ハリー・ポッターと病魔の逆さ磔   作:三代目盲打ちテイク

32 / 71
第30話 終息の逆さ磔

――逆さ磔は駆動する。

 

 強靭な意志が、暗黒の太陽の如き意志が、全てを贄として生きんと咆哮する。生きる、生きる、生きる。その執念は何よりも強く。

 ただ一人で、全人類すら凌駕するほどの力を生み出していた。

 

「逃げても良いわよ。その瞬間、教師としてのお前は死ぬ」

「逃げんよ、サルビア」

「そう」

 

 奪った莫大な魔法力。生命力、技術。それら全てを用いて、蹂躙してやる。持てあますものなどなにもない。全ての技術は問題なくしよう出来る。それが出来るほどの才覚をサルビアは持っているのだから。

 良いから寄越せよ。己が病に侵され死ぬという間違った理を正す為、分相応に叩き落として、生贄として踏み台にしてやる。

 

 生きるのだ。生きることに善いも悪いもないのだから。生きる。生きたい。それだけは嘘偽りのない真だ。ただ、生きたいのだ。それは生物にとって普遍的なものだろう。

 抱いて当然の感情だろう。生物の至上命題として、生きることに必死になることの何が悪いというのだ。例え、自分が生きるのに人類全てを生贄にする必要があるというのならば迷わず生贄に捧げてやろう。

 

 生きることに必死になることは悪いことではないのだから。生きるために他者を害するのは生物として基本原理だ。

 生きるのだ。必ず。何があろうとも。何をしてでも。リラータたる己こそが至高だ。そんな己が死んでいいはずがないのだ。

 

 少女の自負は暗黒の太陽めいて、執念という名の毒と病の猛牙を撒き散らす。何より強く、誰よりも、生きる為に。

 

『バジリスク! その男を襲いなさい!』

 

 まずは邪魔者を排除するとばかりに、残りのバジリスクを嗾ける。

 

「セブルス!」

「――――くっ!」

 

 再び床を突き破って現れるバジリスク。五体の大蛇がその口を広げてスネイプへと向かう。即座にダンブルドアが反応し呪文を唱える。

 凄まじい速度の杖さばき。もはや動く手が見えないほどの速度で紡がれた魔法は、最強の名をほしいままにするにふさわしい威力で以て、バジリスクを討滅する。

 

「そうそう忘れていた。役に立てよ塵屑」

 

 ならば、バジリスクに連れて来させた塵を利用する。

 

「――――っ!」

「エクスペリアームス!」

 

 若い声が武装解除の杖で吹き飛ばそうとして、しかし、ダンブルドアに阻まれる。凄まじい速度で紡がれた武装解除と気絶の呪文によって一瞬にしてドラコ・マルフォイは杖を吹き飛ばされる。

 まったく考慮していなかった事態にすら即座に反応して反撃する。流石は最強の魔法使いか。

 

「なら、バジリス――」

「や、り、なさい!」

 

 その時、かろうじてマクゴナガルが声を上げる。同時に、三方向からサルビアを石像が襲う。

 

「まったく、この程度のことも理解できないのかしら、お前たちは。馬鹿な塵屑どもめ」

 

 遅い来る石像をサルビアは殴りつけて粉砕して見せた。奪ったのだ。奪い尽くしたのだ。禁じられた森のありとあらゆる魔法生物を、数万人のマグルからありとあらゆるものを。

 塵というなの贄は、今もサルビアの背で逆さの磔に捕えられている。奪ったものの大きさはもはやダンブルドアですら及ばない。

 

「それでも、諦めるわけにはいかん」

 

 ダンブルドアはそれでも諦めず杖をサルビアへと向けた。放たれる呪文。それを防ぎ、反撃しようとするが、もう一人の敵であるスネイプがお得意の呪文を放つ。

 

「リラータ。やはり、貴様、奴と同じか」

「同じなわけないでしょ! 私が上よ! ディフィンド!」

「セクタスセンプラ!」

 

 二つの呪文がぶつかり合う。その瞬間を狙ってダンブルドアが更なる呪文を放ってきた。躱せない。直撃する。だが、ダンブルドアの呪文がサルビアを害することはなかった。

 その時、床を突き破って現れた一際巨大なバジリスクが盾となって防いだのだ。

 

「役に立ったわよ、爬虫類。褒めてあげるわ」

 

 そのままバジリスクはダンブルドアへと突撃する。サルビアは、スネイプへと即座に武装解除呪文を放つ。スネイプはそれを魔法薬の瓶を投げることで防ぐ。

 そこから更に呪文をサルビアに向けて放とうとするが、

 

「終わりよスネイプ」

「ぐ、おおおお――!?」

 

 その瞬間には、逆さ磔の呪文を叩き付けたのだ。その瞬間、スネイプの四肢が喪失し死病を押し付けられて、床に転がる。もはやこれではなにも出来ない。

 

