同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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 艦娘部に正式に入部して心機一転、艦娘の世界に入り込むことになった内田流留。川内となれる部員を得て、すでに艦娘である光主那美恵は喜びも程々に、いよいよ次なる艤装、神通になれる生徒を探すことにした。その人物とは・・・?
 そしてついに、流留は鎮守府なる基地と艦娘たちを目のあたりにする。

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艦娘部勧誘活動4
川内の艤装


 流留の問題が一応の収束を見た次の日。生徒会本来の仕事も適当に片付いて落ち着きを取り戻した生徒会室。那美恵は大事なことを思い出した。それは、エネルギー切れを起こした川内の艤装のことである。

 明石には学校から来校の許可をもらっておくから待っててと伝えたその日から数日経っていた。これはまずいと思い、那美恵は学年主任を経由して教頭・校長に明石の来校の許可を貰いに行った。

 

 教頭から許可をもらい、改めて明石が来る予定の日程を聞くように言われたので、那美恵はすぐさま明石に連絡を取る。ほどなくして明石からメッセンジャーで連絡が来た。

 

「明日でいかがですか?ついでにちょっとよい連絡があります。それを早く伝えたいのです。」

「おっけーです!じゃあ学校に伝えておきまーす。伝えたいこと、なになに!?」

「それは、ひみつ、かな~(*´艸`*)」

 

 軽い文面で締められた明石のメッセージを見て那美恵は頭に?を2~3つ浮かべた。あの明石のいうことだから自身が知らぬ機械面で何かワクワク胸躍る事でもあったのだろうと、思うに留めることにした。

 足取りは行きより多少軽く、那美恵は職員室から生徒会室への廊下の歩みを進める。生徒会室の扉を開けると、三千花と流留がすぐに駆け寄ってきた。

「ねぇねぇ、どうでした?明石さんっていう人はいつ頃来られるんですか?」

急く流留に対し三千花は落ち着きはなった口調で那美恵に尋ねる。

「どうだった?先生方の許可は……なんかそのニンマリした顔は……もう聞かなくてもわかったからいいわ。」

「え~~~みっちゃんに聞いてもらわないとシックリこないよぉおお!!」

 スイッチが微妙に入った那美恵は中腰で三千花に擦りよって両手を伸ばす。三千花はため息をつきつつその手をパシンと弾いて答えを求める。

「あ~もう。あんたは妙なところでふざけるのやめなさい!いいからさっさと言え。」

 眉間にしわを寄せて厳しくツッコむ三千花。親友がキレるのはいつものことだが、今回はそのキレツッコミ具合に本気の苛立ちが見え隠れしたため、那美恵はつきだしてつぼめた唇を真一文字に戻し、にやけて細めた目を普段の大きさに戻して口を開いて再開した。

「はいはい。おっけぃですよ。まぁある意味あたしの顔パスってやつ?教頭先生もサクッと頷いてくれたよ。そんでね、明石さんは明日来るってさ。」

「明日って……また即決したわね。明石さんってそんな思い切りのいい人だったの?」

「さぁ~? あたしとしては早ければ早いほうがいいから、明石さんナイスッって思ったよ。」

 三千花も那美恵もこの場にいない人物への意味のない問いかけは早々に止め、明日の明石の到着を期待してその日の残りの時限を過ごすことにした。

 

 

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 翌日、昼休みの時間が過ぎて間もない頃、那美恵の高校の校門をとある車がくぐり抜けた。時間はお昼頃と聞いていた那美恵は授業が終わると自身の昼食の弁当を三千花に預けさっそうと教室を飛び出し、校舎を出て校門のそばで待っていた。

 そしてその車が明石のものだと気づいた。那美恵が駆け寄ると、車の前方のミラーが開いて中の人物が指と声で合図をした。

「やっほ!那美恵ちゃん。工作艦明石、到着しました!」

 車の窓越しに那美恵に挨拶をした明石を見て、那美恵は満面の笑みで車の中にまで顔をつっこまんばかりに乗り出して出迎えた。

「明石さんいらっしゃ~い。駐車場はこっちですよ。案内します。」

 那美恵の案内で駐車場に車を停めた明石は、車両の後部に積んでいた大小あるいくつかの包を那美恵に見せる。

「これ、なんですか?」

「これはね、艤装の交換部品と工具箱。あとこっちは艤装のコアの交換用バッテリー。ま、燃料みたいなものね。あとこっちは……ま、それは落ち着いた場所で、ね?」

 那美恵が尋ねると、明石は最初はすらすら答え、あとはもったいぶらせた笑い方をして言葉を濁す。

 

