『蹂躙しなさい、バジリスク』
ハリーはその声を聞いた。どこからともなく響いた声。その声と共に、大広間の壁や床を突き破り、十匹の巨大な蛇が出現する。
突然の出現。予兆はハリーが聞いたという声ただ一つ。ゆえに、誰も反応すらできなかった。ただ、その巨体を見上げるばかりであった。
その瞬間、誰よりも早く、出現した大きな蛇――バジリスクが下を向く前にまるで何か起きることがわかっていたかのようにダンブルドアが即座にその杖から閃光を放った。
大広間中央で、破裂し強烈な閃光を撒き散らす。生徒たちは誰もが眼を閉じた。目を開けることすらできないほどに強い光だったからだ。
「ピエルトータム ロコモーター」
それにマクゴナガル先生が続く。彼女が呪文を唱えた瞬間、ホグワーツ城内に存在する全ての石像が、生きているかのように動き出した。
騎士の像も、動物の像も、何もかもが動きだしバジリスクを押さえにかかる。鳥の鳴き声が響き、蛇の悲鳴が上がる。
ルーピンの行動も早い。バジリスクの瞳は目を合わせれた者を死に至らしめる。ゆえに、それを封じるために結膜炎の呪いを利用した。
「セクタムセンプラ」
スネイプは、切り裂きの呪文でバジリスクの目を切り裂いていく。
「プロテゴ・ホリビリス」
続き、ダンブルドアが守りの呪文を生徒全てにかける。出現したバジリスクを避けるように展開された守りの呪文がバジリスクの進行を阻むと同時に、フリットウィックが宙に浮かせた騒ぎに乗じて割れた鋭い物体を全てのバジリスクの瞳へと突き刺していた。
「屋敷しもべ妖精たちよ!」
その声と共に、大広間に準備していたかのように無数の屋敷しもべ妖精たちが現れる。それは、ホグワーツで働いている者たちであった。
「今すぐ生徒たちを安全な場所へ」
その言葉と共に現れた屋敷しもべ妖精たちは、生徒たちを掴み、彼らと共に姿現しを行い各自の寮へと移動する。その他、多くの教員が生徒たちを逃がす。
その間の時間をダンブルドアたちは十分に稼いでいた。問題などない。目を潰されたバジリスクはただの巨大な蛇だ。
しかも、これだけの巨大でありながらまるで若い個体のように動きが洗練されていないのだ。まるで促成栽培された兵士のように。
そんなバジリスクにホグワーツの教師が負けるわけがないだろう。ダンブルドアが選んだ最高の教師たちがここにはいるのだ。
いや、むしろこれこそが狙いか。生徒たちがいなくなった大広間。ここにいるのは教員だけだ。この状況を作り出すことこそが狙いなのか。
全てのバジリスクが討伐される。
「校長、これは一体?」
バジリスクを殴り飛ばし最後が倒れた時、ハグリッドがそうダンブルドアに聞く。
「マグルの都市が襲撃されたことと無関係ではあるまい。おそらく――」
何かを言いかけた時だった。
「なによ、一人も死んでないじゃない。やっぱり、塵は塵ね」
全てを俯瞰し見下ろしながら、サルビア・リラータは現れた。彼女を知る者はダンブルドア以外、一様に驚いた。幽鬼の如き姿に、以前までの彼女を見つけられなかったからだ。
姿形は以前となんら変わらないというのに、中身だけ取り換えたかのように。そんな彼女に対して動いたのは寮監たる女だった。
「ミス・リラータ、これは、それに先ほどの言葉。この事態は、もしやあなたが――」
「そうよ、マクゴナガル。全部私がやったの。まったく、少しは殺せるかと思ったのに、促成栽培の急造品じゃ、この程度も出来ないなんて」
そう吐き捨てるように彼女は言った。そして、バジリスクの死体を足蹴にする。役立たずと言わんばかりに。
「これじゃあ、マグルの塵屑どもの方がまだ役に立つわ。ああ、そうそう、マグルの塵屑どもは役に立ったわよ。私の寿命を少しは伸ばしてくれたの。まあ、塵は塵だけど」
「なんという、ことを」
こんな生徒が己の寮にいたことが信じられなかった。怒りも嘆きも両方同時に来た。今まで、気が付かなかった自分に憤るし、彼女をこのままにしておくことができないという義憤もあった。
それは大方これを聞いていた先生方にも言える。スネイプだけは、何を考えているのかわからないように端に立っている。
「やはり、君はあの人の娘だったということだね」
「どうとでもいいなさいよ人狼の塵屑。言葉を吐かないでよ。畜生は畜生らしく、糞塵屑の足下で尻尾でも振っていなさい。私は生きる。何をしても! やれ巨大塵!」
「任せてくだせえ、サルビア!」
その瞬間、ダンブルドアの背後に立っていたハグリッドがその拳をダンブルドアへと叩き付ける。しかし、それダンブルドアの盾の呪文に阻まれた上に、即座に気絶させられてしまった。
「まったく、役に立たない巨大塵ね」
「ハグリッドに何をした」
「あなたの立ち位置に私を置いたのよ」
