木曾とそんな泊地   作:たんぺい

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第十七話:木曾と羽黒の逆鱗と

「ふふふふ…ハハハ……アァァァハハハ!」

 

 

無人の執務室にて、木曾の笑い声が夜分に響く。

今時、どこにそんな特撮やアニメの悪役が居るんだよと言いたくなるような、三段笑いであった。

 

「キソ…ウルサイ!」

「ご、ごめん…ほっぽちゃん……」

 

しかし、ほっぽを起こしてしまって、不機嫌な深海の姫に対して平謝りする木曾。

背中をさすりながらほっぽを改めて寝かしつけると、一人木曾は背中を振るわせるのであった…。

 

「俺、羽黒とレ級に殺されるかもしれん……!」

 

そんな独り言を言いながら。

 

 

事は先日、扶桑が「羽黒を殺す」というアイデアを思いついた瞬間から、話を進めよう。

 

 

「羽黒を、殺すだぁ!?」

 

扶桑はリンガ泊地に関係が有りそうなメンバーを、羽黒を除いてかき集めて、

自身のアイデアを言った際…全員がなにを言ってるんだ、お前という顔になり突っ込まれる。

 

それに対して、言葉が少なかったわね…と、前置きしてこう続けたのだ。

 

「羽黒ちゃんを本当に殺害したい、そうじゃなくて…プライド?ペルソナ?とにかく、心の上っ面をガツンと殺してあげないと駄目なのよ」

 

 

なるほどな、暗殺教室かお前はとツッコミたくなる一同。

 

しかし…確かに扶桑が言うとおりでもあった。

羽黒の本心は、何か思い切りショックを与えないと答えは見えないだろう、と。

 

酒という木曾の最初のアイデアは却下された、羽黒は酒が入ってもニコニコ変わらずに、限界を越えたら一気にバタンと倒れるタイプである…酒の勢いでは本心は見えない。

 

海里のアイデアのOTONAの資金力というアイデアも当然却下された、別に金で心を動かしたい訳ではない。

 

阿賀野の空中反転DOGEZAなどという意味不明な一発芸だの、

飛鷹の自白材などあんまりにもあんまりなアイデアが飛び交う中、

鶴の一声になったのは、ほっぽの一声だった。

 

「イナズマノ、ホンニ、ナイタアカオニッテアッタ!オシバイノチカラハ、ナケルデ!」

 

 

なるほど、と、思案する。

確かに、切羽詰まった状況を無理やり作れば、羽黒の本心が見えてくるのかも知れない。

 

しかし、具体的に台本はどうすんのという話になり、何気なく電はこう言った。

 

「古典的ですが、カップルの前に不良的な、悪者が居たら良いのです!」

 

 

本当に何気ない、電のセリフではあったのだ。

しかし、この泊地には、悪役をやりきるには、あまりにもうってつけな人物がいた。

 

「何で、私を見るデス!?」

 

レ級である。

 

 

そうなれば、もう、あれよあれよと台本の流れが決まっていく。

ほとんど木曾が主導の中で、やりたい放題な狂言誘拐事件の出来上がりである。

 

だが、レ級は流石にあまり乗り気ではない。

お芝居とはいえ、友人の羽黒を痛めつけないといけないのだから。

しかも羽黒に本気だと伝える為には、羽黒だけは本気で攻撃しなければいけない…。

 

だが、わりと、わかりやすい話で羽黒の本心も聞き出せるような、心をへし折れる手段で有ることは事実だった。

 

はあ、と意を決したレ級は、悪役をもう一人増やす事を条件にお芝居に乗ったのである。

 

 

なお、扶桑姉様は悪役演技は結構気に入ってたとは追記しておこう。

途中アドリブも入れてノリノリだったし。

 

 

さて、そんな感じで、一人ドッキリカメラではないが…今回ただひらすら被害者だった羽黒。

そんな彼女に向かって、お芝居だからと心にも無いことを言わされて、友人を…実は、あれでも相当手加減していたのだが、殴らざるを得なかったレ級。

 

彼女たちの怒りの矛先は当然…

 

 

「木曾さん…ええ、私の為にやってくれたんでしょうが……とりあえずこっち向けや!」

「人をあんな外道に……演習の続きダァ!」

 

木曾に向かっていた。

羽黒の入渠が終わると同時に、羽黒は主犯の一人たる扶桑を半殺しにした後で、木曾の待っている執務室へと一目散に駆け上がったのである。

 

そして、陸上だと言うのに羽黒は艤装を付けている。

それだけではない、衣装が何故か新調されており、艤装もスタイリッシュになっている。

そう…羽黒は、木曾への怒りのあまり改二に進化していたのだ。

 

「こんな雑な改二実装聞いたことあるかぁ!」

 

木曾が思わず叫ぶが、羽黒もレ級も木曾の叫びは無視して砲撃を構えた。

…駄目だ、ギャグでも流石に死ぬ!

木曾の脳内で何かが叫び…ってお前、それ昔の同僚のネタだろうが!

 

…とにかく、レ級elite&羽黒改二という殺意満点の布陣に追いつめられて、ジリジリ後退する木曾。

かくなる上は…と、木曾は窓から飛び出した!

 

「さらばだ明智君!」

「逃げないでください!このクズ!!」

「待てやこの雷装馬鹿ガァァァ!」

 

パリーンと、窓ガラスを割りながら執務室を脱出した木曾。

 

だが、その着地点には飛鷹が立っていた。

 

 

実は、有る意味飛鷹と阿賀野も被害者なのだ。

大破に見せかけやすくする為だからと、お笑いの上島竜平がのごとく破れやすい衣装をわざわざ特注で用意していたのが、何を隠そう木曾である。

 

あまり気にしてない阿賀野はともかく、尻丸出しの恥をかくとは聞いてなかった飛鷹は、

羽黒やレ級程では無かったが…正直、ぶちきれていた事に変わりなかったのだ。

 

 

飛鷹は上を見上げると…羽黒とレ級に向かって叫ぶ。

 

「羽黒!れっちゃん!トリプルライダーキックよ!」

「…!わかりました!レ級さん!」

「羽黒サンへの贖罪ト、私たちの怒りの一撃デス!」

 

 

とう!と勢いよく飛び降りた羽黒とレ級の蹴りと飛鷹が迎撃するかのような回し蹴り。

それらが木曾という焦点で重なり合い…。

 

「俺が死んでも、第二第三の大本営の隊長がぁぁあ!!」

 

爆発したのである。

 

 

その後、少しだけ素直になって、みんなを頼るようになり心から羽黒が笑い合う中で、

同時に、大本営の1番隊に「ついに木曾が爆発した」というニュースが入り、過去形かよ!とみんなから突っ込まれる事態になったとさ、ちゃんちゃん。

 

あ、木曾はまだ辛うじて生きてますのでご安心を。

 

「…バケツが無かったら即死だったぜ」


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