同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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川内・神通・不知火たち

 川内と神通は三戸と和子、そして不知火と話していた。川内は夕立と同じく皿いっぱいに料理を盛って手に持って食べながら会話に参加している。

 

「内田さん結構食べるよなぁ。女の子でその量って珍しくない?」

 三戸は同意を他の女子3人に求めると、その意見に賛同したのか3人共コクコクと頷いた。

「え~そうかなぁ~。あたしは普通に食べてるつもりなんだけどなぁ。てか三戸くんもっと食べなよ。君だって食べるでしょ?」

「いやまあそりゃ食べるけどさ、さすがの俺もこういう他の場じゃ遠慮するって。内田さん遠慮しなさすぎ。」

「あたしは無駄に遠慮したら負けと思ってるから。それにこれから鎮守府はあたしの居場所でもあるんだし、いいじゃん。」

 流留のついこの前までの状況を知っている三戸と和子は川内の言い分に歯切れ悪く相槌を打った。当然、川内がその手の細かい仕草や思いに気づくわけもない。

 咀嚼し終えると不知火の方を見て質問した。

 

「ところで不知火さんだっけ。どこ中?」

 非常にぶっきらぼうな言い方で川内は黙りこくっていた不知火に尋ねる。傍から聞いて言い方が気になった神通だったが、同じような無口なタイプの不知火は言い方なぞまったく気にすることなく、数秒してから口を開いてハキハキと答え始めた。

「○○中学です。2年です。」

「ふーん。艦娘になって長いの?」

「はい。私は五月雨のすぐあとなので。」

 

 川内が話題の口火を切ったため、和子も話題に乗ることにした。

「そうなんだ。五月雨ちゃんの後ということは鎮守府Aでは2番めに長いってことですよね。なにげにここにいらっしゃる艦娘の皆さんのほとんどの先輩なんですね。」

 和子の感想に神通も相槌を打つ。言われた当の不知火は褒められていると捉えたのか照れて遠慮しがちな返事を返す。

 

「いえ。まだまだ若輩です。まだ精進あるのみ、です。」

 不知火が発した言葉、その言い回しに高校生4人はまったくもって彼女の遠慮や照れなどを感じ取れないでいた。むしろ、年代の割に固い言い方だという感想しか持てなかった。

 誰もが思っていてあえて言わなかったことをズバリ口にしてしまったのは川内だった。

「不知火さんかったいなぁ~言葉遣いなんだかババくさいよ~!もっとゆるく行こうよ。あそこでキャイキャイ話してる五月雨さんたちみたいにさ。」

「!!?」

 和子と神通はもちろん、三戸も気にはなったその言葉遣い。ただ不知火のことをほとんど全く知らないため、あえて触れて反応を得る必要もないだろうと思って言わなかったことを、川内はサラリと言ってツッコんでしまった。

 さすがに3人も呆れたというより逆に反応に困る羽目になった。

 

 神通は川内の服のスカートにあたるアウターウェアを軽くクイッと引っ張って注意した。

「んっ、さっちゃん何?」

「内田さん。そういう言い方はちょっと……」

「え~だって不知火さんホントに固いじゃん。今の言い方時代劇とかでもたまにしか聞かない言い方だよ。」

「それは……人それぞれだから。」

 それ以上は言葉がうまく出てこず、口ごもってしまう。そんな神通を見かねた三戸が代わりに川内を叱責した。

「内田さん内田さん。さすがに歯に衣着せなさすぎだよ。もうちょっとオブラートに包もうよ。相手は中学生だぜ? な、神先さん?」

 神通は三戸のフォローを得てわずかに自信を持ち、川内に言葉ではなく目で訴える。

 以前の神通こと幸からは到底考えられぬ、他人への気にかけだった。別段迫力らしい迫力はなくつつけば簡単に退せそうな雰囲気で弱々しいものだが、思うところがあったのか川内は神通の目を2秒ほどジッと見た後態度を変えた。

 

「ん~わかった。さっちゃんがそういうならあたし言い過ぎたのかも。ゴメンね不知火さん。気にしないでね。」

 川内は後頭部をポリポリ掻いて不知火のほうに頭ごと視線を移して謝った。不知火は言葉こそ発さなかったが、頭をブンブンと横に勢いよく振って態度で気にしてないですという意思表示をした。

 

 

