同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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艦娘になろうとする少女

 那美恵と流留はお昼時、約40分弱かけて鎮守府から高校へと登校してきた。艦娘たる少女たちが自身の学校に遅刻しても怒られずに済むのは、大本営(防衛省・厚生労働省・総務省の艤装装着者制度の担当部署をまとめた呼称)および鎮守府と、各学校の制度内における提携により、少女たちの学生生活の保障がされるからである。

 そのため二人は堂々と午後登校をすることができた。

 

 那美恵は手に紙袋をぶら下げている。それは午前中に同調の試験をして合格した神通の艤装のコアユニットだ。2度もこっそりと同調してすでに合格圏内の同調率を表していたのだが、怪しい問題があったため工作艦明石に相談したのち、改めて提督と明石の前で同調の確認をする羽目になっていた。

 3度目の正直ということわざがあるように、3度目の同調にて初めて(提督の許可を得て)公式に鎮守府外に持ち出せるようになったのだ。

 

 那美恵と流留が高校のある駅につき、途中にあるアーケード街を歩いている頃には、すでに12時30分をすぎていた。そのため通学路途中でパンや飲み物を買ってから学校へと戻っていった。校舎に入ると二人はその足ですぐに生徒会室へと向かった。神通の艤装を保管するためだ。

 校内はお昼を食べる生徒、校庭で遊ぶ生徒各々自由に振舞っているため、午後からの登校をしてきた那美恵と流留を特に気に留めない。ただ生徒たちが唯一気になったのは、なぜあの内田流留が俺達(私達)の生徒会長と一緒にいるのだろうと怪訝に思うくらいである。明らかな集団いじめは鳴りを潜めたとはいえ、一度根付いた印象により、実は流留へのいじめの根はわずかだが残っているのに那美恵も流留も気づいていない。

 ただ艦娘部に入った今は、先の対応もあって人々は気に留めない=実質的な無視という周りからの扱いは流留にとってむしろ好都合になっている。つまり気楽に艦娘の仕事に集中できるということである。

 

 二人が生徒会室に入ると、三千花と三戸、そして和子というおなじみの顔ぶれがあった。午後登校ということを三千花は那美恵と同じクラスかつ生徒会というために聞いていたので事情をわかっていた。一方の三戸と和子は知らされていなかったのであとで三千花から聞いてやっと事情を把握していた。

 

「おそよう二人とも。もう艦娘の用事は済んだの?」

 やや皮肉混じりの朝の挨拶をして三千花が尋ねた。

 

「うん。こうして神通の艤装も今度は提督から正式に許可もらって戻ってきたぜぃ!」

 那美恵は手に持っていた紙袋を掲げて示す。それを見た三千花らは思い思いの反応をする。

「おお!これで展示に新しい艤装が使えるんっすね!今度はどんな子が同調できるんっすかね~?」

「三戸くんも楽しみぃ?」

 三戸の反応を見て那美恵が心境を聞いてみると、それに勢い良くはい!と三戸は答えて期待を大きくかけるのだった。

 

--

 

「そういえば昨日の展示の時も来たわよ、あの子。」

「え?また?」

 

 三千花が触れた”あの子”、それは以前より何度も川内の艤装との同調を試しに来ている、神先幸。和子の友人その人だ。一度同調できずに帰ったと思えば、翌日、翌々日、そして次の日と、何度も同調を試しに来るその少女、那美恵達はその少女のことをかなり気にかけていた。何度も同じことを試しにくればいいかげん覚えてしまい、気にするなというほうが無理な話だ。本人が気にしている以上に実は目立っている。

 神先幸は和子が語るところによると、成績はかなり良いが物静かで目立たない娘。友人の和子に対しても彼女は口数少なく人見知り、心の内をあまり明かさないことから、捉えどころがない少女だ。

 

「彼女なんて言ってた? 艤装ないって言ったんでしょ?」

「えぇ。ただ顔色一つ変えずにそうですかってポツリと言ってさっさと出ていってしまったわ。」

「さっちゃんが無愛想で申し訳ありません。」

「なんでわこちゃんが謝るのさww」

「いえ。友人としてはなんか申し訳なくて。」

 

 和子としては彼女の唯一の友人として、せめて先輩たちましてや生徒会長と副会長という生徒側の最高権威者トップ2に対してはきちんと接してほしいと思っていた。実のところ、幸の無愛想とも取れる態度による人間関係のいざこざが起こりそうな場合には、陰ながら和子がフォローをしていたのだ。和子は生徒会だけでなく、変わり者の友人に対してもかなり気を使うシーンがある日々を送っていた。

