同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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着任式当日

 着任式当日になった。その日は土曜日だ。土曜が休みの学校もあるのだが、那美恵たちの高校は土曜日も授業はあり半日で終わる。授業が終わると同時に同じクラスにいた那美恵と三千花は帰り支度を素早く済ませて生徒会室へと向かう。

 前日までに阿賀奈や1年生組全員に連絡を済ませていたので、生徒会室でしばらく待つことにした。

 

 

「いよいよだね、川内と神通の着任式。先輩としてはいかがですか?」

 三千花が珍しく茶化すようにマイク代わりのげんこつを那美恵の口元に持って行き尋ねる。

「ん~そうですね~。あたし主役じゃないけどドッキドキですよ。初同調したときのように恥ずかしいことになったらどうしよーとか思っちゃってますよ。だからみっちゃん、側にいてぇ~!」

 くねくねしながら今の気持ちを口にすると、最後に那美恵は三千花に抱きついた。

「あ゛~暑い! 真夏に抱きつくんじゃない!」

 ペチン!と那美恵のおでこはいい音を立てた。

 

 しばらくすると三戸が入ってきた。

「お疲れ様っす~。」

「三戸くん~1年生組だと君が一番乗り~!」

「うおっまじっすか! なんか本人たちよりワクワク楽しみにしてるみたいだなぁ~俺。」

 後頭部を頭をポリポリと掻きながら三戸は生徒会室に入り、那美恵たちの向かいの席に行ってバッグを置いて座った。

「いいんじゃない?外野が盛り上げたほうが内田さんたちも喜ぶわよきっと。」

「そーそー。あと三戸くんは提督を除いた唯一の男子なんだから、頑張って盛り上げてくれないと!」

「俺責任重大じゃないっすか!!」

 三戸と那美恵・三千花が冗談を言い合いながらしゃべっていると、続いてその数分後には和子・流留・幸が生徒会室に入ってきた。

 

「お疲れ様です。あ、三戸くん、先に来てたんですね。」と和子。

「おっつかれ~。おぉ、三戸くんもう来てるし。はや~。」流留は胸元をパタパタさせながら入ってくる。

「……お疲れ様です。」

 最後に入ってきた幸は至って涼しい顔をさせて一言言い、生徒会室の戸を閉めた。

「あとは……四ツ原先生が来れば皆揃って出られるね~。」

「少し待ってましょ。」と三千花。

 

 那美恵たちは生徒会室でそれぞれ適当に時間を潰した。

 

 

--

 

 開けた窓の側に立って風に当っていた三戸が流留や幸に話しかけた。流留たちは椅子に座っている。

 

「そういえばさ、内田さんと神先さんの艦娘姿、バッチリ見たよ。いや~眼福眼福。」

 やや下心ありな目線で流留たちを見る三戸に流留が反応した。

「どう?カッコ良かった?あたし決まってた?」

「うん。カッコ可愛いって言えばいいのかな。とにかくグッとキたよ。」

「う~可愛いって……あたしはカッコいいほうが~。」

 

 可愛いと言われ慣れていないのか、流留は三戸からの評価に鈍い反応しか見せない。その表情には照れなどは一切含まれていない残念そうな表情。三戸は彼女の反応を見て付け足す。

「あーいやいや。どっちかっていうとカッコいいと思うよ。あとは艤装フル装備した姿見てみたいなぁ~。絶対カッコいいよ!」

「それいいね! どうせならその姿見てもらいたいなぁ。」

 三戸の方を向いていた流留が正反対の位置にいる那美恵に視線を移して那美恵に言った。

「ねぇなみえさん。着任式終わったら艤装全部装備して海出られるのかな?」

「うーん。どうだろう。提督に言えば出させてもらえるんじゃないかなぁ。記念の日だし、それくらいは許してくれると思うよ~。」

 

