同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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追い詰められる少女

 

 流留はお昼休み中にも吉崎敬大を探したが見当たらず、誰にも頼ることができなくなっていた。あてもなく校内を歩く彼女の姿は、1年女子の間では、代わりの男子を探して歩いてると悪言をつかれてしまう始末。仕方なく吉崎敬大のメッセンジャーサービスのアカウント宛にメッセージを残すことにした。

 

 午後の授業が過ぎ、途中の休み時間。流留は携帯電話をチェックすると、吉崎敬大から返信があった。

「大変なことになっててゴメン。誤解解くのは無理そう。」

流留は返信する。

「敬大くんの言うことなら聞くんじゃないの?なんとかしてよ。」

すぐに返信が来た。

「ムリムリ。俺が話しても聞く耳持たん女子ばっか。何もかも都合の良いように取られてる。しかも午前中は女子から呼び出されて告白受けまくっててうぜーことになってる。ヘトヘト(~O~;)」

「そう。女子の間じゃ敬大くんへの告りに不文律があるらしいからそっちはしばらくすれば落ち着くんじゃない?」

「マジか。そっちは?」

「午前中までのとおり。女子の間のいじめって、男子のより陰湿なのね~。あたしじゃなかったら大変なことになってたよ。あたしはこういうの慣れてるからいいけどさ。」

「ゴメン。用事できた。まああとd」

 

 敬大からのメッセージは途中で途切れ、メッセンジャー内での会話は中断した。

 

((まあ、人のうわさなんて2~3日ほうっておきゃ収まるか。中学の頃の似たような問題あったときもすぐ収まったし。ここであたしが慌てて何かしすぎたら余計長引かせるだけだし。))

 流留は過去似た経験をしていたが、持ち前の豪胆さで切り抜けていた。

 

 

--

 

 放課後になった。流留は携帯電話を見ると、メッセンジャーに敬大からメッセージがあったのに気づく。

「放課後、B棟校舎の屋上入り口で待ってる。」

 それを見た流留は早速行ってみることにした。

 

 

 そこでは敬大が物陰に隠れるように待っていた。

「何……してるの?」

 少々情けない様子の彼を見て流留は聞いた。流留の声を聞いて吉崎敬大は顔を上げて確認した後立ち上がり、辺りを見回す。

「いやさ。朝から俺って見ると告りにくる女子ばっかで大変だったんだよ。今も女子の目をかいくぐってやっと一人になれたんだよ。」

「人気者は大変なんだね。」

「うっせぇ。まー、女子にそんな不文律があったなんて知らなかったし、俺が撒いた種だから自業自得なんだけどさ。」

 ほとんど同時に二人はクスクスと笑い出した。

 

 二人は状況を確認し合った。

「俺はもう一度みんなに話して誤解を解いてみようと思うんだ。その時はさ、ながるんにも一緒にいてほしいんだ。」

「あたしが一緒にいたら……まずくない?」

「それはどうなるかわからないけど、一人より二人のほうが説得力はありそうだろ?」

 

 敬大の案を聞いてうーんと唸り考えこむ流留。それよりもと流留は提案し返してみた。

「それよりもさ、この話、誰かがわざと漏らしたと思わない?そいつを探し出すべきだと思うな。」

「もしかして、あの時の足音の主か!?」

「うん。そうそう。」

 

「それは無理じゃね?証拠も何もないし。」

 言いながら敬大は立ち上がる。手を腰に当てて俯いて流留に視線を向けたのち、苦々しい顔をして言葉を続ける。

「とはいえ足音の主が事実を曲げて広めたのは十中八九確かだろうな。けど噂がここまで広まった今、大元のそいつを探しだして懲らしめても解決しきれない気がする。くやしいけどそいつはもう放っておいて誤解を解いて回ったほうが俺はいいと思う。」

 

 流留は彼を見上げていて首が痛くなったのか、自身も腰をあげて膝立ちになり、すぐに立ち上がって階段の手すりによりかかる。

 

「……結論がでないね。」

「あぁ。」

 

「あたしはさ、もういっそのことこの話題は無視して放っておいたほうがいいと思う。騒いだら騒いだだけ逆効果。敬大くんは……人気があるし普段通りしていればそれでもう問題なくなると思う。」

「そういうもんかな?」

「そういうもんよ。」

「でもながるんは?」

「あたし?あたしも基本は無視するからいい。こういうの慣れてるし。」

 流留のその一言に敬大は一抹の不安を覚えたが、流留の性格は理解していたつもりなのでそれ以上気にしないように感情を抑えた。

 