 那美恵は台車を持ってきて、機器の入った包と箱を載せて明石を案内し始めた。

 お昼時、廊下を歩く生徒は非常に多い。ただでさえ那美恵は普通にしてても目を引く。そんな生徒会長が生徒でない、しかも大人の女性を連れて歩いているのは非常に注目される。キョロキョロと若干挙動不審になる明石は那美恵に弱々しく尋ねた。

「な、那美恵ちゃん?なんか私、浮いてますよね~。お姉さんなんだか恥ずかしいです……」

「恥ずかしがるなんて明石さんもまだまだだなぁ~あたしは見られるのなれっこですから。気にしないでください!」

「気にしないでって言われてもねぇ……」

 事実那美恵は平然としている。時折他の生徒から声をかけられ、那美恵は挨拶を返したり冗談めかしたツッコミを返すなどして大半の生徒に素早く対応している。そんな気さくで気の利く彼女を感心した様子で明石は見ていた。

 

 明石の現在の格好は女性用のビジネススーツである。工作艦明石の制服はあるにはあるが、あの制服は公共の面前ではさすがに恥ずかしいと本人は感じていた。鎮守府や出動海域では非常に動きやすくて丈夫、汚れを気にしないで済むが、25歳の明石奈緒は一般人の目の前でミニスカを履く勇気はなかった。

 ぱっと見大人の女性が!と校内ではヒソヒソ騒がれるが、格好が格好なので、すぐに生徒は興味を移り変える。

 

 

--

 

 那美恵と明石、そして台車はエレベーターを使って上部の階に上がり、そして生徒会室に辿り着いた。川内の艤装は生徒会室に保管しているためだ。

 ガラッと戸を開けると、そこには三千花ら生徒会の面々がいた。プラス、三戸の隣には明石が知らない顔がそこにあった。

「おまたせー。明石さん連れてきたよー。」

 那美恵が三千花らに報告すると、三千花たちは明石に挨拶をした。

「お久しぶりです。明石さん。副会長の中村三千花です。本日はご足労いただきありがとうございます。」

「書記の三戸っす。いや~明石さんに会えるなんてなんだかいいっすねぇ~」

「同じく書記の毛内和子です。本日はよろしくお願いします。」

 

 すでに知っている顔に明石は挨拶し返す。が、唯一知らない顔がいるので少し戸惑った様子を見せた。

「こんにちは!皆さん元気にしてましたか? ……えっと。あちらの娘は?」

 那美恵は台車を部屋の脇に置き、その足で三戸の隣にいた娘のところに向かい、彼女の肩を抱いて明石の前に連れて来て紹介した。

 

「紹介するね!こちら、内田流留ちゃん。なんとですね~、この度、川内の艤装と同調できたその人です!!」

「は、初めまして。内田流留です。合格しちゃいました。んで、艦娘部に入ることになりました。」

 ぎこちない様子でお辞儀をして明石に挨拶をする流留。それを受けて明石も自己紹介し返す。

 

「あら!あなたがですか!? はい初めまして。私は鎮守府Aの工廠、つまり艤装のメンテをするところですね。そこの工廠長をしております、工作艦明石こと本名明石奈緒、25歳独身です!」

 あっけらかんとした言い方の中にも大人としての立ち居振る舞いが感じられる明石の自己紹介に、流留は少し圧倒されつつも、初めて見る那美恵以外の艦娘と鎮守府の存在に感動を感じざるを得ない。

 

「ど、どうも。よろしくお願いしまっす……」

 最後にどもりつつも流留は緊張を伴った挨拶を返した。

 

 

--

 

 挨拶もほどほどに、那美恵たちは川内の艤装を部屋の広い場所に運びだし、さっそく明石に診てもらうことにした。

 

 明石は持ってきた工具箱をあさり、いくつかのチェック用の機器を川内の艤装のコアユニットに接続して状態を確認し始めた。

 その様子はただの高校生である那美恵たちにはさっぱりである。そのため明石の作業をじっと見ているしかできない。明石は途中で顔を上げ、那美恵たちに一言言って促す。

「あの、みんな。私のことは気にせずにお昼食べてていいですよ?」

「それだとなんだか明石さんに申し訳ないですし……。」

 三千花が申し訳なさそうな表情で明石に言う。だが明石は手に持った工具をぷらぷらと振ってまったく気にしない様子で返す。

 