 回答ともつかない那美恵からの想像を聞いた流留は三戸の方を再度向いた。

「三戸くん!もしOKもらえたら、フル装備川内になったあたしをちゃーんと撮ってよね?」

 ウィンクをして三戸にお願いをする流留。三戸はそれを受けて親指を立てて了解のサインを送った。

「うん。OK! 任せてくれよ。」

 

 

--

 

 三戸たちが話しているその端で、和子と幸は静かに話していた。二人の話題もやはり先日撮った幸の神通の制服姿やこの後の着任式である。

 

「さっちゃんどう?今ドキドキしてる?」

「……うん。それなりに。」

「そっか。そうそう、さっちゃんの神通の制服姿、なかなか可愛かったよ。」

 幸は無言でコクコクと頷いた後ぼそっと呟いた。呟いたその表情には密やかな笑みがあった。

「……ありがとう。」

 

「さっちゃんさ、どうせ普段と違う格好になるなら髪型変えれば? 前髪煩わしくない?」

 和子からの指摘を受けて、長い前髪で隠れて見えづらい表情を悩み顔に変化させて数秒悩む。前髪で隠れてなくとも和子以外の人にはその表情から感情は見えづらい。

 

「でも私……流行りのヘアスタイルわかんないし、多分似合うのなんてないよ……。」

「そんなことないと思うけどなぁ。ちょっとゴメンね?」

 

 和子は一言断って、幸の顔に両手を近づけ、彼女の顔の左右にかかっていた前髪をそうっと優しくかき分けて顔のすべてを外に出す。幸の素顔が露わになった。

「前髪をこうやってはねるようにパーマ当てるだけでも違うと思うな。私もあまりヘアスタイル詳しいわけじゃないからこれくらいしか言えないけど……。あとは会長や内田さん、鎮守府にいる他の艦娘の人たちに意見求めれば似合う髪型探してくれると思うよ。」

「……うん。」

「思い切ってイメチェンしちゃえば一気に変われるよ。頑張ってね。」

「……ありがと、和子ちゃん。」

 

 ほのかに周囲を花が舞い散ってそうな雰囲気でおしゃべりをする幸と和子。その二人を少し離れた場所で見ていた那美恵は三千花に小声で話した。

 

「さっちゃんってば前髪上げると印象すっげー変わるね!?」

「そうなの?」

「さっきわこちゃんが彼女の前髪クイッと手櫛で分けてたのちらっと見たの。そしたらすげー可愛いの!」

「へぇ。……ってあんた三戸くん並に興奮してるわね。」

 やや興奮気味になっている那美恵に突っ込んだ。

 

「あんたは漫画かドラマのヒロインかよ!って話っすよ、みちかさんや。根暗な少女が突如イケイケの美少女にって。」

「あんた……テレビの見過ぎ。そしてさりげなく悪口言ってるわよ。まあでも神先さん自信なさげなのは仕方ないとしても、前髪くらいきちんと分けたらいいのにね。」

「そーそー。さっきちらっと見たさっちゃん、かなりイケてそうなのにもったいないよ。なんとか口説いて食べちゃいたいくらい。」

 そのセリフを那美恵が言うと、また那美恵のおでこがペシリといい音を立てて叩かれた。

「だから、そういうおっさん臭い茶化しはやめなさいっての。」

「うぎぃ。でもホントに可愛かったんだよぉ。でもね、お胸の大きさはあたしが勝ってるんだよ?」

 

 その一言に三千花がやや引き気味で那美恵に向かって呟きそして詰め寄った。

「あんた……彼女に何したの? てか何見てるのよ!?」

「誤解だぁ~。ただ鎮守府で着替えてる時に見てただけなんだよぉ~。」

 弁解をする那美恵を三千花はおでこを指で押しながら問い詰める。

「なみえのことだから見ただけじゃ終わらないでしょ。何したの?」

 両手を目の前でブンブン振って否定する那美恵に対して疑いの視線を返す三千花。那美恵が次に言うセリフにまたも引くことになる。

「さっちゃんに対しては何もしてないよ。流留ちゃんは胸大きかったので思わずおっぱいにズームインしてしまいました、はい。」

カメラで覗きこむような感じで那美恵は流留の代わりに三千花の胸を凝視した。

「……あんたは……。」

 