「閉心術。ああ、確かに、それがあればある程度は防げるでしょうね。でも、だから? 心がないわけではないでしょう? ただ巧妙に隠しているだけ。だったら、こじ開ければいい。十数人分、それも一流の闇祓いから奪ってやった魔法力でこじ開けてやれば、それくらいは出来るのよ」

 

 だが、これ以上は奪えない。無理矢理の力技で四肢を奪えただけでも儲けものだ。これ以上は望めない。資質、気質を奪うなら閉心術を解かせねばならない。

 それだけスネイプが巧みだと言えばそうなのだ。そして、それはダンブルドアにも言えた。バジリスクを退けた彼は、サルビアに向けて言葉を紡ぐ。

 

「もうやめるのじゃサルビア」

「やめろ? ふざけるなよ塵がァ! どいつもこいつも私が生きるのを邪魔する。もう邪魔なんてさせない。私が生きるのを邪魔なんてさせない! 止めたいのなら止めてみろよ糞塵屑がァ!」

 

 互いに魔法を放つ。閃光が舞い、大広間が超常の力を以て沈み、崩壊する。呪文のぶつかり、世界すら歪ませるほどの魔法力がぶつかり合った。

 互いに放った呪文の反対呪文の輝きが大広間を照らす。

 

「役に立てよ、道具の分際で、私の邪魔をするなぁぁああああぁあああ――!!!」

 

 どんな呪文を放とうとも、何をしようとも力で押し切ろうとしても、その全てに対してダンブルドアは対応して見せた。

 アルバス・ダンブルドア。最強の魔法使いの名は伊達ではない。十数人分の魔法力を手に入れてなお拮抗しているというのは驚嘆に値する。

 

 防いだり、受けるたりするのではなく呪文をそらすのだ。あろうことか、直進する呪文の進行を捻じ曲げるという神業的行為すら容易く行って見せる。

 逆さ磔の呪文を叩きつけようとしても盾の呪文によって自分に効果が及ばない位置で拡散させている。

 

「だったら――」

 

 その瞬間、サルビアが踏み込んだ。魔法の熟練度、杖さばきに経験からくる勘働きは凄まじい。だが、いくら魔法に優れていても目の前にいるのは老人だ。

 ならばこそ、打撃だ。格闘だ、物理だ。そもそも、相手の得意とする土俵で戦ってやる義理などないのである。勝負の基本だ。自分が有利に戦える土俵で戦うのは当たり前だ。

 

 速度、力、武術。既に奪ったもの全てを統合して使えば人間の領域を超えて動くことが出来る。無論、そんなことをすれば人間であるサルビアの肉体は激痛に襲われる。

 ばらばらになることもあるだろう。それを闇祓いの魔女から奪った変身能力を利用して強度を高める。身体が空中分解しなければ、痛みなどないも同じだ。

 

 今更痛みの種類が増えたところで、変わりはない。病魔に年がら年中侵され続ければ、痛みなどもはやそこにあって当然のものになるのだから。

 ただの一撃で終わるだろう。そう思った、しかし、ダンブルドアが盾の呪文を張る。

 

 拳は盾の呪文を砕く。その瞬間に放たれる失神呪文。それを回避しようとすれば、命を持ったような鎖やロープたちがサルビアを拘束せんと迫ってくる。

 それらを振り払えば、また呪文が放たれる。如何に速度でもって接近しようとしても巧妙に呪文や罠を配置されて逆に距離を取らされる。

 

 年季が違う。根本的な時間の差が重くのしかかる。いかに強大な魔法力、才能があろうとも、13年の時しか生きていない少女と百年以上も生きている賢者の差は容易く覆らないということか。

 

「この、塵がァ!!」

 

 逆さ磔にくべられろ。奪い取った十数人分の魔法力でもって接近して、逆さ磔の呪文をダンブルドアへと叩き付ける。しかし、盾の呪文を呪文の軌道上に配置し、直撃する前に拡散させることによって最小限の被害で押さえられる。

 それによって彼が喪失したのは耳と左足だ。膝をつくことになるが、それでもまだダンブルドアの目は輝きを宿している。

 

「その眼が、気に入らないんだよォ!! コンキタント・クルーシフィクシオ!!」

 

 再び動けないダンブルドアに接近して拳と共に呪文を叩き込んだ。それによってダンブルドアの両腕と口を奪い、最悪の病魔をその脳髄にいたるありとあらゆる場所に送り込んでやる。

 

「はあ、はあ」

『ご主人様、捕えたぞ』

 

 ダンブルドアに退けられたバジリスクが不死鳥を捕えていた。決着だ。

 

『残りのバジリスクはどうなっている』

『もう少ない。次が最後だ』

『チッ、時間がないか』

 

 ならば、

 