「ゴメンな、ながるん。俺が告白したせいでこんなことになって。」

「いいって、もう。」

「さすがにこんなことになって、ながるんに迷惑かけてまで付き合ってもらいたいとは思わない。」

「……。」

「少なくとも、高校にいる間は俺はもうながるんに迫ったりはしない。俺は本気で好きだから、これ以上迷惑をかけたくないんだ。」

「敬大くん……あたしは前も言ったけど、君の気持ちには答えられないから、そうしてくれると助かる。」

 敬大の言葉を額面通りに受け取る流留。その言い方を目の当たりにして敬大は口を開きかけたが、すぐに閉じ、その小さな動きを流留に悟られないようにした。

 その日は結局二人とも確たる対応策は出ずにいたため、ひとまず噂話しには無理を決め込むようにした。

 

 

--

 

 一方の那美恵たちはというと、流留のことも気にはなるが表立って気にかけるわけにはいかないため、その日もいつもどおり放課後に艦娘の展示を行なった。

 前日よりは少なかったがそれでも6~7人来る盛況さであった。同調は、流留が合格したとはいえもしかすると他にも同調できる生徒がいるかもしれない。可能性は多いに越したことはないということで希望者に同調を試してもらったのだ。

 

 結果、2人試して2人とも不合格。

 その内の一人は、前日も試した女子生徒であった。その生徒は前髪が長く、後ろは長い髪を雑に縛っただけの、お世辞にもオシャレとはいえない、オドオドした態度でメガネを掛けた少女であった。いかにも目立ちたくないですといった風貌で、那美恵はひと目で気づいていた。

 

「あれ?あなた、確か昨日も試しに来たよね?」

「!! あ……はい。すみません。」

「ううん。いいよいいよ。でも結果は同じだと思うよ? それでもいい?」

「あ、ええと……はい。試したいんです。」

 

 自信なさげな様子でその少女は那美恵に頼んで食い下がる。頭をポリポリと掻きながら那美恵はそれに承諾し、彼女に川内の艤装を試させた。

 結果は32.18%と、不合格であった。その結果を受け、しょんぼりと(那美恵にはそう見えた)帰っていくその少女。

 

「あ、名前聞くの忘れた。ま、いっか。」

 2回試しに来たその少女のことを、那美恵はそれ以上は気に留めなかった。

 

【挿絵表示】

 

 

--

 

 翌日・翌々日にもなると、先の話としての噂の拡大自体は収まっており、流留に対する扱いは1年女子の間ではほぼ確立されていた。男子の方はというと、多数の女子と1人の女子どちらを敵に回すかを天秤にかけろと暗に女子達から迫られ、情けないことに大半の男子がその判断を決めていた。そしてその決断は吉崎敬大にも及んでいたが、敬大はあくまでも誤解を解くために反発する。しかし女子の捉え方は変わらない。

 

 登校してきて日課である同じクラスの仲の良い男子に朝の挨拶をするも、誰も挨拶を彼女に返さなかったその態度に流留はイラッとした。そして周りを見渡すと、離れたところにいるクラスの女子(の集まりのいくつか)が笑いをこらえている。無視をした男子はものすごく気まずそうに極力視線を流留に向けないよう努めて男同士で話を続けるフリをしている。

 

 流留は、彼らが自身に対して怖がっているわけではなさそうということをなんとなく察していた。が、察したところで流留は言わずにはいられなかった。

「あのさぁ……。Aくん、Bくん。そんなビクビクしないでさ、挨拶くらい返してよ。そーいうの見ててイライラするんだよね。」

「あ、あぁおはよ、内田さん。」

「ちょっと話してて気がつくの遅れたわ。おはよう。」

 

 流留を無視しきれない男子生徒は一応反応を返す。直接的な怖さは、気の強い性格の流留のほうが上だからだ。そういう態度は他の男子も同様だった。皆が女子との不和を望まない選択をしたためである。どこにもぶつけようがないもどかしさを感じたままひとまず挨拶は終わりとし、流留は黙って自席に着き授業の開始を待つことにした。

 集団イジメとなりつつあるこの空気は、静かに校内を侵食し続ける。

 

 

--

 

 休み時間数回、ある写真がこの時代の若者に人気のSNS内で出回っていることが判明した。出回った範囲は、流留のいる高校の生徒間の範囲だ。

 流留はそのSNSを、仲の良い男子生徒とつながるために少しは使っていたが、その写真は回ってこず、目の当たりにすることはなかったので別のクラスの男子生徒から言われて気がついた。ある休み時間中、流留は他の女子の視線や陰口はまったく気にせずいつもどおり別のクラスの男子生徒と雑談しようと足を運んだ。

 その教室に入って男子生徒に近づくやいなや、男子たちは慌てて流留の側に行き彼女を一旦教室から外に出し、廊下で小声で話しかけた。

 

