資料室に流留が入ると、扉の隣で待っていた三戸は彼女が扉から離れたのを確認してから扉を閉めた。そして自身もあとに付いて行って資料室の開いているスペースに立った。
すでに那美恵と流留は椅子を見つけて座っている。三戸は二人の境目に椅子を持ってきて座る。ちょうど三角形に位置取りする形となった。
「さて、今日内田さんに来てもらった理由はわかる?」
「そういう確認いいですから目的だけ言って下さい。」
流留は那美恵に突っかかってくる。が、那美恵は特に意に介さず言葉を続けた。
「わかった。今日来てもらったのはね、艦娘のことではないんだ。三戸くんに話してくれた、相談のことなの。」
その言葉を耳にした瞬間、流留はビクッとして一瞬で表情をこわばらせた。
「相談してくれたことはね、今着々と対応中です。あなたのご希望どおり……に本当になるかどうかはみんなの反応次第だけど、あたしたちに出来る最善のことはするつもり。そこでね、最善の結果を生むためにはね、あたしたちにはどうしても足りない情報があるの。」
那美恵は一息置いた。流留はゴクリと唾を飲んで言葉の続きを待つ。三戸も同様の様子で生徒会長の言葉を待っている。
「あなたの口から、あなたに起こったことを教えて欲しいんだ。」
「!!」
触れてほしくないところに触れてきた、流留はそう感じた。それを悟ったかのように那美恵は続ける。
「もちろんプライバシーもあるし、あなたが言い出しづらいこともあるかもしれないね。だから無理にとは言わないよ。それに聞いたとしても、それを無理やり今回の解決策に絡めたりはしない。」
「……。」流留は口を真一文字に閉じて聞いている。
「あたしたちはね、せっかくあなたから相談を受けたんだから、あなたの味方でいたいの。あたしたち2年生にも聞こえてくる噂や例の投稿、あまりにひどいと思ったもん。けど、実際のところは知らないからなんとも言えないんだよね。あなたのために動きたくても、あなたの周辺の本当のことがわからないから本当の解決ができないの。このある種矛盾、わかってもらえるかな?」
那美恵の問いかけに対し、コクリと頷く流留。しかし反論する。
「……けど、あたしは、言う必要はないかなと思ってます。あたしの味方をしてくれるのは嬉しいし生徒会の力で上からガーッと押さえつけてくれればそれでいい。あたしのこと助けてくれるってなら、少しはあたしの気持ちを察してくれてもいいんじゃないですか?」
「なんで? 言わないとさ、誰もあなたの本当のことわかってくれないよ?あなたが正しいならそこはきちんと言うべきだと思うよ?そうでないと、内田さんはあんなひどい誤解をされたまま。嫌でしょ?」
正論だ。流留はそう思った。
「別に……もうどうでもいいです。きっと嫉妬した馬鹿な女子たちがやらかしてくれたことなんで。そういう輩は無視するに限りますし。」
そう言い放つ流留は、たしかに自分にとってはもはやどうでもいいことと捉えていた。これからまだ2年と少し高校生活は続く。かなり堪える噂と投稿だが、1年生の生活が過ぎればきっと自然に収まる。周りは所詮愚かな凡人の同性だ。今までの経験則で、噂なんてすぐに立ち消えるとわかっている。だが見た目で証拠が残るSNSの投稿はまずい。だからこそすぐに目につかない程度に収めてくれさえすればそれでいい。
一方で、自分の根源でもあった日常を壊してくれた同級生のいる高校での、これ以上の日常なぞもういらない。どうせ今の人間関係が固まってしまえば、あたしが今まで接してきた(男)友達はいなくなるも同然なのだから。あたしはきっとボッチになる。ボッチ自体は自分にとっては大したことではない。あたしが恐れるのは、かつての日常を模した日常が脅かされること。だからあたしは決めたのだ。自分でも矛盾しているかもと思うけれど、どうせ壊されるならこれ以上学校で、理想だった日常を作る気などないということ。
戦いという同じ目的のために集まり、人間関係でいざこざが起こらなそうな艦娘としての生活とその先に、望みをかける。新しい出会いを求める事自体には抵抗は一切ないから艦娘の世界に飛び込まない手はない。
流留は黙ったまま心にそう思った。流留の沈黙を視界に収めたままの那美恵はさらに突っ込む。
「はぁ……あのね。そう達観するのは勝手だけどさぁ。あたしの気持ちを察してくれっていうのはさ、長年付き合いのある人同士だからこそできるんだよ? 高校入ってたかだか数ヶ月程度かそれ以下の周りの人が察してくれるなんて自分勝手なこと、まさか思ってないよね?だとしたらそういう考えはやめたほうがいいよ。」