 そんな人知れず苦労人の和子は、幸のことがかなり気にいっている。幸がどう思っているかは和子は知る由もないが、友人のために苦労をするのがなんとなく性に合っている気がしているので、気を使ってフォローする行為も和子としては全然まったく嫌ではなかった。

 

「彼女、多分今日も来ますから今日は艤装があるって教えたらきっと喜びますよ。」

「神先さんの喜ぶ顔、いったいどんなんなんだろうね~?」

「感情あまり出さなそうだから想像つかないわね……。」

「あの、その神先さんって?」

 

 幸の事情をまったく知らない流留が質問した。そういえばそうだったと那美恵は丁寧に説明してあげることにした。

「……というわけなの。」

「へぇ……じゃあその神先さんは艦娘になんとしてでもなりたいってことなんですかねぇ~?」

「多分ね。直接本人から聞いたわけじゃないからホントのところはどうだかわからないけどね。」

「ふぅん。聞く限りだと変わり者っぽいなぁ~」

 

 流留が言ったその一言、彼女以外の全員が心の中で”あんたも大概変わり者だよ”とツッコミを入れた。もちろん口には絶対に出さない。那美恵から見ても流留も神先幸も同じ程度に変わり者と思っている。さらに三千花からすれば、那美恵も流留も神先幸も3人とも十分変わり者だろとツッコミを入れるに十分な存在であった。

 

「ま、今日の展示で期待しよ。内田さんも今日から手伝ってくれる?艦娘の展示。」

「へ?あ~まあいいですけど。でもあたしがいて大丈夫なんですかね?」

「なーに言ってるの!内田さんはもう立派な艦娘部の部員なんだよ!?この展示は主催艦娘部、共催生徒会っていう名目なんだから。部員である以上はきっちり手伝ってもらいます。いい?」

「あたしはてっきり鎮守府内でしか活動しなくていいのかと思ってましたよ……。」

 

 その日から艦娘の展示には流留も参加することになった。ただし、流留は未だ生徒たちからの印象が回復しておらず気まずいだろうということで、パネル等の運び出しと、艤装の同調の手伝いのため別区画で待機することになった。つまりなるべく他生徒と接触させない。

 

 

--

 

 午後の授業が始まり、各々普通に授業を受けそして放課後になった。那美恵たちは生徒会室に集まり、艦娘の展示の一式を視聴覚室に運び始めた。もちろん流留も一旦生徒会室に来ての作業だ。

 全て運び出し終わりその日の艦娘の展示が始まった。

 さすがに1週間以上経つともはやほとんど人は来ない。どうやら那美恵は自身が危惧したとおり、生徒たちの艦娘への興味は途切れてしまったと判断せざるを得なかった。その日は30分以上待っても誰も来ない。

 

「ねぇみっちゃん。昨日は何人来た?」

「えぇと、3人ね。もちろん神先さんも入れて。もうそろそろ人来なくなるかもしれないわね。」

 

「そっかー。人来ない日が2~3日続いたら、もうやめよっか。」

「いいの?まだ神通になれる人いないでしょ?」

「いいかげんに視聴覚室を借りるのも限界だろうし、艦娘部の部員必要人数3人集めの猶予期間も限界だから、あとは直接めぼしい人に話しかけて地道にアタックしていくしかないかなぁって思ってるの。」

「まぁ、なみえがそうしたいならいいわ。そうなっても私達も手伝うからさ。」

「ありがとみっちゃん!」

 

 そう話していると、その日最初で最後の見学者が来た。

 

 外から和子の声が那美恵たちの耳に飛び込んできた。そのため誰が来たのかが一発で理解した。

「あ、さっちゃん。今日も来てくれたの?」

「…あ…もにょもにょ……うん。」

 

 相手の声は小さすぎて那美恵たちからは全く聞こえなかったが、和子の相手への呼び方で、神先幸が来たのだと判明した。

「……いい?」

「うん。いいよ入って。」

 そうして入ってきた神先幸。那美恵たちは直接しっかり話したことはなかったが、和子からそれとなくいろいろ聞いていたため、ニコニコしながら幸を迎え入れた。

 