 三千花が呆れ顔で力なくツッコむと、向かいの席にいた流留が少し頬を赤らめて那美恵たちの方を見ていた。那美恵の声が大きかったので普通に聞こえていたのだ。さらに窓際にいた三戸もなぜか顔を赤らめていた。彼は気まずそうに那美恵と流留に視線を行ったり来たりさせている。

「なみえさーん?いくらあたしとはいえ男子のいる前で自分の胸の話されると恥ずかしすぎて嫌なんですけどぉ~!?」

「ア、アハハ……そーだよねぇ~。」

「まったくもう!なみえはへんなとこ無神経だよね! そういうところこれから気をつけなさいよ?」

「はーい……気をつけます。」

 

 流留の代わりに那美恵を叱責した三千花は軽いチョップを当ててその場を締めた。

 なお三戸は那美恵の発言を反芻しようとして流留にキッと睨まれて咎められた。女子同士のそういう開けっぴろげな話に慣れてはいない流留。男子とそういうネタ話をするほど心許してベッタリしていたわけでもなく、三戸にそういう目で見られたら今後どうしていいかわからないのだった。

 

 

--

 

 20分少々那美恵たちが生徒会室でしゃべっていると、那美恵の携帯にメールが来た。阿賀奈からだ。

「お、四ツ原先生からだ~。なになに?出られる準備できたけどどこかで集まるの?だってさ。ここに来てもらっていいよね?」

「いいけど、職員室は1階でしょ?だったら私達がここ出て下駄箱に行けばいいんじゃない?同じフロアなんだし。」

「そーだね。じゃあこっちから行くって伝えとく。」

 那美恵が一旦提案するが、それを三千花が現在の状況を踏まえて対案を出す。那美恵はそれに従うことにした。那美恵がメールを送信し終えたことを三千花らに伝えると、それぞれ出る準備をし始めた。

 

「よっし。じゃあいこっか。」

 

 那美恵の一言で6人は生徒会室から廊下に移動し那美恵が鍵をかけたのを見たのち、1Fにある下駄箱へと向かった。下駄箱に着くと、職員用の下駄箱の側に阿賀奈が立っていた。那美恵たちをその場で待っていたのだ。

 

「あ、来た来た。光主さん!みんな!」

「先生、お待たせしました~。」

「この7人で行くのね?」

「はい。」

「じゃあ光主さん、鎮守府まで案内してね!」

 

 那美恵と阿賀奈のやりとりを確認すると、途中で他のメンツは先に下駄箱まで移動して靴を履いて校庭へと出始めた。ほんの少し遅れて那美恵と阿賀奈も校庭へと出て残りの5人の集まっている場所へと姿を表す。

 

 

 高校から駅までそれぞれ思い思いの会話をしながらの道中。三千花は那美恵に着任式のスケジュールを確認した。

「ねぇ、着任式って今日の何時から?」

「えーっとね。えーっとぉ……」

「14時からだよ!」

 那美恵が答える前に答えたのは阿賀奈だ。

「先生ちゃーんと覚えてるんだから、ね?」

「さすがですねー先生。あたし時間のことはすっかりど忘れしてましたよ~。」

「先生に感謝しなさいよね、なみえ。」

 

 阿賀奈が先生らしいところを見せようと発言し、那美恵が本気が嘘か判別しづらいボケをかまし、最後に三千花が親友にツッコミを入れる。

 そんな光景が展開されているその後ろでは、1年生組の4人がしゃべっている。三戸と流留は最近のゲームの話題を明るく弾むような口調でやりとりし、和子と幸は身の回りの雑多な話題をひそやかな声と口調で穏やかにしゃべりあっていた。

 

 