さらに那美恵の口撃が続く。
「あとね、なんで本当のことを知ってもらうのをそんなに恐れてるの?」
那美恵は流留が肩をすくめて縮こまっている様子をを見ていた。那美恵はそんな彼女の態度を見て、確実に何かあると気づいた。流留はまったく意識していなかったが、自分の決意とは裏腹に秘めた感情が態度に表れていたのだ。
「ちがっ! あたしは怖がってなんか!」
「じゃあ話して。でないとあたしたちはあなたを助けないよ。」
実質脅しである那美恵の言葉を聞いた流留と三戸はそれに反発する。
「!!」
「会長!それじゃあ脅しっすよ!それはいくらなんでも……」
「まぁ、それは冗談としてもね。今すぐでなくてもいいから、本当のこと話して。こう言ったら反発食らうかもしれないけど、あたしはあなたに縁を感じたの。縁がなければあたしは生徒会長として当たり障りないことしかやらないと思う。なんの縁かは……きっとあなたならすぐに気づくと思う。縁を感じたからあなたをなんとしてでも助けたい。」
流留は反論した。
「あたしのこと何も知らないくせに、勝手に縁なんて感じないでくださいよ!生徒会長はあたしの味方なんですか?それとも? 正直言って、生徒会長の態度見てるとわからなくなってきます。」
「お互い様だよ。あたしはあなたのことがわからない。ほとんど初対面だし、あなたが言うところの察してくれだなんてとてもできない。何も知らないんだから知ろうとするしかないじゃない。」
那美恵は背もたれにグッと体重をかける。椅子が地面に擦れてキシッと鳴った。一旦上を向き、一拍整えた後続ける。
「それにね、あたし思うんだぁ。血のつながりよりも、旧知のつながりよりも、初めて会った人に一瞬で深いつながりを感じることって、ある気がするの。」
「それが、あたしとの縁だっていうんですか?」
「うん。で、その縁は見事繋がりを示してくれた。……それが、艦娘になれるという資格。」
「艦娘……」
「あなたも何か思うところがあったから、いきなり艦娘になりたい!って三戸くんに打ち明けてくれたんだよね?それだって、縁なんだよ。」
那美恵の言葉の途中で小さく頷き、口を開かない流留。
「無理強いはしないよ。あなたが気持ちを落ち着けてから、ハッキリと真実は○○だから助けてくださいってあたしを頼ってくれるのを待ってる。あたしはね、あなたには気持ちよく高校生活と艦娘生活を謳歌してほしいの。」
「生徒会長……。」
「どーかな?あたしは女だから信用できない?三戸くんから同じこと言ってもらったほうがよかった?」
流留は数秒沈黙の後、頭を振って那美恵に向かって口を開いた。目の前の生徒会長の語る言葉は意味がわからない・時々厳しく肌に当たる感じがする。しかしなんとなく心まで突き刺さり響くものがある。流留にしては珍しく、話してると気が楽な、心が暖かくなれる同性。縁と言われても正直実感はないし、その場のノリで言っているだけなのかもしれない。本当になんとなく、わずかではあるが、この人なら安心できるかもと流留は心を揺さぶられ始めていた。
「いいえ。そこまで言ってくれるんなら、少なくとも生徒会長は信用します。でも…それでもまだあたしは、すみません。100%は学校のみんなを、同性を信じられない。あたしの……日常を壊した同性が……憎いです。日常を壊されたくない……怖い。」
流留は言葉の最後に表情を歪めて感情を露わにする。
那美恵はその微妙な仕草を逃さない。すかさず反芻した。
「日常?」
流留はしまったと思い、ハッとした。しかし遅い。彼女の右前にいる生徒会長は興味津々に視線を送ってくる。流留は言葉に詰まる。 ついに本音の一部が漏れてしまった。
「えと……あの……。」
「んふふ~。それがあなたの本心、なのかな?」
那美恵はニンマリした顔で流留を見つめる。
「な、なんですかそのいやらしい顔……?」
「ううん。少しでもあなたが本当の気持ちを出してくれたのがうれしくって。」
「うぇ!?」
たじろぐ流留を目の当たりにして那美恵はアタックを弱めない。
「話すと、きっと楽になると思うよ。さぁさぁ白状しちゃえ~~。」
人を食って掛かるその態度、流留はそういうのが嫌いだった。
「そ、そういう言い方やめてください。」