忘却呪文によって記憶を修正した。ダンブルドアを綺麗さっぱり消して、そこにサルビアの存在を滑り込ませたのだ。
服従の呪文は呪文を解かれればそれで終わりだが、忘却呪文は記憶を修正した時点で呪文の効果は終わる。つまり、一度修正してしまえば終息呪文だろうが、洗脳とも言うべきその効果を抜くことはできないのだ。
「なんということを!」
誰も彼もが彼女のやった行為に対して憤る。個人の記憶をもてあそび、あまつさえダンブルドアを最も尊敬している優しいハグリッドに襲わせたのだ。
そんな怒りの視線を受けながら彼女は、杖を向けてただ呪文を唱えた。
「コンキタント・クルーシフィクシオ!」
「プロテゴ・トタラム!」
即座にダンブルドアが守りの呪文でそれを防ぐ。暗い漆黒が盾の呪文に直撃すると同時に広がりを見せた。まるで病が感染するが如く。
しかし、何も起きない。なんの呪文だと、教員が警戒しているその時だ、
「――ぇ? ――ッ、ごはっ」
まず、マクゴナガルが倒れた。
逆さ磔、逆十字。そんな名の呪文は、略奪し押し付ける呪文。対象が誇る何か、重要に思っている宝、手足や臓器という単純な肉体器官はもちろんのこと、気質や能力、魔法力と言った無形のものまで奪い取る。
奪い、そして、自らの死病と交換する。それが、この呪文。唱え、十全の効果を発揮するには、漆黒の病魔の霧とも言うべき呪文の顕現にふれて、サルビアに対して、悪感情、負の感情を抱き、彼女が対象を羨ましい、輝きが欲しいと思うこと。
そうすることで初めて、呪文は効果を発揮する。ゆえに、警戒し、彼女に対して怒り、義憤、憎悪、嫌悪、忌避、憐憫ありとあらゆる悪感情を抱けば最後、呪文は最大効率でその効果を発揮する。
その最初の犠牲者がマクゴナガルだった。ただ、それだけのことだ。彼女が弱いのではない、この呪文が凶悪すぎるのだ。
平たく言えば、興味だ。相手を知らなければ抱きようがない心であり、戦闘の場でその思いを封殺することは不可能に近い。
なぜならば、敵を知り、己を知れというのが兵法の基本である。魔法の決闘もまた然り。それだけは変わらない。相手を知ろうとし、相手の使う呪文を予測する。
これでは誰もこの呪文からは逃れられない。閃光に直撃しなかったとしても、弾けた病原菌のような漆黒に触れれば最後、呪文に嵌る。
そもそも、サルビア・リラータを無視することが不可能なのだ。凄まじい凶源としての己を猫を被ることなく晒した彼女を無視することはできない。
彼女を前にして、無関心を貫くのは人間として、いや、生物として終わっている。彼女を前にして、無関心を抱ける者など、自然災害以外にありはしない。
彼のヴォルデモートですら例外ではない。人である以上、人並みに感情を抱けば最後、彼女の呪文は効果を発揮する。
ゆえに、その毒牙はマクゴナガルを貫く。いきなり両の眼球が奪い取られ、換わりと言わんばかりに規格外、常識外の末期的腫瘍を脳髄に植え付けられたのだ。
もはや、立ち上がることも考えることすらも不可能。戦うことなどもってのほかだ。健常な人間には希釈された死病と言えど耐えられるわけがない。
突如襲来した、暗黒、それと死そのものともいえる激痛を受ければ立っているどころか、杖を持つことも戦う事などできない。抵抗できず床を這いずるばかりだ。
続いて、肺、続いて片腕と、まるで消去呪文でも掛けられたかのように重要器官を喪失していく。そして、お礼とばかりに死病が次から次へと発現していくのだ。
その中で、マクゴナガルを含めて、その毒牙にかかった教員は即座に理解した。これですら、生ぬるいのだと。数倍、数百倍、数万倍に希釈されたものでしかないのだと。
むしろ、それが劣悪な状況であっても理解できるからこそ、もっとリラータという呪われし家系の深みに嵌るとすらいえる。
ゆえに、奪われ、与えられる。
「お前たちの目が気に入らなかったのよ。お前たちの病弱な私を気に掛け、見下していたお前たちの目が」
死病の感染は止まらない。彼女の杖から降り注ぐ死病、死病、死病。その全てが彼女が源泉だと信じられるだろうか。ただ一人、13年という短い時しか生きていない少女が身に宿す病であると。
信じられなかった。だが、事実だ。こんなものを抱えていれば狂うのは当然だ。むしろ、生きていること自体が奇跡と言ってもいいのだ。
その意志で生きていたという事実。おそらく、それが善性であったのならば誰よりも優れた魔法使いになっていただろう。
だが、彼女は悪だ。生まれてから鬼畜外道。愛など塵屑だ。絆など無価値である。ただ一人、唯我。だからこそ、今、こうなっている。
「インカーセラス!」
ダンブルドアが呪文によって生じさせたロープ。そのロープが伸びてサルビアへ巻き付かんと疾走する。
「インセンディオ」
それをサルビアは燃やし尽くした。