「神先さんだったよね?」

「!! ……はい。……ゴメンナサイ。今日も来ま……した。」

「そんな遠慮しなくていいからさ。今日も試すんでしょ?艤装の同調。」

 那美恵のその確認に、幸は言葉を発さずにコクンと頷いて肯定した。

「今日の艤装はね、この前までの艤装とは違うよ。神通っていう艦娘用の艤装なんだよ。だから遠慮せずガツンと試しちゃってね!」

 

 そう言って那美恵は艤装のある区画に案内した。幸はかれこれ数回は同じことをしているので、別に案内されなくても一人で行けるとわかってはいたのだが、勝手にスタスタ行くわけにもいかずおとなしく那美恵の案内に従った。

 

 

--

 

 艤装のある区画には流留がいた。幸は彼女のことを周りから聞こえてくる噂によって知っていた。だが自分とは見た目の印象も住む世界も違う人だと思っていたので、正直なところ先の噂話や流留への集団いじめには無関心、ノータッチだった。そもそも人付き合いが苦手なため、仮に一緒にいたとしても絶対に話さないであろうと思っていた。

 そんな自分とは違う人が側にいる。なんでいるのか不思議に思っていると、那美恵はそれを察したのか説明してきた。

 

「そうだ。神先さんに紹介しておくね。彼女はね、この前まであった川内の艤装に同調して、正式に艦娘になることになった、内田流留さんだよ。」

「はじめまして。同じ一年の内田流留よ。今度艦娘川内になるんだよ。」

 

 幸はそれを聞いて愕然とする。艦娘に先になってしまった生徒がいた。てっきり何度も試し続ければいつかは艦娘という存在になれると思っていたところに、先を越されてしまった。そのことにショックを受け心臓がキュッと縮み込む感覚を覚える。

 目の前にある艤装は違う艤装だと生徒会長が言った言葉を頭の中で噛みしめる幸。この際、艦娘になれるなら何でもいいやと諦めにも似た感情が首をもたげていた。

 

「あ……どうも……よろしく…おねがいします。」

 その場にいたということで挨拶をかわし、それが一通り済んだのを見届けると、那美恵は幸を神通の艤装の前へと促した。

「それじゃあ神先さん、さっそく前みたいに艤装を身につけてみよっか。」

 幸はコクリと頷き、那美恵の指示通りに神通の艤装のコアユニットとベルトを身につけた。ふと、心を落ち着かない、妙な気持ちになった。艤装とやらの電源は入っていないはずなのに、幸は身につけた瞬間から、この前の川内の艤装のときとは明らかに違う感覚を感じ始めた。

 

「それじゃあ、電源つけるわよ。」

 艤装の同調チェックの際のアプリの操作は三千花の役割になっていたため、那美恵たちから少し遅れて艤装のある区画にやってきた三千花は自然とすぐさまタブレットを手にとり、幸の準備が終わるのを待っていた。

 そして三千花はアプリから、神通の艤装の電源を遠隔操作でつけた。

 

 

ドクン

 

 

 幸は、全身の節という節がギシリと痛むのを感じた。しかしそれは一瞬。それが収まると同時に上半身と下半身に電撃が走ったような感覚を覚え、特に下半身に熱がこもるのを感じ、恥ずかしくなってくる。誰にも見られたくない。

 

 

 瞬間。あぁどうせ試すなら、お手洗いに行っておけばよかったなと、後悔した。

 

 

 その直後に頭の中に流れ込んできた大量の情景。

 午後11時過ぎという夜の海、右に旋回し続けたら仲間にぶつかってしまったとある光景、

 銃を持った多くの人を、遠く離れたある泊地に運ぶ自身と数多くの小さな艦のいる第三者視点の光景、

 とある泊地で、回りで騒ぐ銃を置いた人たちと銃を持たない人を静かに見つめ、ただひたすら戦の命を待ち続ける自身のいる自分視点の光景、

 止めに、超高出力の光を放ち続ける自分に向かってくる中空からの燃える弾と海を進む一撃必殺の何かを見、身体の真ん中から砕かれ引き裂かれた自分、最期に見えたのは何も見えぬ夜の海の光景。

 

 他にも細かな情景が様々な視点で飛び込んで頭痛を引き起こす。頭が割れそう。そして下半身が濡れて気持ち悪い。Wで気持ち悪い。今の自分の身に起きた異変・異常を止めたくても止めるすべがわからない。

