同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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艤装デモ

 翌日土曜日になった。

 

 2000年代も70~80年経った那美恵たちの時代になると、かつて存在した学校の完全週休二日制・学校週五日制度は、学生の学力低下などの問題により見直しがされて久しく、学校によっては一月に1回週休二日、隔週で週休二日制を取るなど、学校ごとに必要単位の調整のために運用が求められ、殆どの学校では完全週休二日制はなくなっていた。那美恵たちの高校は隔週で週休二日制だ。

 毎週土曜日が休みだったのは新しくても40~50年も前の話で、那美恵たちはおろか、提督や明石たち、下手をすれば校長の学生時代であっても毎週土曜日休みだったというほうがすでに珍しい制度になっていた。

 今現在学生である那美恵たちは何の疑問も不満も持たず、自身の学校に定められた土曜日授業に出席している。

 

 金曜日の夜にSNSの高校のページの案内にて、翌日土曜日に艤装のデモを行うことを那美恵が書き込んでいたので、それを知る生徒はそれなりにいることになった。

 そして土曜日の授業がすべて終わり、那美恵たち生徒会メンバーは視聴覚室組とプール組で分かれてその日は作業することにした。那美恵と三千花はプールに、三戸と和子は視聴覚室の展示およびプールへの案内である。

 

「会長たちいいな~羨ましいっすよ。プール入りてぇな~」

「三戸くん、あんな汚い状態のプールに入りたいならどうぞ~。あたしはその上に浮いて三戸くんを眺めるだけだし~。」

 三戸がプールに行く那美恵たちを羨ましそうにしてひがむと、当の那美恵はしごく現実的なツッコミをして返した。

 

「三戸くん。デモが終わったらプール掃除するから手伝いに来てね?掃除するときなら水浴び放題だし、水着見放題だよ?」

「よっし!それだけでも十分っす。適当に友人募っていいっすか?掃除するなら人多いほうがいいっしょ?」

「ま、そのへんはてきとーによろしくぅ」

 

 艤装を運び出すのに4人全員でプールまで行った後、三戸と和子は視聴覚室へと戻り、那美恵と三千花はプールの入りうちで見学者を待つことにした。

 

 

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 デモ間近の時間になると、土曜日もお昼をすぎる時間にもかかわらず意外にも今までよりも人が集まってきた。その中には何人か教師もいる。さらにその中には、前日まで顔を見せなかった四ツ原阿賀奈もいた。阿賀奈は那美恵と三千花のところに近寄り、久々に声を掛け合う。

 

「光主さん!中村さん!2日ぶりね。」

「先生!2日間どうされたんですか?少し心配したんですよ~」

 那美恵が阿賀奈にそう言うと、生徒に心配されるということを頼りにされてると脳内変換したのか、ニンマリした顔で阿賀奈は釈明し始める。

 

「先生ね。この2日間で光主さんたちからお願いされたとおりにもらった資料読んで勉強してきたのよ!」

 マジでこの先生勉強してきたのか、と素直に驚く那美恵と三千花。そして阿賀奈はその場で覚えてきたことをペラペラ披露し始めた。

 さらに那美恵らを驚かせたのは、阿賀奈が披露した知識はまさに大正解で、那美恵が直接的にはノータッチな職業艦娘まわりの運用も説明してきたことだ。那美恵と三千花は先日までの阿賀奈の印象はどこへやら、一気に見直した。

 

「先生さすがですね~。このあたりのことなんか、2~3ヶ月艦娘やってるあたしですら知りませんよ!すごいです!」

「ふふ~ん!先生昔からお勉強得意だったんだから!光主さん、これからはもっと頼っていいのよ~!」

 

 那美恵が想定したとおり、阿賀奈は自分で見聞きしようとした物事ならば覚えられる人だった。裏を返せば、人の話を聞くことができない、聞いても理解する気がない(本人にそういう意識がないにもかかわらず)質の人なのだ。

 ともあれ正確な知識を得てきた阿賀奈は、那美恵にとって頼るに値する可能性ができた。

 

「先生ね、提督さんに言われた通り、今日はこれから防衛省に行って職業艦娘の試験の申し込みしに行くのよ!その前に光主さんたちのギソーのデモ見ていこうと思って来たの。先生、光主さんたちのカッコいいところしっかり見てあげるからね!」

「先生~!ありがとうございます!じゃあせっかくなので、あたしが艤装付けるの手伝ってもらえますか?」

 手伝って下さいの一言に満面の笑みを浮かべる阿賀奈。二つ返事で那美恵のお願いを聞き入れた。

 

 

