ハリー・ポッターと病魔の逆さ磔   作:三代目盲打ちテイク

61 / 71
第58話 秘密の部屋

 そこは一般的に校長室と呼ばれる場所であった。そこは広くて美しい円形の部屋でおかしくて小さな物音で満ち溢れている。

 テーブルの上には奇妙な銀の道具が立ち並びくるくる回りながらポッポッと小さな煙を吐いていて、壁には歴代の校長先生の写真が掛かっていましたが全員が眠っている。

 

 そう一般的に校長室と呼ばれる場所だった。今、この場の雰囲気は校長室とは程遠い。いるのは、マクゴナガル、スネイプ、ダンブルドアの三人であった。

 職員会議かと思われるような場面ではあれど、その様子はありえないほどに暗い。校長室というある種明るい空間であるはずなのに暗いのだ。

 

 どんよりと淀み、暗く、さながら深海のようにも感じられた。重苦しく、全てを圧迫する理由はただ一つ。

 

「ダンブルドア校長。本当なのですか、例のあの人が戻ってきたというのは」

 

 マクゴナガルが信じられないように問う。

 

「本当じゃ」

 

 重い口を開いてダンブルドアはそう言った。

 

「しかし、何事も起きていません」

「どうやら潜んでおるようなのじゃ。ゆえにこの情報も本当かどうかはわからないが、わしはあやつは復活していると思う」

「証拠は、証拠はないのですか?」

「残念ながらないのじゃ。じゃが、この件にはシズマ殿も復活していると言っておった」

「盲打ちを信用なさるのですか!?」

 

 盲打ち。

 そのままの意味だ。盲目の打ち手。思想、行動、その全てが過激を通り越した出鱈目。何も考えていない適当な手しか打たない棋士ながら、その結末はなぜか詰め将棋のごとく嵌るという馬鹿げた存在のこと。

 

 魔法界において、その存在は二人目と言える。初代は百年ほど昔に日本の魔法界、超常を一手に引き受けていた神祇省の男。

 その子孫なのかは不明だが、どう考えても子孫以外に考えられない石神静摩という男は二代目。

 

 神祇省の長い歴史を見ても二人しかいない稀代の馬鹿。

 

 しかし、その馬鹿はやることなすことデタラメであるものの、結果として全てが思い通りに嵌る。その男がヴォルデモートが復活していると何も考えず証拠もなしに言ってのけたのだ。

 つまりはヴォルデモートは復活して機会をうかがっているとみるべきである。盲打ちの言うことなど信じない方が得策なのだが、ダンブルドアも嫌な予感を感じている。

 

 だからこそこうやって動いてきて少しでも証拠と仲間を集めようとした。不死鳥の騎士団を。

 しかし、証拠もなくただ復活したと言っても意味はない。かつての死喰い人たちも普通に生活しているし、アズカバンに変わらずに入っていることは確認している。

 

 現状、ヴォルデモートが復活したとはまったく言えない。そんな現状で、ヴォルデモート復活を唱えてもダンブルドアは狂人扱いされるだろう。

 そうなってしまえば闇の勢力に対抗するどころの話ではなくなる。

 

 そのため一部の信用できる者たちを頼り、少しでも警戒を促すのがやっとの現状だ。こうやって話の場を設けたのもその一つ。

 

「それしかないのじゃ」

「しかし、あれは何を考えているかわかったものではありませんよ」

「そうかもしれん。しかし、見過ごすわけにはいかんのじゃ」

 

 ヴォルデモートは必ず倒す。そうしなければ魔法界に明日はない。

 そのためならば自分の死も、ハリー・ポッターの死も、悪人であるサルビア・リラータですら利用してみせよう。無論、罰は受けることになる。それでも闇の帝王を倒せるのならば甘んじて受けるとも。

 

 勿論、誰も無駄死になどさせないし、死なせないことをこそ重要視する。最初から犠牲ありきで考えては救えるものも救えない。

 これまでも手酷い失敗をしてきた。リラータを見誤ったのもそう。彼女を見誤った結果、数百、数千もの人間が彼女の手によって帰らぬ者となったのだから。

 

 間違えぬと誓っても、間違えてしまう。己の愚かさがただただ恨めしい。

 しかし、後悔などしてはいられない。

 