「学生さんはそんなこと気にしなくていいんですよ~。」

「はぁ。それでは……。」

 それではということで明石に断った三千花は那美恵たちに目配せをし、明石が作業をするかたわらで昼食をとることにした。

 

 

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 昼休みも半分を過ぎた頃、早めに食事を終えていた三戸と流留は明石のそばで彼女の作業の様子を眺め見ていた。明石は若手ながらさすが製造会社の技術者なだけあって、川内の艤装をテキパキと確認していく。そんな彼女に流留は質問してみた。

 

「あの、明石さん。そういう機械いじりって、女性がするのって抵抗とかないんですか?周りから何か言われたりとか。」

 明石は手を止めず視線は艤装に向けたまま流留の質問に答える。

「いいえ。むしろ艦娘の世界では重宝されるのよ。艦娘は圧倒的な女性の職場だからね。同じ女性の技術者は相談しやすいとかなんとかで、うちの会社でも何かと女性の技術者を近年では多く採用して育成して、工作艦明石として派遣されることが増えてるの。」

「へぇ……」

「まあ、そもそも機械触るの好きっていう人しか集まらないから、むしろ充実した職場ですよ。私、従兄弟たちの影響で昔からプラモ作ったり、電子工作するの好きだったの。あと下に妹がいるんだけど、あの子も私に負けず劣らずね。」

 

「あ!あたしもプラモづくりとかそういうの好きです!」

 流留は思わぬ形で自分に似た境遇の人を見つけ、明石に一瞬で心惹かれる。それはどうやら明石も同じだった様子。明石は顔を上げて流留を見る。流留はパァっと表情を明るくした。

「あら!そうなの!?じゃあ○○は?」

「はい!知ってますしたまに作ります。」

「じゃあ△△は?」

「作品は見たことあります!」

 

「あらやだ!内田さんだっけ?流留ちゃんでいいかな?」

「あ、えぇとはい。なんとでも。」

「私ね、会社の人や提督以外で話の合う人欲しかったのよ!艦娘の中に工作とかそういう趣味のわかる人がいるなんてもうさいっこう!」

「あたしもです! 生徒会長!あたしなんだか鎮守府が楽しみになってきましたぁ!」

 明石の言葉に同意しその勢いで、まだご飯を食べていた那美恵に向かって腕をブンブン振って喜びを伝える。那美恵はウンウンと頷く。

 

「流留ちゃん、あなたならきっとうちの妹とも話が合うはずよ。妹にもいつかうちの鎮守府に艦娘試験受けさせるつもりだから、もし艦娘になれたら仲良くしてあげて! 今もたまーにうちの鎮守府に妹来るのよ。その時に改めて紹介してあげる!」

「はい!」

 

 

 すっかり趣味で意気投合する流留と明石を見て、那美恵と三千花は微笑ましく思った。

「二人が話してることあたしゃぜーんぜんわかんないけど、ともあれ明石さんと話が合うなら何よりだねぇ。」

「私もさっぱり。内田さん、今までで一番良い笑顔なんじゃない?」

 那美恵と三千花のそばにいる和子もそれに頷いた。

 

「俺もわかるっすよ明石さん!俺も仲間にいれてよ内田さぁ~ん!」

 意気投合して関係が進んでいく流留と明石の様子を羨ましく思ったのか、必死に自己アピールをする三戸。そんな三戸に流留が突っ込んだ。

「アハハ。三戸くん必死すぎぃ~。わかったわかったよ。」

 流留は三戸の肩をバシバシと叩いて今この場の逆紅一点をかまってあげるのだった。

 

 

--

 

「さて、メンテおわりました!」

 流留たちと話しつつも作業を続けていた明石がそう宣言した。時間にして12時45分すぎ。那美恵たちも昼食を食べ終わり、各自思い思いのことをしていた。明石の言を受けて、那美恵たちは視線を明石に向け近寄る。

 

「ありがとうございます、明石さん。で、川内の艤装が動かなかったのってなんだったんですかぁ?」

 那美恵がそう質問すると、明石は川内の艤装のコアユニットを手に持ち、回答し始める。

 

「うん。バッテリー切れと、あともう一つ問題があったの。それは中のケーブルや部品をちょこっといじっておいたからもう問題ないはずですよ。」

「ありがとうございます。変な問題とかなくてよかったですよ。」

 と、流留は感謝の言葉を述べた。

 