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 艤装のデモをする時間が来た。那美恵は阿賀奈とともにプールサイドに行き、日よけのところに置いていた川内の艤装を装着し始める。那美恵は艤装の各部位の説明を交えながら阿賀奈に装着を手伝ってもらい、ほどなくして装着が完了した。当初手那美恵の艤装の装着を手伝う予定だった三千花は、プールの入り口で見学者の案内をしている。そしてプールサイドには十数人の見学者が各々好きな位置に立ったりしゃがんだりして位置取りした。見学者の準備も万端である。

 

 那美恵は日よけのところから出てきて、見学者に近寄る。まだ同調していないので、艤装の重量がダイレクトにのしかかり歩く速度を遅くする。数歩歩いた後、那美恵は声を張って見学者に挨拶し始めた。

 

「え~、本日は皆様、艦娘部のデモにお集まり頂いてまことにありがとうございます。あたし、光主那美恵はこの場では生徒会長ではなく、艦娘部部員としてここにおります。今日は生徒会副会長の中村三千花さん、それからこの度艦娘部の顧問になっていただいた四ツ原先生に協力してもらっています。」

 

 那美恵に振られてその場で会釈をする三千花と阿賀奈。それを確認した後、那美恵は挨拶を続けた。

「それでは艦娘について簡単に説明します。といってもここだと熱いしあたしもこういったものを身につけているので、本当にごく簡単にです。」

 

 身につけた艤装を見せつけるように動かしたり、腰や腕を振って重そうな演出をしてウケを狙う那美恵。配布資料に書いてある説明をもっと短くまとめて本当に簡単に、かつ本当に知ってほしい要点だけを那美恵は説明する。まだ同調していないので突っ立っているのはややしんどいが、その表情は見せないようにしている。

 

「それでですね、艦娘になるにはこの艤装との同調が必要になります。これは言い換えると艤装という機械とフィーリング、つまり相性ですね。相性が合うかどうかが大事です。誰もが同調できるわけではないんです。恋愛でもそうですよね~? 例えばあたしはT君と気が合って付き合いたいと思うのに、まったくそりの合わないA君とあたしが付き合ってしまうようなものです。きっとすぐに別れます(笑)」

 

 身近な喩え話を入れてさらに笑いを誘いつつ、わかり易く説明を続ける。

「で、あたしは本来は軽巡洋艦那珂という艦娘なんですが、ここにある艤装は姉妹艦の川内というものです。あたしは罪な女なので、那珂とも川内とも同調できちゃったんです。けどあたしの心は那珂のもの。誰か川内ともっと気が合う素敵な人はいないかしら!? ということで、先日から展示して皆さんに艦娘のことを知ってもらい、川内になってくれる人を探しているんです。」

 

 途中、両腕で自分を抱きしめてくねくねしたり、一人芝居をはさみながら説明する。するとプールサイドから笑い声が聞こえたり、なるほどと頷く生徒や教師がちらほらいる。つかみはOKだと那美恵は判断する。

 

「と言っても、いきなり川内の艤装を試してもらうのはみなさん何があるかわからないし怖いと思うので、今日はあたしが川内の艤装を付けて、艦娘とはどういうことができるのかを、身を持ってみなさんにお見せしたいと思います。それでは中村さん、例のものを。」

 那美恵は三千花を近寄らせ鉄の板を持ってこさせる。同調した後に使う目的だ。三千花は両手で持ってくるが、普通の女子高生にはつらい重さのため、フラフラヨタヨタと足元おぼつかずにようやくといった様子で那美恵の側に到着した。

 

「あたしはいまこうして川内の艤装を身につけていますが、まだ同調していないので、あたしはただのか弱い少女です。ですが、同調すると、とてもすごいことができます。」

 しんどそうに鉄の板を持ってきた三千花を下がらせ、自身は同調を開始する。

 

「では同調始めます。特に見た目は変わらないのであたしを視姦しても意味無いですよ~」

 ふざけたあと、真顔になって精神を落ち着けて那美恵は同調を完了させる。その直後、那美恵は艦娘川内になった。

 

 

--

 

「……はい。私は今、川内という艦娘になりました。」

 プールサイドからはえぇ~だのわかんない~だの声が聞こえる。すでに想定済みの反応なので、那美恵はすぐにわかりやすい実例をする。

「では同調するとどうなるのか、まずはこの鉄の板でご覧頂きたいと思いま~す。」

 

 そう言って那美恵は三千花がやっとの思いで持ってきた鉄の板を、ひょいと軽々片手で持ち上げた。その瞬間、プールサイドの見学者の間でおぉ~!という歓声が一気に響き渡る。そばでひときわ大きな歓声で驚いているのは艦娘部顧問の阿賀奈だ。三千花も水の上を進む以外の、直接的に艦娘化の効果がわかる行為をする那美恵の姿を見たので驚きを隠せないでいる。

