ハリー・ポッターと病魔の逆さ磔   作:三代目盲打ちテイク

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第37話 代表選手

「ロナルド・ウィーズリー――!」

 

 その名前が呼ばれた瞬間、何かの間違いだと思った。だってそうだろう。自分が呼ばれるはずがない。自分はどんなに高く見積もっても普通の生徒なのだ。

 特別な出自があるわけ(ハリー・ポッター)じゃない。学年でもトップクラスの才女(ハーマイオニ・グレンジャー)じゃない。この学校一の天才(サルビア・リラータ)でもない。

 

 誰かと間違っているんじゃないのか? そう思う気持ちの方が強い。ダンブルドア校長先生が、誰か似たような名前を呼んだだけかもしれない。

 そうだ、そうに違いないと思って気を落ち着かせようとしても無駄だった。

 

 ダンブルドア校長先生が名前を告げた瞬間、全ての視線は自分へと向いていた。誰もが、なんでお前の名前が? という視線。

 それは一番、自分が言いたい言葉だった。

 

 ――なんで、僕が。

 

 年齢線なんて越えられるはずがない。誰かが勝手に入れたのかもしれない。だとしたらなぜ? 自分にはそんなことされる覚えもない。

 まさかマルフォイたちの嫌がらせか? 去年からすっかりなりをひそめたマルフォイが、こんなことをするのだろうか。

 

「行きなさい。あなたが行かないと話が進まないわ。あなたが考えても仕方ないのだから」

「わ、わかった」

 

 サルビアに背中を押された。だから、あまりのことに今にも逃げ出しそうになる足を必死に前に出して他の代表選手が向かった扉に入っていく。

 扉の先はゆるい螺旋の階段で下へと向かっていた。

 

 部屋に入ると多くの肖像画に描かれた人からの視線が集中し、そして先に入っていた代表選手たちも少し遅れて気がついた。三人ともなんともいえない表情をしている。

 

「どうしたのあなーた。私達に何か伝言でもあるの?」

 

 フラー・デラクールは、ロンを代表選手に伝言を伝えにきたメッセンジャーか何かだと思っているようだった。その言葉を聞き、残る二人もこちらへと近づいてくる。

 どうやら、この三人の中ではメッセンジャーとして認識されているようだ。

 

 そりゃそうだろう。ロンの名前は一年目の事件のこともあってそれなりには有名だ。その学業成績がふつ……かんばしくないこともまあまあ知れ渡ってしまっている。

 だから、四人目の代表選手として選ばれてきたなど。想像もできないだろうから仕方がないと言える。

 

 とりあえず、どうしようかと迷っていると後ろの階段から勢いよく扉が開かれる音が響く。

 荒くして校長や教員をはじめとする対抗試合の関係者が部屋へと入ってきた。

 

 その中で、誰よりも先んじて近寄ってきたのは、バグマンだ。

 

「いやいや、これは凄い! まったく驚きだ! 諸君驚きたまえ! 信じがたいことかもしれないが、たったいま新たに代表選手が選ばれた! 四人目の代表選手だよ!!」

 

 バグマンを何言ってんだこいつという目で見る三人。それも当然だ。

 そんなことをいきなり言われたらロンですらそんな目をする。

 

 それからマダム・マクシーム校長とカルカロフ校長と共にダンブルドア校長先生が激しく言い争いながらやってきた。

 

「炎のゴブレットに名前を入れたのか?」

「い、いいえ」

 

 否定する。

 

「上級生に頼んで炎のゴブレットに名前を入れたのかね?」

「いいえ」

 

 それからふと思いついたことがある。

 

「その言い方だと上級生に頼めば下級生でもゴブレットに名前を入れられるように聞こえるのだがな、ダンブルドア?」

 

 カルカロフ校長がダンブルドア校長へと詰め寄っていく。

 

「そうじゃの、カルカロフ……ワシの不備じゃ」

「であれば、ホグワーツから選手が二人も選ばれた以上、残る二校からもあと一人選手が選ばれるまで選考を行うべきだと私は思いますがね」

「君の言いたいことは分かる。しかし、ゴブレットの炎は先ほど完全に消えてしまった。次の試合が訪れるまで再び火が灯ることはない」

「ほう? では今回の試合にホグワーツは二人の選手で挑むと仰るか? 対し我々は一人の選手で挑まなくてはならないと?」

「そんなのは、とてーも認められませーん!」

 

 カルカロフ校長の言葉にマダム・マクシーム校長も同調して声を荒げる。

 それは当然であるが、しかしそれではどうしようもないこともあるのだ。

 

「かははは、わやじゃのォ。なら、俺に良い考えがあるんじゃが聞くか?」

 