 幸はただひたすら、顔を真赤にさせて俯き、異常が収まるのを黙って待つことしかできないでいる。

 

【挿絵表示】

 

 

 幸の異変に那美恵、流留、三千花はすぐに気づいた。タブレット上の数値は、87.15%と、合格圏内なのは間違いない。しかしそれを喜べない状況がそこにあった。3人とも同じ感覚を覚えたことがあったので同情にも似た感情を浮かべる。どう見ても神先幸のはかなりひどい。幸の足元にはポタポタと滴が落ちてきて止まらない。

 

「あ、あたしとりあえず拭くもの持ってくるね!」

「あたしも行きます!」

 

 慌てた那美恵のあとに流留が付き従って区画を出て行く。三千花はその場に残り、幸のフォローにまわる。那美恵は視聴覚室を出る前に和子に幸が粗相をしたことを、三戸に気づかれないように伝えていった。

 

 二人が何を話したのか気になった三戸は和子に聞いてみたが、和子は珍しく声を荒げて言い返した。

「いいですか三戸くん。君は何があっても絶対に視聴覚室には入らないこと。いいですね!?あと何も聞かないこと!」

「えっ? な、何があったのs

「いいから廊下に立っててください!」

「は、はいぃい!!」

 

 和子の凄みのある声に仰天した三戸はその場、つまり廊下に突っ立っていることしかできなかった。

 

 

--

 

 しばらくして那美恵と流留が雑巾とモップとバケツを持って視聴覚室に入っていくのを三戸は横目で見る。何も聞くなと和子から注意をされていたので黙っていたが、そもそも那美恵も流留も三戸をスルーしていたので尋ねることはできなかった。

 

 視聴覚室の中、幸は半べそをかきなが何度も那美恵達に謝る。それをいいからいいからとフォローしながら床を拭く那美恵達。和子は幸の肩を抱いて彼女を必死に慰めている。

 幸は以前、最初に同調を試す際に恥ずかしい感覚を感じるかもしれないということを聞いて覚えていたはずだったが、川内の艤装の時は同調できない日が続いたのですっかり失念していたのだ。

 

 幸は和子から体操着を持ってきてもらい、下を履き替えてしばらくしてやっと気分が落ち着いてきた。そして那美恵たちの掃除の方も終わり、ようやく本題に入ることができた。

「ええと、神先さん。以前あたしが伝えたこと覚えてるかな?同調できるとどうなるかって。」

 那美恵から確認されて幸は赤面させつつもコクンと無言で頷いて答えた。

「もうわかってると思うけど、神先さんは、合格です!神通になることができるんです!やったねさっちゃん!」

 那美恵は合格を伝えると同時に勝手にあだ名で幸を呼んだ。

 

 一方の幸は先刻の粗相のインパクトも含め、同調して艦娘になれるという現実に驚きを隠せないでいた。何度も試せばいつかはと思っていたが、艤装とやらの種類が変わった途端にまさか本当に同調できるとは思わなかった。心のどこかでは艦娘とはどうせ非現実の存在なのだと疑っていたからかもしれない。

 だが現に、今艦娘である生徒会長光主那美恵、そしてすでに艦娘になってしまった同級生、内田流留がいる。幸自身は艦娘になりたくて何度も試してきた。それがいざ叶うと分かると、その先の思考が続かない。

 もともと口ベタな幸は、結果がどうであれ、普段の口調での返事しかできなかった。

 

「あ……う……はい。よろしくお願いします。」

 

 

 その返事を聞いた瞬間、那美恵は叫び声をあげて飛び上がって喜びを表した。

「やったーーーーー!!!やっと、やっと!三人集まったーー!!うぅ~うれしいよぉ……。」

 

 

 歓喜のあまり那美恵は下級生がいるにもかかわらず、泣き出してしまった。それは、ついに自分の高校から正式に制度に則って艦娘が誕生することになるからだ。そばにいた三千花も親友の涙につられて涙を浮かべている。さらに流留ももらい泣きをしている。ただ彼女の場合は那美恵の夢や目的を分かっていないため、本当にただのもらい泣きだ。

 

「うぅ~、よかったですね、会長。なんだかよくわからないけどすぐに次の艦娘になれる人が見つかって何よりですよ!」

「よかったわねなみえ。これであなたの目的が叶うわ。あとは四ツ原先生に連絡して、正式に艦娘部発足だよね?」

「うん。そうそう。あ、その前にこれだけはきちんと確認しておかないとね。」

 