「この鉄の板、普通の女子高生な中村さんにはひじょ~に重かったのですが、川内になったあたしにとっては、ベニヤ板か発泡スチロールのように軽く感じます。」

 その後見学者から鉄の板を持ってもらう人を募り、実際にその鉄の板が重いものであることを証明する。

 

「このように、艦娘になれると、力がひじょ~にアップします。今のあたしはボクシングや格闘技のチャンピオンよりもきっと強いかなぁって思います。ま、さすがにそこまでは試したことないのでわかりませんけど。ただ日常生活に限ったら、相当持て余すくらいのパワーアップをします。危険なので、艦娘は原則として海の上で深海凄艦と戦う以外のことはしません。それでは艦娘とっておきの、水上航行をしたいと思います。」

 

 艦娘になったあとの注意事項を含めつつ説明を続け、デモンストレーションのメインに移るために、那美恵はプールの水面に足を乗せる。足を漬けるのとは明らかに違う波紋が波立つ。片足が浮くのを確認した後、もう片足を水面に乗せる。これで那美恵の両足はプールに浮いた。

 那美恵自身、もしかすると鎮守府内の水路やプール、もしくは海でしか浮かばない仕組みだったらどうしようと内心不安の気持ちがあったが、なんなく浮くことができたので密かにホッと胸を撫で下ろす。

 

 

【挿絵表示】

 

 見学者は那美恵がプールに浮く姿を見た瞬間、さきほどの鉄の板の時よりも大きな歓声を挙げた。明らかに普通の人ではできない行為をやってのけているからだ。

 

「はい。浮きました。こうして水の上で船のように浮くことが、艦娘にとって基本中の基本なんですよ~。それではこのプールを移動してみたいと思います。」

 そう言って那美恵はプールの端から中央に進む。汚れが浮いたプールの水に波が立ち、汚れがかき分けられる。それはプールサイドから見る人たちでも、水の上を何か異質な存在が進んでいることがはっきりわかる現象だった。プール中央に到達した那美恵は、2~3言雑談まじりの解説をしながら、今度はプールの上を縦横無尽に移動し始めた。のろのろゆっくり進むときもあれば、ダッシュするかのように急速にスピードを上げてプールの端から端、50mを移動したりと。

 

 そしてひと通りの水上でのパフォーマンスが終わり、元いたプールサイドに戻って上がる頃には、見学者の歓声は拍手を伴って大盛況も大盛況。盛り上がりも最高潮に達していた。

 そして那美恵は同調を切断し、艦娘川内から人間那美恵に戻った。

 

「ふぅ……。とまあ、艦娘になるとこのように水上を移動し、深海凄艦と戦います。実際は専用の銃や腰に付いている魚雷を使って、遠距離から攻撃するので、本当に戦うためには多少訓練は必要です。」

 

 一説明終えて那美恵は阿賀奈と三千花を呼び寄せて艤装を外す。そののち艤装を一旦まとめて側に置き、見学者との質疑応答を設ける。

 

 見学者からは深海凄艦と戦うのは怖くないのか、艦娘になったらどのくらい出勤しないといけないのか、給料は出るのかなど、提督からある程度聞いておいた内容で答えられる範囲の質問が出てきたので、那美恵はそれらに的確に答えていく。

 そして川内の艤装で同調を試してみたい人を募る。那美恵はもちろんのこと、三千花も心臓がキュッと詰まる思いで見学者の挙手を見守る。

 すると、十数人いるうちの、6人が手を挙げて、同調を試してみたいという意思表示をしてきた。中には那美恵と同じクラスのクラスメートもいる。男子も2人おり、様々な反応を見せている。

 

 那美恵と三千花は明石から聞いておいた通り、川内型の艤装のコアとなる腰の背中側に装着する箱状の部位を生徒の腰にベルトとともに当てる。そして三千花はタブレットに入れておいた艤装の同調チェック用のアプリを起動し、川内の艤装を認証させて、電源をつけた。

 那美恵は装着する生徒それぞれに初めて同調する際のコツと注意事項を伝え、万が一同調成功しても驚かないように気をつけさせた。

 

 一人目の女子生徒、同調率24.53%、不合格。

 二人目の女子生徒、同調率54.10%、不合格。

 三人目の男子生徒、同調率41.66%、不合格。

 四人目の女子生徒、同調率73.91%、不合格。

 五人目の男子生徒、同調率 9.15%、不合格。

 六人目の女子生徒、同調率64.64%、不合格。

 