 この剣幕の中一人、涼しげに笑っている石神静摩がそう言う。

 

「何かあるのかのう」

「おうよ、そこの坊主を俺んとこの代表っちゅうことにすれば万事解決よ。三校対抗じゃのォて、四校対抗になるがのォ!」

「ふむ、なるほど」

 

 確かにそれは名案と言えた。ホグワーツ代表として見るからいけないのであって、別の学校の代表としてみれば問題はない。

 ただし、ホグワーツ生であることにかわりはないため、根本的な問題の解決にはならないような気もするがこのまま三校で進めるよりは問題がないように思える。

 

「なぁに、一時的にこっちの学校の生徒っちゅうことにすればええでよ。こっちの制服もまあ、もっちょるしのぅ。納得はできんかもしれんが、ホグワーツの一人勝ちっちゅうのは避けられるでのォ」

「確かに、納得は出来んが」

「一人で相手するよりはましでーすか」

「それにのォ、こんなは14のガキじゃわ。俺らんとこが間違っても優勝することなんぞなかろうしのォ! 見てみぃこの顔。とても優等生には見えん。見てみぃ、こいつが勝てると全員、本気でおもっちょるんか?」

 

 静摩の言葉に、全員が消極的に頷く。流石にダンブルドア校長先生やマクゴナガル先生などは頷いてはいなかったが、スネイプなどはこれ幸いとばかりに頷いていた。

 更には、

 

「校長方、このウィーズリーですが、授業もろくに聞かず問題ばかり起こす問題児。魔法もそれほど使えるわけではない。試合に出したところでなにもできますまい。その男の言うとおり勝てる確率などないでしょう」

 

 そんないらぬ援護まで出して来る。

 

「そういうことなら私はこの意見に賛成するとしよう。四校目の参加者として認める」

「私もでーす」

「うむ、良かろう。ではシズマ殿」

「おうよ、そういうわけじゃ坊主。しばらくの付き合いになる」

「は、はい」

「さて、話もまとまった。ではバーティ、早速第一の課題について説明をお願いしたい」

「よろしい」

 

 ダブルドア校長先生に言われてクラウチが説明を始める。

 

「最初の課題は君達の勇気を試すものだ。この場では詳しいことは伝えない。なぜなら、未知のものに遭遇したときの勇気とは、魔法使いにとって非常に重要な資質であるからだ。

 課題は十一月二十四日に全生徒及び審査員の前で行われる。選手は課題に取り組むに当たって誰からの援助を得ることは許されない。武器は杖だけ。第一の課題が終了した時点で第二の課題についての情報が選手に与えられる」

 

 クラウチが説明を終えるとこの場は解散となり、クラウチとバグマンが部屋から出て行った。

 壁際に立つ石神静摩とこの後のことについて話す為に最後まで残ることになったので、他の人たちを見送る。

 

「がんばーてーくださーいf」

 

 フラーには同情されるようにそう言われた。

 

「勝つのはヴぉくだ」

 

 ビクトール・クラムにはそう言われた。あまり眼中になさそうである。

 

 それから石神静摩が、

 

「さて、それじゃ今後のことじゃが。とりあえず、これに着替えりぃ」

 

 そう言って日本の魔法学校の制服が手渡される。軍服のような黒い制服だ。きてみると、

 

「見事に着られとるのォ。まあ、ええわ。今後、お前さんは日本の魔法学校の生徒よ。ホグワーツ出身のまあ、編入生ってところじゃ。期間限定じゃがの。一応、魔法契約でそういうことにしちゃる。なぁに、心配せんでもええぞ。特になにもなし、いつも通りでええ」

 

 そりゃ、いつも通りにするなと言われるよりは楽ではあるが、この格好は酷く落ち着かない。

 

「さて、それじゃ、今日はもう寮に戻れ」

 

 静摩に言われ、部屋から出て大広間への階段を登っていった。

 もう大広間にはもう誰も残っておらず、宙に浮かぶ蝋燭とくり抜きかぼちゃだけが光を放ちながら浮かんでいた。

 

「やあ」

 

 大広間の出口近くにまで来たところで、そこにいたセドリック・ディゴリーが話しかけてきた。

 

「一応は別の学校の生徒扱いだけど、実際は同じホグワーツの生徒だ、お互い精一杯頑張ろうね」

「あ、はい」

 

 出口で分かれて、一人寮への道を歩いていると、自分が代表に選ばれたのだという実感がわいてきた。他校の生徒扱いだけれど、代表は代表だ。

 みんな驚くだろう。なんて言ってやろうか。そう思いながら寮に戻ると、大歓声をもって迎えられた。

 

「どうやったんだよ、まさかお前が選ばれるなんて!」

「なんだ、その制服、似合ってねえな!」

 