 そう言って那美恵は幸に向かってあることを確認する。

「ねぇ神先さん。艦娘部に入ってくれない?艤装と同調できたのだから、入ってくれるとあなたの学校生活も艦娘生活もどっちも安心して過ごせるようになるんだ。どうかな?」

 

 それを聞いた幸はうまく言葉を紡ぎ出せないでいたが、十数秒後にやっと落ち着いて返事をすることができた。直後の心境はどうであれ、彼女の決意するところは決まっていた。

「は…はい。それ……もよろしく、お願いします……。」

 

 那美恵は彼女がきちんと返事をするのを待ってあげた。そしてやっと聞けた返事を受けて、再び叫び声を上げて喜びを示した。

「いぇす!!いぇす!!三千花さん。やりましたよ~ついにわたくし光主那美恵、やり遂げましたっすよ~!」

 

 その喜びを親友の三千花に向けておもいっきりぶつける。その矛先となった三千花は那美恵からまとわりつかれて少々うっとおしいと思ったが、過剰に喜ぶのも無理もないかと今回ばかりはスリスリしてくる親友の思うがままにさせてあげることにした。

 

 

--

 

 神先幸から入部の意思をしかと確認した那美恵は、職員室に行き阿賀奈を呼んでくることにした。阿賀奈はすぐに那美恵についてきて、視聴覚室へと姿を表した。

 

「ホントに部員3人揃ったのね!?」

「はい!あとはこのことを先生が鎮守府へ伝えてくださればうちの高校の艦娘部、正式に発足ですよ~!」

「よかったわね~光主さん!先生も顧問として嬉しいわ~。で、新しい部員というのが1年生の神先幸さんね?」

 

 阿賀奈から名前を呼ばれて幸は緊張しながら返事をする。

「は、はい!」

 

 噂では変な先生と聞いてはいるが、幸にとってはどのような素性の人であっても先生は先生。敬う対象の一人。そして自分は誰からも印象が薄いと自覚しているが、そんな自分をひと目見ただけで一発で名前を言って呼んでくれた四ツ原阿賀奈を、信頼できそうな先生と瞬時に認識した。

 

「じゃあ先生これから提督さんに連絡しちゃうね?他になにか伝えることはなーい?」

「あ、そうだ先生。これは先生に伝えてくれって言われたんですけど、今度、川内になる内田さんの着任式があるんです。先生の都合を聞いておいてくれと言われたんですけど、いつ都合がよろしいですかぁ?」

 

 那美恵は午前中に鎮守府に行ってきた時に提督からお願いされたことを阿賀奈に確認した。すると阿賀奈はいつでもよいとの返事をしてきた。

 それを受けて那美恵はそのことも阿賀奈の口から提督に連絡してもらうことにした。

 

 今日という日は那美恵たちにとって大きな動きのある日だった。一度に、正式に、2つの艤装の同調の合格者が出たのだ。那美恵は鎮守府外への持ち出し目的のための同調なのでカウントしないとして、鎮守府で川内の艤装と流留、学校で神通の艤装と幸。流れが自分の思うがままの展開になってきているのを那美恵は感じ始めていた。

 放課後に神通と神先幸の同調が成功したので、後日鎮守府で彼女は再び神通の艤装と同調を試すことになる。その時を持って幸も正式に鎮守府Aの艦娘として認められる。

 着任式は川内と神通の二人同時になるだろうと那美恵は想像した。そうなると自分の時以上に盛り上がる。いや、自分が盛り上げないといけないとある種使命感に駆られた。

 

 その日は阿賀奈から鎮守府に連絡してもらうことにし、後で阿賀奈からその後の流れを教えてもらうことにした。

 艦娘の展示もこれで役目を終える。学生艦娘制度に必要な艦娘部、そしてその部に必要な最低部員数3人と顧問の教師。いずれも揃ったためだ。展示物はこのままゴミとして捨ててもよかったのだが、せっかくの出来だから取っておきましょうと阿賀奈が言ったため、しばらくは生徒会室で保管することになった。

 

 学生の文化祭レベルの内容と演出ではあるが、その出来を提督や鎮守府Aの他の面々が認めたため、 そののち、 展示の一式は鎮守府Aで公式に引き取り、艦娘の活動を世に伝える資料の一つとして保管されることになる。

 


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