「それとですね、同調できる人を見つけたなら、もう鎮守府に戻してもいいんじゃないかな?どうですか?」

 そう提案する明石。彼女のいうことももっともだと那美恵は思った。しかしそれではあと残り、神通の艤装が届くまではタイムラグができてしまう。一旦艦娘の展示をやめれば生徒たちの興味はすぐになくなってしまうかもしれない。那美恵はそれを危惧している。

 

「うーん。そうしてもいいんですけどぉ。次は神通の艤装で同調出来る人も探したいんです。そのためには早めに神通の艤装も持ってこられるようにしないと。今やってる艦娘の展示で艤装の展示に合間が空いちゃうと、みんな興味途切れたりすると思うんです。そうなるとちょーっと探しづらくなるかなぁって。」

 

 那美恵の心配をよそに明石はニコニコし始めた。那美恵が明石の様子を訝しむと彼女はコホンと冗談らしく咳払いをして、自身の持ってきた数々の包の中から一つのものを那美恵たちの前に差し出した。

 

 

「「? なんですか、これ?」」

 ほとんど同時に那美恵と三千花が質問をした。

 

 

「実はですねー。なんと!神通の艤装のコアです!神通の艤装一式、鎮守府にもう届いてるんですよ。予定より遅くなったみたいなんですけど、ようやくです。」

 

 明石の言葉を聞いた瞬間、那美恵は飛び上がって喜びを表した。

「えぇーーー!!?ホントですかぁ~~~!? じゃあこれ……あ!あたしまだ同調試してないですよ!」

「えぇ。実は提督にナイショで、持ってきちゃいました。コアユニットだけでも同調は試せるし、これくらいなら、ね?」

「ほほぅ。明石さん、あんたも悪よのぅ~」

 

 冗談めかして明石の肩を軽く叩いてツッコミを入れる那美恵。明石もそれにノる。

「いえいえ。那美恵ちゃんほどじゃないですよ~。」

「法律にないからって、この二人はこんなことしててホントにいいのかなぁ……?」

 二人の様子を見て三千花は頭を抱えて不安を感じるが、彼女のそんな心配は、那美恵たち二人にはまったく響かない。

「というわけで那美恵ちゃん。前にあなたが言ったとおり、早速神通の艤装との同調、試しちゃってください。こっそり持ってきたとはいえ、これで同調できれば万事OKだし、ダメだったら一応持ち帰らないといけませんので。」

「はい。……でもそろそろお昼休み終わってしまうんです。放課後ってことじゃダメですか?」

 那美恵の提案に明石はアゴに指をあてて首を傾けて考える仕草をしたのち、答えた。

 

「私はかまいませんが提督にバレるとまずいんで。じゃあこうしましょう。放課後試してダメだったら、帰りにでも鎮守府に返しに来て下さい。私今日は18時すぎまで工廠にいるんで待ってますから。同調できたなら、何か適当に一報入れてくれるだけでいいです。」

 

「わかりました。あ、それと川内の艤装、コアユニット以外は持ち帰ってもらってもいいですか?」

「え?いいけど、なんでコアユニットだけは残したいんですか?」

「はい。内田さんに、もう一度ちゃんと同調をさせてあげたくって。」

 那美恵はそう言い視線と身体を合わせて流留に向けた。それに気づいた流留は確認する。

「会長……いいんですか?」

「いいもなにも、あなたはもうすぐ川内になるんだから、自分の担当艦の艤装を確認しておきたいでしょ?」

「それはそうですけど、明石さん。いいんですか?」

 流留は明石の方を向いて目で疑問を投げかけた。

 

「うーん。そういうことなら、OKです。じゃあ川内の艤装のコアユニットは後で返しに来て下さい。」

「はい。一度内田さんに試してもらったら、今日帰りに内田さんと一緒に鎮守府に行きます。川内の艤装と、神通の艤装交換っこということで。」

 

 明石は那美恵の話を承諾し、試すことになる中心人物である流留もそれに承諾した。

 

 

--

 

 お昼休み終わる間近、那美恵たちは川内の艤装を運び出し、駐車場に止めている明石の乗ってきた車に積め込みに行った。

 

「みんな、運ぶのありがとうございますね。」

「いえいえ。どういたしまして。」

 那美恵たちはそれぞれ返事をした。

「それじゃ、またあとで鎮守府で会いましょう。流留ちゃんも、早く鎮守府に来てくださいね~」

「はい!」

 

 機材を積み終わった車は明石の運転によって高校の正門へと進み、鎮守府へと帰っていった。

 


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