 その空気が悪いままだと気まずいと思い、三戸が話題を逸らすために改めて声を誰へともなしにかけ、話し始めた。

「そ、そういえばさ、智田さんの中学校って艦娘部はあるのかな?」

 不知火は一瞬頬をピクッとさせたあと、聞こえないくらいの音で口の中から息を吐き出した後答え始めた。先ほどまでの川内や和子という少し年上の同性への応対とはうってかわって戸惑いの色が見えていた。

 

「ええと。あります。この前司令に提携してもらって、友達と。」

 不知火は説明する内容を必死に考えながらしごく冷静に言い放つが、実際は焦りがあった。そのためか発した説明が断片的になる。声は張っていたため聞き取りやすいものの彼女のポーカーフェイスぶりはほぼ完璧で、実際は説明に戸惑っていたことなど三戸を始め和子・川内・神通が気づくはずもない。高校生組の間では、必然的に彼女の印象は次のもので共通した。

 

 

 口下手

 

 

 それは不知火こと智田知子の世間的(自身の中学校とその周辺)からの評価と一致していた。本来の感情を読みづらい分、彼女が発した言葉が余計にストレートに足りなさを感じさせてしまうのだった。

 さすがに彼女が実際に発した言葉から物事を察するのは無理だと悟り、まず三戸は和子に視線を送り支援を求める。和子はそれに気づき、不知火との会話の主導権を握って進めた。

 

 

「そうなんですか。不知火さんのところもあるんですね。お友達は何人艦娘部にいるんですか?」

「…5人です。」

「5人ですか!うちの艦娘部より多いです!うちはあそこでこそこそ話してる那珂こと光主那美恵という人と、ここにいる川内こと内田流留、神通こと神先幸の3人なんですよ。」

 不知火は和子から説明返しをされてコクコクと頷いた。

 和子は続いて質問する。

 

「お友達は5人が部にいるんですね。じゃあ艦娘になってるのは何人いるんですか?」

「……私だけです。」

「不知火さんだけですか。不知火さんはこの鎮守府で艦娘になって五月雨ちゃんの次に長いんですよね。その間自分の学校から一人で大変だったのではないですか?」

 不知火は無言で頷く。

 

「そうですよね。不知火さんは普通の艦娘?それとも学生艦娘ですか?」

「はじめは…普通の艦娘でした。」

「私達も会長から艦娘のこと色々聞いてやっとわかってきたんですけど、普通の艦娘だと学校の授業とのやりくり大変ですよね?それで学校と鎮守府の提携を西脇提督にお願いしたんですか?」

 

 和子の一つ一つの質問に答えていく不知火だが、この質問に対しては初めて(本人的には)長々と回答した。

「私は別にそうでもなくて、陽子と雪がずっと学校にお願いしてて、この前司令が来て提携してくれたのです。」

 また断片的になってしまっており、なおかつ新たな人物名が出てきたため、和子はそれを一つ一つ噛み砕くように聞き出す。

 

「えーっと、不知火さん自身はそんなに気にしてなかったですか?」

 不知火はコクリと頷く。

「で、その陽子さんと雪さん?というお友達は気にしていたと。まだ艦娘になってないお友達がどうして気にしてたのでしょうか?」

 不知火は首を傾げよくわからないという意思表示をした。和子はこの聞き方ではダメだと悟り聞き方を変えた。

 

「不知火さんは艦娘のお仕事と授業がバッティングしたときはどうしてましたか?」

 不知火は目をぱちくりさせ、数秒して答えた。

「志保と…桂子先生に頼みました。」

 また新しい人物が出てきた。これは面倒になってきたと和子は内心思ったが口に表情にも出さずに落ち着いて聞き返した。

「お友達と……先生ですね。その二人に代返というんでしょうか。相談したということですか?」

「……はい。話して休ませてもらいました。」

 

「なるほど。じゃあ先程の陽子さんと雪さんは、不知火さんのことを志保さんと桂子先生から聞いていたから気にして学校提携をお願いしていた、こういう感じでしょうか?」

 和子の長めの確認に不知火はまたしても首をかしげるが、何かに気づいたのかわずかにハッとした表情になり(和子と神通しか気づかなかった)、返事をした。

「はい。多分。」

 

 そこまで聞いてやっと和子以外のメンツはハァ…と息を吐き出して感想を言い合った。

「毛内さんすごいなぁ。よく聞きだせるよね。」

 三戸が素直に感心する。和子は少しだけ照れて前頭部につけている髪飾り付近を撫でた後答える。

「似た友人そばにいますからね。お手の物です。」

 そう言いながらチラリと神通を視線を送る和子。その視線の先に気づいた三戸は

「あぁ~納得納得。」

 とだけ言い、誰が好例だったのかには言及しなかった。

 