「クルーシオ」

 

 サルビアはダンブルドアに磔の呪文を使う。苦しみを与える。逆十字の呪文を使って、全てを奪い尽くしてやりたいが、それでは面白くない。

 この糞塵屑はただでは殺さない。使い潰すのだ。ぼろ雑巾のようになるまで、使い潰し、思い知らせてから殺してやるのだ。

 

 そもそも、この現状になってすら閉心術を行使し、尚且つ強大な魔法力で防御するという離れ業を行っているという時点でこれ以上の略奪は不可能である。

 ダンブルドアを現状において人類最高峰の魔法使いと認めざるを得ない。それも、サルビアにはない時間をかけて辿り着いた極致であるならば、いつかサルビアも到達できるだろうから別になんら思うことはないが。

 

 だからこそ、使い潰すのだ。これ以上奪えないとあれば何のことはない。道具として使い潰す。忘却術でも良いが、それはあとまわしだ。

 生徒を寮に送り届けた教員たちが残っている。戦闘中、こちらに来ないように逐次四つの寮に量産型バジリスクを嗾けてやっていたが、役に立つ爬虫類曰く、もうすぐ全部やられるという。

 

 いつ戻ってくるかわからない現状において、ゆっくりと修正する暇がないのだ。服従の呪文で妥協するしかない。そのために、磔の呪文を行使した。その意思を奪うために。

 普通に服従の呪文を使ったところで、ダンブルドアや他の教員は抵抗するだろう。それでは意味がないのだ。完全なる傀儡にする。そして、使い潰すのだ。

 

 そのための磔の呪文だった。抵抗する意志を奪う。まずはそこからだ。ゆっくりやれない。ゆえに、最大威力の磔の呪文を叩き込んだ。一度ではない。何度も、何度も叩き込む。

 磔の呪文を行使されたダンブルドアが感じたのは、磔の呪文とは思えないほどの苦痛だった。まるで、全身が病巣になったかのようだった。痛みが、全身を苛む。

 

 それは植え付けられた病巣と相乗してダンブルドアの防壁を削って行く。もはや魔法は使えない。抵抗する意志すらも削り取られていく。

 サルビアと同等の苦しみを味合わされるのだ。常人では、健常な常人ではどうあがいても耐えられない。如何に強固な意志を持とうとも耐えられるはずがない。

 

 なぜならば、この苦しみは、健常な十代の活力に満ちた若者が一瞬にして余命数日になり、立ち上がることすらできなくなるほどの苦痛なのだ。

 この状態を常に味わい続けているサルビアの磔の呪文を喰らって、抵抗の意志を残せるはずもない。

 

「せいぜい、役に立ちなさいよ。お前たちの価値なんて、それ以外にあるわけないじゃない。クルーシオ!!」

 

 都合十度となる磔の呪文が行使され、ダンブルドアの意志は完全に削り取られた。

 

「インペリオ!」

 

 服従の呪文を行使する。それによってまずダンブルドアがサルビアの手に堕ちた。その肉体をわざわざ補填してやり、残りの教員たちにも磔の呪文を行使して堕としていく。裏切らないように入念に。

 サルビアはその全てに服従の呪文をかけ終えた。この瞬間、ホグワーツはサルビアの手に堕ちた。そう全てがサルビアの下に終息したのだ。

 

「さあ、役に立ちなさい塵屑ども」

 

 逆さ十字が燃えるままに、全てが彼女の手の中に堕ちた――。

 




なんというか、これで最終回でエピローグにいっても良さそうな展開になりました。
どうしたものかな。とりあえず、考えたいのでしばらく更新ストップします。あとメタルギアやりたいので、申し訳ありません。

考えたいのも事実なので、何かしら意見などあったら気軽にどうぞ。

今考えていること
・このままのエンドだと人類滅亡サルビア寿命で死亡か、辛うじて生きて2015年の朔へエンド

続く場合
・ピーターにシリウス、サルビアの全ての罪をなすりつけて(記憶書き換え)、無罪のシリウスを十年もアズカバンにぶちこんでたとルシウスに言わせて、魔法省の評判を落として大臣を引きずり落とす?
・ルシウスが全ての真相を暴いたことにして、彼の評価をあげて魔法大臣に? サルビアからご褒美?
・ルシウスはヴォルデモートに逆らってることになるけど、魔法界をそのまま明け渡せる方がメリットがデカイからルシウスも賛成する?
・四年目は、サルビアが掌握したホグワーツでの三校対試合を行う? ハリーは出ない。
・ヴォルデモート陣営は、ピーターが捕まったせいで、動くに動けない。手駒が足りない為。
・復活するなら五年目か六年目。こっそり復活。ルシウスにより掌握された魔法省が闇の陣営としてこっそりと行動開始?

ふむ、どうしたものかな。

とりあえず考えます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。