 フレッドとジョージがそうはやし立てる。

 

「す、すごいよね」

「どうやったんだよ、教えてくれても良かっただろ」

「一番にやられんなよ」

 

 ネビル、ディーン、シェーマスがそう言って背中を叩いてくれる。ネビルは叩いてないが、しきりにすごいよと言ってくれた。

 気分が良い。これが有名になるということなのかと思わずにはいられなかった。いつもは見向きもしないような人から色々と言われる。

 

「ハリーたちはいる?」

 

 それから一向に姿を見せないハリーたちを探す。色々言ってくる寮生をかきわけて、いつもの暖炉横の定位置へと向かうと、そこでまったく興味がないのか本を読んでいるサルビアとやってくるこちらを見ているハリーとハーマイオニーがいた。

 

「やあ」

「ええ」

「…………」

 

 会話が続かなかった。もっと何か言ってくれるものだと思っていたのだが。

 

「代表選手に選ばれたよ」

 

 そう言うと、

 

「え、ええ、おめでとう。どうやって選ばれたの?」

 

 ハーマイオニーがそう返してくれる。

 

「それがわからないんだ。ハーマイオニーかサルビアならわかるかなって思ったんだけど」

「あなたは入れてないのよね」

「そうだよ。入れてたら君たちに言うよ」

「そうね……」

 

 ハーマイオニーが可能性について考える。

 

「ハリー、どうしたんだいさっきから黙って?」

「……なんでもないよ。おめでとう」

「?」

 

 ――変な奴だな。

 

「サルビアは、何かわからないかい?」

「…………」

 

 ちらりと本から視線をあげて、こちらを見てまた視線を本に戻してから言う。

 

「そうね。誰かが入れたんでしょ」

「でも、なんのために? 私もそのことは考えたけど理由が思いつかないのよ。ハリーなら、ちょっとは思いつくんだけど」

「それはどういう意味だいハーマイオニー」

「あ、ち、違うわよ。そういう意味じゃなくてね」

「ハリーならゴブレットに名前を入れて狙われてもおかしくない理由がある。あなたにはない。ただそれだけよ」

 

 サルビアの言葉にむっとする。ハリーならって。なんだよ。今は僕が選ばれたんだぞ。ハリーじゃない。

 

「案外理由なんてないのかもしれないわね。ただ適当に書いたものがそういうものだった。そういうこともあるかもしれないわ。だって、意図なんてまったく感じられないんですもの」

 

 何かを誰かが企むのならそこには必ず意図がある。暗躍する理由。

 生きたいや、誰かを陥れたいという意図や理由がそこには存在するのだ。

 

 だが、今回の件に関してはまったくと言ってよいほど感じられない。なぜロン・ウィーズリーなのだ。彼を害して誰が得をする。

 得をしそうなのはルシウス・マルフォイくらいだが、こんなせこい手を使ってもさほどアーサー・ウィーズリーにもダンブルドアにも打撃を与えられないだろう。

 

 そもそも、そういうことをするならサルビアに事前に連絡があるし、この会場にも来ていたはずだ。だが、それもない。

 選ばれたのはハリー・ポッターでもなく、サルビア・リラータでもない。脇役としか言えないロン・ウィーズリーだ。

 

 特に何か特別なものがあるわけではない平凡な少年。まさか闇の陣営がハリーを苦しめたいからこのような回りくどいことをやったとでもいうのだろうか。

 そうであれば、何とも阿呆なことであるとサルビアは馬鹿にするだろう。

 

 だが、そのためだけに危険を冒すだろうか。ダンブルドアの目をかいくぐり年齢線を越えてロンの名前をゴブレットに入れる。

 割に合わないだろう。

 

 ゆえに、サルビアが出す結論は、

 

「何の意図も理由もない。これだけ考えてもまともな意見がでないのであればこれをやったのはまともな奴ではないということ。そもそも、あなたにそんなことを考えている余裕があるのかしら」

「え?」

「そうよ、ロン。本当に大丈夫なの?」

「え、えっと、だ、大丈夫だよ。僕は代表なんだから」

「そ、まあ、それならそれでいいわ」

 

 サルビアは、興味を失って本へと視線を戻す。

 

「…………」

 

 ハリーはその間もずっと黙っていた。ロンを見て。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 選ばれることなんてないと思っていた。

 だってまだ14歳だ。選ばれるはずがない。

 だけど、友達のロンが選ばれた。

 この感覚はなんだろう。

 喜ばしいはずなのに、素直に喜べない。

 この感覚はいったいなんだろう。

 




感想のままに書き上げたのを昼に投稿しますねー。

盲打ちが場を収めましたね。流石盲打ち頼りになるわー(白目)

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