「エヘヘ。ゴメン。調子に乗っちゃった。でもあなたの本心がほんの少し見えてね、あたし嬉しいんだよ。これは本当。その……さ、あなたのその日常とやらに、三戸くんは入っているのかもしれないけれど、そこにあたしも入れてくれないかな?」
「え!?」
那美恵の言い回しに流留は激しく心揺さぶられた。光主那美恵その人の普段の調子や態度はこちらの調子が狂わされるものがあるが、それは心から嫌というのではない。不思議と心落ちつき、引き寄せられていく。その喜なる感情を伴った戸惑いが流留に一言だけの口を開かせる。
「あ、あたしの……日常?」
「うん。あなたの~日常を、ちょっとだけ非日常にしちゃったりするかもだけど、それはとっても楽しくてあなたなら気に入ってくれるってほしょ~するよ!」
あるときはお調子者っぽく、あるときはまじめに全力で取り組む、自分らの高校のすごいと評判の生徒の筆頭。そんな光主那美恵を慕う人は多い。
「うりうり~。ど~ですかぁ、今あたしを買ってくれればお買い得だよぉ~。」
那美恵は相手の脇腹をつつくかのごとく肘を連続で突き出す。当然位置関係からして流留には当たっていない。
「ちょ、会長。説得するのかふざけるのか……。」
三戸がアタフタとするが那美恵は一切気にしない。
もし初めて同性の友達を作るなら、この人ならば気が楽で安心できるのかも、この人になら自分の思いを打ち明けてもいいのではないか。
自分に親身になってくれているというなら、この人に甘えたっていいのではないか。
頼れる年上の人。
冷静に考える。艦娘になるのなら、少なくとも流留にとって光主那美恵という存在は卒業までずっと近くにいる存在になる。従兄弟たちのように一緒にいられるかもしれないし自分を裏切らない。助け続けてくれる。
そう思考が方向性を定めた流留の心は動き始め、欠けていた何かを掴めそうな気がした。
((光主那美恵さんに、あたしの日常にいてもらいたい。いてもらえたら、学校でのこれからの日常を我慢して過ごせるのなら……))
そして流留の心は、その根底から決まった。
決意した瞬間、彼女の目からはポロポロと涙がこぼれ落ち始めた。そこまでの刹那、傍から見れば突然流留が泣き出したように見える。それを見て慌てる那美恵と三戸。
「あーあー!内田さん泣いちゃったじゃないっすか!会長が冗談めいた事言ってからかうからっすよ!」
三戸が那美恵に突っ込むように責め立てる。三戸が煽ったので那美恵はさらにうろたえて三戸と流留の顔を何度も見返す。
「え?え?え? あたしの言葉そんなにきつかったかなぁ!?あたしまずいこと聞いちゃった? ゴメンね~!!」
那美恵は椅子から腰を上げて流留に寄り添い、肩に手を当てつつ近くで謝り続ける。
「ゴメン! あたしったら、まだそんなに親しいわけじゃないのに、触れられたくないことだってあるよね?だかr
「いえ。そんなんじゃないんです。」
流留は鼻をすすり、涙を拭ったあと、言葉を続けた。
「色々考えちゃって。あたし……。」
「内田さん?」
「生徒会長。あなたのこと、信じてもいいですか?」
「……うん。あたしがどこまであなたの力になれるかわからないけど、あたしが守ってあげる。信じて。」
「じゃあ、艦娘になったら、一緒にいてくれますか?」
「え?あぁうん。そりゃあもちろん! あたしは1年早く卒業しちゃうけどそれでもいいならね~」
「それでも、いいです。鎮守府ってところにいけばいつでも会えるんですよね? 頼ってもいいんなら、とことん頼っちゃいますよ。ホントにいいんですね?」
那美恵はコクリと頷いた。
「うん。なにがあっても、あたしはあなたの味方だよ。学校内でも学校の外でも、できるかぎり守ってあげる。だから安心して。あ!でもただじゃ頼らせないよ~。その対価は身体で支払ってもらうからね~」
「え゛!?」
流留は軽く引いた。三戸は何かを妄想してしまったのか頬を赤らめてポカーンと見ている。普段那美恵の態度や一言にすかさずツッコミを入れてくれる親友は隣の部屋なので、ボケが宙ぶらりんになる。
仕方なくツッコミ説明を交えて話を戻す。
「身体って何やねん!って突っ込んでくれないとぉ~。」
「へ?あ、あぁ~はい。すみません。」
「まぁいいや。つまりね。鎮守府にはいろんな学校の生徒さんが来るんだし、うちの高校の代表として恥ずかしくないようにしてってこと。ビシビシ鍛えてあげるから覚悟してよね。おっけぃ?」
