ハリー・ポッターと病魔の逆さ磔   作:三代目盲打ちテイク

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第6話 授業

 サルビア・リラータは死にそうであった。ホグワーツの授業であるが正直舐めていた。いや、別に難易度の話ではない。

 正直な話、一年生で習う内容など寝ていてもサルビアは理解できるし、その程度の呪文ならば物心ついた時から使えている。

 

 そうでなければここまで生きて来られなかったのだから、仕方がない。そもそも、常時変身術を使っていたり使いたくもない上にまったくと言っていいほど役に立たない糞忌々しい治癒の呪文を定期的にかけているため魔法に対する理解も熟練度も新入生とは言えないレベルであるのだ。

 だから、問題はそれ以外にある。問題とは、すなわち、教室へ行くことだ。百を超える機能を持つとすら言われるホグワーツの階段はじっとしていない。

 

 面倒なことに奴らは行き先がしょっちゅう変わる。それを避けて目的の所に行くにはコツがいるが、慣れるまで大変だ。

 運動できないものは特に。サルビアなど走ってしまえば教室に入った時点で終了だ。授業中ずっと死にそうになっている。

 

 そんなわけだが、なんとか遅刻せずに彼女は優等生を演じていた。今はマクゴナガルが行う変身術の授業を受けている最中だ。

 サルビアによってハリーとロンは遅刻せずに済んだが、いきなり説教を受ける羽目になる。どちらかというと注意か。限りなく説教に近い注意だ。

 

「変身術は、ホグワーツで学ぶ魔法の中で最も複雑で危険な物の一つです。いい加減な態度で授業を受ける者には出て行ってもらいますし、二度とこの教室には入れません。」

 

 彼女は注意を終えると目の前の机に魔法をかけ豚に変えてみせた。ハリーやロンに限らず、教室にいた生徒たちは全員感激し、自分も試したいとソワソワする。

 彼女は呪文を唱えさせる前に複雑なノートを採らせるようだ。黒板に向かい板書を始める。早く呪文を使ってみたい生徒たちはお預けをくらいながらもノートを取って行く。

 

 

 取らなければどうなるかは、先ほどの注意からもわかっているからだ。黒板を書き終え、それについて説明を終えた彼女は、一人一人にマッチ棒を配り始めた。

 マッチ棒を針に変えろと彼女は言う。それからマクゴナガルは呪文を生徒たちに教えて、自ら手本を見せる。そして、さあ、やってみなさい、と実技の時間となった。

 

 しかし、実技が始まってから数十分。誰も成功の声をあげない。生徒たちはこの変身術の授業が実はかなり難しいということを悟り始めた。

 

「どうやったら出来るんだろう」

 

 ハリーが愚痴るように呟く。彼は呪文をかけたが、マッチ棒は一ミリたりとも変化しない。

 

「イメージするのよ。マッチ棒を良く見て、針を良くイメージするの。こうよ」

 

 ハリーの前で呪文を唱える。すると、マッチ棒はみるみるうちに鋭い針へと変化した。

 

「おみごとです、ミス・リラータ。グリフィンドールに10点。さあ、みなさんもミス・リラータを見習って頑張ってください」

 

 いつの間にか背後に立っていたマクゴナガルは朗らかな笑顔でサルビアを褒めた。変身術は得意だ。常日頃から使っているからこの程度出来て当たり前だ。だが、褒められて悪い気分ではないし、印象は良かろう。

 結果、この授業で少しでも変化させられたのは、完璧に変化させたサルビアを除いてハーマイオニーだけだった。

 

 そんな風に日常は過ぎていく。城の尖塔の上で授業があったと思えば次は地下牢であったり。まったく程度の低い興味もない授業を受け、更に移動で死にそうなサルビアであった。

 スリザリンとの合同授業だが、どうってことはない。嫌味なマルフォイの言葉など馬耳東風。そんな塵屑の言葉など聞く価値はない。

 

 今、興味があるのは魔法薬学教諭の話だ。

 

「素質ある者には伝授しよう。人の心を操り、感覚を惑わせる技を。名声を瓶の中に詰め、栄光を醸造し、死にすら蓋をする、そういう技を」

 

 死に蓋をする。そういう技をこの教諭は教えてくれるのだという。果然やる気が出てきたと言わざるを得ない。だから、サルビアは隣でノートを取っているハリーに向かいそうなスネイプが気が付くように手を挙げた。

 多少驚いたようだが、

 

「何かな?」

 

 スネイプは無視することはなかった。

 

「本当に、教えていただけるのですか。死に蓋をする術を」

「本当だとも。君は……リラータだったかね。君に素質があるならば。知りたいのかね?」

「ぜひとも」

「ふむ……ならば今ここで、君の素質を見てやろう。隣に座っている、力を持っているから授業を聞かなくとも良いと思っている自信過剰な者にもな」

 