そして、強大な魔法力でもって抵抗を続けるダンブルドアが杖を吹き飛ばそうが、役に立つ蟲から奪い取った魔法によって関係なく放たれる呪文に善良な者から嵌って行く。
「どいつもこいつも見下して、気に入らないのよ。塵屑の分際で、私を見下すなんて、あっていいはずないじゃない!」
それは限りなく被害妄想に近い。しかし、サルビア・リラータは病んでいる。彼女の真実は、もはや立ち上がることすらできない末期の重病人である。
そんな彼女を前にして、少しでも憐れに思わないなどできるだろうか。いいや、できはしないだろう。少なくとも、彼女が出会ってきた、彼女が重病人であることを知る塵屑たちは、全員が全員、憐憫を抱いた。
なんと憐れなのだろうと、見下したのだ。実際は、そんなことはないだろう。見下すだなんてありえない。だが、サルビア・リラータの世界では等しく全てが見下しているのだ。
視線。その全てが気に入らない。見下すなよ、塵屑共と怨嗟は募って行った。その結果が、これだ。何より尊い己に対し、不遜な見下しの目を向ける者は許さない。
そして、気が付けば残るのは、ダンブルドアとスネイプだけだった。誰かに対して意識を裂いて憂慮できる善人ほど深く深く嵌っている。
残っている二人は、呪文に対する防御を成功させることが出来るほどの人物だった。ダンブルドアはその強大な魔法力、今世紀最強の魔法使いたる所以によって防御している。
セブルス・スネイプはこのホグワーツでも類を見ない閉心術の使い手だ。だからこそ、耐えられている。
「インペディメンタ!」
スネイプが唱えた呪文によってサルビアの動きを妨害し、
「ステューピファイ」
続けてダンブルドアが失神呪文を放つ。
「だが、それがどうした?」
それを無言の盾の呪文で防ぐ。ダンブルドアたちは確かに強い。だが、サルビアは、彼に負けない才能があると自負している。
サルビアに足りないものは経験だ。そして、寿命という枷がある以上、その差は決して埋まらない。それが、サルビアがダンブルドアに勝てない理由だ。
だったら、簡単だ、奪えばいい。足りないのは時間だ。だからこそ、お前たちの時間を奪う。健康な人間から奪い磔にする。
それが闇祓いたちのなれの果てだ。あの場に来た十数人分の魔法力。それをサルビアは全て奪っている。一人一人が積み上げてきたものをダンブルドア相手にぶつける。
経験が足りない? ああ百も承知だ。それもこれも、この身が病魔に侵されているせいである。それがなくなれば、勝てない道理はない。
だからこそ、足りないものを手に入れる為に、奪った全てを叩き付けるのだ。力で押して、叩き潰す。圧倒的な力の前には技量で優れていようとも無駄であることを見せつけてやる。
絶対的な意志のままに逆さ磔が駆動する――。
ホグワーツ襲撃前編。
阿鼻叫喚の地獄ですが、マグルの都市が何者かに襲われたという情報が魔法省から共有されているため、一応、警戒していたらバジリスクが襲撃してきたとかそんな感じ。なので、対応が取れたと思っていただければ幸いです。
今回の話で重要なのは逆さ磔の原作を知らないヒトのための説明だったり。
次回は、後半戦。果たしてサルビアは無事ホグワーツを掌握できるのか。というか、この展開まじで大丈夫か? 作者色々と大変なことやっている気がしてならない。
原作どちらも大好きですよ。それだけは確かです。たりないのは私の技量。もっとうまくなりたいです。
まあ、そんなことよりもメタルギア楽しいです。オープンワールドを走り回り、熊に殺されかけたり、敵兵に殺されたり、海に落ちかけたり、敵兵に殺されたり、ダンボールでそこら辺を滑り回ったり、犬に襲われたり、敵兵を拉致ったり、マザーベースで味方を殴りまくったり、敵兵に殺されたりしてます。
もっとうまくなりたい(血涙)。
Fate/GOの方は、もう我慢できねえぜヒャッハーとかいうレベルで残りの石で召喚してみた結果、星4のマルタさんが来てくださいました。礼装ガチャって言われてるのに、鯖ばかりくる。もっと礼装が欲しい。星5礼装が欲しい。カレイドスコープを。贅沢な悩みですまない(ジーク並感)
その結果、私は英雄王からエリザちゃんをもらうことに。マリーさんはまた別の機会に。いつかきっと出会えることを信じて(泣)。
それによって、アルテラ、ギルガメッシュ、エリザベートの三騎士とヴラドという統治者万歳なパーティーが完成。バフ、デバフかけまくってからの宝具ブッパが可能なパーティーです。
こいつらが沈んでも、後ろにヴラドさんとフレンドのキャラが控えているという安心感。バランスは取れたかなと思ってます。
そんな感じで楽しんでいたり。リアル忙しくて死にそうだし、死にたくなってるけど、頑張ります。
では、また次回。