--

 

 のんびり歩いて駅についたのは13時。電車に乗っている時間ととなり町の駅から鎮守府Aまでの徒歩の時間を合わせると30分程度かかる。そのためお昼を食べるにはもう早くはないが、遅すぎるという時間でもない。絶妙な時間だ。

 

「みんな、お昼どうしよっか?」那美恵が全員に聞いた。

「あー。なんだかんだでもうこんな時間ですよね。どっかで食べていきます?」

 流留が真っ先に提案した。

「とりあえず提督にお昼適当にするって連絡しておくね。」

 そう那美恵は言って提督に向けてメールを送った。

 

 一行はちょうど来る頃だった電車に乗り込み、のんびりと揺られていく。途中で那美恵の携帯に通知が届いた。那美恵はバッグの外ポケットから携帯電話を取り出してスクリーンを見ると、提督からのメールだった。

「あ、うーんとね。みんないいかな?」

「どうしたの?」

 隣にいた三千花が那美恵の声に振り向いた。

「あのね。着任式が終わったら、鎮守府に所属する艦娘全員揃って懇親会するらしいから、お腹すかせて来いだって。提督からのメール。」

「西脇さん太っ腹ね。じゃあお昼は食べないでも大丈夫なのかな?」と三千花。

「へぇ~艦娘みんな揃うんですね。楽しみだなぁ~。」

 流留は素直な期待を述べる。それに賛同するかのように幸もコクリと頷く。

 

「全員! ということは夕立ちゃんこと立川さんも来るってことっすよね? うおぉ!!」

「まーた三戸くんは……。そんなに夕立ちゃんのこと好きなんですか?」

 艦娘全員と聞いて自身の勝手な欲望をたぎらせる三戸、そんな彼に和子が突っ込んだ。和子のジト目付きのツッコミを受けて三戸は慌てて弁解する。

「いや~好きっていうか、パッと見た目清純でお嬢様っぽいのに、口ぶり幼くてアホの子っぽくてなんか妹みたいというか、ペットとして欲しいっていうか……」

 

 弁解になっていない三戸の発言は和子だけでなく、和子の隣にいる幸、そして三千花をドン引きさせた。3人共ジト目で三戸を睨みつけている。那美恵と流留はその発言にプッと吹き出しケラケラ笑っている。彼の考えていることなどお見通しといった様子だ。

「三戸くん……あなた先生いる前でよくそこまで言えますね……。」

「え?あぁ!あがっty、四ツ原先生いたんだっけ!」

 和子の指摘にハッと気づく三戸。教師がいることを本気で忘れていた。当の阿賀奈本人は生徒たちの集団から少し離れたところをポケーっと立っていたため、よくわかっていない様子で三戸に言った。

 

「へっ、三戸くんはその子が好きなのね!わんこっぽくて?わかったわ先生応援したげる!仲取り持ってあげるわ!」

「ああああぁ~先生!冗談っすから真に受けないでくださいよ~!」

 三戸は阿賀奈の不穏なやる気の方向性に最大限の危機を覚えたのですぐさま阿賀奈に詰め寄る仕草をしてその場で弁解し直した。が、三戸の言葉を受けてもなお無駄に食い下がろうとする阿賀奈はその後も2~3問答やりとりしてようやくおせっかいを諦めた。

 

 

「三戸くんは好きな娘がたくさんいて面白いね~。」

 最後に那美恵が一言で茶化した。

 

 

 

--

 

 わずか数分間の電車内でのやりとりが終わる頃にはとなり町の駅にまもなく到着する頃だった。那美恵は6人を案内すべく先頭に立って歩く。時間があればのんびり歩いていくことも問題ない距離だが、この日は途中バスを使い、最寄りの停留所で降りて鎮守府までの道のりを徒歩で進んだ。

 

 13時をすぎて日中まっただ中。湿度は少なく、カラッとした暑さと照りつける太陽の光が一行の体力を奪う。ほぼ無言で歩みを進めていた一行だが、それなりに会話をする。

 