 ハーマイオニーに小突かれたハリーは自分もまきこまれたことに気が付いたようだ。

 

「ミスター・ポッター。その名も高きミスター・ポッター。さて、リラータもだ。アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」

「…………わかりません」

 

 ハリーは即座に断念。

 

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じると生ける屍の水薬と呼ばれる強力な眠り薬になります。スネイプ先生。ただ、それだけではなく刻んだカノコソウの根、催眠豆の汁を加える必要があります」

 

 サルビアは答えてみせた。この程度ならば知っている。強力な眠り薬。活用しない手がないだろうが。その材料どころか、作り方も、利用の仕方も全部頭に入っている。

 

「ふむ。リラータはきちんと予習をしているようだ。しかし、ポッター。どうやら、有名なだけではどうにもならんらしい。

 では、ベゾアール石を見つけて来いと言われたらどこを探す」

「…………わかりません」

「山羊の胃の中です。ほとんどの薬の解毒薬になります」

 

 ベゾアール石もまた、良く探したものだ。ほとんどの薬の解毒薬になるということは、毒に対して聞くという事だ。

 その解毒作用を使い死病に対して対抗してみようとしたことがあった。そのために、山羊を数百は殺してベアゾール石を集めたものだ。

 

 結果は見てのとおり意味を成さなかったが、切り裂きの呪文と引き寄せの呪文の練習にはなった。

 

「ポッター、隣の友人を見習ったならどうだね。まったく。では、モンクスフードとウルフスペーンとの違いはなんだね?」

「…………わかりません」

「どちらも同じ植物で、トリカブトのことです。その塊根を乾燥させたものは漢方薬や毒として用いられます」

 

 これも使った。漢方薬としてどれほどの量を飲み干してきただろうか。辺り一面に咲いていたトリカブトが消えるくらいか。

 それだけ飲んでも効果はなかった。むしろ飲み過ぎで胃が破裂した思い出がある。食道は破れ、腸は捻じれたか。あの頃はまだ物心付いたころだった。懐かしい思い出だ。消え失せろ。

 

「良く予習をしているようで何よりだ。さて、リラータ。君に免じてグリフィンドールに1点やろう。しかし、ポッター、君はまったくダメだな。グリフィンドールは2点減点だ。

 教えてやろうポッター。アスフォルデルとニガヨモギを合わせると、ミス・リラータが言った通り強力な眠り薬となる。余りに強力なため『生きる屍の水薬』と言われているほどだ。ベゾアール石も彼女が言った通り山羊の胃を探せば見つかる。モンクスフードとウルフスベーンは同じ植物で、トリカブトの別名でもある。毒にもなれば薬にもなる。

 さて、諸君、何故いま言ったことを全てノートに書き取らんのだ?」

 

 一斉に羽ペンを取り出す音と羊皮紙を取り出す音がした。減点されたことなど気にする暇などなく、覚えている限りノートに書きとって行く。

 その後、スネイプは生徒を二人組にわけておできを治す簡単な薬の調合をさせた。サルビアはハーマイオニーと組み、ハリーはロンと組んでいた。

 

 無論、サルビアと優秀なハーマイオニーのペアが失敗することはなかったが、やはり褒められることはなかった。気にするまでもない。

 ネビルが酷く失敗して酷いことになったが、それも気にすることはない。グリフィンドールが幾ら減点されようともサルビアには興味の対象外だ。

 

 それよりも気になるのは、

 

「先生、それで私の素質はどうでしょうか。是非とも先生の秘術を伝授してもらいたいのです」

 

 授業終わり、スネイプの下へ向かう。

 

「他の生徒よりは見どころがあるが、その程度だ。……諦め給え」

「……そうですか」

 

 ふん、言っているが良い。ならば超優秀なところを見せ続けてやる。良いから役に立てよ。お前の秘術を私に寄越せ。

 

 そして、授業のない金曜日の午後。郵便によってネビルに思い出し玉が送られてきたりシェーマスが爆発したりしたが平和だった。

 日刊預言者新聞でグリンゴッツに強盗が入ったことが報道されたが、ハリーとサルビアは713番金庫は既に空になっていたことを話した。

 

 そう賢者の石だ。賢者の石を狙う者がいたわけだ。サルビアはそんなことを考えていた。少なくともここに移された事実は知らなかったようである。

 

「何が入れられてたんだろう」

「さあ、そんなことより課題をしないとね、ハリー」

「うぅ」

 

 そう言いながらハリーの好感度を稼ぐため今日も今日とて勉強を教えるサルビアなのであった。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 次の週の木曜の朝、待ちに待った飛行訓練である。サルビアは死にそうな顔をしていたがハリーはとても楽しみであった。