「内田さん、あの写真気づいてる?」

「は? あの写真って何?」

「やっぱ知らないのか……。ながるんと敬大の写真が○○内で出回ってるんだよ。」

別の男子生徒は額を少し掻いて状況説明を補完する。

 

「これだよ、これ。」

 

 そういってその男子生徒から流留は写真を見せてもらった。その写真は複数あるがいずれも、先日吉崎敬大と流留が屋上入り口で話していたときの写真だった。共有された文章にはこう書かれていた。

 

「振られた内田流留がまーた敬大に迫ってる~!土下座かよ~」

「敬大くんその日何度目の女子からの告白なんだろー?最後がこいつって敬大くんもかわいそ~敬大くんにマジ同情(ToT)」

ひどい文章や別の写真のアングルとなると

「迫ったあげくにフェ○かよ!?なんなのこの女!頭おかしいんじゃないの!?」

「実は流留に近寄った男子全員色仕掛けされてたりww この淫乱女に」

「さすがにフェ○はないっしょww みんなエロフィルターかけて見過ぎwww 単に抱きつこうとしてるんでしょ?どのみちうぜーことに変わりないわ~」

 

 などと、またしても尾ひれがついたものだった。しかも今度は確実に誤解されやすい状況証拠たる写真付きで、SNSで出回るという履歴が残る形での噂の流布なので前日以上にまずくなるのは明白だった。無視を決め込んだばかりの流留はさすがにこれは無視しきれない・自分の手にはもう負えないことになりつつある恐怖を感じ始めていた。

 

「これ……誰が撮ったの……誰が書いたの……?」

 男子生徒たちに問いかける流留の声は震えていた。彼女の質問に男子生徒たちは答えるには答えたが、彼女の慰めにもならない回答だった。

「共有されまくってて誰が誰から受け取ったとか誰が送ったかもうわからなくなってるんだ。」

「さすがにながるんがフェ……校内でそんなことしないとは誰もが信じてるけど、敬大と会ったのは確かなの?」

 

 何が気に入らないのか、やり方が汚すぎる。そう憎しみの思いが湧き上がると同時に流留の心は一気に限界に近づいた。泣きそうになるのをこらえ、声をゆっくりと重々しくひねり出して答える。

「敬大くんから呼び出されて……こんな嘘っぱちの話、どうにか……誤解を解かないといけないよねって話してて……。敬大くんから告白されたのが本当で、敬大くんからこんなことになってゴメンって謝られて……」

 女子達から厳しく言われていた男子生徒たちだったが、普段気が強く自分たちと楽しそうに話していた彼女がこれほどまで追い詰められ、震えて泣きそうになっている様を目の当たりにし、広められた噂話、張本人、そして女子に従おうとしていた自分たちに辟易し怒りさえ感じていた。

 

「うん。だろうと思った。ハッキリ言って女子共の話ひどすぎるぜ。」

「あぁ。なんでここまでしてながるんを貶めたいのか嫌うのかムカつくわ。」

「女子ってこえぇ……」

 別の男子生徒がふとこんなことを提案した。

「上級生や先生の耳に入るのも時間の問題だろうからさ、いっそのこと生徒会に相談してみたらどうだ? 1年の○組に三戸と○組に毛内さんっているだろ? あの二人、先日からどうもこの噂話を探ってるようなんだ。もしかしたら生徒会が助けてくれるかもしれないよ?」

「正直内田さんと付き合いある俺たちの中でも、内田さんにこうして面と向かって協力できるやつらはもうほとんどいないし俺たちだけじゃ限界だ。こんな写真付きの嘘話が広がって先生たちにまで伝わって悪化する前に頼るべきだよ。」

 

 生徒会と聞いて流留は思い出した。三戸から話を聞いた件のこと、彼らが関わっている艦娘のことを。おおよそ自分とは縁がない、非日常の世界に首を突っ込んでいる人たち。生徒側の最高権力者集団。全生徒に知れ渡る、性格は明るく少し砕けすぎるところがあるが成績優秀・運動もできる文武両道な生徒会長、光主那美恵。

 流留は自分と彼女らに、縁がないために頼るのをためらった。明らかないじめとはいえまだ2~3日しか続いてない状況。自分でなんとかできると高をくくってるところもあったためだ。

 だがせっかく提案してくれた男友達の思いを無駄にしないためにも、ひとまず感謝の意を伝えて気持ちの整理も兼ねて考えることにした。

 

「ありがと。そうだね。相談してみるのもアリかも。ちょっと考えてみる。」

「早いほうがいいと思うよ。SNSのアカウントはやめておいたほうがいいから、これ。三戸のメアド。毛内さんのは知らんからとりあえず三戸に話してみたら?」

「わかった。」

 

 そう言って流留は三戸の連絡先を聞き、その場は一旦自分の教室へと戻ることにした。

 


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