流留が納得した様子を見せると、ウンウンと那美恵は頷いた。
それを見て誰からともなしにプッ、クスクスと笑い始める。流留はすっかり泣き止み、少し充血した目は元の白さを取り戻し、その目は下瞼が少し上がって笑みを作っている。
流留は思った。生徒会長はこういう人なのだ。無条件で頼らせてくれるわけじゃない。優しいだけじゃない。お調子者なだけじゃない。言い方は軽いがその中身はきっと厳しい。安心できる厳しさ。
きっと、光主那美恵を慕う人は、彼女の人たらしたらんところに惹かれるのかも、そう流留は感じた。
「会長になら、あたしの本当のことを話します。あたしの日常を、助けてください。それから、友達になってください!」
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そう言って流留は、これまで自身に起きたことを語り出した。彼女が語り始め二人の少女の隣にいた三戸がふと時計を見ると、資料室に入って話し始めてから30分ほど経っているのに気がついた。流留は、ものすごく安心した表情で、(主に那美恵に対して)自身のことを語り続けた。
「そっか。そうだったんだ。女子って怖いよね~。あたしだって女だけど。」
「そうだったんだ。敬大のやつがもともと。でもそれ俺聞いてよかったのかな……? あぁいや、敬大の告白を他人に漏らすつもりないけどさ。」
那美恵が苦虫を噛み潰したような表情で同情混じりに感情を漏らす。一方で三戸も苦々しい表情をしていたが、仮にも友人の告白の真相を知ってしまったことで戸惑いを隠せないでいる。
「アハハ、なんか友達の事密告したようでゴメンね。そんなつもりなかったんだけど、敬大くんが告ってきたことは本当だからさ。」
「あ~別にそれはいいよいいよ。でも内田さんが女子たちが噂するようなことをしてなくてよかったよ。」
「あたしの事、本当に信じてくれるんだ……。」
「当たり前じゃん。内田さん嘘言えるような人じゃないし。」
「アハハ……ありがとね。三戸君が友達として残ってくれてよかったかも。」
見つめ合う流留と三戸。いい雰囲気になりかけたのを那美恵が破る。
「うおぉ~い、ふたりとも? あたしお邪魔っぽい?良い雰囲気な感じなところ悪いですけどぉ~~?」
「「!!」」
見つめ合っていた二人はアタフタとして那美恵に視線を向け直す。
「アハハ、ゴ、ゴメンなさい。そ、そんなつもり全然ないですからぁ~!」
そのつもり、本気で何も思ってないことが彼女の口ぶりと振る舞いに感じられた三戸はややガッカリして頭をガクッと垂らした。那美恵はそんな二人の反応にクスクスと微笑んでから続ける。
「でも、みんな勝手だよねぇ。」
「ほんっと、そう思いますよ。まぁあたしも人のこと言えないですけど。でも○○たちの口ぶりにはイライラしましたもん。」
那美恵の言葉に同意しつつ、再び自分の境遇の一部を語る流留。苛立ちも復活させてしまい下唇を強く噛み締める。
「人ってさ。誰もがね、自分が見たいと欲する現実しか見れないもんなんだよ。つまり都合の良い現実しか見ないの。」
「あ~分かる気がします。」
「俺もわかるっす。」
流留と三戸は那美恵の言葉に激しく頷いて納得の様子を見せる。
「ま、これは大昔の本に書いてあったことの受け売りだけどね。で、自分が見たくない・見る必要が無い現実も見られる人こそが、いわゆる天才とか、デキる人ってこと。」
「ふぅん……。」
流留はものすごく感心した様子で聞き入っている。
「……でね、都合の良い現実から一歩距離を置いてその現実の本当の姿を見ようとする努力、これが大事なんだってさ。だから今回のことだって、噂話は真に受けないように心がけたもん。みっちゃんと一緒にね。」
「……あの副会長ですか?」
「うん。あの副会長ってみっちゃんが周りからどう思われてるのかわからないけどぉ~。」
那美恵のさりげないツッコミに流留は慌てて取り繕う。
「えっ、あーえーと。あたしが単に感じただけなんですけど。副会長さん、厳しそうだし糞真面目で固そうだなぁ~って。」
「内田さんにかかるとみっちゃんもそうなっちゃうか~。ま、友人としては否定しないけど。でもみっちゃんも悪気があってあなたに突っかかったりしてるわけじゃないのは、わかってあげて。ね?」
那美恵は言葉の最後にウィンクをしながら流留に視線を送った。それを見て流留は少しだけ苦い顔をしながらも頷く。
「でもな~、なんとなく、副会長は苦手かもです。」