「そういえばまだ鎮守府に来たことないのって、先生だけなんだっけ?」

 那美恵の何気ない疑問を受けて阿賀奈が答える。

「そうね。私一度も来たことないわ~。今回が初めてよ!」

「そうですか~。じゃあぜひのんびり見学していって下さい!」

「そうさせてもらうわ~。けど夏じゃなければゆっくり見るんだけどね~。こうも暑いと建物の中入ってゆっくりしたいわ~。」

「アハハ。じゃあ室内だけでも。」

 

 ふと、三千花が阿賀奈に尋ねた。

「そういえば、先生って職業艦娘の試験受けに行ってどうなったんですか?合格して艦娘にならないとまずいのでは?」

 三千花の質問に待ってましたとばかりに、阿賀奈は目を輝かせて素早く反応した。

「んふふ~。よくぞ聞いてくれました!先生ね~いつ言おうかな~って思ってたけどタイミング掴めなくてね~。」

「え?え?え? 先生何に合格したんですかぁ!?」

 先頭を歩いていた那美恵が振り返って阿賀奈に詰め寄って尋ねる。

 

「聞いて驚かないでよ~。先生ねぇ……なんと! 軽巡洋艦阿賀野に合格しましたー!」

「「「「「「おぉーー……お!?」」」」」」

 

【挿絵表示】

 

 

 6人ともとりあえず驚いてはみたが、全員?な表情で顔を見合わせる。誰が口火を切ろうか迷っていたところ、6人の心境をズバリ那美恵が口にする。

「先生、その……軽巡洋艦阿賀野ってなんですか?」

「え? え……と。えーと。えーとね? んーーーーー。先生もよくわからないの。」

 

「わからないんかぃ!」

 先生なのにもかかわらず那美恵は阿賀奈の肩を軽く叩いて鋭いツッコミを入れた。

「一般の人でも知ってそうな艦の艦娘って募集されてなかったんですか?」

 三千花もツッコミを入れる。

「え~だってだって~。他の艦娘の募集もあるにはあったの。戦艦っていう艦娘の艤装の試験。でも戦艦ってなんだか怖そうだったしぃ、軽巡洋艦ならなんかふわふわ軽くてなったら楽しそうじゃない?」

 

「えー……?」

阿賀奈以外全員、呆れたという面持ちで微妙な反応しかできないでいる。当の阿賀奈は生徒の反応なぞ気にせずウィンクをして続けた。

「それに名前もなんだか私の阿賀奈とすっごーく似てるし。それでね、軽巡洋艦阿賀野の試験受けることに決めたの。」

 試験を受けて合格してくれたことは嬉しく思う那美恵たちだが、正直反応に困る艦だった。

 

 

--

 

 那美恵達の時代ともなると、第二次大戦などのことは一部を除いてほとんど全く一般人からは忘れ去られている。戦後も110年経つと、国民の意識もその手を狂信する輩も表面上はほとんど一掃されていた。那美恵たちの時代から遡ること40~50年前のことである。

 それは一部の国が崩壊したり国同士の完全な手打ちが決まったことで、敗戦した国、勝利した国という意識付けから、過去そういう歴史があっただけの普通の国という意識に変わった影響でもあった。領土問題等はあいかわらず残る地域もあったが、それらの一部はその後深海凄艦が現れて甚大な被害を受け、支援した国がかつて自分らが侵略した国だったということで、新たな関係が築かれることになる。

 当時の軍事に関することは、150年以上昔のものとなると機密でもなんでもなく、ただ歴史上ある時点に存在した武器・乗り物にまつわる情報でしかなくなった。かつては軍艦をネタにしたテレビ番組や漫画・ゲームもあったが、時代が中途半場に古くなり、各メディアでもほとんど全く取り上げられなくなった。

 