 このような結果となった。一人だけかなりいい線いった73%台の数値を叩き出した女子生徒がいた。その子は那美恵のクラスメートだったが、合格は81%以上なので当然不合格になってしまった。本人はこれで艦娘になれるの!?と興奮気味だったが、合格範囲のパーセンテージを伝えると、がっかりしておとなしくプールサイドの端に戻っていった。

 

「え~、今回勇気を出して同調を試していただいた6名の方は残念ながら同調がうまくいかなかったということになりました。このように、艦娘になるには、艤装との相性が大事なんです。合格圏内になるには精神状態や健康など色々条件もあります。また、もしかしたら別の艦娘の艤装なら、今回の6名も合格できるかもしれません。こういう条件があるので、艦娘は自由に人を増やせないんです。やるぞぉ~!っていう意欲ある人でも、艤装の同調に成功しないとダメですし、その逆でまったくやる気ないけど、艤装との同調に合格できる人が世の中にはいるかもしれません。」

 

 那美恵は胸に手を当てながら続ける。

「なのであたしとしては、一緒にこの学校で艦娘として戦ってくれる人を見つけて部に入ってほしいんですが、同調を試してもいいっていう人が集まらないことには、調べられないんです。ですからどうか皆さん、協力してください!もちろん仮に同調成功しても強制ではありません!必ずなってもらうことはないので、お気軽というのも変ですけど、試しにきてほしいなっていうのがあたしの素直な思いです。」

 

 思いの丈を見学者にぶつけた後、那美恵は締めた。

「どうか、よろしくお願いします!本日はデモ御覧頂いて本当にありがとうございました!」

 見学者に向けて深々とお辞儀をする那美恵。合わせて三千花と阿賀奈もする。

 見学者からは大きな拍手をもらって、艤装デモは幕を閉じた。

 

 

--

 

 見学者は全員プール施設から出て、日よけのところに那美恵達3人は座りながら雑談している。

「あー、緊張したぁ~。ドッキドキだったよあたし。」

「なみえ生徒会長なんだからこれくらいなんてことないでしょ?何を今更。」

「いやいや。てきとーに生徒代表やってるときと、あたしがやりたいことのためにやるときの人前での演説は全然ちがうよ。」

 さらりと生徒会長時の本音をさらけ出す那美恵。親友の三千花はそれを逃さない。

 

「あ、今生徒会長は適当って言ったわね?それがあんたの本音かー。」

「テヘ、バレた?」

 那美恵と三千花はイチャイチャする。

 

 そして一緒にいた阿賀奈が今回の感想を口にした。

「今日はおもしろかったよ~!二人ともご苦労様!先生もものすごくためになったよ! 先生もはやく職業艦娘になって光主さんと一緒に海の上歩きた~い!」

「アハハ。あたしも期待してますよ、先生!」

 那美恵は普段の軽いしゃべり方を交えて先生である阿賀奈に接する。

 

「じゃあ先生、これから職業艦娘の試験の申し込みしに行くね? あなたたちはもう今日はなにもないんでしょ?」

「はい。あとはあたしたち、○○先生からプール掃除お願いされてるのでそれするだけです。それ終わったら帰りま~す。」

「そう!お昼も過ぎてるから、休憩挟んでからプール掃除頑張ってね!」

「「はい。」」

 

 そう言って阿賀奈は重そうなお尻を上げて立ち上がり、プールサイドを歩いてプール施設から出て行った。

 

 ふたりきりになったプールサイドの日よけ。那美恵と三千花はお互い素直な感想と展望を語り合う。

「今回はすごく好評だった気がしない?」

「そーだねぇ。結果はアレだったけど実際に生徒に同調試してもらえたし、これで来週も興味を持続させてくれればいいんだけどなぁ。」

「きっと、大丈夫よ。」

「おぉ!?みっちゃんすんげー前向きで優しいぞ!大好き~」

 三千花から優しい言葉をかけられて、ふざけつつ三千花に抱きつく那美恵。しかしプールサイドは暑い。三千花は2秒以内に那美恵の頭を押して彼女をひっぺがした。

 そしておでこを撫でながら那美恵はこの後の予定を確認した。

 

「そんじゃま、今日のところはこれでよしとしますか!さーてみっちゃん、お昼買いに行こ?」

「えぇ。その前に毛内さんと三戸くんに報告に行かなくちゃね。」

 

 那美恵と三千花は艤装を台車に乗せてプールから運び出し、校舎に戻って視聴覚室へと仕舞いに行った。そののち、書記の二人と合流した那美恵たちはお昼休憩をとった後、依頼されたプール掃除をしに再びプールへと出向くことにした。

 


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