 神通は友人の視線には気づかず、不知火に対して感想を口にしていた。

「色々……大変なんですね。艦娘と学校の両立って。不知火さん…偉い。」

不知火は頭をブンブンと思い切り横に振り、そして一言だけ神通に向かって言葉を発した。

「神通さんも、きっとやれます。」

 

 違う学校とはいえ後輩、しかも自分に似た雰囲気の少女に鼓舞されて神通は心の底から嬉しさがこみ上げてくるのを感じた。艦娘になっていなければ自分には話せる後輩なんて絶対できないだろうと思っていた。自分を変えるために艦娘になった効果が、早速あったかもと、心の中でわずかに微笑んだ。

 ただ、傍から見ると二人とも黙りこくったまま見つめ合っているようにしか見えない。

 この二人、将来的には鎮守府Aで一二を争う、何を考えているのかわかりづらい二人組の誕生であった。

 

 時折口に料理を運びながら聞いていた川内は箸を休めて、同じく感想を口にした。

「なんか面白いね。艦娘って言ってもやっぱ普通の人の集まりなんだな~って改めて思ったわ。色んな人いて楽しいかも! いつかあたしたちもこうして新しく入る人に話す日が来るのかなぁ~。ね、さっちゃん?」

 神通はコクリと頷き、展望を語る。

「うん。自信持って話せるように……なりたい。」

 

 そう口にした神通の思いは、川内はもちろんのこと、艦娘になってない普通の立場の人間である三戸と和子も通ずるものがあった。三戸は流留を、和子は幸がそうなるよう、陰ながら支援していこうと密かに決意をしていた。

 

 

--

 

 一同が引き続き話そうとしていたその時、神通の顔と表情がこわばっていることに気づいた和子が友人の視線の方向、つまり背後を振り向くと、そこには提督がいた。残りの3人も一斉に振り向いて提督を迎える形になった。

 

「提督(司令)!」

「や!楽しんでる?」

 提督は紙コップを片手に持ち、もう片方の腕でシュッと前に手首を振る仕草で挨拶をして近づいていた。

 

「提督、明石さんたちのほうはいいんすか?」と三戸。

「あぁ。あっちはあっちで勝手にやってるよ。それよりも若い子と話したくてね。」

「提督おじさんくさ~い!」

 川内は軽い口ぶりで茶化す。

「おいおい。まだ俺33だぜ?十分イケてるだろ?」

 提督の口ぶりに川内や三戸は失笑する。本気でからかいの念を含んでいるわけではないのは提督自身にも分かった。

 和子と神通、不知火も一瞬クスッと笑うがその様子を隠し、すぐに提督をフォローする。

「はい、西脇さんはイケてると思いますよ。」

 神通と不知火は和子の言葉にコクコクと頷いて同意する。

「ハハッ。ありがとう。ところで割り込んで申し訳ないんだけど、どんなこと話してたのかな?」

 提督が誰へともなしに聞くと、それには和子が答えた。

「不知火さんの学校とも提携したって聞いたんですけど、それ本当なのでしょうか?」

「あぁ本当だよ。時期的には……そちらの高校に最後にお邪魔した翌週だったかな。ね、不知火。」

 提督の確認に不知火はコクリと頷く。

 

 提督が最後に和子達の学校に来たのは、学校提携の正式な書面での調印と艦娘部勧誘の展示の記念すべき初日であった。それを思い出した三戸と和子は事情をわかっていたので相槌を打つ。一方で川内と神通はその当時まだ艦娘の"か"の字も触れていない頃だったため、よくわからず口を挟めずにいる。

 

 それを見た三戸は二人に向かって解説した。

「あのさ、西脇提督がうちの高校に来たのって、うちの高校と正式な提携をした日なんだ。んで、艦娘部の勧誘の展示を始めた日。」

「あっ、そうなんだ。じゃああたしらが知らなくて当然かぁ~。」

 川内と神通は納得したという様子を見せた。

 

「でもうちでさえ会長が最初にお話持ちかけてから3ヶ月ほどかかっていたのに、よく急に翌週に不知火さんの中学校にいけましたね?」

 和子が聞くと、提督はその当時のことを思い出しながら語った。

「急でもないんだよ。不知火の中学校とはもともと、五月雨たちの中学校との提携が成った直後に、あちらから話をもちかけられたんだ。」

 和子達4人は黙って提督の話に耳を傾けている。

 