 ヴォルデモートを倒す。話はそれからだ。そうして初めて、間違いの清算が始まるのだから。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 怪物が現れた。マグル生まれが次々に襲われていく。ほとんど首なしニックまでもが襲われて、石にされていく。

 何かがこの学校の中を這いずっているのをハリーは聞いていた。ハリーにしか聞こえない声が聞こえる。ヘルにも聞こえない声。誰にも、そうハリーにしか聞こえない声。

 

 それがなんなのかハリーにはわからない。そんな中、ロックハートが戦う術を教えるという名目で決闘クラブなるクラブを開いた。

 魔法使いの決闘の方法を教えるらしい。大事なのはお辞儀だとか。

 

 ハリーはマルフォイと決闘をすることになった。一発で武装解除してやった。

 

 その後、また襲われていく。ハーマイオニーまでもが襲われてしまった。だが、彼女はヒントを残してくれていた。

 鏡とバジリスク。石に成った理由もわかり、怪物がいることもわかった。

 

 そこに至るまでに色々と遠回りさせられたが。ハグリッドのおかげで禁じられた森で蜘蛛と追いかけっこになったりとか、トム・リドルの日記で色々なことをしったり。

 ダンブルドアも校長を追われ、ハグリッドはアズカバンへ。

 

 現実との違いに悪戦苦闘しながら、ハリーはロンと共に怪物をどうにかすべく奮闘していた。その中で日記がなくなったことに気が付き、ジニーがスリザリンの継承者に攫われ嘆きのマートルというゴーストのいるトイレが怪しいことも気が付いた。

 

「でも、二人だけじゃ無理だよ」

「……先生の力を借りよう」

 

 そうやって職員室に行く。その途中で何やら今にもどこかへ逃げ出しそうなロックハートを捕まえた。とりあえず彼を何かに役立つかもしれないと連れていこうと騒いでいるとどこから騒ぎを聞きつけたのかスネイプが現れた。

 ロックハートの余計なひと言によりスネイプまで伴ってマートルのトイレへ。そこには秘密の部屋の入り口があった。

 

 ロックハートを一番に突き落とし安全を確認してから降りていく。じめじめとした通路。巨大な蛇の抜け殻。どうやらバジリスクは本当にいるようだった。

 

「よし、私はここまでだ」

 

 そう言って、ロックハートが杖をハリーたちに向ける。そうしてぺらぺらぺらぺらと自分の秘密を暴露してくれた。

 

「そうかね。エクスペリアームス!!」

 

 その瞬間、スネイプの魔法が炸裂した。避けることなどできず壁に叩き付けられるロックハート。思い切り吹っ飛んだ。

 どうやら数百年の間にだいぶ劣化していたのだろう。その衝撃によって天井が崩れる。

 

 結果、ハリーだけ残して他の皆は壁の向こう。

 

「僕、いくよ」

「待つのだポッター!」

 

 スネイプが引き留める声を聞かずハリーはジニーを救うべく秘密の部屋へと足を踏み入れた。

 

「やあ、待っていたよハリー・ポッター」

「トム?」

「そうだ。僕だよハリー」

「どうして――ジニー!」

 

 その時、倒れているジニーを見つけてハリーは駆けよる。まるで死人のように冷たいが、まだ息がある。

 

「トム、僕は今すぐジニーを……待って、どうして君がここにいるんだい?」

「思ったよりも聡明だなハリー・ポッター。杖も放り出さないとは。まあいい。ジニーの杖がある。少し予定が狂ったが、良いだろう。教えてやろうハリー・ポッター」

 

 そう言ってトム・リドルという青年は杖で文字を空中に書き出す。

 

――TOM MARVOLO RIDDLE

 

 空中に描かれた文字列は簡単だ。名前である。トム・マールヴォロ・リドル。

 

「僕は父の名前が嫌いでね。在学中に新しい名前を作った。僕だけの、誰もが恐れる名前だ」

 

 文字が空中で組み換わって行く。

 

――I AM LOAD VOLDEMORT

 

 私はヴォルデモート卿だ。

 

 アナグラムである文章に使われているアルファベットを入れ替えて、全く別の文章とする言葉遊び。それによって彼は新たな名前を作り上げたのだ。

 