 艦娘制度という独自の体制下で軍艦の情報が取り上げられたのは、那美恵たちの時代からさかのぼること20年近く前のことで、世間的には久しぶりとなっていた。化け物に対抗するために特殊な機械を装備して戦う人たち。海で戦うことになる彼ら・彼女らの装備する武装とコードネームとして旧海軍の軍艦・海上自衛隊の護衛艦と同じ流れで名前をつけたのは、艤装の元になった技術Aを研究し、世界に先駆けて人間サイズの艤装を開発して世に送り出した日本の技術者集団だった。彼らのなかに軍事オタクあるいは海自の関係者・研究者がいたのだ。

 そんなごく一部の人たちや、一般人の軍事オタクやゲーム等で知る機会がなければ知らぬ旧海軍の軍艦名を使った艦娘の存在は、この時代の人間にとっては完全に未知の存在であり新鮮そのものだった。

 

 

--

 

「ち、ちなみにその戦艦ってなんっていう名前だったんすか?」

「あ!あたしもそれ気になります!」

 三戸が興味ありげに阿賀奈に聞き、流留もそれに乗る。それを受けて阿賀奈は右頬に指を当てて眉をひそめながら必死に思い出し、その名前を口にした。

「確かね、戦艦大和っていうのと、戦艦扶桑っていうの。」

 

 

「「ええーーーーー!!?戦艦大和!?」」

 さらりと言い流した阿賀奈の発言を聞き逃さずに取り上げたのは、三戸と流留だ。

 

「三戸くん。大和って……だよね?」

「うん。あれ。」

 

 小声でひそひそ話しあった流留と三戸は再び阿賀奈の方を向いて彼女にツッコミをしたのち説明し始めた。

「先生。すっげーもったいないっすよ!艦娘の大和が軍艦のほうと同じかどうかわからないっすけど、元にしてるんなら絶対最強の艦娘でしょ!?」

「そうそう。あたしも三戸くんも艦隊のゲームやったことあって知ってるから言えるけど、大和になってたら間違いなく先生英雄ですよ。ヒーローですよヒーロー!」

「え?そーなの? ……そんなこと言われると先生なんだかもったいないことしたみたいじゃないのぉ……。」

 

 盛り上がる三戸と流留をよそに那美恵たちはその状況にいまいち乗り切れていない。

「日本史の授業で大和って聞いたことはあるけど、そんなにすごいんだ。へぇ……。」

「なみえすっごく興味なさそうだよね。」

 白けた顔で那美恵は三戸と流留をぼーっと眺めている。そんな親友の隣で同じくいまいち興味なさげな表情で冷静にツッコむ三千花がいる。

「うん。ぶっちゃけ興味なし。」

「ホントにぶっちゃけたわね。まぁ私もあまり興味ないから同じだけど。」

 

 和子も幸も同様の様子だったようで、無表情になっていた。

 

 興味ない那美恵だが、艦娘の事情を踏まえてなんとなく思ったことを口にする。

「でもさ、戦艦大和がすごい船だったなら、職業艦娘で戦艦大和もすごそうだよねぇ。」

「そういうものなの?」

 三千花が尋ねた。

 

「いやわかんないけど。性能がすごいならそんな艤装は燃費もすごそうって話。それに担当する人もめっちゃ高給取りになりそうじゃない? もし先生がそんな艦娘になってたら、維持も大変そうだし、うちの鎮守府の予算使い果たして破産するかも~。提督ショック死しちゃったりぃ?」

「あぁそういうことね。確か職業艦娘って給料出るんだっけ。」

「そうそう。先生は儲かるけど、我らが西脇提督の胃はきゅ~っとなっちゃうかもね。」

 艦娘の展示を経てある程度事情をわかっている三千花が那美恵に確認混じりの相槌を打つ。那美恵は親友の反応に対して、普段誰かをからかうときにするようないやらしい笑顔で頷いた。

 

 一行が鎮守府Aに辿り着いたのは、13時を20分回って少し経つ頃だった。

 


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