「当時は俺も鎮守府の責任者になったばかりで色々管理面でまだ勝手がわかっていなかった頃だからさ、五月雨…つまり早川さんたちの中学校でさえやっとこさだったのに、先方から話を持ちかけられて、ある意味手間が省けて楽だ思ったけれど、とても次の提携やよその学校から艦娘を迎え入れる体制を整えられてなくてね。それで止むなく返事を保留にしていたんだ。」

 

「提督…てか責任者ってのも大変なんっすねぇ……。」

 と三戸は同情にも似た感想を口にする。提督は三戸の言葉にフフッと笑った後説明を再開した。

 

「当時は五月雨の後に白露型と呼ばれる姉妹艦の艤装が立て続けに配備が予定されていてさ、姉妹艦なら五月雨になった早川さんの学校の生徒さんに着任させてあげたいと思っていたんだ。そうしたらいきなりまったく関係ない型の艤装が配備されたんだ。そこで不知火…智田さんの学校の生徒さんで試しにどなたか試験受けてみませんかと提案したんだ。提携はうちの運用が固まってないから、とりあえず普通の採用でいかがですかってことで。そうしたら、お友達とこぞって試験受けに来た智田さんだけが不知火に合格したというわけさ。」

 

 

「へぇ~それで五月雨さんたち白露型の艦娘の中に一人だけ陽炎型の子がいるんだね~」

「お?不知火が陽炎型ってことわかってるってことは、川内はもしかして軍艦のこと結構知ってる口かい?」

 川内が現状を確認して述べると、提督は川内の口ぶりに関心を示す。

 

「あたしだけじゃないですよ。三戸くんも知ってます。二人ともゲームで知ったんですけどね。」

「そうか。その手の知識があるのは助かるよ。」

 川内と三戸の思わぬ知識に感心を示した提督。そして続きを語り出した。

 

 智田知子が不知火に合格したことで、彼女の中学校は鎮守府との提携に俄然やる気をみせるのだが、提督は運用や交渉の手順がいまだ固まっていないことを理由に彼女の中学校へ提携は保留にさせてくれと再び断っていたのだ。

 

「……それから7~8ヶ月経つ間、早川さんの学校から生徒さんを迎え入れて着任してもらえた。そして普通に応募してきた五十鈴…五十嵐凛花さん、妙高になった黒崎さんとわずかだけど中学生以外の人を迎え入れて、俺も艦娘の責任者として運用がわかってきた。そして光主さんが那珂として着任して、今に至ると。」

 

「で、うちの高校なんすね!?」

 三戸が確認する。

 

「あぁ。正直言って、光主さんの着任とそちらの高校との提携話はタイミングがよかったんだ。俺も経験積んでようやく鎮守府の管理や艦娘の運用にも慣れてきた。光主さんは那珂としてよく働いてくれるし、アイデアもたくさんくれる。そして彼女は艦娘の活動と普段の生活で問題点と新しい運用の仕方を見出してくれた。」

「新しい運用?」

 三戸と和子、そして川内がハモった。

 

「三戸君と毛内さんは知ってると思うけど、艤装を鎮守府外に持ち出して同調を試す、このことだよ。」

「あ、なるほど。そういうことっすか。」

「三戸君たち君たちの行動も大変参考になったよ。提携を望む学校側でやる気のある生徒さんがこうして大人がやることを助けてくれるんだって。そして俺も自信がついたって言えばいいのかな。それで不知火と話して、保留にしていた彼女の中学校への返事を復活させて、無事に提携を取り付けたわけさ。実は一番時間がかかってるんだ。」

 

 提督は照れくさそうに鼻の頭を軽くこすって再び口を開いた。

「俺が自信ついたのは、光主さんがいてくれたからってところかな。突飛な発想でかき乱してくれるときもあるけど、俺や五月雨では思いもつかなかったことを教えてくれる。本当、助かってます。あ、これ、あそこにいる3人には内緒ね?」

 

 提督は人差し指を口の前に出して内緒の仕草をして三戸たちに念押しをした。三戸たちは深く相槌を打って、目の前のおじさんの密かなお願いに「はい」と小声で答えた。那珂たちはなにやらワイワイキャッキャと話していて夢中のようで提督が三戸や和子、不知火たちと話していることに気づいていないようであった。

 