 二十本の箒が地面に整然と並べられており、マダム・フーチの指示で、みんな箒の横に立つ。

 

「そして、こういうのです。上がれ」

 

 右手を箒の上に出して、上がれと唱える。たったの一度でハリーの手の中に箒が収まった。あのハーマイオニーですら苦戦している。

 ロンなんて箒が頭にぶつかったほどだ。少し笑ってしまった。

 

「上がれ」

 

 やる気なさそうに唱えるサルビアも箒が浮き上がる。

 

「皆箒を持ったわね、そしたら、またがりなさい。笛で合図したら全員で地面を蹴り浮き上がりなさい。しばらく浮いて、前かがみになって降りて来なさい。良いですね」

 

 全員が箒を手にできたところで、箒にまたがり、マダム・フーチが笛を吹いた。まず浮き上がったのはあのネビルだった。

 しかし、制御できていない。ハリーの心配、そんままに彼はどこかへ飛んで行き、城壁にぶつかって挙句、像に引っかかり落っこちてきた。

 

「ああ、手首が折れてる。大丈夫よ、しっかりしないさい。医務室に行きましょう。他のみなさんは地面に足を付けて待ってなさい! もし飛ぼうものなら、クィディッチのクを言う前にホグワーツから出て行ってもらいますよ」

 

 そう言ってマダム・フーチはネビルを連れて医務室へと向かって行った。

 

「見たかあの顔。思い出し玉があれば、綺麗な落ち方を思い出すさ」

 

 それを機会とばかりにマルフォイがネビルが落とした思い出し玉を拾い、馬鹿にする。

 

「それを返せよマルフォイ!」

 

 ハリーはそれが許せなくて突っかかるが、相手の思うつぼだ。

 

「嫌だね、ロングボトム自身に探させる……屋根に置こうか」

 

 そう言って彼は箒にのって浮き上がって行った。ハリーは迷うことなく箒にまたがる。それをハーマイオニーが止める。

 

「飛んじゃダメ! 先生に言われたでしょう。退学になるわよ! それに、飛び方も知らないのに!」

「…………」

 

 それでもハリーは飛ぶつもりだった。マルフォイにネビルが馬鹿にされたのだ。友達が馬鹿にされて黙っていられるほどお人好しではない。

 

「やめなさい。先生が戻ってくれば、彼は退学になるだけよ。あなたまでその危険を犯す必要はないわ」

 

 サルビアも止めてくる。それはそうなのだろう。それでも、

 

「…………」

 

 ハリーは飛んだ。

 

「なんて、馬鹿なの」

「…………」

 

 二人が後ろでそんなことを言っていたが、ハリーは聞き流し、

 

「それを返さないと箒から叩き落とすぞマルフォイ!」

 

 マルフォイと並びそう宣言する。マルフォイはそれを嘲笑うように思い出し玉を見せつけてくる。

 

「嫌だね」

 

 宣言通り叩き落とそうとするが、躱される。

 

「取れるもんならとってみろ!」

 

 そして、思い出し玉を全力で投げた。

 

「――!」

 

 即座に反応してハリーはそれを追った。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「おいおいおいおい!」

 

 何をやっているんだあの馬鹿は! サルビアは、思わず声をあげてしまうほど気が気ではなかった。あれでハリーが死んでみろ計画が台無しだぞ。

 だというのに、あの馬鹿は箒に乗ってダイブを敢行しやがった。良いだろうが、思い出し玉程度。あんなものに命を賭ける理由がどこにある。

 

 だが、ハリーは更にスピードを上げる。馬鹿のように凄まじい速度のままダイブを敢行し、ぶつかる直前にキャッチして見せたのだ。

 歓声を上げるグリフィンドールたち。まずはロンが一番に降りてくるハリーへと向かって行った。あのハーマイオニーですら。

 

 サルビアは動かなかった。その後、マクゴナガルがやってきて、ハリーを連れて行ってもサルビアは動かなかった。

 ハリーが退学にならずグリフィンドールのシーカーになったと聞いた時ですら彼女は、何も言わなかった――。

 

 




授業風景をお送りいたしました。ハリー視点が少なくて少し悲しい。

サルビアの得意科目変身術。常時変身してるのだから当たり前ですね。

しかし、それ以上に大変なのは授業の教室への移動。体力がない。病弱薄幸美少女であるサルビアちゃんには移動教室だけで大変です。

しかし、逆十字ということを知らなければとことんハリーを心配するただの美少女ですねサルビアちゃん笑。

次回は、ハロウィーンです。

そして、賢者の石最終局面を構想しました。ダンブルドアに殺意が湧きました。


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