「君が、君が、五十年前も君が」

「そうだともハリー・ポッター。全ては僕の掌の上だとも。恋するジニー・ウィーズリーをたぶらかし、秘密の部屋を再び開いた。スリザリンの継承者たるこの僕が戻ってきたのだから。そして、未来の僕がやり残したことを――」

「ハリー!!」

 

 その瞬間、ヘルが声をあげた。

 何かが来る。そう何かが来た。何かが見ている。何かが見ている。

 

『愛い愛い。好きにすると良い。痴れた音を聞かせてくれ。幸せになってくれ。それだけを望んでいる』

 

 何かの声が響く。それはハリーも聞いたことのある声で。

 

 その瞬間、トム・リドルの雰囲気が変わる。

 

「ああ、そうだった。そうだ、救うんだった。さあ、行けバジリスク。憐れなハリー・ポッターを救ってやろう」

 

 バジリスクが疾走する。その直進は真っ直ぐにハリーを目指してやってくる。

 

「く――」

 

 ハリーは夢を回す。

 

 戟法にて自らの身体能力を向上させて回避する。

 

「フリペンド!!」

 

 そこから射につなげる。

 

「ぐ――」

 

 しかし、身体能力向上の夢を切ったところをバジリスクの尾が直撃する。

 

「この期に及んで、君はまだ序で止まっているのかい? もしその程度であれば本当に期待外れだよ。無敵のヴォルデモート卿を倒した君が、この程度だとしたら僕の評判が落ちてしまうじゃないか」

 

 戟法で躱していざ攻撃しようとしたら戟法が使えない。戟法を使わなければ到底バジリスクの攻撃を回避など不可能。

 目を見ないで回避しないといけないという制約もある中で身体能力を落とすなど自殺行為。

 

 ゆえに、ここはもう一つの夢を同時に使えないといけない。ヘルが言っていた詠段。夢を一つではなく二つ使えるようにしなければならない。

 できるだろうか。そう不安がある。自分にできるだろうか。

 

「なに、やらねば死ぬだけだ」

 

 ヘルの言葉が響いた。そうやらなければ死ぬ。ならば、

 

「やるしかない」

 

 ハリー夢を回す。

 

 今まで以上に真剣に自らが出来ると思って夢を回す。そうしなければハリーもジニーも死んでしまうのだから。

 

「フリペンド!!」

 

 放たれた射撃魔法。そこにはきちんと咒法の射が乗っていた。

 

「そうでなくては。さあ、まだだ。だが、その上にあがれなければ君はどの道死ぬよ」

 

 暗にトムはこう言っている。

 

――僕は五常楽破ノ段であると。

 

 それは戦術利用された邯鄲の夢に関連して、術者個人の戦闘技能、または熟練深度を判定する為の評価尺度である。

 夢を揮う者の技量に応じた五つの段階に分けられ 序、詠、破、急、■と名付けられている。

 

 ハリーが先ほど詠段に上がった。もとから夢を使い続けていたのだ。一年間の下積みがあればこの程度は余裕だ、むしろ遅いくらいと言える。

 詠段は二つの夢を同時に行使できる段階である。夢を扱う者としてのスタートラインとも言える。

 

 邯鄲の夢の性質上、夢の複数展開が持つ意義とは、ただ単純に個々の夢が持つ特性を足し算的に増加させるのではなく、掛け算のごとく倍増させるという点にある 。

 

 そして、破段。それは五常楽の第三段階にして、術者個人が思い描く『自分だけの夢』を構築し展開する段階だ。いうなれば『固有技』を習得する段階と言える。

 この破段に到達してからが夢界(このせかい)における戦闘の本領であり、詠段以下ではこの破段が紡ぐ夢には対抗できない。

 

 トムはその破段だと言っている。どういうことなのかハリーには考える余裕などない。バジリスクの攻撃は苛烈だ。

 

「良いか、ハリー。破段は今のおまえではどうしようもない。どうにかしたいのなら破段に上がることだ」

 

 ヘルの言葉が届くと同時に膠着しかけていた戦闘に介入がある。

 

 それはトムではなく、ダンブルドアのペットである不死鳥のフォークスだ。何かを落とし、バジリスクの瞳を潰してくれた。

 

 落とした何かは、

 

「組み分け帽子?」

 