「提督、もしかして会長みたいな人がタイプなんっすか?」三戸がにやけ顔で提督に尋ねた。

「な、何を言ってるんだ!違う違うそうじゃないよ。仕事上のベストパートナーっていうのかな?」

「あ~、提督赤くなってる~!」

 提督は顔を朱に染めながら平静を装って必死に言い訳をする。ただどう見ても落ち着けていない。それを見て川内が茶々を入れてからかった。

「お、大人をからかうんじゃない!」

「アハッ!提督ってばかわいいー」

 再びからかおうとする川内に対し提督は手刀をする仕草をして諌めようとするが、まったく迫力も説得力もない仕草になっていた。

 

 

--

 

 提督が落ち着いたのを見計らい、三戸は提督に尋ねた。

「ところで提督。不知火さ…智田さんが不知火になったってことは、五月雨ちゃんのとこと同じように姉妹艦になれる子をそこの中学校から着任させるつもりなんすか?」

 三戸の予想は当っていたのか、提督は彼の言葉を受けて答えた。

 

「あぁそのつもりだ。そうできればいいなと考えてるよ。」

 

 その答えを聞くと三戸と川内は顔を見合わせ小声で言葉を交わす。そののち川内が提督に向かって言った。

「提督さぁ、そうすると智田さんの学校から結構大勢入ることになるかもしれないけど、大丈夫なの?」

「ん?どういうことだい?」

 川内の言葉に三戸が続いた。

「陽炎型って、姉妹艦めちゃ多いんすよ。艦娘の姉妹艦が軍艦の方の姉妹艦と全く同じかはわからないっすけど、もし同じだとしたら大勢着任させることになるのかな~って思ったんすよ。うちの高校の艦娘部の川内型3人どころの話じゃないっす。」

 三戸の説明に提督は軽く呆けた後しかめっ面になって言葉に詰まり、考え込んだのち口を開いた。

 

「それは俺知らなかったよ。……そんなに多いのかい?」

「「はい。」」

 川内と三戸の返事がハモる。

 

「もし全艤装分の艦娘が着任したら、それだけで今のこの鎮守府の人数超えるっすよ。」

 と三戸はトドメにも等しいセリフを突きつけた。

 提督は軍艦の情報をもとにした艤装装着者、艦娘の種類について知らない点が多かったため、三戸や川内の言うことがピッタリ当てはまるなら、管理が大変になるかもと途方に暮れる。だが極めて平静を装ってこの場にいる学生たちに展望を述べる。

 

「ハハッ。まあそうだとしても、一気に全姉妹艦の艤装が配備されるわけじゃないからね。増えたら増えたで考えるさ。そうなったときは川内、君の持ってる知識で色々アドバイスほしいな。助けてくれるかな?」

「えっ、あたしなんかでいいんですか?」

「三戸君でもいいんだが、艦娘ではないしそのたびに連絡してアドバイスいただくのも申し訳ないからさ。二人は同じくらい艦隊の知識あるみたいだし、川内がいてくれると助かるんだ。」

「アハハ~。まだ艦娘として活動してないのに頼られるのってなんか不思議な感じ。うんいいよ。那珂さんほどとはいかないだろうけど、ゲームで得た知識なんかでいいならどんどんあたしを頼ってよ。」

「あぁ。よろしくな。」

 提督は川内に笑顔で声をかける。川内も、これまでの日常で趣味話を語り合っている時のような心から嬉しそうな笑顔になっていた。

 

「じゃあ若い子同士でごゆっくり。」

「提督?」一言で尋ねる川内。

「トップたるもの皆の様子をちゃんと見ないとな。ってことで別の島へ。」

 

 川内が見つめる提督は紙コップを持っていない方の手をひらひらさせて身体の向きを変えて別の集まりの方へ足を動かした。

 川内は提督と以前話したような趣味の話でもっと盛り上がりたかったが、(三戸は別として)不知火や和子たち話の合わなそうな人もいたことと、タイミングを逃したためこの場で会話を続けることはできなかった。

 

 

--

 

 提督と川内、そして三戸が仲良さそうにしていたのを見て一人だけ距離を感じていた神通は気付かれないように和子の後ろ隣に来ていた。和子は途中で気づいたが特に触れる必要もないだろうと思い神通を側にいさせた。

 ただ和子は、提督が川内に頼るような言葉をかけたその直後、斜め後ろからか細い声の

「いいなぁ~…」

という言葉を聞いてしまった。チラリと和子が斜め後ろに視線を送ると、長い前髪で隠された顔の奥の神通の瞳が半分ふさがっているのが見えた。川内が艦娘として活躍する前から頼られ自信をつけているのに対し、神通は真逆を行きそうだと感じた。

 このままではこの友人は思うように活動できないかもしれない、どうにか彼女のためになることをしなければと、和子は密かに思った。

 


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