「アハハ。ま、根は乙女ちっくで良い娘だからそんなに嫌わないでいてあげてね。彼女もあなたのこと本気で心配してくれてたんだし。」
「はい。」
流留は申し訳無さそうに頷いた。
「それで続きだけど、たまには自分が見たい現実を見るのも大事。そうじゃないと疲れちゃうでしょ?そのバランスが大事だって思うの。だって人間だもの~って頭ではわかってるけど、あたしもまだまだね、絶賛しゅぎょー中です!」
ふざけて敬礼して言葉を締める那美恵。
「へぇ……。そんなことまで考えてるなんて、生徒会長はやっぱすごい人だわ~。」
「いやいや! あたしだって結構自分が見たいと望む現実しか見てないところあるよ~!ガンガン失敗してるし人を傷つけちゃうことあるし。」
那美恵は両手を前に出して頭と手のひらを激しく振って否定した。
流留と那美恵の間にはすっかり打ち解けた雰囲気があった。もともと流留は社交性があり、一旦話し込めば大抵の人とは仲良くなれる自信と気質があった。それは今までは趣味がらみであったが、目の前の生徒会長とは、心の底から仲良くなれそうと確信を得ていた。それは、かつて自分の一番大事だった人たちと同じ程度に彼女の中では一気に格上げされていた。
「どーお?少しは気が楽になった?」
「はい。なんだか、スッキリしました。やっぱ同性の友達っていいですね。なんで今まで作ってこなかったんだろうって、今ものすんごく思いました。」
「アハハ。うんうん。苦しいことは溜めない・諦めないで出してスッキリしちゃおーね。内田さんとはもうお友達だよ?」
「はい。それじゃあ改めてお願いします。あたしを助けて下さい。」
「はーい。喜んで。そんであたしに具体的にしてほしいことは?」
「それは……」
一通り流留から思いを聞き終えた後で那美恵はようやく彼女の要望を聞いた。その内容は期待していた内容とは異なったのに当惑する。
「え、ええと……本当にそれだけでいいの?」
「はい、それでいいです。あたしは失ったものに興味ないですから。それに、あたしが騒ぐことでまた余計ないざこざ作りたくないので。だから、適当に収めてくれればよくって。あたしはこれからの日常を作ることに集中したいから。」
そう言って流留はまっすぐに那美恵に視線を向ける。その眼の色に那美恵は彼女の強がりを見たが、それと同時に剛とした本気を見た。多分、この内田流留という少女は強固なまでに頑固だ。一度決めたら意志が強い。それがどれだけ問題を起こしてきた、あるいは巻き込まれてきたのか那美恵は知ることはできないが、この良くも悪くも強い意志ある彼女は危なっかしいと思うのに難しくなかった。それはこの数十分話を聞いて打ち解け合った中でも理解できる。
眼力が強い。那美恵もそれなりにキモが座っていて視線を合わせるのに苦ではないが、この少女の強さはすごい。
根負けした那美恵はいったんまぶたを閉じて瞬きする。そしてゆっくり口を開いた。
「ふぅ……。内田さんは強いなぁ。」
「へ? そ、そうですかぁ?」
「うん。なんとなくそう思ったよ。その強さは色々厄介そう。でもあたしはそんな内田さんのこと、好きになれそう。」
流留は那美恵の言葉を理解できずに頭にたくさんハテナを浮かべて眉をひそめる。
「アハハ、ゴメンねワケのわからないこと言って。とにかく言いたいのはね、あなたの気持ちを尊重しますってこと。あなたのご希望にとやかく言わないで、望むようにしてみせるから、それは安心して。まぁ、後は内田さん次第ってことになるけど、本当にそれでいいのかなって最終確認。」
「えぇ~と、はい。お願いします。」
「そっか。さて、一通りあなたの事聴き終わったから、みんなの前に戻れそう?」
「はい!」
少女二人が見つめ合い何か理解し合ったように和やかになっていく空気を感じる、唯一男子の三戸は微笑ましく二人を見て頷いていた。というより、今この空間が彼にとっては猛烈に幸せ空間だった。
なにせ普通にしていれば校内でも一二を争う(と勝手に思っている)美少女二人と密室に3人きりなのだから。加えてどこからともなく漂ってくる良い匂い。間違ってもそんなことは口に出して言えないと自重する三戸だが、察しの良い生徒会長からツッコミが入る。
「三戸くん……?なぁにそのにやけた顔?なんというか、すんごい」
「キモいよ?」
那美恵の視線の先にいるおかしな存在に気づいた流留が言葉を補完してWツッコミとなった。