 組み分け帽子だった。なんでこんなものを? と思う。それは隙だ。バジリスクの尾がハリーを捉える。

 

「ぐ――」

 

 壁に叩き付けられる。気絶しそうな痛み。ハリーが楯法で癒せる限度を超えていた。だが、

 

「立つか。それでこそだハリー・ポッター」

 

 ハリーは立つ。こんなところで負けてなどいられないのだ。ジニーを助けなければいけない。

 バジリスクは恐ろしくその後ろに控えるトムは更に怖い。死んでしまうかもしれない。それでも、ハリーは逃げない。

 

 その時だ、するりと手の中に何かが滑り込む。

 

 同時に突っ込んでくるバジリスク。ハリーは咄嗟にそれを突きだした。

 

 バジリスクが開いていた口からハリーが付き出した何か――剣が脳へと突き抜ける。

 

「これは……」

 

 赤い宝石が柄にはめ込まれた剣。使い方などわからない。けれど、ハリーは突きこんだ。バジリスクの口の中にその剣を。

 それによってバジリスクが倒れる。

 

「よくぞ、倒したハリー・ポッター。そうでなくてはならない。無敵のヴォルデモート卿を倒したのであれば――」

 

 その瞬間にハリーは突っ込んでいた。

 ナイアの教えは相手の隙や油断は突けというものだ。剣の扱い方もナイアから習っていた。五年目の授業で習ったのだ。

 剣というか鉄パイプとかその辺にありそうな棒とかの使い方だったが、ハリーはそれに感謝する。

 

「ぐお、人が話している時に」

「フリペンド! エクスペリアームス!」

 

 休む暇など与えずにハリーは攻め立てる。夢を回す。今まで以上の高域で夢を回す。

 

 射、崩。あるいは戟法を用いて。

 

 夢を使わせなければいい。その暇を与えなければいい。

 破段なんてハリーには至れるとは思えなかった。今二つの夢を使い始めたばかりなのだから。だから、相手に夢を使わせなければいいとそう思った。

 

 しかし、

 

「聡明かとおも思ったが、やはり馬鹿なのか?」

 

 その瞬間、ハリーは吹き飛ばされ、

 

「破段、顕象――」

 

 トムの夢を展開されてしまう。

 

 その圧にハリーは吹き飛ばされ壁に叩き付けられる。

 

「ぐ、ああああああああああああ」

 

 走り抜ける全身の痛み。ハリーの肉体を病魔が穿っていた。

 

「まったく。その手は昔からあるんだ。それは無意味だと先達が証明している」

 

 そう、破段に至った相手に対して連続攻撃とか飽和攻撃とかで破段を使わせないという作戦は無駄だ。そんなこと意味がない。

 詠段では破段には勝てない。それが自明。絶対に定められた法なのだ。

 

 だから、勝つためには、

 

「破段にならねばな」

 

 破段に至ることしかない。

 

――できるのか。僕に。

 

――出来るのか? 馬鹿じゃないの? やるのよ。そうでないならここで死になさいよ。

 

 幻聴が聞こえた気がした。この世界にはいないはずの存在の声が。

 

――役に立て。お前の生まれてきた意味なんてそれ以外にあるわけないでしょう。

 

 そんな声が。

 

「――破段、顕象――」

 

 だから、ハリーは、解号を紡いだ――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 ことの顛末はこうだ。

 トム・リドルは倒され、秘密の部屋はもう永久に開くことはない。怪物は倒され、全ては万事解決した。

 

 トム・リドルの日記帳を渡したルシウス・マルフォイは理事を辞めることになり、そのシモベであったドビーはハリーの機転により解放された。

 

 二年目の試練は終わった。

 

 そして、三年目の試練が来る。

 




ちょっとダイジェスト風味ですが、あまり夢を長引かせてもあれですし。

トムさんに何かが介入しました、スパァ。破段使えるトムさんでしたが、破段による戦闘を書き出すと変なところに行きそうな気がしたのでこんな感じになりました。

ハリーは何か背後にサルビアの背後霊でもいるかのような破段顕象です。

で、ハリーの破段なんて考えてない。良い破段案ないですかね。
一応、咒法の射と解法の崩あたりを使いたい感じなんです。

ともかかく、さくさく行こう。私早く六巻(地獄)が書きたいの。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。