは外れて間違っているのだが、ドヤ顔で決める電に何も言うことは海里にはできず、

また、自分の暴言の負い目もあって突っ込む事はできなかった。

 

…まあ、それが巡り巡って艦隊レベルの恥へとつながってしまうとは、その時は誰も知らなかったのだが。

それはそうと、それがリンガ泊地の、海里と艦娘たちの始まりであった。

 

 

「で、何から始めようか?」

 

海里は電に意見を求める。

提督としてどころか海軍の兵士としてすら素人に近い海里。

艦娘に意見を求めるのは、自然な話である。

 

「…そうですね、ここは海軍なのです」

「何だ、何か言い分が有るのか?」

 

しかし、当の電は、俯いたまま小さな声で何かをごちる。

海里は電を気遣う言葉をかけた。

もしかしたら、何かまた電を怒らせたのではないか、と海里は不安になったからだ。

 

「な、何でも無いのですよ…それより!」

「それより?」

「先ずは『建造』なのです!仲間を増やして艦隊を結成するのです!」

 

そんな海里の心配を肌で感じたであろう電は、どうにも無理やり明るい表情を作り、

海里に泊地としての第一手たる手段を提案した。

 

 

それこそが『建造』、その名の通り、艦娘を生み出していく唯一の手段である。

 

資材を一定数、更に元となる建造材を『妖精さん』なるオートマタに預ける。

そうしたら、鉄や弾丸やボーキサイトといったものを触媒に、船の魂を過去の時代から呼び寄せる。

その魂を資材に固着させる事で、何故かそれは決まって女性の姿として降臨する。

 

それが艦娘の、所謂『建造』と言うシステムの簡単な概要である。

 

超自然的な艦娘の建造を行える妖精さんとは何なのか。

何故、艦娘は武装を小型化して召喚出来るシステムを、建造された瞬間に体内に組み込まれるのか。

そもそも、艦娘は何故女性の姿で建造されるのか。

 

そう言った疑問は誰もわからない。

日本以外ではドイツやイタリアがどうにかギリギリ再現できた海軍の超トップシークレットなのだから、

あるいは海里はおろか、木曾の直属の提督たる大将すら知らぬ話なのだろう。

 

 

話が逸れたが、兎に角、海里は電の提案に賛成し工匠に向かった。

 

そこには、通常有り得ないぐらいの鉄・ボーキサイト・弾丸・油といった、資材が山ほど積まれている。

 

普通は、新任の提督に与えられる資材は各資材が300前後と言われている。

帝国海軍には台所事情は、正直厳しいものがある…決して、意地悪や嫌みのつもりで最低限しか資材を配給しない訳ではないのだ。

しかし、この資材の山は、少なく見積もったところでどう見ても各種資材が5000は下らない。

 

それは、海軍の配給だけでは後任の提督には色々辛いだろう、そんな思いから遺された、

前任者の提督の心使いであった。

…まあ、置き手紙も何もなく、ただただ資材だけ沢山渡されたところで、後任の提督には圧倒されるだけではあったのだが。

 

 

それはそうと、資材に少々ならず余裕が有るのなら、色々試してみたくなるのが人情と言うものである。

 

「まずは、とりあえず最低限で回してみるか」

「なのです!じゃあ全部30なのですね!」

 

電はそう言って、各資材を一掴みずつ均等に工匠の建造工場に放り込むと、

『建造』とかかれたスイッチを押す。

そうしたら、工匠に書かれた電光掲示板には時間が書かれたデジタル時計の様なものが映った。

 

「これは…」

「コレが建造時間なのです、時間がきたら艦娘が出来るのですよ」

 

ひたすら圧倒された海里に、得意気に話す電。

その数字は18分と書かれている。

 

「十分ぐらい…まあ茶でも飲んで待とうか」

「なのです!」

 

 

その言葉通り、缶コーヒーとペットボトルの緑茶を啜りのんびり構えていた二人の前に現れた艦娘は…

 

「如月よぉ、はじめましてね…あらやだ、髪が痛んじゃう」

 

現れたのは、如月と名乗った長髪のアダルティックな少女である。

なんだか電とは真逆のタイプにしか見えないが…

 

「ふむ、如月…」

「如月ちゃんはじめまして、私は暁型の電なのです!」

「あらぁ、司令官さんに電ちゃん…如月をよろしくね」

 

なんだか、妙に馬が合っていたようだった。

そんな二人に和みつつ、海里は電に更に質問する。

 

「如月って子は、なんだか電とおんなじ雰囲気だな…もしかして、艦娘ってみんなこんな感じか?」

「それは違うのです、資材をケチり過ぎなのです!」

「お、おう…」

 

電の言葉に、思わず怯む海里。

しかし、その言葉には確かに納得せざるを得ない。

強い、少なくとも大人の艦娘を出すには資材が沢山いると言う話なのだろう。

 

そんな、海里の姿に更に得意になる電は胸を張り説明しだす。

        

 

「最低限の資材だけなら駆逐艦が精一杯、いいとこ軽巡洋艦ぐらいなのです」

「なるほど、そう言ったものなのか」

「例えば…だいたいの資材を250ぐらいで投げれば、色んな艦娘が生まれます!」

「なるほど…!250は必要はのだな」チリーン

「あるいは、ボーキサイトだけ削って400から600の資材を沢山積み込めば、戦艦だってでるかも知れないのです!」

「ボーキサイト以外の資材大量投入か…」チリーン

「逆に、ボーキサイトに特化して資材を600、他は300強ぐらい使えば空母だって来てくれるかもですね」

「空母…悪くない、空戦は戦場の戦術を彩る華だな」チリーン

「いっそ…大型建造もやってみます?レア中のレア艦娘が生まれるかも…」

「レアとは何か…ロマンだな、心惹かれる言霊だ」チリーン

「…司令官さん、さっきから何なのです、チリンって音は?」

 

電への海里の相槌の度に、何故か金属片が落ちるような音が響く。

そんな電の疑問に答えたのは、如月であった。

 

「さっきから司令官さん、電ちゃんの説明通りに資材ぶち込んでるのよぉ…」

「ってアホかぁぁぁぁ!アホなのですか!?ちょっとは躊躇うのです!」

 

博打に盲目的に金を突っ込むような、海里の考え無しと言った行動にキレる電。

しかし、海里は電の怒りを無視して工匠の電光掲示板を眺める。

 

「若さとはなんとやらっ…っと、一番早くても一時間以上の待ち時間はウザイな、しかも建造時間ばらばら……ああ、高速建造ってスイッチも有るのか」

「聞けよ人の話をなのです!」

「うん…ちょっとは電ちゃんのお話を聞いたげて司令官さん…」

「ほいほい、すまんすまん…ぽちっとな」

 

…とまあ、さっきから電の説教を流しつつバーナーのイラストが描かれたスイッチを見つけ押す海里。

そうして生まれた艦娘が、

 

「羽黒です…あの、よろしくお願いします…」

「扶桑です、主砲の火力だけが自慢なの…」

「出雲丸…じゃなかった、飛鷹です!」

「最新鋭軽巡、阿賀野で~す!」

 

こんな感じの4人の艦娘である。

 

 

「…と言う感じで、うちの第一艦隊ができたのさ、木曾さん」

「ただのぐっだぐだの産物じゃねえか!明らかにあんたの暴走のやらかした結果じゃねえかよ!!」

「あ、過去編の後編はまだまだ続くよ」

「フリが雑過ぎるわぁぁぁぁぁぁ!」

 

こんな感じで、まだまだリンガ泊地の提督の昔話は続くのである。

 


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